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(平21.12.2、裁決事例集No.78 200頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、A国に所在する法人の役員であった日本の非永住者以外の居住者である審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税の確定申告に対し、原処分庁が、請求人の当該法人から得た報酬等(いわゆる国外源泉所得)を課税所得に加算して更正処分等を行ったが、その際、当該報酬等に係る外国所得税について外国税額控除を適用しなかったことから、請求人が、当該外国所得税を納税しており、外国税額控除が適用されるべきであるとして、更正処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成21年4月11日)に至る経緯は、別表1ないし別表3のとおりである。
 なお、以下、平成17年分、平成18年分及び平成19年分を併せて「本件各年分」と、別表1ないし別表3の「確定申告」欄のとおりの本件各年分の所得税の確定申告書を「本件各確定申告書」と、同各別表の「更正処分等」欄のとおりの本件各年分の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をぞれぞれ「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」という(平成17年分については、平成21年3月18日付でされた異議決定により、いずれもその一部が取り消された後のものをいう。)。

(3) 関係法令

イ 所得税法第7条《課税所得の範囲》第1項第1号は、非永住者以外の居住者については、すべての所得について所得税を課する旨規定している。
ロ 所得税法第95条《外国税額控除》第1項は、居住者が各年において外国所得税を納付することとなる場合には、一定の金額を限度として、その外国所得税の額をその年分の所得税の額から控除する旨規定している(以下、この規定による控除を「外国税額控除」という。)。
ハ 所得税法第95条第5項は、同条第1項の規定は、確定申告書に同項の規定による控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細の記載があり、かつ、外国所得税を課されたことを証する書類その他財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する旨規定している。
ニ 所得税法第95条第7項は、税務署長は、外国税額控除をされるべきこととなる金額につき同条第5項の記載又は書類の添付がない確定申告書の提出があった場合においても、その記載又は書類の添付がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、その記載又は書類の添付がなかった金額につき同条第1項の規定を適用することができる旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成12年からA国に所在する法人であるB社に勤務し、平成16年4月に同社の取締役に就任し、平成20年3月31日までその職にあった。
ロ 請求人は、本件各年分においてB社から給与(以下「本件給与」という。)の支払を受けており、本件給与に係る給与等の収入金額(A国通貨を邦貨換算したもの)は、平成17年分○○○○円、平成18年分○○○○円、平成19年分○○○○円である。
ハ 請求人は、本件各年分において、非永住者以外の居住者に該当するが、確定申告の際に、本件給与を給与等の収入金額に含めず、かつ、外国税額控除を適用せずに納付すべき税額又は還付金の額に相当する税額を計算し、本件各確定申告書に外国税額控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細の記載並びに外国所得税を課されたことを証する書類の添付のいずれをもしなかった。

(5) 争点

 外国税額控除の適用が認められるか否か。

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2 主張

(1) 請求人

 次の理由により、外国税額控除の適用は認められるべきである。
イ 請求人はA国で納税しており、一つの所得に対して税金が二重に課されている。税金を二重に課することは、明らかな財産権の侵害である。
ロ 請求人は、A国での所得に係る税金を故意に逃れたわけではなく、A国での所得が日本で課税の対象となることを知らなかっただけであるから、所得税法第95条第7項に規定する「やむを得ない事情」があったといえる。

(2) 原処分庁

 次の理由により、外国税額控除の適用は認められない。
イ 外国税額控除により国際的二重課税を排除するか否かは、国家の政策的判断により決定される事項であるところ、所得税法の定める外国税額控除の制度は立法政策として採用された恩恵的措置であるから、所得税法第95条第5項の規定によって請求人に外国税額控除が適用されず、国際的二重課税が排除されなかったとしても、それは租税法規に従った適正な課税を行ったにすぎず、財産権の侵害には当たらない。
ロ 請求人が原処分庁に提出した本件各確定申告書には、いずれも外国税額控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細の記載はない。そして、請求人が本件給与を本件各確定申告書に記載しなかったこと及び外国税額控除に関する書類を本件各確定申告書に添付しなかったことについて、所得税法第95条第7項の「やむを得ない事情」に該当する事実は認められない。

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3 判断

(1) やむを得ない事情の有無について

 所得税法第95条第7項に規定する「やむを得ない事情」とは、例えば、外国所得税を課されたことを証する書類を添付しようとしたが、外国政府の事務処理上の都合でこの書類の作成が遅れ、期限までに入手できず確定申告書に添付できなかった場合など、納税者の責めに帰すことのできない客観的事情をいい、納税者の法の不知や事実の誤認などの主観的事情はこれに当たらないと限定的に解するのが相当である。
 本件の場合、請求人において、本件各確定申告書に外国税額控除を受けるべき金額の記載及び外国税額控除に関する書類の添付のいずれもしなかったのは、同人がA国での所得が日本で課税の対象となることを知らなかったことに基因するものであるところ、このことは、請求人の税法の不知という主観的な事情によるものであるから、請求人の責めに帰すことのできない客観的事情によるものということはできない。
 また、それらがなかったことについて、他に所得税法第95条第7項に規定するやむを得ない事情があったと認めるに足る証拠はない。
 したがって、請求人は、本件各年分において、外国税額控除の適用を受けることはできない。

(2) 二重課税の主張について

 請求人は、本件各更正処分においては、請求人がA国で納税した所得税額について全く考慮されておらず、一つの所得に対して税金が二重に課されており、これは、明らかな財産権の侵害である旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のとおり、請求人の本件各年分の所得税について、所得税法第95条第5項に規定する外国税額控除の適用要件が満たされておらず、かつ、同条第7項に規定する「やむを得ない事情」があったとも認められないから、外国税額控除の適用を受けることができないことは明らかである。
 したがって、外国税額控除が適用されず、国際的二重課税が排除されなかったとしても、それは租税法規に従った適正な課税を行った結果にすぎず、原処分に何ら違法はないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 なお、請求人の、財産権の侵害である旨の主張は、憲法第29条第1項違反の主張と解されるところ、その判断は、当審判所の権限に属さないことであり、この点については当審判所において審理の限りではない。

(3) 本件各更正処分及び本件各賦課決定処分について

 以上によれば、請求人の本件各年分の所得税について、外国税額控除の適用はなく、納付すべき税額は、いずれも本件各更正処分の額と同額又は上回るから、本件各更正処分はいずれも適法である。また、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法(平成18年分以前の所得税については平成18年法律第10号による改正前のもの)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づきされた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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