ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.78 >> (平21.9.16、裁決事例集No.78 376頁)

(平21.9.16、裁決事例集No.78 376頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、債務超過の状態にある関連会社の増資の引受けに係る払込金を投資有価証券勘定に計上し、その後の事業年度である当該関連会社の清算結了時に、当該投資有価証券勘定への計上額を投資損失として、損金の額に算入して法人税の申告をしたところ、原処分庁が、当該払込金は子会社等を整理又は再建する場合の損失負担等に該当せず、当該関連会社への金銭の贈与であるとして、当該払込金を払込み時の事業年度の寄附金と認定した上で、その後の事業年度に計上された投資損失は生じないこととなるとして、当該各事業年度の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、原処分庁の事実認定には誤りがあるなどとして、これらの処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 申告
 請求人は、平成16年6月1日から平成17年5月31日までの事業年度及び平成18年6月1日から平成19年5月31日までの事業年度(以下、それぞれ「平成17年5月期」及び「平成19年5月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に、別表の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 処分
 これに対し、原処分庁は、平成20年3月28日付で、別表の「更正処分及び賦課決定処分」欄のとおり、本件各事業年度の法人税の所得金額及び納付すべき税額について、平成17年5月期はこれらを減額する更正処分を、平成19年5月期はこれらを増額する更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、本件各事業年度の各更正処分を「本件各更正処分」と、平成19年5月期の過少申告加算税の賦課決定処分を「本件賦課決定処分」といい、これらを併せて「本件各更正処分等」という。また、本件各更正処分に係る通知書に記載された更正の理由を「本件各更正理由」という。)をした。
ハ 不服申立て
 請求人は、本件各更正処分等を不服として、平成20年5月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年8月28日付で平成17年5月期については却下する旨、また、平成19年5月期については棄却する旨の異議決定をしたことから、同年9月27日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 別紙のとおりである。

トップに戻る

(4) 基礎事実

イ 請求人の設立及び株主の状況等
(イ) 設立
 請求人は、平成12年3月○日に、資本金の額を30,000,000円、主たる事業目的を建築用内装材の製造、加工及び販売として設立された法人である。
(ロ) 役員
 請求人の代表取締役には、設立時からE及びその父であるFが就任している。
(ハ) 株主
 請求人の平成17年5月期の法人税の確定申告書の別表2《同族会社の判定に関する明細書》及び平成19年5月期の法人税の確定申告書の別表2《同族会社等の判定に関する明細書》によれば、発行済株式の総数はいずれも600株、その出資割合はE及びFが各2分の1であり、請求人は、平成17年5月期以降において、法人税法第2条第10号に規定する同族会社である。
ロ G社の設立及び株主の状況等
(イ) 設立
 G社は平成15年8月○日に、本店所在地をP市Q町○番地、主たる事業目的を不動産の売買及び仲介業、建築請負業及び建築資材の販売業等として設立された法人である。
(ロ) 役員
 G社の設立時は、代表取締役としてE及びHの2名が就任したが、Hは、平成16年11月○日付で取締役を解任され、代表取締役を退任した。
(ハ) 株主
 G社の設立時の発行済株式の総数は200株、資本金の額は10,000,000円、その出資割合はE及びHが各2分の1であった。
 その後、Hの代表取締役退任時に、その所有していた株式100株をEが無償取得し、平成17年1月21日にはEから請求人へ発行済株式総数の200株が無償譲渡されているが、G社は、設立以来法人税法第2条第10号に規定する同族会社である。
(ニ) 営業年度
 G社の定款の第30条によれば、同社の営業年度は、毎年8月1日から翌年7月31日までの年1期とされている。
(ホ) 増資
 G社は、平成16年12月24日開催の取締役会及び平成17年1月8日開催の臨時株主総会において、次のAないしDの内容の第三者割当てによる新株発行の増資を決議し、同年2月4日に、後記ハの(イ)のとおり、第三者割当てを受けた請求人からの増資払込金の支払を受けて増資が完了した(以下、当該増資を「本件増資」という。)。
A 発行する新株数  普通株式600株
B 新株の発行価格  1株金50,000円
C 新株の払込期日  平成17年2月4日
D 割当てを受ける者 請求人
(ヘ) 清算結了
 G社は、平成18年10月○日開催の株主総会の決議により解散し、平成19年5月○日に清算結了した。
ハ 請求人のG社の株式の取得状況等及びG社の清算結了に伴う損失処理の状況
(イ) 請求人のG社の株式の取得状況等
A 取締役会の決議
 請求人は、平成17年1月5日開催の取締役会において、G社の第三者割当ての増資に応じる旨決議した。
B 請求人がEから無償で譲り受けたG社の株式の会計処理
 請求人は、平成17年1月21日付で、Eから無償で譲り受けたG社の発行済株式200株について、一株当たり1円の備忘価額200円を付して総勘定元帳の「投資有価証券」勘定の借方に計上した。
C 本件増資に係る新株引受けの株式払込金の支払
 請求人は、払込期日である平成17年2月4日までに、本件増資に係る新株引受けの株式払込金30,000,000円(以下「本件増資払込金」という。)をJ銀行q支店(以下「J銀行」という。)へ支払った。
D 本件増資払込金の会計処理
 請求人は、平成17年2月3日付で、本件増資払込金を総勘定元帳の「投資有価証券」勘定の借方に計上した。
(ロ) 請求人のG社の清算結了に伴う損失処理の状況
A 総勘定元帳の「投資有価証券」勘定の貸方及び「投資損失」勘定の借方の記載内容
 請求人は、G社が平成19年5月○日に清算結了したことから、同日付で「投資有価証券」勘定の貸方及び「投資損失」勘定の借方にそれぞれ30,000,200円計上し、各勘定の「摘要」欄に「5/○G社清算結了」と記載した(以下、「投資損失」勘定の借方に計上された金額のうち本件増資払込金に相当する金額30,000,000円を「本件投資損失」という。)。
B 総勘定元帳の「投資損失」勘定の貸方の記載内容等
 請求人は、平成19年5月○日付で、「投資損失」勘定の「摘要」欄に「5/○G社配当」と記載の上、同勘定の貸方に相手科目を「未収入金」として9,198,311円計上した(以下、G社の清算に係る配当金9,198,311円を「本件清算配当金」という。)。
 なお、請求人の平成19年5月期の法人税の確定申告書に添付された雑益・雑損失の内訳書によれば、本件清算配当金を、別表の「確定申告」欄の「平成19年5月期」欄の「G社に係る雑損失の内訳」欄のとおり、「子会社清算配当金」として投資損失を減少させている。
ニ K社の株主の状況等
 K社は、不動産・動産の賃貸業を営む、E、F及びLが出資する同族会社である。
ホ 原処分庁の追加主張
 原処分庁は、本件審査請求において、本件各更正理由以外の理由である法人税法第132条第1項の規定(以下「本件否認規定」という。)の適用を追加主張した。

トップに戻る

2 争点

(1) 争点1 本件審査請求において、本件各更正理由以外の理由である本件否認規定の適用を、原処分庁が追加主張することは認められるか否か。

(2) 争点2 本件増資払込金の支払の本件否認規定該当性について。

トップに戻る

3 主張及び判断

(1) 争点1 本件審査請求において、本件各更正理由以外の理由である本件否認規定の適用を、原処分庁が追加主張することは認められるか否か。

イ 主張

原処分庁 請求人
 法人税法第130条第2項における更正通知書の理由を付記することを規定した趣旨は、課税庁の判断の慎重性、合理性を担保してそのし意性を抑制するとともに、更正の理由を納税者に知らせて、その不服申立ての便宜を与えることにあると解されている。
 原処分庁が、本件各更正理由以外の理由である本件否認規定の適用を追加主張しても、原処分の課税要件事実の基本的部分が共通しており、請求人に格別の不利益を与えるものでもないので、法人税法第130条第2項の規定の趣旨にも反しないことから、本件審査請求において、本件各更正理由以外の理由である本件否認規定の適用を、原処分庁が追加主張することは認められる。
 本件各更正処分の取消しに係る本件審査請求において、請求人は、本件各更正理由を手がかりに審査請求の要否を検討し、不服申立てを行っているものであり、不服申立ての審理中において、原処分庁が当該更正理由を変更することは、不服申立制度における請求人の権利利益が守られないこととなるので、本件審査請求において、本件各更正理由以外の理由である本件否認規定の適用を、原処分庁が追加主張することは認められない。

ロ 判断
(イ) 法令解釈
 法人税法第130条第2項が青色申告に係る法人税について更正をする場合には更正通知書に更正の理由を付記すべきものとしているのは、法が、青色申告制度を採用し、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨にかんがみ、原処分庁の判断の慎重、合理性を担保してそのし意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨によるものと解される。
 そして、審査請求における更正の理由の追加主張の可否は、原処分に付記された理由と審査請求に至って主張された理由との異同によって、原処分庁の判断のし意性の排除や不服申立ての便宜といった理由付記制度の趣旨が没却されるような結果となるか否かなどを考慮して検討すべきであって、一般的に理由の追加主張が許されないということはできない。
(ロ) 上記(イ)に基づく検討結果
 本件各更正理由は、本件増資払込金の支払という行為や帳簿記載それ自体を否認するいわゆる帳簿否認ではなく、その支払の行為や帳簿記載を前提としつつ、その税務上の評価として異なる評価をするいわゆる評価否認の場合であるところ、原処分庁は、本件各更正理由では、本件増資払込金が請求人からG社に支払われていることを前提に、1G社が本件増資の直前において債務超過の状態にあったこと、2G社が本件増資以降事業を継続又は拡大等しているとは認められないこと、3G社の主な債務がG社の役員が連帯保証人となっている当座貸越し及び役員からの借入金であること等を理由として、本件増資払込金が請求人からG社への経済的利益の贈与であると評価しているのに対し、本件審査請求では、G社に対する本件増資の払込みが通常の経済人の行為として不自然、かつ、不合理であることに着目し、本件否認規定を適用してこれをG社への経済的利益の贈与であると主張しているものにすぎず、原処分庁が更正の理由として主張する主要な事実は共通し、単にその法的評価を異にしているものであって、本件各更正処分の取消しを求めている請求人に対し、その防御の機会を奪うようなものではないことからすれば、このような理由の追加が理由付記制度の趣旨を没却するものということはできない。
 したがって、本件審査請求において、原処分庁が本件否認規定の適用を追加主張することは認められる。

トップに戻る

(2) 争点2 本件増資払込金の支払の本件否認規定該当性について。

イ 主張

原処分庁 請求人
(イ) 請求人が本件増資払込金を支払った行為は、次のとおり、請求人及びG社が、Eにより実質的に支配される同族会社であることによりなし得た行為であり、通常の経済人であれば行うことのない不自然、不合理な行為であると認められ、その行為の結果生じた本件投資損失の額が損金の額に算入されることで、平成19年5月期の請求人の法人税の負担を不当に減少させる結果が生じていることは、本件否認規定に該当すると認められる。
 したがって、原処分庁は、請求人の行為又は計算にかかわらず、原処分庁の認定する事実関係に基づき、請求人の法人税の課税標準額又は税額を計算することができる。
(イ) 本件増資払込金は、商法の手続に基づいた増資であり、請求人は本件増資払込金について、中小企業会計基準に則った経理処理を行い、売買目的でない子会社に係る有価証券として取得価額をもって投資有価証券勘定に計上したものであり、次のとおり、通常の経済人であれば行うことのない不自然、不合理な行為ではないので、その行為の結果請求人の法人税の負担を不当に減少させるものでもない。
 したがって、本件否認規定の適用はなく、原処分庁が、商法の規定に従い行った請求人の商行為を税務上否定することは、租税法律主義に反し許されるものではない。
A 本件増資によって、請求人及びG社の代表取締役であるEが、自己の有するG社への債権を率先して回収するとともに、G社のJ銀行からの借入金の連帯保証人としての責任を免れることにより、請求人へG社の清算に係る損失を転嫁したと認められる。
B 債務超過のG社は、本件増資による新たな事業展開をするなど具体的かつ合理的な再建計画があったとは認められず、また、本件増資時には営業を閉鎖し解散に向けた行動をとっている状態であり、請求人が損失負担等をすることについて相当な理由があるとは認められないことから、請求人が本件増資に応じる経済取引として首肯し得る合理性が認められないため、法人税基本通達9‐4‐1及び9‐4‐2の定めに該当しない。
A G社は、Hの不法行為という内部の事情から、債務超過の中で整理を余儀なくされたものである。
B G社の整理に当たっては、請求人の企業としての継続、将来の新規事業参入の夢と収益性、整理に係る苦労、短期に発生する損失及び長期にわたる責任のすべてを考慮して、より公にできる方法として子会社化して増資するという方法を選択したものであり、関連会社の整理に際しての増資は、同族会社でなくとも、株主の判断によって通常なされる取引である。
C 請求人はG社の関連会社であり、顧客や取引先への影響を最小限に抑え、それにより発生が懸念される追加の損失や、地域における請求人の企業の信用の失墜を最小限に食い止めるため、損失負担を行うことには相当の理由があり、関連会社の整理に際しての損失負担は、通常の経済人(経営者)が利害関係者や顧客等への配慮等(社会通念)に基づいて行い得る取引である。
D 法人税基本通達9−4−1の定めから明らかなように、同族会社が関連会社の整理に際して資金を投入することについて、その行為自体でもって経済的合理性を否定することはできない。
(ロ) 上記(イ)のとおり、請求人がした本件増資払込金の支払は、通常の経済人であれば行うことのない不自然、不合理な行為であり、法人税の負担を不当に減少させる結果が生じていることから、本件否認規定が適用され、当該支払は、法人税法第37条第7項に規定する寄附金に該当するので、本件増資による株式の取得価額は零円であり、本件投資損失は発生しないこととなる。 (ロ) 上記(イ)のとおり、請求人がした本件増資払込金の支払は、通常の経済人が行う行為であるから、本件増資払込金は、法人税法第37条第7項に規定する寄附金には該当せず、投資有価証券勘定に計上すべきものであり、G社の清算結了に合わせて株主有限責任の範囲で負わざるを得ない投資損失として処理することが妥当である。

ロ 判断
(イ) 法令解釈
 法人税法第132条第1項は、税務署長は、同族会社等の行為又は計算で、これを容認した場合には、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる旨規定している。
 そして、同族会社のある行為又は計算が、当該規定の要件である「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」かどうかは、当該行為又は計算が純経済人の行為として不自然、かつ不合理なものであって、それによって法人税の負担が減少したかどうかによって判断するのが相当である。
(ロ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 本件増資に至るまでの事実
(A) G社の事業形態等
 G社は、前記1の(4)のロの(イ)及び(ロ)のとおり、平成15年8月○日にE及びHを代表取締役として設立された法人で、具体的な営業内容は、顧客に対する大型のリフォームが主体であり、リフォームのためのショールームを開設し、システムキッチン、ユニットバス等の展示販売、戸建住宅の販売等を行っており、従業員は2から3名であった。
 なお、G社は請求人から材料を仕入れていたが、G社の売上原価に占める請求人からの仕入額はその1割にも満たない状況であり、資金の融通関係もなかった。
 また、その経営内容は設立以来赤字決算であり、運転資金はEから借り入れるとともに、J銀行との間では平成16年10月15日付で返済期日を平成17年4月28日、連帯保証人をE及びFとする20,000,000円の当座貸越契約を締結した。
(B) G社の財務状況
 G社の平成16年10月末日時点における営業損失(累積赤字をいう。以下同じ。)は、19,703,409円であり、平成17年1月31日現在の試算表及び総勘定元帳によれば、同社の財務状況は23,388,651円の債務超過であった。平成17年1月31日現在の債務の主なものは、次のとおりである。
a 当座預金     △ 13,765,541円(△印はマイナスを表す。)
b その他固定負債

 (a) E13,875,270円
 (b) F665,000円
 (c) K社4,480,644円
 (d) H580,000円

(C) Hの横領と請求人代表者のG社の営業閉鎖の決意
 Hは、顧客から回収した売上金を着服した事実が発覚し、平成16年11月29日に、Eから求められて、1その所有するG社株式をすべて無償で放棄し、2平成16年10月末における営業損失の半額を支払うこと等を約した書面を作成して、同日付で取締役を解任された。
 当時、Eは、G社の財務状況が債務超過(純資産がマイナス)になっていたことを承知しており、同社の営業は閉鎖するほかないと考えていたが、G社を赤字会社のまま閉鎖することとなれば、会社の営業損失の補填はそのままEとその共同経営者であるHとにおいて負担せざるを得なくなることから、G社を閉鎖するに当たっては、営業損失をEとHで折半しようと提案した。
 その後、G社は、平成17年3月○日に、Hに対し上記売上金の着服等により生じた損失等の合計16,567,357円の支払を求め、M地方裁判所に訴訟を提起した(以下「本件訴訟」という。)。
(D) 本件増資の目的
 Eは、上記(C)のとおり、平成16年11月下旬ころには、G社の財務状況が債務超過であることを承知し、その営業閉鎖を決意したが、その後、G社を整理し閉鎖するためには、30,000,000円ぐらいの資金が必要と判断し、税理士と相談の上、株式の発行価格1株50,000円で600株を発行して30,000,000円増資することによりG社に資金を入れることとした。
B 本件増資後からG社の清算結了までの事実
(A) G社の財務・経理状況
a 本件増資払込金は、平成17年2月9日にJ銀行のG社名義の当座預金に入金され、主に次のとおり支出された。

 (a) 平成17年2月9日J銀行の当座貸越しの解消13,855,106円
 (b) 平成17年2月18日Eへの借入金の返済13,000,000円

b G社の平成17年2月28日現在の試算表によれば、本件増資後の純資産の額は、7,014,903円である。
c G社の平成16年8月1日から平成17年7月31日までの事業年度の総勘定元帳には、次の事実が記帳されている。
 (a) 「車両・運搬具」勘定
 保有していた車両2台を平成17年7月31日までに売却し、翌期への繰越金額は零円である。
 (b) 「工具器具備品」勘定
 保有していた電話設備及び看板を平成17年7月31日までに売却及び除却し、翌期への繰越金額は零円である。
 (c) 「同族関係家賃」勘定
 K社に対する店舗の支払家賃について、平成17年2月を最後にその後の計上はない。
 (d) 「当座預金」勘定
 平成17年2月から同年7月までの各月の当座預金への入出金の合計額の状況は以下のとおりである。

(単位:円)
区分
年月
入金額 出金額
平成17年2月 47,258,215 35,137,778
同年3月 120,000 274,111
平成17年4月 35,000 902,221
同年5月 1,627,670 6,453,501
同年6月 504,480 57,980
同年7月 10,000 59,143
合計 49,555,365 42,884,734

 なお、平成17年2月の入金額の中には、本件増資払込金30,000,000円が含まれ、同月出金額の中には、Eからの借入金の返済金13,000,000円及びJ銀行の当座貸越しの解消額13,855,106円が含まれている。
(B) G社の営業活動及び廃業準備等
a G社は、平成17年1月から新規の仕事の受注はしておらず、Eは、G社の代表者としてHに対する訴訟の対応をしていた。
b G社は、平成17年2月で全社員を解雇し、その後、1社用車や電話回線の売却、2リースの広告看板の撤去、3事務所の賃貸借契約解除及び4ショールームの閉鎖をした。
 また、G社は、平成17年3月24日に、「雇用保険適用事業所廃止届」をP公共職業安定所に提出し、同年6月9日には、事業廃止等年月日「平成17年3月31日」と記載した「労働保険概算・確定保険料申告書」をP労働基準監督署に提出した。
c G社は、平成18年10月○日に解散決議を行い、平成19年5月○日に清算結了したが、同日に清算結了したのは、G社が本件訴訟で勝訴判決を得て賠償金の入金見込みがあり、請求人が5月決算であるためであった。
(ハ) 当てはめ
 請求人は、前記1の(4)のイの(ハ)のとおり、株主をE及びFのみとする同族会社であるところ、上記(ロ)の認定事実を上記(イ)に照らして判断すると、次のとおりである。
A 請求人が、本件増資を引き受け、本件増資払込金を支払ったことは、純経済人として不自然・不合理か否かについて
(A) 本件増資に応じることの合理的理由の有無
上記(ロ)のAの(B)及び(C)のとおり、Eは、G社が本件増資直前には、23,388,651円の債務超過であり、G社の共同経営者であるHが顧客から回収した売上金を着服していたことが発覚するなどしたことから、平成16年11月下旬ころには、G社の営業を閉鎖することを決意したのであり、このことは、上記(ロ)のBの(B)のbのとおり、平成17年2月以降、全社員を解雇した上、社用車、電話回線などの営業用資産を売却し、事務所の賃貸借契約の解除、雇用保険適用事業所の廃止をするなど営業閉鎖、解散に向けた事務処理を行っていることからも裏付けることができる。
 さらに、上記(ロ)のBの(B)のcのとおり、G社は、本件訴訟において勝訴判決を得て賠償金の入金を受ける見込みがあったこと、さらには、請求人が5月決算であることから、平成18年10月○日に解散決議を行い、平成19年5月○日に清算結了したのであり、これにより、平成17年1月ころから進められたG社の営業閉鎖、解散、清算結了に至るまでの一連の手続が完了したものである。
 ところで、第三者割当てによる有償増資とは、株式会社において、第三者からの株式払込金を受けることを対価として、当該株式会社の社員たる地位(株式)を新たに発行するものであるが、当該第三者割当てを受ける者からみれば、当該株式払込金が当該株式会社の営業資金とされ、当該株式会社が利益を上げることにより、株主として利益配当を得、あるいは株式の価値が増加することを期待しているのが通常であり、特段の事情がない限り、今後営業活動をする予定はなく、利益を上げることも予定されない株式会社に対して、増資により資本投下する合理的な理由はないというべきである。
(B) 本件増資に応じることの特段の事情の有無
 請求人は、前記1の(4)のハの(イ)のBのとおり、平成17年1月21日にはEからG社の全株式200株を無償で譲り受けており、本件増資における発行価格が時価よりはるかに高いことは明白であって、また、上記(ロ)のAの(D)のとおり、G社はその後営業を閉鎖することが予定されていたことからすれば、本件増資を引き受けた場合には、少なくとも営業閉鎖時において超過債務額程度の損失負担を強いられることが容易に予想できたはずである。
 さらに、請求人が、損失を被ることを予想していてもなお本件増資に応じることを合理的であるとする特段の事情があったかを検討しても、請求人とG社の本件増資前の関係についてみれば、同一人物が双方の役員になっていたこと、取引先の一部に共通の相手先があったこと、G社と請求人との間で取引関係があったことといった関係がみられるが、上記(ロ)のAの(A)のとおり、G社においては請求人との取引が事業の根幹を成すようなものではなく、業種も住宅関連産業という点では共通するものの業務内容は異なり、双方に資金融通関係もなかったこと、また、前記1の(4)のロの(ハ)のとおり、本件増資直前に請求人がEからG社の株式を無償で取得するまでは資本関係はなかったことからすると、請求人が本件増資を引き受けなければならない特段の事情があったとはいえない。
(C) まとめ
 上記(A)及び(B)を総合的に判断すると、請求人が、本件増資を引き受け、本件増資払込金を支払ったことは純経済人の行為として不自然、不合理なものと認められる。
B 請求人は、本件増資を引き受け、本件増資払込金を支払うことによって、法人税の負担を減少させることとなったか否かについて
 請求人が本件増資を引き受け、本件増資払込金を支払ったことは、上記Aのとおり、純経済人の行為として不自然、不合理なものであるところ、請求人は、当該行為によって、前記1の(4)のハの(ロ)のとおり、本件投資損失から本件清算配当金の額を差し引いた後の金額20,801,689円(以下、「本件投資損失差額」という。)を平成19年5月期の損金の額に算入して法人税の確定申告をしたのであるから、請求人は本件増資を引き受け、本件増資払込金を支払うことにより、法人税の負担を減少させることとなったと認められる。
C 結論
 上記A及びBによれば、請求人が本件増資を引き受け、本件増資払込金を支払ったという行為・計算は、本件否認規定に定める同族会社の行為又は計算に該当し、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる。
 したがって、本件増資の払込みという行為自体を税務上否認し、当該払込みはなかったものとして取り扱うのが相当であり、本件投資損失差額20,801,689円については平成19年5月期の損金の額に算入することは認められない。
(ニ) 原処分庁の主張について
 原処分庁は、請求人が本件増資を引き受けて、G社に対して本件増資払込金を支払ったという行為・計算が、不自然、不合理な行為であると認められ、その行為の結果生じた本件投資損失の額が損金の額に算入されることで、請求人の法人税の負担を減少させる結果が生じているとして、本件否認規定を根拠に当該行為・計算を否認した上で、本件増資払込金の全額が法人税法第37条第7項に規定する寄附金に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件否認規定の適用により、請求人の本件増資の引受け及び本件増資払込金の支払という行為・計算が否認されるとしても、請求人における本件増資の目的は、上記(ロ)のAの(D)のとおり、本件増資はG社の整理・閉鎖のために必要な資金提供であり、上記(ロ)のAの(B)のとおり、増資直前の平成17年1月31日時点で23,388,651円の債務超過であって、その後の営業閉鎖が予定されていたことからすれば、請求人は、これと同額程度は払戻しされないことを容易に予想でき、その負担を覚悟していたと認められるが、本件増資後の平成17年2月28日時点では、上記(ロ)のBの(A)のbのとおり、G社の純資産の額は7,014,903円であることからすれば、請求人は、本件増資による本件増資払込金を原資としてG社の負債を整理した後に同社を解散させ、その時点における残余財産の分配を受けることを予定していたと認められ、現にその後のG社の清算の時点では、前記1の(4)のハの(ロ)のBのとおり、請求人はG社から9,198,311円の清算配当を受領していることからすれば、本件増資の引受け及び本件増資払込金の支払という行為・計算の時点で、本件増資払込金の全額について、請求人がG社に贈与したものとして法人税法第37条第7項に規定する寄附金に該当するとまで認定することには無理があるといわざるを得ない。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
(ホ) 請求人の主張について
 請求人は、商法の手続に基づいて本件増資に応じ、株式を入手しているのであるから、本件増資により株式を有償で取得したもので、請求人がG社を整理するについての必要性、妥当性があり、法人税基本通達9−4−1の趣旨からも本件増資の払込みをしたことの経済的合理性を否定することはできないと主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によれば、請求人は、G社について、本件増資の第三者割当てに応じる取締役会の決議後に、同社の株式を無償で譲り受け子会社としたものであるから、法人税基本通達9−4−1が前提とする「子会社等の」解散の状態を自ら作出したものと認められ、他に、請求人にとって、本件増資に応じてG社を整理する客観的、具体的な必要性があったと認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件増資の払込みについては、上記(ハ)のAのとおり、純経済人の行為として合理性があったとは認められないのであるから、請求人の主張には理由がない。
(ヘ) 本件各更正処分等について
A 平成17年5月期の更正処分
 平成17年5月期の更正処分は、納付すべき税額を減少する更正処分であり、請求人は、当該更正処分の取消しを求める利益はなく、当該処分に対する審査請求は請求の利益を欠く不適法なものである。
B 平成19年5月期の更正処分
 上記(ハ)のCのとおり、本件投資損失30,000,000円のうち本件投資損失差額20,801,689円については、平成19年5月期の損金の額に算入されず、所得金額に加算されることとなる。
 そうすると、平成19年5月期の所得金額及び納付すべき法人税の額はそれぞれ○○○○円及び○○○○円となるから、平成19年5月期の納付すべき法人税の額は、更正処分の額に満たないので、平成19年5月期の更正処分は、その一部を取り消すべきである。
C 本件賦課決定処分
 平成19年5月期の更正処分は、上記Bのとおり、その一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の基礎となる税額は○○○○円となり、この税額の計算の基礎となった事実については、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、これに基づき過少申告加算税の額を算定すると、○○○○円となり、本件賦課決定処分の額に満たないので、本件賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。

(3) 原処分のその他の部分については、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る

トップに戻る