(平22.6.7、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が宅配業者によるメール便を利用して法定申告期限内に発送した所得税の確定申告書について、原処分庁が、法定申告期限内に到達しなかったから、期限後申告書の提出に該当するとして、無申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、宅配業者によるメール便については発信主義の適用が認められるべきであるから、法定申告期限までに発送した確定申告書は期限内申告書に当たるなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成20年分の所得税について、確定申告書に総所得金額を○○○○円及び納付すべき税額を○○○○円と記載して申告した(以下、この確定申告書を「本件申告書」という。)。
ロ 原処分庁は、本件申告書が法定申告期限(平成21年3月16日)の2日後である平成21年3月18日に到達したことから、期限後申告書の提出に該当するとして、国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項の規定に基づき、同年4月28日付で無申告加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行った。
ハ 請求人は、本件賦課決定処分を不服として、平成21年5月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月19日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の本件賦課決定処分に不服があるとして、平成21年9月15日に審査請求をした。

(3) 関係法令

イ 通則法第17条《期限内申告》第2項は、納税者が法定申告期限までに提出する納税申告書を期限内申告書という旨、同法第18条《期限後申告》第2項は、期限内申告書を提出すべきであった者がその提出期限後に提出する納税申告書を期限後申告書という旨、それぞれ規定している。
ロ 納税申告書の提出について
(イ) 民法第97条《隔地者に対する意思表示》第1項は、隔地者に対する意思表示はその通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる旨規定している。
(ロ) 通則法第22条《郵送等に係る納税申告書等の提出時期》は、納税申告書が郵便又は信書便により提出された場合には、その郵便物又は信書便物の通信日付印により表示された日にその提出がされたものとみなす旨規定している。
 なお、上記信書便について、通則法第12条《書類の送達》第1項は、民間事業者による信書の送達に関する法律(以下「信書便法」という。)第2条《定義》第6項に規定する一般信書便事業者又は同条第9項に規定する特定信書便事業者による信書の送達で郵便に該当しないものをいう旨規定している。
(ハ) 信書便法第2条第6項は、一般信書便事業者とは一般信書便事業を営むことについて同法第6条《事業の許可》の許可を受けた者をいう旨、同法第2条第9項は、特定信書便事業者とは特定信書便事業を営むことについて同法第29条《事業の許可》の許可を受けた者をいう旨、それぞれ規定している。
(ニ) 信書便法第6条及び同法第29条は、一般信書便事業を営もうとする者又は特定信書便事業を営もうとする者は総務大臣の許可を受けなければならない旨規定している。
ハ 無申告加算税について
(イ) 通則法第66条第1項は、期限後申告書の提出があった場合には、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合を除き、無申告加算税を課する旨規定している。
(ロ) 通則法第66条第6項は、自主的な期限後申告書の提出があった場合において、その提出が、期限内申告書を提出する意思があったと認められる場合として政令で定める場合に該当してされたものであり、かつ、法定申告期限から2週間を経過する日までに行われたものである場合には、同条第1項の規定は適用しない旨規定している。
(ハ) 国税通則法施行令第27条の2《期限内申告書を提出する意思等があったと認められる場合》第1項は、次のいずれにも該当する場合は同法第66条第6項に規定する期限内申告書を提出する意思があったと認められる場合に該当する旨規定している。
A その期限後申告書の提出があった日の前日から起算して5年前の日までの間に、当該期限後申告書に係る国税の属する税目について、無申告加算税又は重加算税を課されたことがなく、また、通則法第66条第6項の規定の適用を受けていないこと。
B その期限後申告書に係る納付すべき税額の全額が法定納期限までに納付されていたこと。

(4) 基礎事実

イ 本件申告書の提出関係
(イ) 請求人は、平成21年3月16日、本件申告書を、C社の「○○便」(以下「本件メール便」という。)により、原処分庁にあてて発送した。
(ロ) 請求人は、本件申告書に係る納付すべき税額の全額を法定納期限(平成21年3月16日)に納付した。
ロ C社の地位
 C社は、平成21年3月16日の時点で、信書便法に規定する一般信書便事業者又は特定信書便事業者に関する総務大臣の許可をいずれも受けていない。
ハ 請求人は、平成18年分の所得税の確定申告書についても本件メール便を利用して法定申告期限(平成19年3月15日)に発送し、当該確定申告書(以下「本件18年分申告書」という。)は法定申告期限後に原処分庁に到達していたが、その提出については、通則法第66条第6項の規定が適用され、無申告加算税は課されなかった。

(5) 争点

争点1 本件申告書は、期限内申告書に当たるか否か。
争点2 本件申告書の提出について、通則法第66条第6項の規定が適用されるか否か。
争点3 期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項に規定する「正当な理由」があるか否か。

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2 争点1(本件申告書は期限内申告書に当たるか否か)について

(1) 主張

イ 請求人
 民法第97条が意思表示につき到達主義を採用しているにもかかわらず、通則法第22条が、郵便物又は信書便物という送付手段に限り発信主義を採用している趣旨は、これらの場合、発信主義を採用してもその後の業務に支障が出るおそれが少ないことにあると考えられる。
 そうすると、メール便による送付についても、発送日時、発送場所、配達日時等が分かり、発信主義を採用しても原処分庁の業務に支障が出るおそれは少ないので、発信主義が採用されるべきである。
 殊に、本件においては、
(イ) 原処分庁は、請求人が本件申告書に係る納付すべき税額の全額を法定納期限に納付したことを確認していること
(ロ) 原処分庁は、請求人が本件メール便により本件申告書を発送したのが郵便局の営業時間外であったと知っていること
から、発信主義を採用しても原処分庁の業務に支障が出るおそれは少ないので、本件申告書は、法定申告期限内に提出されたと認められるべきである。
ロ 原処分庁
 本件メール便は、信書の運送等を引受けの拒絶対象としているから信書便に該当せず、郵便にも該当しない。
 したがって、本件申告書は、通則法第22条の適用はなく、民法第97条の規定により、原処分庁に到達した平成21年3月18日に提出されたこととなるから、期限後申告書に該当する。

(2) 判断

イ 納税申告書の提出に伴う効力の発生時期に関し、税法上これを一般的に定めた規定は設けられていないから、隔地者間における意思表示の一般原則である到達主義(民法第97条第1項)により、当該効力の発生時期は、原則として納税申告書が税務官庁に到達した日となるところ、通則法第22条は、この到達主義の例外として、納税申告書が郵便又は信書便により提出された場合には、その通信日付印により表示された日に提出されたものとみなす旨規定している。
ロ これを本件についてみると、本件申告書は、上記1の(4)のイ及び同(2)のロのとおり、平成21年3月16日に本件メール便により発送され、同月18日に原処分庁に到達しているところ、本件メール便は郵便ではなく、また、C社は、上記1の(4)のロのとおり、信書便法に規定する総務大臣の許可を受けておらず、同法第2条第6項に規定する一般信書便事業者又は同条第9項に規定する特定信書便事業者のいずれにも該当しないから、本件メール便は、通則法第12条第1項に規定する信書便にも該当しない。
 したがって、本件申告書について通則法第22条は適用されず、本件申告書は、原処分庁に到達した平成21年3月18日に提出されたこととなるから、法定申告期限後に提出されたことは明らかであって、期限内申告書には当たらない。
ハ なお、請求人は、メール便による送付については業務に支障が出るおそれが少ないから発信主義を採用すべきである旨主張する。しかしながら、請求人の主張は要するに、通則法の条文にはない独自の要件を創設して、確定申告書の提出に伴う効力の発生時期について、発信主義の適用を認めようとするものであり、実質的には立法論の範疇に属するものであるから、これを採用することはできない。

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3 争点2(本件申告書の提出について、通則法第66条第6項の規定が適用されるか否か)について

(1) 主張

イ 請求人
 本件申告書の提出については、次のことから、「期限内申告書を提出する意思があつたと認められる場合」に該当するので、通則法第66条第6項の規定が適用されるべきである。
(イ) 請求人は、過去5年間、無申告加算税の賦課決定処分を受けたことがないこと。
(ロ) 請求人は、本件18年分申告書の提出について、通則法第66条第6項の規定が適用され、無申告加算税が課されなかったことを知らなかったこと。
(ハ) 本件申告書を法定申告期限に発送し、本件申告書に係る納付すべき税額の全額を法定納期限に納付していること。
ロ 原処分庁
 請求人は、本件18年分申告書に係る所得税について通則法第66条第6項の規定の適用を受けているから、本件申告書の提出については「期限内申告書を提出する意思があつたと認められる場合」には該当しない。
 したがって、本件申告書の提出については、通則法第66条第6項の規定は適用されない。

(2) 判断

イ 通則法第66条第6項及び国税通則法施行令第27条の2第1項は、一定の期間に自主的な期限後申告書の提出があった場合において、その提出が期限内申告書を提出する意思があったと認められる場合として上記1の(3)のハの(ハ)の各要件を満たすときは、同法第66条第1項の規定は適用しない旨規定している。
ロ そこで本件を検討するに、上記1の(4)のハのとおり、請求人は本件18年分申告書を本件メール便により発送し、本件18年分申告書は法定申告期限後に原処分庁に到達したが、その提出については、通則法第66条第6項の規定が適用されている。
 そうすると、請求人は、本件申告書が提出された日(平成21年3月18日)の前日から起算して5年前の日(平成16年3月18日)までの間において、本件18年分申告書に係る所得税について通則法第66条第6項の規定の適用を受けているから、上記1の(3)のハの(ハ)のAの要件を満たさない。
 したがって、本件申告書の提出については、「期限内申告書を提出する意思があつたと認められる場合」に該当せず、通則法第66条第6項の規定は適用されない。
ハ なお、請求人は、本件18年分申告書の提出について通則法第66条第6項の規定が適用され、無申告加算税が課されなかったことを知らなかったから、「期限内申告書を提出する意思があつたと認められる場合」に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件申告書の提出について「期限内申告書を提出する意思があつたと認められる場合」に該当するかどうかは、上記1の(3)のハの(ハ)の各要件を満たすかどうかによって決せられ、請求人が上記事実を知っていたか否かはその判断を左右するものではないから、請求人の上記主張には理由がない。

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4 争点3(期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項に規定する「正当な理由」があるか否か)について

(1) 主張

イ 請求人
 以下の理由から、請求人には、期限内申告書を提出できなかったことについて「正当な理由」がある。
(イ) 請求人は、仕事が忙しかったため、法定申告期限の当日も17時までに仕事が終了する状況になく、郵便局の営業時間に間に合わせられないのはやむを得ない状況であった。
(ロ) 本件申告書は添付書類が多く、計量して料金を特定するため、郵便局の窓口又は宅配業者を利用する必要があった。
 しかしながら、郵便局は17時以降の郵便物を受け付けず、原処分庁は文書受付窓口の時間延長の措置を講じていないから、法定申告期限の17時1分から23時59分までの間は通信途絶の状態となる。
 したがって、請求人は、期限内申告をするために、本件メール便を使用せざるを得なかった。
(ハ) 原処分庁が十分な対策を講じていないために、通則法に規定する信書便の定義及びメール便が当該信書便に該当しないことは、一般納税者に周知徹底されておらず、請求人もこれを理解していなかった。
ロ 原処分庁
 「正当な理由」がある場合とは、無申告加算税を課すことが不当又は酷と認められる特別の事情、例えば、災害、交通・通信の途絶等、納税者の責めに帰すことができない外的事情により法定申告期限内に申告書を提出することができない場合をいうものとされているところ、請求人が主張する仕事が多忙であったこと及び郵便局を利用できない時間帯に本件メール便を使わざるを得なかったことは、「正当な理由」に当たらない。

(2) 判断

イ 無申告加算税は、申告納税方式を採用する国税において、納税者が自己の判断と責任においてすべき確定申告が納税義務を確定させる重要な意義を有することから、期限内申告書が提出されなかった場合に、適法にこれを提出した者とこれを怠った者との間に生じる不公平を是正することにより、申告納税制度の信用を維持し、もって適正な期限内申告の実現を図ることを目的とするものである。
 このような無申告加算税の目的からすれば、通則法第66条第1項に規定する「正当な理由」がある場合とは、法定申告期限内に申告書の提出がなかったことについて納税者の責めに帰すべき事由がなく、無申告加算税を課すことが不当又は酷と認められる特別な事情がある場合をいうものと解するのが相当である。
ロ これを本件についてみると、請求人の主張する各理由は、いずれも無申告加算税を課すことが不当又は酷と認められる特別な事情とは認められないから、「正当な理由」には当たらない。
 したがって、請求人から期限内申告書の提出がなかったことについて「正当な理由」があるとは認められない。

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5 請求人のその他の主張について

 請求人は、法定納期限内に納税を済ませた者と意図的に期限後納付した者を同一視した無申告加算税の賦課決定処分は、憲法第14条の法の下の平等に反する旨主張する。
 しかしながら、通則法第66条の規定が憲法に違反しているかどうかについては、その判断は当審判所の権限に属さないことであり、審理の限りでない。
 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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