(平22.6.28、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、P国国籍を有する居住者である審査請求人(以下「請求人」という。)が、P国に所有していた不動産の譲渡に係る譲渡所得の金額について、P国ドル建てで算出した譲渡所得の金額を譲渡時の為替相場によって円換算して算出するとともに、P国における当該譲渡に係る所得税の額について、所得税法第95条《外国税額控除》第1項に規定する外国所得税額の税額控除(以下、当該規定による税額控除を「外国税額控除」という。)を適用して修正申告をしたところ、原処分庁が、P国に所有していた不動産の譲渡に係る譲渡所得の金額は、総収入金額、取得費及び譲渡に要した費用の額をそれぞれの取引日の為替相場によって円換算して算出すべきであり、また、外国税額控除の適用は認められないとして、更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分庁の当該譲渡所得の金額の算定には誤りがあるなどとして、当該更正処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 申告
(イ) 確定申告
 請求人は、平成19年分の所得税について、別表1の「確定申告」欄のとおり、国税通則法第10条《期間の計算及び期限の特例》第2項の規定により法定申告期限とみなされる平成20年3月17日に確定申告をした(以下、当該確定申告に係る確定申告書を「本件確定申告書」という。)。
(ロ) 修正申告
 請求人は、平成19年分の所得税について、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、別表1の「修正申告」欄のとおり、平成20年12月24日に修正申告をした(以下、当該修正申告に係る修正申告書を「本件修正申告書」という。)。
ロ 処分
(イ) 第1次賦課決定処分
 原処分庁は、上記イの(ロ)の修正申告により納付すべきこととなる税額に基づき、平成21年1月16日付で、請求人に対し、別表1の「賦課決定処分1」欄のとおり、過少申告加算税の賦課決定処分をした。
(ロ) 更正処分及び第2次賦課決定処分
 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成21年3月19日付で、別表1の「更正処分及び賦課決定処分2」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ 不服申立て
(イ) 異議申立て及び異議決定
 請求人は、上記ロの(ロ)の各処分を不服として、平成21年5月19日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年7月6日付で棄却する旨の異議決定をした。
(ロ) 審査請求
 請求人は、同人が不動産を譲渡した日の円換算について、当該譲渡した日のD銀行の対顧客直物電信売相場と対顧客直物電信買相場の仲値を用いることを除き、上記ロの(ロ)の各処分を不服として、平成21年8月6日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

イ 所得税法
(イ) 第33条《譲渡所得》
 第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定し、また、第3項は、譲渡所得の金額は、その年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。
(ロ) 第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》
 第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定し、また、第2項は、譲渡所得の基因となる資産が家屋その他使用又は期間の経過により減価する資産である場合には、第1項に規定する資産の取得費は、同項に規定する合計額に相当する金額から、その取得の日から譲渡の日までの期間に係る減価の額を控除した金額とする旨規定している。
(ハ) 第57条の3《外貨建取引の換算》
 第1項は、居住者が、外貨建取引(外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引をいう。)を行った場合には、当該外貨建取引の金額の円換算額(外国通貨で表示された金額を本邦通貨表示の金額に換算した金額をいう。)は当該外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額として、その者の各年分の各種所得の金額を計算するものとする旨規定している。また、所得税法附則(平成18年法律第10号)第7条《外貨建取引の換算に関する経過措置》は、上記の規定は、個人が平成18年4月1日以後に行う外貨建取引について適用する旨規定している。
(ニ) 第95条
A 第1項
 本項は、居住者が各年において外国所得税(外国の法令により課される所得税に相当する税で政令で定めるものをいう。)を納付することとなる場合には、一定の限度でその外国所得税の額をその年分の所得税の額から控除する旨規定している。
B 第5項
 本項は、第1項の規定は、確定申告書に同項の規定による控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細の記載があり、かつ、外国所得税を課されたことを証する書類その他財務省令で定める書類の添付がある場合に限り適用する旨規定しているところ、第7項は、税務署長は、第1項の規定による控除をされるべきこととなる金額の全部又は一部につき第5項の記載又は書類の添付がない確定申告書の提出があった場合においても、その記載又は書類の添付がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、その記載又は書類の添付がなかった金額につき第1項の規定を適用することができる旨規定している。
ロ 所得税基本通達
 57の3−2《外貨建取引の円換算》は、上記イの(ハ)の規定に基づく円換算は、その取引を計上すべき日における対顧客直物電信売相場(以下「電信売相場」という。)と対顧客直物電信買相場(以下「電信買相場」という。)の仲値(以下「電信売買相場の仲値」という。)による旨定め、また、(注)1において、電信売相場、電信買相場及び電信売買相場の仲値については、原則として、その者の主たる取引金融機関のものによることとする旨定めている。
ハ 租税特別措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》
 第1項は、個人が、その有する土地又は建物で、その年1月1日において所有期間が5年を超えるものの譲渡をした場合には、当該譲渡による譲渡所得については、他の所得と区分し、その年中の当該譲渡に係る譲渡所得(以下「分離長期譲渡所得」という。)の金額に対し、所得税を課する旨規定している。
ニ 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とP国政府との間の条約(以下「日P租税条約」という。)第○条
 第○項は、日本国以外の国において納付される租税を日本国の租税から控除することに関する日本国の法令に従い、日本国の居住者が日P租税条約の規定に従ってP国において租税を課される所得をP国において取得する場合には、当該所得について納付されるP国の租税の額は、当該居住者に対して課される日本国の租税の額から控除する旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 不動産の譲渡に至る経緯
(イ) P国における土地及び建物の取得並びにその価額等
 請求人及びその妻(以下、併せて「請求人ら」という。)は、平成13年6月1日(以下「本件取得日」という。)に、P国Q町○−○に所在する土地を63,400.00P国ドル、木造建物(以下「本件建物」といい、土地と併せて「本件土地等」という。)を154,751.29P国ドル、合計218,151.29P国ドルで取得した(以下、この取得に係る取引を「本件取得取引」という。)。
 なお、請求人らは、本件取得取引の代金を、請求人らがもともとP国国内に保有していた又は同国内で借入れをしたP国ドルによって支払った。
(ロ) 本件土地等の請求人らの持分
 請求人らは、本件土地等について、ジョイント・テナンシー(合有不動産権)を有し、それぞれの持分は等分であった。
(ハ) 本件土地等の譲渡価額及び譲渡に要した費用の額
 請求人らは、平成19年8月2日(以下「本件譲渡日」という。)に、本件土地等を○○○○P国ドルで譲渡するとともに(以下、この譲渡に係る取引を「本件譲渡取引」という。)、譲渡に要した費用として17,328.17P国ドルを支払った(以下「本件譲渡費用」という。)。
(ニ) 本件建物の使用状況
 請求人らは、本件建物を、本件取得日から平成○年12月31日までは非業務用として、平成○年1月1日から本件譲渡日までは業務用(貸家)としていた。
ロ 本件譲渡取引に係る外国所得税の納付
 請求人は、本件譲渡取引に係るP国の所得税を納付した(以下、この納付したP国の所得税を「本件外国所得税」という。)。
ハ 外国為替の売買相場
(イ) 主たる取引金融機関
 請求人の本件取得日及び本件譲渡日における主たる取引金融機関は、D銀行であった。
(ロ) 本件取得日の為替相場
 D銀行のP国ドルに係る本件取得日の電信売相場は、1P国ドル当たり79.05円であり、電信売買相場の仲値は、1P国ドル当たり77.70円であった。
(ハ) 本件譲渡日の為替相場
 D銀行のP国ドルに係る本件譲渡日の電信売買相場の仲値は、1P国ドル当たり112.55円であった。
ニ 本件確定申告書の本件外国所得税に係る外国税額控除の記載内容等
 本件確定申告書には、本件外国所得税に係る所得税法第95条第5項所定の外国税額控除を受けるべき金額等の記載及び外国所得税を課されたことを証する書類等の添付がなかった。
ホ 本件修正申告書の記載内容
 本件修正申告書には、本件土地等の譲渡に係る所得(以下「本件譲渡所得」という。)の金額について、P国ドル建てのまま算出された上で、本件譲渡日の属する年のP国中央銀行のP国ドルの年間平均為替相場で円換算した金額が記載され、また、納付すべき税額について、本件外国所得税に係る外国税額控除を適用して算出された金額が記載されていた。
ヘ 本件更正処分の内容等
 原処分庁は、本件譲渡所得に係る総収入金額(以下「本件総収入金額」という。)及び本件譲渡費用の額を本件譲渡日のD銀行のP国ドルに係る電信売買相場の仲値によって円換算し、また、本件土地等の取得費(以下「本件取得費」という。)の額については、本件土地等の取得金額を本件取得日のD銀行のP国ドルに係る電信売相場によって円換算した金額に基づき計算した上で、本件譲渡所得の金額を算出するとともに、本件外国所得税に係る外国税額控除を認められないとする本件更正処分をした。
 なお、上記のとおり、本件譲渡所得の金額を算出した結果、本件譲渡所得の金額には、本件譲渡日と本件取得日のそれぞれ異なる為替相場で円換算したことによる差益(以下「本件為替差益」という。)が含まれて算出された。

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2 争点

(1) 争点1 本件譲渡所得の金額は、どのように算出すべきか。
(2) 争点2 本件確定申告書に外国税額控除を受けるべき金額等の記載及び書類の添付がなかったことについて、所得税法第95条第7項に規定する「やむを得ない事情」があるか否か。

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3 主張及び判断

(1) 争点1 本件譲渡所得の金額は、どのように算出すべきか。

イ 主張

原処分庁 請求人
 本件譲渡所得の金額は、次の理由から、本件総収入金額及び本件譲渡費用の額については本件譲渡日の為替相場により円換算し、本件取得費の額については本件土地等の取得金額を本件取得日の為替相場によって円換算した金額に基づき計算した上で算出すべきである。
(イ) 本件総収入金額及び本件譲渡費用の額については、所得税法第57条の3の規定により、その取引日である本件譲渡日の為替相場により円換算することとなる。
(ロ) 所得税法第57条の3は、平成18年4月1日以後の取引に適用されるものであるが、それまでも法人税法の規定による外貨建取引の換算方法に準じた取扱いがなされており、所得税法も各種所得の金額や税額の計算を円により行うことを予定しているものであり、同条は、それまでの外貨建取引の換算方法の取扱いを法令上明確化したものである。よって、所得税法第57条の3の創設により、換算方法に変更が生じたものではなく、本件土地等の取得金額についてはその取引日である本件取得日の為替相場により円換算することとなる。
(ハ) 本件譲渡所得の金額は、上記(イ)及び(ロ)のとおり円換算した金額で算出するのであるから、本件為替差益については、本件譲渡所得の金額に含まれることとなる。
 本件譲渡所得の金額は、次の理由から、P国ドル建ての譲渡益について、本件譲渡日の為替相場によって円換算した上で算出すべきである。
(イ) 本件土地等は、請求人がP国国内に保有していた又は同国内で借入れをしたP国ドルによって取得し、P国ドル建てで譲渡したものであり、本件土地等の譲渡によって得た利益は、P国ドル建ての譲渡益のみである。また、本件取得取引及び本件譲渡取引は、いずれも日本国外で行われた。このような場合の所得の円換算は、所得計算期間の終期で行うことが合理的である。
(ロ) 本件土地等の取得から譲渡までの間、円とP国ドルとの交換は行われておらず、このような取引は所得税法第57条の3に規定する外貨建取引に該当しないのであるから、同条の規定を適用することはできない。
(ハ) 原処分庁の左記(ロ)の主張は、租税法規について、その文言を離れてみだりに拡大解釈をするものであり、租税法律主義に反し、許されない。
(ニ) 原処分庁主張の計算方法によって算出される本件譲渡所得の金額には、実現していない所得である本件為替差益の額が含まれることになり、実現していない所得への課税は許されない。

ロ 判断
(イ) 法令等解釈
A 譲渡所得の趣旨
 所得税法第33条第3項は、前記1の(3)のイの(イ)のとおり、譲渡所得の金額の計算に当たっては、譲渡所得に係る総収入金額から当該資産の取得費及びその譲渡に要した費用の額(以下、これらを併せて「取得費等」という。)を控除すべきものと規定し、同法第38条第1項は、同(ロ)のとおり、資産の取得費とは、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額をいうものと規定しているところ、譲渡所得に対する課税は、当該資産が譲渡によって所有者の支配を離れるのを機会に、その所有期間中の増加益、すなわち、当該資産の取得時の客観的価額とその譲渡時の客観的価額との増差分を清算して課税しようとするものであり、譲渡所得の金額の計算に当たり譲渡収入金額から取得費等を控除すべきものとしているのは、この増差分を算出するためであると解される。
B 外貨建取引の円換算
 上記Aを前提にすると、譲渡所得の金額の計算における取得費は、資産の取得時の客観的価額が算出されたものであり、総収入金額は、資産の譲渡時の客観的価額が算出されたものであるということができ、これらの価額の算出に当たり、国内法である所得税法は、所得金額又は税額の計算は円により行うことを前提としていることから、譲渡所得に係る総収入金額又は取得費等の中に外貨建取引によるものが含まれている場合には、当該外貨建取引の額について、当該外貨建取引を行った時における為替相場により円換算した上で、当該所得に係る総収入金額又は取得費等を計算することが相当であり、所得税法第57条の3の規定は、譲渡所得の金額の計算についていえば、このような円換算の方法について法令上明確化されたものと解される。
(ロ) 結論
A 本件譲渡所得の種類及びその金額の算出方法
 本件土地等は、前記1の(4)のイの(イ)のとおり、本件取得日に取得されており、本件譲渡取引をした年である平成19年の1月1日において請求人の所有期間が5年を超えていることから、同(3)のハによれば、本件譲渡所得は、分離長期譲渡所得となり、その金額は、本件総収入金額から本件取得費及び本件譲渡費用の額の合計額を控除した金額となる。
B 本件譲渡所得の金額の算出の際に適用すべき為替相場
(A) 本件総収入金額
 本件譲渡取引は、前記1の(4)のイの(ハ)のとおり、本件譲渡日に行われた外貨建取引であることから、本件総収入金額は、上記(イ)のBによれば、本件譲渡日の為替相場により円換算して算出することとなる。
 なお、所得税基本通達57の3−2は、所得税法第57条の3第1項の規定に基づく円換算は、前記1の(3)のロのとおり、原則として、その取引を計上すべき日におけるその者の主たる取引金融機関の電信売買相場の仲値による旨定めているところ、当該電信売買相場の仲値とは、対顧客取引の基準となるレートであるから、この取扱いは、当審判所においても相当と認められる。そして、本件譲渡取引は、平成18年4月1日以後の取引であることから、所得税法第57条の3の規定が適用され、同(4)のハの(イ)のとおり、請求人の本件譲渡日における主たる取引金融機関はD銀行であるから、同行のP国ドルに係る電信売買相場の仲値を用いて円換算することが相当である。
(B) 本件取得費の額
 本件取得取引は、前記1の(4)のイの(イ)のとおり、平成18年3月31日以前である本件取得日に行われていることから、所得税法第57条の3の規定は適用されず、所得税基本通達57の3−2の定めも適用されないところ、本件取得費の額は、上記(イ)のBによれば、本件土地等の取得金額を本件取得日の為替相場により円換算した金額に基づき計算した上で、算出することとなる。
 なお、請求人は、前記1の(4)のイの(イ)のとおり、円でP国ドルを購入していないことから、円でP国ドルを購入した場合に用いられる電信売相場ではなく、対顧客取引の基準となるレートである電信売買相場の仲値を用いて円換算することが合理的であり、相当と認められ、また、その仲値は、上記(A)と同様に、請求人の主たる取引金融機関であるD銀行のものによるのが相当である。
(C) 本件譲渡費用の額
 本件譲渡費用の額は、上記(イ)のBによれば、その取引を行った時である本件譲渡日の為替相場により円換算して算出することとなり、上記(A)と同様に、所得税法第57条の3の規定が適用され、D銀行のP国ドルに係る電信売買相場の仲値を用いて円換算することが相当である。
C 請求人の主張の当否
 請求人は、上記イの「請求人」欄の(イ)ないし(ハ)のとおり、本件土地等の取得から譲渡までの間、円とP国ドルとの交換が行われていないことなどから、所得税法第57条の3の規定の適用はなく、本件譲渡所得の金額は、P国ドル建ての譲渡所得の金額を譲渡時の為替相場によって円換算して算出すべき旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、譲渡所得の金額は、取得時と譲渡時の客観的価額の差によって算出されるものであり、外貨建てで取得又は譲渡取引が行われた場合には、その間に円と外貨との交換が行われていたか否かにかかわらず、その時の為替相場により円換算して譲渡所得の金額を計算するのが相当であり、所得税法第57条の3の規定は、外貨建取引が行われた場合におけるこのような円換算の方法について法令上明確化されたものである。
 したがって、本件譲渡所得の金額は、上記Bの各為替相場により円換算した各金額に基づき算出することになるから、この点に関する請求人の主張にはいずれも理由がない。
(ハ) 請求人のその他の主張の当否
 請求人は、上記イの「請求人」欄の(ニ)のとおり、原処分庁主張の計算方法によって算出された本件譲渡所得の金額に含まれる本件為替差益の額への課税は許されない旨主張する。
 ところで、原処分庁が主張する本件譲渡所得の金額の計算上控除する本件取得費の額は、前記1の(4)のヘのとおり、本件取得日のD銀行のP国ドルに係る電信売相場によって円換算した金額に基づき計算した上で算出されているが、当審判所においては、上記(ロ)のBの(B)のとおり、本件取得費の額は本件取得日の同行のP国ドルに係る電信売買相場の仲値によって円換算した金額に基づき計算するのが相当である。
 そうすると、本件譲渡所得の金額には、必然的に本件為替差益の額が含まれることになるところ、本件土地等を譲渡した時点のP国ドルの円での経済的価値(1P国ドル当たり112.55円)は、本件土地等を取得した時点のP国ドルの円での経済的価値(1P国ドル当たり77.70円)よりも増加しており、請求人の本件土地等を保有していた期間において、P国ドルに新たな円での経済的価値が発生しているということができ、本件為替差益は、本件土地等を譲渡した時点において所得として実現したと認めるのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2 本件確定申告書に外国税額控除を受けるべき金額等の記載及び書類の添付がなかったことについて、所得税法第95条第7項に規定する「やむを得ない事情」があるか否か。

イ 主張

請求人 原処分庁
 次の理由から、本件確定申告書に外国税額控除を受けるべき金額等の記載及び書類の添付がなかったことについて、所得税法第95条第7項に規定する「やむを得ない事情」がある。
(イ) 外国税額控除は、二重課税を防ぐ唯一の方法であり、このような場合には、原則として主観的な事情についても「やむを得ない事情」に当たる。
(ロ) 本件外国所得税を納付しているにもかかわらず、前記1の(4)のニのとおり、その記載等を行わなかったという手続上の小さな瑕疵のみを理由として、二か国において同一の所得について二重に課税することは、日P租税条約の精神に反し、あまりに酷であり不合理である。
 請求人には、本件確定申告書に外国税額控除を受けるべき金額等の記載及び書類の添付がなかったことについて、本人の責めに帰すことができない客観的な事情がないため、所得税法第95条第7項に規定する「やむを得ない事情」はない。

ロ 判断
(イ) 法令解釈
 所得税法第95条第1項の規定の趣旨は、国際的二重課税の防止にある。すなわち、同一の納税者に対し、同一の課税物件について、同一の課税期間に、同一の性質の租税を、複数国によって課されることになれば、国際的経済活動を阻害してしまうことから、我が国では、一定の国外所得に対して課された日本の所得税に相当する外国所得税の額を日本の所得税額から税額控除することにより、結果として、国際的二重課税がない場合と同等の税負担になるようにすることによって、国際的二重課税を解消している。
 このように、外国税額控除が結果として我が国の課税権の行使に制限を加えるものであること、外国税額控除を受けるためには、所得税法第95条第5項によって、確定申告書に控除を受けるべき金額を記載する等、一定の手続要件が求められていること等に照らすと、かかる手続要件を履践することなく外国税額控除が受けられる同条第7項に規定する「やむを得ない事情」とは、客観的にみて本人の責めに帰することができない事情をいうものと解される。
(ロ) 結論
 前記1の(4)のニのとおり、本件確定申告書には、外国税額控除を受けるべき金額等の記載及び外国所得税を課されたことを証する書類等の添付がなかったのであるから、所得税法第95条第7項に規定する「やむを得ない事情」がない限り、外国税額控除の適用はできないところ、請求人は、「やむを得ない事情」について、上記イの「請求人」欄の(イ)のとおり、主観的な事情についても「やむを得ない事情」に当たると主張するのみであり、また、当審判所の調査の結果によっても、請求人には客観的にみて本人の責めに帰することができない事情があるとは認められない。
 したがって、本件確定申告書に外国税額控除を受けるべき金額等の記載及び書類等の添付がなかったことについて、所得税法第95条第7項に規定する「やむを得ない事情」があるとは認められず、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ) 外国税額控除の適用の可否及び請求人のその他の主張の当否
 請求人は、上記イの「請求人」欄の(ロ)のとおり、請求人に外国税額控除の適用ができないとするのは日P租税条約の精神に反する旨主張する。
 しかしながら、日P租税条約第○条第○項は、前記1の(3)のニのとおり、納付されるP国の租税の額は、日本国の法令に従って日本国の租税の額から控除する旨規定しており、同条約にはほかに外国税額控除の手続についての規定はなく、また、請求人は、上記(ロ)のとおり、所得税法第95条第7項に規定する「やむを得ない事情」があったとは認められないにもかかわらず、日本国の法令に従って外国税額控除を受けるための所定の手続を行っていないのであるから、本件外国所得税の額を控除する余地はないといわざるを得ない。
 なお、当審判所は、原処分庁が行った処分が違法又は不当であるか否かを判断する機関であって、税法の規定自体が租税条約の精神に反しているか否かについては、当審判所の権限に属さないことであり、当審判所の審理の限りではない。
 したがって、本件外国所得税について、外国税額控除の適用はできず、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 本件更正処分の適法性

イ 本件総収入金額
 請求人らは、本件土地等について、前記1の(4)のイの(ハ)のとおり○○○○P国ドルで譲渡しており、また、同(ロ)のとおり、それぞれ等分の持分を有していたことから、本件総収入金額は、上記(1)のロの(ロ)のBの(A)のとおり、○○○○P国ドルに2分の1を乗じた○○○○P国ドルをD銀行の本件譲渡日の電信売買相場の仲値である前記1の(4)のハの(ハ)の1P国ドル当たり112.55円の為替相場によって円換算した○○○○円となる。
ロ 本件取得費
 請求人らは、本件土地等の取得について、前記1の(4)のイの(イ)のとおり、218,151.29P国ドルを要しており、また、同(ロ)のとおり、それぞれ等分の持分を有していたことから、本件土地等の取得金額は、上記(1)のロの(ロ)のBの(B)のとおり、218,151.29P国ドルに2分の1を乗じた109,075.65P国ドルをD銀行の本件取得日の電信売買相場の仲値である前記1の(4)のハの(ロ)の1P国ドル当たり77.70円の為替相場によって円換算した8,475,179円となる。
 また、前記1の(4)のイの(イ)のとおり、請求人らが本件建物の取得に要した金額は154,751.29P国ドルであることから、請求人の本件建物の取得に要した金額は、154,751.29P国ドルに2分の1を乗じた77,375.64P国ドルをD銀行の本件取得日の電信売買相場の仲値である1P国ドル当たり77.70円の為替相場によって円換算した6,012,087円となり、これを基に本件建物の本件取得日から本件譲渡日までの期間に係る減価の額(以下「本件累計償却費相当額」という。)を算出すると、別表2の「本件累計償却費相当額」欄のとおり、○○○○円となる。
 以上によれば、本件譲渡所得の金額の計算上控除する本件取得費の額は、本件土地等の取得金額8,475,179円から本件累計償却費相当額○○○○円を控除した○○○○円となる。
ハ 本件譲渡費用
 請求人らは、前記1の(4)のイの(ハ)のとおり、本件譲渡日に、本件土地等の譲渡に要した費用として、17,328.17P国ドルを支払ったことから、本件譲渡費用は、上記(1)のロの(ロ)のBの(C)のとおり、17,328.17P国ドルに2分の1を乗じた8,664.09P国ドルをD銀行の本件譲渡日の電信売買相場の仲値である前記1の(4)のハの(ハ)の1P国ドル当たり112.55円の為替相場によって円換算した975,144円となる。
ニ 本件譲渡所得の金額
 以上のとおり、請求人の本件譲渡所得の金額は、上記イの本件総収入金額○○○○円から上記ロの本件取得費の額○○○○円及び上記ハの本件譲渡費用の額975,144円の合計額○○○○円を控除した○○○○円となる。
ホ まとめ
 総所得金額は、請求人の修正申告の金額及び本件更正処分の金額と同額であり、また、本件譲渡所得の金額は、上記ニのとおりであり、別表1の「更正処分及び賦課決定処分2」欄の「分離長期譲渡所得の金額」欄の金額を上回る。そして、上記(2)のロの(ハ)のとおり、本件外国所得税について、外国税額控除の適用はできない。
 したがって、本件更正処分は適法である。

(4) その他

 前記1の(2)のロの(ロ)の過少申告加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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