(平22.4.22、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の、平成16年3月19日及び同月29日に請求人の妻名義から請求人名義に移動した資産についての贈与税の申告がないとして、平成16年分の贈与税の決定処分等を行ったことに対し、請求人が、当該資産は妻から債務の弁済を受けた平成13年3月27日には請求人のものとなっていた等として、それらの処分の全部の取消しを求めた事案であり、争点は、上記平成16年3月19日及び同月29日の資産の移動が、相続税法第9条に規定する対価を支払わないで利益を受けた場合に該当し、妻からの贈与により取得したものとみなされるか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人の審査請求(平成21年5月14日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。

(3) 関係法令

 別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件の関係者
(イ) Cは、請求人の妻であり、請求人とCの子は、長男D1、長女D2、次男D3及び三男Eの4名(以下「D1ら4名」という。)である。
 なお、Cは、平成17年9月○日に死亡した。 
(ロ) P市Q町○丁目○番○号に所在するF社は、昭和47年4月○日にG社として設立(昭和60年3月○日、F社に商号変更登記)された建設用仮設機材の販売、賃貸を主な事業とする法人であり、請求人は、昭和49年6月10日から平成15年3月12日までの間、代表取締役の地位にあり、Cは、監査役を経た後、平成8年2月25日に代表取締役に就任し、平成12年3月20日に代表取締役を、平成13年1月28日に取締役を辞任するまでの間役員を歴任した。 
(ハ) P市Q町○丁目○番○号に所在するH社は、平成6年9月○日に、土地建物の売買を主な事業とする法人として設立され、請求人は、同日から平成19年3月31日までの間、代表取締役の地位にあった。Cは、遅くとも平成11年6月以降、平成17年6月24日まで同社の取締役の地位にあった。Eは、平成11年6月20日に同社の取締役に就任し、平成19年4月1日に代表取締役に就任した。なお、Cは、平成12年5月以降死亡するまで同社から毎月1,500,000円の給与を受給していた。
(ニ) R市S町○丁目○番○号に所在するJ社(現L社)は、平成11年2月○日に、不動産の賃貸及び管理を主な事業とする法人として設立された後、平成16年6月○日商号変更登記してK社となり、平成18年3月○日にL社に吸収合併された。請求人は、平成11年2月○日の設立時から平成18年3月○日の吸収合併時まで、J社の代表取締役の地位にあった。また、J社は、平成12年7月14日に、書類送付先及び連絡先をR市S町○丁目○番○号からP市Q町○丁目○番○号F社ビル東館10階H社内とする異動届出書を○○税務署長に提出した。 
(ホ) P市Q町○丁目○番○号に所在するM社は、平成13年3月○日に、人材派遣を主な事業とする法人として設立され、同社の設立以降、Nが代表取締役の地位にあったが、平成17年7月29日に解任され、同日、Eが同社の代表取締役に就任した。 
ロ Cの退職金
(イ) F社は、平成13年3月16日に、役員も同席した臨時株主総会を開催し、役員を退任したCに対し、同年3月中に役員退職慰労金を○○○○円支給することを承認可決した。 
(ロ) 平成13年3月27日に、a銀行b支店(現d銀行e支店、平成15年3月に商号変更。以下同じ。)のC名義の口座番号○○○○の普通預金口座(以下「本件退職金預金口座」という。)に上記退職金の額から所得税の額を差し引いた金額310,890,000円(以下「本件退職金」という。)が振り込まれた。
 当該振込み以降の資金の移動等の状況は、別紙2の「本件退職金の流れ」のとおりであり、当該振込みは、別紙2の「本件退職金の流れ」の1欄である。
 なお、本件退職金預金口座は、本件退職金が振り込まれる前日の平成13年3月26日に新規に開設され、同口座の主な入出金状況は、別表2の「本件退職金預金口座の入出金状況」のとおりである。
ハ 別紙2の「本件退職金の流れ」2欄の資金の移動等
(イ) 別表2の出金欄の平成13年3月27日の本件退職金預金口座から出金された290,000,000円の金員は、同日、a銀行b支店のH社の当座預金口座(口座番号○○○○)に送金された。
(ロ) H社は、上記入金額290,000,000円全額をCからの借入金として経理処理した。
ニ 別紙2の「本件退職金の流れ」3欄の資金の移動等
(イ) H社は、平成14年12月25日にf銀行g支店において、同行h支店の同社の普通預金口座(口座番号○○○○)からXX,000,000円を出金し、同社は、同日付でCからの借入金のうちXX,000,000円を返済した旨の経理処理をした。
(ロ) 上記(イ)のXX,000,000円の金員は、平成14年12月25日に、請求人が、自ら購入した絵画の代金としてT社に支払った(q銀行r支店のT社の名義の口座番号○○○○の普通預金口座に請求人名義で振込み。)。
ホ 別紙2の「本件退職金の流れ」4欄の資金の移動等
(イ) H社は、平成15年5月1日に、d銀行t支店の同社の普通預金口座(口座番号○○○○)から37,600,000円を出金し、J社に交付した。
(ロ) H社は、上記(イ)の出金について、同日付で、Cからの借入金のうち37,600,000円を返済した旨の経理処理をした。
ヘ 別紙2の「本件退職金の流れ」5欄の経理処理等
 J社は、上記ホの(イ)の入金について、同日付で、37,600,000円をCから借り入れた旨の経理処理をした。
ト 別紙2の「本件退職金の流れ」6欄の資金の移動等
(イ) H社は、平成15年6月4日に、額面153,400,000円及び5,002,800円の2枚の小切手を振り出し、J社に交付した。
(ロ) H社は、上記(イ)の各小切手の振出しについて、同日付で、Cからの借入金のうち、158,402,800円を153,400,000円及び5,002,800円の2口に分けて返済した旨の経理処理をした 。
チ 別紙2の「本件退職金の流れ」7欄の経理処理等
 J社は、上記トの(イ)の各小切手の受領について、同日付で、Cから5,002,800円を借り入れ、さらに、同日153,400,000円を借り入れた旨の経理処理をした。
リ C名義預金口座の新規開設
 平成16年2月25日に、u銀行v支店のC名義の口座番号○○○○の普通預金口座(以下「本件預金口座」という。)が新規に開設された。同口座の主な入出金状況は、別表3の「本件預金口座の入出金状況」のとおりである。
ヌ 別紙2の「本件退職金の流れ」8欄の資金の移動等
(イ) J社は、平成16年2月25日に、250,000,000円を本件預金口座へ振り込んだ。
(ロ) J社は、上記(イ)の出金について、同日付で、上記ヘ及びチのCからの借入金合計196,002,800円の全額を返済した旨の経理処理をするとともに、同金額と上記(イ)の250,000,000円との差額の53,997,200円をCに対する仮払金として経理処理した。
ル 別紙2の「本件退職金の流れ」9欄の資金の移動等
(イ) 本件預金口座から、平成16年3月11日に、53,997,200円が出金され、振込手数料の額840円を除いた53,996,360円がd銀行e支店のJ社の当座預金口座(口座番号○○○○)に振り込まれた。
(ロ) J社は、上記(イ)の入金について、同日付で、上記ヌの(ロ)のCに対する仮払金53,997,200円全額の戻入れを受けた旨の経理処理をした。
ヲ 別紙2の「本件退職金の流れ」10欄の資金の移動等
(イ) H社は、平成16年3月19日に、請求人名義の、d銀行e支店の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件d銀行預金口座」という。)にXX,744,187円を振り込んだ。
(ロ) H社は、上記(イ)の出金について、同日付で、上記ハの(ロ)のCからの借入金の同日現在の残高XX,997,200円(上記ニの(イ)、ホの(ロ)及びトの(ロ)の返済後の金額)全額を返済した旨の経理処理をし、当該Cへの返済金額と上記(イ)の振込額XX,744,187円との差額XX,746,987円については請求人からの借入金を返済した旨の経理処理をした。
ワ 別紙2の「本件退職金の流れ」11欄の資金の移動等
 本件預金口座から、平成16年3月29日に、XXX,000,000円が出金され、同日、その全額が、請求人名義のw信用組合x1支店の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件w信用組合預金口座」という。)に振り込まれた。
 なお、本件w信用組合預金口座は、平成16年2月27日に開設されたものであり、主な入出金状況は、別表4の「本件w信用組合預金口座の入出金状況」のとおりである。 
カ 別紙2の「本件退職金の流れ」12欄の資金の移動等
(イ) 本件預金口座から、平成16年3月29日に、XX,500,000円が出金された。
(ロ) 上記(イ)のXX,500,000円は、そのころ、Nから不動産購入資金を貸してほしいとの要請を受けた請求人がNに貸し付けたものである。
ヨ 別紙2の「本件退職金の流れ」13欄の資金の移動等
(イ) 上記ワの本件w信用組合預金口座から、平成16年6月28日に、XXX,000,000円が引き出され、請求人名義で、H社のd銀行e支店の当座預金口座(口座番号○○○○)に振り込まれた。 
(ロ) H社は、上記(イ)の入金について、同日付で、請求人からXXX,000,000円を借り入れた旨の経理処理をした。
タ 別紙2の「本件退職金の流れ」14欄の資金の移動等
(イ) 平成13年12月28日に、本件退職金預金口座から、20,000,000円が引き出され、同日、同口座が存在した支店でC名義の同額の定期預金(口座番号○○○○)が設定された。
(ロ) 上記(イ)の20,000,000円の定期預金は、平成17年5月25日に解約され、預金利息を含め20,186,498円が引き出され、また、同日、本件退職金預金口座から預金利息を含め896,984円が引き出され、同口座の預金残高は零円となった。 
レ 別紙2の「本件退職金の流れ」15欄の資金の移動等
(イ) 本件預金口座は、上記ワ及びカの(イ)の出金以降は利息の入金のみであるところ、Cが死亡した平成17年9月○日時点における本件預金口座の預金残高はXX,501,189円であった。
(ロ) Cの相続財産について、Cの死亡により開始した相続に係る共同相続人である請求人及びD1ら4名(以下、これら5名を併せて「共同相続人ら」という。)の間で平成18年6月○日に遺産分割協議の成立により遺産分割され(以下「本件遺産分割」といい、同日付で作成された本件遺産分割に係る遺産分割協議書を、以下「本件遺産分割協議書」という。)、請求人は、本件預金口座の残高XX,501,189円を取得した。 
ソ 贈与税の決定処分等
 原処分庁は、請求人に対して、別紙2の「本件退職金の流れ」の平成16年3月19日の10欄及び平成16年3月29日の11及び12欄の各資金の移動による財産の取得に係る贈与税の申告がないとして、平成16年分の贈与税の決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

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2 主張

原処分庁 請求人
(1) 相続税法第9条の適用について
 別紙2の10ないし12欄は、いずれもCの貸付金ないし預金から請求人名義の預金ないし貸付金への資産の移動であり、これらは、請求人が対価を支払わないで利益を受けた場合に該当するので、相続税法第9条が適用される。
(1) 相続税法第9条の適用について
 相続税法第9条は著しく低い価額による譲渡などを想定しており、同条の適用に当たっては極めて限定的に解釈すべきである。
 本件は、相続税法第9条を適用する場合に該当せず、原処分庁は贈与契約の成立を主張・立証すべきである。
(2) 本件退職金預金口座について
 下記イ及びロの事実によれば、平成13年3月27日に本件退職金に相当する金額が請求人に帰属することとなったとは認められず、本件退職金及びC名義の本件退職金預金口座から支出されたH社への貸付金(別紙2の2欄)はいずれもCに帰属する資産である。
(2) 本件退職金預金口座について
 本件退職金は、以下に述べるとおり、平成13年3月27日に請求人に帰属したから、原処分庁の主張は誤りであり、本件退職金預金口座の金員は請求人に帰属する資産である。
イ H社は、上記1の(4)のハの(ロ)のとおり、別紙2の2欄の資金の移動について、Cからの借入金として経理している。
 また、J社は、上記1の(4)のヘ及びチのとおり、別紙2の4欄及び6欄の資金の移動について、Cからの借入金として経理している。
イ 本件退職金預金口座は、すべて請求人が管理しており、Cは、同口座からの引き出しやその使途について全く関知していなかった。具体的には、同口座の通帳及び届出印をH社の事務所内の金庫に保管し、手続等はE及びY(平成15年3月までは、F社の総務部長等を務め、平成15年4月からH社の財務部長。以下「Y部長」という。)に任せていた。
ロ 請求人が主張する、Cが請求人の預金を使い込んだ事実の存在は明らかでなく、当該事実を前提とした合意についてもそれを証する書面等がないことから、存在したかどうかは明らかではない。 ロ Cは請求人の給与が振り込まれている預金口座を管理しており、その口座の預金を引き出し、勝手に高価な宝石を買ったり、宗教法人へ多額の寄附をするなどして、請求人の金を3億円使い込んだ。
 Cと請求人は話合いにより、CがF社を退職してその退職金で、請求人に対して、上記の3億円の使い込み金の弁済をする旨合意した。
 請求人は、平成13年3月27日に、同合意に基づき、Cが使い込んだ金員に係る弁済金として、本件退職金を受け取った。
(3) 本件預金口座について
 C名義の本件預金口座に振り込まれたJ社への貸付金に係る返済金(別紙2の8欄の一部)は、Cに帰属する資産である。
 Cの死亡により開始した相続に係る相続税の申告書及び本件遺産分割協議書には、本件預金口座のCの死亡時点の残高を請求人が取得する旨記載されており、当該本件預金口座の残高について、共同相続人らの間で相続財産として認識されていた。
(3) 本件預金口座について
 本件預金口座は、本件退職金預金口座と同様の方法で、すべて請求人が管理しており、請求人に帰属する資産である。Cは同口座からの引き出し及び使途について全く関知していない。
 Cの死亡により開始した相続に係る相続税の申告書において、相続財産に本件預金口座の残高を含めているのは、当該預金が請求人に帰属する資産である旨を、相続税の申告書の件を依頼したZ税理士に説明していなかったために誤って申告されたためである。
(4) 本件退職金を本件退職金預金口座に入金することはCも承諾していたのであるから、仮に、本件退職金預金口座及び本件預金口座の管理を請求人が行っていたとしても、これらの預金口座の入出金はCの委任により請求人が行っていたものと推認されるべきである。
 また、請求人とCは同居する夫婦であるから、上記の預金口座からの多額の出金の使途についてCが全く関知しなかったとは考えられないから、別紙2の10ないし12欄の資金の移動が、請求人による不当利得を構成するとはいえない。
(4) 仮に、上記(2)及び(3)の主張が認められないとしても、本件退職金預金口座及び本件預金口座は、すべて請求人が管理し、Cは預金の引き出し及び使途について全く関知しておらず、Cの預金を請求人が流用したものであり、別紙2の10ないし12欄の資金の移動は、いずれも不当利得を構成する。
 したがって、Cは、請求人に対し別紙2の10ないし12欄と同額の不当利得返還請求権を有することとなり、当該請求権は、Cの相続財産を構成すべきものであるから、別紙2の10ないし12欄の資金の移動は、贈与税の課税対象とはならない。

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3 判断

(1) 法令解釈

 相続税法第9条の規定の趣旨は、私法上の贈与契約によって財産を取得したのではないが、贈与と同じ実質を有する場合に、贈与の意思がなければ贈与税を課税することができないとするならば、課税の公平を失することになるので、この不合理を補うために、実質的に対価を支払わないで経済的利益を受けた場合においては、贈与契約の有無にかかわらず当該利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなし、これを課税財産として贈与税を課税することとしたものである。また、同条に規定する「利益を受けた」場合とは、おおむね利益を受けた者の財産の増加又は債務の減少があった場合をいい、労務の提供等を受けたような場合は、これに含まないものと解される。

(2) 認定事実

 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ CのH社等での勤務状況等
(イ) Cは、H社が同社会議室等において平成13年6月30日、平成15年3月24日、同年4月14日、同年6月30日、平成16年3月20日、同年6月7日及び同年9月15日に開催した取締役会にいずれも出席し、議事録に記名・押印している。
 また、Cは、H社が平成13年6月30日、平成14年2月28日、同年6月28日及び平成15年6月30日に株主総会(取締役同席)を開催した際、いずれも出席し、議事録に記名・押印している。 
(ロ) Cは、F社を退職後、H社の取締役として報酬を受けており、同社には週に2〜3日程度出社し、総務・経理的な仕事を担当した。Cは請求人と共に出社するなど行動を共にすることもあった。 
(ハ) Cが、平成12年から平成17年までの間、H社から受け取った役員報酬の額は、別表5の「C」欄の平成12年分から平成17年分欄のとおりである。 
 なお、Cは、F社に平成13年1月の退任まで約30年間在職し、管理部門の総括役員を務めており、平成3年から平成12年までの間のF社からの役員報酬の額は、別表5の「C」欄の平成3年分から平成12年分欄のとおりである。
ロ 本件預金口座の開設手続等
(イ) 平成16年2月25日に、本件預金口座の開設の手続を担当したu銀行v支店の渉外担当者(以下「u銀行渉外担当者」という。)は、本件預金口座の開設に当たって、Y部長からCの健康保険証あるいはその写しの提示を受け、本人確認手続を行った。
(ロ) u銀行渉外担当者は、平成14年から平成19年4月上旬ころまでの間、F社、H社及びJ社の担当として事務所等を訪問していた。大半はY部長と面接していたが、時々、請求人と面接することもあり、Cとも応接室で何度か会った。
(ハ) u銀行渉外担当者は、平成16年3月11日及び同月29日に、本件預金口座から大口の出金をする際、Y部長と面接し手続をしたが、Cとは会っていない。
ハ Cに係る相続財産の遺産分割について
(イ) 本件遺産分割協議書のとおり、Cに係る相続財産のうち、本件預金口座の残高XX,501,189円と所得税の還付金については、請求人がその全額を取得し、その他のC名義の預金を含む相続財産については、請求人を除く相続人が均等に取得した。 
(ロ) 本件遺産分割協議書に係る遺産分割の原案は請求人が考えたものであり、その遺産分割の原案について、他の相続人は特に意見を述べなかった。 
ニ 請求人夫婦等の生活状況 
(イ) 請求人夫婦は別居したことはなく、平成16年7月に結婚し転居したEなど同居の親族も含めた家族の日常の家事はCと通いの家政婦が行い、飲食費等の費用はCが支払っていた。 
(ロ) 請求人夫婦は、年1回から2回程度夫婦で墓参りを含めた海外旅行に行っており、平成17年5月ころには家族と一緒にy国旅行に行くなどしていた。 
ホ 請求人の役員報酬及びその振込口座について
(イ) 平成3年から平成17年までの間、F社及びH社から受け取った役員報酬の額は、別表5の「請求人」欄のとおりである。
(ロ) 平成10年1月以降、請求人のF社に係る役員報酬は、u銀行x2支店の請求人名義の普通預金(口座番号○○○○)へ振り込まれている(当該預金口座を、以下「本件請求人預金口座」という。)。
 本件請求人預金口座の平成10年1月から平成13年12月までの主な入出金状況(10,000円以上のみ。)は、別表6の「本件請求人預金口座の入出金状況」のとおりであり、そのうち高額の入出金については、以下のとおりである。
A 平成11年3月23日に、149,925,000円と49,975,000円の振替入金があり、同日に、当該口座から、200,000,000円が、j銀行t支店(現d銀行t支店。以下同じ。)のH社名義の当座預金口座に送金された。
 なお、H社は、当該金員を請求人からの借入金として経理処理した。 
B 平成11年9月28日に、86,223,219円の振替入金があり、同日に、100,000,525円が振替出金されたが、送金先は不明である。
 なお、H社の借入金勘定をみると、平成11年10月8日に、請求人から131,950,000円を借り入れた旨の経理処理をしている。 
ヘ Y部長の振込み手続等について 
(イ) Y部長は、平成7年7月にF社に入社し、平成15年3月末まで総務部長等を務め、同年4月にH社の財務部長に、平成20年3月にM社に転籍し、F社への入社以降、H社やJ社に関する財務面の仕事に従事してきた。
(ロ) Y部長は、請求人がw信用組合x1支店の当時の支店長から請求人名義の普通預金を新たに口座開設してほしいと依頼されたため、本件w信用組合預金口座へXXX,000,000円の振込み手続をした(別紙2の11欄)。
 当該依頼に応じた理由は、個人の預金があれば、資金に余力があるという判断を銀行がするのでH社等の借入れがしやすくなるからであった。
 なお、同様の依頼は、d銀行からもあった。

(3) 判断

イ 平成16年3月19日(別紙2の10欄)の資金の移動について
 上記1の(4)のヲのとおり、別紙2の10欄の資金の移動があり、請求人名義の預金が増加したことについては、当事者間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められるところ、当該資金の移動がCに帰属する資産から生じていること、すなわち、別紙2の10欄の移動資金の原資であるC名義の貸付金が支出された本件退職金預金口座がCに帰属する資産と認められるか否かに争いがあるので(主張(2))、以下、検討する。
(イ) 上記1の(4)のロのとおり、本件退職金預金口座はC名義で開設され、利息を除けば、F社からCに対し支給された本件退職金を唯一の原資としていること、上記1の(4)のイの(ハ)及びハのとおり、別紙2の2及び10欄の各資金の移動時において、請求人はH社の代表取締役であり、CもH社の取締役であったところ、H社は、別紙2の2及び10欄の各資金の移動について、請求人からの借入金と明確に区分したCからの借入金ないしその返済として経理処理していることに加え、本件の全証拠によっても、Cが本件退職金、本件退職金預金口座又は別紙2の2欄の貸付金を、請求人を含む第三者に譲渡したと認めるに足りないことにかんがみると、本件退職金預金口座はCの資産と認められる。
(ロ) これに対し、請求人は、本件退職金預金口座は請求人の資産である旨主張し、その理由として、まず、本件退職金預金口座の通帳及び届出印はH社の事務所内の金庫に保管し、手続等はE及びY部長に任せるなどして、請求人が本件退職金預金口座を管理し、Cがその引き出し及び使途について全く関知していなかったことを挙げ、請求人、Y部長、Eはこれに沿う答述をする。
 しかしながら、上記1の(4)のイの(ハ)、上記(2)のイ及びニのとおり、C、請求人及びEは、別紙2の2及び10欄の資産移動時において、同居して生活している上に、H社の代表取締役ないし取締役を共に行っていたこと、なかでも、Cは、週に2〜3日はH社に出社し、取締役として総務・経理的な仕事を担当し、月額1,500,000円となる報酬を受領していたことが認められる。これらの事情によれば、仮に、本件退職金預金口座の通帳及び届出印の保管や手続状況が請求人の主張どおりであったとしても、本件退職金預金口座がCの管理支配下から全く離れていたとみることはできず、むしろ、本件退職金預金口座の名義人であるCが、息子であるEやH社の従業員として財務部長を務めるY部長に対して本件退職金預金口座の管理を包括的にゆだねていたとみるのが自然であって、請求人が本件退職金預金口座を管理し、Cがその引き出し及び使途について全く関知していなかったとはいえず、これを根拠として当該口座が請求人の資産である旨の主張は採用することができない。
(ハ) また、請求人は、本件退職金預金口座が請求人の資産である旨の主張の理由として、本件退職金預金口座の唯一の原資である本件退職金について、Cとの合意に基づき、Cが請求人の給与が振り込まれている預金口座(上記(2)のホの(ロ)のとおり、本件請求人預金口座と認められる。)の預金を3億円使い込んだことに対する弁済として平成13年3月27日に取得したことをも挙げる。
 そして、請求人は、当審判所に対し、平成11年12月ころ、請求人が、請求人個人の預金残高を知りたくてCに聞いたことがきっかけで同人が本件請求人預金口座の預金を使い込んだことが判明したこと、請求人は通帳を見たわけではなく残高を聞いただけであること、Cの使い込みの理由が高額な買物や宗教法人への多額の寄附であるという説明は、C本人から聞いたものではなく、そうではないかという請求人が推測したものであること、及びCとの弁済の話合いは平成12年初めころであり、そのころ合意したが、口頭での合意で書面はないなどと答述した。 
 しかしながら、Cの使い込み及びCとの合意についての請求人の上記の答述は、本件請求人預金口座の通帳を見ることなく、Cから残高を聞いて請求人が使い込みである旨判断した、使い込みの理由についてもCから聞くことなく、高額の買物や宗教法人への多額の寄附である旨を請求人が推測した、そして、3億円の弁済についての合意を口頭で行い、書面を作成しなかったという内容自体不自然なものである上、使い込みの使途をうかがわせる領収書等の請求人の当該答述と整合する証拠書類も見当たらないから、請求人の当該答述は信用することができない。
 また、上記(2)のホの(ロ)のA及びBのとおり、請求人が使い込みに気付いたとする平成11年12月以前に、本件請求人預金口座において、H社へ送金されるなどして同社に対する請求人の貸付金となったと認められる多額の支出があり、この支出のことを請求人が知らなかったとは考え難いことに加え、別表6のとおり本件請求人預金口座の入出金状況は、請求人が使い込みに気付いたとする平成11年12月の前後で1,000,000円ないし2,000,000円の現金出金がある点で大きな変化があるわけではなく、請求人が同口座からの出金を制止した形跡もないことからすると、請求人は当初からCに対して本件請求人預金口座の管理をゆだね、上記程度の入出金については包括的に容認していたとみるのが相当であり、この点でも請求人の上記答述は信用することができない。
 したがって、別表6のとおり、請求人が使い込みに気付いたとする平成11年12月以前2年間において、毎月1,000,000円から2,000,000円の現金出金があることなどを考慮しても、請求人の給与のうち3億円をCが使い込んだ事実、及び当該使い込みの事実を前提とする上記弁済に係る合意ができたことを認めるに足りず、これらの事実を前提として本件退職金預金口座が請求人の資産である旨の請求人の主張は採用することができない。
(ニ) 以上のことからすると、別紙2の10欄の資金の移動、すなわち、H社が平成16年3月19日に本件d銀行預金口座へのXX,744,187円の振込みを行ったことにより、Cの貸付金XX,997,200円が減少し、それに伴い請求人の預金が同額増加したものと認められ、また、請求人は、同額の増加についてCに対価を支払ったことを主張せず、本件の全証拠をもってしても対価を支払った事実は認められない。
 よって、別紙2の10欄の資金の移動は、請求人が対価を支払わないで利益を受けた場合に該当し、このことを上記(1)に照らすと、平成16年3月19日に、請求人は、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額XX,997,200円を当時H社の取締役であり、同時に同社の借入金の返済先であるCからの贈与により取得したものとみなすことが相当である。
ロ 平成16年3月29日(別紙2の11及び12欄)の資金の移動について
 上記1の(4)のワ及びカのとおり、別紙2の11及び12欄の資金の移動があり、請求人名義の預金の増加ないし貸付金が発生したことについては、当事者間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められるところ、当該各資産の移動がCに帰属する資産から生じていること、すなわち、これらの移動が生じている本件預金口座がCに帰属する資産と認められるか否かに争いがあるため(主張(3))、以下、検討する。
(イ) 上記イの(イ)のとおり、本件退職金預金口座及びそれから支出された別紙2の2欄の貸付金はCの資産であること、上記1の(4)のイの(ハ)及び(ニ)のとおり、別紙2の3ないし12欄の資金の移動がなされている間、請求人は、H社及びJ社の代表取締役であり、CもH社の取締役であったところ、H社及びJ社は、別紙2の3ないし10欄の資金の移動について、請求人からの借入金と明確に区分したCからの借入金又はCへの仮払金として経理処理していること、上記1の(4)のリ及び上記(2)のロの(イ)のとおり、本件預金口座は、u銀行渉外担当者に対し、本件確認書類を提示した上でC名義で開設され、利息を除けば、C名義の資産である別紙2の2欄の貸付金から別紙2の4ないし7欄の資金の移動を経て、別紙2の8欄の資金の移動に係る金員が唯一の原資であること、上記1の(4)のレ及び上記(2)のハのとおり、Cの死亡時点における本件預金口座の残高は、本件遺産分割協議書において、相続財産として記載されており、共同相続人らは、本件預金口座がCの資産であることを認識していたものと認められることからすれば、本件預金口座はいずれもCに帰属する資産であると認められる。 
(ロ) これに対し、請求人は、本件預金口座は請求人の資産である旨主張し、その理由として、本件預金口座の通帳及び届出印はH社の事務所内の金庫に保管し、手続等はE及びY部長に任せるなどして、請求人が本件預金口座を管理し、Cがその引き出し及び使途について全く関知していなかったことを挙げ、請求人、Y部長、Eはこれに沿う答述をする。
 しかしながら、上記イの(ロ)のとおり、C、請求人及びEの生活、H社における勤務状況に加え、上記(2)のロの(イ)のとおり、本件預金口座の開設に当たっては、Y部長が手続をしたものではあるが、Cの健康保険証ないしその写しによる本人確認手続がされており、当該本人確認手続には、Cの協力が必要である上、上記Cの勤務状況によれば、Cが新たな預金設定の必要性について説明を受けることなく協力することは不自然であることにかんがみると、本件預金口座についても、その名義人であるCがEやY部長に対して本件預金口座の管理等を包括的にゆだねていたとみるのが自然であって、請求人が本件預金口座を管理し、Cは預金の引き出し及び使途について全く関知していなかったと認めることはできず、これを根拠として当該口座が請求人の資産である旨の主張は採用することができない。
(ハ) また、請求人は、相続税の申告書に本件預金口座の残高を含めているのは、請求人が、当該口座が請求人の資産である旨を相続税の申告書の件を依頼した税理士に説明していなかったためである旨主張するが、当該主張は、当該申告書の存在は本件預金口座がCに帰属する理由にならない旨を主張しているものと解される。
 しかしながら、上記(2)のハの(イ)とおり、本件預金口座の残高については、本件遺産分割で請求人が取得することとされたものであるところ、さらに、上記(2)のハの(ロ)の事実によれば、請求人自身が本件預金口座の残高をCに係る相続財産と認識した上で、本件遺産分割協議書の内容の原案を作成し、当該原案に基づき、当該残高を本件遺産分割により分割したものと認められ、相続税の申告書は、請求人の当該認識が反映されたものとみるのが相当であって、請求人の当該主張は採用することができない。
(ニ) 以上のことからすると、別表2の11欄の資金の移動、すなわち、Cの資産である本件預金口座から平成16年3月29日にXXX,000,000円が出金され、請求人の本件w信用組合預金口座へ入金されたことにより、Cの預金がXXX,000,000円減少し、それに伴い請求人の預金が同額増加したものと認められ、また、別表2の12欄の資金の移動、すなわち、本件預金口座から平成16年3月29日XX,500,000円が出金され、そのころ、同金員が請求人からNへの貸付金に充てられたことにより、Cの預金がXX,500,000円減少し、同額の請求人の貸付金が発生したものと認められ、これらのいずれの資産の移動についても、請求人はCに対価を支払ったことを主張せず、本件の全証拠をもってしても請求人が対価を支払った事実は認められない。
 よって、別紙2の1及び12欄の各資金の移動については、いずれも、請求人は、対価を支払わないで利益を受けた場合に該当するので、このことを上記(1)に照らすと、請求人は、平成16年3月29日に、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額XXX,000,000円及びXX,500,000円を本件預金口座の名義人であり、かつ、実質的にも所有者であるCからそれぞれ贈与により取得したものとみなすことが相当である。

(4) 請求人の主張について

イ 相続税法第9条について(主張(1)について)
 請求人は、相続税法第9条は著しく低い価額による譲渡を想定しており、同条の適用に当たっては極めて限定的に解釈すべきであり、本件は、同条を適用する場合に該当しない旨主張する。
 しかしながら、相続税法は、別紙1の5のとおり、同法第7条に「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」について規定し、同条とは別に規定された同法第9条は、別紙1の6のとおり、特に同法第5条から第8条までに該当する場合を除く旨規定していることから、同法第9条は著しく低い価額による譲渡を想定しているとはいえず、また、上記(1)のとおり、同条の趣旨が、贈与契約以外の種々の取引ないし契約形態を採っていたとしても、実質的に対価を支払わないで経済的利益を受けた場合においては、贈与契約の有無にかかわらず贈与により取得したものとみなし、これを課税財産として贈与税を課税することとしたものであることからすれば、同条の適用に当たっては極めて限定的に解釈すべきであると解することはできず、請求人の主張は採用することができない。
ロ 不当利得について(主張(4)について)
 請求人は、本件退職金をもってCから弁済を受けた旨の主張が認められないとしても、本件退職金預金口座及び本件預金口座はすべて請求人が管理し、Cは預金の引き出し及び使途について全く関知しておらず、別紙2の10ないし12欄の資金の移動は、請求人がCの預金を流用したものであって、不当利得となる旨主張する。
(イ) しかしながら、上記(3)のイの(ロ)及び同ロの(ロ)のとおり、本件退職金預金口座及び本件預金口座については、CがEないしY部長にその管理や手続を包括的にゆだねていたものと認められ、当該各口座をすべて請求人が管理し、Cは預金の引き出し及び使途について全く関知していなかったと認めることはできない。
(ロ) さらに、別紙2の10及び11欄の資金の移動については、上記(2)のヘのとおり、請求人がd銀行及びw信用組合の依頼を受け、H社等の請求人関係会社の融資を容易にするための資金の移動と認められ、また、別紙2の12欄の資金の移動は、上記1の(4)のイの(ホ)のとおり、当該移動当時、M社という請求人の関係会社の役員であったNに対する貸付けであり、これらの資産の移動があった平成16年6月時点でもH社の役員であったCが、当該資金の移動に全く関知しなかったとするのはむしろ不自然であり、少なくともCはこれらの資金の移動を知り得る立場にあったものと認められるところ、本件の全証拠によっても、Cがこれらに異議を唱えたり返還を求めた事実を認めることができないことにもかんがみると、別紙2の10ないし12欄の資金の移動は、Cの意思に明確に反した不法な資金の移動とまではいえず、不当利得に当たるとは認められないから、請求人の主張には理由がない。

(5) 本件決定処分について

 以上のとおり、請求人は、平成16年3月19日に、XX,997,200円に相当する金額、平成16年3月29日に、XXX,000,000円及びXX,500,000円に相当する金額を贈与により取得したとみなされるから、平成16年中の贈与により取得した財産の価額の合計額はXXX,497,200円となり、本件決定処分の額と同額となる。
 そうすると、請求人の平成16年分の贈与税の課税価格及び納付すべき税額は、いずれも本件決定処分に係る課税価格及び納付すべき税額と同額であるから、本件決定処分は適法である。

(6) 本件賦課決定処分について

 上記のとおり、本件決定処分は適法であり、期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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