(平22.3.2、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、消費税法別表第三(以下「法別表第三」という。)に掲げられた法人である審査請求人(以下「請求人」という。)が○○士の資格登録のための講習に係る役務の提供は非課税取引に該当するとして消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告をしたところ、原処分庁が、○○法の改正に伴い請求人は当該講習に係る指定講習機関から登録講習機関に変わったことから、請求人の行う当該講習に係る役務の提供は非課税取引に該当しないなどとして消費税等の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、原処分庁の法令解釈に誤りがあるとして同処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成17年4月1日から平成18年3月31日まで及び平成18年4月1日から平成19年3月31日までの各課税期間(以下「本件各課税期間」という。)の消費税等について、別表の「確定申告」欄のとおり記載し、法定申告期限までに申告した。
ロ これに対し、原処分庁は、平成20年12月25日付で、別表の「更正処分等」欄のとおり、本件各課税期間の消費税等の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした(以下、消費税等の各更正処分を「本件各更正処分」、過少申告加算税の各賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」といい、これらを併せて「本件各更正処分等」という。)。
ハ 請求人は、本件各更正処分等のうち、請求人の行う○○士の資格登録のための講習に係る役務の提供が非課税取引に該当しないとされた部分を不服として、平成21年2月25日付で異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月24日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成21年5月22日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 消費税法関係
(イ) 消費税法(平成20年法律第23号による改正前のもの。以下同じ。)第6条《非課税》第1項は、国内において行われる資産の譲渡等のうち、消費税法別表第一(以下「法別表第一」という。)に掲げるものには、消費税を課さない旨規定している。
(ロ) 消費税法第6条第1項を受けて、法別表第一第5号は、同号イでは、国、地方公共団体、法別表第三に掲げる法人その他法令に基づき国若しくは地方公共団体の委託若しくは指定を受けた者が、法令に基づき行う事務に係る役務の提供で、その手数料、特許料、申立料その他の料金の徴収が法令に基づくもので一定のものを、同号ロでは、同号イに類するものとして政令で定めるものを、非課税となる役務の提供として掲げている。
(ハ) 法別表第一第5号ロを受けて、消費税法施行令(以下「施行令」という。)第12条第2項は、同項第1号では、国、地方公共団体、法別表第三に掲げる法人その他法令に基づき国又は地方公共団体の委託又は指定を受けた者が、法令に基づき行う事務に係る役務の提供のうち一定のもので、その手数料その他の料金の徴収が法令に基づくものを掲げ、同項第2号では、国、地方公共団体、法別表第三に掲げる法人その他法令に基づき国又は地方公共団体の委託又は指定を受けた者が法令に基づき行う事務に係る役務の提供のうち一定のものを掲げ、同号イ(1)では、登録、認定、確認、指定、検査、検定、試験、審査及び講習のうち、法令において、弁護士その他の法令に基づく資格を取得し、若しくは維持し、又は当該資格に係る業務若しくは行為を行うにつき、当該登録等に係る役務の提供を受けることが要件とされているものに該当するものを掲げている。
ロ ○○法関係(平成○年法律第○号による改正の前後)
(イ) 改正後
A ○○法(平成○年法律第○号による改正後のもの。以下「新法」という。)第○条《○○士の資格》は、○○士試験に合格し、かつ、○○大臣又は○○局長の登録を受けた者が行う講習を修了した者その他これと同等以上の能力を有すると認められる者で、○○省令で定めるものは、○○士となる資格を有する旨規定している。
B 新法第○条第○項は、同法第○条の規定による登録は、○○省令で定めるところにより、講習を行おうとする者の申請により行う旨規定している。
C 新法第○条第○項は、○○大臣又は○○局長は、前項の規定により登録を申請した者が同項各号に掲げる要件のすべてに適合しているときは、登録をしなければならない旨規定している。
(ロ) 改正前
A ○○法(平成○年法律第○号による改正前のもの。以下「旧法」という。)第○条は、○○士試験に合格し、かつ、○○局長又は○○大臣若しくは○○局長の指定する者が行う講習を修了した者その他これと同等以上の能力を有すると認められる者で、○○省令で定めるものは、○○士となる資格を有する旨規定している。
B 旧法第○条第○項は、同法第○条の規定による指定は、○○省令で定めるところにより、講習を行おうとする者の申請により行う旨規定している。
(ハ) ○○の整備に関する法律(平成○年法律第○号、以下「整備法」という。)附則第○条《○○法の一部改正に伴う経過措置》第○項は、旧法第○条の規定による指定を受けている者は、新法第○条の規定による登録を受けているものとみなす旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、法別表第三に掲げられた民法(平成18年法律第50号による改正前のもの。)第34条《公益法人の設立》の規定により設立された社団法人である。
ロ 請求人は、P県p市○−○に所在する講習所で、○○士の資格登録のための講習(以下「資格講習」という。)に係る役務の提供(以下「本件役務の提供」という。)を行い、その受講者から料金を受領している。
ハ 請求人は、旧法第○条の規定に基づき○○局長に対して申請を行い、同局長から昭和○年○月○日付で指定講習機関(旧法第○条の規定による指定を受けて講習を行う者をいう。以下同じ。)として指定された。
ニ その後、○○法の改正が行われ、資格講習を行う者が、旧法において指定講習機関とされていたものが、新法においては登録講習機関(新法第○条第○項の登録を受けて講習を行う者をいう。以下同じ。)とされ、請求人は、整備法附則第○条第○項に基づき、平成○年○月○日付で○○局長から登録講習機関としての登録の通知を受けた。
ホ 請求人が、旧法下において、指定講習機関として行っていた資格講習に係る役務の提供は、施行令第12条第2項第2号イ(1)の規定により非課税であった。

(5) 争点

 本件の争点は、本件役務の提供が、非課税取引に該当するか否かである。

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2 主張

(1) 原処分庁

 ○○法の改正により請求人は資格講習に係る指定講習機関から登録講習機関に変わったことから、以下の理由により本件役務の提供は非課税取引に該当しない。
 施行令第12条第2項第2号に規定する「法令に基づき行う事務」とは、法別表第三に掲げる法人あるいは法令に基づき国又は地方公共団体の委託又は指定を受けた者が、その事務を行うことを法令において具体的に規定されているものを指すと解すべきであるところ、新法第○条は、資格講習を行う者について、○○大臣若しくは○○局長の登録を受けた者が行う講習と規定するにとどまり、法別表第三に掲げる法人あるいは法令に基づき国又は地方公共団体の委託又は指定を受けた者が当該資格講習を行う旨具体的に規定されていない。したがって、本件役務の提供は「法別表第三に掲げる法人が法令に基づき行う事務」、あるいは「法令に基づき国又は地方公共団体の委託又は指定を受けた者が法令に基づき行う事務」に該当しない。

(2) 請求人

 以下の理由から本件役務の提供は非課税取引に該当する。
イ 請求人は、平成○年○月○日以前において、「法別表第三に掲げる法人」あるいは「その他法令に基づき国又は地方公共団体の委託又は指定を受けた者」であって、請求人が行う資格講習は、法令に基づき行った講習であったため、非課税であった。また、請求人は、平成○年○月○日より指定講習機関から登録講習機関に変更となった後も「法別表第三に掲げる法人」として「法令に基づき」行う講習を行っているのであるから、非課税である。
ロ 新法第○条第○項には登録講習機関は講習の実施に関する計画を作成することが規定されているが、当該計画は、同法施行規則第○条第○項により業務規程に記載されることが要請されているところ、業務規程は、○○大臣告示である○○士規程に基づいて作成されなければならず、さらに、○○士規程には、講習又は研修の科目及び時間や講習の実施方法や料金に関する事項についての記載がある。よって、これらの規程には講習の実施方法全般が定められており、この講習はまさに法令に基づき行われていることは明らかである。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 消費税法第6条第1項は、国内において行われる資産の譲渡等のうち、法別表第一に掲げるものには、消費税を課さない旨規定している。これは、消費税が課税される取引は、原則として国内におけるすべての財貨・サービスの販売・提供等であるが、これらの財貨・サービスの中には消費に対して負担を求める税の性格上、本来課税の対象とすることになじまないものや社会政策上課税することが適当ではないものがあり、それらについては、消費税を課さないこととされているものと解される。
 法別表第一第5号には、非課税とされる役務の提供が掲げられ、同号ロが規定する「同号イに掲げる役務の提供に類するもの」として、施行令第12条第2項は、その第1号で、「国、地方公共団体、法別表第三に掲げる法人その他法令に基づき国又は地方公共団体の委託又は指定を受けた者が、法令に基づき行う次に掲げる事務に係る役務の提供で、その手数料その他の料金の徴収が法令に基づくもの」を掲げ、同号イにおいて旅券の発給、ロにおいて、裁定、裁決、判定及び決定、ハにおいて、公文書に類するものの交付、更新、訂正、閲覧及び謄写、ニにおいて、異議申立て、審査請求その他これらに類するものの処理が掲げられている。これらの事務は、国等しか行い得ないものとされている事務の性質を有しているため、法令により手数料が強制的に徴収されるものである場合に、非課税となると解される。
 一方、施行令第12条第2項第2号は、同じく法別表第一第5号ロが規定する「同号イに掲げる役務の提供に類するもの」として、「国、地方公共団体、法別表第三に掲げる法人その他法令に基づき国又は地方公共団体の委託又は指定を受けた者が法令に基づき行う次に掲げる事務に係る役務の提供」を掲げ、同号イにおいて、登録、認定、確認、指定、検査、検定、試験、審査及び講習のうち一定のものが掲げられ、その(1)で「法令において、弁護士その他の法令に基づく資格を取得し、若しくは維持し、又は当該資格に係る業務若しくは行為を行うにつき、当該登録等に係る役務の提供を受けることが要件とされているもの」が掲げられている。これは、その事務の手数料の徴収が法令に基づかないものであっても、徴収が法令に基づくものと同様に、非課税となる当該役務の提供が、「国、地方公共団体、法別表第三に掲げる法人その他法令に基づき国又は地方公共団体の委託又は指定を受けた者が法令に基づき行う」「事務」に関するものであることを要件としたもので、当該規定は、「国、地方公共団体、法別表第三に掲げる法人その他法令に基づき国又は地方公共団体の委託又は指定を受けた者が法令に基づき行う次に掲げる事務に係る役務の提供」であることを一体のものとして、理解すべきである。
 よって、施行令第12条第2項第2号に掲げる事務は、法令において、当該事務を「国、地方公共団体、法別表第三に掲げる法人その他法令に基づき国又は地方公共団体の委託又は指定を受けた者」が行う旨の規定がされている場合に初めて消費税法上当該規定の適用を受け、これに係る役務の提供が非課税取引に該当すると解するのが相当である。
ロ 請求人は、法別表第三に掲げる法人(請求人)が、本件役務の提供を行っており、また、資格講習の実施方法全般が法令において規定されていることから、本件役務の提供は法令に基づき行われており非課税取引に該当する旨主張するところ、この主張は、請求人が「法別表第三に掲げる法人である」こと、本件役務の提供が「法令に基づき行う」ことの要件をいずれも充足するとして、非課税取引に該当すると主張するものにほかならない。
 しかしながら、施行令第12条第2項第2号は、本来ならば課税対象となる資産の譲渡等のうち、当該規定に掲げる事務に係る「役務の提供」を非課税取引とする規定であり、「法令に基づき行う」とは、第2号に掲げる事務を単に第2号に掲げる主体が行えばよいというものではなく、上記イのとおり、第2号に掲げる事務を第2号に掲げる主体が行うことが法令に規定されて初めて法令に基づき行うといえるのであって、主体と事務の性質に分断して議論することは相当ではない。当該規定は、「国、地方公共団体、法別表第三に掲げる法人その他法令に基づき国又は地方公共団体の委託又は指定を受けた者が法令に基づき行う次に掲げる事務に係る役務の提供」であることが一体の要件であり、法令において、施行令第12条第2項第2号に掲げる事務を同号に規定する者が行う旨の規定がされている場合において初めて非課税に該当すると解されることは上記イのとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(2) 本件役務の提供への当てはめ

 新法第○条は、○○士試験に合格し、かつ、○○大臣又は○○局長の登録を受けた者が行う講習を修了した者その他これと同等以上の能力を有すると認められる者で、○○省令で定めるものは、○○士となる資格を有する旨規定し、○○士の資格を得るには講習を修了することを要件としている。また、新法第○条は、同法第○条の規定による講習を行う者の登録は、講習を行おうとする者の申請により行い、○○大臣又は○○局長は、登録を申請した者が同条第○項の要件にすべて適合している場合には登録しなければならない旨規定しており、当該講習を行う者について、「国、地方公共団体、法別表第三に掲げる法人その他法令に基づき国又は地方公共団体の委託又は指定を受けた者」に限る旨の規定等は存在しない。
 したがって、登録講習機関である請求人の行う本件役務の提供は、施行令第12条第2項第2号に規定する「国、地方公共団体、法別表第三に掲げる法人その他法令に基づき国又は地方公共団体の委託又は指定を受けた者が法令に基づき行う次に掲げる事務に係る役務の提供」に該当せず、請求人の行う本件役務の提供は非課税取引には該当しない。

(3) 本件各更正処分について

 上記(2)のとおり、本件役務の提供は非課税取引には該当せず、本件各課税期間の消費税等の納付すべき税額を計算すると、本件各更正処分の金額と同額となるので、本件各更正処分はいずれも適法である。

(4) 本件各賦課決定処分について

 本件各更正処分は上記(3)のとおり適法であり、これにより納付すべき税額の基礎となった事実が、本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分は適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由が認められない。

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