(平22.6.10、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が審査請求人(以下「請求人」という。)の実父である納税者A(以下「本件滞納者」という。)の滞納国税を徴収するために、本件滞納者名義の有価証券の差押処分を行ったのに対し、請求人が当該有価証券は請求人の財産であるとして同処分の全部の取消しを求めた事案であり、争点は、請求人が後記本件株式についての権利を有しているか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成18年8月31日付で、本件滞納者の滞納国税について、国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、B税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ロ 原処分庁は、平成21年5月13日付で、本件滞納者が納付すべき別表1記載の滞納国税を徴収するため、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第56条《差押の手続及び効力発生時期等》の規定に基づき、別表2記載のC社発行の株券(以下、この株券を「本件株券」といい、本件株券に係る株式を「本件株式」という。)を原処分庁所属の徴収職員が占有して差し押さえた(以下、この差押処分を「本件差押処分」という。)。
ハ 請求人は、本件差押処分に不服があるとして、平成21年7月13日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月14日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の本件差押処分に不服があるとして、平成21年10月16日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)第205条《株式の譲渡方法、株券占有者の資格》第1項は、株式を譲渡するには株券を交付することを要する旨、同条第2項は、株券の占有者は適法な所持人と推定する旨規定している。
ロ 会社法第128条《株券発行会社の株式の譲渡》第1項本文は、株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力は生じない旨規定している。
ハ 会社法第131条《権利の推定等》第1項は、株券の占有者は、当該株券に係る株式についての権利を適法に有するものと推定する旨、同条第2項は、株券の交付を受けた者は、悪意又は重大な過失がない限り、当該株券に係る株式についての権利を取得する旨規定している。
ニ 会社法第228条《株券の無効》第1項は、株券喪失登録がされた株券は、株券喪失登録日の翌日から起算して1年を経過した日に無効となる旨、同条第2項は、前項の規定により株券が無効となった場合には、株券発行会社は、当該株券についての株券喪失登録者に対し、株券を再発行しなければならない旨規定している。
ホ 国税通則法第43条第3項は、国税局長は、必要があると認めるときは、その管轄区域内の地域を所轄する税務署長からその徴収する国税について徴収の引継ぎを受けることができる旨規定している。
ヘ 徴収法第56条第1項は、動産又は有価証券の差押えは、徴収職員がその財産を占有して行う旨、同条第2項は、前項の差押えの効力は、徴収職員がその財産を占有した時に生ずる旨規定している。

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2 主張

(1) 原処分庁

 本件株券は、本件滞納者が占有していたのであるから、会社法第131条の規定により、本件滞納者が本件株式についての権利を有していると推定され、したがって、本件株券が本件滞納者に帰属するとして、徴収法第56条第1項の規定に基づいて 行った本件差押処分は、適法である。
 請求人は、本件株式に係る株券を有していた請求人の祖母Dから当該株券の贈与を受け、占有していた旨主張するが、Dは、平成12年10月6日にF簡易裁判所から当該株券の除権判決を得てC社から本件株式に係る株券の再発行を受けている(以下、この再発行された株券を「本件再発行株券」という。)ところ、請求人は、当該除権判決に係る公示催告期日までに、Dから贈与を受け占有していたと主張する上記株券の呈示及び権利の主張を全く行っていない。また、Dは、C社に対し、本件株式についての本件滞納者への譲渡承認請求を行い、平成12年10月12日付で譲渡承認を受けており、本件再発行株券の名義が本件滞納者に変更されている。さらに、その後、本件滞納者が本件再発行株券を喪失したとして、本件再発行株券がC社の株券喪失登録簿に登録されたことについて、請求人は、本件滞納者が本件再発行株券を喪失した事実は存在しない旨主張するが、請求人は株券喪失登録抹消申請をしていない。したがって、請求人の主張には理由がない。

(2) 請求人

 請求人は、請求人が平成5年に大学を卒業した後に、Dから本件株式の贈与を受け、本件株式に係る株券を占有していた。当該株券は、除権判決で紙くずになり、その後、本件再発行株券が発行され、本件株式についての本件滞納者への譲渡承認請求と譲渡承認により、C社の株主名簿に本件滞納者の氏名が記載されるとともに、本件再発行株券が本件滞納者名義に書き換えられているが、当該除権判決は、本件滞納者が、Dの意思に反し、除権判決を得て本件株式に係る株券を再発行させ、再発行された株券の名義を本件滞納者とする目的で、その手続を独断で行ったものであるから、当該除権判決によって真の所有者である請求人の権利が喪失することはなく、株式譲渡承認請求もDの本意によるものではないから、当該譲渡承認請求と譲渡承認によって株主名簿の記載が変更されたとしても、真実の株券所有者の権利得喪には関係がない。なお、請求人は、公示催告がされたこと自体知らなかったのであるから、催告に応じることもできなかったのである。
 また、請求人は、本件再発行株券も、平成14年から平成17年ころに、本件滞納者のアパートから現物を入手し、占有していた。そして、C社の総務部長G(以下「G部長」という。)に、Dの直筆押印文書と本件再発行株券を呈示し、当該株券の名義を請求人名義に書き換えるよう依頼していた。
 さらに、本件株券は、株券喪失登録簿に本件再発行株券が記載された上で再発行されたものであるが、本件滞納者が本件再発行株券を喪失したという事実は存在せず、本件滞納者は請求人が本件再発行株券の真の所有者であり、請求人が本件再発行株券を占有していたことを知っていたのであるから、株券を所持していない者の申立てに基づく株券喪失登録によって請求人がその所有権を喪失することはない。
 なお、請求人は本件再発行株券が株券喪失登録簿に登録されたこと自体知らなかったのであるから、株券喪失登録抹消申請をすることもできなかったのである。
 そうすると、請求人の本件株式に係る権利が否定されるものではなく、請求人が本件株式についての真の権利者である。

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3 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば次の事実が認められる。
イ 本件株式は、元々Dが有していたものであり、同人は、昭和44年5月1日に初めてC社への増資払込みにより同社の株式185株を取得した後、更に増資払込みあるいは他の者からの譲受けにより、昭和57年5月1日には、同社の株式442株を有していた(C社保存の株主名簿)。
ロ Dは、火災により本件株式に係る株券のすべてを焼失したので、その再発行手続に必要であるとして、平成3年4月ころ、C社から当該株券の番号明細の交付を受けた(G部長の当審判所に対する答述)。
ハ Dは、火災により焼失したとする前記ロの株券につき、平成12年10月6日にF簡易裁判所から除権判決を受けた(C社保存の判決謄本の写し)。
ニ C社は、前記ハの除権判決があったことを受けて、Dの申立てに基づき、平成12年10月19日に同人に対し、本件再発行株券を発行した(C社保存の平成12年10月12日の取締役会議事録及び株主名簿)。
ホ また、C社は、前記ニの本件再発行株券の発行の際に、Dから本件滞納者へ本件株式を譲渡したいとの申出を受けた。同社は、定款において、同社の株式を譲渡するには取締役会の承認を受けなければならない旨定めていたことから、Dが本件滞納者に本件株式を譲渡することについて、取締役会の承認を受けた上で、同社の株主名簿に、本件滞納者が平成12年10月21日にDから本件株式を取得した旨記載するとともに、本件滞納者に本件再発行株券を交付した(C社保存の平成12年10月12日の取締役会議事録及び株主名簿)。
ヘ Dは、平成17年7月○日に死亡した(原処分関係資料)。
ト B税務署所属の徴収職員は、調査により、本件滞納者がC社の株主であり、配当金の支払を受けていたこと、また、C社の株券についてはすべて発行済みであることを把握した(原処分関係資料)。
チ B税務署所属の徴収職員は、平成18年4月21日に、本件滞納者の居宅(P市Q町○-○)の捜索を行ったが、差押え可能な財産は発見できなかった(原処分関係資料)。
リ 本件滞納者は、本件再発行株券のすべてを亡失したとして、C社に対し、平成20年4月23日付で株券喪失登録の申請を行った(C社保存の株券喪失登録申請書)。
ヌ C社は、前記リの申請に基づき、喪失登録日を平成20年4月23日として株券喪失登録簿に本件再発行株券を記載するとともに、株主名簿に同日付で「株券喪失登録(全株)」と記載した(C社保存の株券喪失登録簿及び株主名簿)。
ル 原処分庁は、平成20年5月7日付で、平成21年4月23日を履行期限として本件滞納者がC社に対して有する本件株式に係る株券の再発行請求権を差し押さえた(原処分関係資料)。
ヲ C社は、前記リの申請の日から1年を経過した平成21年4月24日までに株券喪失登録者である本件滞納者又は株券喪失登録がされた本件再発行株券を所持する者からの株券喪失登録抹消申請がなかったことから、会社法第228条第1項及び第2項の規定に基づき、本件滞納者が喪失したとする本件再発行株券を無効とし、平成21年4月29日に、株券喪失登録者である本件滞納者名義の本件株券を発行し、本件滞納者のために保管していた(G部長の原処分庁に対する申述)。
ワ 原処分庁は、徴収法第67条《差し押えた債権の取立》第2項の規定に基づき、平成21年5月13日に、C社から本件株券の引渡しを受けた上で、原処分庁所属の徴収職員が占有して本件株券を差し押さえた(原処分関係資料)。

(2) 本件再発行株券は、前記(1)のホのとおり、Dが本件株式を本件滞納者に譲渡することについてのC社の取締役会の承認を経て、本件滞納者に交付されたものであり、同社の株主名簿には、Dからの譲渡により、本件滞納者が本件株式の株主となった旨記載されている。そして、前記(1)のリのとおり、本件滞納者は、本件再発行株券のすべてを亡失したとして、C社に対し、平成20年4月23日付で株券喪失登録の申請を行い、同社は、同ヲのとおり、申請の日から1年を経過した平成21年4月24日までに株券喪失登録者である本件滞納者又は本件再発行株券を所持する者からの株券喪失登録抹消申請がなかったことから、本件滞納者に対して本件株券を発行し、本件滞納者のために保管していたところ、原処分庁所属の徴収職員は、同ル及び同ワのとおり、本件滞納者がC社に対して有する本件株式に係る株券の再発行請求権を差し押さえた上で、C社が本件滞納者に対し発行し、本件滞納者に交付すべきものとして保管していた本件株券を占有して差し押さえたものである。
 そうすると、旧商法第205条第2項の規定により、本件再発行株券が本件滞納者に交付された時点で、本件滞納者が本件再発行株券に係る株式についての権利を有すると推定され、また、会社法第131条第1項の規定により、本件株式についての権利は本件滞納者に帰属すると推定されることから、この推定を覆す事実が認められない限り、本件差押処分に本件株式についての権利の帰属を誤った違法があるということはできないこととなる。

(3) この点に関し、請求人は、前記2の(2)のとおり、請求人が平成5年に大学を卒業した後に、請求人がDから本件株式に係る株券について贈与を受け、当該株券を占有していたことから、請求人が本件株式の真の権利者である旨主張し、Dが請求人に当該株券を平成7年ころに贈与し引き渡した旨記載されている平成15年1月10日付と思われる文書、すなわち、請求人がDの直筆押印文書であると主張する文書が存在する。
 しかしながら、前記(1)のロのとおり、Dは、本件株式に係る株券を火災により焼失したとして、平成3年4月ころに、C社から当該株券の番号明細の交付を受けているのであるから、平成7年ころに当該株券を請求人に引き渡すことはできなかったと考えられ、また、前記(1)のハのとおり、Dは、当該株券について、平成12年10月6日にF簡易裁判所から除権判決を受けており、その後、前記(1)のホのとおり、Dは、C社に対し本件滞納者に本件株式を譲渡することの承認を求めているところ、Dが本件株式を請求人に贈与していたのであれば、同人が上記のような行動を取るとは考え難い。
 もっとも、この点については、DがC社から本件株式に係る株券の番号明細の交付を受けた後に、当該株券が発見されたので、当該株券を請求人に引き渡した可能性がないとはいえず、また、請求人が主張するように、本件滞納者が、Dの意思に反し、除権判決を得て本件株式に係る株券を再発行させ、再発行された株券の名義を本件滞納者とする目的で、その手続を独断で行った可能性がないわけではないが、これらの事実を認めるべき証拠はなく、請求人とDとの間の本件株式に係る贈与契約書及び請求人がDから贈与を受けるとともに引渡しを受けたと主張する株券のいずれも請求人から呈示されていないこと、このほか、請求人が本件株式についての権利を有していたことをうかがわせる証拠の提出もされていないこと、また、請求人がDから本件株式の贈与を受けたと主張する時期から長期間本件株式の株主としての行動を取ったことがうかがわれないことからすれば、請求人がDの直筆押印文書であると主張する上記の文書が存在することのみをもって、請求人が本件株式の贈与を受けたと認定することは困難であるといわざるを得ない。
 また、請求人は、G部長に請求人がDの直筆押印文書であると主張する上記の文書と本件再発行株券を呈示して、当該株券の名義を請求人名義に書き換えるよう依頼していたと主張するが、G部長は、その際に、請求人が本件再発行株券を持ってきたかどうか覚えていない旨答述していること、請求人が当審判所に対し本件再発行株券を呈示していないこと及び請求人が本件再発行株券が発行された後に本件株式を適法に取得したことをうかがわせる証拠がないことからすれば、本件再発行株券が発行された後に請求人が本件株式を取得したと認めることもできない。
 一方、本件滞納者が本件株式をDから前記(1)のホのとおり譲り受けたことに不自然な点は認められず、その後、本件滞納者は、同リのとおり、株券喪失登録の申請をしているところ、この点にも不自然な点は見当たらない。このほか、本件滞納者が、本件株式についての権利がDから請求人に移転していることを知りながら、あるいは、重大な過失によってそのことを知らないままに、本件再発行株券の交付を受けたと認めるべき証拠も見当たらない。
 そうすると、本件株式についての権利が本件滞納者に帰属するとの推定を覆す事実は認められないから、請求人が本件株式の真の権利者である旨の請求人の主張には理由がない。

(4) 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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