(平22.11.25裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の取引先の滞納国税を有する法人の滞納国税を徴収するため、当該法人から債務免除を受けたとして、請求人に対し、第二次納税義務の納付告知処分をしたところ、請求人が、当該債務免除を受けた事実はないとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 納付告知処分
 原処分庁は、納税者G社(以下「本件滞納法人」という。)の別表1記載の滞納国税を徴収するため、請求人が本件滞納法人から債務免除を受けたとして、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に基づき、平成21年7月21日付で、請求人に対し、納付すべき限度の額を○○○○円とする第二次納税義務の納付告知処分をした。
ロ 異議申立て及び異議決定
 請求人は、上記イの納付告知処分に不服があるとして、平成21年9月9日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月2日付で、納付すべき限度の額につき○○○○円を超える部分を取り消す旨の異議決定をした(以下、当該異議決定により一部につき取り消された後の納付告知処分を「本件納付告知処分」という。)。
ハ 審査請求
 請求人は、本件納付告知処分に不服があるとして、国税通則法第10条《期間の計算及び期限の特例》第2項の規定により審査請求の期限とみなされる平成22年1月4日に、審査請求をした。

(3) 関係法令

 徴収法第39条は、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免かれた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 請求人及び本件滞納法人の概要
(イ) 請求人
 請求人は、平成16年5月○日に、和洋菓子の製造及び販売等を目的として設立された法人であり、設立時からHが取締役であったが、平成22年5月15日にZが取締役に就任した後、Hは同年6月○日に死亡した。
(ロ) 本件滞納法人
 本件滞納法人は、昭和54年4月○日に、生菓子、団子類の製造及び販売等を目的として設立された法人であり、Jが代表取締役を務めていたが、平成18年12月○日に、K裁判所の破産手続開始の決定がなされ、平成19年8月○日に、破産手続廃止の決定が確定した。
ロ 本件滞納法人所有の不動産に係る担保不動産競売開始決定及び任意売却の申出等
(イ) 担保不動産競売開始決定
 K裁判所は、平成18年2月23日に、Lの申立てに基づき、本件滞納法人所有の別表2記載の各不動産(以下「本件各不動産」といい、本件各不動産のうちの建物を「本件建物」という。)に係る担保不動産競売開始決定(以下「本件競売開始決定」という。)をした。
(ロ) 本件各不動産の任意売却の申出及び任意売却価額の提示等
 Lは、平成18年6月9日に、本件滞納法人から本件各不動産の任意売却及び本件競売開始決定に係る申立ての取下げの申出を受け、その後、本件滞納法人の不動産仲介業者であるM社との交渉を経て、当該申出に応じる条件として、本件各不動産の任意売却価額を70,000,000円(以下「本件任意売却価額」という。)と提示し、任意売却に伴う諸経費として仲介手数料○○○○円、根抵当権抹消の登記費用61,340円及び収入印紙代金45,000円を差し引いた○○○○円の支払を求めた。
ハ 本件各不動産の売買契約の内容及びその締結状況等
 請求人と本件滞納法人は、平成18年7月18日に、不動産売買契約書(以下「本件売買契約書」という。)を取り交わし、本件滞納法人を売主、請求人を買主として、売買代金総額を70,000,000円、媒介業者をM社、媒介業者への報酬は売主及び買主がそれぞれ媒介を依頼したときに締結した媒介契約書に従うとした本件各不動産の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、同日、売買を原因とする所有権移転登記を経由した。
ニ 請求人の本件各不動産の購入資金の借入れ状況及び請求人への入金状況
 請求人は、平成18年7月14日に、N社との間で、借入日を同月18日、借入金額を64,000,000円とする金銭消費貸借契約を締結し、借入金額64,000,000円から事務手数料1,280,000円及び金銭消費貸借契約証書にちょう付した収入印紙代金60,000円が差し引かれた62,660,000円が、同月18日に、P銀行Q支店の請求人代表H名義の普通預金(口座番号○○○○)に入金された。
ホ 本件売買契約の契約関係者間での金銭の授受
 本件売買契約の契約関係者間での金銭の授受は、その締結日である平成18年7月18日に、P銀行Q支店において、次のとおりなされた。
(イ) 本件各不動産の購入資金の出金状況
 Hは、上記ニの購入資金から現金出金した944,721円を、本件各不動産の所有権移転等の登記費用として司法書士法人Rの担当者に支払うとともに、その残額61,715,279円を、Lの口座へ振替により出金した(以下、振替により出金された金員61,715,279円を「本件金員」という。)。
(ロ) Lへの入金状況及びLからの領収証の発行状況
 本件金員及びJが持参した現金8,284,721円(以下「本件現金」という。)のうちの○○○○円、合計○○○○円は、P銀行S支店のL名義の普通預金(口座番号○○○○)に入金された。
 Lは、入金された○○○○円を本件滞納法人の債務の一部弁済として受領し、支払人を本件滞納法人とする領収証を、本件滞納法人に対して交付した。
(ハ) M社への仲介手数料等の支払
 M社の担当者Tらは、本件現金のうちから○○○○円を、本件売買契約に係る仲介手数料のうち請求人分の仲介手数料として、また、本件滞納法人振出しの小切手2枚を、本件滞納法人分の仲介手数料○○○○円並びにM社が立て替えた根抵当権抹消の登記費用61,340円及び収入印紙代金45,000円、合計○○○○円の支払として、それぞれ受領し、平成18年7月18日付で、本件売買契約に係る請求人分及び本件滞納法人分の仲介手数料について、請求人及び本件滞納法人あての各領収証を発行した(以下、M社が請求人分の仲介手数料として受領し領収証を発行した○○○○円を「本件仲介手数料」という。)。
ヘ 本件競売開始決定に係る申立ての取下げ
 Lは、平成18年7月18日に、上記ホの(ロ)の入金を受け、本件競売開始決定に係る申立てを取り下げた。

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2 争点

 請求人は、本件滞納法人から本件仲介手数料に相当する債務の免除を受けたか否か。

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3 主張

原処分庁 請求人
 前記1の(4)のホの(ハ)のとおり、本件仲介手数料については、その領収証が請求人あてに発行されていることからも、請求人により支払われるべきであったにもかかわらず、本件滞納法人が自ら調達した金員により支払われたことにより、請求人に本件仲介手数料に相当する債務が発生したものの、本件滞納法人は、当該債務をその支払と同時に免除した。
 したがって、請求人は、本件滞納法人から本件仲介手数料に相当する債務の免除を受けたことになる。
 本件売買契約は、本件各不動産の競売を回避するため本件滞納法人からの依頼に基づき締結され、請求人が調達できた資金を請求人の負担すべき売買代金及び付随費用のすべてに充てるとする当事者間の合意の下で履行されたものである。
 したがって、本件仲介手数料は、当事者間の合意に基づき、請求人によって負担されたものであるから、請求人が、本件滞納法人から本件仲介手数料に相当する債務の免除を受けた事実はない。

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4 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ J、H及びM社の元従業員Tの各答述により認められる事実
(イ) 請求人と本件滞納法人との事業取引の内容
 本件滞納法人は、請求人が販売するみたらし団子や五平餅の原材料の仕入先であり、Hが個人事業者であったころからの取引を含めると、本件滞納法人が平成18年12月15日に営業を停止するまでの間、20年以上にわたり請求人との取引があった。
(ロ) 本件滞納法人からLに対してされた本件各不動産の任意売却の申出に至るまでの背景
 Jは、本件競売開始決定がされた後、各不動産業者から本件各不動産の買取りの申込みを受けたが、本件滞納法人の事業を継続したいと考え、当該各不動産業者のうち本件各不動産を分譲住宅として売却することを予定していなかったM社に売買の仲介を依頼し、Lに本件各不動産の任意売却による本件競売開始決定に係る申立ての取下げを求めたため、前記1の(4)のロの(ロ)のとおりとなった。
(ハ) 請求人に対する本件各不動産の買取りの依頼と請求人からの承諾
 Jは、本件滞納法人の仕入先や本件滞納法人の工場長であったUに本件各不動産の買取りを依頼したが、いずれも資金手当ができないことを理由に断られたため、Hに本件各不動産の買取りを依頼した。
 Hは、本件各不動産を買い取る必要がなく、また、その資金もなかったので、Jの依頼をいったん断ったが、Jから、このままでは本件各不動産が競売されてしまうので何とか助けてほしい、融資元は探すので本件各不動産を担保にして借りられる分で買ってほしいなどと懇願されたため、古くから付き合いのあったJの依頼を断りきれず、融資が受けられることを条件に本件各不動産の買取りを承諾した。
(ニ) HからM社への本件各不動産の売買に関する仲介の依頼の有無等
 Hは、M社に本件各不動産の売買の仲介や融資元の紹介を依頼したことはなく、また、売買の仲介等についてはすべてJに任せてあったため、JからM社への依頼を事前に知らされたことや請求人とM社との間で媒介契約書を作成したことは、いずれもなかった。
(ホ) JからM社へ依頼された仲介業務の内容
A 本件売買契約書の作成
B 契約当日における仲介業務
C 請求人への融資元の紹介
D 競売の取下げ、根抵当権抹消の承諾及び任意売却の価額を得ることなどのLとの交渉業務
E 本件各不動産の差押えの解除に関するV市役所との交渉業務
(ヘ) 請求人の融資元の確定状況
 M社は、Jに対し、請求人への融資元としてW社を紹介し、同社とJ及びHが交渉を行った結果、前記1の(4)のニのとおり、請求人は、同社の親会社であるN社から融資を受けられることとなった。
(ト) JによるLに対する返済不足額の見積り及びその調達等
 Jは、請求人がN社から借り入れた64,000,000円からその事務手数料、本件各不動産の所有権移転等の登記費用及び仲介手数料を支払うと、Lに対する返済額には約11,000,000円の資金が不足すると見積もった。
 そこで、Jは、上記不足資金を調達するため、本件建物内の製造設備等をUに11,000,000円で売却することとし、平成18年7月18日早朝に、同額がX銀行Y支店の本件滞納法人名義の当座預金(口座番号○○○○)に入金されたので、本件売買契約の締結会場であるP銀行Q支店に向かう前に、本件現金を引き出した。
 なお、当審判所の調査の結果によれば、本件現金を引き出した後の上記当座預金の残金は、平成18年7月20日までに本件売買契約以外の取引の小切手による支払に充てられている。
(チ) 本件現金の使途
 前記1の(4)のホの(ロ)及び(ハ)のとおり、本件現金のうち、○○○○円が本件金員とともにLの本件滞納法人に対する債権の一部弁済に充てられ、○○○○円が本件仲介手数料としてM社に支払われた。
(リ) 本件滞納法人分の仲介手数料等の支払
 本件滞納法人分の仲介手数料○○○○円は、元々現金で支払われる予定であったが、支払当日になってJが小切手による支払を申し出たため、前記1の(4)のホの(ハ)のとおり、M社が立て替えた根抵当権抹消の登記費用61,340円及び収入印紙代金45,000円との合計金額○○○○円が額面1,100,000円及び額面○○○○円の2枚の小切手によりM社へ支払われた。
 そのうち額面1,100,000円の小切手は後日決済されたものの、額面○○○○円の小切手は振出日を1か月後の日付とした先日付小切手であり、本件滞納法人が当該振出日に額面の金額を支払うことができなかったため、現金と新たに振り出された先日付小切手による支払が繰り返された結果、最終的に200,000円が不渡りとなった。
ロ 本件売買契約締結後の経過
 本件滞納法人は、前記1の(4)のヘのとおり、本件売買契約による売却代金をLへの返済に充てることで本件競売開始決定に係る申立ての取下げを得たものの、その後、Lに対する残債務がさらに90,000,000円余あることが判明したため、同イの(ロ)及び上記イの(イ)のとおり、平成18年12月15日に営業を停止し、破産するに至った。
ハ 本件各不動産の売買に関する請求人と本件滞納法人との間の合意事項等
 本件売買契約に関する請求人と本件滞納法人との間の合意を証する書面は、本件売買契約書以外に作成されておらず、売却代金に係る領収証も作成されなかった。
 一方、HとJとの間では、上記イの(ハ)の本件各不動産の買取りの承諾がなされた際に口頭により、1請求人への融資元はJが探し、2請求人は融資を受けた金額のみで本件各不動産を買い取り、3Lへの返済に不足する分は本件滞納法人が調達して支払うこととし、さらに、4本件各不動産の売買代金は、融資金額から売買に関する諸費用を支払った残金とする旨合意されたが、諸費用の内容や金額までを個別に取り決めたものではなく、仲介手数料の発生やその負担についても具体的に考えられてはいなかった。
ニ 本件各不動産の取得に係る請求人の経理処理
 請求人は、平成18年5月1日から平成19年4月30日までの事業年度の法人税の確定申告書の貸借対照表の「土地」勘定に、本件金員の額を本件各不動産の取得価額として計上した。
 なお、上記「土地」勘定に本件金員の額を計上したのは、本件建物が老朽化していることから、その取得価額を零円と評価したことによるものであった。

(2) 請求人が本件滞納法人から債務の免除を受けた事実の有無

 請求人が本件滞納法人から本件仲介手数料に相当する債務の免除を受けたか否かを判断するには、請求人がM社の役務提供に対する本件仲介手数料の支払債務を負い、一方で、本件滞納法人が、当該支払債務を立替払い等により履行したにもかかわらず、請求人に対する本件仲介手数料に相当する額の返還請求権を無償放棄した事実が認められるか否かにより判断するのが相当であるので、これらの点について、前記1の(4)及び上記(1)の各事実に基づき検討した結果は、以下のとおりである。
イ M社による請求人への役務提供及び請求人が本件仲介手数料を支払う必要性に関するHの認識内容等
 上記(1)のイの(ニ)、(ホ)及び同ハのとおり、M社への仲介業務等の依頼はJが行い、Hは、本件各不動産の売買に係る仲介についてJに任せきりで、Jが依頼した内容も知らず、本件売買契約締結時における仲介手数料の負担などについて具体的に取り決めることもなかったのであり、さらに、請求人とM社との間で媒介契約書は取り交わされなかった。
 一方で、前記1の(4)のハ、ニ、ホの(イ)及び(ハ)並びに上記(1)のイの(ホ)及び(ヘ)のとおり、請求人と本件滞納法人は本件売買契約書を取り交わし、本件売買契約において、媒介業者への報酬は売主及び買主がそれぞれ媒介を依頼したときに締結した媒介契約書に従うとされ、現に、M社が本件仲介手数料について請求人あての領収証を作成している。そして、M社へ依頼された仲介業務等には、本件売買契約書の作成、契約当日における仲介業務、請求人への融資元の紹介といった請求人への役務提供が含まれており、現に、HとJがM社から紹介された融資元と交渉を行った結果、請求人は、N社から融資を受けられることとなり、借り入れた資金から本件金員を支払った。
 以上によれば、請求人とM社との間で媒介契約書の作成はされず、仲介手数料についてHが主体的に取り決めることはなかったものの、結果的に、請求人はM社から上記(1)のイの(ホ)のAないしCの仲介業務に係る役務提供を受けており、HはM社に対し当該役務提供を格別拒絶することもなかったのであるから、M社は請求人への役務提供をし、Hはこれを受諾していたと認めるのが相当であり、また、媒介業者への報酬の支払を前提とした定めを有する本件売買契約書を取り交わしたHは、本件仲介手数料の支払の必要性を全く認識していなかったとは認め難いというのが相当である。
ロ 本件滞納法人による請求人が負うべき本件仲介手数料の支払債務の履行の有無
(イ) 本件現金の使途からみた本件滞納法人による請求人が負うべき債務の履行の有無
 上記イによれば、請求人がM社に対して負うべき本件仲介手数料の支払債務は存していたと認めるのが相当であるところ、前記1の(4)のホの(ハ)のとおり、M社の担当者Tらは、本件現金のうちの一部を本件仲介手数料として受領し、また、本件滞納法人振出しの小切手2枚を本件滞納法人分の仲介手数料として受領して、それぞれ領収証を作成していることからすると、一見すれば、本件滞納法人は、請求人が負うべき本件仲介手数料の支払債務を立替払い等により履行したとみることもでき、原処分庁の主張が相当と思料することもできる。
(ロ) 本件売買契約が締結された理由等
 上記(1)のイの(イ)ないし(ハ)及び同ハのとおり、Jは、本件競売開始決定がされた後も、本件滞納法人の事業を継続したいと考えていたため、本件各不動産の買取りを申し込んでいた各不動産業者のうち上記の意向に沿うM社に売買の仲介を依頼し、Lに事業が継続できる状態での本件各不動産の任意売却を申し出たところ、LとM社との交渉を経て、本件任意売却価額の提示を受けたので、本件滞納法人の売上先であり、古くから取引があった請求人に本件各不動産の買取りを懇願し、請求人が融資を受けた金額のみで本件各不動産を買い取るとの合意の下で本件売買契約を締結したものであり、同イの(ト)のとおり、請求人の借入金額や諸費用を考慮すると、Lに対する返済額に約11,000,000円が不足することが分かったものの、不足資金を調達する手段としては、もはやUに本件建物内の製造設備等を売却するほかなく、やむを得ず、当該製造設備等を売却して11,000,000円を調達したものである。
 以上によれば、本件売買契約は、専ら本件滞納法人の事業継続のために締結され、確実に履行される必要があったと認めるのが相当である。
(ハ) 本件売買契約締結時における本件滞納法人の資力の状況
 Jは、上記(1)のイの(ト)ないし(リ)のとおり、資金を調達する手段として、Uに本件建物内の製造設備等を11,000,000円で売却し、本件滞納法人名義の当座預金には、その代金が本件売買契約の締結日の早朝に入金されたので、本件売買契約を締結する際に行うLへの返済やM社への仲介手数料の支払等に充てるため、請求人の借入金だけでは不足する資金を補うために本件現金を引き出して持参し、本件現金からLへの返済に○○○○円を支払い、また、本件仲介手数料をM社の担当者に直接交付して支払ったが、本件滞納法人分の仲介手数料○○○○円は、本件滞納法人が振り出した2枚の小切手で支払っており、本件現金を引き出した後の本件滞納法人名義の当座預金の残金は、本件売買契約以外の取引の小切手による支払に充てられた。
 このようにして、本件滞納法人は、上記(1)のイの(リ)及び同ロのとおり、いったんは本件競売開始決定に係る申立てを取り下げてもらうことができたものの、本件滞納法人分の仲介手数料の支払に充てた小切手は最終的に一部が不渡りとなり、さらに、平成18年12月15日に営業を停止した後、破産するに至ったことによれば、本件滞納法人は、競売の回避のために本件売買契約締結時までに資金を調達する必要があったものの、本件滞納法人のその後の小切手による支払等を考慮すると、請求人のN社からの借入金以外に本件現金しか用意することができない状況にあって、M社に支払う本件滞納法人分の仲介手数料については、もはや現金で支払うことが不可能であったため、やむを得ず小切手による支払を行ったものと認められる。
 そうすると、本件売買契約締結時において、本件滞納法人の資力は相当切迫した状態にあったと認めるのが相当である。
(ニ) 本件仲介手数料の負担に関する合意内容及びその資金出所
 上記(1)のハのとおり、本件各不動産の売買に関して請求人と本件滞納法人との間では、本件売買契約書に記載されたもの以外に、請求人は融資を受けた金額のみで本件各不動産を買い取ること、本件各不動産の売買代金は融資金額から売買に関する諸費用を支払った残金とすることなどの合意がHとJとの間で口頭によりなされているが、これをもって直ちに本件仲介手数料の負担に関する合意などが具体的になされたものとも認められないので、本件仲介手数料の負担に関して、請求人と本件滞納法人との間で具体的にどのような合意がなされたのかについては、本件売買契約及び上記の口頭による合意の内容のみでなく、上記(イ)ないし(ハ)も含めて総合的に判断することとなる。
 そうすると、上記のとおり、HとJとの間では、請求人は融資を受けた金額のみで本件各不動産を買い取ること、本件各不動産の売買代金は融資金額から売買に関する諸費用を支払った残金とすることが口頭により合意され、この合意に整合するように、前記1の(4)のホの(イ)のとおり、請求人はN社からの借入金を原資とした支払しかしておらず、上記(1)のニのとおり、請求人は法人税の確定申告書の貸借対照表に本件各不動産の取得価額を本件金員の額で計上しているところ、上記(ロ)及び(ハ)のとおり、本件売買契約は、専ら本件滞納法人の事業継続のために締結され、確実に履行される必要があり、一方で、本件滞納法人の資力は相当切迫した状態にあったことからすれば、上記の口頭による合意は、専ら本件滞納法人の一方的な事情とはいえ相当切迫した状態の下で、本件売買契約の確実な履行のために本件売買契約に係る請求人の一切の負担をN社からの借入金のみにとどめることを考慮してなされたものと認めるのが相当である。
 したがって、請求人が本件滞納法人に支払わなければならない本件各不動産の代価のみならず、仲介手数料を含む売買に関して生じる請求人が負担すべき一切の費用は、請求人のN社からの借入金から賄われるべきものであったと認めるのが相当であり、上記(イ)のとおり、請求人がM社に対して負うべき本件仲介手数料の支払債務は存していたのであるから、本件仲介手数料は請求人のN社からの借入金から賄われたと認めるのが相当である。そして、本件仲介手数料が本件現金の中から支払われたのは、本件金員から本件仲介手数料がM社に支払われるべきところ、事務手続の便宜によってその全額が請求人の普通預金からLの普通預金に直接振り替えられたため、事実上、本件金員から本件仲介手数料の支払に充てることができなかったことによるものにすぎない。
 なお、上記のとおりであるから、請求人が本件滞納法人に支払うべき本件各不動産の代価は、請求人のN社からの借入金から売買に関して生じる請求人が負担すべき一切の費用を差し引いた額と認められるにもかかわらず、前記1の(4)のハのとおり、本件売買契約書には売買代金総額が70,000,000円と記載されている点に関しては、同ロの(ロ)のとおり、単にLが任意売却に応じる条件として提示した本件任意売却価額と一致させたにすぎないと認めるのが相当である。
(ホ) まとめ
 上記(イ)のとおり、請求人がM社に対して負うべき本件仲介手数料の支払債務は存していたところ、本件現金の使途を一見すれば、本件滞納法人は、請求人が負うべき本件仲介手数料の支払債務を立替払い等により履行したとみることもでき、原処分庁の主張が相当と思料することもできる。
 しかしながら、上記(ロ)のとおり、本件売買契約は、専ら本件滞納法人の事業継続のために締結され、確実に履行される必要があったと認めるのが相当であり、同(ハ)のとおり、本件売買契約締結時において、本件滞納法人の資力は相当切迫した状態にあったと認めるのが相当であって、これらを総合的に判断した結果、同(ニ)のとおり、本件仲介手数料は請求人のN社からの借入金から賄われたと認めるのが相当であり、本件仲介手数料が本件現金の中から支払われたのは、本件金員から本件仲介手数料がM社に支払われるべきところ、事務手続の便宜によってその全額が請求人の普通預金からLの普通預金に直接振り替えられたため、事実上、本件金員から本件仲介手数料の支払に充てることができなかったことによるものにすぎないから、本件滞納法人は請求人が負うべき本件仲介手数料の支払債務を履行したと認めることはできない。
 したがって、原処分庁の主張を採用することはできない。
ハ 本件滞納法人による請求人に対する本件仲介手数料に相当する額の返還請求権の無償放棄の有無
 上記ロの(ホ)のとおり、本件滞納法人は請求人が負うべき本件仲介手数料の支払債務を履行したと認めることはできないのであるから、そもそも、請求人に対する本件仲介手数料に相当する額の返還請求権は発生せず、それを無償放棄することもあり得ない。
ニ 結論
 上記イのとおり、請求人が負うべき本件仲介手数料の支払債務は存していたと認められるが、同ロのとおり、本件滞納法人は請求人が負うべき本件仲介手数料の支払債務を履行したと認めることはできないので、同ハのとおり、本件滞納法人には請求人に対する本件仲介手数料に相当する額の返還請求権は発生せず、それを無償放棄することもあり得ないのであるから、請求人は本件滞納法人から本件仲介手数料に相当する債務の免除を受けたと認めることができない。

(3) 本件納付告知処分の適法性

 上記(2)のニのとおり、請求人は本件滞納法人から本件仲介手数料の債務の免除を受けたと認めることはできず、当審判所の調査の結果によっても、請求人と本件滞納法人との間で、ほかに、徴収法第39条に規定する無償又は著しく低い価額による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分があったとも認められないので、本件納付告知処分はその全部が取り消されるべきである。

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