(平成23年2月18日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、納税者Z社(以下「本件滞納法人」という。)の滞納国税を徴収するため、審査請求人(以下「請求人」という。)に対して、請求人が本件滞納法人から利益を与える処分を受けたとして国税徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に基づく第二次納税義務の納付告知処分を行った上、当該第二次納税義務に係る国税を徴収するため督促処分を行ったところ、請求人が、当該納付告知処分及び督促処分は違法であるとして、それぞれその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、本件滞納法人が納付すべき別表1記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、請求人に対し、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条に規定する第二次納税義務を負うとして、平成22年2月4日付の納付通知書により、その納付すべき限度額を○○○○円、納付の期限を同年3月4日とする第二次納税義務の納付告知処分(以下「本件納付告知処分」という。)を行った。
ロ 原処分庁は、請求人が上記イの納付の期限までに本件納付告知処分に係る国税を完納しなかったとして、徴収法第32条《第二次納税義務の通則》第2項の規定に基づき、請求人に対し、平成22年3月10日付の納付催告書を送付してその納付を督促した(以下、この督促を「本件督促処分」という。)。
ハ 請求人は、本件納付告知処分を不服として平成22年2月25日に、また、本件督促処分を不服として同年3月26日に、それぞれ審査請求をした。
 そこで、これらの審査請求について併合審理をする。

(3) 関係法令

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 本件滞納法人は、平成14年7月○日に、情報処理サービス業及び不動産の売買等を目的として設立された法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社である。
ロ 請求人は、本件滞納法人の発行済株式200株のすべてを所有し、設立時から本件滞納法人が解散した平成22年7月○日まで代表取締役であった。
ハ 本件滞納法人及び請求人は、Y国税局調査査察部の国税犯則取締法に基づく犯則調査(以下「本件査察調査」という。)を受け、平成16年4月1日から平成17年3月31日までの事業年度(以下「平成17年3月期」という。)の法人税の修正申告書を平成20年3月24日にf税務署長に提出した。
ニ 本件滞納法人は、平成19年4月1日から平成20年3月31日までの事業年度(以下「平成20年3月期」という。)の総勘定元帳において、平成19年4月1日付及び同月30日付で上記ハの修正申告に係る損益修正項目として、請求人に対する短期貸付金合計197,798,299円を計上した。
ホ 請求人は、平成19年9月10日現在、別表2記載の各貸付金の返還請求権(以下、これらを併せて「本件各貸金債権」という。)を同表の「債務者」欄記載の各債務者に対して有していた。
ヘ 本件滞納法人は、請求人から本件各貸金債権を上記ニの短期貸付金の一部182,771,392円(以下「本件短期貸付金」という。)の支払に代えて譲り受けたとして、平成20年3月期の総勘定元帳において、平成20年1月31日付で、本件短期貸付金を本件各貸金債権の合計182,771,392円に振り替える経理処理をした。
ト 原処分庁は、本件滞納法人が請求人と合意の上、本件短期貸付金の支払に代えて請求人から譲り受けた本件各貸金債権のうち、別表2の順号1から9までに記載の各貸金債権(以下「本件各譲受債権」という。)については、債務者であるg、h、G及びHに返済資力がないことから回収不能な無価値な債権であると認定し、その合計額○○○○円に相当する本件短期貸付金を実質的に免除した行為は、徴収法第39条にいう無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分(以下「無償譲渡等の処分」という。)に該当するとして、請求人に対して同金額を限度とする本件納付告知処分を行った。

(5) 争点

イ 無償譲渡等の処分の存否。
ロ 本件滞納国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる事実(以下「徴収不足」という。)の有無とその判定時期。
ハ 徴収不足と無償譲渡等の処分との間の基因関係の有無。

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2 主張

(1) 争点イ(無償譲渡等の処分の存否)について

イ 原処分庁
 本件滞納法人は、平成20年1月31日付で請求人から本件短期貸付金の支払に代えて本件各貸金債権の譲渡を受け、本件短期貸付金を消滅させた。
 債権の評価に当たっては、単に債権の名目額にとらわれることなく、その債権に担保が付されていることの有無及び第三債務者の資力状況を勘案すべきとされているところ、請求人は、別表3記載のとおり収入があり、平成19年12月31日現在別表4記載の財産を有しているとして、平成20年3月12日に平成19年分の所得税の確定申告書並びに財産及び債務の明細書をf税務署長に提出しており、本件短期貸付金の返済を行うのに十分な資力を有していると認められる。一方、本件各譲受債権に係る債務者であるg、h、G及びHは、それぞれ資力を有しているとは認められないことから、本件各譲受債権は無価値な債権である。
 なお、上記1(4)ニの請求人に対する短期貸付金は、本件滞納法人の脱税資金から、まる1請求人が知人への個人的な貸付け等のために、請求人が代表取締役を務めるJ社から流用していた現金の補てんに充てられた63,000,000円、まる2請求人の知人であるKへ住宅取得資金として貸し付けられた○○○○円、及びその他の知人へ個人的に貸し付けられた金銭の合計額であり、請求人は、その旨をL地方検察庁の担当検察官に供述し、返済の意思があることから請求人に対する短期貸付金として本件滞納法人の平成17年3月期の法人税の修正申告書を本件滞納法人の代表者として提出しているものである。しかし、請求人が、当審査請求において、この短期貸付金がその成立の基礎や特定性に欠けるとして価値がない旨主張するのであれば、請求人に対する短期貸付金の本質は、本件滞納法人の請求人に対する不当利得返還請求権であり、貸金債権とは異なるから、額面どおりの価値を有するものと認められる。
 そうすると、本件滞納法人と請求人との間で行った代物弁済のうち、無価値な本件譲受債権を受けることにより消滅させた本件短期貸付金の一部○○○○円部分(以下、この短期貸付金○○○○円を消滅させた代物弁済を「本件代物弁済」という。)については、実質的に債務免除をしたということができ、徴収法第39条が規定する第三者に利益を与える処分に該当する。
ロ 請求人
 請求人は、本件短期貸付金の存否については争わない。また、貸付金が回収可能かどうかの判断について債務者の資力等の有無がその判断の一根拠となることについて異存はないが、その成立の基礎、契約書の有無等により回収可能性を判断することが第一の条件になるはずである。そして、請求人に対する短期貸付金は税務調査により認定された貸付金であり、第三者に対する「普遍的な」譲渡性が認められず、請求人からの任意弁済が望めない現状では、その回収には債務名義を取得して強制執行が必要になるところ、到底、取立訴訟の維持に耐えられないものであり、取立て・換価になじまない実効性のない債権である。したがって、取立可能性のない本件短期貸付金は無価値であり、これを代物弁済により減額したとしても請求人は何の利益も受けておらず、無償譲渡等の処分は認められない。

(2) 争点ロ(徴収不足の有無及びその判定時期)について

イ 原処分庁
 徴収不足の有無の判断は、第二次納税義務の納付通知書を発する時の現況により行うものと解されている。
 本件滞納法人は、第二次納税義務の納付通知書を発する時点において、g、h、G、H、K及びMに対する貸付金が主な資産であった。Kに対する貸付金について、平成22年2月4日の時点における現在価値を算定すると、別表5記載のとおり○○○○円となる。また、g、h、G及びHに対する貸付金は、返済の事実がなく、請求人からの督促もなく、各人の住所地には不動産を有していないことから回収が見込めない無価値な債権であると認められる。一方、徴収しようとする税額は、延滞税額を含めると○○○○円であるから、本件滞納法人の他の財産の存在を勘案しても、差押えができる財産の見積価額の総額が、徴収しようとする国税の額に不足することは明らかである。
ロ 請求人
 本件滞納法人は、平成20年6月13日に、本件滞納国税の全額を徴収することのできる本件各貸金債権の差押えを原処分庁に要請した。ところが、原処分庁は、この要請を拒否し本件納付告知処分を行った。本件各貸金債権の中には、不良債権化しつつあるものもあったが、土地建物の担保の裏付けのある80,800,000円の貸金債権も含まれていた。そうすると、原処分庁が、遅滞なく差押処分に着手していれば、本件滞納国税は全額徴収できたのであるから、徴収不足は認められない。
 なお、徴収不足の判定時期について、原処分庁は、本件納付告知処分に係る納付通知書を発する時点とするが、本件滞納法人が本件各貸金債権の差押えの要請を行った本件においては、当該要請により差押処分の着手が可能となった平成20年6月13日時点で判断するのが相当である。

(3) 争点ハ(基因関係の有無)について

イ 原処分庁
 本件代物弁済により本件短期貸付金の一部○○○○円が消滅していなければ、徴収不足は生じなかったのであるから、基因関係は認められる。
ロ 請求人
 請求人が本件各貸金債権に関する資料を提供した後、原処分庁が遅滞なく処分に着手していれば、本件滞納法人は当然滞納税額に充足する財産を有しており当該財産を引き渡す意思表示をしていたのであるから、原処分庁は本件滞納国税を徴収できた。徴収不足が生じたのは、本件代物弁済に基因するのではなく、原処分庁が、本件各貸金債権につき滞納処分をしなかった職務怠慢に基因しており、この不作為の結果を請求人に負担させる本件納付告知処分は不当かつ違法である。

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3 判断

(1) 法令解釈

 徴収法第39条の第二次納税義務の制度は、租税負担の公平及び租税徴収確保の観点から、納税者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、納税者がその財産につき行った無償譲渡等の処分に基因すると認められるときに、当該無償譲渡等の処分により権利を取得し、又は義務を免れた者に対し、その無償譲渡等の処分により受けた利益の限度で補充的に当該国税について履行責任を負わせる制度である。
 そして、このような第二次納税義務の制度の趣旨にかんがみれば、無償譲渡等の処分とは、広く第三者に利益を与える処分をいい、第三者に利益を与える処分である限り、その態様に制限はないと解するのが相当である。

(2) 争点イ(無償譲渡等の処分の存否)について

イ 無価値物による代物弁済であるとして本件代物弁済が無償譲渡等の処分に当たるというためには、当該代物弁済時点において、まる1本件短期貸付金が価値のある債権として存在すること、まる2本件代物弁済によって債務消滅の効果が発生していること、及び、まる3本件各譲受債権が無価値又は本件短期貸付金の価値と比較して著しくその価値が低いということが必要となる。
 一般に、金銭債権の価値は、これを算定する時点において、当該金銭債権の回収が不能であることが明白であるなどの特別な事情がない限り、債権の当該時点における現在価値で算定すべきものである。そして、金銭債権が継続収入に係る債権又は将来生ずべき債権である場合の価値の算定について、国税徴収法基本通達第39条関係1及び第22条関係4は、当該債権を換価するものとしてその価額を算定することとし、更に具体的な評価方法を定めた「公売財産評価事務提要」は、貸付金等の債権の評価につき、「一定の利率の下で複利計算して一定期間後に一定額を受け取るために現在要する額を算定する方法」によりその価額を求める旨、並びに、当該債権の評価に当たっては、その債権に担保が付されていることの有無及び第三債務者の資力状況によってその価値に差異があることに留意する旨を定めているところ、このような評価方法には合理性があると認めることができる。よって、確定期限未到来の金銭債権の価値の算定は、将来の確定期限までの金利を割り引く方法によって行うべきであり、ここで適用する利率(複利現価率)については、約定利率があればそれを用い、それがなければ民事法定利率又は商事法定利率を用いるのが相当である。
ロ 本件短期貸付金の存在とその価値
(イ) 本件代物弁済が無償譲渡等の処分に当たるというためには、本件代物弁済による本件短期貸付金の消滅が第三者たる請求人に利益を与えることが根拠となるから、そもそも、本件短期貸付金が価値のあるものとして存在することが必要となる。
(ロ) 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
A 請求人は、平成20年3月25日、L地方検察庁N支部において、本件滞納法人の脱税に関し、担当検察官に対して要旨以下の供述をした。
(A) 請求人は、平成10年ころから、J社の本社の社長室にある大金庫内に保管していたJ社の現金を使って、請求人の個人的な貸付けとして、知人などに貸付けを行うようになったが、担保も取らずに貸付けをしていたため、ほとんどの貸付けが回収できず焦げ付いてしまった。
(B) 請求人は、本件滞納法人で生じたトラブルについて以前から特定の知人に相談し、また、同人が架空領収書の用意ができる人物であることを知っていた。
(C) 請求人は、J社の現金の穴埋めのため上記(B)の知人に依頼して、同人の用意した預金口座に平成16年12月7日に222,700,000円を振り込み、また、同知人名義の口座に平成16年12月7日に90,000,000円、平成17年3月16日に20,000,000円をそれぞれ振り込むことによって架空の造成工事費用を作り出した。
(D) 請求人は、平成16年12月8日に上記(B)の知人の事務所において、同人から312,700,000円の現金を受け取り、同人に対して手数料31,270,000円を支払い、残り281,430,000円を用意した紙袋に入れ持ち帰った。また、請求人は、平成17年3月17日に上記(B)の知人から20,000,000円を受け取り、同人に対して手数料2,000,000円を支払った。
(E) 請求人は、上記(D)で持ち帰った現金を、J社の大金庫にしまった。
(F) 請求人は、本件滞納法人の脱税にかかわった他の2名に対して112,700,000円を支払った。
B 本件短期貸付金について、履行期限の定めはない。
C 請求人は、平成20年3月12日、f税務署長に対して平成19年分の所得税の確定申告書を提出したが、同申告書には別表3記載の収入金額等が記載され、また、同申告書に添付された平成19年分の財産及び債務の明細書には、別表4記載の各財産及び債務が記載されていた。
(ハ) 判断
A 上記(ロ)Aによれば、請求人は、平成17年3月当時、架空の造成工事費用332,700,000円から脱税にかかわった他の2名への支払金112,700,000円を差し引いた220,000,000円を、個人的に費消した資金の穴埋めに使用したことが認められるから、少なくとも、当該220,000,000円について、請求人は本件滞納法人に対し、不法行為による損害賠償債務ないし不当利得返還債務を負っていたということができる。そして、その後、本件査察調査の結果、上記1(4)ニのとおり、本件滞納法人は当該220,000,000円より少ない197,798,299円を請求人に対する短期貸付金として経理したものであるが、上記1(4)ロのとおり、請求人が当時本件滞納法人の代表者であったことからすれば、請求人に対する短期貸付金の成立に当たり、請求人と本件滞納法人との間で、上記損害賠償債務ないし不当利得返還債務を旧債務とする準消費貸借契約が成立したものと推認することができる。以上のとおり、客観的に認定できる事実から請求人に対する短期貸付金の存在を推認でき、上記2(1)ロのとおり請求人がその存在を争っていないことからすると、本件短期貸付金の存在を民事訴訟において立証することが格別困難ではなく、請求人の主張するような回収困難な債権であるということはできないから、かかる観点から本件短期貸付金の価値を否定することはできない。
B 次に、本件短期貸付金の価値の算定が問題になるが、上記Aのとおり、本件短期貸付金の本質が損害賠償債務ないし不当利得返還債務を旧債務とする準消費貸借契約により成立した債権であり、上記(ロ)Bのとおり履行期限の定めがなく、いつでも返還を求めることができることからすれば、本件短期貸付金の価値の算定に当たっては、その返還債務の履行期限が到来しているものとして扱うのが相当である。そうすると、上記イのとおり、本件短期貸付金の価値は、本件代物弁済当時、本件短期貸付金の回収が不能であることが明白であるなどの特別な事情がない限り、債権の当該時点における現在価値で算定すべきものであるところ、上記(ロ)Cによれば、本件短期貸付金の債務者である請求人は十分な資力を有し、本件代物弁済当時、その債務の履行について懸念される事情はなかったものと認めるのが相当であるから、本件短期貸付金の価値はその額面額に等しいということができる。
ハ 本件代物弁済による債務消滅の効果発生の有無
(イ) 本件代物弁済が債務消滅の効果を発生しないのであれば、本件短期貸付金が消滅せず、第三者たる請求人に何ら利益を与えたことにならず、無償譲渡等の処分に当たるということはできないから、本件代物弁済が無償譲渡等の処分に当たるというためには、本件代物弁済が、債務消滅の効果を発生させるに足る状態にあることが必要になる。そして、民法第482条が規定する代物弁済とは、債務者が債権者と合意の上で、債権の本来の内容の実現によらず他の給付を現実にすることによって債務を消滅させる制度であり、代わりの給付が現実にされない限りその債務消滅の効果は認められない。
(ロ) 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
A 請求人は、本件各貸金債権のうち別表2の順号6及び9を除く債権について、平成19年9月10日に本件滞納法人に譲渡する旨の債権譲渡契約を締結したとして、平成20年1月31日付の内容証明郵便による債権譲渡通知書を各債務者に対して発送した。
B 上記Aの各通知書のうち、h、K及びMに対する各通知書はそれぞれ平成20年2月1日に到達し、また、gに対する通知書は同月2日に到達した。
C 上記Aの各通知書のうち、G及びHに対する各通知書は、あて所に尋ねあたらないとの理由で請求人に返送された。
 その後、G及びHに対して債権譲渡の通知はされなかった。
(ハ) 判断
 上記(ロ)Bのとおり、本件各譲受債権のうちg及びhに対する各貸金債権については、債権譲渡通知書の到達により、債権譲渡の債務者対抗要件とともに第三者対抗要件を具備しており、債務者だけでなく第三者に対しても同債権の帰属者であることを主張できる状態、すなわち同債権が本件滞納法人に確定的に移転し、債務者から回収可能な状態にあるといえ、代わりの給付が現実になされたといえるから、債務消滅の効果が発生したということができる。他方、上記(ロ)A及びCのとおり、G及びHに対する各貸金債権のうち、別表2の順号6及び9記載の各貸金債権については、債権譲渡通知書の発送そのものが認められず、また、別表2の順号5、7及び8記載の各貸金債権については、債権譲渡通知書の発送はされたものの、各債権譲渡通知書がG及びHに到達していないから債権譲渡の通知がされなかったのであり、結局、G及びHに対する各貸金債権の譲渡については、債務者対抗要件である債務者への通知すら欠いており、G及びHに対して本件滞納法人が債権者であることを対抗できない状況であって、代わりの給付が現実になされたといえないから、代物弁済による債務消滅の効果は発生していないというべきである。
 よって、本件短期貸付金のうちG及びHに対する各貸金債権の代物弁済によって消滅したとされていた部分については、いまだ消滅せず、本件滞納法人に帰属しているとみることができるから、無償譲渡等の処分があったとは認められない。
ニ g及びhに対する各貸金債権の価値
(イ) 上記ハ(ハ)のとおり、本件各譲受債権のうち、本件短期貸付金消滅の対価となるのは、g及びhに対する各貸金債権であるから、本件代物弁済が無償譲渡等の処分に当たるというためには、これら各貸金債権の価値がいくらか、その算定が問題となる。
(ロ) 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
A gは、昭和○年生まれで、その居住する市町村において不動産を所有しておらず、平成20年分の給与所得及び営業等所得の合計は○○○○円であるが、平成20年12月以降は無職である。
B gは、請求人に対して貸金を一切返済せず、平成○年○月○日に、P地方裁判所において小規模個人再生による再生手続開始の決定を受け、同年○月○日に再生計画認可決定を受けた。
C gの連帯保証人であるQは、昭和○年生まれで、その平成20年分の所得は雑所得○○○○円であり、前住所地及び現住所地のいずれにおいても不動産を所有しておらず、経営していた会社の家賃や仕入代金等を工面することもできなかった。
D hは、昭和○年生まれで、その居住する市町村において不動産を所有しておらず、運送会社に勤務し運転手をしており、平成20年分の給与所得は○○○○円である。
E hは、原処分庁所属の徴収職員に対し、平成○年○月○日にP地方裁判所において破産宣告を受けたが、現在も借入金の返済が自分の収入では足りない状況であり、請求人に対して貸金を全く返済したことがない旨申述した。
F hの保証人であるRは、hの配偶者であり、昭和○年生まれで、平成○年○月○日にP地方裁判所において破産宣告を受けたが、6人家族で生活し、平成20年分の給与所得は○○○○円であり、現住所地において不動産を所有しておらず、地方税の納税も困難な状況である。
(ハ) g及びhに対する各貸金債権の価値の算定に当たり、別表2の順号1記載の貸金債権については履行期限が既に到来し、また、別表2の順号2から4までに記載の各貸金債権については履行期限の定めがなく、いつでも返還を求めることができることから履行期限が到来しているものとして扱うのが相当であるところ、上記(ロ)B及びEのとおり、本件代物弁済時まで、両名とも請求人に一度もその債務を履行しておらず、上記(ロ)A及びDのとおり債務の履行について資力を有しているとは認められず、また、上記(ロ)C及びFのとおりそれぞれの保証人についても資力が認められないことから、これらの貸金債権は無価値であるということができる。
ホ 以上から、本件滞納法人は、本件代物弁済のうち有効な代物弁済により消滅した○○○○円の価値のある本件短期貸付金に対し、代わりの給付としてg及びhに対する無価値な各貸金債権を受けたといえるから、本件滞納法人は請求人に対して無償譲渡等の処分を行ったということができる。

(3) 争点ロ(徴収不足の有無及びその判定時期)について

イ 徴収法第39条にいう「滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合」とは、第二次納税義務を負わせるかどうかの判定をしようとする時の現況において、滞納処分により徴収できる滞納者の財産の総額が、徴収しようとする国税の額に不足すると認めるときをいうものと解される。よって、徴収不足の判定の時期は、納付通知書を発する時の現況によるものと解するのが相当である。なお、滞納者の財産について、滞納者の滞納国税に優先する私債権、公課、地方税又は納税者以外の者の国税がある場合には、その優先する債権額に相当する金額をその財産の処分予定価額から控除して財産の価額を算定するのが相当である。
 また、滞納処分により徴収できる滞納者の財産が確定期限未到来の金銭債権である場合には、上記(2)イのとおり、「一定の利率の下で複利計算して一定期間後に一定額を受け取るために現在要する額を算定する方法」を用い、その債権に担保が付されていることの有無及び第三債務者の資力状況等を勘案してその価額を算定するのが相当である。
ロ 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ) 本件納付告知処分時において、平成20年3月期の法人税の確定申告書が本件滞納法人の最終の申告書であったところ、この申告書に添付されていた平成20年3月期末現在の貸借対照表の資産の部には、別表6の「平成20年3月31日現在」欄の各金額が記載されていた。
(ロ) 本件滞納法人は、本件査察調査後その事業活動がほとんどなく、本件納付告知処分後の平成22年9月29日に、平成20年4月1日から平成21年3月31日までの事業年度(以下「平成21年3月期」という。)及び平成21年4月1日から平成22年3月31日までの事業年度(以下「平成22年3月期」という。)の法人税の各確定申告書を提出し、これらの各申告書に添付されていた平成21年3月期末現在及び平成22年3月期末現在の各貸借対照表の資産の部には、別表6の「平成21年3月31日現在」欄及び「平成22年3月31日現在」欄の各金額が記載されていた。
(ハ) Kに対する貸金債権は、利息の定めがなく、返済条件が毎月20日までに300,000円を支払い、残額は履行期限の平成27年9月20日に一括して支払うという内容であり、担保としてc市の土地1筆及び建物1棟に抵当権が設定されていた。また、平成22年2月4日現在の同貸金債権の残高は○○○○円であった。
(ニ) Mに対する別表2の順号11記載の貸金債権は、返済条件が毎月末日に元本33,333円及び利息2,604円の合計35,937円を支払い、履行期限を平成22年4月末日とする内容であり、また、別表2の順号12記載の貸金債権は、返済条件が毎月末日に元本59,523円及び利息6,324円の合計65,847円を支払い、履行期限を平成22年4月末日とする内容であり、平成22年2月4日現在の各貸金債権の残高はそれぞれ○○○○円及び○○○○円であった。
(ホ) X県知事は、本件滞納法人の滞納地方税徴収のため、Kに対する貸付金については平成20年10月6日付及び同年12月1日付で、Mに対する貸付金については同年10月20日付で、それぞれ差押処分を行った。
(ヘ) 上記(ホ)の各差押処分に係る本件滞納法人の平成22年2月4日現在の滞納地方税残高は、別表7記載のとおり○○○○円である。
ハ 判断
 上記ロ(イ)のとおり、本件納付告知処分時に確認できた平成20年3月期末現在の貸借対照表によれば、本件滞納法人の同期末現在の資産は、別表6の「平成20年3月31日現在」欄記載のとおりであるところ、上記ロ(ロ)のとおり、本件納付告知処分後に提出された平成21年3月期末現在及び平成22年3月期末現在の各貸借対照表の資産の部には、本件滞納法人の資産として別表6記載のとおり「現金及び預金」並びに「短期貸付金」のみが記載され、平成20年3月期末以後新たな資産の計上は認められず、また、本件滞納法人が本件納付告知処分時までに新たな資産を取得していた事実も認められない。したがって、本件納付告知処分時において本件滞納法人に帰属した主な財産は、上記「短期貸付金」といえ、その価額は同処分直前の事業年度である平成21年3月期末現在の貸借対照表を基に算定するのが相当である。
 上記(2)ハ(ハ)によれば、本件代物弁済は、G及びHに対する各貸金債権については、債務消滅の効果が認められないことから、これに対応する本件短期貸付金の一部○○○○円は本件滞納法人に帰属することとなり、上記1(4)へから、平成22年2月4日時点において本件滞納法人に帰属する貸付金は、請求人に対する短期貸付金○○○○円並びにg、h、K及びMに対する各貸金債権となる。そのうち、g及びhに対する各貸金債権については、上記(2)ニ(ハ)のとおり無価値である。そして、Kに対する貸金債権は、上記ロ(ハ)のとおりであるから、十分回収可能な債権と認められるが、弁済期間が経過していないため、本件納付告知処分時の貸付残高○○○○円について上記(2)イの方法を用い、利息の定めがないことから複利現価率を民事法定利率の5%により算定すると、平成22年2月4日時点におけるKに対する貸金債権の評価額は、別表5記載のとおり○○○○円となる。
 そうすると、本件滞納法人の本件納付告知処分時の資産の価額は、同処分の直前の事業年度末の資産を示す別表6の「平成21年3月31日現在」欄記載の合計額175,398,512円から短期貸付金の金額175,346,416円を差し引き、G及びHの各貸付金に相当する請求人に対する短期貸付金○○○○円並びにK及びMに対する各貸金債権の価額を加えて算出すべきところ、上記ロ(ホ)のとおり、K及びMに対する各貸金債権についてはそれぞれX県知事による差押処分が行われており、上記ロ(ヘ)のとおり、当該各差押処分に係る平成22年2月4日現在の本件滞納法人の滞納地方税は○○○○円であるから、これをまずKに対する貸金債権の処分予定価額から控除すると同債権の価額は○○○○円と算定され、Mに対する上記ロ(ニ)の内容の各貸金債権について改めて上記(2)イの方法による評価をするまでもなく、本件納付告知処分時における本件滞納法人の財産の総額が別表1記載の本件滞納国税○○○○円に不足するのは明らかであるから、徴収不足が認められる。
ニ 請求人は、徴収不足の判定の時期について、本件滞納法人がその所有財産に対する差押処分を原処分庁に要請した時点とすべきである旨主張する。
 しかしながら、徴収不足の判定の時期を請求人主張の時点とすると、その後、納付告知書を発する時点までの間に無償譲渡等の処分がされた場合に、その譲渡等を受けた者に対し第二次納税義務を負わせることができないこととなり、同条の存在意義の大半が失われる結果となるから、請求人の主張は採用できない。

(4) 争点ハ(基因関係の有無)について

イ 徴収法第39条にいう徴収不足と無償譲渡等の処分との間の基因関係について、同条の解釈としては、当該無償譲渡等の処分がなかったならば、徴収不足を生じなかったであろうということができる場合には、広く基因関係を認めるのが相当であり、これを本件についてみると、本件滞納法人が、g及びhに対する各貸金債権という無価値物を受け入れ、本件短期貸付金○○○○円を消滅させるという本件代物弁済がなければ、現在の徴収不足は生じなかったということができるから、基因関係を認めることができる。
ロ これに対し、請求人は、上記2(3)ロのとおり主張する。
 しかしながら、無償譲渡等の処分と徴収不足との基因関係の解釈については上記イのとおりであり、また、差押えに当たって必要な換価の容易性などの認定判断にはある程度の時間を要するのであるから、滞納者が自己の財産について自主的に差押えの要請をした場合に、徴収職員がこれを直ちに差し押さえなかったからといって、上記基因関係を否定して本件納付告知処分が不当又は違法となるものではなく、請求人の主張は採用できない。

(5) 本件納付告知処分について

 以上のとおり、本件滞納法人について、本件納付告知処分を行った時点において徴収不足が認められ、その徴収不足は、本件滞納国税の各法定納期限の1年前の日以後に行われたg及びhに対する各貸金債権を代物弁済により受け入れたこと、すなわち、本件滞納法人が請求人から額面額合計○○○○円の無価値な各貸金債権による代物弁済によって請求人に対する合計○○○○円の短期貸付金を消滅させた処分に基因するものといえる。
 そして、請求人は、これにより○○○○円の利益を受けたこととなるところ、徴収法第39条は、債務の免除その他第三者に利益を与える処分により、権利を取得し、又は義務を免れた者で、これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他の特殊関係者であるときは、これらの処分により受けた利益の限度において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定し、上記1(4)ロのとおり、請求人は本件滞納法人の特殊関係者であるから、請求人に対する第二次納税義務の納付限度額は○○○○円となる。
 そうすると、本件納付告知処分は、○○○○円を超える部分について取り消すべきである。

(6) 本件督促処分について

 徴収法第32条第2項は、その前段で第二次納税義務者が当該第二次納税義務に係る国税をその納付の期限までに完納しないときは、納付催告書によりその納付を督促しなければならない旨規定し、また、その後段で、納付催告書はその納付の期限から50日以内に発するものとする旨規定し、督促処分の要件として当該処分時の事情を要求しているから、その処分の適法性は処分時の事情を基礎として判断すべきである。
 そして、原処分庁は、本件納付告知処分に係る納付通知書に記載された第二次納税義務者から徴収しようとする金額の納付の期限であった平成22年3月4日までに、請求人が第二次納税義務者として納付すべき金額を完納していなかったことから、同月10日付の納付催告書により本件督促処分をしたことが認められ、上記(5)のとおり、本件督促処分の基礎となる本件納付告知処分によって告知された第二次納税義務の限度額については、その一部が取り消されるべきものであるが、本件督促処分時点においては取り消されておらず、当該限度額の全額が有効に存在していたといえる。したがって、本件督促処分時点においてはこれを取り消すべき瑕疵は存在しない。
 なお、第二次納税義務の納付告知処分によって告知された第二次納税義務の限度額の一部が裁決によって取り消された場合、当該納付告知処分によって告知された第二次納税義務の限度額についてなされた督促処分は、取消しを受けた部分については当然に効力を失い、同部分を基礎として滞納処分を行うことはできないと解するのが相当である。

(7) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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