(平成23年3月23日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、納税者C(以下「本件滞納者」という。)から金銭を無償で譲り受けたとして、原処分庁が、請求人に対し、国税徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に基づく第二次納税義務の納付告知処分をしたところ、請求人が、本件滞納者から無償で金銭を譲り受けた事実はないとして、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、本件滞納者が納付すべき別表1記載の滞納国税を徴収するため、請求人に対し、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条の規定に該当するとして、同法第32条《第二次納税義務の通則》第1項の規定に基づき、平成20年11月5日付の納付通知書により、納付すべき金額の限度額を○○○○円とする第二次納税義務の納付告知処分をした。
ロ 請求人は、この処分を不服として、平成20年12月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成21年2月27日付で棄却の異議決定をし、当該異議決定書の謄本は、同月28日に請求人に送達された。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成21年3月31日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 徴収法第39条は、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡(担保の目的でする譲渡を除く。)、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免かれた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他の特殊関係者であるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。

(4) 基礎事実(争いのない事実及び証拠から容易に認定できる事実)

イ 本件滞納者と請求人との関係等
(イ) 本件滞納者は、昭和56年6月5日から平成18年3月31日までの間、D社(以下「本件法人」という。)の代表取締役に就いていた。
(ロ) Eは、本件滞納者の子であり、平成4年3月から本件法人の従業員となった。
(ハ) 請求人は、Eの配偶者であり、平成18年3月31日に本件法人の代表取締役に就任した。
ロ 信託受益権の譲渡
 本件滞納者及び本件法人は、別表2記載の土地及び建物(以下、これらを併せて「本件不動産」という。)を同表の「持分」欄記載の持分で共有していた。
 本件滞納者及び本件法人は、平成17年5月31日に、F銀行との間で、委託者及び受益者をそれぞれ本件滞納者及び本件法人とし、受託者をF銀行として、本件不動産を受益者のために管理、運用及び処分することを内容とする不動産管理処分信託契約を締結するとともに、G社(以下「本件譲受人」という。)との間で、上記不動産管理処分信託契約によって本件滞納者及び本件法人が取得する本件不動産に係る信託受益権を本件譲受人に譲渡する旨の契約を締結した(以下、この契約による本件不動産に係る信託受益権の譲渡を「本件譲渡」という。)。
 なお、本件譲渡により本件滞納者及び本件法人が支払を受ける譲渡代金の総額(以下「本件譲渡代金」という。)は、2,300,000,000円であり、本件譲渡に係る契約において、本件譲受人は、本件譲渡代金(本件不動産から生じる賃料等の収益や公租公課等の費用を本件不動産に係る信託受益権の移転日をもって区分し、当該移転日の前日までに発生したものを本件滞納者及び本件法人に、当該移転日以後のものを本件譲受人にそれぞれ帰属させることにより精算が必要となる場合には、その精算後の金額)のうち各持分に応じた金額を、H銀行J支店の本件滞納者名義の普通預金口座(口座番号○○○○)及び同支店の本件法人名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件法人口座」という。)にそれぞれ振り込むことになっていた。
ハ 本件譲渡代金の支払
 本件譲受人は、平成17年4月12日に、本件法人に対し、手付金として20,000,000円を支払い、また、本件譲渡代金から、当該手付金、本件不動産に設定されていた根抵当権の被担保債権の弁済に充てられた1,799,977,337円、本件譲受人が本件滞納者及び本件法人から承継する敷金返還債務引継額49,569,200円、並びに、本件滞納者及び本件法人の未払家賃及び管理費8,266,654円を控除し、これに信託受益権の移転日をもって区分して計算した固定資産税等精算金6,009,810円を加算した428,196,619円(以下「本件残余金」という。)を平成17年5月31日に本件法人口座に振り込んだ。
ニ 本件法人口座からの出金状況
 本件法人口座からは、平成17年5月31日から同年9月30日までの間に、まる1H銀行J支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件請求人口座」という。)へ、平成17年5月31日に○○○○円、同年6月6日に○○○○円、同月10日に○○○○円、同月14日に○○○○円、及び、同年8月26日に○○○○円の合計○○○○円(以下「本件振替金」という。)が、まる2同支店のE名義の普通預金口座(口座番号○○○○)へ合計○○○○円が、並びに、まる3同支店の本件滞納者名義の2つの普通預金口座(口座番号○○○○及び○○○○)へ合計42,000,000円が、それぞれ振り替えられた。
ホ 原処分
 原処分庁は、本件滞納者が請求人に本件振替金を無償で譲渡したとして、平成20年11月5日付で原処分を行った。

(5) 争点

 本件滞納者から請求人に対する財産の無償譲渡の存否。

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2 主張

(1) 原処分庁

 本件法人は、本件譲渡代金のうち本件滞納者の持分相当額として1,309,554,398円を同社の仮受金勘定に経理処理していることから、本件譲渡代金のうち本件法人の持分相当額は990,445,602円である。
 本件譲受人は、平成17年5月31日に、本件譲渡代金から手付金並びに本件滞納者及び本件法人が負担すべき各借入金及び諸経費等を控除し、固定資産税等の精算分を加算した本件残余金428,196,619円を本件法人口座に振り込んでおり、本件残余金のうち本件滞納者及び本件法人のそれぞれが受け取るべき金額は、本件滞納者が279,543,363円、本件法人が148,653,256円となる。
 本件残余金のうち、本件法人が受け取るべき金額148,653,256円は、本件残余金が入金された平成17年5月31日以降、同社の経費等の支払に充てられており、一方、本件滞納者が受け取るべき金額279,543,363円は、本件滞納者が受領した事実が認められないことから、本件振替金の原資は、本件残余金のうち本件滞納者の持分相当額と認められる。
 本件請求人口座は、平成8年1月5日に請求人が開設した口座であることから、本件振替金は、同口座に振り替えられることにより本件滞納者から請求人の処分権限内へ移ったといわざるを得ない。
 請求人は、本件振替金を本件法人の経費の支払に充てた旨主張するが、本件振替金を同社の経費に充てるのであれば、あえて請求人の口座を経由させて支払う必要性がなく、極めて不自然である。
 また、本件振替金の使途に関して、請求人は、企画料の一部として分割して支払ったと主張するが、請求人が原処分庁に提出した資料によれば、当該企画料は、現金での一括支払となっており、主張と証拠との間で矛盾が生じている。しかも、当該経費は本件法人が負担すべき経費であって、本件滞納者の経費支払の資金として還流したとは認められない。
 そうすると、本件振替金は本件滞納者に還流した事実が認められない以上、その金銭は請求人に帰属したものと認められ、これにつき請求人から本件滞納者に対して対価又は取得費用を支払った事実も認められないから、請求人が本件滞納者から無償で譲渡されたものというべきである。

(2) 請求人

 原処分庁は、本件振替金について、請求人が本件滞納者から無償で受領したものと認定している。本件振替金が、一時的とはいえ、本件請求人口座を経由して出金されたのは事実である。しかしながら、本件残余金の全額が本件法人の総勘定元帳の現金勘定に計上され、本件滞納者及び本件法人の諸経費の支払等に充てられているから、本件滞納者から請求人に無償譲渡された金銭はない。
 なお、本件請求人口座は、配偶者であるEが管理していたもので、資金の移動及びその使途については、請求人は、一切関与しておらず、請求人の手もとに残った資金はない。
 仮に、原処分の全部の取消しが認められない場合であっても、企画料の一部の支払に充当した9,000,000円と、役員報酬として平成17年6月から12月までの間に充当された4,667,600円の部分は取り消されるべきである。

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3 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果により認められる事実は、以下のとおりである。
イ 本件請求人口座は、平成8年1月5日に開設され、主にクレジットカードの決済用に使われていたが、平成16年7月16日から平成17年5月30日までの約10か月の間、残高55,958円のまま異動がなかった。本件振替金が入金された後、本件請求人口座からは、平成17年5月31日、同年6月9日、同月10日、同月14日、同月21日、同年7月28日、同年8月18日及び同月26日に、それぞれATMを利用して○○○○円ずつ合計○○○○円の現金出金があり、また、平成17年6月21日にH銀行J支店のE名義の普通預金口座に端数の55,958円が振り替えられ、同年9月30日以降、本件請求人口座は、残高が零円のまま異動がなくなり、平成20年6月11日にEにより解約された。
ロ 平成17年5月31日から同年9月30日までの間、本件請求人口座の預金通帳、銀行印及びキャッシュカードは、暗証番号を知るEが管理しており、本件請求人口座への入金及び同口座からの現金出金はEによって行われた。
ハ 請求人は、上記イの口座解約及び上記ロの入出金について、把握していなかった。
ニ 本件振替金が現金出金された日に、それに相応する現金がK銀行L支店のE名義の普通預金口座又はその他の銀行のE名義口座に入金されている。
ホ 本件振替金の出金先について、上記ニのほか、請求人からEへの貸付けや、請求人自身の債務の弁済などに費消されたなど、請求人の資産の形成や請求人の債務を減少させるために使われた事実は認められない。

(2) 判断

 原処分庁は、本件請求人口座へ入金された時点をもって、本件振替金が本件滞納者から請求人の処分権限内へ移った旨主張する。
 しかしながら、上記(1)の各事実によれば、本件請求人口座については、本件振替金の入金当時、Eが自由に出金できる状態にあり、入出金すべてをEが行っているだけでなく、その口座の動向について請求人が何ら把握していないのであって、引き出された金員が請求人個人の用途に使用されたことを認めるに足りる証拠がないだけでなく、かえって出金のあった日にE名義の銀行口座に相応額の入金があるという同人のために費消されたことをうかがわせる事実が認められるのであり、上記1(4)イ(ハ)のとおりEが請求人の配偶者であることを併せて考えると、本件請求人口座が請求人に帰属すると認定することはできず、同口座はEの管理下にあったいわゆる借名口座であるとみるのが相当である。
 そうすると、本件請求人口座に本件振替金が入金されたことをもって、請求人の処分権限内へ本件振替金が移転したとはいえないから、上記認定事実から本件滞納者から請求人への財産の無償譲渡があったということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。

(3) 結論

 したがって、原処分庁が、本件請求人口座に本件振替金が入金されたことをもって、本件滞納者から請求人への財産の無償譲渡があったとして、本件滞納者の滞納国税の徴収のために、請求人に対して、徴収法第39条の規定に基づく原処分を行ったのは違法となるから、その全部を取り消すべきである。

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