(平成23年6月3日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、医業及び不動産賃貸業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税等について、請求人が法定申告期限後に確定申告書を提出したところ、原処分庁が、請求人が法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについては国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成18年分、平成19年分及び平成20年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について別表1の「確定申告」欄のとおりとする各確定申告書(以下「本件所得税各期限後申告書」という。)並びに平成20年1月1日から平成20年12月31日までの課税期間(以下「平成20年課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について別表2の「確定申告」欄のとおりとする確定申告書(以下「本件消費税等期限後申告書」という。)を、いずれも平成21年11月20日にL税務署長に対し提出した。
 なお、以下、本件所得税各期限後申告書と本件消費税等期限後申告書とを併せて「本件各期限後申告書」という。
ロ L税務署長は、本件各期限後申告書の提出を受けて、平成21年12月8日付で、別表1及び別表2の各「賦課決定処分」欄のとおり、本件各年分の所得税に係る重加算税の各賦課決定処分(以下「本件所得税各賦課決定処分」という。)及び平成20年課税期間の消費税等に係る重加算税の賦課決定処分(以下「本件消費税等賦課決定処分」という。)をした。
 なお、以下、本件所得税各賦課決定処分と本件消費税等賦課決定処分とを併せて「本件各賦課決定処分」という。
ハ 請求人は、本件各賦課決定処分を不服として、平成22年2月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月28日付で棄却の異議決定をし、異議決定書の謄本を同月30日に請求人に対し送達した。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の本件各賦課決定処分に不服があるとして、平成22年5月31日に審査請求をした。
 なお、請求人は、所得税法第16条《納税地の特例》及び消費税法第21条《個人事業者の納税地の特例》の規定に基づき、請求人の事業所のあったd市e町○−○を納税地としていたが、異動後の納税地を住所地であるa県b市c町○−○、異動年月日を平成22年5月15日とする届出をし、原処分庁は、L税務署長からK税務署長となった。

(3) 関係法令

イ 通則法第66条《無申告加算税》第1項本文及び第1号は、期限後申告書の提出があった場合には、当該納税者に対し、当該期限後申告に基づく納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨、同条第1項ただし書は、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、無申告加算税を課さない旨各規定している。
ロ 通則法第66条第5項は、期限後申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないときは、その申告に基づく納付すべき税額に係る同条第1項の無申告加算税の額は、同項の規定にかかわらず、当該納付すべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額とする旨規定している。
ハ 通則法第68条第2項は、同法第66条第1項の規定に該当する場合(同項ただし書又は同条第5項の規定の適用がある場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったときは、当該納税者に対し、無申告加算税に代え、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に100分の40の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 請求人の医業及び診療所の概要等
(イ) 請求人は、外科を専門とする医師であり、平成16年9月ころから「M」という名称を冠し形成外科の医療サービスを提供する診療所、その管理者である医師及び各診療所の業務を支援する後記ロの(イ)のN社などの企業により形成された事業グループ(以下「Mグループ」という。)に属する、「M1」、「M2」、「M3」及びf市g町所在の「M4」などの診療所において、形成外科の非常勤医師として勤務していた。
 平成17年12月ころ、上記「M4」の管理者であった医師がMグループを脱退したことを契機として、請求人は、当該医師に代わってMグループに参加することとし、平成18年1月1日、上記「M4」と同じ場所に、請求人を管理者とする「M4」(以下「本件A診療所」という。)を開設し、その管理者及び事業者となった。
(ロ) 請求人は、平成16年9月ころから「Q」という名称を冠し形成外科の医療サービスを提供する診療所、その管理者である医師及び各診療所の業務を支援する後記ハの(イ)のAのR社などの企業により形成された事業グループ(以下「Qグループ」という。)に属する、「Q1」、「Q2」、「Q3」及びd市e町所在の「Q4」などの診療所において、形成外科の非常勤医師として勤務していた。
 平成18年2月ころ、上記「Q4」の管理者であった医師がQグループを脱退したことを契機として、請求人は、当該医師に代わってQグループに参加することとし、平成18年2月16日、上記「Q4」と同じ場所に、請求人を管理者とする「Q4」(以下「本件B診療所」という。)を開設し、その管理者及び事業者となった。
 本件B診療所における請求人の休診日は、開設当初、毎週木曜日であったが、開設から約4か月後以降、毎週水曜日及び木曜日とされた。
(ハ) 請求人は、上記(イ)及び(ロ)のとおり、平成18年2月16日以降、本件A診療所及び本件B診療所の二つの診療所を管理したが、「診療所を管理する医師は、その診療所の所在地の都道府県知事の許可を受けた場合を除くほか、他の診療所を管理しない者でなければならない」旨規定する医療法第12条第2項に従い、同年6月30日ころ、本件A診療所の管理者を辞職して本件A診療所を廃止し、本件B診療所のみを管理するようになった。
 その後、請求人は、平成22年5月上旬、本件B診療所の管理者も辞職し、本件B診療所も廃止した。
ロ 本件A診療所の事業に係る経理の状況等
(イ) 本件A診療所の事業に係る経理の委託状況等
 請求人は、本件A診療所の事業者としてMグループに参加するに際し、Mグループに属する診療所の医療業務以外の業務を支援するN社に対し、本件A診療所の売上金を入金するためのG1銀行h支店の請求人名義普通預金口座(番号○○○○。以下「本件A診療所売上金口座」という。)を管理させ、本件A診療所の事業に係る売上金の管理、経費の支払、会計帳簿の記帳代行等の経理に関する業務を委託した。
(ロ) 本件A診療所の事業から生ずる利益の支払の状況等
A 本件A診療所の事業から生ずる利益の支払に関する取決め
 本件A診療所の事業から生ずる利益は、その売上金が入金される本件A診療所売上金口座に蓄積されるところ、請求人とN社とは、上記(イ)のとおり、請求人が、N社に本件A診療所売上金口座の管理及び本件A診療所の経理に関する業務を委託するに際し、請求人が本件A診療所売上金口座から月々支払を受ける金額について、N社が、毎月、本件A診療所の事業に係る請求人の利益の金額を計算した上、当該利益の金額に相当する金員を本件A診療所売上金口座から払い出し、そのうち、当該利益の金額に所定の割合を乗じて算定した金額に相当する金員を、請求人の確定申告による納税に備えて、N社が請求人の納税準備金として預かり、その余の額(上記利益の金額から上記納税準備金の額を控除した後の残額)に相当する金員を請求人に対し月々支払うことを取り決めた。
 そして、N社は、上記納税準備金として預かる金員を入金するための口座として、請求人から、G1銀行h支店の請求人名義普通預金口座(番号○○○○。以下「本件A診療所納税準備金口座」という。)の管理を受託した。
B 請求人が月々支払を受ける金額等の計算
 上記Aの取決めに基づき、N社は、別表3のとおり、平成18年1月から同年6月までの間、本件A診療所の売上金額から経費の要支払額を差し引いて各月の利益の金額(別表3の「利益の金額」欄の各金額)を概算した上、当該利益の金額を250,000円以下の金額とこれを超える金額とに区分し、250,000円以下の金額には32%、これを超える金額には35%をそれぞれ乗じて計算した金額を合計して、N社が請求人の納税準備金として預かる金額(別表3の「納税準備金」欄の各金額)を算定し、また、当該利益の金額から当該納税準備金の額を控除して、請求人に対する各月の支払額(別表3の「各月支払額」欄の各金額)を算定した。
C 請求人が月々支払を受けた金員等
 N社は、上記Bの計算に基づき、平成18年1月から同年6月までの各月25日ころ(別表3の「支払年月日」欄の各日)、別表3の「利益の金額」欄の各金額に相当する金員を本件A診療所売上金口座から払い出した上、別表3の「納税準備金」欄の各金額に相当する金員を請求人の納税準備金として預かり、これを本件A診療所納税準備金口座に預け入れて留保し、また、別表3の「各月支払額」欄の各金額に相当する金員を本件A診療所の名義でG2銀行i支店の請求人名義普通預金口座(番号○○○○。以下「請求人受取口座」という。)に振り込んだ。
 なお、平成18年1月から同年6月までの期間について、N社が概算した本件A診療所の事業に係る請求人の利益の金額は、合計2,489,300円であり、このうち、N社が請求人の納税準備金として預かった金額は、合計826,255円、N社が請求人受取口座に振り込んだ金額は、合計1,663,045円であった。
D 請求人の納税準備金等の払出し
 N社は、上記Cのとおり請求人の納税準備金として預かり、本件A診療所納税準備金口座に預け入れて留保していた金員(826,255円)について、本件A診療所の事業に係る請求人の利益の確定額(2,544,804円)から上記Cの概算していた利益の金額(2,489,300円)を控除した後の残額(55,504円)と合わせ、合計881,759円を、平成19年2月20日、本件A診療所の名義で請求人受取口座に振り込んだ。
(ハ) 本件A診療所の事業に係る決算書の作成及び送付等
 N社は、上記(イ)の業務受託に基づき、請求人のため、本件A診療所の事業に係る会計帳簿の記帳を代行した。
 N社及びMグループに属する各診療所の税務に関与するP2税理士は、N社を通じて請求人から依頼を受け、上記会計帳簿の記載に基づき、本件A診療所の事業に係る平成18年分の所得税の青色申告決算書(以下「本件A診療所平成18年分決算書」という。)を作成し、これを平成19年2月14日付で請求人に対し送付した。
 なお、本件A診療所平成18年分決算書に記載された本件A診療所の事業に係る青色申告特別控除前の事業所得の金額は、上記(ロ)のDの本件A診療所の事業に係る請求人の利益の確定額と同額の2,544,804円であった。
ハ 本件B診療所の事業に係る経理の状況等
(イ) 本件B診療所の事業に係る経理の委託状況等
A 請求人は、本件B診療所の事業者としてQグループに参加するに際し、平成18年2月ころ、R社との間で、本件B診療所の事業に係る売上管理、収支明細書の作成、請求人の確定申告のためのデータの作成等の経理に関する業務を同社に委託する旨の業務委託契約を締結した。
 上記R社は、平成18年10月○日、商号をS社に変更して○○○○した(以下、商号変更による○○○○の前後を通じて、同社を「S社」という。)。
B 請求人は、本件B診療所を開設するに際し、Qグループに係る経費の支払代行等を行う「Q事務局」との間で、請求人が、Q事務局に対し、本件B診療所の売上金を入金するための預金口座の通帳を預けて本件B診療所に係る経費等の支払業務を委託することを合意した。
 そして、請求人は、平成18年3月3日、本件B診療所の売上金を入金するための預金口座として、G1銀行d支店に「Q4 P1(請求人氏名)」名義普通預金口座(番号○○○○。以下「本件B診療所売上金口座」という。)を開設し、同月上旬、本件B診療所売上金口座の通帳及び届出印をQ事務局に預けた。
C S社及びQグループに属する各診療所の税務に関与するP3税理士は、S社を通じて請求人から依頼を受け、平成18年3月20日、所得税法第230条《給与等の支払をする事務所の開設等の届出》の規定に基づき、請求人が同年2月16日に本件B診療所を開設した旨記載した「給与支払事務所等の開設届出書」をL税務署長に対し提出した。
 また、本件B診療所に勤務する医師、職員の給与等の支払、それらの給与等に係る所得税の源泉徴収及び納付は、S社、P3税理士及びQ事務局において行われた。
(ロ) 本件B診療所の事業から生ずる利益の支払の状況等
A 本件B診療所の事業から生ずる利益の支払に関する取決め
 本件B診療所の事業から生ずる利益は、その売上金が入金される本件B診療所売上金口座に蓄積されるところ、請求人とS社及びQ事務局とは、請求人が、上記(イ)のAのとおり、S社に経理に関する業務を委託し、また、上記(イ)のBのとおり、Q事務局に本件B診療所売上金口座の通帳及び届出印を預けて経費等の支払業務を委託するに際し、請求人が本件B診療所売上金口座から月々支払を受ける金額について、S社が、毎月、所定の方法で本件B診療所の事業に係る請求人の利益の金額(以下「本件B診療所請求人利益額」という。)を計算した上、当該利益の金額に相当する金員のうち、当該利益の金額に所定の割合を乗じて算定した金額を請求人に支払う金額とし、当該金額に相当する金員を、Q事務局が本件B診療所売上金口座から払い出して請求人に対し月々支払い、その余の額(上記利益の金額から上記支払額を控除した後の残額)に相当する金員を、請求人の確定申告による納税に備えて、Q事務局が請求人の納税準備金として預かることを取り決めた。
 なお、平成18年3月31日付「新給与システム移行での問題点と重点ポイント」と題する書面、「新給与システム」と題する書面及び「Q4 25日支払」と題する書面に請求人が記載したメモ、後記Bの「15締め確認用事業収支明細」などによれば、本件B診療所請求人利益額は、「基本給」と称する定額の利益配分の額に、本件B診療所における消費税等に相当する金額を含まない売上金額に応じて算出される「歩合給」と称する売上連動型の利益配分の額などを加算して計算される金額とされていた。
 また、本件B診療所の売上金額から本件B診療所請求人利益額を控除した後の残額は、本件B診療所の職員の給与、家賃、広告宣伝費等の経費とされていた。
B 請求人が月々支払を受ける金額等の計算
 上記Aの取決めに基づき、S社は、別表4−1から別表4−3までのとおり、平成18年2月16日から平成20年12月15日までの期間、毎月16日から翌月15日までの1か月を1計算期間として、本件B診療所の売上金額から上記Aの方法で本件B診療所請求人利益額(別表4−1から別表4−3までの「利益の金額」欄の各金額)を算出した上、本件B診療所請求人利益額から請求人に対する各月の支払額(別表4−1から別表4−3までの「各月支払額」欄の各金額)を算定し、また、本件B診療所請求人利益額から当該支払額を控除して、Q事務局が請求人の納税準備金として預かる金額(別表4−1から別表4−3までの「納税準備金」欄の各金額)を算定した。
 そして、S社は、平成18年3月から平成20年12月までの各月25日ころ、前月16日から当月15日までの計算期間における本件B診療所請求人利益額、請求人に対する当月の支払額及びQ事務局が請求人から納税準備金として預かる金額、請求人受取口座に振り込む金額などを記載した「15締め確認用事業収支明細」と題する文書(以下「本件明細書」という。)を請求人に対し送付した。
 なお、本件B診療所請求人利益額のうちQ事務局が請求人の納税準備金として預かる金額の占める割合は、別表4−1から別表4−3までの「留保割合」欄のとおり、平成18年2月16日から同年4月15日までの各計算期間が約24%、同月16日から平成19年4月15日までの各計算期間が約30%、同月16日から平成20年12月15日までの各計算期間が約32%であった。
C 請求人が月々支払を受けた金員等
 上記BのS社の計算に基づき、Q事務局は、平成18年3月から平成20年12月までの各月25日ころ(別表4−1から別表4−3までの「支払年月日」欄の各日)、別表4−1から別表4−3までの「各月支払額」欄の各金額に相当する金員を本件B診療所売上金口座からそれぞれ払い出して本件B診療所の名義で請求人受取口座に振り込み、別表4−1から別表4−3までの「納税準備金」欄の各金額に相当する金員を請求人の納税準備金として預かり、これを本件B診療所売上金口座に留保した。
 なお、平成18年2月16日から平成20年12月15日までの各計算期間について、本件B診療所請求人利益額は、平成18年2月16日から同年12月15日までの各計算期間が合計○○○○円、同月16日から平成19年12月15日までの各計算期間が合計○○○○円、同月16日から平成20年12月15日までの各計算期間が合計○○○○円であり、これを基礎として、Q事務局が請求人受取口座に振り込んだ金額は、平成18年分が合計○○○○円、平成19年分が合計○○○○円、平成20年分が合計○○○○円であり、また、Q事務局が請求人の納税準備金として預かった金額は、平成18年分が合計○○○○円、平成19年分が合計○○○○円、平成20年分が合計○○○○円であった。
D 請求人の納税準備金の払出し
 Q事務局は、上記Cのとおり請求人の納税準備金として預かり、本件B診療所売上金口座に留保していた金員(平成18年分が合計○○○○円、平成19年分が合計○○○○円、平成20年分が合計○○○○円である。)について、平成19年4月26日に○○○○円、平成20年3月17日に○○○○円、平成21年3月16日に○○○○円を本件B診療所売上金口座からそれぞれ払い出して、各同日、本件B診療所の名義で請求人受取口座に振り込んだ。
(ハ) 本件B診療所の事業に係る損益計算のデータの作成及び送信等
A S社は、上記(イ)のAの業務委託契約に基づき、請求人のため、平成18年2月から平成20年12月までの期間について、本件B診療所の事業に係る会計帳簿の記帳を代行した。
 また、S社は、平成18年2月分から平成20年12月分までの各月分について、上記会計帳簿の記載に基づき、本件B診療所の事業に係る合計残高試算表(以下「本件残高試算表」という。)を作成し、平成18年2月分から平成19年9月分まで及び同年11月分から平成20年12月分までの34か月分の本件残高試算表(以下、これらを併せて「本件各残高試算表」という。)を、それぞれ計算対象月の翌々月25日ころ、請求人に対し送付した。
 なお、本件各残高試算表のうち、平成18年6月分及び平成19年3月分を除く32か月分の本件残高試算表は、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税等に相当する額と当該課税資産の譲渡等に係る対価の額とを区分して経理する、いわゆる税抜経理方式により作成されていた。
B S社は、請求人に対し、請求人がQグループの顧問税理士に確定申告手続を依頼するか、それとも他の税理士に確定申告手続を直接依頼するかについて、その回答を求める文書を、平成18年分の確定申告手続については平成19年1月29日、平成19年分の確定申告手続については平成20年2月20日、平成20年分の確定申告手続については平成21年2月10日にそれぞれファクシミリにより送信した。
 上記各文書は、いずれも、請求人がQグループの顧問税理士に確定申告手続を依頼する場合には同文書の「Qグループ側税理士先生」という項目、請求人が他の税理士に確定申告手続を直接依頼する場合には同文書の「医院長先生側税理士先生」という項目に丸印を付して回答する様式であったところ、請求人は、上記各文書の送信を受けて、いずれも、それから数日以内に当該受信文書の「医院長先生側税理士先生」という項目に丸印を付した上、その文書をS社に対しファクシミリにより返信した。
 なお、請求人は、本件各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等について、いずれも確定申告手続を税理士に依頼しなかった。
C 請求人からの上記Bの回答を受け、S社は、上記(イ)のAの業務委託契約に基づき、請求人の本件各年分の確定申告のための資料として、平成19年3月13日に本件B診療所の事業に係る平成18年分の損益計算書(以下「本件B診療所平成18年分損益計算書」という。)、平成20年3月13日及び同月14日に本件B診療所の事業に係る平成19年分の各損益計算書(以下「本件B診療所平成19年分各損益計算書」という。)、平成21年3月10日に平成20年1月から同年12月までの各月における収益科目及び費用科目の各残高の増減額並びに同年12月末日時点の収益科目及び費用科目の各残高を1枚の表にまとめたもの(以下「本件B診療所平成20年分損益計算表」という。)のデータを記録した各電子ファイルをそれぞれ電子メールに添付して請求人に送信した。
 なお、S社から請求人に対し平成20年3月14日に送信された本件B診療所の事業に係る平成19年分の損益計算書(以下「本件B診療所平成19年分修正後損益計算書」という。)は、S社から請求人に対し同月13日に送信された損益計算書(以下「本件B診療所平成19年分修正前損益計算書」という。)と比べて、「グループ共通経費配賦(外注費)」という名称の経費科目の残高が1,167,101円多く、かつ、「外注費調整(外注費)」という名称の経費科目の残高が1,167,101円少ない点だけが相違しているものであり、これらの損益計算書に記載された事業所得の金額は同額である。
 また、本件B診療所平成18年分損益計算書、本件B診療所平成19年分各損益計算書及び本件B診療所平成20年分損益計算表(以下、これらを併せて「本件B診療所各年分損益計算書類」という。)は、いずれも課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税等に相当する額と当該課税資産の譲渡等に係る対価の額とを区分しないで経理する、いわゆる税込経理方式により作成されており、本件B診療所平成18年分損益計算書、本件B診療所平成19年分各損益計算書及び本件B診療所平成20年分損益計算表に記載された本件B診療所の事業に係る事業所得の金額は、それぞれ○○○○円、○○○○円及び○○○○円であった。
ニ 不動産賃貸の状況
 請求人は、本件各年分において、別表5の順号1及び2の各敷地権付区分所有建物を駐車場と併せて賃貸の用に供し、また、平成19年3月以降、別表5の順号3の敷地権付区分所有建物を駐車場と併せて賃貸の用に供していた。
 なお、以下、別表5の順号1、2及び3の各敷地権付区分所有建物をそれぞれ「T1」、「T2」及び「T3」といい、これらを併せて「本件各賃貸用不動産」という。
ホ 黒毛和種牛売買・飼養委託契約の締結等
 請求人は、平成11年10月20日、平成12年4月20日、平成14年3月20日、平成19年10月19日、平成20年4月11日、同年7月25日、同年11月20日、平成21年1月20日及び同年3月19日、U社との間で、請求人がU社から黒毛和種牛の共有持分を譲り受け、同社に対し、繁殖を目的として当該黒毛和種牛の飼養を委託し、当該黒毛和種牛が子牛を産んだ場合は、同社に対し、当該子牛の共有持分を約定の譲渡予定代金により譲渡し、その譲渡代金から上記黒毛和種牛に係る飼養委託費を控除した後の残額に相当する金員(「予定売却利益金」と称する和牛投資による利益)の支払を毎年所定の時期に同社から受けることができる旨の黒毛和種牛売買・飼養委託契約をそれぞれ締結した(以下、これらの黒毛和種牛売買・飼養委託契約を併せて「本件各和牛投資契約」という。)。
 請求人は、本件各和牛投資契約を締結するに際し、平成19年10月20日、平成20年4月21日、同年7月24日、同年11月20日、平成21年1月22日及び同年3月23日、それぞれ2,000,000円、3,920,000円、6,000,000円、5,000,000円、3,000,000円及び1,920,000円を請求人受取口座から払い出し、U社に対する黒毛和種牛の共有持分の代金の支払に充てた。
ヘ 請求人の平成20年課税期間の消費税等についての申告納税義務
(イ) 請求人が本件A診療所及び本件B診療所において行う形成外科の医療サービスの提供は、事業として対価を得て行われる役務の提供であるため、消費税法第2条《定義》第1項第8号に規定される「資産の譲渡等」に該当するところ、同法別表第一第6号に掲げる「療養若しくは医療又はこれらに類するものとしての資産の譲渡等」に該当しないため、同法第6条《非課税》の非課税の資産の譲渡等には該当せず、同法第2条第1項第9号に規定される「課税資産の譲渡等」に該当する。
 そこで、本件B診療所の医師及び職員は、手術及び治療を受けようとする患者に手術内容等を説明する際、本件B診療所で行う手術及び治療には消費税等が課されることを説明した上、消費税等を含む手術代金を受領していた。
(ロ) 本件A診療所平成18年分決算書に記載された本件A診療所の平成18年分の売上金額27,783,517円及び本件B診療所平成18年分損益計算書に記載された本件B診療所の平成18年分の売上金額○○○○円の合計金額○○○○円は10,000,000円を超えるから、請求人は、平成20年課税期間について、消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項の規定の適用がなく、同法第5条《納税義務者》第1項及び地方税法第72条の78《地方消費税の納税義務者等》第1項の各規定に基づき、消費税等の納税義務者であった。
ト 本件各期限後申告書の提出等
(イ) 請求人は、平成21年10月16日以降、L税務署個人課税部門所属の職員の面接を受け、当該職員に対し、本件各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等の課税標準等又は税額等の計算のための証拠資料として、まる1本件A診療所平成18年分決算書、まる2請求人がパソコンと表計算ソフトを使用し、本件B診療所各年分損益計算書類を基礎として入力した本件B診療所の事業に係る本件各年分の損益計算書のデータ及び本件B診療所各年分損益計算書類、まる3本件各賃貸用不動産の賃貸に係る収入及び経費について、請求人がパソコンと表計算ソフトを使用し、その取引日、取引金額、取引の相手方、取引内容等を物件及び取引の種類別に時系列に沿って一覧表形式で入力したデータ、まる4T1及びT2の売主であるiV社及びT3の売主であるV社が、それらの買主である請求人に交付した「譲渡対価証明書」(敷地権付区分所有建物の譲渡対価の額のうち、建物部分に相当する譲渡対価の額を記載したもの)、まる5本件各賃貸用不動産に係る平成17年度、平成18年度、平成19年度及び平成20年度の各「固定資産税・都市計画税(土地・家屋)納税通知書」、まる6y社が請求人あてに発行した平成19年分及び平成20年分の各「地震保険料控除証明書」、まる7請求人がT1及びT2の購入のためにG4銀行(平成○年○月○日にG3銀行に吸収合併され、存続会社であるG3銀行がG2銀行に商号を変更した。その後、G2銀行は、平成○年○月○日、G5銀行に吸収合併され、存続会社であるG5銀行がG2銀行に商号を変更した。以下、G4銀行、旧G2銀行、現G2銀行を総称して「G2銀行」という。)及びG6銀行からそれぞれ融資を受けた借入金に係る各返済予定表(各月の支払額につき元金返済額と利息額の内訳を示したもの)、まる8支払を受ける者をいずれも請求人、支払者をN社とする平成18年分の給与所得の源泉徴収票及び支払者をP4とする平成18年分の給与所得の源泉徴収票、まる9支払を受ける者を請求人、支払者をQグループとする「平成18年分報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」、まる10本件各和牛投資契約について、請求人がパソコンと表計算ソフトを使用し、その契約日、黒毛和種牛の共有持分の代金の支払額、U社から各和牛投資契約に基づき支払を受ける利益の額及びその支払日、和牛投資契約の締結等に際しU社から交付を受けた商品券の額等を契約ごとにその締結日順に一覧表形式で入力したデータ、まる11その他請求人が保存をしていた、生命保険料控除証明書、預貯金通帳などの書類並びに請求人受取口座における平成16年11月8日から平成20年12月29日までの入出金取引、各取引の内容及び各取引後の残高を入力したデータなどの証拠資料を提示した。
 なお、以下、上記L税務署個人課税部門所属の職員を「本件職員」という。
(ロ) 本件職員は、上記(イ)の証拠資料及び請求人の説明に基づき、請求人の本件各年分を含む平成16年分から平成20年分までの各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等について、それぞれ課税標準等及び税額等を計算した上、所得金額、納付すべき所得税の額その他必要事項を記載した当該各年分の所得税の各確定申告書の用紙、収入金額、必要経費の額その他必要事項を記載した当該各年分の所得税の各青色申告決算書の用紙、課税標準額、納付すべき消費税等の額その他必要事項を記載した平成20年課税期間の消費税等の確定申告書の用紙を用意した。
(ハ) 本件職員が、平成21年11月20日、上記(ロ)の本件各年分を含む平成16年分から平成20年分までの各年分の所得税の各確定申告書の用紙、当該各年分の所得税の各青色申告決算書の用紙及び平成20年課税期間の消費税等の確定申告書の用紙を請求人に対し提示したところ、請求人は、同日、当該各用紙に押印して、上記(2)のイのとおり、L税務署長に対し、本件各年分の所得税の各確定申告書(本件所得税各期限後申告書)、本件各年分の所得税の各青色申告決算書及び平成20年課税期間の消費税等の確定申告書(本件消費税等期限後申告書)を提出するとともに、平成16年分及び平成17年分の所得税の各確定申告書及び当該各年分の所得税の各青色申告決算書を提出した。
(ニ) L税務署長は、上記(ハ)の本件各期限後申告書の提出を受けて、上記(2)のロのとおり、本件各賦課決定処分をした。

(5) 争点

  1. 争点1 請求人が法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するか否か。
  2. 争点2 本件各期限後申告書の提出が、通則法第66条第5項に規定する「調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否か。
  3. 争点3 請求人が法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについて、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否か。

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2 主張

(1) 争点1(請求人が法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するか否か。)

請求人 原処分庁
 請求人は、次のとおり、○○○○又は誤認により法定申告期限までに確定申告書を提出することができなかったのであるから、請求人が法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについては、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当する。  請求人の主張する事情は、いずれも主観的な事情に基づくものであるから、請求人が法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があったとは認められない上、次のように、請求人の主張するような事実があるとも認められないから、請求人が法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについては、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当しない。
イ 本件各年分の所得税
 請求人は、平成12年ころから○○○○であったが、平成15年及び平成16年に有価証券の売買で多額の損失を出したこと、平成18年に本件B診療所を開設する際に参加したQグループの方針・体質になじめなかったことから○○○○が悪化したため、請求人は、平成18年分の所得税の確定申告書を法定申告期限までに作成し提出することができなかった。
 その後も、請求人は、依然としてQグループの方針・体質になじめず、また、このことに加えて、平成18年分以降の所得税の各確定申告書を法定申告期限までに提出することができなかったことから、○○○○が更に悪化したため、平成19年分、平成20年分の所得税の各確定申告書をいずれも法定申告期限までに作成し提出することができなかった。
イ 請求人が○○○○であったとしても、請求人は、本件B診療所を開設した平成18年2月16日以降、本件B診療所の業務に支障を来すこともなく、その業務に日々従事していたのであるから、請求人の健康状態は、法定申告期限までに確定申告書を提出することができないほど○○○○が悪化していたとは認められない。
ロ 平成20年課税期間の消費税等
 請求人は、平成20年課税期間の消費税等について、S社又はQ事務局が請求人の名義で確定申告書を提出し、その納税もしてくれているものと誤認していたので、法定申告期限までに確定申告書を提出することができなかった。
ロ 請求人が、S社又はQ事務局が請求人の名義で消費税等の確定申告書を提出してくれているものと誤認していたとの主張は、上記1の(4)のハの(ハ)のBのとおり、請求人が、その確定申告手続をQグループの顧問税理士に依頼することを断ったことと矛盾するから、そのような誤認があったとは認められない。

(2) 争点2(本件各期限後申告書の提出が、通則法第66条第5項に規定する「調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否か。)

請求人 原処分庁
 本件各年分の所得税について、請求人には本件職員と面接する前からいずれも確定申告書を提出する意思があり、また、平成20年課税期間の消費税等について、請求人には申告しない意図などなかったことから、上記1の(4)のトの(ハ)のとおり、請求人は、本件職員から課税標準額等及び税額等の記載のある各確定申告書の用紙の交付を受けると、自ら進んで当該各用紙に押印し、それらを本件各期限後申告書としてL税務署長に対し提出したのであり、本件各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等について確定申告書を提出せず決定を受けることなど考えもしなかった。
 したがって、請求人は、「調査があったことにより」確定申告書の提出を決意したものではないし、「決定があるべきことを予知して」確定申告書の提出を決意したものでもないから、本件各期限後申告書の提出は、通則法第66条第5項に規定する「調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する。
 本件各期限後申告書の提出は、次のような提出経緯からすれば、通則法第66条第5項に規定する「調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないとき」には該当しない。
イ 本件職員は、平成21年10月16日、請求人に対する所得税及び消費税等の調査に着手し、同日以降、請求人に対する質問調査及び請求人から提示を受けた証拠資料の検査を実施するなどして調査を進め、その結果に基づき、本件各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等の各確定申告書の用紙を作成した。
ロ 上記1の(4)のトの(ハ)のとおり、本件職員は、平成21年11月20日、上記イの各確定申告書の用紙を請求人に対し提示した上、本件各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等について、それぞれ期限後申告書の提出をしょうようし、それを受けて、請求人は、本件各期限後申告書を提出した。

(3) 争点3(請求人が法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについて、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否か。)

原処分庁 請求人
イ 重加算税の制度は、納税者が法定申告期限までに納税申告書を提出しないことについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものであり、重加算税を課するためには、納税者のした無申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、無申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在することを要するものであるが、上記のような重加算税の制度の趣旨からすると、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から納付すべき税額等を申告しないことを意図し、税を免れる意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、法定申告期限までに納税申告書を提出しなかった場合には、重加算税の賦課要件が満たされると解すべきである。
ロ これを本件についてみると、次のとおり、請求人は、本件各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等について、申告と納税の義務があることを認識しながら、当初から納付すべき税額等を申告しないことを意図し、税を免れる意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったといえるから、請求人が法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについては、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たす。
(イ) 請求人は、上記1の(4)のロの(ハ)及び上記1の(4)のハの(ハ)のCのとおり、法定申告期限までに本件A診療所平成18年分決算書の送付及び本件B診療所各年分損益計算書類のデータの送信を受けていたことなどからすれば、請求人は、本件各年分の事業所得の金額を本件各年分の所得税の法定申告期限までに認識しており、かつ、本件各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等について、それぞれ確定申告が必要であることも認識していた。
(ロ) このように、請求人は、所得税及び消費税等について確定申告が必要であることを認識していたのに、その確定申告手続について、上記1の(4)のハの(ハ)のBのとおり、他の税理士に直接依頼するとして、Qグループの顧問税理士に依頼するのを断り、その後、自ら確定申告をすることも、税理士に確定申告手続を依頼することもせず、上記1の(4)のトの(イ)から(ハ)までのとおり、本件職員による調査があるまで、本件各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等の各確定申告書をいずれも提出しなかった。
(ハ) 請求人は、上記1の(4)のハの(ロ)のDのとおり、Q事務局が請求人の納税準備金として預かり本件B診療所売上金口座に留保していた資金を請求人受取口座に振り込ませた後、これを納税には充てず、上記1の(4)のホのとおり、U社に対する黒毛和種牛の共有持分の代金の支払に充てていた。
(ニ) 請求人は、S社からの確定申告書の控えの送付要求に一切応じず、確定申告をした日や納税額についての再三の問い合わせにも回答しなかった。
 仮に、本件について通則法第66条第1項ただし書及び同条第5項の適用がないとしても、請求人が法定申告期限までに本件各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等の各確定申告書を提出しなかったことについては、次のとおり、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たさないから、本件各賦課決定処分のうち、無申告加算税相当額を超える部分は、いずれも取り消されるべきである。
イ 請求人が、本件各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等の「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」た事実はない。
 また、法定申告期限後についてみても、請求人は、本件職員に対し、本件各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等の課税標準等又は税額等の計算に必要な書類を積極的に提示しているし、本件職員に対し事実と異なる答弁をした事実もない。
ロ 請求人が、本件各年分の所得税について、いずれも確定申告書を提出する意思を有していたことは、後記(イ)から(ハ)までの事実から明らかであり、請求人に、当初から納付すべき税額等を申告しないことを意図していたなどということはない。
(イ) 請求人は、本件各年分の所得税について、確定申告書を作成しこれを提出できるよう、その計算に必要な書類を保存していた。
(ロ) 請求人は、平成18年分の所得税については平成19年6月ころ、平成19年分の所得税については平成20年4月ころに、上記(イ)の書類に基づき確定申告書や決算書の下書をし、また、パソコン及び表計算ソフトにより本件各年分の確定申告書が作成できるようにするため、平成19年の夏ころから平成21年3月ころまでの間、上記(イ)の書類を本件B診療所に通う際にも携行し、休診日や診療時間外を利用して計算式と取引金額(収入金額や必要経費の額)などをパソコンに入力し、確定申告書を提出するための準備をしていた。
(ハ) 上記1の(4)のホのU社に投資しているが、請求人は、本件各年分の所得税について、それぞれ確定申告書を提出するとともに所得税を納付すべきことを認識していたので、各年分の納付すべき所得税の額を見積もり、その額を上回る金額が請求人受取口座に残るようにし、確定申告書の提出と同時に納税ができるように準備をしていた。
ハ 平成20年課税期間の消費税等については、上記(1)の「請求人」欄のロのとおり、請求人は、S社又はQ事務局が請求人の名義で確定申告書を提出し、その納税もしてくれているものと誤認していたため、確定申告書を法定申告期限までに提出することができなかっただけで、確定申告書を提出する意思を有していなかったのではない。
ニ 以上によれば、請求人が、「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」た事実はなく(上記イ)、また、「当初から納付すべき税額等を申告しないことを意図し」ていたということもできず(上記ロ及びハ)、さらに、請求人が「税を免れる意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした」事実もないから、請求人が、法定申告期限までに本件各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等の各確定申告書を提出しなかったことについては、重加算税の賦課要件を満たさない。

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3 判断

(1) 争点1(請求人が法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するか否か。)

イ 法令解釈
 無申告加算税は、期限内申告書の提出がされなかったことによる納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対し課されるものであり、これによって当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、期限内申告書を提出しないことによる納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
 通則法第66条第1項ただし書は、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、無申告加算税を課さないこととしているが、上記の無申告加算税の趣旨に照らせば、同項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、災害、交通や通信の途絶など、期限内申告書の提出がなかったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
ロ 判断
 請求人は、上記2の(1)の「請求人」欄のとおり、本件各年分の所得税については、○○○○が年々悪化したため、また、平成20年課税期間の消費税等については、S社又はQ事務局が請求人の名義で確定申告書を提出するものと誤認したため、いずれも法定申告期限までに確定申告書を提出することができなかった旨主張する。
 しかしながら、請求人の当審判所に対する「○○○○でしたが、診療を引き受けた医師としての責任において、仕事に支障が出ないよう無理をして仕事をしていました。」旨の答述及びS社の従業員としてQグループに属する診療所の経理に関する業務等を担当していたP5の異議申立てに係る調査の担当者(以下「異議調査担当者」という。)に対する「請求人は、普通に出勤していますし、もし、問題があれば、本件B診療所の事務長からQ事務局に情報が入るようになっていますが、技術的なことなどトラブルは聞いていません。」旨の申述からは、仮に、請求人が○○○○にり患していたとしても、診療等に支障を来さない軽微なものであったと認められる上、後記(3)のハの(イ)のとおり、請求人は、本件各年分の所得税について、当初から所得を申告しないことを意図し、その意図に基づき期限内申告書を提出しなかったものと認められる。
 また、消費税等についても、請求人の当審判所に対する「Q側に消費税等の申告の内容を確認したことはありません。確認しなかったのは、所得税の申告をしていなかったことについての負い目があるからです。所得税の申告についてはあまり触れられたくありませんでした。」旨の答述からすれば、請求人は、請求人自身の事情によって、上記1の(4)のハのとおり請求人の経理に関する業務を行うS社や納税準備金を預かるQ事務局に消費税等の確定申告手続について問い合わせるなどの確認をせず、法定申告期限までに申告をしなかったことが認められる上、後記(3)のハの(ロ)のとおり、請求人は、平成20年課税期間の消費税等について、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図に基づき期限内申告書を提出しなかったものと認められる。
 以上からすれば、請求人が本件各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等につき法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するということはできない。
 したがって、請求人の主張にはいずれも理由がない。

(2) 争点2(本件各期限後申告書の提出が、通則法第66条第5項に規定する「調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか否か。)

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) L税務署個人課税部門所属の職員は、請求人の名義で平成18年3月分以降の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納付があるものの、請求人から本件各年分の所得税の各確定申告書の提出がなかったため、平成21年9月ころ、本件B診療所の電話番号(○○○○)に問い合わせの電話を架けたが、Qグループの電話予約集中対応センターに転送され、本件B診療所に直接つながらなかったため、上記1の(4)のハの(イ)のCの届出書を提出したP3税理士に対し、請求人の所得税の確定申告書の提出先を問い合わせた。
(ロ) 本件職員は、平成21年10月14日及び同月15日、P3税理士から、電話で、Qグループに属する各診療所の管理者である医師の確定申告については、当該各医師が、それぞれ個人事業主として所得税の確定申告をすることとなっている旨、本件B診療所の事業から支払をする給与等に係る源泉所得税の計算及び納付には関与しているが、請求人の所得税の確定申告については、請求人が自分で申告するというので関与しなかった旨、Q事務局から請求人に対し所得税の確定申告の状況を問い合わせてもらっているが、請求人からの回答がまだない旨、請求人に対して売上げや経費の資料は送付している旨などの申述を受け、P3税理士に対し、本件職員が請求人に直接接触して所得税の確定申告の状況を確認する旨告げた。
(ハ) 本件職員が、平成21年10月16日、本件B診療所において、請求人に対し、本件各年分の所得税について確定申告をしているかどうかを質問したところ、請求人は、いずれの年分についても確定申告をしていない旨申述した。
 そこで、本件職員は、請求人に対し、本件各年分の所得税の調査を行う旨告げるとともに、請求人の本件各年分の所得金額の計算に必要な書類の提示を求め、請求人は、本件B診療所の休診日である平成21年10月21日にL税務署に当該書類を持参する旨述べて応諾した。
(ニ) 請求人は、平成21年10月21日、紙袋2つ分の書類及びパソコンを携行してL税務署に赴いた。
 本件職員は、上記の書類等を携行した請求人に対し、本件B診療所の事業に係る事業所得の金額の計算に必要な証拠資料の提示を求め、請求人から本件B診療所各年分損益計算書類などの証拠資料の提示を受けるとともに、請求人に対する質問調査を実施した。
 その結果、本件職員は、まる1請求人には、本件各年分において、本件各賃貸用不動産の賃貸による所得があること、まる2請求人には、本件各年分において、U社から本件各和牛投資契約に基づき支払を受けた利益があり、それが雑所得に係る収入金額に該当すること、まる3平成20年課税期間の消費税等について、請求人が納税義務者であり確定申告の必要があることなどを認め、これらの点を請求人に指摘し、請求人に対し、後日改めて本件各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等の課税標準等及び税額等の計算に必要な証拠資料の提示をするよう求めた。
 請求人は、平成21年10月21日、同月28日、同年11月11日及び同月18日、本件職員からの求めに応じ、持参していた証拠資料から、上記1の(4)のトの(イ)のとおり、本件各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等の課税標準等及び税額等の計算に必要な証拠資料を本件職員に提示した。
(ホ) 本件職員は、上記(ニ)の質問検査に基づき、平成21年11月18日から同月20日までの間に、上記1の(4)のトの(ロ)のとおり、請求人の本件各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等について、それぞれ課税標準等及び税額等を計算した上、本件各年分の所得税の各確定申告書の用紙、本件各年分の所得税の各青色申告決算書の用紙及び平成20年課税期間の消費税等の確定申告書の用紙を用意した。
(ヘ) 本件職員は、平成21年11月20日、請求人に対し、上記(ホ)の所得税の各確定申告書の用紙、所得税の各青色申告決算書の用紙及び消費税等の確定申告書の用紙を提示した上、本件各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等について期限後申告書の提出をしょうようし、請求人は、上記1の(4)のトの(ハ)のとおり、同日、当該各用紙に押印して、本件各年分の所得税の各確定申告書、本件各年分の所得税の各青色申告決算書及び平成20年課税期間の消費税等の確定申告書をL税務署長に対し提出した。
ロ 法令解釈
 期限内申告書の提出がされなかった場合であっても、期限後申告書の提出があり、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないときには、その申告に基づく納付すべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額の無申告加算税を課することとした通則法第66条第5項の規定は、「申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知」することなく自発的に期限後申告を決意し、期限後申告書を提出した者に対しては、課税庁において課税標準等を調査する等の事務負担を軽減することができることも勘案して、例外的に無申告加算税を軽減することとし、もって納税者の自発的な期限後申告を奨励することとした趣旨である。
 そして、期限後申告書の提出が、通則法第66条第5項に規定する「調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するためには、納税者が期限後申告書を提出しなければならないことを認識し、これを決意したとしても、その決意は、単に内心にとどまるものでは足りないのであり、その期限後申告書が提出される以前に課税庁において当該申告内容についての調査が開始され、それにつき納税者が認識することができる程度の電話、文書等による質問があった場合には、その後にされた期限後申告書の提出は、同項の「決定があるべきことを予知してされたものでないとき」には当たらないものと解するのが相当である。
ハ 判断
(イ) 本件職員は、上記イの(ハ)及び(ニ)のとおり、平成21年10月16日以降、請求人に対する質問調査を実施し、また、請求人から提示を受けた証拠資料を検査するなどして、本件各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等について課税標準等及び税額等の調査を行い、上記イの(ホ)及び(ヘ)のとおり、本件職員は、その調査に基づき、確定申告書等の用紙を用意し提示した上、期限後申告書の提出のしょうようをした後に、請求人から本件各期限後申告書の提出があったことからすれば、本件各期限後申告書は、いずれも、請求人が、調査が開始されたことを認識してそれぞれ提出したものと認められるのであり、請求人から自発的な期限後申告があったとはいえないから、本件各期限後申告書の提出は、通則法第66条第5項に規定する「調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当しないというべきである。
(ロ) これに対して、請求人は、上記2の(2)の「請求人」欄のとおり、本件各年分の所得税について、請求人には本件職員と面接する前から確定申告書を提出する意思があり、また、平成20年課税期間の消費税等について、請求人には申告しない意図などなく、請求人は、「調査があったことにより」確定申告書の提出を決意したものではないし、「決定があるべきことを予知して」確定申告書の提出を決意したものでもないから、本件各期限後申告書の提出は、通則法第66条第5項に規定する「調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する旨主張する。
 しかしながら、仮に、請求人が、本件各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等について、本件職員と面接する前から期限後申告書の提出を決意していたとしても、上記イの(ハ)から(ヘ)までの状況の下では、その決意は単に内心にとどまるものにすぎず、請求人が自発的に本件各期限後申告書を提出したとはいえない。
 したがって、請求人の主張には、いずれも理由がない。

(3) 争点3(請求人が法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについて、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否か。)

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件各年分前の所得税の確定申告等の状況
A 平成13年分及び平成14年分の所得税について
 請求人が当審判所に提出した請求人の平成13年分及び平成14年分の所得税の各確定申告書の控え及び当該各年分の所得税の各青色申告決算書の控え、「収支日計式簡易帳簿.xls」及び「不動産帳簿a.xls」という名称の各Excel形式の電子ファイル並びに請求人の当審判所に対する答述から、請求人は、平成13年分及び平成14年分の所得税について、税理士に確定申告手続を依頼しなかったこと、請求人は、T1及びその駐車場に係る賃貸料等の収入金額からT1に係る減価償却費、固定資産税、都市計画税、不動産管理費及び駐車場の賃借料、T1の購入のためにG2銀行から融資を受けた借入金の利子等の合計金額を控除して、自ら平成13年分及び平成14年分の不動産所得の金額を計算するほか、配当所得の金額、給与所得の金額、所得控除の額及び納付すべき税額を計算し、確定申告書に別表6の「平成13年分」欄及び「平成14年分」欄のとおり記載して、それぞれ平成14年3月15日及び法定申告期限後の平成15年4月1日に確定申告をしたこと、請求人が当審判所に提出した「U社.xls」という名称のExcel形式の電子ファイルから、請求人が平成13年中及び平成14年中にU社から本件各和牛投資契約に基づきそれぞれ240,000円の利益の支払を受けたことがそれぞれ認められるが、請求人は、それらの金額を平成13年分及び平成14年分の雑所得に係る収入金額に算入して申告しなかったことが認められる。
B 平成15年分の所得税について
 請求人が当審判所に提出した「不動産収入.xls」という名称のExcel形式の電子ファイル及び請求人の当審判所に対する答述から、請求人は、平成15年中に給与等の収入がなかったこと、請求人には平成15年中にT1に係る賃貸料等の収入があったが、その収入金額は、請求人の配偶者控除、扶養控除及び基礎控除の合計額を下回る金額であったことから、請求人は、平成15年分の所得税について、確定申告書を提出することを要しないと判断し、確定申告をしなかったことが認められる。
C 平成16年分の所得税について
(A) 支払を受ける者をいずれも請求人、支払者をN社とする平成16年分の給与所得の源泉徴収票及び支払者を「Q1 P4」とする平成16年分の給与所得の源泉徴収票から、請求人には合計金額○○○○円の給与収入があり、その源泉所得税の合計金額は○○○○円であったこと、「不動産収入.xls」という名称のExcel形式の電子ファイルから、請求人には平成16年中に合計金額○○○○円のT1に係る賃貸料等の収入があったこと、そのほか、X証券が請求人に対し交付した平成16年分の特定口座年間取引報告書から、請求人がX証券に開設していた特定口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡による損失の額が○○○○円であったことがそれぞれ認められる。
(B) 請求人が当審判所に提出した日本実業出版社発行の「平成16年分 あなたの確定申告」という題名の平成16年分の所得税の確定申告の手引書及び請求人の当審判所に対する答述から、請求人は、上記(A)のとおり、所得がある一方、損失もあったことから、平成16年分の給与等に係る源泉所得税の全部又は一部の還付を受けることができるかもしれないと考え、平成17年2月ころ、上記手引書を購入し、所得税の確定申告手続について調べたが、特定口座内保管上場株式等の譲渡による損失の処理の仕方が分からなかったため、平成16年分の所得税について法定申告期限までに確定申告をしなかったことが認められる。
(C) その後、請求人は、上記(2)のイの(ハ)及び(ニ)のとおり、平成21年10月16日以降、本件職員による調査を受け、同年11月20日、本件職員から平成16年分の所得税の期限後申告書の提出をしょうようされると、請求人は、上記1の(4)のトの(ハ)のとおり、平成16年分の所得税について別表6の「平成16年分」欄のとおりとする確定申告書を提出した。
D 平成17年分の所得税について
(A) 支払を受ける者をいずれも請求人、支払者をN社とする平成17年分の給与所得の源泉徴収票及び支払者を「Q1 P4」とする平成17年分の給与所得の源泉徴収票から、請求人には合計金額○○○○円の給与収入があったこと、支払を受ける者を請求人、支払者をQグループとする「平成17年分報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」から、請求人には、131,110円の報酬、料金、契約金又は賞金の収入があったこと、また、それらの源泉所得税の合計金額は○○○○円であったこと、「不動産収入.xls」という名称のExcel形式の電子ファイルから、請求人には、T2に係る賃貸料等の収入が平成17年2月以降発生し、平成17年中のT1及びT2に係る賃貸料等の収入が合計金額○○○○円であったことがそれぞれ認められる。
(B) 請求人が当審判所に提出した日本実業出版社発行の「平成18年申告用 あなたの確定申告」という題名の平成17年分の所得税の確定申告の手引書並びに請求人の当審判所に対する答述及び本件職員に対する申述から、請求人は、上記(A)のとおり、平成17年分の給与等及び報酬等に係る源泉所得税を徴収されていたため、その全部又は一部の還付を受けることができるかもしれないと考え、平成18年2月ころ、上記手引書を購入し、所得税の確定申告手続について調べたが、T2に係る減価償却費の計算の方法及びリフォーム費用の処理の仕方が分からなかったため、平成17年分の所得税について法定申告期限までに確定申告をしなかったことが認められる。
(C) その後も、請求人は、T2に係る減価償却費の計算の方法及びリフォーム費用の処理の仕方が分からないとして、期限後申告をせず、上記(2)のイの(ハ)及び(ニ)のとおり、平成21年10月16日以降、本件職員による調査を受け、同年11月20日、本件職員から平成17年分の所得税の期限後申告書の提出をしょうようされると、請求人は、上記1の(4)のトの(ハ)のとおり、平成17年分の所得税について別表6の「平成17年分」欄のとおりとする確定申告書を提出した。
(ロ) 平成18年分の所得税の無申告の状況等
A P6を送信者とする請求人あての平成18年7月28日付電子メール及び請求人の当審判所に対する答述から、N社管理部所属のP6は、同日、請求人に対し、「今後の会計処理・税務処理でご確認したいことがあります。平成18年度分の所得は、事業を6月まで行っていましたので確定申告になります。確定申告は、P1先生の方の税理士さんで行いますか?P1先生の方で問題がなければ、P2会計事務所にお願いしたいと思っております。私が中に入ってよろしければ、資料のやり取りは行います。もちろん先生が直接P2会計と資料等やり取りしていただいてもかまいません。お返事お待ちしております。」旨記載した電子メールを送信したこと、これに対し、請求人は、その数日以内に、P6に対し、確定申告は自分で行う旨記載した電子メールを返信したことがそれぞれ認められる。
B 上記1の(4)のハの(ハ)のBのとおり、請求人は、平成19年1月29日、S社からファクシミリにより、請求人がQグループの顧問税理士に確定申告手続を依頼するか、それとも他の税理士に確定申告手続を直接依頼するかについて回答を求める文書の送信を受けると、その数日以内に、請求人が他の税理士に確定申告手続を直接依頼する旨の記入をした上、当該文書をS社に対しファクシミリにより返信した。
C P2税理士事務所作成の請求人あて平成19年2月14日付「書類送付のご案内」と題する書面から、P2税理士は、同日、請求人に対し、まる1本件A診療所平成18年分決算書、まる2支払者をN社、支払を受ける者を請求人とする平成18年分の給与所得の源泉徴収票を送付し、請求人は、これを受領したことが認められる。
D N社及びP2会計事務所から請求人にあてた平成19年2月20日付の書面等から、請求人は、同日、「先日、P2会計事務所より、本件A診療所の会計資料が郵送されたことと思いますので確定申告の方お願いいたします。本日は、精算書を郵送いたしました。なお、精算金は先生の口座にお振込みいたしましたのでご確認下さい。(振込受付書のコピー同封)」旨記載した書面とともに、N社が請求人受取口座に振り込んだ金額(上記1の(4)のロの(ロ)のDのとおり881,759円)の計算過程を記載した「H18年 DrP1 精算書」と題する書面及び振込受付書の写しを受領し、その内容を確認したことが認められる。
E 請求人が当審判所に提出した日本実業出版社発行の「平成19年申告用 あなたの確定申告」という題名の平成18年分の所得税の確定申告の手引書(以下「平成18年分確定申告手引書」という。)並びに請求人の当審判所に対する答述及び本件職員に対する申述から、請求人は、平成18年に本件A診療所及び本件B診療所を開設したため、平成18年分の所得税について所得金額及び税額が大きくなること、その確定申告をしなければならないことをそれぞれ認識し、平成19年2月ころ、平成18年分確定申告手引書を購入したことが認められる。
 この平成18年分確定申告手引書には、「あなたの所得はナニ所得?」という項目中「事業所得」、「不動産所得」及び「給与所得」の各項目、「申告に必要な計算書や明細書にはこんなものがある」という項目中「事業所得がある人」、「不動産所得がある人」及び「給与所得がある人」の各項目並びに「ケース別 申告書・明細書の書き方・つくり方」という項目中「ケース2 事業所得がある人の申告」及び「ケース3 不動産所得がある人の申告」の各項目にそれぞれチェックマークが付されていること及び請求人の当審判所に対する答述から、請求人は、平成18年中に事業所得、不動産所得及び給与所得に係る各収入金額があることを認識していたこと、これらの所得についての確定申告手続を調べるため、チェックマークを付しながら平成18年分確定申告手引書の上記各項目を読んだことがそれぞれ認められる。
 そして、過去の年分の所得税の申告について、請求人は、上記(イ)のDの(B)のとおり、T2に係る減価償却費の計算の方法及びリフォーム費用の処理の仕方が分からなかったため、平成17年分の所得税について法定申告期限までに確定申告をしなかったものと認められるところ、平成18年分確定申告手引書には、「必要経費になるもの」という項目中「減価償却費」の項目、「ケース2 事業所得がある人の申告」という項目中「損得ポイント1 10万円未満の少額資産は全額を一括経費にする」、「損得ポイント2 20万円未満の減価償却資産は3年間で必要経費に」、「損得ポイント3 青色申告者の30万円未満の資産は一括経費にできる」及び「損得ポイント15 年の途中で事業の用に供した車両等の償却は月数按分する」の各項目並びに「ケース3 不動産所得がある人の申告」の項目中「損得ポイント3 空室分の減価償却費も計上することができる」及び「損得ポイント5 できるだけ修繕費として計上するのがトク」の各項目にそれぞれチェックマークが付されていることから、請求人は、平成18年分の所得税の確定申告手続について調べるとともに、平成17年分の所得税の法定申告期限において分からなかったT2に係る減価償却費の計算の方法及びリフォーム費用の処理の仕方を調べたことが認められる。
 また、請求人は、上記(イ)のCの(B)のとおり、特定口座内保管上場株式等の譲渡による損失の処理の仕方が分からなかったため、平成16年分の所得税について法定申告期限までに確定申告をしなかったものと認められるところ、平成18年分確定申告手引書には、「ケース7 株の譲渡所得がある人の申告」という項目中「損得ポイント5 株式同士の損益は相殺することができる」及び「損得ポイント9 上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除」の各項目にチェックマークが付されていることから、請求人は、平成16年分の所得税の法定申告期限において分からなかった特定口座内保管上場株式等の譲渡による損失の処理の仕方を調べたことが認められる。
 さらに、平成18年分確定申告手引書には、「『確定申告』のここがわからない」という項目中「Q17 過去の申告」(「3年前の申告ができるか」旨の問いに対し、「サラリーマンで確定申告をしていない場合、5年前までさかのぼれる」旨の答えが示されている。)の項目にチェックマークが付されていること、「確定申告が必要な人 確定申告でトクする人」という項目の「確定申告をしなければならない人が申告をしなかったり、申告期限を過ぎてから申告書を提出した場合には、『加算税』や『延滞税』というペナルティーを納めなければならないことになります。」、及び「イラスト図解 申告書の入手から申告、納税までの手順」という項目の「2月16日から3月15日が申告期限ですから遅れないように提出します。遅れると加算税や延滞税という余分な税金を取られてしまいます。」の各文章中「加算税」及び「延滞税」にそれぞれ丸印が付されていること、「税務調査や呼び出しを受けたら」という項目の「税務署のチェックで一番複雑で手間がかかるのが、事業を営んでいる人や不動産所得により生計を営んでいる人の申告です。税務署ではいろいろな方面から資料を集めたり、支払調書を名寄せしたりしても、事業所得者の収支内訳書や青色申告決算書の内容をすべて把握することは不可能です。結局、疑わしいと思われる申告については、実際に税務調査に出向くことになります。国税調査の時効は7年ですので、事業所得のある人は、7年間は安心できないことになりますが、よほどのことがない限り、7年前までさかのぼることはありません。」の文章中「時効は7年」との部分に丸印が付されていることから、請求人は、平成16年分及び平成17年分の所得税の確定申告書を提出していなかったことを意識した上、チェックマークを付したり、用語に丸印を付したりしながら平成18年分確定申告手引書の上記各項目を読み、所得税の確定申告書を法定申告期限までに提出しないと、所得税以外に加算税及び延滞税を納付しなければならなくなること、また、国税調査の時効は法定申告期限から7年であることをそれぞれ認識したものと認められる。
F P5を送信者とする請求人あての平成19年3月13日付電子メール及び請求人を送信者とするP5あて同日付電子メールから、P5は、同日(火曜日)、請求人に対し、本件B診療所平成18年分損益計算書及び「平成18年度預り金精算明細書」(Q事務局が平成18年3月から同年12月までの間に請求人の納税準備金として預かった金額の明細)の各データを記録した電子ファイルを添付し、「何度も御連絡頂戴致しまして、申し訳御座いません。さて、御連絡致しました資料をエクセルにて御送り致しました。表ですが、2つのシートにそれぞれ損益計算と預り金を入力しております。尚、納税額が分かりましたら、このメールに返信頂けますと、幸いで御座います。」旨記載した電子メールを送信したこと、これに対し、請求人は、同日、P5に対し、「間違いなく、メールを受け取りました。納税額の件、承知しました。」旨記載した電子メールを返信したことがそれぞれ認められる。
 上記P5を送信者とする請求人あての平成19年3月13日付電子メールには、「何度も御連絡頂戴致しまして、申し訳御座いません。」との記載があることからすると、請求人は、S社に対し、請求人の平成18年分の所得税の確定申告書を作成する際に必要となる、本件B診療所の事業に係る平成18年分の事業所得の金額の計算書の送付を同日以前に何度か求めていたものと認められる。
G 請求人が当審判所に提出したUSBメモリに記録された51のPDF形式の電子ファイル及び請求人の当審判所に対する答述から、請求人は、平成18年3月17日に「平成16年分所得税の確定申告の手引き(確定申告書B)」に係る電子ファイル、平成18年12月13日に給与所得、雑所得、配当所得又は一時所得のみを有する者が平成18年分の所得税の確定申告のために使用する「所得税の確定申告書A(平成18年分以降用)」(FA0012様式)に係る電子ファイル、平成19年3月19日に事業所得又は不動産所得を有する者が平成18年分の所得税の確定申告のために使用する「所得税の確定申告書B(平成18年分以降用)」(FA0022様式)のほか、「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」、「平成 年分の所得税の確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の繰越用)」などの所得税の確定申告用紙及び所得税の確定申告書の記載の手引に係る49の電子ファイルをそれぞれ国税庁のホームページからダウンロードしたことが認められる。
H P5作成の請求人あて平成19年3月19日付「源泉徴収票送付の件」と題する書面及び支払を受ける者をいずれも請求人、支払者をP4とする「平成18年分給与所得の源泉徴収票」及び支払者を「Qグループ」とする「平成18年分報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」から、S社の本件B診療所に係る給与担当者とP3税理士事務所との間の連絡不備のため、P3税理士事務所から請求人の源泉徴収票が発行されなかったこと、そのため、P5は、上記の「平成18年分給与所得の源泉徴収票」及び「平成18年分報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を作成し、同日、請求人あてに送付したことが認められる。
I P5を送信者とする請求人あての平成19年4月25日付電子メール、請求人を送信者とするP5あての同月26日付電子メール等から、P5は、同月25日、請求人に対し、「先生の確定申告の方は如何でしょうか。もう暫く、時間が掛かるようでしたら、昨年、P1医院長先生よりお預かりしております、所得税分の金額を一度、医院長先生にお戻ししたいと考えております。お戻しする金額は、○○○○円となっております。この金額をお戻しいたしますので、所得税額が判明した段階で、大変恐縮ですが、先生の方で所得税を納税して頂けますと、幸いで御座います。」旨記載した電子メールを送信したこと、これに対し、請求人は、同月26日、件名に「ご提案お受けします」、本文に「いつもお世話下さり、有難うございます。この度は、ご心配お掛けし、申し訳有りません。」旨記載した電子メールを送信したこと、上記1の(4)のハの(ロ)のDのとおり、Q事務局は、同日、本件B診療所売上金口座から○○○○円を払い出して、これを本件B診療所の名義で請求人受取口座に振り込んだことがそれぞれ認められる。
J 請求人の当審判所に対する答述及びP5の異議調査担当者に対する申述から、上記Fのとおり、請求人は、平成19年3月13日にP5から「納税額が分かりましたら、このメールに返信頂けますと、幸いで御座います。」旨記載された電子メールの送信を受け、「納税額の件、承知しました。」旨記載した電子メールを返信したが、その後、期限後申告をすることもなく、平成18年分の所得税について確定申告をしていないことを連絡することもしなかったことが認められる。
(ハ) 平成19年分の所得税の無申告の状況等
A P5から請求人にあてた平成19年4月24日付及び同年5月10日付の「平成19年度預り金見直しについて」と題する書面等から、請求人は、同年4月24日ころ、「平成19年度の預り金に関しまして、平成19年5月度より変更をしたいと考えております。主な理由と致しましては、平成19年度以降の所得税及び個人住民税の税率の変更が行われ、所得税の最高税率が40%へ、個人住民税の税率が一律10%となります。これに基づき、一部預り金の増額を行いたいと考えておりますので、宜しく御願い申し上げます。5月分からの基本金額に付きまして、各医院長先生の概算予定表を18年度を元に作成致し、GW明けに各医院長先生宛に御送り致しますので、宜しく御願い申し上げます。」旨記載された書面の送付を受け、その後の同年5月10日ころ、「先日、医院長先生方に御連絡させて頂きました、預り金の見直しに付きまして、医院長先生の平成19年度の概算預り金を算定致しました。付きましては、概算計算表に基づきまして、預り金の見直しを行いたいと考えております。週明けより、医院長先生方の御意向を御電話にて確認させて頂きますので、御手数お掛け致しますが、何卒、宜しく御願い申し上げます。」旨記載された書面とともに、本件B診療所平成18年分損益計算書に記載された本件B診療所の事業に係る平成18年分の事業所得の金額○○○○円に所得税法(平成18年法律10号による改正後のもの)第89条《税率》に規定する税率を乗じて試算した所得税の額○○○○円を当該事業所得の金額で除して算定した割合(31.21%)の計算過程などが記載された書面の送付を受けた。
 そして、上記1の(4)のハの(ロ)のB及び別表4−2の「留保割合」欄のとおり、本件B診療所請求人利益額のうちQ事務局が請求人の納税準備金として預かる金額の占める割合は、平成19年5月25日以降、約30%から約32%に変更された。
B 上記1の(4)のハの(ハ)のBのとおり、請求人は、平成20年2月20日、S社からファクシミリにより、請求人がQグループの顧問税理士に確定申告手続を依頼するか、それとも他の税理士に確定申告手続を直接依頼するかについて回答を求める文書の送信を受けると、その数日以内に、請求人が他の税理士に確定申告手続を直接依頼する旨の記入をした上、当該文書をS社に対しファクシミリにより返信した。
C 請求人が当審判所に提出した日本実業出版社発行の「平成20年申告用 あなたの確定申告」という題名の平成19年分の所得税の確定申告の手引書及び請求人の当審判所に対する答述から、請求人は、平成20年2月ころ、上記手引書を購入したことが認められる。
 しかし、上記手引書には、平成18年分確定申告手引書に見られるような書き込みはなく、請求人が、平成17年分の所得税の法定申告期限以降分からなかったとするT2に係る減価償却費の計算の方法及びリフォーム費用の処理の仕方を改めて調べた形跡はない。
D P5を送信者とする請求人あての平成20年3月13日付電子メールから、P5は、同日、請求人に対し、本件B診療所平成19年分修正前損益計算書及び「平成19年度預り金精算明細書」(Q事務局が平成19年1月から同年12月までの間に請求人の納税準備金として預かった金額の明細)の各データを記録した電子ファイルを添付した上、「平成19年度の確定申告用資料を御送り致します。添付ファイルを御確認下さい。税金の納付につきましては、前回は先生に預り金を全てお返しして、医院長先生に支払を御願いしてしまいましたが、今年は如何致しますか。平成19年度中に医院長先生より御預かりしております金額は○○○○円で御座います。御指示の程、宜しく御願い申し上げます。万が一、データが修正する事になりましたら、御連絡致します。」旨記載した電子メールを送信したこと、P5を送信者とする請求人あての平成20年3月14日付電子メールから、P5は、同日、請求人に対し、本件B診療所平成19年分修正後損益計算書のデータを記録した電子ファイルを添付し、「昨日、P1医院長先生宛に平成19年度の確定申告用資料を添付致しましたが、一部金額が修正されました。但し、医院長先生の事業所得金額には、何ら影響を与えておりません。科目の一部変更で処理をさせて頂きました。詳しくは添付のエクセルファイルを御確認下さい。本日、昼頃に御電話致します。」旨記載した電子メールを送信したことがそれぞれ認められる。
 上記P5を送信者とする請求人あての平成20年3月13日付及び同月14日付の電子メールには、いずれも、上記(ロ)のFのような、請求人が、S社に対し、請求人の平成19年分の所得税の確定申告書を作成する際に必要となる、本件B診療所の事業に係る平成19年分の事業所得の金額の計算書の早期送付を要求していたことをうかがわせる記載はない。
 また、P5を送信者とする請求人あての平成20年3月14日付電子メール及び請求人の当審判所に対する答述等から、請求人は、同日、電話で、P5に対し、Q事務局が平成19年1月から同年12月までの間に請求人の納税準備金として預かった金員を請求人受取口座に振り込むように依頼したこと、P5は、同日、請求人に対し、「先生より御預かりしております預り金を来週月曜日(平成20年3月17日)に、先生の報酬の支払口座に振り込みいたします。金額は○○○○円です。念の為に、メールを入れさせて頂きました。」旨記載した電子メールを送信したこと、上記1の(4)のハの(ロ)のDのとおり、Q事務局は、平成20年3月17日、本件B診療所売上金口座から○○○○円を払い出して、これを本件B診療所の名義で請求人受取口座に振り込んだことがそれぞれ認められる。
E P5を送信者とする請求人あての平成20年4月15日付及び同月22日付の電子メール、P5の異議調査担当者に対する申述並びに請求人の当審判所に対する答述から、P5は、同月15日、請求人に対し、「○○○○の医療法人化に向けて処理を進めている段階ですが、保健所に説明に行く際に、医院長先生の確定申告書を持っていかなくてはならず、P1医院長先生の確定申告は、此方の税理士先生ではないので、私の手元に確定申告書が御座いません。大変申し訳御座いませんが、平成19年度の確定申告書のコピーを私、S社のP5宛に御送り頂けますでしょうか。御手数をお掛け致しますが、何卒宜しく御願い申し上げます。」旨記載した電子メールを送信したこと、P5は、同月22日に再度、請求人に対し、「確定申告書の件、御手数お掛け致しますが、何卒、宜しく御願い致します。」旨記載した電子メールを送信したこと、しかし、請求人は、これを受信しながら、期限後申告をすることもなく、一切応答しなかったことがそれぞれ認められる。
(ニ) 平成20年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等の無申告の状況等
A 上記1の(4)のハの(ハ)のBのとおり、請求人は、平成21年2月10日、S社からファクシミリにより、請求人がQグループの顧問税理士に確定申告手続を依頼するか、それとも他の税理士に確定申告手続を直接依頼するかについて回答を求める文書の送信を受けると、その数日以内に、請求人が他の税理士に確定申告手続を直接依頼する旨の記入をした上、当該文書をS社に対しファクシミリにより返信した。
B 請求人が当審判所に提出した日本実業出版社発行の「平成21年申告用 あなたの確定申告」という題名の平成20年分の所得税の確定申告の手引書、技術評論社発行の「フリーランス&個人事業主のための『確定申告』改訂第3版」(平成21年1月25日発行)、ダイヤモンド社発行の「フリーランス・個人事業の青色申告スタートブック」(平成20年12月4日発行)、技術評論社発行の「確定申告でもっと還付金を増やせる経費計上ハンドブック」(平成20年2月25日発行)及びあっぷる出版社発行の「確定申告は裏ワザで税金が9割安くなる」(平成20年12月25日発行)という題名の4冊の書籍(以下、これら4冊の書籍を併せて「本件書籍」という。)並びに請求人の当審判所に対する答述から、請求人は、平成21年2月ころ、上記手引書を購入したこと、また、同年3月10日、d市内の書店で本件書籍を購入したことがそれぞれ認められる。
 そして、請求人の当審判所に対する、本件書籍を読み、改めて平成20年課税期間の消費税等の確定申告と納税が必要だということを確認した旨の答述、本件書籍には、「事業所得のある事業者や不動産所得のある不動産オーナーなどで、2年前の消費税の対象になる売上が1,000万円を超えていたら、今年の売上に対する消費税を納付しなければいけません。」、「請求先の経理担当者が売上1000万円超の個人事業主には消費税の納税義務があることを知らず、『個人の方には消費税を支払いません』と言われ、『請求額1万円』『消費税0円』の請求書を出さざるを得ないときがあります。しかし、その場合も、消費税は売上に対してかかる税金なので、1万円の中に消費税が含まれていると考え、『税込処理』として処理します。」など、消費税等の納税義務者や消費税等の計算などを説明した記載があること、上記1の(4)のヘの(イ)のとおり、本件B診療所の医師及び職員は、手術及び治療を受けようとする患者に手術内容等を説明する際、本件B診療所で行う手術及び治療には消費税等が課されることを説明した上、消費税等を含む手術代金を受領していたこと、上記1の(4)のヘの(ロ)のとおり、本件B診療所平成18年分損益計算書に記載された本件B診療所の平成18年分の売上金額○○○○円だけでも優に10,000,000円を超えることなどから、平成20年課税期間の消費税等の法定申告期限当時、請求人には、平成20年課税期間の消費税等について納税義務者であるとの認識があったものと認められる。
 しかし、上記手引書及び本件書籍には、平成18年分確定申告手引書に見られるような書き込みはなく、請求人が、所得税について、平成17年分の所得税の法定申告期限以降分からなかったとするT2に係る減価償却費の計算の方法及びリフォーム費用の処理の仕方を調べた形跡はなく、消費税等について、確定申告手続を調べた形跡もない。
C P5を送信者とする請求人あての平成21年3月10日付電子メール及び請求人を送信者とするP5あての同月12日付電子メールから、P5は、同月10日、請求人に対し、本件B診療所平成20年分損益計算表及び「平成20年度預り金精算明細書」(Q事務局が平成20年1月から同年12月までの間に請求人の納税準備金として預かった金額の明細)の各データを記録した電子ファイルを添付し、「平成20年度の確定申告用資料を御送り致します。添付ファイルを御確認下さい。平成20年度中に医院長先生より御預かりしております金額は○○○○円で御座います。御指示の程、宜しく御願い申し上げます。」旨記載した電子メールを送信したこと、請求人は、同月12日、「例年通り、預け金の振込をお願いしたく存じます。」旨記載した電子メールを返信したこと、上記1の(4)のハの(ロ)のDのとおり、Q事務局は、同月16日、本件B診療所売上金口座から○○○○円を払い出して、これを本件B診療所の名義で請求人受取口座に振り込んだことがそれぞれ認められる。
 上記P5を送信者とする請求人あての平成21年3月10日付電子メールには、上記(ロ)のFのような、請求人が、S社に対し、請求人の平成20年分の所得税の確定申告書を作成する際に必要となる、本件B診療所の事業に係る平成20年分の事業所得の金額の計算書の早期送付を要求していたことをうかがわせる記載はない。
D P5を送信者とする請求人あての平成21年4月10日付及び同年9月14日付の電子メール、P5の異議調査担当者に対する申述及び当審判所に対する答述並びに請求人の当審判所に対する答述から、P5は、同年4月10日、請求人に対し、「Y社監督委員の弁護士先生より電話が御座いまして、昨年度の確定申告書の写しを欲しいとの依頼で、他の医院長先生方は、全てこちらで用意をしたのですが、P1医院長先生分だけが、手元に御座いません。大変お手数お掛けいたしますが、控えをこちらに御送り頂けますでしょうか。宜しく御願い申し上げます。」旨記載した電子メールを送信したこと、その後、同年9月14日にも、請求人に対し、「弊社顧問税理士宛に、税務署から連絡があり、P1医院長先生がどこの税務署に確定申告をしているのか、確認して頂きたいと連絡が入っております。大変お手数ですが、申告先の税務署をお教え願えますでしょうか?」旨記載した電子メールを送信したこと、しかし、請求人は、これらの電子メールを受信しながら、期限後申告をすることもなく、一切応答しなかったことがそれぞれ認められる。
(ホ) 請求人がパソコンに入力していたデータ
A 請求人が当審判所に提出したExcel形式の電子ファイルの内訳は、別表7−1から別表7−5までのとおりであり、各Excel形式の電子ファイル又は各Excel形式の電子ファイルに設けられたシートに記録されたデータの内容は、各「内容」欄のとおりである。
 なお、別表7−5の順号21の電子ファイルは、その記録されたデータの内容及び請求人の当審判所に対する答述から、請求人が本件職員による調査の際に提示した「シート名」欄記載の各シートを1つのExcel形式の電子ファイルにまとめて保存したものと認められる。
B 請求人は、当審判所に対し、これらの電子ファイルのうち、本件職員による調査の際に作成した別表7−5の順号21の電子ファイル及び平成16年ころに平成15年分以前の収支日計式簡易帳簿に基づきT1の賃貸に係る収入及び経費を入力した電子ファイル以外のものについては、平成19年夏以降、平成18年分以降の所得税の確定申告をするためのデータを入力したものである旨答述する。
 しかし、次のとおり、いずれの電子ファイルも請求人が確定申告をするために作成したものと認めることはできない。
(A) 上記Aの電子ファイルのうち、平成10年分以降のデータが入力された別表7−1の順号1から3まで、別表7−3の順号9、別表7−4の順号10、11及び13の各電子ファイルは、請求人が無申告となった平成16年分以降の所得税の確定申告書等を作成する場合にも不要なデータを含むこと、別表7−1の順号2の電子ファイルに設けられた「固定資産税」及び「Z駐車料」の各シート並びに別表7−1の順号3の電子ファイルに設けられた「G6銀行」及び「T2」の各シートには、請求人の家事上の経費が入力されていることなどを考慮すれば、これらはいずれも、請求人が確定申告をするために作成したものではなく、不動産収支を確認するために作成したものと認めるのが相当である。
(B) 平成15年以降のガソリン代及び灯油代が入力された別表7−1の順号4の電子ファイルについて、請求人は、当審判所に対し、事業所得の金額の計算のため入力した旨答述するが、請求人が本件A診療所及び本件B診療所を開設して事業者となったのは平成18年以降であること、請求人が無申告となった平成16年分以降の所得税の確定申告書等を作成する場合にも不要なデータを含むことから、これは、請求人が確定申告をするために作成したものではなく、ガソリン代及び灯油代の出費を確認するために作成したものと認められる。
(C) 別表7−2の順号5のファイルに設けられた、まる1「事業所得(H18)」のシートは、本件B診療所平成18年分損益計算書に記載のある勘定科目について、その名称を一部変更してすべて入力するとともに、本件B診療所平成19年分各損益計算書に記載があって本件B診療所平成18年分損益計算書に記載のない勘定科目(「広告宣伝費(○○○○)」)を追加して作成した損益計算書の様式に本件B診療所平成18年分損益計算書の勘定科目残高を入力し、本件B診療所の事業に係る平成18年分の事業所得の金額を算定したもの、まる2「事業所得(H19)」のシートは、上記まる1の損益計算書の様式に、本件B診療所平成19年分修正前損益計算書及び本件B診療所平成19年分修正後損益計算書の各勘定科目残高を並べて入力し、修正箇所を比較するとともに、本件B診療所の事業に係る平成19年分の事業所得の金額を算定したもの、まる3「事業所得(H20)」のシートは、上記(ニ)のCのとおり、P5を送信者とする電子メールに添付された本件B診療所平成20年分損益計算表のデータを複写したもの、まる4「貸借対照表」のシートは、上記1の(4)のハの(ハ)のAのとおり、S社から送付を受けた平成18年12月分、平成19年12月分及び平成20年12月分の本件残高試算表に基づいて、各年12月末日時点で資産勘定、負債勘定及び事業主勘定の残高を構成する勘定科目の名称をすべて入力して作成した貸借対照表の様式に、上記の各年12月分の本件残高試算表の勘定科目残高を並べて入力したもの、まる5「預り金」のシートは、上記(ロ)のF、上記(ハ)のD及び上記(ニ)のCのとおり、P5を送信者とする電子メールに添付された「平成18年度預り金精算明細書」、「平成19年度預り金精算明細書」及び「平成20年度預り金精算明細書」のデータを基礎として、Q事務局が平成18年3月から同年12月まで、平成19年1月から同年12月まで及び平成20年1月から同年12月までの各期間に請求人の納税準備金として各月に預かった金額を並べて入力し、各月の金額の左横にその計算に係る本件明細書の作成日とほぼ同じ日を入力したもの、まる6「給与支給明細」のシートは、その名称から、請求人が、Qグループに属する診療所に非常勤医師として勤務して給与等の支払を受けていたころ作成されたものと認められ、平成16年9月から平成18年2月ころまでの各月に支払を受けた給与については、基本給、各種手当、所得税、差引支給額などの項目が入力され、本件B診療所を開設した平成18年2月以降については、「売上」、「歩合」、「預り金」の項目が設けられ、「売上」、「基本給」、「歩合」、「預り金」、「差引支給額」などの各項目に、それぞれ本件B診療所の事業に係る売上金額、定額の利益配分の額、売上連動型の利益配分の額、Q事務局が請求人の納税準備金として預かった金額、請求人が各月にQ事務局から支払を受けた金額などが入力されたものである。
 上記のとおり、別表7−2の順号5の電子ファイルは、本件B診療所の売上金額、経費等の額、本件B診療所請求人利益額などが入力されたものであるが、請求人が、所得税の確定申告をする場合、平成18年分については、本件B診療所の事業に係る売上金額及び経費の額に本件A診療所の事業に係る売上金額及び経費の額をそれぞれ加算した金額の損益計算書等が必要であり、また、T2に係る減価償却費の計算の方法及びリフォーム費用の処理の仕方が分からない限り、平成17年分以降の所得税の確定申告書を作成できないというのであるから、別表7−2の順号5の電子ファイルは、請求人が確定申告をするために作成したものとみることはできない。
(D) 別表7−2の順号6の電子ファイルは、本件各和牛投資契約について、その契約日、黒毛和種牛の共有持分の代金の支払額、U社から各和牛投資契約に基づき支払を受ける利益の額及びその支払日等を入力したものであるが、請求人は、上記(イ)のAのとおり、U社から本件各和牛投資契約に基づき支払を受けた利益の額を雑所得に係る収入金額に算入して申告していなかったこと、上記(イ)のCの(C)、上記(イ)のDの(C)及び上記(2)のイの(ヘ)のとおり、請求人が本件職員から期限後申告書の提出のしょうようを受けて、平成21年11月20日に提出した、上記1の(4)のトの(ハ)の平成16年分から平成20年分までの各年分の所得税に係る各確定申告書には、U社から本件各和牛投資契約に基づき支払を受けた利益の額を雑所得に係る収入金額に算入していることからすれば、上記(2)のイの(ニ)のとおり、本件職員から、U社から本件各和牛投資契約に基づき支払を受けた利益の額は雑所得に係る収入金額に該当する旨の指摘を受けるまで、請求人は、それが雑所得に係る収入金額に該当するとの認識を有していなかったものと認められるから、別表7−2の順号6の電子ファイルは、請求人が確定申告をするために作成したものではなく、本件各和牛投資契約に係る収支を確認するために作成したものと認めるのが相当である。
(E) 別表7−2の順号7の電子ファイルは、平成7年度、平成8年度及び平成14年度から平成20年度までの各年度の国民健康保険料又は国民健康保険税の額を入力したものであるが、請求人が無申告となった平成16年分以降の所得税の確定申告書等を作成する場合にも不要なデータを含むことから、これは、請求人が確定申告をするために作成したものではなく、国民健康保険料又は国民健康保険税の額を確認するために作成したものと認められる。
(F) 別表7−2の順号8、別表7−4の順号16、別表7−5の順号17及び18の各電子ファイルは、いずれも銀行取引を入力したものであるが、請求人の当審判所に対する「これらのインターネットバンキングを利用する口座は、紙の通帳が発行されないことから、請求人が、インターネットで口座の取引記録のデータを取得、入力して通帳の代わりにした。」旨の答述から、これらはいずれも、請求人が確定申告をするために作成したものではなく、通帳が発行されない預金口座の取引を記録するために作成したものと認められる。
(G) 別表7−4の順号12の電子ファイルは、本件各賃貸用不動産のうち、T3のみの賃貸に係る収入金額及び経費の額の一部を入力したものにすぎないから、請求人が確定申告書や決算書を作成するために作成したものとは認められない。
(H) 別表7−4の順号14の電子ファイルは、請求人が診療した患者の治療状況等を入力したもの、別表7−4の順号15の電子ファイルは、Qグループを構成する診療所の概要等を入力したもの、別表7−5の順号19及び20の各電子ファイルは、請求人及び請求人の妻名義の自動車の買換えの状況や任意自動車保険契約の内容を入力したものであり、これらはいずれも、請求人が確定申告書や決算書を作成するために作成したものとは認められない。
(ヘ) 請求人受取口座に留保されていた金員
A 上記1の(4)のハの(ロ)のDのとおり、請求人は、Q事務局が請求人の納税準備金として預かっていた金員から、平成19年4月26日に○○○○円、平成20年3月17日に○○○○円、平成21年3月16日に○○○○円を請求人受取口座にそれぞれ振込みを受けているところ、平成16年11月8日から平成21年10月23日までの請求人受取口座の入出金取引等が記録された電子ファイル「G2銀行-data.xls」(別表7−2の順号8のファイル)によれば、請求人受取口座の残高は、平成19年4月26日から平成20年3月16日までの期間につき24,130,141円、同年3月17日から平成21年3月15日までの期間につき41,128,112円、同年3月16日から本件職員による調査が開始された同年10月16日までの期間につき52,448,766円をそれぞれ下回ることはなかったことが認められる。
B 上記Aの預金残高について、請求人は、当審判所に対し、「本件B診療所の所得は大まかな金額は分かっていましたから、税率を考えれば納税額と納税に必要な資金は分かります。これに見合う金額を請求人受取口座に残していました。」などと答述するところ、上記1の(4)のハの(ハ)のCのとおり、本件B診療所平成18年分損益計算書、本件B診療所平成19年分各損益計算書及び本件B診療所平成20年分損益計算表に記載された本件B診療所の事業に係る事業所得の金額は、それぞれ○○○○円、○○○○円及び○○○○円であり、これらの金額を総所得金額とし、この金額から扶養控除、配偶者控除及び基礎控除の合計額(平成18年分が○○○○円、平成19年分及び平成20年分がいずれも○○○○円となる。)のみを控除して課税総所得金額を算定し(平成18年分が○○○○円、平成19年分が○○○○円、平成20年分が○○○○円となる。)、これに所得税法(平成18年法律10号による改正後のもの)第89条に規定する税率を乗じて所得税額を試算すると、その額は、平成18年分が○○○○円、平成19年分が○○○○円、平成20年分が○○○○円となること、事業税については、上記の本件B診療所平成18年分損益計算書、本件B診療所平成19年分各損益計算書及び本件B診療所平成20年分損益計算表に各記載された本件B診療所の事業に係る事業所得の金額から地方税法第72条の49の10《事業主控除》第1項の規定に基づきそれぞれ2,900,000円を控除して、事業税の課税標準となる事業の所得を算定すると、平成18年分が○○○○円、平成19年分が○○○○円、平成20年分が○○○○円となり、これに地方税法第72条の49の13《個人の事業税の標準税率等》第1項第3号に規定する第三種事業(医業は地方税法第72条の2《事業税の納税義務者等》第10項第1号が規定する第三種事業に該当する。)の標準税率100分の5を乗じて試算した事業税の額は、平成18年分が○○○○円、平成19年分が○○○○円、平成20年分が○○○○円となり、上記の所得税の試算額との合計額は、平成18年分が○○○○円、平成19年分が○○○○円、平成20年分が○○○○円となることからすると、請求人は、その答述のとおり、本件B診療所の事業に係る利益に対応する所得税及び事業税の合計額に相当する金員は請求人受取口座に留保していたものと認められる。
(ト) 請求人の当審判所に対する答述によれば、請求人は、平成17年分から平成20年分までの各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等の確定申告手続について、確定申告書を提出するために税務署や税理士に相談したり、税理士に確定申告手続を依頼することはなかったことが認められる。
(チ) 上記1の(4)のロの(ロ)の本件A診療所の事業に係る利益及び上記1の(4)のハの(ロ)の本件B診療所の事業に係る利益、上記1の(4)のニの本件各賃貸用不動産に係る賃貸料等の収入、上記1の(4)のホのU社から本件各和牛投資契約に基づき支払を受けた利益は、それぞれ事業所得、不動産所得、雑所得に係る収入金として申告すべきであるのに、また、上記1の(4)のヘの(ロ)のとおり、請求人は、平成20年課税期間について消費税等の納税義務者であるのに、請求人は、上記(イ)のCの(C)、上記(イ)のDの(C)及び上記(2)のイの(ヘ)のとおり、本件職員から、期限後申告書の提出のしょうようを受けるまで、本件各年分を含む平成16年分から平成20年分までの各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等について申告をしなかった。
 ただし、請求人が、上記収入金を隠匿するための借名預金口座の開設、各所得に係る収入金がなかったかのように記載した帳簿書類の作成、課税庁が請求人の上記各所得の金額を算定するために必要な帳簿書類の破棄、隠匿などを行った事実は認められない。
ロ 法令解釈
 通則法第68条第2項に規定する重加算税の制度は、隠ぺい、仮装という不正手段を用いて期限内申告書を提出しなかった場合に、無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課するためには、納税者による期限内申告書の提出がされなかったこと(無申告行為)そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた無申告行為を要するものである。
 しかし、上記の重加算税制度の趣旨にかんがみれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき期限内申告書を提出しなかった場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当である。
ハ 判断
(イ) 本件各年分の所得税について
A 請求人は、上記1の(4)のロの(ロ)のB及びC並びに上記1の(4)のハの(ロ)のB及びCのとおり、自己の納税準備金として預けた金員を含め、平成18年分については本件A診療所の事業に係る利益額2,489,300円及び本件B診療所の事業に係る利益額○○○○円、平成19年分については本件B診療所の事業に係る利益額○○○○円、平成20年分については本件B診療所の事業に係る利益額○○○○円の各支払を受け、事業所得に係る多額の収入金があったこと、請求人は、上記1の(4)のハの(ロ)のB及び上記1の(4)のハの(ハ)のAのとおり、本件B診療所請求人利益額等が記載された本件明細書及び本件各残高試算表を受け取っていた上、上記イの(ロ)のC及びF、上記イの(ハ)のD並びに上記イの(ニ)のCのとおり、平成18年分については、平成19年2月14日付で本件A診療所平成18年決算書等を、同年3月13日に本件B診療所平成18年分損益計算書等のデータが記録された電子ファイルを、平成19年分については、平成20年3月13日及び同月14日に本件B診療所平成19年分各損益計算書等のデータが各記録された電子ファイルを、平成20年分については、平成21年3月10日に本件B診療所平成20年分損益計算表等のデータが記録された電子ファイルをそれぞれ受け取り、これらの電子ファイルに基づいて別表7−2の順号5の電子ファイル「Q.(L税務).xls」を作成するなど、本件各年分の事業所得の金額を十分に認識していたこと、加えて、上記イの(ロ)のE、上記イの(ハ)のC及び上記イの(ニ)のBのとおり、所得税の確定申告の手引書等を購入し、上記イの(ロ)のGのとおり、平成18年分の所得税の法定申告期限後に平成18年分の所得税の確定申告書用紙等に係る電子ファイルを国税庁のホームページからダウンロードし、上記イの(ヘ)のとおり、請求人受取口座の残高を各年分の所得税及び事業税の合計額を上回るようにしていたことからすれば、請求人は、本件各年分の所得税について確定申告すべきことを認識しており、T2に係る減価償却費の計算の方法等が分からなかったため正確な納税額を把握することはできなかったとしても、本件各年分において、それぞれの年分についておおよその所得税の額を認識していたものと認められる。
 このように、請求人は、本件各年分において、申告すべき多額の所得及び納付すべき所得税の額があることを認識しながら、本件職員による調査があるまで、連年にわたり、無申告を続けたのである。
B そして、請求人は、本件各年分の所得税につき無申告を続けた理由として、当審判所に対し、○○○○にり患していたため確定申告書を提出することができなかった、あるいは、平成17年分の所得税の法定申告期限以降、T2に係る減価償却費の計算の方法及びリフォーム費用の処理の仕方が分からなかったなどと答述する。
 しかしながら、上記(1)のロのとおり、仮に、請求人が○○○○にり患していたとしても、診療等に支障を来さない軽微なものであったと認められる。
 また、T2に係る減価償却費の計算の方法及びリフォーム費用の処理の仕方についても、上記1の(4)のイの(ロ)のとおり、請求人は、平成18年6月ころ以降、毎週水曜日及び木曜日は休診日であったのであるから、その休診日に税務署の職員に減価償却費の計算やリフォーム費用の処理の仕方を相談したり、税理士に確定申告手続を依頼するなど確定申告書を提出するために必要な措置を採ることは十分に可能であったのに、上記イの(ト)のとおり、それらの措置を採らず、T2に係る減価償却費の計算やリフォーム費用の処理の仕方が分からなかったとして、平成17年分の所得税について期限後申告書を提出しなかったばかりか、本件各年分において、上記1の(4)のニのとおり、T2を継続して賃貸の用に供していたにもかかわらず、その後の本件各年分の所得税についても、上記イの(ト)のとおり、上記のような確定申告書を提出するための必要な措置を採ることなく、これを放置したのである。
 このような請求人の状況及び確定申告に対する姿勢からすれば、請求人の上記答述は、無申告を続けた理由になるものではなく、そのほかに、請求人は、確定申告書を提出するための必要な措置を採ることなく無申告を続けた具体的な理由を説明しない。
 他方、上記イの(ロ)のEのとおり、請求人は、所得税の確定申告書を法定申告期限までに提出しないと、所得税以外に加算税及び延滞税を納付しなければならなくなること、しかし、法定申告期限から7年を経過すれば所得税以外にも加算税及び延滞税の納付から免れることができるとの認識を持ったことが認められるところ、請求人は、上記イの(ロ)のA及びB、上記イの(ハ)のB並びに上記イの(ニ)のAのとおり、請求人が参加していた○○○○グループの経理等を担当する会社からそれぞれの関与税理士に確定申告手続を依頼するかどうかの問い合わせに対して、確定申告手続は自ら行うとして確定申告手続の委任を断り、その後、上記イの(ロ)のJ、上記イの(ハ)のE及び上記イの(ニ)のDのとおり、確定申告の状況についての問い合わせがあってもこれに一切応答せず、期限後申告をすることもなく、無申告を貫いたのであるから、請求人は、無申告が発覚した場合には、所得税以外に加算税及び延滞税を納付しなければならなくなるが、法定申告期限から7年を経過すれば所得税以外にも加算税及び延滞税の納付から免れることができるとの認識を持った上、確定的な意思に基づいて無申告を貫いていたものと認めるのが相当である。
C 以上によれば、請求人は、本件各年分の所得税について、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものといえるから、その意図に基づき期限内申告書を提出しなかったことについては、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすというべきである。
 なお、請求人が、上記イの(ロ)のE、上記イの(ハ)のC及び上記イの(ニ)のBのとおり、本件各年分の所得税の確定申告の手引書等を購入し、本件各年分の所得税の確定申告手続について調べたこと、平成18年分については、平成18年分確定申告手引書で、T2に係る減価償却費の計算の方法及びリフォーム費用の処理の仕方などを調べたこと、上記イの(ロ)のFのとおり、請求人は、平成19年3月13日以前に数度にわたり、S社に対し、請求人の平成18年分の所得税の確定申告書の作成に必要な本件B診療所の事業に係る平成18年分の事業所得の金額の計算書の送付を催促していたこと、上記イの(ロ)のGのとおり、平成18年分の所得税の法定申告期限後に平成18年分の所得税の確定申告書用紙等に係る電子ファイルを国税庁のホームページからダウンロードしたこと、上記イの(ヘ)のBのとおり、本件B診療所の事業に係る利益に対応する所得税及び事業税の合計額に相当する金員を請求人受取口座に留保していたことは認められるが、上記のとおり、請求人が、本件各年分の所得税について、確定申告書を提出するための必要な措置を採ることなく、無申告を続けたことに照らし、いずれも確定申告書を提出することを意図した行為と認めることはできないから、上記認定を覆すものではない。
 また、上記イの(チ)のとおり、請求人に積極的な隠ぺい仮装工作はなく、上記1の(4)のトの(イ)並びに上記(2)のイの(ハ)及び(ニ)のとおり、請求人は、本件職員から本件各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等の課税標準額及び税額等の計算に必要な証拠資料の提示を求められると、これに応じて、所持していた証拠資料を提示したことが認められ、請求人が、飽くまでも真実の所得金額を明らかにしない態度をとり続け、必要に応じ事後的にも隠ぺいのための具体的工作を行うことを予定していたとまでは認められないが、上記Bのとおり、請求人は、法定申告期限から7年を経過すれば所得税等の納付から免れることができるとの認識を持った上で、請求人が参加していた○○○○グループの経理等を担当する会社からの税理士への依頼の問い合わせに対し、確定申告手続の委任を断るなどして、無申告を貫いていたのであるから、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすというべきである。
(ロ) 平成20年課税期間の消費税等について
 上記イの(ニ)のBのとおり、平成20年課税期間の消費税等の法定申告期限当時、請求人は、自己が平成20年課税期間の消費税等について納税義務者であるとの認識があったにもかかわらず、法定申告期限内に申告をせず、その後、本件職員による調査があるまで期限後申告もしなかった。
 そして、請求人は、その理由について、当審判所に対し、S社又はQ事務局が請求人の名義で確定申告書を提出し、その納税もしてくれているものと誤認していたので、法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったなどと答述する。
 しかしながら、請求人は、上記イの(ニ)のAのとおり、平成21年2月10日、S社からのQグループの顧問税理士に確定申告手続を依頼するかどうかの問い合わせに対し、確定申告手続は自ら行うとして確定申告手続の委任を断ったのであり、S社又はQ事務局が、請求人のために、平成20年課税期間の消費税等の確定申告書を提出する委任関係は存在しないのであるから、請求人が、S社又はQ事務局が請求人の名義で確定申告書を提出するものと誤認したなどということは不合理である。
 また、上記イの(ロ)のIのとおり、P5が、同人を送信者とする請求人あての平成19年4月25日付電子メール中、Q事務局が平成18年中に請求人の納税準備金として預かった金額を「所得税分の金額」と記載していること、上記イの(ハ)のAのとおり、本件B診療所請求人利益額のうちQ事務局が請求人の納税準備金として預かる金額の占める割合は、所得税の税率を考慮して平成19年5月25日以降、約30%から約32%に変更されたこと、上記1の(4)のハの(ロ)のBのとおり、本件B診療所請求人利益額のうちQ事務局が請求人の納税準備金として預かる金額の占める割合は、平成19年4月16日以降の各計算期間につき、いずれも約32%であり、請求人が平成20年課税期間の消費税等について納税義務者であることがS社においても明らかな平成20年1月以降もその割合に変化がないことから、Q事務局が請求人の納税準備金として預かった金員は、所得税の確定申告による納税に備えたものであって、消費税等の確定申告による納税に備えたものとは認められず、また、請求人が、自己の納税準備金として預けた金員を含め、平成20年中にQ事務局から支払を受けた本件B診療所請求人利益額○○○○円(別表4−3の「利益の金額」欄の合計)は、上記1の(4)のハの(ハ)のCの税込経理方式により作成された本件B診療所平成20年分損益計算表に記載された本件B診療所の事業に係る事業所得の金額○○○○円と同額であり、請求人は上記の消費税等相当額を含む事業所得の金額に相当する金員の支払を受けていたことからすると、Q事務局が請求人に支払っていた消費税等相当額まで納税をすることを期待し得る状況にはない。
 したがって、請求人のS社又はQ事務局が請求人の名義で確定申告書を提出し、その納税もしてくれているものと誤認していた旨の答述は、不合理であって信用できない。
 そして、上記(イ)のBのとおり、請求人は、法定申告期限から7年を経過すれば所得税等の納付から免れることができるとの認識を持った上で無申告を貫いていたのであり、所得税については当初から自己の所得を申告しない確定的な意図を有していたものと認められるところ、上記のとおり、請求人から消費税等について申告をしなかったことの合理的な説明はなく、所得税について申告しない確定的な意図を有しながら、消費税等については申告する意図を有していたと認めるべき事情も認められないのであるから、消費税等についても、所得税同様、当初から申告しない確定的な意図を有していたものと認めるのが相当である。
 以上によれば、請求人は、平成20年課税期間の消費税等について、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものといえるから、その意図に基づき期限内申告書を提出しなかったことについては、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすというべきである。
(ハ) 請求人の主張について
 請求人は、上記2の(3)の「請求人」欄のとおり、請求人が、「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」た事実はなく、また、請求人が、平成18年分及び平成19年分の所得税の確定申告書や決算書の下書をしたこと、パソコンに計算式と取引金額などを入力し、本件各年分の確定申告書を提出するための準備をしていたことなどから、「当初から納付すべき税額等を申告しないことを意図し」ていたということもできず、さらに、請求人が「税を免れる意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした」事実もないから、請求人が、法定申告期限までに本件各年分の所得税及び平成20年課税期間の消費税等の各確定申告書を提出しなかったことについては、重加算税の賦課要件を満たさない旨主張する。
 確かに、本件において、請求人には積極的な隠ぺい又は仮装行為は認められないが、上記ロのとおり、積極的な隠ぺい又は仮装の行為が存在しない場合であっても、納税者が、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき期限内申告書を提出しなかった場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当である。
 そして、請求人には、所得税及び消費税等について、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものといえることは、上記(イ)及び(ロ)のとおりである。
 なお、請求人が平成18年分及び平成19年分の所得税の確定申告書や決算書の下書をしたとの事実を認めるに足りる証拠はなく、また、上記イの(ホ)のBのとおり、請求人が、パソコンに取引金額などのデータを入力したことは認められるが、本件各年分の確定申告書を提出するための準備をしていたものと認められないのであるから、上記(イ)及び(ロ)の認定を覆すものではない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(4) 本件所得税各賦課決定処分

 上記(3)のハの(イ)のCのとおり、請求人が、本件各年分の所得税について法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについては、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすから、同項の規定に基づいてされた本件所得税各賦課決定処分は適法である。

(5) 本件消費税等賦課決定処分

 上記(3)のハの(ロ)のとおり、請求人が、平成20年課税期間の消費税等について法定申告期限までに確定申告書を提出しなかったことについては、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすから、同項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてされた本件消費税等賦課決定処分は適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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