(平成23年4月19日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の還付を受ける確定申告をした後、原処分庁の調査によって、確定申告をすべき事業者に該当しない旨の指摘を受け、修正申告書を提出したのに対し、原処分庁が、当該確定申告に先立ち、請求人が基準期間の課税売上高が1,000万円を超えているかのように装った同期間の修正申告書を提出した行為は、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項に規定する課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装する行為に該当するとして、重加算税の賦課決定処分をしたことから、請求人が、基準期間における隠ぺい又は仮装行為は、課税期間の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装行為には該当しないとして、当該処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成20年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「平成20年課税期間」という。)の消費税等の確定申告書(以下「本件平成20年確定申告書」という。)に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、平成21年11月26日、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した平成20年課税期間の消費税等の修正申告書を提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成21年12月28日付で別表1の「賦課決定処分」欄のとおりとする重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件賦課決定処分を不服として、平成22年2月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年5月20日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、平成22年6月15日、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 通則法第68条第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、過少申告加算税に代え、重加算税を課する旨規定している。
ロ 消費税法第2条《定義》第1項第14号は、基準期間は個人事業者についてはその年の前々年をいう旨規定している。
ハ 消費税法第5条《納税義務者》第1項は、事業者は国内において行った課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある旨規定している。
ニ 消費税法第6条《非課税》第1項は、国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第1第13号に掲げる「住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け(当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされているものに限るものとし、その貸付けに係る期間が一月に満たない場合を除く。)」には、消費税を課さない旨規定している。
ホ 消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項は、事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者については、同法第5条第1項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する旨規定している。
 また、消費税法第9条第4項は、同条第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除されることとなる事業者が、その基準期間における課税売上高が1,000万円以下である課税期間につき、同項本文の規定の適用を受けない旨を記載した届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出した場合には、当該提出をした事業者が当該提出をした日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間中に国内において行う課税資産の譲渡等については、同項本文の規定は、適用しない旨規定している(以下、同項本文の規定が適用される事業者を「免税事業者」といい、免税事業者を除く事業者を「課税事業者」という。)。
ヘ 消費税法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》第1項は、課税事業者は、課税期間ごとに、当該課税期間の末日の翌月から二月以内に、課税標準額(第1号)、課税標準額に対する消費税額(第2号)、課税仕入れに係る消費税額(第3号のイ)等を記載した申告書を税務署長に提出しなければならない旨規定し、同法第52条《仕入れに係る消費税額の控除不足額の還付》第1項は、同法第45条第1項の規定による申告書の提出があった場合において、この申告書に同項第5号に掲げる不足額の記載があるときは、税務署長は、この申告書を提出した者に対し、当該不足額に相当する消費税を還付する旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、不動産賃貸業を営んでいる者である。
ロ 請求人は、平成18年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「平成18年課税期間」という。)の消費税等の確定申告書(以下「本件平成18年確定申告書」という。)に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告していた。これによれば、請求人の平成18年課税期間の課税売上高は、1,000万円以下の○○○○円であった。
ハ 請求人は、平成19年4月16日、C会との間で、請求人が、a県b市c町○−○所在の土地上に鉄筋コンクリート造5階建の建物(以下「本件建物」という。)を建築してC会に賃貸する旨の事業用建物賃貸借予約契約を締結した。
ニ 請求人は、平成19年8月6日、親族が経営するD社との間で、請負代金額840,000,000円(うち消費税等の額40,000,000円)で、本件建物の工事請負契約を締結し、平成20年11月5日に本件建物を取得した。
ホ 請求人は、平成19年12月21日、原処分庁に対し、適用開始課税期間を平成20年課税期間とする消費税簡易課税制度選択不適用届出書(消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第4項)を提出したが、同法第9条第4項に規定する消費税課税事業者選択届出書は提出していなかった。
ヘ 請求人は、平成20年7月3日、原処分庁に対し、別表2の「修正申告」欄のとおり、課税売上高が1,000万円を超える○○○○円である旨記載した平成18年課税期間の消費税等の修正申告書(以下「本件平成18年修正申告書」という。)を提出した。
ト 請求人は、本件建物を平成20年11月5日に取得価額800,000,000円(消費税等の額を含まない。)で取得した旨記載した「仕入控除税額に関する明細書(個人事業者用)」を添付して、本件平成20年確定申告書を原処分庁に提出した。

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2 争点

 請求人が、平成18年課税期間の課税売上高が1,000万円を超える旨記載した本件平成18年修正申告書を提出したことは、請求人の平成20年課税期間の消費税等の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装する行為に該当するか。

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3 主張

(1) 原処分庁

 請求人は、平成20年課税期間の基準期間たる平成18年課税期間について、住居用として賃貸していた貸室に係る賃貸料収入を事務所用として課税売上げに加算して、課税売上高が1,000万円を超えるように計算した修正申告書を提出し、平成20年課税期間において課税事業者であることを仮装した上で、それに基づいて本件平成20年確定申告書を提出した。
 このことは、通則法第68条第1項に規定する課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときに該当する。

(2) 請求人

 平成20年課税期間の基準期間たる平成18年課税期間の課税売上高は、平成20年課税期間における小規模事業者に係る納税義務の免除規定の適否の判定にのみ用いられるものであって、平成20年課税期間の消費税等の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実ではなく、請求人の平成20年課税期間に係る消費税等の申告に隠ぺい又は仮装行為がないことは明らかである。
 国税庁長官が定めた平成12年7月3日付課消2−17ほか5課共同「消費税及び地方消費税の更正等及び加算税の取扱いについて(事務運営指針)」の第2の4(ローマ数字)の5は、その課税期間の基準期間における隠ぺい又は仮装行為に連動して基準期間の課税売上高が1,000万円を超え、当該課税期間について課税事業者であることが判明した場合には、当該課税期間に係る消費税額が増加するときであってもその増加額に重加算税を課すべきことにならないことに留意するよう定めており(以下「本件留意事項」という。)、これに準じて解釈すれば、本件は、基準期間たる平成18年課税期間に係る消費税等の申告に隠ぺい又は仮装行為があり、これに連動して平成20年課税期間について免税事業者となり、還付金の額に相当する税額が減少した結果として消費税等の額が増加したものであるから、「重加算税を課すべきこととならない」ときに該当するのであって、基準期間の隠ぺい又は仮装行為のみで重加算税を賦課した原処分は、通則法第68条第1項の拡大解釈による違法な処分である。

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4 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 請求人は、所有する不動産の管理を、親族が経営するE社に委託しており、同社の営業部長であるF部長に、請求人の税務関係書類の作成補助を行わせていた。
 請求人は、F部長から、本件建物を取得すれば、消費税等の還付を受けられる旨の説明を受けていた。
ロ 請求人の平成18年課税期間以降の申告等に関与するようになった税理士は、請求人が消費税課税事業者選択届出書を提出済みであると誤信したため、上記1の(4)のホのとおり、消費税簡易課税制度選択不適用届出書を提出したのみで、消費税課税事業者選択届出書を提出しなかった。
ハ 上記1の(4)のロ及びホのとおり、請求人の平成18年課税期間の課税売上高は1,000万円以下であり、また、請求人は、消費税課税事業者選択届出書を提出していなかったため、本来、本件建物を取得したことによる平成20年課税期間の消費税等の還付を受ける確定申告をすることはできなかったところ、F部長は、本件平成18年確定申告書に記載した課税売上高○○○○円に、同申告書の計算等誤り分○○○○円(税込み)、並びに請求人が住居用として賃貸していたa県b市所在のハイツG○○号室、○○号室及び○○号室(以下、これらを併せて「本件各貸室」という。)に係る平成18年課税期間の賃貸料収入等○○○○円(税込み)の合計額○○○○円に105分の100を乗じて計算した○○○○円を加算し、課税売上高が1,000万円を超える○○○○円であるかのように装った本件平成18年修正申告書の原案を作成した。
ニ F部長は、請求人に対し、平成20年課税期間の消費税等の還付を受ける確定申告をするためには、平成18年課税期間の課税売上高が1,000万円を超えていなければならないので、住居用として賃貸していた本件各貸室分の賃貸料収入等を事業用に変更しないと問題が出る旨説明し、請求人は、これを受けて、上記1の(4)のヘのとおり、平成20年7月3日、原処分庁に対し、本件平成18年修正申告書を提出した。
ホ なお、請求人が本件各貸室の賃借人との間で取り交わしていた貸室賃貸借契約書には、いずれも使用目的について「住居」と記載されており、本件各貸室は、現実にも居住の用に供されていたが、F部長は、平成21年8月ころ、原処分庁所属の調査担当職員の調査に備えるため、使用目的を「住居」から「事務所」又は「事務所兼仮眠室」若しくは「事務所兼休憩所」に書き換えた貸室賃貸借契約書を作成し、賃借人らに依頼して、従来取り交わしていたものと差し換えた。

(2) 法令解釈

 通則法第68条第1項に規定する重加算税は、同法第65条に規定する過少申告加算税を課すべき納税義務違反が事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われた場合に、違反者に対して課せられる行政上の措置であって、ここでいう事実の隠ぺいとは、売上除外、証拠書類の廃棄等、課税要件に該当する事実の全部又は一部を隠すことをいい、事実の仮装とは、架空仕入れ、架空契約書の作成、他人名義の利用等、存在しない課税要件事実が存在するように見せかけることをいうと解するのが相当である。

(3) 当てはめ

イ これを本件についてみると、上記1の(4)及び上記(1)の各事実によれば、請求人は、平成18年課税期間の課税売上高が1,000万円以下であり、消費税課税事業者選択届出書も提出していなかったことから、平成20年課税期間において免税事業者に該当し、消費税等の還付を受ける確定申告書を提出することができなかったにもかかわらず、消費税等の還付を受けるため、住居用であり非課税売上げである本件各貸室に係る賃貸料収入等を、事業用の賃貸に係るものであるとして課税売上げに加算した本件平成18年修正申告書を提出することによって、平成20年課税期間において課税事業者であるかのように装った上で本件平成20年確定申告書を提出していることが認められる。
ロ 請求人が平成20年課税期間において免税事業者であるか課税事業者であるかは、請求人が平成20年課税期間の消費税等の納税義務者に該当するか否かという課税要件事実そのものであり、不正に消費税の還付を受けるため、免税事業者であるにもかかわらず、課税事業者であるかのように装って本件平成20年確定申告書を提出した請求人の行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装し、その仮装したところに基づき納税申告書を提出した場合に該当し、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を充足する。

(4) 請求人の主張について

 これに対し、請求人は、基準期間たる平成18年課税期間の課税売上高は、平成20年課税期間における小規模事業者に係る納税義務の免除規定の適否の判定にのみ用いられるものであって、平成18年課税期間の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実には該当するが、平成20年課税期間のそれには当たらず、本件留意事項に準じて解釈すれば、本件は、重加算税を課すべきことにならない旨主張する。
 しかしながら、上記(3)のとおり、請求人が課税事業者であるか否かは、納税義務者に該当するか否かという課税要件事実であり、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実に該当する。
 本件留意事項は、基準期間の隠ぺい又は仮装行為が、客観的にみて課税期間の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装行為と評価できない場合には、重加算税の賦課要件を満たさないことに留意すべき旨を定めたものにすぎないと解すべきであり、基準期間の課税売上高の仮装行為が、課税期間の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の仮装に該当すると評価できる本件は、本件留意事項が定める場合とは前提を異にするから、請求人の主張は採用できない。

(5) 本件賦課決定処分について

 以上によれば、請求人が本件平成20年確定申告書を提出したことについて、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を充足する事実があると認められるから、原処分庁が行った本件賦課決定処分は、適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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