(平成23年6月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、不動産賃貸業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)に対し、請求人の子らが受領した賃料については請求人が所有する店舗用建物の賃貸借に基づく賃料であるから請求人の不動産所得に係る収入金額に該当し、また、請求人の子が代表取締役を務める法人に対して請求人が支払った管理費用については当該法人が当該店舗用建物等に係る管理業務を行っておらず、請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入することができないなどとして、所得税並びに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の各更正処分並びに過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が当該処分の違法を理由としてその全部の取消しを求めた事案であり、争点は、次の4点である。

  1. 争点1 請求人の長女のF及び次女のG(以下、Fと併せて「Fら」という。)が受領した賃料(以下「本件賃料」という。)は、請求人の不動産所得に係る収入金額に該当するか否か。
  2. 争点2 Fが代表取締役を務める法人(以下「本件法人」という。)に対して請求人が支払った管理費相当額(以下「本件管理費」という。)は、請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入することができるか否か。
  3. 争点3 原処分は、信義誠実の原則(以下「信義則」という。)に反する違法な処分か否か。
  4. 争点4 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由」があると認められるものがある場合に該当するか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成22年7月6日請求)に至る経緯は、別表1及び別表2のとおりである。
 なお、所得税の平成18年分、平成19年分及び平成20年分を併せて「本件各年分」といい、消費税等の平成18年1月1日から平成18年12月31日まで、平成19年1月1日から平成19年12月31日まで及び平成20年1月1日から平成20年12月31日までの各課税期間を、順次「平成18年課税期間」、「平成19年課税期間」及び「平成20年課税期間」といい、これらの課税期間を併せて「本件各課税期間」という。

(3) 関係法令等

 別紙7のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 賃貸借契約について
 請求人の夫であるHは、昭和48年3月9日付で、Jほか7名(以下「Jら」という。)及びK社との間で、H及びJら(以下「Hら」という。なお、HとJらとの間に親族関係はない。)がK社から融資される建築協力金を原資として、Hの所有する別表3の順号6及び7の土地(当該各土地は、昭和52年5月8日付の土地区画整理事業における換地処分によりc市d町○−○の土地となったものである。以下、当該d町○−○の土地を「本件土地」という。)並びにJらの所有する別表3の順号1ないし5及び8ないし12の各土地(当該各土地は、土地区画整理事業における仮換地の指定及び昭和52年5月8日付の換地処分により本件土地と隣接することとなった。以下、本件土地と当該隣接する各土地を併せて「本件各土地」という。)の上にHらの共有する店舗用建物(鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階(一部地下2階)6階建塔屋付建物。以下「本件建物」といい、本件各土地と本件建物を併せて「本件各土地建物」という。)をK社の要望する建築仕様に基づいて建築した上、賃貸人をHらとし賃借人をK社として、本件建物を賃貸する旨の契約(以下「本件契約」という。)を締結して、本件契約に係る「建物賃貸借並びに建築協力融資金に関する契約書」と題する契約書(以下「本件契約書」という。)を作成し取り交わした。
 なお、本件契約書の記載内容は、要旨以下のとおりである。
(イ) Hらは、本件各土地上に本件建物を建築し、Hらを賃貸人としてK社に賃貸する(賃貸借延面積16,306.126平方メートル。一部地下2階部分は賃貸借面積に含まれない。)。Hらは、本件建物について所有権保存登記を行うが、Hらの各共有持分割合は、別表3の「仮換地」欄の土地合計面積(本件各土地に係る仮換地の地積の合計であり、2,707.26平方メートル。)に対する各自の提供敷地面積(Hの提供敷地面積は、514.15平方メートル。)の割合とする(第2条、第3条)。
(ロ) 賃貸借期間は、K社の現実の店舗の開店日から満20か年間とし、賃貸借期間満了と同時に賃貸借契約を終了させようとするときは、期間満了の6か月前までに相手方に書面をもって予告しなければならない。ただし、当該予告がない場合は、賃貸借期間は同一条件をもって更に3か年間更新される(第6条第1項、第3項及び第4項)。
(ハ) K社がHらに支払う月額賃料の算出方法は、次のとおりとする(第8条第1項)。
A Hに対する賃料
 3.3058平方メートル(1坪)当たり2,000円にHの共有持分割合(270,726分の51,415)及び賃貸借延面積(16,306.126平方メートル)を乗じた額
B Jらに対する賃料
 3.3058平方メートル(1坪)当たり2,100円にJらの共有持分割合(270,726分の219,311)及び賃貸借延面積(16,306.126平方メートル)を乗じた額
(ニ) 上記(ハ)の賃料は、賃貸借の始期より満3か年間は据え置き、4年目の始め及び以後3年ごとに前年度賃料から10パーセントずつ値上げするものとするが、諸般の経済的事情の変化等を考慮して増減できるものとする(第8条第3項)。
(ホ) 本件各土地のうち本件建物の屋外の空地部分の使用権は、K社に属し、K社及びK社の転借人の営業上必要がある場合は、当該屋外部分において無償で営業し、使用することができる(第10条)。
(ヘ) 本件契約におけるHらの権利義務は、特段の定めがある場合を除き、次の割合による共有とする(第22条第1項)。
A H  270,726分の51,415
B Jら 270,726分の219,311
ロ 本件建物の登記について
 Hらは、本件建物が完成した後、昭和48年9月14日付で、本件建物について、Hらを共有者とし、本件契約に基づき各自の共有持分割合を本件各土地に係る仮換地の地積の合計に対する各自の提供敷地面積の割合とする所有権保存登記手続を行った。
ハ 本件法人について
 本件法人は、昭和57年1月○日付で、不動産の賃貸及び管理等を事業目的として、L社の商号でa市b町○−○を本店所在地として設立され、代表取締役にF、取締役にG、監査役にHがそれぞれ就任した。
ニ Hの死亡に係る相続及びそれに伴う遺産分割について
 Hは、平成4年4月○日に死亡し(以下、Hの死亡により開始した相続を「本件相続」という。)、請求人及びFら(以下、併せて「請求人ら」という。)は、本件相続に係る遺産分割協議を行い、同年12月1日付で、本件建物に係るHの共有持分(以下「本件建物持分」という。)を請求人が相続するとともに、本件土地を請求人らが共同で相続する(請求人の共有持分は、10,000分の5,868、Fらの共有持分は、それぞれ10,000分の2,066である。)旨等の内容の遺産分割協議書を作成し、平成5年2月15日付で当該遺産分割協議書の内容のとおり、本件建物持分及び本件土地に係る所有権移転登記が行われた。
 なお、上記の遺産分割協議書には、本件契約に関する事項として、上記以外に、請求人がK社からの借入金債務を相続する旨記載されていた。
 また、上記の遺産分割協議書には、本件建物持分及び本件土地以外の遺産である不動産について、請求人らの住所地である土地建物(自用地)及び貸地1筆を請求人が相続するものとし、その余の貸地並びに貸家建付地及び貸家(共同住宅)はFらが各持分2分の1の割合で相続するものとされていた。
ホ 本件契約における地位の承継について
 請求人らは、平成4年4月24日付で、Mほか6名(Jは、昭和49年5月○日に死亡し、それにより相続が開始され、Jらのうち、Mほか6名がJの地位を承継したものである。)及びK社との間で、請求人が本件契約におけるHの地位を承継して同人の権利義務一切を引き継ぎ、Mほか6名及びK社が当該地位承継を承認する旨並びにFらが請求人の本件契約における債務について連帯して保証する旨の契約(以下「本件地位承継契約」という。)を締結し、本件地位継承契約に係る「地位承継契約書」と題する契約書を作成し取り交わした。
ヘ 本件法人に対する管理委託について
 請求人らは、平成6年5月31日付で、本件法人との間で請求人の所有する本件建物持分及び請求人らの所有する本件土地の管理を本件法人に委託し、併せて、請求人がK社から受領すべき本件契約に基づく賃料を本件法人に代理受領させる旨の各委託契約(以下「本件管理委託契約」という。)を締結し、本件管理委託契約に係る「土地建物管理委託契約書」と題する契約書(以下「平成6年管理委託契約書」という。)を作成した。
 平成6年管理委託契約書に記載された本件管理委託契約の内容は、要旨以下のとおりである。
(イ) 請求人は、本件建物持分及び本件土地に係る請求人の共有持分の管理を本件法人に委託し、Fらは、本件土地に係る各自の共有持分の管理を本件法人に委託する。
(ロ) 本件法人は、K社が請求人に支払う賃料月額4,195,873円を代理受領し、当該賃料のうち本件管理費として1,677,873円を収受し、その残額の2,518,000円については、10日以内に請求人に対して1,679,000円を、Fらに対して各419,500円をそれぞれ支払う。
(ハ) 本件法人がMほか6名の不動産管理会社であるN社に支払うビル管理分担金、火災その他の保険料及び簡単な補修費用等は、本件管理費に含まれるものとする。
ト 本件管理委託契約の改定等
(イ) 請求人ら及び本件法人は、平成10年1月1日付で、請求人がK社から受領すべき本件契約に基づく賃料の増額及び本件管理費の減額により請求人らの受領する金員が増加したとして本件管理委託契約を改定し、要旨以下のとおりの内容が記載された「土地建物管理委託契約書」と題する契約書(以下「平成10年管理委託契約書」という。)を作成した。
A 本件法人は、K社が請求人に支払う賃料月額4,277,346円を代理受領し、当該賃料のうち本件管理費として855,469円を受領する。
B 上記Aの残額の3,421,877円については、請求人に対して2,282,135円を、Fらに対して各569,871円をそれぞれ支払う。
(ロ) さらに、請求人ら及び本件法人は、平成11年12月25日付で、本件契約に係る賃料が増額されたことを受けて、要旨以下のとおりの内容が記載された「覚書」と題する文書(以下「平成11年覚書」という。)を作成した。
A 本件法人は、K社が請求人に支払う賃料月額4,491,213円を代理受領し、当該賃料のうち本件管理費として898,241円を受領する。
B 上記Aの残額の3,592,972円については、請求人に対して2,396,242円を、Fらに対して各598,365円をそれぞれ支払う。
チ 請求人の確定申告に対する原処分庁の調査の状況等
 請求人は、平成15年5月に、請求人の平成12年分、平成13年分及び平成14年分(以下「先行各年分」という。)の所得税並びに平成12年1月1日から平成12年12月31日まで、平成13年1月1日から平成13年12月31日まで及び平成14年1月1日から平成14年12月31日までの各課税期間(以下、これらの課税期間を併せて「先行各課税期間」という。)の消費税等の各確定申告について原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)による調査(以下、平成15年5月に行われた税務調査を「前回調査」という。)を受けた。
 その際、前回調査の調査担当職員は、本件契約が請求人及びMほか5名(Mほか6名のうちの1名が平成12年1月○日に死亡し、相続が開始した後の本件建物の共有者である。以下「Mら」という。)を賃貸人としK社を賃借人とする本件建物に係る賃貸借契約であることから、本件賃料が請求人に帰属する旨指摘し、請求人は、当該指摘の後の平成15年6月9日に、先行各課税期間に係る消費税等の修正申告書を原処分庁に提出した。
リ 前回調査後の覚書について
 請求人ら及びK社は、前回調査後の平成15年8月10日付で、本件契約に関し「契約者変更に関する覚書」と題する文書(以下「平成15年覚書」という。)を作成し取り交わした。
 平成15年覚書の記載内容は、要旨以下のとおりである。
(イ) 請求人ら及びK社は、平成14年12月31日をもって、本件契約における請求人の地位(権利義務一切)を請求人らが共有することを確認する。
 なお、本件契約における請求人らの権利義務は、特段の定めがある場合を除き、請求人が270,726分の34,289、Fらがそれぞれ270,726分の8,563とする(第1条第1項及び第2項)。
(ロ) K社から請求人らに支払われる月額賃料は、請求人には2,995,301円(税込み)、Fらにはそれぞれ747,956円(税込み)とする(第2条第1項)。
(ハ) K社は、本件賃料の支払先として、請求人らの指定により、P銀行e支店(現Q銀行e支店)の本件法人名義の普通預金口座に一括して振り込むものとし、請求人らにおいて上記(ロ)の金額に従って精算する(第2条第2項)。
(ニ) Fらは、平成14年12月31日をもって、本件地位承継契約における請求人の保証人の地位から離脱し、同日付にて本件契約における請求人のK社に対する債務(K社が請求人に預託している敷金27,482,636円の請求人の返還債務)は、請求人らの連帯債務とする(第3条)。
(ホ) 請求人ら及びK社は、平成15年覚書にて変更された事項以外は、本件契約に変更のないことを確認する(第4条)。
ヌ 平成15年覚書作成後の覚書について
 請求人ら及びMらは、平成17年10月29日付及び平成20年2月12日付で、K社との間で、本件契約の期限をそれぞれ平成20年6月29日及び平成23年6月29日まで延長し、本件契約の期限の延長以外は本件契約の契約内容に変更がない旨の覚書を作成し取り交わした。
ル 請求人らの生活状況について
 請求人らは、前回調査前からa市b町○−○に所在する家屋において起居しており、生計を一にしている。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙8のとおりである。

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3 判断

(1) 争点1 本件賃料は、請求人の不動産所得に係る収入金額に該当するか否か。

イ 法令解釈
 所得税法第26条第1項は、不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機の貸付けによる所得をいう旨規定しており、また、同法第12条は、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとする旨規定している。したがって、資産から生ずる収益としての不動産の賃貸に係る所得に対して所得税の課税を行う場合においても、当該所得の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その所得を享受しないときは、これを享受する者に対して課税を行うものである。そして、所得税法第12条の規定の適用上、資産から生ずる収益を享受する者がだれであるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者がだれであるかにより判断すべきものと解されるが、資産の真実の権利者がだれであるかが明らかでない場合も多いことから、所得税基本通達12−1において、そのような場合には、その資産の名義人が真実の権利者であるものと推定すると定めており、当審判所においても、当該通達の定める取扱いは相当であると認める。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ) 本件相続における本件土地及び本件建物持分の価額等
 本件相続に係る相続税申告書において、請求人らが取得した本件土地の評価価額は、1,662,713,382円であり、また、請求人が取得した本件建物持分の評価価額は、144,080,332円であって、請求人らが本件相続により取得した財産のうち、本件土地及び本件建物持分の評価価額の合計額は、1,806,793,714円である旨記載されていた。
(ロ) 本件建物持分に係る登記名義について
 本件建物持分は、平成5年2月15日付で相続を原因としてHから請求人にその全部の移転登記が経由され、少なくとも平成20年12月31日までは、移転登記が経由されたことはない。
(ハ) FがN社に送付した平成15年9月22日付の文書には、要旨、以下のとおり記載されていた。
A K社から支払われる賃料を請求人らで分配していたところ、前回調査において、本件契約は、本件建物の賃貸借契約であり、FらがK社から土地の賃料を受け取ることはこのままの契約では認められず、また、親子間の賃貸借は違法である旨の指摘を受けた。
B そこで、顧問税理士と相談した結果、K社に対して請求人側の契約者を請求人1名から請求人ら3名に変更するように要請することとした。
C K社としては契約者の変更に問題はなく、土地建物一体の契約ということで平成15年覚書を作成してもらった。
(ニ) 請求人及び関係者の平成15年覚書に係る答述並びにその信用性
 以下の請求人及び平成15年覚書の作成当時のK社の担当者であり、関係者であるRの各答述は、明瞭で具体的であって、格別不自然な点は認められず、平成15年覚書の内容及び上記(ハ)の文書の記載内容等とも整合しており、信用できるものと認められる。
A 請求人の答述
 請求人ら及びK社は、平成15年覚書を作成する際、請求人らの権利義務及び月額賃料の配分割合を定めるに当たっては、請求人らがHの死亡後、K社から支払われる賃料を本件相続における本件建物持分及び本件土地の相続税評価額を参考にして、請求人が3分の2、Fらがそれぞれ6分の1ずつに分配していたことから、同様の割合とした。
B Rの答述
(A) 平成15年6月ころ、Fから本件建物の賃貸借契約について、請求人側の契約者を請求人1名から請求人ら3名に変更したい旨の要請があり、請求人らの顧問税理士と協議した。
(B) 上記の協議の結果、本件契約は、法律的には本件建物の賃貸借契約であるが、請求人が負っている敷金の返還債務について連帯保証人であったFらが連帯債務者になりK社にとって有利になること等を勘案し、平成15年覚書を作成した。
ハ 判断
(イ) 上記イのとおり、資産から生ずる収益を享受する者がだれであるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者がだれであるかにより判断すべきであると解されるところ、本件賃料の帰属の判定に当たっては、本件契約に係る目的物は何か、さらには、当該目的物の真実の権利者(所有者)はだれであるかを明らかにする必要がある。
A 本件契約の目的物
 上記1の(4)のイの(イ)、(ハ)及び(ホ)のとおり、本件契約書において、Hらが本件建物をK社に賃貸する旨、本件建物の賃貸借延面積に基づいて賃料が算出される旨及び本件各土地の空地部分の使用権はK社に属し、K社が無償で使用できる旨の各記載があり、上記1の(4)のリの(ホ)のとおり、平成15年覚書においてもこれらの事項に変更はないことに加え、そもそも、建物の賃借人は当該建物の使用収益に必要な限度でその敷地を使用することができると解されていること、上記ロの(ニ)のBのとおり、Rは本件契約は法律的には本件建物の賃貸借契約である旨答述していることを併せ考えると、本件契約における賃貸借の目的物は、本件建物であると認められる。
B 本件建物持分の所有者
 上記1の(4)のロ及びニのとおり、本件建物は、Hらの共有として所有権保存登記手続が行われ、本件相続により、請求人がHの本件建物持分の全部を単独で相続して、上記ロの(ロ)のとおり、当該内容の持分全部移転登記が経由されたところ、その後、平成15年覚書作成の前後を通じて本件建物持分の登記名義に異動はなく、平成20年分ないし平成20年課税期間の終期である平成20年12月31日までの間、請求人が一貫して本件建物持分の登記名義人であったことが認められ、ほかに請求人が本件建物持分を譲渡したと認めるに足りる証拠もないことから、本件建物持分は本件相続後一貫して請求人に帰属していたものと認められる。
C 小括
 以上により、本件契約における賃貸借の目的物は、本件建物であり、本件各年分及び本件各課税期間を通じて本件建物のうちの本件建物持分は請求人に帰属していたものである。
 このことからすれば、本件契約に基づき請求人らに支払われる賃料は本件建物持分の帰属主体である請求人に帰属すると認められ、したがって、本件賃料は請求人に帰属するものと認められる。
(ロ) 請求人の主張について
A 請求人は、HらがK社に賃貸していたのは敷地を含んだ本件建物であり、Hの死亡に伴い、本件建物持分を請求人が相続するとともに、本件土地を請求人らが共同で相続し、請求人らは、本件建物持分及び本件土地に係る各自の共有持分に対する賃料を受領し、請求人ら各人の不動産所得に係る総収入金額に算入して確定申告していた旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、本件契約は、本件建物を目的物とする賃貸借契約であることから、請求人の上記主張は、その前提を欠くものであり、請求人らがK社から支払われる賃料を本件建物持分及び本件土地に係る各自の持分割合に応じて取得したものとして確定申告をしていたとしても、そのことのゆえに本件契約における賃貸借の目的物が本件各土地建物となるものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
B また、請求人は、平成15年覚書が、K社との間で、本件契約が土地建物一体としての賃貸借契約であること及び請求人らが本件土地を賃貸していることを確認するために取り交わしたものであり、その後、Fらは、請求人及びMらと同じ契約当事者としてK社との間で平成17年10月29日付及び平成20年2月12日付の各覚書を取り交わした旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(ハ)のCのとおり、FがN社に送付した平成15年9月22日付の文書からは、Fにおいて土地建物一体の契約ということで平成15年覚書を作成してもらったとの認識を有していた様子がうかがわれなくもないものの、上記1の(4)のリのとおり、平成15年覚書は、その文言に照らしても、本件契約の契約者(契約当事者としての地位)を請求人から請求人らに変更するものにすぎず、本件契約における賃貸借の目的物が本件土地を含むものであることを確認したり、その旨に変更したりするものでもないことは明らかであるから、請求人の上記主張は、その前提を欠くものである。
 なお、平成15年覚書は、本件契約の契約当事者の地位を請求人から請求人らに変更するとともに、本件契約における権利義務の割合を請求人が主張する割合(請求人が本件建物持分及び本件土地に係る請求人らの持分割合であると主張する割合)とし、K社が請求人に対して支払っていた賃料を上記割合により分割し、当該分割した額を請求人ら各自に対する賃料として支払うことを定めたものであるが、平成15年覚書作成の前後を通じて本件土地及び本件建物持分の帰属に変更はないことに加えて、上記ロの(ハ)及び(ニ)のとおり、平成15年覚書は、前回調査の調査担当職員より本件契約に基づいてK社から支払われる賃料に係る課税関係についての指摘を受けたことを契機として、賃貸借の目的物について変更することなく、契約当事者としての地位に基づく権利義務割合のみを請求人らが主張する賃料の取得割合に整合するように変更したものであること及び平成15年覚書作成の前後を通じて生計を一にするという請求人らの生活状況や資産の保有状況に変化は見られないことなどを併せ考えると、平成15年覚書の作成を機に本件賃料がFらに帰属するようになったとみることもできない。
 以上により、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(ハ) まとめ
 以上のとおり、本件賃料は請求人に帰属するものであり、請求人の不動産所得に係る収入金額に該当するものであると認められる。

(2) 争点2 本件管理費は、請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入することができるか否か。

イ 法令解釈
 所得税法第37条第1項は、その年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、不動産所得の総収入金額を得るため直接要した費用の額及びその年における不動産所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定しており、ここでいう費用とは、収益を獲得するための経済的な価値犠牲を意味し、業務遂行上直接間接に必要な諸費用全般であると解される。
 そうすると、ある支出が不動産所得の金額の計算における必要経費に該当するためには、業務関連性がなければならないとともに、その必要性の判断においても、単に事業主の主観的判断のみによるものではなく、客観的に必要経費として認識できるものでなければならないと解するのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ) 本件法人は、本件建物持分及び本件土地の管理業務をN社に委託しているが、N社は、本件契約の更新及び本件建物の補修工事等を行う際に、事前に本件法人に対して文書又は電子メールによって連絡を行い、本件法人の代表取締役であるFが当該連絡内容に関する協議及び返信を行っていた。
(ロ) K社は、N社だけでなく本件法人に対しても本件建物の補修工事等に係る事前通知を行っており、本件法人は、K社から送付された補修工事等の費用負担に係る承諾書に本件法人名による記名押印を行い、当該費用負担の承諾を行っていた。
(ハ) N社は、本件建物の修繕費、火災保険料及び固定資産税に本件建物持分の割合を乗じて請求人の負担額を算出して本件法人に請求し、本件法人は、当該請求額をN社に支払っていた。
(ニ) K社の店舗管理を行う部門に所属する社員は、平成20年10月21日に本件建物に係る送水口の改修工事に係る状況説明のために本件法人を訪れ、本件法人の代表取締役であるFと面談を行い、当該改修工事が完了した際に、工事の状況を示す写真の報告書を本件法人宛に提出した。
(ホ) Fは、当審判所に対し、本件法人は平成3年12月にHから本件建物持分及び本件土地の管理業務を受託した旨及び本件法人はHの生前から本件建物持分及び本件土地の管理業務をN社に委託していたが、その委託時期は不明である旨答述した。
(ヘ) 本件法人は、本件建物持分及び本件土地の管理業務のほかにFらが相続した賃貸共同住宅の管理業務をも行っている。
ハ 判断
(イ) 上記イのとおり、ある支出が不動産所得の金額の計算における必要経費に該当するためには、業務関連性がなければならないとともに、その必要性の判断においても、単に事業主の主観的判断のみによるものではなく、客観的に必要経費として認識できるものでなければならないと解されるところ、上記(1)のハの(ハ)のとおり、請求人の不動産所得の総収入金額に算入すべき金額は本件契約に基づく賃料であることから、請求人の不動産所得の必要経費に算入すべき金額も、本件契約に関して支出された費用に限られることとなる。
 そうであるところ、本件法人は、上記1の(4)のヘ及びト並びに上記ロのとおり、請求人らから本件建物持分及び本件土地の管理業務を受託するとともに、上記ロの(イ)のとおり、本件建物持分及び本件土地の管理業務をN社に委託しているが、本件契約の更新及び補修工事等に係る各種連絡を受けてK社及びN社と協議し、本件法人名義で本件契約に係る各種の支払を行うなどしている事実が認められることから、本件建物持分及び本件土地に対する管理業務を実際に行っているものと認められる。
 そうすると、請求人から本件法人に対して支払われた本件管理費は、請求人のK社に対する本件建物持分の賃貸業務の遂行上必要な支出であると認められることから、請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されるものと認められる。
(ロ) これに対して、原処分庁は、本件各土地建物に係る管理全般についてN社が行っており、本件法人は、請求人ら及びN社に対する金銭の支払行為を行っているものの、本件建物持分及び本件土地の管理業務を行っているとはいえない旨主張する。
 しかしながら、本件法人は、本件契約に係る賃貸物件(本件建物)の修繕費等の負担額を支払っているだけでなく、上記ロの(イ)、(ロ)及び(ニ)のとおり、補修工事発注前にK社及びN社から連絡を受けて協議しているほか、K社から送付された補修工事等の費用負担に係る承諾書の返送ないし本件建物に係る補修工事状況の確認等を行うなどしているのであって、賃借人であるK社に対する関係においてN社がいわば賃貸人ら全員の共通の窓口となっているものの、本件建物持分及び本件土地については、本件法人が請求人らの本件建物持分を含む賃貸物件の管理業務の一環として、本件建物持分及び本件土地の管理業務を自ら行っているものと認められる。
 そうすると、この点に関する原処分庁の主張は採用することができない。

(3) 争点3 原処分は、信義則に反する違法な処分か否か。

イ 法令解釈
 租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、当該課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理とりわけ租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、同法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて同法理の適用の是非を考えるべきものである。
 そして、上記の特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者が当該表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、後に当該表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の当該表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠のものであると解される。
 なお、上記の公的見解とは、少なくとも税務署長その他の責任のある立場にある者の正式見解であることが必要であるというべきところ、一般に調査担当職員による申告指導又は修正申告のしょうようは、その前提となる調査に携わる担当職員の人数、調査時間などに限りがあることから必ずしも十分な精度をもって行われているとは限らない上、これに基づいて修正申告がされたとしても、それ自体は税額を絶対的に確定する性質を有するものではなく、課税の範囲について税務官庁としてその時点で有している一応の判断を示すにすぎないものであるから、税務官庁は、通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》に規定する期間内であれば、再度調査を行い更正等の課税処分をすることができる。このような事情に照らして考えれば、調査担当職員による申告指導又は修正申告のしょうようは信頼の対象たる公的見解の表示には該当しないものと解される。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ) 請求人は、遅くとも平成10年11月6日までには、原処分庁による前々回調査を受け、平成10年11月6日付で先々行各年分の所得税の修正申告書を原処分庁に提出した。
(ロ) 請求人提出の請求人の先々行各年分の所得税の各確定申告書の控えには、請求人の先々行各年分の不動産所得に係る総収入金額は、いずれも○○○○円である旨記載されていたところ、請求人提出の請求人の先々行各年分の所得税の各修正申告書の控えには、請求人の先々行各年分の不動産所得に係る総収入金額は、いずれも○○○○円である旨記載されていた。
(ハ) 前回調査の調査担当職員は、請求人らに対して、本件賃料が請求人に帰属するものであり、本件賃料の全額を請求人の収入として計上すべき旨の説明を行った。
ハ 判断
 法の一般原理である信義則の法理の適用により、当該課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、上記イで説示したとおり、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者が当該表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、後に当該表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の当該表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかの点についての考慮が不可欠であるところ、これを本件についてみると、次のとおりである。
 なお、上記(2)のハのとおり、本件管理費は、請求人の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入され、原処分のうち、本件管理費に係る部分については、取り消されることになるから、信義則に反するものか否かの判断を要しないと認める。
(イ) 請求人は、前々回調査において、本件賃料の帰属については原処分庁により検討されたが、何らの指摘も受けず、訂正を求められなかった旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(イ)のとおり、前々回調査において、請求人が先々行各年分の所得税の各修正申告書を原処分庁に提出した事実は認められるものの、請求人が先々行各年分の所得税の各修正申告書を提出するに至った経緯は明らかでなく、むしろ、上記ロの(ロ)からすれば、先々行各年分とも不動産所得の金額に係る総収入金額の計上漏れの事実を指摘されて修正申告書を提出したものと推認されるところ、本件の全証拠をもってしても、当該計上漏れの収入金額のうちに本件賃料が含まれていなかったか否かは明らかでない。
 仮に、前々回調査において、調査担当職員が本件賃料の帰属について何らの指摘を行わなかったとしても、その事実をもって原処分庁が請求人の経理処理について積極的に是認したとはいえず、まして、上記イのとおり、税務官庁が信頼の対象となるべき公的見解を表示したということはできない。
 以上のとおり、この点における請求人の主張は採用することはできない。
(ロ) また、請求人は、前回調査において、消費税等については修正申告書を提出したものの、所得税における本件賃料の帰属については、何らの指摘も受けずに申告是認とされたものであり、仮に、原処分庁が税務調査で税法上認められないと指摘したのであれば、修正申告をしょうようし、応じなければ更正処分していたはずである旨主張する。
 しかしながら、上記1の(4)のチのとおり、請求人は、前回調査において、前回調査の調査担当職員から、本件契約は請求人及びMらとK社との間の本件建物の賃貸借契約であり、本件賃料が請求人に帰属する旨の指摘を受けた後に、先行各課税期間に係る消費税等の修正申告書を原処分庁に提出したものと認められ、少なくとも、前回調査の調査担当職員が所得税法上の本件賃料の帰属について請求人ら三名に帰属する旨言及した事実は認められない。
 かえって、請求人は、前回調査の調査担当職員が本件契約について本件建物に係る賃貸借契約である旨及び本件賃料が請求人の課税売上げに該当する旨の説明をそれぞれ請求人に行ったこと、並びに、当該各説明の後に請求人の先行各課税期間の消費税等の修正申告書を原処分庁に提出したことは争わないところ、上記(1)のロの(ハ)のA及び上記ロの(ハ)のとおり、Fは、前回調査の調査担当職員から本件賃料から地代相当額を受領することについて本件契約のままでは認められない旨の指摘を受けたと自認していること、前回調査の調査担当職員は、請求人らに対して、本件賃料の全額を請求人の収入として計上すべき旨説明していることからすれば、前回調査の調査担当職員は、請求人の先行各年分の所得税についても、その各確定申告の内容について疑問がある旨の説明等ないし先行各年分の所得税の修正申告のしょうようを行っていた可能性が高いというべきである。
 以上のことから、前回調査において、所得税に係る本件賃料の帰属について何らの指摘も受けずに申告是認とされた旨の請求人の主張は、その前提を欠くものというべきであり、原処分庁が請求人に対して所得税の更正処分を行わなかったことは、本件賃料がFらに帰属することについての信頼の対象となる公的見解の表示には該当せず、これについての請求人の主張は採用することができない。
(ハ) その他請求人が提出した証拠書類等及び当審判所の調査によっても、本件契約に係る目的物が本件各土地建物であり、本件賃料はFらに帰属するとの公的見解を原処分庁が表示したという事実を認めることはできない。
 したがって、請求人には、納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてまでも、なお更正処分等に係る課税を免れさせ請求人の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情があるとは認められず、原処分が、請求人の主張する信義則に反する違法なものであるとは認められない。

(4) 争点4 通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められるものがある場合に該当するか否か。

イ 法令解釈
 通則法第65条に規定する過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対し課されるものであり、これによって、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
 通則法第65条第4項は、修正申告書の提出又は更正に基づき納付すべき税額に対して課される過少申告加算税につき、その納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、その事実に対応する部分についてはこれを課さないこととしているが、過少申告加算税の上記の趣旨に照らせば、同項にいう「正当な理由」があると認められる場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解される。
ロ 判断
 請求人は、前回調査及び前々回調査の2度の税務調査における指導を信頼し、その指導に基づいて所得税及び消費税等の確定申告書を提出してきたものであり、このことは通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められる場合に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記(3)のハのとおり、請求人は、前々回調査において、調査担当職員の何らかの指摘を受けて先々行各年分の不動産所得の総収入金額を増加する内容の各修正申告書を原処分庁に提出し、さらに、前回調査において、調査担当職員から本件契約が本件建物を賃貸する内容の不動産賃貸借契約である旨、本件賃料は請求人に帰属する旨及び本件賃料の全額を請求人の収入金額として計上すべき旨の各指摘及び説明を受けて、先行各課税期間の消費税等の各修正申告書を原処分庁に提出したものである。
 それにもかかわらず、請求人は、本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等の各確定申告において、本件賃料が請求人に帰属するものではないことを前提として総収入金額ないし課税資産の譲渡等の対価の額を記載した申告書を提出しているのであって、これらの申告内容は、少なくとも前回調査における各指摘事項と明らかに異なるものである。
 そうであるとすれば、前回調査及び前々回調査の2度の税務調査における指導を信頼し、その指導に基づいて本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等の各確定申告書を提出した旨の請求人の主張は、その前提を欠くといわざるを得ない。
 もっとも、上記(1)のハの(ロ)のとおり、請求人らは、前回調査後にK社との間で平成15年覚書を取り交わすことにより、本件契約の当事者を請求人から請求人ら3名に変更するとともに、賃料額を含む契約上の地位に基づく権利義務割合を請求人らが主張する賃料の取得割合に整合するように変更しているが、請求人において平成15年覚書の作成により前回調査における各指摘事項が満たされたものと考えていたとしても、所得税法上の所得の帰属及び消費税法上の納税義務者に関する請求人の税法の不知又は法令解釈の誤解にすぎないところ、上記(1)のハの(ロ)において認定説示したところに照らしても、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があるとはいえない。
 以上によれば、請求人の本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等の各確定申告について、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があるとは認められず、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお請求人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に該当するものとは認められない。
 したがって、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められるものがある場合に該当せず、請求人の主張は採用することができない。

(5) まとめ

イ 本件各年分の所得税の各更正処分
 上記(1)ないし(3)及び当審判所が調査した結果によれば、請求人の本件各年分の不動産所得に係る総収入金額は、別表4−1の「審判所認定額」の各「総収入金額」欄のとおりであり、また、必要経費に該当する金額は、別表4−2の「審判所認定額」の各「合計」欄のとおりである。
 そうすると、請求人の本件各年分の不動産所得の金額は、別表4−3の「審判所認定額」の各「不動産所得の金額」欄のとおりとなり、いずれの年分も別表1の「更正処分等」の各「不動産所得の金額」欄の額を下回ることになるので、本件各年分の所得税の各更正処分は、別紙1ないし別紙3のとおり、その一部を取り消すべきである。
ロ 所得税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分
 本件各年分の所得税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分は、上記(4)のロのとおり、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められるものがある場合に該当しない。
 ただし、本件各年分の所得税の各更正処分は、上記イのとおり、その一部を取り消すべきであるから、本件各年分の過少申告加算税の各賦課決定処分は、別紙1ないし別紙3の「取消額等計算書」の「課税標準等及び税額等の計算」の「裁決後の額B」の各「加算税の額」欄のとおりとなり、これらの金額はいずれも原処分に係る金額を下回るので、いずれもその一部を取り消すべきである。
ハ 消費税等の各更正処分
 上記(1)ないし(3)及び当審判所が調査した結果によれば、請求人の本件各課税期間の消費税等の納付すべき税額の計算上、課税標準額は、別表5−1の「審判所認定額」の各「課税標準額」欄のとおりであり、また、消費税額は、同表の「審判所認定額」の各「消費税額」欄のとおりである。
 そして、請求人の本件各課税期間の消費税等の納付すべき税額の計算上、消費税の課税仕入れに係る譲渡対価の額は、別表5−2の「審判所認定額」の各「合計」欄のとおりであり、また、課税仕入れに係る消費税額は、別表5−3の「審判所認定額」の各「課税仕入れに係る消費税額」欄のとおりとなる。
 そうすると、請求人の本件各課税期間の消費税等の納付すべき税額は、別表6の「審判所認定額」の各「消費税及び地方消費税の合計税額」欄のとおりとなり、いずれの課税期間も別表2の「更正処分等」の各「消費税及び地方消費税の合計税額」欄の額を下回ることになるので、本件各課税期間の消費税等の各更正処分は、別紙4ないし別紙6のとおり、その一部を取り消すべきである。
ニ 消費税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分
 本件各課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分は、上記(4)のロのとおり、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められるものがある場合に該当しない。
 ただし、本件各課税期間の消費税等の各更正処分は、上記ハのとおり、その一部を取り消すべきであるから、本件各課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分は、別紙4ないし別紙6の「取消額計算書」の「加算税の額の計算」の「裁決後の額B」の各「加算税の額」欄のとおりとなり、これらの金額はいずれも原処分に係る金額を下回るので、いずれもその一部を取り消すべきである。

(6) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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