(平成23年6月24日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、スナックを営む審査請求人(以下「請求人」という。)に対して行ったまる1青色申告の承認の取消処分、まる2所得税並びに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の更正処分等、まる3当該更正処分等に係る滞納国税の徴収のための不動産の差押処分について、請求人が、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成18年分、平成19年分及び平成20年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限内に申告し、また、平成18年1月1日から平成18年12月31日までの課税期間、平成19年1月1日から平成19年12月31日までの課税期間及び平成20年1月1日から平成20年12月31日までの課税期間(以下、順次「平成18年課税期間」、「平成19年課税期間」及び「平成20年課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等について、別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限内に申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成22年3月1日付で、平成18年分以後の所得税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色取消処分」という。)をし、同日付で、本件各年分の所得税について、別表1の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分並びに平成18年分及び平成19年分の過少申告加算税並びに平成20年分の重加算税の各賦課決定処分を、また、本件各課税期間の消費税等について、別表2の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分並びに平成18年課税期間及び平成19年課税期間の過少申告加算税並びに平成20年課税期間の過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成22年4月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月30日付で、別表1及び別表2の「異議決定」欄のとおり、本件青色取消処分、平成19年課税期間の消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分並びに平成20年課税期間の消費税等の過少申告加算税の賦課決定処分については棄却し、残りの原処分については、その一部を取り消す異議決定をした(以下、異議決定後のまる1本件各年分の所得税の各更正処分を「本件所得税各更正処分」、まる2平成18年分及び平成19年分の過少申告加算税並びに平成20年分の重加算税の各賦課決定処分を「本件所得税各賦課決定処分」、まる3本件各課税期間の消費税等の各更正処分を「本件消費税等各更正処分」、まる4平成18年課税期間及び平成19年課税期間の過少申告加算税並びに平成20年課税期間の過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分を「本件消費税等各賦課決定処分」という。)。
ニ 請求人は、異議決定を経た後のこれらの処分に不服があるとして、平成22年7月16日に審査請求をした。
ホ 原処分庁は、請求人の別表3に記載の滞納国税を徴収するため、平成22年5月26日付で別表4の「財産目録」欄に記載の不動産を差し押さえた(以下「本件差押処分」という。)。
ヘ 請求人は、本件差押処分を不服として平成22年7月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月5日付で棄却の異議決定をした。
ト 請求人は、異議決定を経た後の本件差押処分に不服があるとして、平成22年11月2日に審査請求をした。
チ そこで、上記ニ及びトの審査請求について併合審理をする。

(3) 関係法令

 関係法令の要旨は、別紙3のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、a市b町○丁目において平成3年からスナック(飲食店)を営んでおり、一時期、「M店」、「N店」、「P店」及び「Q店」の4店舗において同事業を営んでいた。
ロ 請求人は、平成11年6月3日に、消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項の規定(以下「簡易課税制度」という。)の適用を受ける旨の届出書を提出した。
 なお、請求人は、本件各課税期間について、消費税法施行令第57条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第5項に規定する第四種事業を営む事業者として、消費税の課税標準額に対する消費税額に100分の60を乗じて算出した金額を「消費税額から控除する税額」として確定申告した。
ハ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成20年9月16日に、請求人の自宅及び事業所に臨場し、本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等に係る調査(以下「本件調査」という。)に着手した。

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2 争点

(1) 争点1 帳簿書類を提示しなかったことが青色申告の承認の取消事由に該当するか。

(2) 争点2 本件調査の手続等に違法があったか否か。

(3) 所得税について

イ 争点3−1 推計の必要性が認められるか否か。
ロ 争点3−2 推計の方法に合理性があるか否か。

(4) 消費税等について

イ 争点4−1 推計の必要性が認められるか否か。
ロ 争点4−2 推計の方法に合理性があるか否か。
ハ 争点4−3 平成20年課税期間の課税仕入れ等の税額の控除の可否。

(5) 争点5 課税標準の計算の基礎となるべき事実に隠ぺい又は仮装の行為があるか否か。

(6) 争点6 本件差押処分は違法な処分に当たるか否か。

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3 主張

(1) 争点1(帳簿書類を提示しなかったことが青色申告の承認の取消事由に該当するか。)について

原処分庁 請求人
 本件調査担当職員が、平成20年9月16日に請求人の自宅及び事業所において、請求人及び請求人の夫Rに対して平成17年分以降の事業に係る帳簿書類の提示を求めたところ、請求人は帳簿の記帳はしていない旨申述し、帳簿を提示しなかった。
 また、本件調査担当職員は、平成21年12月18日に請求人の事業所においてRに対して帳簿書類の提示を求めたが、現金出納帳、売上帳等といった帳簿を提示しなかったことから、請求人の事業に係る帳簿書類を検査して、その内容の真実性を確認することができなかった。
 そうすると、平成18年分について、請求人は、所得税法施行規則第58条に規定する現金出納に関する事項、売上げに関する事項及び費用に関する事項を記載した帳簿を保存していないものと認められるから、所得税法第150条第1項第1号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する。
 請求人は、普段は帳簿及び帳票類を整理していたが、請求人が病気中の身辺整理の際に誤って捨ててしまったために、調査当日に本件調査担当職員に提示できなかったものであり、意図的に廃棄したものではないから、青色申告の承認の取消事由に該当しない。

(2) 争点2(本件調査の手続等に違法があったか否か。)について

請求人 原処分庁
 本件調査は、無予告調査であり、また、Rが前夜、遅くまで仕事をして朝まだ寝ている時間に調査に来るなど、納税者の生活サイクルを無視した威圧的な調査であり、税務運営方針に反する調査である。
 さらに、修正申告のしょうようが執拗に行われ、また、請求人がある団体に加入したことから、原処分庁の提示額が増加して倍くらいになっており、このことは、法の下の平等を保障した憲法第14条違反である。
 事前通知は法律上の要件とされているものではなく、また、所得税法第234条第1項に規定する質問検査権は、「所得税に関する調査について必要があるとき」に行使し得るものと規定されているところ、その範囲、程度、時期、場所等については実定法上なんらの制限も設けられておらず、実施の細目については、これを行使する税務職員の合理的な選択にゆだねられている。
 そうすると、本件調査に当たり、本件調査担当職員が事前通知をしなかったことについてこれを不相当とするような事由は認められず、また、本件調査担当職員が行った質問検査権行使の実施の細目についての裁量に濫用ないし逸脱した事実は認められないから、調査手続等に違法はない。

(3) 所得税について

イ 争点3−1(推計の必要性が認められるか否か。)について

原処分庁 請求人
 本件調査担当職員が本件各年分の帳簿書類の提示を求めたところ、請求人は、平成18年分及び平成19年分については、売上げに係る領収書(控)の一部のみしか提示しなかった。また、請求人は、平成20年分については、売上伝票、経費に係る領収書、人件費を記載したノート等を提示したものの、現金出納帳などの帳簿の提示はしなかった。さらに、Rは、本件調査の際に「売上伝票の一部を廃棄して売上げをごまかしている。人件費ノートに記載してある従業員の人数、金額も正しくない。」等の申述をした。加えて、平成20年1月から同年8月までの期間の瓶ビールの仕入数量1,090本に対し、売上数量54本と極端な開きがあった。
 以上のことから、請求人の提示した資料は不正確で信頼性に乏しく、実額計算の資料として使用することは困難であると認められたから、推計の方法により事業所得の金額を算定したものである。
 平成18年分及び平成19年分については帳簿がないので推計の必要性は認めるが、平成20年分については、請求人の提示した資料等は所得金額を実額で算定する資料として十分であり、推計の必要性はない。

ロ 争点3−2(推計の方法に合理性があるか否か。)について

原処分庁 請求人
 請求人の営む各店舗は、「バー、スナックバー、キャバレー、ナイトクラブ」と同業種であると認められるため、原処分庁は、納税地がT税務署及びL税務署の管内にあり、a市内に事業所を有する「バー、スタンドバー、キャバレー」を営む個人事業者のうち、水道光熱費の金額が請求人の店舗ごとに0.5倍以上、2倍以下である青色申告者を請求人の業種・業態に類似性がある同規模程度の同業者として抽出しているから、類似同業者の選定には合理性がある。
 また、まる1請求人の各店舗の総収入金額は、請求人の取引先を調査して把握した請求人の店舗ごとの水道光熱費の額を基に、平均水道光熱費率を適用して算出し、まる2事業所得の金額は、まる1の額にそれぞれ類似同業者の平均所得率を適用して算出した金額を合計して算定したものであるから、推計方法には合理性がある。
 原処分庁の推計課税は、水道光熱費を基に、同業者の平均水道光熱費率から売上げを求め、これに同業者の平均所得率を乗じて所得金額を算出していると認められるが、請求人の事業形態は特殊なものであり、サンプルとなる事業者はないと思われる。
 また、一般的に、所得金額の推計に当たっては、生活費、借入金の返済額、事業外支出額そして財産の増加額を基にすべきである。
 したがって、本件各年分の所得の推計に当たっては、いわゆる資産負債増減法によるべきであるが、これを採用しなかった原処分庁の推計方法には合理性がない。

(4) 消費税等について

イ 争点4−1(推計の必要性が認められるか否か。)について

原処分庁 請求人
 原処分庁は、請求人から提示された書類のみでは請求人の本件各課税期間の消費税の課税標準額を実額で算出することが困難であると認められたので、推計の方法によって本件各課税期間の消費税の課税標準額を算出した。  平成18年課税期間及び平成19年課税期間については、帳簿書類等がないので推計によらざるを得ないが、平成20年課税期間については、請求人の提示した資料等は課税標準額を算定する資料として十分であり、推計の必要性はない。

ロ 争点4−2(推計の方法に合理性があるか否か。)について

原処分庁 請求人
 消費税の課税標準額は、上記(3)のロの原処分庁の主張で述べたとおり、請求人の各店舗の総収入金額に基づいて算出したものであるから、推計の方法には合理性がある。  上記(3)のロの請求人の主張で述べたとおり、原処分庁の推計方法には合理性がないので、これにより算出された課税資産の譲渡等の対価の額には合理性はなく、推計の方法は資産負債増減法によるべきである。
 具体的には、平成20年分の所得金額と収入金額の比率から、資産負債増減法で算出した平成18年分及び平成19年分の事業所得の金額に当該比率を乗じて算出すべきである。

ハ 争点4−3(平成20年課税期間の課税仕入れ等の税額の控除の可否。)について

原処分庁 請求人
 平成20年課税期間については、基準期間である平成18年課税期間の課税売上高が5,000万円を超えるため、消費税法第37条の規定は適用できず、同法第30条を適用することとなるが、本件調査担当職員は本件調査において同条第7項に規定する帳簿を確認することができなかったことから、請求人は、同項に規定する課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合に該当するので、課税仕入れに係る消費税額を控除することはできない。  平成20年課税期間については、基準期間である平成18年課税期間の課税売上高が5,000万円以下であるから、簡易課税による計算方法が適用できる。
 仮に、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えたとしても、平成20年課税期間の消費税の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等があるから、課税仕入れに係る消費税額を控除することができる。

(5) 争点5(課税標準の計算の基礎となるべき事実に隠ぺい又は仮装の行為があるか否か。)について

原処分庁 請求人
 平成20年9月16日の調査初日にRが、本件調査担当職員に対し、平成20年分の事業所得の収入金額については、9か月前から売上げが多い日に売上伝票を捨てて売上げをごまかしている旨申述し、瓶ビールの仕入数量と売上数量に極端な開差が認められること等から、請求人は、瓶ビールに関連する売上げを除外していることが推認されるところ、このRが売上伝票の一部を廃棄した行為は国税通則法(以下「通則法」という。)第68条第1項に規定する「事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装」の行為に該当する。  原処分庁の主張するような答弁をした覚えはなく、隠ぺい、仮装の事実はない。

(6) 争点6(本件差押処分は違法な処分に当たるか否か。)について

原処分庁 請求人
 課税処分と差押処分は、それぞれ別個の目的及び法律的効果を有する独立した行政処分であるから、仮に、課税処分に違法原因があったとしても、当該課税処分が取り消されない限り、課税処分の違法を理由として差押処分の取消しを求めることはできない。
 したがって、本件差押処分は、国税徴収法第47条第1項の規定に基づき行われたものであり、本件所得税各更正処分等が取り消された事実もないから、何ら違法なものではない。
 本件所得税各更正処分等については、審査請求中であり税額が確定しておらず、課税処分が違法で取り消されるべきものであるから、これに基づく本件差押処分も取り消されるべき違法なものである。

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4 判断

(1) 争点1(帳簿書類を提示しなかったことが青色申告の承認の取消事由に該当するか。)について

イ 法令解釈
 所得税法第148条第1項は、青色申告の承認を受けている者は、財務省令に定めるところに従って帳簿書類の備付け、記録及び保存(以下「帳簿書類の備付け等」という。)をしなければならない旨規定しており、所得税法施行規則第58条は、昭和42年8月31日大蔵省告示112号に定める現金出納等に関する事項、売上げに関する事項及び費用に関する事項を記載する帳簿を備え付け、これに記録しなければならない旨規定し、また、同規則第63条は、帳簿及び自己が作成した領収書の写し等の書類を一定期間保存しなければならない旨規定している。
 次に、所得税法第150条第1項第1号は、青色申告の承認を受けた納税者がその帳簿書類の備付け等を同法第148条第1項に規定する財務省令で定めるところに従って行われていない事実がある場合には税務署長は青色申告の承認を取り消すことができる旨規定している。
 そして、税務職員(調査担当職員)において、この帳簿書類の備付け等が財務省令に従って行われていることを確認するためには帳簿書類を閲覧することが不可欠であるところ、これは納税者による帳簿書類の提示があって初めて可能となるものであるから、青色申告の承認を受けている納税者の帳簿書類の備付け等の義務は、調査担当職員の質問検査に応じてその帳簿書類を提示する義務をも当然に含んでいるものと解される。
 そうすると、青色申告者が帳簿書類の備付け等をしているというためには、調査担当職員の求めに応じてそれを提示することを要するものであるから、備付け等を義務付けられた帳簿書類につき調査担当職員から提示を求められたにもかかわらず、これを保存せず、提示しない場合には、青色申告の承認の取消事由に該当するというべきである。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件調査担当職員が、平成20年9月16日に請求人に対し、事業所得に関する平成17年分以降の帳簿書類の提示を求めたところ、請求人は、申告の済んだ年分の書類についてはすべて廃棄しており帳簿の保存はないとして、帳簿書類を提示しなかった。
(ロ) 本件調査担当職員は、同日、Rと請求人の店舗に同行した際に、平成18年分については、店舗に保管していた平成18年12月8日以降の売上げに係る領収書(控)の提示を受けた。
(ハ) 本件調査担当職員が、平成21年3月10日に請求人に対し、平成17年分ないし平成19年分の帳簿及び領収書等の原始記録の提示を再度求めたが、請求人は家の整理をした際に捨てたとして、平成18年分については上記(ロ)以外の書類は提示しなかった。
ハ 判断
(イ) 上記ロの(ロ)のとおり、請求人が本件調査担当職員に対して提示した平成18年分に関する書類は、平成18年分の売上げの一部に係る領収書(控)のみであることから、請求人は、平成18年分に係る所得税法施行規則第58条第1項に規定する帳簿を同規則第63条の規定に従って保存していたとは認められない。
 そうすると、このことは、所得税法第150条第1項第1号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当するから、本件青色取消処分は適法である。
(ロ) 請求人は、帳簿及び帳票類を意図的に廃棄したものではなく、誤って捨ててしまったものであるから、青色申告の承認の取消事由に該当しない旨主張する。
 しかしながら、誤って帳簿書類を捨てたため帳簿書類を提示できなかったとしても、そのことが、所得税法第150条第1項第1号の取消事由に該当するかどうかの判断に影響を及ぼすものではないから、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件調査の手続等に違法があったか否か。)について

イ 法令解釈
 所得税法第234条に規定された質問検査権を行使するに当たり、質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において、社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な判断にゆだねられていると解される。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件調査担当職員は、平成20年9月16日の午前9時10分ころ事前通知をせずに請求人の自宅に臨場し、所得金額の確認のための調査を行う旨説明し、請求人の同意を得た上で本件調査に着手した。
(ロ) 本件調査担当職員は、請求人がRは午前10時30分ころに起床する旨申し出たので、午前11時ころにRが起床した後、同人が所用を済ませるのを待って、店舗に同行した。
(ハ) 本件調査担当職員は、平成21年3月10日に請求人の自宅において、平成17年分ないし平成19年分及び平成17年課税期間ないし平成19年課税期間の本件調査に係る所得税及び消費税等の税額を請求人に説明し、修正申告の意思確認を行った。
(ニ) 本件調査担当職員は、平成22年1月27日に店舗に臨場した際に、Rが、本件調査により請求人の所得税等の額がどのくらいになるのか尋ねたので、同人に対し、本件各年分及び本件各課税期間の本件調査に係る所得税及び消費税等の税額を、それぞれの年分及び税目ごとに説明したところ、請求人に対する説明及び検討する時間が欲しい旨回答したので、後日連絡する旨伝えた。
 その後、本件調査担当職員が平成22年2月4日にRに電話連絡したところ、同人は後日連絡して欲しい旨回答したので、同月5日に再度同人に電話連絡し、その際、修正申告の意思確認をしたところ、修正申告書を送付して欲しい旨回答したので、修正申告書を送付した。そして、同月10日に同人に対し、電話連絡したところ、同人は体調が悪いので再度連絡して欲しい旨回答したので、後日連絡する旨伝えた。
(ホ) 請求人は、平成22年2月15日にL税務署を訪れた際に、本件調査担当職員に対し、修正申告書は提出しない旨申し出た。
ハ 判断
(イ) 請求人は、本件調査は無予告調査であり、また、納税者の生活サイクルを無視した威圧的な調査であり、税務運営方針に反する調査である旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、事前通知は、税務調査において法令上の要件とされているものではなく、当審判所の調査によっても、本件調査に当たり、本件調査担当職員が事前通知をしなかったことにつき格別これを不相当とするような事由は認められず、合理的な判断の範囲を逸脱した違法があったとはいえない。
 また、上記ロの(ロ)のとおり、本件調査担当職員は、請求人及びRの生活状況等に配慮して本件調査を行っていることが窺え、請求人の主張するような威圧的な調査を行った事実は認められない。
 なお、請求人の主張する税務運営方針は、納税者の自主的な理解、協力を得て円滑な税務行政を遂行しようとする観点から、国税内部における税務調査を含む事務運営の基本方針を示したものであって、税務調査における手続の細目などを一律に定めたものではないから、その記載内容を根拠として具体的な調査が直ちに違法又は不当となるものではない。
(ロ) 請求人は、修正申告のしょうようが執拗に行われ、また、ある団体に加入したことから原処分庁の提示額が増加して倍くらいになっており、このことは、法の下の平等を保障した憲法第14条違反である旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(ハ)及び(ニ)のとおり、本件調査担当職員は、請求人及びRに対して数回にわたり、修正申告のしょうよう及びその意思確認のための電話連絡をしたことは認められるものの、それは、請求人及びRの都合に配慮したことによるものであることが認められ、これらのしょうよう等が合理的な判断の範囲を逸脱したものとはいえない。
 そして、本件調査担当職員が請求人に対する修正申告のしょうよう時において示した税額等は、平成21年3月10日は平成17年分ないし平成19年分の所得税等について、平成22年1月27日は平成18年分ないし平成20年分の所得税等についてされたものであり、それぞれ対象年分等が異なっていること、また、税務調査における調査額は、調査の進展とともに発生する新たな事実等によって変動するものであることから、修正申告のしょうよう時において示した税額等が変動したとしても違法又は不当となるものではない。
 なお、請求人が主張する団体加入の影響を明らかにする証拠は認められない。
(ハ) 以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、また、当審判所の調査によっても、本件調査担当職員による本件調査の際の質問検査権の行使は、質問検査の必要性と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまっていると認められ、合理的な判断の範囲を逸脱するような違法は認められない。

(3) 所得税について

イ 争点3−1(推計の必要性が認められるか否か。)について
(イ) 法令解釈
A 所得税法第156条は、所得の金額を推計して課税することを認めているところ、これは、まる1納税者が帳簿書類を備え付けていない場合、まる2帳簿書類の記載が不備、不正確で信用できない場合、まる3帳簿書類を提示せず調査に非協力な場合など、納税者の所得金額を直接資料によって把握することができない場合に、課税を放棄することは租税の公平負担の見地から許されないため、税務署長が入手し又は容易に入手し得る推計のための基礎事実及び統計資料等の間接的な資料を用いて、所得金額に近似した額を推計し、これをもって課税することを是認する趣旨と解され、納税者の所得金額を直接資料によって把握することができない場合には、推計による課税の必要性があると解するのが相当である。
B また、納税者が実額を主張し、推計課税の方法によって認定された所得金額が実額と異なるとして推計課税の違法性を立証するためには、まる1その主張する収入及び経費の各金額が存在すること、まる2その主張する収入金額がすべての取引先から発生したすべての収入金額(総収入金額)であること、まる3その主張する経費がその収入金額と対応するものであることの三点につき、合理的な疑いを容れない程度に証明される必要があると解するのが相当である。
(ロ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、本件調査担当職員に対し、平成20年9月16日に、まる1平成20年1月4日から同年9月15日までの売上伝票、まる2平成20年1月から同年8月までの仕入れ及び経費に係る領収書、まる3平成20年3月1日から同年9月15日までの人件費を記載したとするノート、まる4平成18年12月8日から平成19年1月31日まで及び平成19年10月25日から平成19年11月26日までの売上げに係る領収書(控)を、また、平成21年12月18日以降に、まる5平成20年分の売上金額集計表、まる6平成20年1月4日から同年12月30日までの売上伝票、まる7平成20年1月から同年12月までの仕入れ及び経費に係る領収書、まる8平成20年9月18日から同年12月30日までの人件費に係るメモをそれぞれ提示した。
 なお、上記まる5の売上金額集計表に記載された売上金額の合計額は27,482,150円であり、同まる6の売上伝票を原処分庁が集計した額は27,871,990円である。
B Rの申述について
(A) 平成20年9月16日に、本件調査担当職員がRに対し、売上伝票はすべて保存しているかを尋ねたところ、同人がすべて保存している旨回答したので、本件調査担当職員が、以前客として請求人の店舗に来店した際の売上伝票がないこと、上記Aのまる3の人件費を記載したとするノートに記載している従業員の人数も少ないことを告げると、Rは、次のとおり申述した。
a 1日の売上げが多い日に売上伝票を捨てて売上げをごまかしている。
b 売上げをごまかした金は金庫に保管している。昨日の売上げは請求人に4,000円しか渡せないほど少なかったのでごまかしていない。
(B) そこで、本件調査担当職員が、金庫の中に保管されていた現金10,000円について尋ねたところ、Rは、昨日の売上げをごまかしたものであり、その売上伝票は捨てた旨申述した。
(C) そして、Rは、売上げをごまかした分については、売上伝票をその都度捨てており、帳簿もつけていないので正当な金額は分からない旨、また、上記Aのまる3の人件費を記載したとするノートに記載の従業員の給料については、人数も金額も正しくなく実際の支払金額は倍くらいあるが、従業員の中には他に仕事を持っている人や夫の扶養家族になっている人もおり、本当の報告はしないことで出勤してもらっている旨、また、これらの事情を配慮して、当該ノートは、支払った給料より少なく記載しており、実際に支払った人数、金額が分かる書類はない旨申述した。
(D) Rは、平成20年9月18日本件調査担当職員に対し、給与については上記Aのまる3のノートに適当な金額を記載しており、また、給与支払のための資金については、売上げを調整した旨申述した。
(E) 以上によれば、Rの上記(C)の申述は具体性があり、また、当該申述した内容を記載した書面には、加除・訂正及び同人の訂正印があり、平成20年9月18日にも同様の申述をしたことからすると、この申述は信用することができ、上記(C)の事実を認めることができる。
(F) なお、Rは、上記(C)の申述に加えて、ここ2、3か月は月7万円から10万円くらいごまかした旨申述したが、上記(C)の売上げをごまかした分については、売上伝票をその都度捨てており、帳簿もつけていないので正当な金額は分からない旨の申述と相反しているから、前者の申述は採用できない。
C 請求人は、当審判所に対し、次の帳簿書類を提出した。
(A) 主張額を記載した平成20年分の青色申告決算書
(B) 平成20年分総勘定元帳
(C) 平成20年1月4日から同年9月24日までの女性従業員の日給等を記載したとするノート(以下「本件人件費ノート」という。)
(D) 「平成20年分収支関係証憑綴」と題する平成20年1月から同年12月までの仕入れ及び経費に係る領収証等
(E) 「お会計票」と題する平成20年1月4日から同年12月30日までの売上伝票
(F) 平成20年9月18日から同年12月30日までの女性従業員の日給等を記載したとするメモ(以下「本件人件費メモ」という。)
D 上記Cの(B)の平成20年分総勘定元帳の売上高勘定の合計額は27,756,830円である。
E 上記Aのまる6の売上伝票と上記Cの(E)の売上伝票及び上記Aのまる8の人件費に係るメモと上記Cの(F)の本件人件費メモは、それぞれ同一のものである。
F 上記Cの(B)の総勘定元帳の売上高勘定の日々の売上計上額と同(E)の売上伝票の売上金額を照合したところ、現金売上げの一部につき、売上高勘定に計上されていないものがある。
G 総勘定元帳の給料手当勘定の金額は、本件人件費ノート及び本件人件費メモを集計した給料賃金の額を上回っている。また、本件人件費ノート及び本件人件費メモには、従業員の氏名・支払先等が明記されていない。
H 女性従業員が客のおごりでビールを飲んだ場合、1杯当たり800円の売上げが売上伝票に記載され、従業員には、飲んだビールの杯数に応じ歩合給が支払われる。
 なお、請求人が女性従業員の歩合給の算定資料として利用していた本件人件費メモに記載されたビールの杯数と、平成20年10月から同年12月までの売上伝票に記載されたビールの杯数とを比較すると、当該売上伝票の合計杯数は1,485杯であるの対し、本件人件費メモに記載されたビールの合計杯数は1,981杯で、その差は496杯である。
I 平成20年1月から同年8月までの期間の瓶ビールの仕入数量は1,090本であり、売上伝票に記載された瓶ビールの売上数量は54本である。
J Rは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述又は文書回答した。
(A) 本件調査担当職員に対し、売上伝票を捨てて売上げをごまかした旨、また、従業員の給料については、人数も金額も正しくない旨申述したことはない。
(B) 瓶ビールの仕入数量と売上数量に開差があるのは、乾杯用として2〜3人当たり1本をサービスとして提供していたからである。
(C) 平成20年10月から同年12月までの売上伝票に記載されたビールの杯数の合計が、歩合給の算定資料として本件人件費メモに記載されたビールの杯数の合計を下回っているのは、従業員から各自が客のおごりで飲んだビールの杯数を口頭で報告を受け、それにより歩合給を支払うこととしており、売上伝票との照合をしていなかったためにミスが発生したものと思う。
(ハ) 判断
A 原処分段階における推計課税の必要性
 請求人は、平成20年分について請求人の提示した資料等で事業所得の金額を算定することは十分であるから推計課税の必要性はない旨主張する。
 しかしながら、まる1上記(ロ)のAのとおり、請求人は平成20年分について売上伝票を提示しているものの、同BのRの申述によれば、Rは売上伝票の一部を廃棄していると認められることから、請求人の提示した売上伝票が請求人の売上金額を示すすべての資料とは認められないこと、まる2同Bの(C)のとおり、Rは、同Aのまる3のノートに記載の従業員の人数も金額も正しくない旨申述しており、当該ノートについては、すべての従業員の給与を記載したものではないと認められること、まる3同Iのとおり、平成20年1月から同年8月までの期間の瓶ビールの仕入数量に比し、売上数量が極めて少ないことが認められる。
 そうすると、原処分庁が、請求人の提示した資料では請求人の所得金額を実額計算の方法で算定することは困難であると判断し、平成20年分の所得金額を推計の方法により算定したことに違法性は認められないから、請求人の主張に理由はない。
 なお、請求人は、平成18年分及び平成19年分については推計課税の必要性があったことについては争わず、当審判所の調査によっても、上記(ロ)のAのとおり、本件調査時に両年分に関して請求人が提示した書類は売上げに係る領収書(控)の一部のみであるから、原処分庁が推計の方法により算定したことに違法性は認められない。
B 実額計算の採否
(A) 請求人は、平成20年分の事業所得の金額を実額計算の方法により算定すべきであるとして、当審判所に対し、上記(ロ)のCの帳簿書類を提出した。
(B) ところで、Rは、上記(ロ)のJの(A)のとおり答述するが、同Bの(E)のとおり、Rが申述した内容等を記載した書面には、応答内容が加除・訂正され、同人の訂正印もあり、2回も同様の申述をしていることからすると、当該答述は信用することができない。
 また、Rは、上記(ロ)のHの事実について、同Jの(C)のとおり答述するものの、売上伝票のすべてが保存されていない本件において、当該答述を採用することはできない。
 さらに、Rは、上記(ロ)のIの事実について、同Jの(B)のとおり答述するが、当該開差は、客にサービスとして提供したことによるものも含まれていることを否定することまではできないとしても、客にサービスとして提供したことを確認できる書類はなく、また、売上伝票のすべてが保存されているとは認められない本件においては、仕入数量と売上数量の開差のすべてがサービスであったと認めるに足る証拠はないから、当該答述は信ぴょう性がない。
(C) また、上記(ロ)のEのとおり、請求人が本件調査時に提出した売上伝票と当審判所に提出した売上伝票は同一のものであり、請求人が総収入金額の実額主張の根拠として提出した平成20年分総勘定元帳の売上高勘定に記載されている売上金額には集計誤りがあるものの、請求人は、当該売上伝票を売上金額集計の基礎としていることが認められるところ、まる1上記(ロ)のBの(C)及び(D)のRの申述、まる2同Hのとおり、売上伝票に記載されたビールの杯数の合計が、歩合給の算定資料として本件人件費メモに記載されたビールの杯数の合計を下回っていること、また、まる3同Iのとおり、平成20年1月から同年8月までの期間の瓶ビールの仕入数量に比し売上伝票に記載された売上数量が極めて少ないことから、請求人の原始資料である売上伝票の一部をRが廃棄したものと認められ、すべての売上げを正確に記載したものであるとは認められないから、請求人の平成20年分の総収入金額を実額で計算することはできない。
 また、上記(ロ)のGの事実があることから、本件人件費ノート及び本件人件費メモに記載された金額から総勘定元帳の給料手当の金額の正否を確認することもできない。
 したがって、その他の経費については判断するまでもなく、請求人の実額主張を採用することはできない。
(D) そうすると、当審判所においても原処分庁と同様、請求人の平成18年分及び平成19年分の事業所得の金額はもとより、平成20年分の事業所得の金額も推計の方法により算定せざるを得ない。
ロ 争点3−2(推計の方法に合理性があるか否か。)について
(イ) 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 原処分庁は、請求人と業種、業態が類似する同規模程度の事業を営む青色申告者(以下「類似同業者」という。)の水道光熱費の総収入金額に占める割合の平均値(以下「平均水道光熱費率」という。)を求め、別表5の請求人のそれぞれの店舗ごとの水道光熱費の金額を平均水道光熱費率で除して店舗ごとの総収入金額を算出し、さらに、類似同業者の所得率(総収入金額に対する青色申告者のみ認められている青色事業専従者給与等の特典を除いて計算した事業所得の金額の割合をいう。)の平均値(以下「平均所得率」という。)を乗ずる方法により、別表6の「原処分庁主張額」欄の「事業所得の金額まる7」欄のとおり、請求人の各年分の事業所得の金額を推計の方法により算定した。
B 原処分庁は、類似同業者の選定において、各年分において納税地がT税務署及びL税務署の管内にあり、a市内に事業所を有するバー、スタンドバー及びキャバレーを営む個人事業者の中からまる1各年分の水道光熱費の金額が請求人のそれぞれの店舗ごとに0.5倍以上2倍以下であること、まる2地代家賃及び給料賃金の支払があること、まる3青色申告書を提出している者であること、まる4年間を通じて事業を営んでいることなどを条件に類似同業者を選定した。
C 請求人が当審判所に提出した平成18年分及び平成19年分の事業所得の金額を資産負債増減法によって算出するために作成した平成18年分及び平成19年分の貸借対照表の資産の部には、普通預金及び店主貸しの科目のみが記載されている。
(ロ) 判断
A 上記(イ)のAのとおり、原処分庁は、水道光熱費を推計の基礎としているところ、水道光熱費以外に客観的に基礎となる金額がない本件において、原処分庁が当該水道光熱費を推計の基礎としたことは、当審判所の調査によっても相当であると認められる。
 また、上記(イ)のBの類似同業者の選定基準については、一般に、業種、業態に類似性のある同業者にあっては、特段の事情のない限り、同程度の収入に対して同程度の経費を支出し、同程度の所得を得ることが通例であり、事業所得の金額を平均所得率により推計する場合は、当該同業者間に通常存在する程度の営業条件の差異は当該平均値に捨象されることとなり、このことは、請求人の営む事業にあっても例外ではなく、また、請求人に特段の事情があるとは認められないことから、原処分庁の採った推計方法には、一定の合理性があると認められる。
B ところで、原処分庁は、別表6のとおり、店舗ごとに水道光熱費を推計の基礎として所得金額を算出して合計する方法を採っているが、請求人は、a市b町○丁目の近接する地域内の各店舗において「スナック」という同一の業種を営んでいるから、請求人が営む事業全体を事業規模の判断要素とし、それとの近似性という観点から、各店舗の水道光熱費の合計金額を基礎として、これにより「スナック」を営む同業者の中から類似同業者を選定し、当該類似同業者の平均水道光熱費率及び平均所得率を適用して、請求人の総収入金額及び事業所得の金額を算定する方法がより合理的である。
C そこで、本件においては、別表5のとおり、各店舗の水道光熱費の合計金額を基礎として、これにより類似同業者(ただし、納税地がT税務署及びL税務署の管内にあり、a市内に事業所を有するスナックを営む個人事業者に限る。)をまる1各年分の水道光熱費の金額が請求人の各店舗の水道光熱費の合計金額の0.5倍以上2倍以下であること、まる2地代家賃及び給料賃金の支払があること、まる3青色申告書を提出している者であること、まる4年間を通じて事業を営んでいること、まる5対象年分の所得税について不服申立て又は訴訟が係争中でないことを条件に選定し、当該類似同業者の平均水道光熱費率及び平均所得率を適用して、請求人の総収入金額及び事業所得の金額を算定することとした。これにより、各年分の類似同業者の平均水道光熱費率及び平均所得率を計算すると、別表7の「水道光熱費率」及び「所得率」の欄の「平均」欄のとおりとなる。
D 請求人の主張について
(A) 請求人は、事業の形態は特殊なものであり、サンプルとなる事業者はいない旨主張する。
 しかしながら、当審判所が本件において選定した類似同業者は、スナックという業種、業態等の基礎的要件に欠けるところはなく、請求人の主張する事業形態の特殊性は、選定した類似同業者の平均水道光熱費率及び平均所得率を算出する過程において捨象されるというべきであり、これを考慮する必要はないから、請求人の主張に理由はない。
(B) 請求人は、資産負債増減法による推計方法によるべきであると主張する。
 しかしながら、上記(イ)のCのとおり、請求人から提出された貸借対照表の資産勘定に計上されている資産は、普通預金及び店主貸しのみであり、店主貸しの金額は算出根拠等が明らかにされていないことから、当該貸借対照表は請求人の資産をすべて網羅したものであるとは認められない。
 したがって、上記貸借対照表に基づいた資産負債増減法による推計の方法を採用することはできない。
ハ 本件所得税各更正処分について
(イ) 事業所得の金額
A 当審判所において、上記ロの(ロ)のB及びCから、水道光熱費の額を基に別表6の「審判所認定額」欄の「平均水道光熱費率まる2」を適用して総収入金額を算定し、当該総収入金額に同表の「審判所認定額」欄の「平均所得率まる4」を適用して事業専従者控除前の事業所得の金額を算定すると、請求人の本件各年分の事業所得の金額は、同表の「審判所認定額」欄の「事業所得の金額まる7」欄のとおり、平成18年分は○○○○円、平成19年分は○○○○円、平成20年分は○○○○円となる。
B ところで、請求人は、平成20年分の確定申告において、Rが控除対象配偶者であるとして配偶者控除を適用しているところ、異議審理庁は、Rを事業専従者であるとして事業専従者控除を適用して異議決定を行い、原処分庁はこれを主張している。
 しかしながら、所得税法第57条《事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等》第6項は、確定申告書に事業専従者控除を受ける旨の記載がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、事業専従者控除の適用ができる旨規定しているところ、本件のように請求人が確定申告において配偶者控除を適用している場合には、同項に規定する「やむを得ない事情」には該当しないから、事業専従者控除を適用することはできない。
C 以上の結果、請求人の事業所得の審判所認定額は、本件所得税各更正処分の事業所得の金額をいずれも下回る。
(ロ) 本件所得税各更正処分について
 請求人の本件各年分の事業所得の金額は、上記(イ)のAのとおりとなるから、平成18年分の更正処分は、別紙4の「取消額等計算書」のとおりその一部を取り消し、平成19年分及び平成20年分の所得税の納付すべき税額は、別表8のとおりいずれも○○○○円となるところ、平成19年分の確定申告に係る純損失の金額○○○○円については、本件青色取消処分によって翌年に繰り越すことができないこととなったので、同年分の更正処分は、この部分を除く部分につき、別紙5のとおり取り消すべきであり、また、平成20年分の更正処分については、その全部を取り消すべきである。

(4) 消費税等について

イ 争点4−1(推計の必要性が認められるか否か。)について
(イ) 原処分段階における推計課税の必要性
 請求人は、平成20年課税期間については、請求人の提示した資料等から課税標準額を算定できることから、推計の必要性はない旨主張する。
 しかしながら、上記(3)のイの(ハ)のAのとおり、原処分庁が、請求人が本件調査時に提出した資料では平成20年課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額を実額計算により算定することができないと判断し、推計の方法により算定したことに違法性は認められない。
 なお、平成18年課税期間及び平成19年課税期間については、課税資産の譲渡等の対価の額を推計により計算する必要性があったことについては、双方争いのないところであり、当審判所の調査によっても上記(3)のイの(ロ)のAのとおり、請求人が提出したのは請求人の売上げに係る一部の領収書(控)のみであるから、推計の方法による課税の必要性があったと認められる。
(ロ) 実額計算の採否
 上記(3)のイの(ハ)のBのとおり、請求人が提出した資料によっては本件各課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額を実額計算の方法により算定することができないから、当審判所においても本件各課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額を推計の方法により算定せざるを得ない。
ロ 争点4−2(推計の方法に合理性があるか否か。)について
(イ) 推計の方法による課税の合理性
 上記(3)のロの(ロ)のAのとおり、原処分庁が請求人の本件各年分の事業所得に係る総収入金額を推計の方法により算定したことには合理性があるから、原処分庁が当該推計の方法により算出した総収入金額を基礎として本件各課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額を算出したことには一定の合理性がある。また、請求人の事業は、消費税法第6条《非課税》に規定される取引はないと認められることから、当該総収入金額から消費税等相当額を控除して請求人の本件各課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額とすることも、合理的であると認められる。
 なお、請求人は、消費税の課税資産の譲渡等の対価の額について、実額計算による平成20年分の事業所得の金額と収入金額の比率から、資産負債増減法で算出した平成18年分及び平成19年分の事業所得の金額に当該比率を乗じて算出すべき旨主張するが、上記(3)のイの(ハ)のBで述べたとおり、請求人の平成20年分の事業所得の金額を実額計算の方法によって算定することができず、請求人の主張する方法により課税資産の譲渡等の対価の額を算定することはできないから、請求人の主張は採用できない。
(ロ) 本件各課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額
 類似同業者の平均水道光熱費率により事業所得の総収入金額を算定することには合理性があるから、上記(3)のハの(イ)のAで算定した本件各年分の事業所得の総収入金額を基礎とし、本件各課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額を算定して課税標準額を求めると、別表9の「審判所認定額」欄の「消費税の課税標準額まる3」欄に記載のとおり、平成18年課税期間は○○○○円、平成19年課税期間は○○○○円、平成20年課税期間は○○○○円となる。
ハ 争点4−3(平成20年課税期間の課税仕入れ等の税額の控除の可否。)について
(イ) 法令解釈
 消費税法第30条第7項は、事業者が課税仕入れ等の帳簿及び請求書等(課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円未満である場合には帳簿)の保存をしない場合には、当該保存がない課税仕入れ等の税額は、課税標準額に対する消費税額から控除することができない旨規定している。そして、同項に規定する課税仕入れ等の帳簿等の保存については、消費税法施行令第50条《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の保存期間等》第1項の規定により、事業者が、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を整理し、これらを所定の期間及び場所において、同法第62条《当該職員の質問検査権》に基づく税務職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存する必要があるところ、その保存をしていなかった場合には、同法第30条第7項に規定する「事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に当たり、事業者が災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことを証明しない限り、同条第1項の規定は、当該保存がない課税仕入れに係る課税仕入れ等の税額については適用されないものと解するのが相当である。
 また、消費税法第30条第7項に規定する課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿には、課税仕入れの相手方の氏名、課税仕入れに係る資産又は役務の内容等の法定記載事項が記載されている必要があり(同法第30条第8項)、請求書等とは、同条第9項に規定する記載事項が記載されているものをいう。
(ロ) 判断
 前記1の(4)のロのとおり、請求人は、本件各課税期間について簡易課税制度を適用して消費税等の確定申告を行ったところ、別表9の「課税資産の譲渡等の対価の額まる2」欄の審判所認定額のとおり、平成20年課税期間の基準期間である平成18年課税期間の課税売上高が5,000万円を超えることから、平成20年課税期間については当該簡易課税制度は適用されず、消費税法第30条の規定を適用することとなる。
 請求人は、本件調査において、本件調査担当職員から請求人の事業に係る帳簿等の提示を求められた際に、上記(3)のイの(ロ)のAのとおり、仕入れ及び経費に関する領収書を提出したことは認められるが、消費税法第30条第8項及び第9項の記載事項を記載した帳簿及び請求書等は提出していない。
 そうすると、請求人は、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を整理し、本件調査担当職員による本件調査において適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかったことが認められ、同項に規定する「事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当する。
 したがって、平成20年課税期間の課税仕入れ等の税額の控除は認められない。
ニ 本件消費税等各更正処分について
 請求人の本件各課税期間における消費税等の納付すべき税額を計算すると、別表9の「消費税等の納付すべき税額まる9」欄の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成19年課税期間は○○○○円となり、当該税額は更正処分の額を上回るから、当該更正処分は適法であり、また、平成18年課税期間の納付すべき税額は○○○○円、平成20年課税期間の納付すべき税額は○○○○円となり、当該税額は、いずれも更正処分の額を下回るから、別紙6及び別紙7の「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。

(5) 争点5(課税標準の計算の基礎となるべき事実に隠ぺい又は仮装の行為があるか否か。)について

イ 法令解釈
 通則法第68条第1項の規定によれば、同法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、過少申告加算税に代えて重加算税を課することとされている。
 なお、ここでいう事実を隠ぺいするとは、事実を隠匿し又は脱漏することをいい、事実を仮装するとは、所得、財産又は取引上の名義を装う等事実をわい曲することをいうものと解される。
 また、重加算税の制度の趣旨が、隠ぺい又は仮装したところに基づく過少申告又は無申告による納税義務違反の発生を防止し、それにより申告納税制度の信用を維持するところからして、仮装又は隠ぺいの行為を納税者個人の行為に限定すべきではなく、その従業員や家族等が上記行為をした場合にも、特段の事情のない限り、重加算税が賦課せられるものと解するのが相当である。
ロ 判断
(イ) 上記(3)のイの(ロ)のBの(C)のとおり、売上伝票を廃棄して売上げをごまかしたとのRの申述、同Hのとおり、売上伝票に記載されたビールの杯数の合計が本件人件費メモに記載された杯数を下回っていること、及び同Iのとおり、ビールの仕入数量と売上数量に開差があったことからすれば、Rは、平成20年分について、請求人の売上伝票の一部を廃棄して売上げを除外していたと認められる。
(ロ) そして、Rは請求人の夫であり、Rが売上伝票を廃棄した行為は請求人の行為と同一視することができる。
(ハ) そうすると、Rが売上伝票を廃棄したことにより、請求人が過少の税額を記載した納税申告書を提出した事実は、通則法第68条第1項に規定する国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したときに該当する。

(6) 本件所得税各賦課決定処分について

イ 平成18年分の過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記(3)のハの(ロ)のとおり、平成18年分の更正処分は、その一部を取り消すべきであるから、正当な過少申告加算税の基礎となる金額は○○○○円となる。また、この税額の計算の基礎となった事実について、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、請求人の平成18年分の過少申告加算税の額は、別紙4の4「課税標準等及び税額等の計算」の過少申告加算税の額のとおり○○○○円となり、賦課決定処分の金額に満たないから、平成18年分の賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。
ロ 平成19年分の過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記(3)のハの(ロ)のとおり、平成19年分の更正処分は、確定申告に係る純損失の金額○○○○円を除く部分について取り消すべきであるから、平成19年分の賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。
ハ 平成20年分の重加算税の賦課決定処分について
 上記(3)のハの(ロ)のとおり、平成20年分の更正処分の全部の取消しに伴い、平成20年分の賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。

(7) 本件消費税等各賦課決定処分について

イ 平成18年課税期間の過少申告加算税の賦課決定処分について
 平成18年課税期間については、上記(4)のニのとおり、更正処分の一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の基礎となる税額は○○○○円となる。また、この税額の計算の基礎となった事実について、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、請求人の平成18年課税期間の過少申告加算税の額は、別紙6の3「課税標準額及び税額等の計算」の過少申告加算税の額のとおり○○○○円となり、賦課決定処分の金額に満たないから、平成18年課税期間の過少申告加算税の賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。
ロ 平成19年分課税期間の過少申告加算税の賦課決定処分について
 平成19年分の更正処分は、上記(4)のニのとおり適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定により過少申告加算税の賦課決定をしたことは適法である。
ハ 平成20年分課税期間の過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分について
 上記(5)のロの(ハ)のとおり、平成20年課税期間の消費税等については売上伝票を廃棄し、これに基づき確定申告書が作成されていることが認められ、当該廃棄した売上伝票に係る収入金額が確定申告における課税資産の譲渡等の対価の額に含まれていないことから、このことは、通則法第68条第1項に該当することとなる。
 ところで、上記(3)のイの(ロ)のEのとおり、請求人が本件調査時に提出した売上伝票と請求人が審判所に提出した売上伝票は同一のものであるところ、請求人の総勘定元帳の売上高勘定は、現金売上分が一部計上もれになっていることから、請求人の売上伝票に記載された売上金額の合計額は、原処分庁が集計した売上伝票に係る売上金額の合計額27,871,990円である。
 そうすると、別表6の平成20年分の「審判所認定額」欄の「事業所得に係る総収入金額まる3」欄の、請求人の総収入金額○○○○円のうち、請求人が提出した売上伝票の合計額27,871,990円を超える部分については、通則法第68条第1項の規定に基づいて重加算税を賦課するのが相当であるから、過少申告加算税及び重加算税の基礎となる税額は、別紙7の3「課税標準額及び税額等の計算」の過少申告加算税及び重加算税の額のとおり、それぞれ○○○○円及び○○○○円となる。
 そして、請求人の平成20年課税期間の過少申告加算税の額については、この税額の計算の基礎となった事実について、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、請求人の平成20年課税期間の過少申告加算税の額及び重加算税の額は別紙7の3「課税標準額及び税額等の計算」の過少申告加算税及び重加算税の額のとおり、それぞれ○○○○円及び○○○○円となり、加算税の額は別紙7の1「この裁決により取り消す税額」のとおり、その一部を取り消すべきである。

(8) 争点6(本件差押処分は違法な処分に当たるか否か。)について

イ 法令解釈
 課税処分は、国税の納付義務を具体化し、その納付すべき税額を確定させることを目的とする手続であるのに対して、差押処分は既に具体化し確定した納税義務を強制的に実現することを目的としてなされる滞納処分手続の一環であって、課税処分と差押処分は、その目的を異にし、別個の法律効果を有する独立した行政処分であり、両者が相結合して単一の法律効果を生じさせるものではない。
 したがって、先行処分である課税処分に重大かつ明白な瑕疵があって当然無効である場合には、税額がいまだ確定していないことになり、後行処分である差押処分は違法になるが、先行処分である課税処分が違法であっても、それが取り消されずに存続している以上、後行処分である差押処分は原則として、それ自体に瑕疵がない限り違法とはならないと解される。
ロ これを本件についてみると、所得税及び消費税等の更正処分等に重大かつ明白な瑕疵があるとは認められず、また、当該更正処分等が本件差押処分前に取り消された事実はなく、さらに、本件差押処分の対象となった滞納国税については、別表3の「督促年月日」欄のとおり督促状が発せられ、本件差押処分は、いずれも当該督促から10日を経過した日以後にされているから、本件差押処分の手続には何らの瑕疵はなく、他に本件差押処分に何らかの瑕疵があると認めるべき事実もない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(9) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠 資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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