(平成23年5月9日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が行った修正申告に対し、原処分庁は請求人が相続により取得した土地の評価額に誤りがあるとして相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったことから、請求人が当該土地は財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。ただし、平成20年3月14日付課評2−5ほかによる改正前のものをいい、以下「評価基本通達」という。)24−4《広大地の評価》に定める広大地として評価すべきであるとして各処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成19年1月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したC(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人であり、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、別表1の「当初申告」欄のとおりとする相続税の申告書を法定申告期限までに提出した。
ロ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、別表1の「修正申告」欄のとおりとする本件相続に係る相続税の修正申告書を平成22年1月15日に提出した。
ハ これに対し、原処分庁は、平成22年2月26日付で別表1の「賦課決定処分」欄のとおり過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ニ 次いで、原処分庁は、上記ロの修正申告について、土地の評価額に誤りがあるとして平成22年2月26日付で別表1の「更正処分等」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ホ 請求人は、平成22年4月5日、上記ニの各処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月2日付で、いずれも棄却の異議決定をした。
ヘ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成22年6月28日に審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

イ 相続税法第22条《評価の原則》は、特別の定めのあるものを除き、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による旨規定している。
ロ 評価基本通達24−4(以下「本件通達」という。)は、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な土地で都市計画法第4条《定義》第12項に規定する開発行為(以下「開発行為」という。)を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの(以下「広大地」という。)の価額は、その広大地が路線価(同通達14《路線価》に定める路線価をいう。以下同じ。)地域に所在する場合、その広大地の面する路線の路線価に、同通達15《奥行価格補正》から同通達20−5《容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価》までの定めに代わるものとして次の算式により求めた広大地補正率を乗じて計算した価額にその広大地の地積を乗じて計算した金額によって評価する旨定めている。
 なお、本件通達は、まる1評価基本通達22−2《大規模工場用地》に定める大規模工場用地に該当するもの及びまる2中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているもの(その宅地について、経済的に最も合理的であると認められる開発行為が中高層の集合住宅等を建築することを目的とするものであると認められるものをいう。)は、広大地に該当しない旨定めている。
(算式)

広大地補正率 = 0.6  − 0.05 ×
広大地の地積
1,000平方メートル

(4) 基礎事実

イ 相続関係
(イ) 本件被相続人は、p県d市e町○−○の宅地(以下「本件土地」という。)を所有していた。
(ロ) 本件相続に係る共同相続人は、いずれも本件被相続人の姉であるD及び請求人並びにいずれもめいであるE及びFの4名である。
(ハ) 平成19年10月31日、上記(ロ)の共同相続人間で本件相続に係る遺産分割協議が成立し、請求人が本件土地を単独で取得した。
ロ 本件土地について
 本件土地は、G鉄道H駅の南方約1.3キロメートルに存し、都市計画法第8条《地域地区》第1項第1号に規定する用途地域(以下「用途地域」という。)は第一種低層住居専用地域であり、建築基準法上の建ぺい率(以下「建ぺい率」という。)は50%、同法上の容積率(以下「容積率」という。)は100%である。

トップに戻る

2 争点

 本件土地は、本件通達に定める広大地として評価すべきか否か。

トップに戻る

3 主張

(1) 原処分庁

イ 評価基本通達24−4に定める「その地域」は、本件土地が存するd市e町○丁目の本件土地と用途地域・建ぺい率・容積率をいずれも同じくする地域及び本件土地と道路を介して接する同f町○丁目の用途地域・建ぺい率・容積率をいずれも同じくする地域である(これらの地域を併せて、以下「本件地域」という。)。
ロ 本件地域における標準的使用は、戸建住宅の敷地であると認められ、本件地域の開発状況等から、標準的な宅地の地積は110平方メートルないし150平方メートル程度である。
ハ 本件土地を上記ロの標準的な宅地の地積に基づき開発する場合、別紙の「原処分庁が主張する開発想定図」のとおり、路地状部分を有する宅地(以下「路地状敷地」という。)を組み合わせた開発(以下「路地状開発」という。)により、4区画の宅地(1区画当たりの地積119.04平方メートルないし146.05平方メートル)で公共公益的施設用地の負担を生じることなく開発することができること、本件土地は、公法上、路地状開発を行うことが可能であること、路地状部分は通路に限らず駐車場としても利用できること、本件地域内に路地状部分を有する敷地が複数存在していることから判断すると、本件土地について路地状開発を行うことに経済的合理性がある。
ニ 本件土地と隣接する土地(p県d市e町○−○ほかの宅地526.86平方メートル、以下「本件隣接地」という。)の一開発事例をもって本件土地について道路を開設する開発が合理的であるとの判定はできない。
 また、本件隣接地は、全体の地積のおおむね16%が位置指定道路として潰れ地となっており、建ぺい率及び容積率の点において路地状開発に比べ不利な点があるから、道路を開設する開発が経済的に最も合理性のある戸建住宅用地の開発であるとは認められない。
ホ 以上から、本件土地は本件通達に定める広大地として評価することはできない。

(2) 請求人

イ 本件土地は、近隣地域の標準的な宅地の地積に比して、著しく地積が広大であり、区画割をした戸建分譲地とすることが最有効使用といえる。
 そして、この地域における最低敷地面積に係るd市の行政指導に従って、最低敷地面積を80平方メートル程度として、別紙の「請求人が主張する開発想定図(その1)」のように5区画に分割する開発をすると、道路として公共公益的施設用地の負担が必要となる。
ロ 仮に、原処分庁が主張するように、本件土地が所在する地域における標準的な宅地の地積を110平方メートルないし150平方メートル程度であるとして4区画に分割するとしても、本件土地は、d市というp県内でも有数の高級住宅地というイメ−ジの地域に所在するから、多少の潰れ地ができても、別紙の「請求人が主張する開発想定図(その2)」のように道路を開設して全区画が道路に接面する開発の方が、間口2メートルの路地状敷地を通路及び駐車場として利用できるとする原処分庁が主張する有利性よりも土地の交換価値を上げることになり市場の需要の観点から見ても合理性がある。
ハ また、本件相続開始日から約5年前に、本件隣接地が道路を開設した戸建分譲地として開発され公共公益的施設用地の負担が生じていることからみても、本件土地も同様に、道路を開設して開発することが最も経済的に合理的な開発である。
ニ 以上から、本件土地は本件通達に定める広大地として評価すべきである。

トップに戻る

4 判断

(1) 法令解釈等

イ 相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めがあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているが、すべての財産の客観的交換価値は、必ずしも容易に把握できるものではないから、課税の実務上は、財産評価の一般的基準が評価基本通達によって定められ、原則として、これに定められた画一的な評価方法によって、当該財産の評価をすることとされている。
 当審判所も、かかる取扱いは、税負担の公平、効率的な租税行政の実現等の観点から合理的であると解する。 
ロ 本件通達は、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で、開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものについて、減額の補正を行う旨定めている。
 これは、評価の対象となる宅地の地積が、当該宅地の存する地域の標準的な宅地の地積に比して著しく広大で、評価時点において、当該宅地を当該地域において経済的に最も合理的な用途に供するためには、道路、公園等の公共公益的施設用地の負担が必要な開発行為を行わなければならない土地である場合にあっては、当該開発行為により土地の区画形質の変更をした際に公共公益的施設用地として潰れ地が生じ、評価基本通達15ないし同20−5による減額の補正では十分といえない場合があることから、このような土地の評価に当たっては、潰れ地が生じることを当該宅地の価額に影響を及ぼすべき客観的事情として、価値が減少していると認められる範囲で減額の補正を行うとしたものである。
ハ このような本件通達の趣旨にかんがみれば、同通達でいう「その地域」とは、まる1河川や山などの自然的状況、まる2行政区域、まる3都市計画法による土地利用の規制など公法上の規制等、まる4道路、鉄道及び公園など、土地の使用状況の連続性及び地域の一体性を分断する場合がある客観的な状況等を総合勘案し、利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域を指すものと解するのが相当である。
ニ また、本件通達に定める「公共公益的施設用地」とは、都市計画法第14条《定義》に規定する道路、公園等の公共施設の用に供される土地及び都市計画法施行令第27条に掲げる教育施設、医療施設等の公益的施設の用に供される土地をいい、その負担の必要性は経済的に最も合理的に戸建住宅用地の開発を行った場合の、その開発区域内での道路等の開設の必要性により判断するのが相当である。

(2) 認定事実

 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件土地の状況等
(イ) 本件土地は、本件相続開始日において、本件被相続人の自宅の敷地の用に供されていた。
(ロ) 本件土地は、その東側で幅員約7メートルの公道(以下「本件東側道路」という。)に接面しており、間口距離が19.10メートル、奥行距離が27.83メートルのほぼ長方形の形状をした面積が528平方メートルの宅地であり、評価基本通達に基づきJ国税局長が定めた平成19年分の財産評価基準によれば、本件土地は路線価地域に存し、本件東側道路に付された平成19年分の路線価は470,000円で、その所在する評価基本通達14―2《地区》に定める地区は普通住宅地区である。
ロ 本件土地の周辺の状況等
(イ) 本件土地が属する用途区域は、第一種低層住居専用地域であり、用途地域が同一で利用状況も同様であると認められる地域は、同地域のうち、d市e町○丁目及び隣接する同f町○丁目の地域であり、当該地域は、北側はf中学校通り、東側はg川、南側はh通り、西側はj通りで囲まれた地域にあり、主として戸建住宅が建ち並ぶ地域である。
(ロ) 一方、上記(イ)の地域の周囲の地域についてみると、j通り及びh通りの各通り沿いは用途地域が近隣商業地域であり、また、h通り沿いは用途地域が第一種中高層住居専用地域である。
 また、f中学校通りの北側のd市k町○丁目及び同f町○丁目の用途地域は、第一種低層住居専用地域であり本件土地が所在する地域と同一の用途地域であるが、教会や学校が多く建ち並ぶ地域である。
(ハ) 上記(イ)の地域における近年の開発状況について当審判所が調査したところによれば、従前の土地が分割され戸建住宅敷地とする開発事例は12件あり、そのうち、道路を開設する開発事例が5件、路地状開発による開発事例が4件、その他の開発事例が3件である。
 そして、これらの開発事例における全区画数は58区画、これらの区画の1区画当たりの平均宅地面積は111.61平方メートルであり、また、90平方メートル以上120平方メートル未満の面積の宅地の区画数は34区画と全区画数の58.6%を占めている。
(ニ) 上記(ハ)に掲げた道路を開設する開発事例の5事例は、開発面積が約500平方メートルないし約1,800平方メートルの土地において行われたものであり、宅地の区画数は4区画ないし11区画の開発事例である。
 一方、上記(ハ)に掲げた路地状開発による開発事例の4事例は、いずれも一路線の公道に面した土地であり、また、そのほとんどが間口距離が短く間口距離に比べて奥行距離が長大である細長い形状の土地での事例である。また、上記4事例は開発された土地全体の面積が約280平方メートルないし約400平方メートルの比較的小規模の面積の土地での事例であり、路地状開発により区画された区画数は路地状敷地を含めていずれも2区画又は3区画の開発である。
(ホ) 本件隣接地は、東西に細長い長方形の土地であり、平成15年に戸建住宅用地として道路を開設した開発が行われ、宅地の区画は4区画であり、上記(ハ)の開発事例に含まれている。
ハ 法令の規制等
(イ) 本件土地の所在する地域において地積が500平方メートル以上の土地の開発行為をする場合には、開発行為についてd市長の許可を受けなければならない。
(ロ) d市小規模宅地開発指導要綱第5条《宅地面積等》には、宅地の区画割に伴う1区画当たりの宅地面積について、当該宅地の属する用途地域の建ぺい率に応じて1区画当たりの最低の宅地面積基準が定められており、本件相続開始日において建ぺい率が50%の地域における最低の宅地面積は80平方メートルである。

(3) 当てはめ

イ 本件通達に定める「その地域」について
 上記(2)のロの(イ)及び(ロ)のとおり、j通り及びh通りの各通り沿いの地域並びにf中学校通りの北側のd市k町○丁目及び同k町○丁目の地域は、いずれも本件土地が所在する地域とは明らかに状況が異なる地域である。
 したがって、本件土地の本件通達に定める「その地域」は、本件土地が所在するd市e町○丁目及び隣接する同f町○丁目の地域であり、その地域は、北側はf中学校通り、東側はg川、南側はh通り、西側はj通りで囲まれた地域であると認められ、当該地域は原処分庁が主張する本件地域と同一の地域である。
ロ 「標準的な宅地の地積」について
 本件地域は、上記(2)のロの(ハ)ないし(ホ)のとおり、本件地域において確認できた戸建住宅敷地として開発された58区画の宅地の平均面積は111.61平方メートルであること及びその面積が90平方メートル以上120平方メートル未満のものが34区画と全区画数の58.6%を占めていること等から総合的に判断すると、本件地域において本件通達に定める「標準的な宅地の地積」は、90平方メートルないし120平方メートル未満であると認めるのが相当である。
 なお、原処分庁は、本件土地が所在する地域における開発事例のうち、一部の区画のみの面積に基づき標準的な宅地の地積を判定する等、標準的な宅地の地積の判断基準となる開発事例の選択が合理的ではないから、原処分庁の主張は採用できない。
ハ 上記のとおり、本件通達の「その地域」における標準的な宅地の地積は、90平方メートルないし120平方メートル未満であるから、本件土地はこれに比し著しく地積が広大な土地に当たる。
ニ 本件通達に定める「公共公益的施設用地」の負担の要否について
(イ) 本件地域における本件通達に定める「標準的な宅地の地積」は、上記ロのとおり、90平方メートルないし120平方メートル未満であると認められ、当該地積に基づいて本件土地を開発した場合、宅地の区画として4区画又は5区画の開発が想定される。
(ロ) また、本件地域における近年の開発状況等を見ると、上記(2)のロの(ハ)ないし(ホ)のとおり、本件地域においては、道路を開設した開発事例が路地状開発の事例より多く、その開発は、面積が約500平方メートルないし約1,800平方メートルの土地で行われており、宅地の区画数は4区画ないし11区画であり、本件隣接地の開発も含まれている。
(ハ) 一方、本件地域においては、路地状開発による事例もみられるものの、当該事例は、比較的小規模な面積で間口距離に比し奥行距離が長大な細長い形状の土地や、土地の形状や公道との接続状況及び面積から見て路地状開発によらざるを得ない、道路の開設による開発がもとより困難な土地の事例であり、本件土地は上記各事例とは条件を異にする。
 そして、本件地域における路地状開発は土地の面積が約280平方メートルないし約400平方メートル程度の比較的小規模な土地においてのみ行われ、開発による区画数も路地状敷地の区画を含めて2区画ないし3区画にとどまっているところ、本件土地と地積が同規模又はそれ以上の土地で、土地の形状や公道との接続状況が本件土地と類似する土地での原処分庁が主張するような路地状開発の事例は見受けられない。
(ニ) 上記(ロ)及び同(ハ)に述べた本件地域における近年の土地の開発状況等並びに上記(2)のイの(ロ)に述べた本件土地の形状、公道との接続状況及び面積等からすれば、本件土地は、別紙の「請求人が主張する開発想定図(その2)」のように、道路を開設して開発するのが経済的に最も合理的な開発であると認められる。
 したがって、本件土地は開発行為をするとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要な土地と解すべきである。
ホ 以上によれば、本件土地は、本件通達の「その地域」における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な土地に当たり、公共公益的施設用地の負担が必要と認められることから、本件土地は本件通達に定める広大地として評価するのが相当である。

(4) 本件土地の相続税評価額について

 以上の結果、本件土地の相続税評価額を算定すると、別表3の「請求人主張額」と同額となる。

(5) 本件更正処分について

 以上の判断に基づき、請求人の本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を算出すると、それぞれ別表4の「審判所認定額」欄のとおりとなる。
 そうすると、請求人の納付すべき税額は、同人の修正申告の額を下回るから、本件更正処分は、その全部を取り消すべきである。

(6) 本件賦課決定処分について

 上記のとおり、本件更正処分の全部を取り消すべきであるから、本件更正処分に係る本件賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。

トップに戻る

トップに戻る