(平成23年6月14日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、旅行業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、日本国内旅行をパッケージ商品として外国法人に販売した取引は、消費税法第7条《輸出免税等》第1項各号に規定する消費税が免除される課税資産の譲渡等(以下「輸出免税取引」という。)に該当するとして、その売上げを消費税の課税標準に含めないで消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告をしたのに対し、原処分庁が、当該売上げのうち日本国内における飲食、宿泊、輸送等のサービスの提供に係るものは、請求人の非居住者に対する日本国内における役務提供の対価であり輸出免税取引には該当しないとして消費税等の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をしたところ、請求人が、これらの処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人の審査請求に至る経緯等は次のとおりである。
イ 請求人は、平成19年1月1日から平成19年3月31日まで、平成19年4月1日から平成19年6月30日まで、平成19年7月1日から平成19年9月30日まで、平成19年10月1日から平成19年12月31日まで、平成20年1月1日から平成20年3月31日まで、平成20年4月1日から平成20年6月30日まで、平成20年7月1日から平成20年9月30日まで、平成20年10月1日から平成20年12月31日まで、平成21年1月1日から平成21年3月31日まで、平成21年4月1日から平成21年6月30日まで及び平成21年7月1日から平成21年9月30日までの各課税期間(以下、順次「平成19年3月課税期間」、「平成19年6月課税期間」、「平成19年9月課税期間」、「平成19年12月課税期間」、「平成20年3月課税期間」、「平成20年6月課税期間」、「平成20年9月課税期間」、「平成20年12月課税期間」、「平成21年3月課税期間」、「平成21年6月課税期間」及び「平成21年9月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等について、別表の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ D税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成22年4月28日付で、本件各課税期間の消費税等について、別表の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、平成22年6月23日、本件各更正処分等を不服として異議審理庁に対し、全部の取消しを求める異議申立てをした。
ニ 異議審理庁は、平成22年9月15日付で、上記ハの異議申立てに対し、棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の本件各更正処分等に不服があるとして、平成22年10月15日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

イ 消費税法第4条《課税の対象》第1項は、国内において事業者が行った資産の譲渡等には、消費税を課する旨規定しており、同法第2条《定義》第1項第8号は、資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨規定しており、さらに、同項第9号は、資産の譲渡等のうち、同法第6条《非課税》第1項の規定により消費税を課さないこととされているもの以外のものを課税資産の譲渡等という旨規定している。
ロ 消費税法第7条第1項は、事業者が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、同項第1号から第5号までに掲げるものについては輸出免税取引として消費税を免除する旨規定し、第5号では、第1号から第4号までに掲げる資産の譲渡等に類するものとして政令で定めるものを掲げている。
ハ 消費税法第28条《課税標準》は、課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額とする旨規定している。
ニ 消費税法第7条第1項第5号を受け、消費税法施行令第17条《輸出取引等の範囲》第2項第7号は、非居住者に対して行われる役務の提供で次のもの以外のものを輸出免税取引として規定している。
(イ) 国内に所在する資産に係る運送又は保管(同号イ)
(ロ) 国内における飲食又は宿泊(同号ロ)
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)に掲げるものに準ずるもので、国内において直接便益を享受するもの(同号ハ)
ホ 消費税法基本通達7−2−16《非居住者に対する役務の提供で免税とならないものの範囲》(以下「本件通達」という。)は、消費税法施行令第17条第2項第7号において輸出免税取引から除かれる非居住者に対する役務の提供の例として、「国内における飲食又は宿泊」、「電車、バス、タクシー等による旅客の輸送」などを掲げている。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、平成17年9月○日に、旅行業及び観光ガイド業などを業務目的として、J国に所在するE社を主な出資者として設立された内国法人である。
ロ E社は、J国において旅行業を営んでおり、日本国内に支店、出張所その他の事務所を有していない。
ハ 請求人は、E社が主催する訪日旅行(以下「本件訪日ツアー」という。)に参加するJ国人旅行者(以下「本件旅行者」という。)の日本国内での飲食、宿泊、輸送等に係るサービスの提供機関(以下「各種サービス提供機関」という。)を手配し、それらを組み合わせた日本国内旅行を企画し、パッケージ商品(以下「本件国内パッケージツアー」という。)としてE社に販売している(以下、この取引を「本件取引」という。)。
ニ E社は、請求人から購入した本件国内パッケージツアーにJ国と日本との間の交通手段等を組み合わせ、本件訪日ツアーとしてJ国内で販売している。
ホ 請求人は、本件取引に当たり、E社との間で、平成17年10月31日に、E社に販売した本件国内パッケージツアーの内容を履行する義務が請求人にあるとする内容の業務提携契約及び業務提携附属約定を締結した。
ヘ 請求人は、本件国内パッケージツアーを企画するに当たり、日本国内のレストラン、ホテル、バス会社等の各種サービス提供機関との間で各サービスに関する契約(又は覚書)を交わした。
ト 請求人は、本件訪日ツアーごとに作成した「ツアー別損益表」(以下「ツアー別損益表」という。)に本件訪日ツアーに組み込まれた本件国内パッケージツアーに係る売上金額、仕入金額等を記載している。ツアー別損益表の売上金額の合計額は、請求人の損益計算書の本件取引に係る売上金額の合計額と一致している。また、ツアー別損益表の仕入金額には、上記への契約により請求人が各種サービス提供機関に支払った金額が含まれている。
チ 請求人は、本件各課税期間において、本件取引を輸出免税取引としてその売上金額を課税標準の額に含めず、また、各種サービス提供機関に支払った飲食、宿泊、輸送等の対価(費用)の額を課税仕入れの額として消費税等の申告をした。
リ 原処分庁は、本件取引のうち日本国内における飲食、宿泊、輸送等の役務の提供については、非居住者が国内において直接便益を享受するものであるから、消費税法施行令第17条第2項第7号の規定により輸出免税取引に該当しないとして本件各更正処分等をした。

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2 争点

 本件取引のうち飲食、宿泊、輸送等の役務の提供は、消費税法第7条第1項第5号及び消費税法施行令第17条第2項第7号に規定する輸出免税取引に当たるか

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3 争点に対する当事者の主張

原処分庁 請求人
 本件取引のうち日本国内における飲食、宿泊、輸送等の役務の提供については、請求人が各種サービス提供機関から役務の提供を受けE社を経由して非居住者である本件旅行者に提供したものと認められる。
 これは、消費税法施行令第17条第2項第7号ロ又はハの非居住者に対して行われる役務の提供で国内における飲食又は宿泊及びこれらに準ずるもので国内において直接便益を享受するものに該当する。
 したがって、本件取引のうち日本国内における飲食、宿泊、輸送等の役務の提供については、輸出免税取引に該当しないから、原処分は適法である。
 本件取引は、請求人が、日本国内の各種サービス提供機関からレストラン、ホテル、バス等の利用につき購入した上、それらを自らの企画に基づき組み合わせて、非居住者であるE社に対して一体となった本件国内パッケージツアーを販売しているものである。
 本件国内パッケージツアーにおける飲食、宿泊、輸送等の役務は各種サービス提供機関から本件旅行者に提供されているものであり、請求人はE社に対して飲食、宿泊、輸送等の役務の提供をしていない(E社は国内において飲食、宿泊、輸送等の役務を直接享受するものではない。)。
 したがって、本件取引のうち日本国内における飲食、宿泊、輸送等の役務の提供は、消費税法施行令第17条第2項第7号ロ又はハには該当せず、輸出免税取引に該当するから、原処分は違法である。

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4 判断

(1) 認定事実

 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 本件取引の対価の額(売上金額)は、本件国内パッケージツアーに要する飲食、宿泊、輸送等の対価の額を積み上げた金額に請求人の利益の額を上乗せした金額を基に決定されている。
ロ 本件旅行者は、本件国内パッケージツアーの日程に基づき、国内において各種サービス提供機関から飲食、宿泊、輸送等の役務の提供を受けており、国内において直接便益を享受している。
ハ 本件旅行者が本件国内パッケージツアーにおいて各種サービス提供機関から受けた飲食、宿泊、輸送等の役務の提供に係る対価は、請求人から各種サービス提供機関に支払われている。

(2) 法令解釈等

イ 消費税は、国内において事業者が行った資産の譲渡等に課されるものであり、国内において消費される物品やサービスについて負担を求めるものであるから、輸出取引及び輸出類似取引については消費税が免除されており、非居住者に対する役務の提供についても原則として消費税が免除されている。
 ただし、非居住者に対する役務の提供であっても、国内において直接その便益が享受されるものについては輸出免税取引に該当しないこととされている。
ロ 消費税法第7条第1項は、事業者が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、輸出等に係る資産の譲渡等に類するものとして政令で定めるものについては消費税を免除することとしている。
 そして、消費税法施行令第17条第2項第7号は、非居住者に対して行われる役務の提供については原則として輸出免税取引としているが、同号イないしハにおいて、国内に所在する資産に係る運送又は保管、国内における飲食又は宿泊及びこれらに掲げるものに準ずるもので、非居住者が国内において直接便益を享受するものは、輸出免税取引の対象にならないことを規定している。この規定は、非居住者に対して行われる役務提供の内容(便益の享受つまり消費が国内で完結する性質)に着目した規定であると解される。
ハ 本件通達は、消費税法施行令第17条第2項第7号において非居住者に対する役務の提供であっても輸出免税取引に該当しないものの例として、「国内における飲食又は宿泊」、「電車、バス、タクシー等による旅客の輸送」などを掲げているが、これらは、非居住者に対して行われる役務の提供で国内において直接便益を享受するものを例示したものであり、同通達の取扱いは当審判所においても相当であると認められる。

(3) 当てはめ

イ 本件取引について
(イ) 上記1の(4)のハのとおり、請求人は、E社に対して本件国内パッケージツアーを販売しているところ、まる1上記(1)のイのとおり、本件取引の対価の額は、飲食、宿泊、輸送等の役務の提供に係る対価の額を含む本件国内パッケージツアーに要する費用の額を積み上げた金額に請求人の利益の額を上乗せした金額を基に決定されていること、まる2上記(1)のハのとおり、本件国内パッケージツアーにおける本件旅行者の国内における飲食、宿泊、輸送等の役務の提供に係る対価が請求人によって実際に各種サービス提供機関に支払われていること等を考慮すると、請求人がE社から受領する本件取引の対価の額の中には、非居住者である本件旅行者が各種サービス提供機関から直接便益を享受する飲食、宿泊、輸送等の役務の提供の対価に相当する金額が含まれているものと認められる。
(ロ) 上記(1)のロのとおり、本件旅行者が飲食、宿泊、輸送等について国内において直接便益を享受しているところ、これは消費税法施行令第17条第2項第7号ロ又はハに該当し、また、上記(2)のハの本件通達の非居住者に対する「国内における飲食又は宿泊」、「電車、バス、タクシー等による旅客の輸送」に該当するから、本件国内パッケージツアーに含まれる飲食、宿泊、輸送等の役務の提供は輸出免税取引に該当しないと判断するのが相当である。
(ハ) そうすると、本件取引の対価の額のうち請求人が支払った本件旅行者の各種サービス提供機関から受けた飲食、宿泊、輸送等の役務提供に係る対価(費用)の額に相当する金額については輸出免税取引の対価の額に該当しないこととなる。
 この結果、請求人が輸出免税取引に該当するとして確定申告した本件取引の対価の額のうち、請求人が支払った本件旅行者の各種サービス提供機関から受けた飲食、宿泊、輸送等の役務提供に係る対価(費用)の額に相当する金額(税抜き)については、上記のとおり、輸出免税取引に係る売上金額に該当しないこととなるから、当該金額を課税標準額に加算した本件各更正処分はいずれも適法である。
ロ 請求人の主張について
 請求人は、本件国内パッケージツアーにおける飲食、宿泊、輸送等の役務は、各種サービス提供機関から本件旅行者に提供されているものであって、請求人はE社に対して飲食、宿泊、輸送等の役務の提供をしておらず、また、E社は飲食、宿泊、輸送等の役務を国内において直接享受するものではないから、消費税法施行令第17条第2項第7号ロ又はハには該当せず輸出免税取引に該当するため、原処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、同号は、役務提供の内容(便益の享受つまり消費が国内で完結する性質)に着目した規定であって、非居住者に対する役務の提供で国内において直接便益を享受するものは輸出免税取引には該当しない旨規定したものであるところ、請求人が直接に本件旅行者又はE社に対して国内における飲食、宿泊、輸送等の役務の提供を行うものではないとしても、上記イのとおり、非居住者である本件旅行者が国内において直接便益を享受する役務については、同号ロ又はハに当たり輸出免税取引に該当しないと解されるから、請求人の主張は採用できない。

(4) 本件各賦課決定処分について

 上記(3)のとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項又は第2項及び地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてなされた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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