(平成23年7月6日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が損金の額に算入したd工場の消耗品費について、原処分庁が、損金算入を否認するとともに、請求人の使用人が詐取した金員の損金算入と当該使用人の詐取した金員に係る損害賠償請求権の額を益金の額に算入する法人税の更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該使用人のした架空取引は、同人が請求人から金員を詐取する目的で行った取引であり、法人税基本通達2−1−43《損害賠償金等の帰属の時期》に定められている他の者によって行われたものであるから、損害賠償請求権の額の益金算入時期は実際に支払を受けた日であるなどとして、当該更正処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成14年1月1日から平成14年12月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について別表の「確定申告」欄のとおりとする確定申告を法定申告期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの)までにした。
ロ J税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)の調査に基づいて、本件事業年度の法人税について、次の各処分をした。
(イ) 平成16年1月27日付で別表の「更正処分等1」欄のとおりとする更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分
(ロ) 平成17年4月27日付で別表の「更正処分等2」欄のとおりとする更正処分及び重加算税の賦課決定処分
(ハ) 平成22年3月19日付で別表の「更正処分等3」欄のとおりとする更正処分(以下、この更正処分を「当初更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下、当初更正処分と併せて「当初更正処分等」という。)
ハ 請求人は、当初更正処分等を不服として、平成22年5月17日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月17日付で別表の「異議決定」欄のとおりとする当初更正処分等の一部を取り消す異議決定をした(以下、異議決定により一部取り消された後の更正処分を「本件更正処分」、本件更正処分に係る重加算税の賦課決定処分を「本件賦課決定処分」といい、これらを併せて「本件更正処分等」という。)。
ニ 請求人は、平成22年9月17日、本件更正処分等に不服があるとして審査請求をした。

(3) 関係法令等

イ 法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする旨規定し、同条第3項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、まる1当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額、まる2まる1に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で、当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額、まる3当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものとする旨規定し、同条第4項は、これらの金額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨規定している。
ロ 国税通則法第68条《重加算税》第1項は、同法第65条(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合(同条第5項の規定の適用がある場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税に代え、重加算税を課する旨規定している。
ハ 国税通則法第70条(平成16年法律第14号による改正前のもの。以下同じ。)《国税の更正、決定等の期間制限》第1項は、更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から3年を経過した日以後においては、することができない旨、同条第5項は、偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れた国税についての更正決定等は、更正決定等に係る国税の法定申告期限又は納税義務の成立の日から7年を経過する日まですることができる旨規定している。
ニ 法人税基本通達2−1−43(以下「本件通達」という。)は、他の者から支払を受ける損害賠償金の額は、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には、これを認める旨定めている。

(4) 基礎事実

 以下の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、昭和○年○月○日に設立された菓子類の製造販売業を営む法人であり、全国に○の工場を有し、同社のd工場は昭和59年8月から稼働している。
ロ 請求人の使用人であるKは、昭和59年3月21日、e工場d営業所(現在のd工場)に入社後、f工場資材課係長(在勤期間約1年)を経て、平成11年3月にd工場に配転となり、平成20年12月15日に依願退職するまで同工場資材課(以下「d工場資材課」という。)に一般職として所属していた。
ハ d工場資材課の消耗備品等の購入取引について
 d工場で使用する包装材料及び同工場の生産ラインで使用する消耗材料は、L社g支店d営業所(以下「L社」という。)から仕入れていた。消耗材料に係るd工場とL社との取引については次の(イ)ないし(ニ)の4つの形態がある。
(イ) 消耗備品の代理購入取引
 d工場の資材課長は、d工場資材課で使用する文具等の消耗備品の調達をL社に依頼していた。同課の課長は、L社に請求人への納品に際して納品伝票の品名を文具等の消耗備品の品名ではなく、生産ラインで使用する消耗材料の品名として納入するよう依頼し、その対価を同社に支払っていた(以下、この取引を「本件代理購入取引」という。)。
 なお、本件代理購入取引は、d工場稼働当初から行われており、請求人は、L社が他社から調達した消耗備品の額に10%相当額の手数料を上乗せした額をL社に支払っていた。
(ロ) 市販原料(牛乳等)の預け金取引
 d工場資材課は、d工場の生産工程で不足する市販原料(牛乳等)や消耗備品を速やかに調達するため、事前にL社に取引実体のない納品伝票を発行させ、同伝票記載の消耗材料相当額の金員を支払い(この支払額を、以下「請求人預け金」という。)、その後において、緊急に上記の市販原料等の調達が必要となった場合に、請求人預け金の範囲内で速やかに納品してもらっていた(以下、この取引を「本件預け金取引」という。)。
 なお、請求人預け金の本件事業年度末日における残高はない。
(ハ) 原材料の配送等の委託取引
A d工場は、平成9年3月からM社に緊急に調達すべき原材料の配送等の委託を開始した。
B 配送等の代金は、配送等の都度、経理課を通してM社に支払われていたが、平成11年ころ、d工場資材課のN課長と同課の使用人であったKの両名は、配送等の都度経理課を通して支払う手間が煩雑であると考え、今後の配送等の代金をL社を経由して支払うこととした。両名は、M社代表取締役Pに、それまで配送等の都度請求人に請求されていた配送等の代金をL社に請求するよう依頼しPもこれを了承した。
C 上記Bの依頼に当たって、NとKの両名は、L社の当時のd営業所長であったQに、M社からL社に請求された配送等代金については、L社においてまる1取引実体のない消耗材料の品名を記載した納品伝票を作成しd工場宛に発行するよう依頼し、まる2その見返りとして、当該配送等代金の10%相当額の手数料を支払う旨約束した。請求人は、L社に対して配送等代金に上記手数料を加えた額を消耗材料の購入として支払っていた(以下、この取引を「本件M社配送取引」という。)。
D KとPはかつて請求人のe工場d営業所で同勤した間柄で、KがM社と請求人の取引につき便宜を図ってやったこともあって、平成11年11月ころ、Kは独断で(Nの了承を得ることなく)Pに本件M社配送取引に係る配送等代金を水増ししてL社に請求するよう指示し、L社からM社に対して支払われた金員のうち、水増し分に相当する金員をPから別途受領していた(以下、この水増し分に係る取引を「本件K取引」という。)。本件K取引は、Kが依願退職する平成20年12月まで続いた。なお、Kの指示による水増し分は上記Cの消耗材料の購入として請求人からL社に支払われていた。
(ニ) 苺の購入取引
A d工場資材課は、毎年12月中旬以降にクリスマスケーキ用の苺の市場価格が高騰することから、苺の納入業者であるR社と協議の上、苺の市場価格が請求人の設定した当初予想価格を超えた場合には、その価格差額分を翌年度の苺の購入価格に上乗せして支払うこととして、クリスマスケーキの製造原価が予算原価から大きく乖離しないように、苺の購入価格を低く抑える対策を講じていた(以下、この取引を「本件苺取引」という。)。
B ところが、平成14年12月における苺の市場価格の高騰は著しく、本件苺取引では苺の価格差額分をR社に支払うことができない見通しとなった(本件事業年度末においては、大幅なR社に対する借り(苺購入代金の支払不足)となる。)。
C このため、当時のd工場資材課のS課長は、本件事業年度において上記BのR社に対する支払不足分の決済をL社を経由して支払うこととし、上記(ハ)のCと同様に、当該支払不足分を取引実体のない消耗材料の品名により請求させ、L社に対して手数料として請求額の10%相当額を上乗せして支払っていた(以下、この取引を「本件苺代払取引」という。)。
ニ 原処分庁は、本件更正処分において、L社を相手方とする本件代理購入取引、本件預け金取引、本件M社配送取引、本件K取引、及び本件苺代払取引(以下、これらの取引を総称して「本件L社取引等」という。)のすべてについて、いずれも隠ぺい又は仮装された取引であるとして、本件L社取引等において計上した消耗品費の損金算入は認められないとして本件事業年度の所得金額に加算するとともに、実際に消耗備品の購入、苺の購入及び配送等の事実が認められる金額については損金の額に算入されるとして所得金額から減算した。
 また、Kが本件K取引により請求人から詐取した金員2,400,000円については、請求人の損失として所得金額から減算するとともに、同額を損害賠償請求権(以下「本件損害賠償請求権」という。)の計上もれとして所得金額に加算した。
ホ 請求人は、Kが請求人から詐取した金額2,400,000円に係る本件損害賠償請求権は本件事業年度の収益に計上すべきでない、また、Kがした本件K取引に係る隠ぺい、仮装行為を請求人の行為と同視することはできないとして審査請求した。

(5) 争点

  1. 争点1 Kに対する本件損害賠償請求権に係る収益計上時期はいつか。
  2. 争点2 本件K取引は、納税者である請求人の隠ぺい、仮装行為と同視することができるか否か。

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2 主張

(1) 争点1について

イ 原処分庁
 詐取行為に伴い発生する本件損害賠償請求権の額は、次の理由から、詐取行為による損失が発生した時と同時に益金として計上すべきである。
(イ) 詐取行為に係る損害賠償請求権については、詐取行為による損失が発生した時には損害賠償請求権も発生、確定しており、これらを同時に損金と益金とに計上するのが原則である。
 通常人を基準としても、損害賠償請求権の存在、内容等を把握し得ず、直ちには権利行使が期待できないといえる場合には、損害発生と同時に損害賠償請求権の額を益金として計上しない取扱いが許されるものと解されるが、本件はそれには当たらない。
(ロ) 本件K取引は、請求人が預け金を作り出す目的で架空の消耗材料の品名を記載した虚偽の納品伝票を基にL社に対する架空の費用計上が行われたもの、すなわち、請求人において取引実体のない品名による請求及びその支払が行われるL社取引等が長年の慣行として行われていたこと並びにL社発行の虚偽の内容が記載された納品伝票に係る現物との照合が行われないことに乗じて行われたものであり、納品時に現物との照合を行った上で納品伝票に受領・検査印を押すという通常の手続が守られ、虚偽の納品伝票に基づいて支払われた金銭の使途先が確認されていれば、本件K取引は発覚したものと認められる。
 そうすると、本件K取引について通常人を基準とすれば、請求人は、容易にその損害賠償請求権の存在、内容等を把握し得たものということができることから、詐取行為による損失が発生した時と同時に本件損害賠償請求権の額を益金に計上すべきものと認められる。
(ハ) 本件のように、通常人を基準とすれば、容易に使用人の不正行為を発見して、損害賠償請求権の存在、内容等を把握し、権利行使が期待できたと解せられる場合には、当該不正行為を行った使用人は本件通達に規定する「他の者」には当たらないとして取り扱うのが相当であるから、本件通達の取扱いは適用されない。
ロ 請求人
 詐取行為に伴い発生する本件損害賠償請求権に係る収益計上時期は、次の理由から、詐取行為による損失が発生した時と同時ではない。
(イ) 詐取行為に伴い発生する損害賠償請求権の額を損失の発生と同時に計上すべきであるとした判例は役員や経理責任者が詐取した場合であり、本件K取引の行為者であるKは、請求人の役員でもなく、法人税の申告行為に重要な関係のある相当な権限も有していない末端の一使用人であるので、その前提が異なるにもかかわらず、当該判例の事実関係を全く考慮せず、単に判決要旨の文言を当てはめただけの原処分は違法である。
(ロ) 本件K取引は、通常の納品と同じように納品伝票一枚当たりの数量、金額を細かく分散するようKがQに指示して行わせていたもの、すなわち、Kによる巧妙な伝票操作により行われていたものであり、予算管理を担当していた資材課長をも欺き請求人の本社購買部及び経理部のみならず、d工場の資材・生産の管理責任者である生産統轄次長及び工場長でさえ気がつかなかったもので、通常の管理体制では容易に発覚するものではない。
(ハ) Kは、平成20年12月に退職していることからすれば、本件通達に規定する「他の者」に該当することが形式上も明らかであるので、本件通達の適用が認められるべきある。

(2) 争点2について

イ 原処分庁
 本件K取引は、次のとおり、請求人の隠ぺい、仮装行為と同視することができる。
(イ) Kは、L社から発行される納品伝票の請求人における事務処理を事実上一任され、d工場においてこれをチェックする者は他におらず、結局、Kの指示により発行された虚偽の納品伝票の処理が、そのまま消耗品費の計上という形で、請求人の会計処理として反映される状況にあったものと認められる。
(ロ) d工場資材課において本件L社取引等の不適切な経理処理が慣行的に行われていたといえる点で、Kによる虚偽の納品伝票の処理を、請求人自身による処理としてみなさざるを得ない状況にあったものということができ、Kの行為は請求人の行為と同視することができる。
(ハ) そうすると、請求人において、Kの隠ぺい、仮装行為によって本件損害賠償請求権の額の計上がなされなかったことにより本件事業年度の法人税について過少申告となっているから、重加算税の賦課の対象となるものといえる。
ロ 請求人
 本件K取引は、次のとおり、請求人の隠ぺい、仮装行為と同視することはできない。
(イ) 本件K取引は、請求人の役員でもなく、法人税の申告行為に重要な関係のある相当な権限も有していない末端の一使用人であるKの自己の利益を目的としたもので、請求人の関知しないところにおいて、独断で行った巧妙な伝票処理に基づき行われ、通常の管理体制では容易に発覚しなかったものであり、請求人に使用人の監督につき何らかの落ち度があったとしても、Kの行為を請求人の行為と同視することはできない。
(ロ) また、詐取の事実が容易に発見出来たこと、経理処理を任せていたこと等、仕事の内容や内部管理の不備等は、重加算税賦課決定の課税要件である「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、仮装し」たこととは無関係である。
(ハ) さらに、本件損害賠償請求権の額を収益として益金の額に算入しなかったのは、収益認識基準の解釈に相違があったものであり、事実の全部又は一部を隠ぺいし、仮装した事実は一切存在しない。

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3 判断

(1) 争点1について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件K取引に関する関係人の申述等
A 調査担当職員に対しKは、請求人に対して詐取行為を開始する理由等として、私事で現金が必要となり、Pをだまして、L社に仕事以上の請求をしてもらい、5年間で約1000万円を私的に着服した旨申述し、Pは、調査担当職員に対し、当社の運送売上とKから言われた金額を合計した金額をL社宛に請求するようKから指示されていた旨申述している。
B 上記Aの両名の申述は、いずれも本件K取引に関するものであるところ、その申述内容は相互に矛盾がなく、また、Pが請求人のe工場d営業所でKと同勤した間柄であり、KがM社と請求人の取引につき便宜を図ったことがある等の事情を考慮すると、PがKの指示に従って本件K取引に加担していたとしても不自然ではないから、L社から本件M社配送取引の対価として支払った金額の中には、実際にM社の行った配送等の取引に係る金額の他にKが詐取した金額も含まれていたものと認められる。
(ロ) d工場資材課における事務処理(発注から納品受領時検収事務までの取扱い)の流れ
A d工場資材課には、消耗品、原料、材料等の項目毎に発注担当者がおり、当該発注担当者が製造部門からの要請若しくは使用予測に基づき発注書を作成し、電話、オンライン、FAX等でこれらの原材料等を発注していた。
B 受領検収については、検収担当者が物品受領時に現物と納品伝票を照合、検品した上で受領することとなっていた。
C また、受領した納品伝票は、資材課長が受領日、購入単価、購入数量等をチェックした後、納品伝票に押印することとなっていた。
D Sは、当審判所に対して、d工場の購買予算のうち、主たる原料の小麦やマーガリンについては、比較的予算額が大きいため自分自身が担当し、全体予算の約2%前後の消耗材料については、それほど重要性がないこと及び人員が少ないため各担当者に納品伝票の検収を任せていた、また、日々の伝票枚数が約100枚超(月間約5,000枚)であったため、細かいチェックは各担当者に任せており、自分自身は、月末に金額的観点から予算管理をするのみで、各担当者がチェックした納品伝票をまとめて確認し押印するが、記載内容までのチェックは行っていなかった旨答述している。
E 上記AないしDの各事実及び申述等を総合考慮すると、本件K取引が長期間にわたって行われた要因は、資材課長が日々の伝票枚数が多いため細かいチェックを各担当者任せにしていたことによるものと認められる。
ロ 法令解釈
(イ) 法人税法においては、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引に係る当該事業年度の収益の額とするものとされ、当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきものとされている。
 したがって、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定した時の属する事業年度の益金に計上すべきものと解される。
 なお、ここでいう権利の確定とは、権利の発生と同一ではなく、権利発生後一定の事情が加わって権利実現の可能性を客観的に認識することができるようになることを意味するものと解すべきである。
 そして、不法行為による損害賠償請求権については、通常、不法行為による損失が発生した時には同額の損害賠償請求権も発生、確定しているから、これらを同時に損金と益金とに計上するのが原則であると考えられる。
(ロ) もっとも、不法行為による損害賠償請求権については、例えば加害者を知ることが困難であるとか、権利内容を把握することが困難であるなどのため、直ちには権利行使(権利の実現)を期待することができないような場合があり得るところである。このような場合には、損害賠償請求権が法的には発生しているといえるが、いまだ権利実現の可能性を客観的に認識することができるとは必ずしもいえないから、損害賠償請求権の額を損失が発生した事業年度の益金の額に算入しないとする例外的な取扱いをすることも許されると解される。ただし、その判断は、税負担の公平や法的安定性の観点からして客観的にされるものであるから、通常人を基準として、権利の存在、内容等を把握し得ず、権利行使ができないといえるような客観的状況にあったかどうかという観点からすべきであると解される。
(ハ) 本件通達が、他の者から支払を受ける損害賠償金の額について実際に支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するとしつつ、法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には、これを認める旨定め、損失の計上時期と益金としての損害賠償請求権の額の計上時期を切り離す運用を認めているのも、基本的には、第三者による不法行為等に基づく損害賠償請求権については、その行使を期待することが困難な事例が往々にしてみられることに着目した趣旨のものであると解され、本件通達の取扱いは当審判所においても相当と認められる。
ハ 当てはめ
 上記イの事実関係に照らせば、本件K取引においては請求人がL社の発行した虚偽の納品伝票に基づき支払をした時点において、請求人にKの詐取行為による損失が発生したと認められ、上記ロの(イ)からすれば、本件損害賠償請求権の額については、基本的には本件事業年度において益金の額に算入すべきこととなる。
 ただし、上記ロの(ロ)のとおり、例外的に本件損害賠償請求権の額は本件事業年度において益金に算入しない取扱いをすることが許される場合があるから、この点について以下検討する。
 本件K取引においては、上記1の(4)のハのとおり、L社発行の納品伝票には、納品された現物と異なるものが記載され、M社に対する配送等代金分が含まれているにもかかわらず、資材課長による所要のチェックが行われていなかったことが、本件K取引が長期間発覚しなかった要因と認められ(上記イの(ロ)のE)、Kが担当していたL社との取引に係る納品伝票について、それぞれの担当部署において現物との照合や資材課長による受領日、購入単価、購入数量等のチェック等が確実に行われていれば、詐取行為は間違いなく発覚するものであったと認められる。
 このような点を総合考慮すると、通常人を基準とすれば、請求人は本件事業年度において本件K取引に係る損害賠償請求権につき、その存在、内容等を把握できず、権利の行使を期待できないような客観的状況にあったということはできないから、本件損害賠償請求権の額は、本件事業年度において益金の額に算入すべきものと認められる。
 なお、この点について請求人は、本件K取引は、Kによる巧妙な伝票操作により資材課長をも欺いて行われていたものであり、通常の管理体制では容易に発覚するものではない旨主張するが、Kの詐取行為は、上記のとおり、請求人におけるKの業務の管理部署が所要のチェックを行っていれば発覚するものであったと認められるのであるから、請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、Kは、平成20年12月に退職しており、本件通達に規定する「他の者」に該当することは形式上も明らかであるので、本件通達の適用が認められるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件K取引は、上記1の(4)のハの(ハ)のとおり、Kが請求人の使用人の立場で、請求人の業務を行う過程で行ったもので、Kの詐取行為は、上記のとおり、請求人におけるKの業務の管理部署が所要のチェック行っていれば発覚するものであったのであるから、Kがその発覚時に請求人を退職していたことをもって第三者による不法行為等ということはできないというべきであり、上記ロの(ハ)の本件通達の趣旨からすれば、Kは、本件通達にいう「他の者」に当たらず、本件損害賠償請求権の額の益金算入時期について本件通達の適用はないと判断するのが相当である。

(2) 争点2について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) Kは、上記1の(4)のロのとおり、e工場d営業所(現在のd工場)に採用されてから退職するまでの間、f工場資材課の係長として約1年間勤務した以外はd工場資材課の一使用人であった。
(ロ) Kは、詐取行為を開始した平成11年11月以降依願退職するまで、d工場資材課において各種事務である消耗材料の発注、検収及びデッドストック処理等の一担当として従事しており、この間、請求人の役員に就任していた事実はなく、職制上の重要な地位や権限を与えられた事実もない。また、経理課に勤務していたことはなく会社の重要な経理帳簿の作成等を任されていた事実もない。
ロ 法令解釈
 国税通則法第68条第1項は、過少申告をした納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、その納税者に対して重加算税を課すこととしている。この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするにつき隠ぺい又は仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。このような趣旨からすると、納税者が法人である場合、法人の使用人であっても、その者の行為が納税者の行為と認められれば、その者が代表者ではなく、また代表者がその者の行為を知らなくとも、重加算税の対象となると解するのが相当である。
 そして、同項にいう「事実を隠ぺい」するとは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠ぺいしあるいは故意に脱漏することをいい、また、「事実を仮装」するとは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが事実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうと解するのが相当である。
ハ 当てはめ
(イ) 上記1の(4)のハの(ハ)の各事実によれば、本件は、Kが、Pをだまし、Qに指示して金額が水増しされた配送等代金を消耗材料等とする虚偽の納品伝票を請求人宛に発行させる等の隠ぺい、仮装行為をしたものであり、これらの行為は国税通則法第68条第1項にいう隠ぺい、仮装に該当すると認められるところ、請求人は、当該消耗品費の架空計上をした決算に基づき法人税の確定申告をしたものと認められる。
 しかしながら、まる1Kがd工場資材課に配置されて以後退社するまで長期間にわたり同課において職制上の重要な地位に従事したことがなかったこと及び請求人の経理帳簿の作成等に携わる職務に従事したこともなかったこと等から同人が、d工場において単に資材の調達業務を分担する一使用人であったと認められること、また、まる2本件K取引が、K個人の私的費用を請求人から詐取するために同人が独断でPに依頼して行ったものであり、当該隠ぺい、仮装行為が請求人の認識の下に行われたとは認められないこと等を総合考慮すると、請求人が取引内容の管理を怠り、請求人から隠ぺいするためのKの仮装行為を発見できなかったことをもって、当該行為を請求人自身の行為と同視することは相当ではない。
(ロ) 原処分庁の主張について
 原処分庁は、請求人預け金を詐取する目的でKが行った伝票操作に基づく請求人の会計処理を、d工場資材課において慣行的に行われていた本件L社取引等のうち特に本件預け金取引という架空の費用を計上して預け金を創出する会計処理を奇貨として行われたものであるから、請求人自身による処理とみなさざるを得ない状況にあったとして、Kの隠ぺい、仮装行為を請求人の隠ぺい、仮装行為と同視することができる旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、本件K取引に係るKの隠ぺい、仮装行為については請求人の行為と同視することができないのであるから、原処分庁の主張は採用できない。

(3) 本件更正処分について

イ 上記3の(1)のハのとおり、本件K取引による本件損害賠償請求権の額は、詐取による損失の発生と同時に発生したものと認められるから、本件事業年度において本件損害賠償請求権に係る収益を益金の額に算入すべきとした更正処分は適法である。
ロ ただし、本件苺代払取引について、原処分庁は請求人が消耗品費として計上した2,499,250円のうち166,560円を損金の額に算入されないとしているが、当審判所の調査の結果によれば、請求人の計上した2,499,250円は、本件事業年度のクリスマスケーキの製造のために使用された苺の購入代金であり、その全額が本件事業年度のクリスマスケーキの売上高に対応する製造原価として本件事業年度の損金の額に算入されるべきものと認められる。
 以上により、本件事業年度の請求人の所得金額を計算すると、別紙「取消額等計算書」の「4課税標準等及び税額等の計算」の「裁決後の額B」のとおり○○○○円となり、差引所得に対する法人税額は○○○○円となる。
 そうすると、当審判所が認定した請求人の所得金額は、本件更正処分の金額を下回るから、本件更正処分のその一部を取り消すべきである。
ハ なお、国税通則法第70条第5項は、偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れた国税についての更正決定等は、更正決定等に係る国税の法定申告期限又は納税義務の成立の日から7年を経過する日まですることができる旨規定し、上記(2)のハの(イ)のKの隠ぺい、仮装行為は、同項がいう偽りその他不正の行為に該当すると認められるところ、同項の規定は、同法第68条第1項の規定とは異なり、適正な課税を実現するために更正等の除斥期間を延長する規定であり、納税者の故意や過失といった主観的な責任要件を問題とする必要はないものと解される。したがって、Kの隠ぺい、仮装行為が、同法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為に該当する以上、本件更正処分に更正の期間制限を徒過した違法はなく適法と認められる。

(4) 本件賦課決定処分について

 上記(3)のとおり、本件更正処分における苺代払取引に係る金額は、その全額が損金の額に算入されること、また、本件K取引によって過少申告となった金額については、重加算税を賦課することは相当ではないと認められることから、本件賦課決定処分は、過少申告加算税相当額を超える部分の金額につき別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すのが相当である。

(5) その他

 原処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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