(平成23年9月27日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が被相続人の預貯金口座から引き出して保管していた現金等の申告漏れについて、原処分庁が、隠ぺい又は仮装の行為があったとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、申告漏れは失念などによるもので隠ぺい又は仮装の行為はなかったとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人の審査請求(平成23年2月21日請求)に至る経緯は、別表1記載のとおりである。

(3) 関係法令

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出があったときは、当該納税者に対し、その修正申告に基づき同法第35条第2項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。
 そして、通則法第65条第4項は、同条第1項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、同項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、同項の規定を適用する旨規定している。
ロ 通則法第68条《重加算税》第1項は、同法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、平成20年9月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したE(以下「本件被相続人」という。)に係る相続(以下「本件相続」という。)の共同相続人である3名の子のうちの長兄であり、本件被相続人の自宅と同じ敷地内にある別の建物に居住していた。
 また、本件被相続人は、病気のため平成20年4月に2週間ほど入院した後、同年6月14日に再度入院し、そのまま退院することなく本件相続開始日に死亡した。
ロ 請求人は、本件相続に係る相続税の申告についてF税理士(以下「本件関与税理士」という。)に税務代理を委任し、平成21年6月8日に、他の相続人と共同で本件相続に係る相続税の申告書(以下「本件当初申告書」という。)を提出した。
 なお、本件当初申告書の第11表「相続税がかかる財産の明細書」には、「現金」の価額として500,000円が記載され、「預貯金」の価額として本件当初申告書に添付された平成21年1月21日から同年2月10日までの間のいずれかの日付の残高証明書により証明された本件相続開始日現在の残高が記載されている。
ハ 別表2−1、2−2、2−3及び2−4記載のとおり、平成20年6月14日から本件相続開始日までの間に、本件被相続人名義の預貯金のうち別表2−1、2−2、2−3及び2−4記載の各預貯金口座から、現金による出金があった(以下、当該現金出金を「本件各出金」という。)。
ニ 平成20年7月○日に、G農業協同組合(以下「本件農協」という。)M支店の本件被相続人名義の普通貯金口座(口座番号○○○○。以下「本件農協口座」という。)に現金990,000円の入金があった。
 なお、上記ロの「相続税がかかる財産の明細書」には、本件農協口座に係る貯金残高は記載されていない。
ホ 請求人は、本件相続に係る相続税について原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)の調査を受け、本件相続に係る相続税の修正申告をしたところ、原処分庁は、当該修正申告により増加した取得財産のうち、本件各出金のうち平成20年7月○日に別表2−1記載の預金口座から出金後に本件農協口座へ入金されたと認められる金額などを除いた現金42,199,348円(以下「本件金員」という。)、本件相続開始日における本件農協口座の残高398,030円(以下「本件農協貯金」という。)及び本件農協に対する出資金140,700円(以下「本件出資金」といい、本件金員及び本件農協貯金と併せて「本件金員等」という。)の申告漏れについて、請求人に通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があったとして、平成22年10月12日付で本件相続に係る相続税の重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行った。

(5) 争点

 本件金員等の申告漏れについて隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。

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2 主張

(1) 原処分庁

 請求人は、次のとおり、本件金員等を本件当初申告書から除外することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき過少申告をしたと認められるから、本件金員等の申告漏れについて隠ぺい又は仮装行為があった。
イ 請求人は、まる1本件金員については、請求人又は請求人の妻が引き出した本件各出金の一部を現金で保管していたこと及びまる2本件農協貯金については、本件農協口座に本件各出金の一部を入金しており、上下水道料金の引落口座を申告期限前に本件被相続人名義の本件農協口座から請求人名義の口座に変更していることから、本件当初申告書の提出時までに本件金員の存在及び本件農協との取引があった事実を十分認識しており、本件金員等が相続財産として存在していることを十分に認識していたものと認められる。
ロ 請求人は、まる1本件当初申告書の作成に際し、本件関与税理士に対し、本件金員の存在が発覚することを恐れて本件農協と取引があったことを告げていないこと、まる2本件農協口座に係る残高証明書を請求していないこと、まる3本件関与税理士から現金残高について尋ねられた際に100,000円くらいと明らかに事実と異なる回答をしていること及びまる4調査担当職員に現金は申告済みの500,000円以外にはなかった旨の虚偽の答弁を行っていることからすれば、相続財産の隠匿を目的とした特段の行動をしていたものと認められる。

(2) 請求人

 本件金員は、本件被相続人から万一の時に弟に渡すように言われ、請求人が本件被相続人宅の寝室のたんす内に一時保管していたもので、本件被相続人が亡くなった時点では手元にあったが、本件当初申告書の提出時には既に二人の弟に渡すなどして請求人の手元になかったため、請求人は、それを本件当初申告書に計上することを失念してしまった。
 また、本件農協貯金及び本件出資金については、請求人は、本件当初申告書の提出時に、そのような取引があることを全く知らなかったので、それらを本件当初申告書に計上しなかったことは単純なミスである。
 したがって、本件金員等の申告漏れについて隠ぺい又は仮装行為はなかった。

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3 判断

(1) 法令解釈

 過少申告をした納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、その納税者に対して重加算税を課することとされている。この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 そして、上記の重加算税制度の趣旨にかんがみれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解すべきである。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
イ 本件各出金のうち、別表2−2、2−3及び2−4記載の各出金は、本件被相続人の入院中に、請求人が行っており、別表2−1記載の各出金は、請求人の妻が行っている。
ロ 請求人は、本件金員を本件相続開始日まで本件被相続人宅の寝室のたんす内に保管していたが、平成21年3月以降、弟らに渡したり、同年6月の本件相続に係る相続税の納付に充てるなどした。
ハ 本件関与税理士は、本件当初申告書の作成に際し、請求人に対し、本件相続開始日に相続財産として現金がどのくらいあったか尋ねたところ、請求人が100,000円くらいと回答したが、それでは少ないとして本件当初申告書に現金500,000円を計上することとした。
 また、請求人は、調査担当職員が請求人宅に初めて訪問した平成22年8月5日に、調査担当職員に対し、本件当初申告書に計上した500,000円以外に銀行から引き出すなどして保有していた現金はない旨申述した。
ニ 請求人は、平成20年12月5日に、本件農協M支店において、請求人名義の普通貯金口座(口座番号○○○○。以下「請求人農協口座」という。)を開設した。
 また、請求人は、本件被相続人を契約者とするa市の上下水道料金が本件農協口座の残高不足により振替できなくなったことから、平成20年12月5日に、給水装置の所有者を本件被相続人から請求人に変更する「給水装置所有者変更届」及び請求人農協口座を指定口座とする「a市上下水道料金口座振替届出書」を、a市長あてに提出した。
ホ 請求人は、本件当初申告書の作成に際し、本件関与税理士から、預金残高証明書、戸籍謄本、葬式費用等の領収書及び固定資産税の評価証明書等を提出するように依頼され、上記1(4)ロの平成21年1月21日以降の日付の各残高証明書を取得したが、本件農協M支店に対しては、貯金の残高証明書等の発行を請求していない。
ヘ 本件出資金に係る配当金1,689円が、平成20年8月13日に、本件農協口座に振り込まれている。
ト 本件農協では、新たに貯金口座を開設する場合、あわせて出資金を払い込まなければならないという規定はなく、本件農協M支店においても、新規の預金者に対し、特に出資金の払込みを求めていない。
 また、本件農協では、出資証券と貯金通帳は別になっており、貯金の残高証明書の発行を求められた場合、特に出資金について申出がない限り、貯金の残高のみ証明する。

(3) 判断

イ 本件金員について
 上記(2)イ及びロによれば、本件金員は、本件被相続人が再度入院した後に、請求人又は請求人の妻が引き出し、その後、請求人が本件被相続人宅の寝室のたんす内に入れて保管していたと認められるから、請求人は、本件金員が本件相続に係る相続財産であることを十分に認識していたと認められる。そして、上記(2)ロ及びハによれば、請求人が、本件金員を現実に保管していた時期であるにもかかわらず、本件関与税理士に対し、本件相続開始日に本件被相続人が保有していた現金の残高を100,000円と明らかに事実と異なる説明をしていることを併せ考えると、請求人は、本件金員が本件相続に係る相続財産であることを十分に認識していながら、本件相続に係る相続財産である現金について虚偽の説明をしているのであるから、当初から本件金員の存在を秘匿し、本件相続に係る相続財産である現金を過少に申告する意図が請求人にあったと認められる。また、上記(2)ハのとおり、請求人が、本件相続に係る相続税の調査において、調査担当職員に対し、本件相続開始日に現金は申告済みの500,000円以外になかった旨虚偽答弁した事実は、当該過少申告の意図が請求人にあったことを裏付けるものである。
 したがって、請求人は、本件金員が本件相続に係る相続財産であると知りながら、当初から過少に申告することを意図し、本件関与税理士にその存在を秘匿して本件相続に係る相続財産である現金の額を説明し、本件関与税理士をして過少な相続税額が記載された本件当初申告書を作成させ、これを提出していたと認められることから、本件金員の申告漏れは、当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からうかがい得る特段の行動をした上で、その意図に基づく過少申告をした場合に当たるというべきであり、通則法第68条第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」という重加算税の賦課要件を満たすというべきである。
ロ 本件農協貯金について
 上記(2)ニのとおり、請求人は、本件当初申告書を提出する前の平成20年12月5日に、本件農協M支店において請求人農協口座を開設し、本件被相続人名義の本件農協口座から水道料金の口座振替先を変更していることからすれば、遅くともそれまでに本件農協貯金が本件相続に係る相続財産であることを認識していたと認められる。これに、上記(2)ホのとおり、本件関与税理士が平成21年1月21日以前に請求人に対し預金残高証明書等の提出を求めていたにもかかわらず、請求人が本件農協口座に係る残高証明書の発行を本件農協に請求していないことを併せ考えると、請求人は、本件農協貯金を秘匿して相続税の申告をする意図の下、あえて本件農協口座に係る残高証明書の発行を請求せず、本件関与税理士に本件農協貯金の存在を知らせなかったと認められる。
 したがって、本件農協貯金の申告漏れは、本件金員同様、請求人が当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からうかがい得る特段の行動をした上で、その意図に基づく過少申告をした場合に当たると認められるから、重加算税の賦課要件を満たすというべきである。
ハ 本件出資金について
 上記ロ及び上記(2)ヘのとおり、本件当初申告書を提出する前に、請求人が本件農協貯金の存在を知っており、本件出資金に係る配当金が本件農協口座に振り込まれているなど、請求人が本件出資金の存在を認識していた可能性を示す事実が認められる。しかしながら、上記(2)ヘ及びトのとおり、本件出資金に係る配当金が僅少なものであり、本件農協では口座開設の際に出資金の払込みを求めておらず、貯金があるからといって出資金が必ずあるわけではなく、出資金があっても出資証券と貯金通帳とは別個に存在するなど、出資金の取扱いが貯金とは別である以上、請求人が本件農協貯金の存在を知っていた事実や本件出資金に係る配当金が本件農協口座に振り込まれていた事実があるからといって、必ずしも請求人が本件出資金の存在を認識していたということはできないから、請求人が本件当初申告書を提出するよりも前に本件出資金の存在を認識していたとまでは認められない。
 この点、原処分庁は、本件出資金の申告漏れについて相続財産の認識と過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動があったと主張するが、請求人が本件農協との取引の存在を認識していたと主張するのみで、請求人が本件出資金の存在を認識していたとする具体的な事実を何ら示しておらず、他の原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、請求人が本件出資金の存在を認識していたことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、本件出資金の申告漏れについては、重加算税の賦課要件を満たしているとはいえない。

(4) 本件賦課決定処分について

 上記(3)ハのとおり、本件出資金の申告漏れについては、重加算税の賦課要件を満たしていないところ、修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、本件賦課決定処分は、別紙「取消額等計算書」のとおり、その一部につき取り消すのが相当である。

(5) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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