(平成23年9月22日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、退職前の勤務先に対し、在職中の職務発明について特許を受ける権利を当該勤務先に承継させたことにつき、特許法(平成16年法律第79号による改正前のものをいう。以下、特に断らない限り同じ。)第35条《職務発明》第3項の規定に基づき、相当の対価の支払を求めて訴訟を提起した(以下、当該訴訟を「本件訴訟」という。)が、本件訴訟において訴訟上の和解が成立したことから、当該和解によって得た金員のうち一部を雑所得とし、その他を譲渡所得として平成21年分の所得税の確定申告を行ったところ、原処分庁が、当該和解は平成20年11月20日に成立しており、当該金員に係る所得は全て平成20年分の雑所得に該当するとして、同年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったことに対して、請求人が、原処分庁の認定した総所得金額が過大である等としてその一部の取消しを求めた事案であり、争点は、次の2点である。

  1. 争点1 請求人が本件訴訟において成立した和解により収受した金員(以下「本件和解金」という。)に係る所得は、雑所得に該当するか否か。
  2. 争点2 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由」があると認められるものがある場合に該当するか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成22年11月11日請求)に係る経緯は、別表1のとおりである。

(3) 関係法令等

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人の経歴等
 請求人は、昭和41年3月11日から平成15年9月30日までの間、医薬品メーカーであるF社に雇用され、G研究所の研究員等として勤務していた。
ロ F社の従業員発明考案取扱規定について
 F社は、昭和62年10月1日付で、同日以降に従業者等がした発明で、その性質上、F社の業務範囲に属し、かつ、その発明考案をするに至った行為が従業者等の現在又は過去の職務に属する職務発明について、要旨以下のとおりの発明考案取扱規定(以下「本件規定」という。)を定めた。
(イ) 職務発明については、F社が、日本国及び外国でのその特許等を受ける権利あるいは特許権等を承継する(第3条)。
(ロ) 発明考案をした従業者等は、速やかにその発明考案の内容を自己の所属する長に届け出るものとし、所属の長は、届出を受けたときは、発明考案者を特定して、発明考案の内容を特許部長に届け出るものとする(第4条)。
(ハ) 特許部長は、届出に係る発明考案が職務発明であると認定し、その権利をF社が承継することに決定したときは、直ちにその発明考案について出願手続を行うものとする(第5条)。
(ニ) 発明考案者は、職務発明についてその特許を受ける権利をF社が承継すると決定したときは、その権利をF社に譲渡しなければならない(第6条)。
(ホ) F社は、以下の場合において、一定の補償金を発明考案者に支払うものとする(第8条)。
A F社が特許を受ける権利を承継し、これを出願したときは、○○○○円(以下、当該補償金を「出願補償金」という。)
B 上記の特許出願が登録になったときは、○○○○円(以下、当該補償金を「登録補償金」という。)
(ヘ) 出願数は、国内出願の件数により認定し、複数の出願に基づく国内優先権出願、当該外国出願及び手続上の分割出願は、全てこれを一つの出願とみなす(第12条)。
ハ 請求人の職務発明について
 請求人は、平成3年頃、F社のG研究所に所属する研究員のHほか2名(以下、請求人と併せて「請求人ら」という。)と共同して、Nに関する発明(以下「本件職務発明」という。)をした。
ニ F社の特許出願等について
 F社は、遅くとも平成3年6月4日までに、本件職務発明につき、発明者である請求人らから本件職務発明に係る特許を受ける権利を承継し、同年○月○日付で、特許庁長官に対し、Nを含むTとして特許出願を行った(以下、当該特許出願を「平成3年特許出願」という。)。
 そして、F社は、請求人らに対して、本件規定に基づいて出願補償金を支払い、請求人らは、平成3年8月21日付で、平成3年特許出願について出願補償金○○○○円を受領した旨の領収書を作成し、F社に交付した。
ホ F社による特許権の取得等
 本件職務発明は、平成9年○月○日に、発明の名称を「T」として日本国における特許出願に係る設定登録がされ、F社は、本件職務発明に係る特許権(特許第○○○○号、以下「本件国内特許権」という。)を取得した。その後、F社は、P国ほか19か国において、本件職務発明に係る各国における特許権(以下「本件国外特許権」といい、本件国内特許権と併せて、以下「本件各特許権」という。)を取得した。
 そして、F社は、請求人らに対して、本件規定に基づいて登録補償金を支払い、請求人らは、平成9年7月12日及び18日付で、上記日本国における特許出願の設定登録について登録補償金として○○○○円を受領した旨の領収書を作成し、F社に交付した。
ヘ F社のライセンス契約について
 F社は、平成10年4月20日にQ国のc市を本店所在地とするJ社(その後、R国のK社と合併してL社となった。以下、時期を問わず「L社」という。)との間において、本件各特許権について独占的実施権を許諾する旨のライセンス契約(以下「本件ライセンス契約」という。)を締結した。
ト L社からのライセンス料の支払について
 L社は、本件ライセンス契約に基づいて、Nを主成分とする薬剤をM商品の名称で平成15年から販売開始し、平成16年からF社に対して本件ライセンス契約に基づく本件各特許権に係るライセンス料を支払った。
チ 本件規定の改定の内容について
(イ) F社は、平成13年4月1日付で、本件規定の改定を行い、出願補償及び登録補償に関する規定に加えて実績補償に関する規定が設けられ、F社が発明考案等の実施により相当の利益を得たときは、当該発明考案者に対して実績に応じた補償として実績補償金を支払うこと及び同日以後に販売開始された製品については、同日前に承継された特許を受ける権利についても補償の対象とすることとされた。
 なお、実績補償金の額は、平成13年4月1日以後に販売開始された製品で、全世界のうち発売が最も早い国における販売開始後3回目の4月1日から始まり翌年3月31日に終了する年度(以下「評価対象期間」という。)の年間正味販売額が○○○○円以上である製品を対象とし、製品の評価対象期間の年間正味販売額に○○%を乗じて得た額を限度として決定することとされた。
(ロ) また、F社は、平成17年4月1日付で、本件規定の改定を行い、実績補償金を実績報償金に名称変更した。
リ F社の請求人に対する実績報償金の支払通知
 F社は、平成18年8月30日に、請求人に対して、上記チの改定規定に基づき、別表2のとおり算定した実績報償金の額○○○○円を支給する旨通知した。
ヌ 請求人の訴訟提起について
 請求人は、平成19年○月○日、F社に対し、上記リの実績報償金の額が特許法第35条第3項に規定されている相当の対価の額を満たすものではないとして、別表3のとおり算定した本件職務発明に関する相当の対価の額等の支払を求める本件訴訟(平成○年(○)第○○○○号)をS地方裁判所に提起した。
ル 本件訴訟の手続における和解について
 請求人及びF社は、平成20年○月○日、本件訴訟の手続において、F社が請求人に対し、解決金として○○○○円(本件和解金)を支払う旨等を内容とする訴訟上の和解(以下「本件和解」という。)をした。
 なお、本件和解の和解調書(以下「本件和解調書」という。)には、要旨以下のとおりの記載がある。
(イ) F社は、請求人に対し、本件解決金として○○○○円の支払義務があることを認める。
(ロ) F社は、請求人に対し、上記(イ)の金員(本件和解金)を、平成21年1月5日から同月9日の間に、請求人の代理人の指定する口座に振り込む方法により支払う。
(ハ) 請求人及びF社は、本和解条項の内容を不特定又は多数の者に開示しないことを相互に確認する。
(ニ) 請求人は、その余の請求を放棄する。
(ホ) 請求人及びF社は、日本国を含む21か国の特許に係る職務発明の対価に関し、本和解条項に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。
ヲ F社による本件和解金の支払について
 F社は、遅くとも平成21年1月8日までに、本件和解金を請求人の代理人弁護士名義の普通預金口座に振り込む方法により支払った。
ワ 請求人の所得税の確定申告及び原処分庁の更正処分について
 請求人は、平成21年分の所得税の確定申告について、本件和解金から本件訴訟における弁護士費用相当額等を控除した金額の一部を雑所得の金額としその他の部分を譲渡所得の金額とする内容の申告書を法定申告期限内に原処分庁に提出したが、原処分庁は、平成22年7月1日付で、本件和解金に係る所得が平成20年分に確定したものであるとして、請求人の平成21年分の所得税について減額の更正処分を行った。

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2 主張

(1) 争点1 本件和解金に係る所得は、雑所得に該当するか否か。

原処分庁 請求人
 本件和解金に係る所得は、次の理由により雑所得に該当する。  本件和解金に係る所得は、次の理由により譲渡所得に該当する。
1 所得税基本通達23〜35共−1(1)は、職務発明に係る特許を受ける権利を使用者に承継させることにより支払を受ける対価について、権利の承継に際し一時に支払を受けるものは譲渡所得、権利を承継させた後に支払を受けるものは雑所得として取り扱われる旨定められているところ、特許法上、職務発明に係る特許を受ける権利は当該発明をした者に原始的に帰属するものであるため、当該権利の承継に際し一時に支払を受けるものは資産の譲渡による所得に該当し、譲渡所得として取り扱われる。
 一方、権利の承継後に支払を受けるものは、特許を受ける権利を使用者に移転した後に使用者が当該権利を独占的に利用して得た利益の実績に基づいて算定されたものであって、権利の移転によって、一時に支払を受けるものには当たらないため、譲渡所得に該当せず、また、当該権利の利用実績に基づき支払を受けるものであることから対価性を有しており、雑所得に該当する。
1 本件和解金は、請求人が特許を受ける権利又は特許権の承継の対価として特許法第35条第3項の規定により取得した相当の対価の支払を受ける権利を実現させたもの、あるいは相当の対価の支払を受ける権利を請求人の支配から離脱させる対価として受け取ったもので、特許を受ける権利又は特許権の譲渡の対価である。
 また、職務発明に係る特許を受ける権利又は特許権は、当該発明をした者に原始的に帰属する以上、当該権利の承継の対価として支払を受けるものは、権利の承継に際し一時に支払を受けるか否かに関わらず、資産の譲渡による所得である。請求人は、F社から本件和解に基づき本件和解金を受領したものであるが、本件職務発明に係る特許を受ける権利の承継の「相当の対価」として支払われたものであることから譲渡所得に該当する。
 なお、特許法(平成16年6月4日法律第79号による改正後のもの)第35条第5項は、「第3項の対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。」と規定しており、本件和解金の額は、同規定に基づいて算定されたものであって、将来の利益予測等種々の事情を考慮して算定された「特許を受ける権利若しくは特許権を承継させたこと」の対価であり、F社が当該権利を利用して得た利益の額は、「相当の対価」の額を決定するに当たって考慮すべき一事情にすぎないから、本件和解金に係る所得は、譲渡所得に該当する。
2 請求人は、職務発明に関してF社が本件職務発明に係る特許を受ける権利を承継し、出願数は国内の出願数により認定し、国内及び外国出願は一つの出願とみなす旨の本件規定の定めにより出願補償金を得ているので、請求人は、外国特許の承継の対価である出願補償金及び登録補償金も国内特許と併せて受領していると認められる。
 さらに、請求人は、F社から提示された特許を利用して得た利益の実績に基づいた実績報償金が特許法第35条第3項に規定されている相当の対価を満たすものではないとして本件訴訟を提起し、和解の上、本件和解金を受領したものであるため、本件和解金の中には、上記のとおり、本件職務発明に係る特許を受ける権利の外国特許に係る承継の対価である出願補償金及び登録補償金が含まれていると解することはできず、本件和解金は、実績報償金に対するものと認められることとなり、雑所得に該当する。
2 仮に、権利の承継後最初に受領した金員のみが譲渡所得であるとしても、国内特許と外国特許に係る相当の対価請求権は、それぞれ別個の請求権であり、請求人は、F社から本件職務発明に係る特許を受ける権利の外国特許に係る承継の対価(補償金等)は一切受け取っておらず、F社も請求人に対して本件職務発明に係る特許を受ける権利の外国特許に係る承継の対価を支払っていないことを認めている。本件和解金によって本件職務発明に係る特許を受ける権利の外国特許に係る承継の対価を初めて受け取ったのであるから、少なくともその部分に関しては譲渡所得に該当する。なお、本件規定第12条は出願数の認定の仕方に関する条項であるところ、同条は外国出願を国内出願とは別個の一つの出願とは認定していない。これは、換言すれば、F社が外国出願については独立した出願として出願補償金や登録補償金の対象と認定することはしないと決定したことを意味するのであり、裏を返せば、F社が請求人に対して外国出願についての出願補償金を支払っていないことを表している。

(2) 争点2 通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められるものがある場合に該当するか否か。

請求人 原処分庁
 請求人は、本件和解が成立した後の平成20年11月26日、同月28日及び平成22年1月28日の3回にわたりE税務署を訪れ、申告相談を担当した職員らに対し、本件和解調書を提示した上で、一貫して本件和解金を平成21年分の所得として申告する旨を述べ、申告相談を担当した職員らも請求人が本件和解金を平成21年分の所得として申告することを十分認識していたにも関わらず、申告すべき年分について何らの指導も行わなかった。そのため、請求人は原処分庁が本件和解金を同年分で申告することを了解したと考え申告したものである。
 したがって、本件は通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められるものがある場合に該当する。
 原処分庁所属の職員らは、請求人から本件和解金の所得区分について申告相談を受けて指導したが、申告年分についての相談を受けた事実はなく、請求人の主張するような不適切な指導があったとは認められない。
 したがって、本件は通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められるものがある場合に該当しない。

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3 判断

(1) 争点1 本件和解金に係る所得は、雑所得に該当するか否か。

イ 法令解釈
(イ) 職務発明に関する特許法の規定等について
A 特許法第35条は、職務発明について特許を受ける権利が当該発明をした従業者等に原始的に帰属することを前提に(同法第29条第1項参照)、まる1使用者等が従業者等の職務発明に関する特許権について通常実施権を有すること(同法第35条第1項)、まる2従業者等がした発明のうち職務発明以外のものについては、あらかじめ使用者等に特許を受ける権利等を承継させることを決めた条項が無効とされること(同条第2項)、その反対解釈として、職務発明については、そのような条項が有効とされること、まる3従業者等は、職務発明について使用者等に特許を受ける権利等を承継させたときは、相当の対価の支払を受ける権利を有すること(同条第3項)、まる4その対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明につき使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならないこと(同条第4項)などを規定している。これによれば、使用者等は、職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させる意思を従業者等が有しているか否かに関わりなく、使用者等があらかじめ定める勤務規則等において、特許を受ける権利等が使用者等に承継される旨の条項を設けておくことができるのであり、また、その承継について対価を支払う旨及び対価の額、支払時期等を定めることも妨げられることがないということができる。
 しかしながら、いまだ職務発明がされておらず、承継されるべき特許を受ける権利等の内容や価値が具体化する前に、あらかじめ対価の額を確定的に定めることができないことは明らかであって、特許法第35条の趣旨及び規定内容に照らしても、これが許容されていると解することはできない。
 したがって、勤務規則等により職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させた従業者等は、当該勤務規則等に、使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても、これによる対価の額が特許法第35条第4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは、同条第3項の規定に基づき、その不足する額に相当する対価の支払を求めることができると解される。
B すなわち、特許法第35条第3項及び第4項の規定の趣旨は、職務発明の独占的な実施に係る権利が処分される場合において、職務発明が雇用関係や使用関係に基づいてされたものであるために、当該発明をした従業者等と使用者等が対等の立場で取引をすることが困難であることに鑑み、その処分時において、当該権利を取得した使用者等が当該発明の実施を独占することによって得られると客観的に見込まれる利益のうち、同条第4項所定の基準に従って定められる一定範囲の金額について、これを当該発明をした従業者等において確保できるようにして当該発明をした従業者等を保護し、発明を奨励し、もって産業の発展に寄与するという特許法の目的(特許法第1条)を実現するものであると解するのが相当である。
C ところで、職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させた従業者等が使用者等から支払を受ける対価には、まる1勤務規則等に定められ、特許を受ける権利等が使用者等に承継された際に一時に支払われるもの、まる2勤務規則等に定められ、特許を受ける権利等が使用者等に承継された後に支払われるもの、並びに、まる3まる1及びまる2のとおり勤務規則等に基づいて支払われた対価の額が特許法第35条第4項の規定に従って定められる対価の額に満たない場合に同条第3項の規定に基づいてその不足する額に相当する対価の支払を求めた場合において支払われるものが存在するとされる。
 上記いずれの対価についても、その本質は、職務発明をした従業者等において当該発明の実施による利益が確保できるようにして当該発明をした従業者等を保護し、発明を奨励し、もって産業発展に寄与するという特許法の目的を実現する性格のものといえる。
(ロ) 特許法第35条第3項に規定する相当の対価の所得税法上の取扱いについて
A 譲渡所得について
 所得税法第33条第1項は、譲渡所得について、資産の譲渡による所得をいう旨規定するところ、一般に、譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであり、年々に蓄積された当該資産の増加益が所有者の支配を離れる機会に一挙に実現したものと見る建前から、累進税率の下における租税負担が大となるので、その負担の調整を図る目的で、課税標準等の計算において特別の配慮をするものとされている。
 そして、この譲渡所得の基因となる資産の意義については、所得税法第33条第2項に該当するもの(たな卸資産等)及び金銭債権以外の一切のあらゆる資産を含む広い概念であり、動産、不動産のほか、特許権、著作権等の無体財産権はもちろん、借家権、営業権や行政官庁の許可、認可、割当等により発生した事実上の権利など一般的にその経済的価値が認められて取引の対象とされ、増加益が生じるような全ての資産を含むものと解される。
B いわゆる権利確定主義について
 所得税法第36条第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定しているところ、収入金額又は総収入金額の計算について、「収入すべき金額」と定め、「収入した金額」としていないことから考えると、同法は、現実の収入がなくても、その収入の原因たる権利が確定的に発生した場合には、その時点で所得の実現があったものとして、当該権利発生の時期の属する年度の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用しているものと解されるが、収入の原因となる権利が確定する時期は、それぞれの権利の特質を考慮して決定されるべきものである。
C 所得税基本通達23〜35共−1(1)の取扱いについて
(A) 所得税基本通達23〜35共−1(1)は、業務上有益な発明をした従業者等が当該発明に係る特許を受ける権利を使用者等に承継させたことにより支払を受けるもののうち、これらの権利の承継に際し一時に支払を受けるものは譲渡所得とし、これらの権利を承継させた後において支払を受けるものは雑所得とする旨定めている。
 上記(イ)のCのとおり、職務発明に係る特許を受ける権利を従業者等が使用者等に承継させたことに対して使用者等から支払われる対価には、まる1当該特許を受ける権利が使用者等に承継された際に一時に支払われるものと、まる2当該特許を受ける権利が使用者等に承継された後に支払われるものがあるとされている。これらは、いずれも、特許法第35条第3項所定の相当の対価として支払われるものであり、上記(イ)のCのとおり、勤務規則等に基づいて支払われた対価の額が特許法第35条第4項の規定に従って定められる対価の額に満たない場合には、従業者等は、使用者等に対し、同条第3項の規定に基づき、その不足する額に相当する対価の支払を求めることができる。
 職務発明について特許を受ける権利を使用者等に承継させる旨を定めた勤務規則等がある場合においては、従業者等は、当該勤務規則等により、特許を受ける権利を使用者等に承継させたときに、相当の対価の支払を受ける権利を取得するものであり(特許法第35条第3項)、相当の対価の支払請求権は、特許を受ける権利の権利承継の時に発生し、その額もその時に客観的に定まるべきものと解される。
 しかしながら、一般に職務発明について特許を受ける権利の承継があった時点でこれについての相当の対価の額を正確に算定することは困難であることから、特許実務においては、当該権利の承継後に承継を受けた使用者等による当該職務発明の実施の実績等を考慮して算定することができるよう、上記のような権利承継時と権利承継後の分割払方式の補償(報償)制度が採用されているものと考えられ、上記通達の定めは、上記のような対価の支払の実情を踏まえて、それぞれの対価の内容、性質等に照らしてその所得区分を定めたものと解される。
(B) 職務発明に係る特許を受ける権利等を使用者等に承継させたことに対して使用者等から支払われる対価のうち、当該特許を受ける権利が使用者等に承継された際に一時に支払われるものについては、特許を受ける権利それ自体は、特許法上一般には、独立して移転、譲渡の対象となる財産であり(特許法第33条第1項)、また、経済的価値のある資産に該当することから、譲渡所得の基因となる資産に該当すると解され、上記Aにおいて説示した譲渡所得課税の趣旨に照らしても、譲渡所得に該当すると解するのが相当である。
(C) これに対し、職務発明に係る特許を受ける権利等を使用者等に承継させたことに対して使用者等から支払われる対価のうち、当該特許を受ける権利が使用者等に承継された後に支払われるものについては、特許法第35条第3項の規定により従業者等に与えられた相当の対価の支払を受ける権利に基づいて使用者等から支払われるものであるところ、上記(A)のとおり、相当の対価の支払請求権自体は、特許を受ける権利の承継の時に発生し、その額は権利の承継の時に客観的に定まっているものであるが、上記のとおり、対価の額の考慮要素となる当該発明により使用者等が受けるべき利益の額等を権利の承継時において正確に算定することは困難であることから、特許実務上、当該権利の承継後に、当該権利の承継を受けた使用者等において、当該職務発明の実施の実績等を考慮してその額を算定して支払うこととされているものである。特許を受ける権利の承継後に使用者等から従業者等に対して支払われる対価の以上のような性格等に鑑みると、当該権利の承継の時に所得の実現があったとみることは相当ではなく、上記Aにおいて説示した譲渡所得課税の趣旨に照らしても、特許を受ける権利の承継後に使用者等から支払われる対価は、譲渡所得には該当しないものと解すべきである。
 そして、当該対価は、その所得の源泉からすれば、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、退職所得及び山林所得のいずれにも該当しないことは明らかであり、また、雇用契約に基因して支払われた労務の対価には該当しないことから給与所得には該当せず、さらに、当該相当の対価が使用者等に特許を受ける権利を承継させたことに基因して支払われることからすると、対価性があると認められ、一時所得にも該当しない。
 そうすると、特許を受ける権利が使用者等に承継された後に使用者等から支払われる対価は、雑所得に該当すると解されるのであり、当審判所においても、当該通達の定める取扱いは相当であると認める。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 平成3年特許出願に係る依頼書
 請求人らは、平成3年6月4日付で、平成3年特許出願に係る依頼書(以下「平成3年依頼書」という。)をF社に提出した。平成3年依頼書は、H名義で作成されており、発明者として請求人らの住所及び氏名等が記載されるとともに、外国出願の予定の有無を記載する欄には、本件職務発明について外国出願の予定がある旨及び出願希望国は未定である旨記載されていた。
(ロ) 平成3年特許出願後の特許出願等について
 請求人らは、平成4年3月23日付で、F社に対して、本件職務発明に係る化合物の合成方法等を実施例として追加した特許出願に係る依頼書(以下「平成4年依頼書」という。)を提出した。平成4年依頼書は、平成3年依頼書と同様、H名義で作成され、発明者として請求人らの住所及び氏名が記載されるとともに、外国出願の予定の有無を記載する欄には、本件職務発明について外国出願の予定がある旨及び出願希望国は未定である旨記載されていた。
(ハ) F社は、請求人らからの平成4年依頼書の提出を受けて、平成4年○月○日付で、本件職務発明に係る国内優先出願を行うとともに、同日付で、P国を初め19か国の特許官庁に本件職務発明に係る特許の出願(以下、当該各特許の出願を「平成4年特許出願」という。)を行った。
 そして、F社は、平成4年6月10日に、請求人らに対して、平成4年特許出願に係る出願補償金○○○○円を支払い、請求人らは、同月11日付の出願補償金の領収書を作成し、F社に交付した。
(ニ) 上記(ハ)以後、請求人が本件職務発明に係る特許を受ける権利をF社に承継させたことについて、相当の対価の支払を求めて本件訴訟を提起し、その後に本件和解金を収受した各経緯については、上記1の(4)の基礎事実に記載するとおりである。
ハ 判断
(イ) 本件和解金の性質について
A 上記1の(4)のチないしヲのとおり、請求人は、平成18年8月30日にF社が改正後の本件規定に基づいて評価対象期間におけるF社とL社のM商品の各販売額を計算の基礎として算出した額の実績報償金を支払う旨請求人に通知したことに対し、平成19年○月○日付で、F社がL社から取得したM商品に係るロイヤリティの額を計算の基礎として算定した額が特許法第35条第3項に規定する相当の対価の額であるとして本件訴訟を提起したが、結局、平成20年○月○日付で本件和解が成立し、請求人は、平成21年1月8日に、本件和解金を受領したものである。
 上記の事実によれば、改正後の本件規定に基づいて支払われる実績報償金は、F社が本件規定に基づいて職務発明をした従業者等から特許を受ける権利を承継したことに対する対価であって、当該権利の承継後に、当該権利の承継を受けたF社において、当該職務発明の実施の実績等を考慮してその額を算定して支払うこととされているものであり、本件和解金は、上記実績報償金について、請求人が、F社が提示した金額が特許法第35条第3項及び第4項の規定に従って定められる相当の対価の額に満たないとしてこれを争い、F社に対して相当の対価の支払を求める訴訟を提起したため、裁判上の和解において、請求人らの本件職務発明に係る日本国を含む21か国の特許の全てについて請求人の職務発明の対価の不足分としてその額を最終的に○○○○円と確定したものであると認められる。
 そうであるとすれば、本件和解金に係る収入については、本件和解の時点において所得の実現があったものとみるのが相当であり、したがって、当該収入の原因となる権利は本件和解のときに確定したものというべきである。
 以上によれば、本件和解金に係る所得は、本件和解が成立した時点を含む平成20年分の雑所得に該当するものというべきである。
(ロ) 請求人の主張について
A 請求人は、本件和解金について、特許を受ける権利等の承継の対価として特許法第35条第3項の規定により取得した相当の対価の支払を受ける権利を実現させたもの、あるいは相当の対価の支払を受ける権利を請求人から離脱させる対価として受け取ったもので、特許を受ける権利等の譲渡の対価であり、譲渡所得に当たる旨主張する。
 確かに、本件和解金は、本件職務発明に係る特許を受ける権利をF社に承継させたことについての対価の性質を有するものであるが、上記(イ)のとおり、改正後の本件規定に基づき当該権利の承継後にF社において当該職務発明の実施の実績等を考慮してその額を算定して支払うこととされている実績報償金について、請求人がその額を争ったため、本件和解において、請求人の職務発明の対価の不足分としてその額を最終的に確定したものであって、本件和解金に係る収入は、本件和解の時点において所得の実現があったものとみるのが相当であり、当該収入の原因となる権利は本件和解のときに確定したものというべきであるから、上記イの(ロ)のAにおいて説示した譲渡所得課税の趣旨に照らしても、本件和解金に係る所得を請求人が主張するように譲渡所得と解することはできず、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
B また、請求人は、職務発明に係る特許を受ける権利等は、当該発明をした者に原始的に帰属する以上、当該権利の承継の対価として支払を受けるものは、当該権利の承継に際し一時に支払を受けるか否かに関わらず、資産の譲渡による所得であり、譲渡所得に当たる旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ロ)のCの(C)のとおり、職務発明に係る特許を受ける権利等を使用者等に承継させたことに対して使用者等から支払われる対価のうち、当該特許を受ける権利が使用者等に承継された後に支払われるものは、対価の額の考慮要素となる当該発明により使用者等が受けるべき利益の額等を権利の承継時において正確に算定することは困難であることから、特許実務上、当該権利の承継後に、当該権利の承継を受けた使用者等において、当該職務発明の実施の実績等を考慮してその額を算定して支払うこととされているものであり、上記(イ)のとおり、改正後の本件規定に基づいて支払われる実績報償金も上記のような性格の対価であると解されるから、上記イの(ロ)のCの(C)のとおり、当該権利の承継の時に所得の実現があったとみることは相当ではなく、譲渡所得課税の趣旨に照らしても、譲渡所得には該当しないものと解すべきであることに加えて、上記(イ)のとおり、本件和解金は、請求人がF社が提示した実績報償金の額を争ったため、本件和解において、請求人の職務発明の対価の不足分としてその額を最終的に確定したものであるから、本件和解金に係る収入の原因となる権利は本件和解のときに確定したものというべきであって、本件和解金に係る所得を譲渡所得と解することはできず、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
C さらに、請求人は、国内特許と外国特許とに係る相当の対価の支払を請求する権利は、それぞれ別個の請求権であって、F社から外国特許に係る承継の対価は一切受け取っておらず、本件和解金によって外国特許に係る承継の対価を初めて受け取ったのであるから、少なくともその部分に関しては譲渡所得に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記1の(4)のニ及びホ並びに上記ロによれば、我が国又は外国の特許を受ける権利の基となる職務発明は、共通する一つの技術的創作活動の成果であり、当該職務発明については、その基となる雇用関係等も同一であって、これに係る国内外の特許を受ける権利は、社会的事実としては、実質的に1個と評価される同一の本件職務発明から生じたものということができる。
 そして、上記1の(4)のロの(イ)のとおり、本件規定は、F社が日本国及び外国での職務発明に係る特許等を受ける権利等を承継する旨定めており、その趣旨は、国内外の特許を受ける権利の上記のような性格等に鑑み、当該権利の基となる職務発明をした従業者等とF社との間の当該発明に関する法律関係を一元的に処理しようとしたものであるということができる。このことに加えて、本件規定において、出願数は国内出願の件数により認定し、複数の出願に基づく国内優先権出願及び当該外国出願は全てこれを一つの出願とみなす旨規定していることを併せ考えると、本件規定ないし改正後の本件規定が定める出願補償金、登録補償金及び実績報償金は、いずれも、国内における特許を受ける権利と外国における特許を受ける権利のいかんを問わず、本件規定の定める一つの出願に対するものとして規定されているものと解するのが相当である。
 そうすると、F社から請求人に対して支払われた上記1の(4)のホ及び上記ロの(ハ)の出願補償金及び登録補償金は、職務発明に係る国外の特許を受ける権利の承継の対価をも含むものというべきであるから、本件和解金によって本件職務発明に係る特許を受ける権利の外国特許に係る承継の対価を初めて受け取ったとする請求人の主張は、その前提を欠くことになる。
 また、F社が改正後の本件規定に基づく実績報償金として請求人に提示した額は、本件職務発明に係る国外の特許を受ける権利の承継の対価をも含むものというべきであるところ、本件和解金が、本件職務発明に係る日本国を含む21か国の特許の全てについて本件和解において請求人の職務発明の対価の不足分としてその額を最終的に確定したものであることは、上記(イ)に説示したとおりである。
 したがって、請求人の上記主張は採用することができない。
(ハ) まとめ
 以上のとおり、本件和解金は、請求人の平成20年分の雑所得に該当するものであると認められる。

(2) 争点2 通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められるものがある場合に該当するか否か。

イ 法令解釈
 通則法第65条に規定する過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対し課されるものであり、これによって、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
 通則法第65条第4項は、修正申告書の提出又は更正に基づき納付すべき税額に対して課される過少申告加算税につき、その納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、その事実に対応する部分についてはこれを課さないこととしているが、過少申告加算税の上記の趣旨に照らせば、同項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解される。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人の第1回目の相談
 請求人は、平成20年11月26日にE税務署を訪れ、原処分庁所属の資産課税部門の担当職員(以下「相談担当職員」という。)と面談して、本件和解金に係る所得区分等について相談をした。
 その際、相談担当職員が請求人から聴き取った内容についてのメモ(以下「本件11月26日メモ」という。)には、まる1請求人の職歴等、まる2本件和解の経緯及びまる3本件和解金の額等が記載されていたほか、本件和解の内容に関しては、「H20.○.○に会社(F社)と仮和解○○○○」、「H21.1に弁護士が本和解一括で支払われる予定」などと記載されていた。なお、本件11月26日メモには、本件和解金の収受予定日等は記載されていなかった。
(ロ) 原処分庁における本件和解金の所得区分の検討等
 相談担当職員は、本件和解金の所得区分について、原処分庁所属の資産課税部門の審理担当職員(以下「審理担当職員」という。)に検討を依頼し、審理担当職員は、平成20年11月27日までに、依頼された検討事項を文書(以下「本件回答書」という。)にまとめて相談担当職員に交付した。
 なお、本件回答書には、「本件和解金は、雑所得に該当すると判断する。」旨記載されていたが、社内発明に係るF社の規約あるいは和解の内容など不明な点が多く、個別事情等を考慮した詳細な検討が不能であるため、本件回答書による回答は通達等に基づいた一般的な取扱いである旨が申し添えられていた。
(ハ) 請求人の第2回目の相談
 相談担当職員は、平成20年11月28日午前11時頃、請求人に対して、本件回答書の内容に基づいて本件和解金の所得区分について電話で回答を行ったところ、請求人は、同日午後1時頃、E税務署を訪れ、相談担当職員と本件和解金等の所得区分等について面談を行った。
 その際、相談担当職員が請求人から聴き取った内容についてのメモ(以下「本件11月28日メモ」という。)には、まる1出願補償金及び登録補償金の受領金額等、まる2本件訴訟の経緯、まる3本件和解調書作成の日(「H20.○.○」)並びにまる4本件和解金の額及び支払予定月(「H21.1」)が記載されていたほか、平成15年の最高裁の社内発明についての判決文を持参したが、他の書類の提示はなかった旨及び「納税者は、(所得区分に)一定の理解を示したが、よく調べてみて譲渡所得と思ったら譲渡で申告するとして帰った」などと記載されていた。
(ニ) 請求人の第3回目の相談
 請求人は、平成22年1月28日にE税務署を訪れ、原処分庁所属の所得税の審理担当職員(以下「所得税審理担当職員」という。)と面談し、本件和解金の所得区分等を質問した。
(ホ) 請求人の答述等について
 請求人は、当審判所に対して、本件和解金の申告に係る相談担当職員等との相談内容を記録したとする面談記録と題する文書(以下「本件面談記録」という。)を提出し、本件面談記録の記載内容等について、要旨以下のような説明を付け加えた。
A 本件面談記録は、面談の時のメモや記憶に基づいて、請求人の独断と偏見で書いていることから、必ずしも正確であるかどうかを保証するものではない。
B 本件面談記録は、最初の面談日からかなりの日時を経て書き始めたため、最初の頃の記録は請求人の記憶を思い起こしながら書かれている。特に、相談担当職員との相談内容の記録は、1回目(平成20年11月26日)と2回目(平成20年11月28日)の内容が混同している可能性がある。
(ヘ) 本件面談記録の記載内容等
A 平成20年11月26日の面談
 本件面談記録には、平成20年11月26日の申告相談に際して、請求人が、まる1本件和解調書を相談担当職員に提示して、本件和解金はいつどのような形で確定申告をすべきか相談したい旨及びまる2本件和解金について翌年の1月に入金がある旨などを相談担当職員に申し述べたこと、相談担当職員から、まる3特許法第35条に規定する発明の対価は雑所得になる旨及びまる4訴訟費用等は必要経費となる旨の回答があったことなどが記載されている。
B 平成20年11月28日の面談
 また、本件面談記録には、平成20年11月28日の申告相談に際して、まる1相談担当職員から、本件和解金が雑所得に該当するとの説明を受けた旨並びにまる2これに対し、請求人が、本件和解調書を基に、本件和解金が譲渡所得に該当するとの意見を開陳したが、議論は平行線となり、請求人が、申告(平成22年3月)はまだまだ先の話なので、申告時期が近くなったら再度相談をお願いしたいと申し述べた旨などが各記載されている。
ハ 判断
(イ) 請求人は、本件和解が成立した後の平成20年11月26日及び同月28日にE税務署を訪れ、相談担当職員に対し本件和解調書を提示した上で、本件和解金を平成21年分の所得として申告する旨を述べたにも関わらず、申告すべき年分について何らの指導もなかったことから、原処分庁が本件和解金を平成21年分の所得として申告することを了解したと考え申告したものであり、このことは、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められるものがある場合に該当する旨主張する。
 そして、上記ロの(ホ)及び(ヘ)のとおり、請求人は、証拠として本件面談記録を提出するところ、本件面談記録には、請求人がまる1本件和解調書を提示して相談を行った旨及びまる2本件和解金が平成21年分の所得であり、その確定申告時期は平成22年3月であることを前提とする発言を相談担当職員に対してした旨の各記載があり、これらは、一応、請求人の主張に沿うものである。
 しかしながら、上記ロの(イ)及び(ロ)のとおり、本件11月26日メモには、本件和解に関して「仮和解」、「弁護士が本和解」などと、相談担当職員が本件和解調書の提示を受けたとは考え難い内容が記載されていることや、相談担当職員の検討依頼に基づいて審理担当職員が作成した本件回答書について、和解の内容など不明な点が多く、個別事情等を考慮した検討が不能であるため、通達等に基づいた一般的な取扱いによる回答である旨の留保が申し添えられていたことなどからすれば、請求人の主張に沿う本件面談記録の記載を直ちに採用することができず、平成20年11月26日に請求人がE税務署を訪れた際に、相談担当職員が請求人から本件和解調書を提示されて本件和解金の課税関係に係る相談を受けた事実を認めることはできない。
 また、上記ロの(ハ)のとおり、本件11月28日メモには、本件和解調書の作成日が記載されているものの、本件和解金の支払期日が明確に記載されていない上、平成15年の最高裁判所の判決文の写し以外の書類の提示がなかった旨記載されていることなどからすれば、同様に請求人の主張に沿う本件面談記録の記載は採用することができず、平成20年11月28日に請求人がE税務署を訪れた際に相談担当職員が請求人から本件和解調書の提示を受けた事実も認めることはできない。
 さらに、本件面談記録には、平成20年11月26日の面談についても同月28日の面談についても、請求人が本件和解金の課税年分について相談担当職員に問い合わせを行った旨ないし相談担当職員との間で意見が相違した旨の記載はなく、また、相談担当職員らが作成した本件11月26日メモ、本件回答書及び本件11月28日メモにおいても、本件和解金の課税年分に関する記録を確認することができず、かえってこれらの記載からは、上記両日の面談の際の請求人の関心が専ら本件和解金の所得区分にあり、相談担当職員も請求人の相談内容が本件和解金の所得区分であることを前提に対応していた様子がうかがわれる。
 以上によれば、請求人が平成20年11月26日及び同月28日にE税務署を訪れた際に、相談担当職員に対し本件和解調書を提示した事実も本件和解金の課税年分の相談を行った事実も認めることができないから、請求人の主張はそもそもその前提を欠くものであるのみならず、上記の事実関係の下においては、本件11月28日メモに記載のとおり平成20年11月28日の面談の際に同月20日に本件和解が成立して和解調書が作成された事実が明らかにされ、本件面談記録に記載のとおり請求人から本件和解金については平成22年3月の申告時期に申告する旨の意向が示された事実があったとしても、相談担当職員において課税年度についての請求人の上記意向を了解したとは到底評価することができないから、請求人の主張はこの点においても前提を欠くものというべきであって、採用することができない。
(ロ) 請求人は、平成22年1月28日にE税務署を訪れ、所得税審理担当職員と面談して本件和解金の所得区分等を質問した際に、申告すべき所得年分についての指導がなかったことをもって、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」がある場合に該当する旨主張する。
 しかしながら、平成20年分の所得税の確定申告の法定申告期限は、平成21年3月16日であり、請求人は、別表1のとおり、平成20年分の所得税の確定申告書を平成21年2月17日に原処分庁に提出しているから、平成20年分の所得税の法定申告期限の経過後である平成22年1月28日にされた申告相談の内容は、平成20年分の所得税の確定申告において本件和解金に係る所得を申告しなかったことについての「正当な理由」の有無に何らの影響を与えるものではないから、請求人の主張は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないといわざるを得ない。
(ハ) 結論
 以上のとおり、請求人が、本件和解金に係る所得を平成20年分の所得として申告しなかったことについて、真に請求人の責めに帰すことのできない客観的な事情があるとは認められず、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお請求人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に該当するものとは認められない。
 したがって、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められるものがある場合に該当せず、請求人の主張は採用することができない。

(3) 以上によれば、請求人の平成20年分の総所得金額は、別表4の「審判所認定額」欄の記載のとおりであり、更正処分の額に等しいことから、更正処分は適法である。

(4) 原処分のその他の部分については、請求人争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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