(平成23年7月8日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、○○パブを営む審査請求人(以下「請求人」という。)の3年分の所得税について、資産負債増減法を用いた推計により事業所得の金額を算出して、所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、推計の基礎とされた資産及び負債の認定に誤りがあり、また、加算調整項目の算定方法に合理性がないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

 審査請求(平成22年7月28日請求)に至る経緯等は、別表1のとおりである。
 なお、以下、原処分庁が平成22年3月5日付で行った平成18年分、平成19年分及び平成20年分(以下「本件各年分」という。)の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(ただし、平成18年分及び平成19年分については、平成22年6月30日付の異議決定によりいずれもその一部が取り消された後のもの)を、それぞれ「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」という。

(3) 関係法令

 所得税法第156条《推計による更正又は決定》は、税務署長は、居住者に係る所得税につき更正又は決定をする場合には、その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額を推計して、これをすることができる旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 請求人と本件に係る関係者との間柄等は、別紙3の図に記載したほか、以下のとおりである。
(イ) 請求人は、昭和○年○月にt国で出生し、来日後の昭和45年2月にCと婚姻し、昭和56年に帰化して日本国籍を取得した。
 また、請求人は、昭和62年1月にCが死亡した後、平成8年4月にDと婚姻したため、Aとなった。
(ロ) 請求人には、娘であるE及び請求人とCとの間に生まれた息子であるF(なお、Fは、平成11年2月にDとの間で養子縁組をし、Gとなった。)がおり、EはHと、GはJとそれぞれ婚姻して、いずれも日本に居住している。
(ハ) G及びJは、平成12年6月に婚姻し、請求人の孫に当たるK(平成○年○月出生)とL(平成○年○月出生)が誕生した。
(ニ) 請求人、D、G、J、K及びLの6名(以下「請求人ら」という。)は、平成18年ないし平成20年までの各年(以下「本件各年」という。)において、生計を一にする親族であり、また、その生活費の大部分を請求人が負担していた。
ロ 請求人らの本件各年分における収入等の状況は、次のとおりである。
(イ) 請求人は、本件各年において、d県e市f町○−○所在の賃貸アパート「M」を貸し付け、不動産所得を得たほか、d県g市h町○−○所在のNビル○階で○○パブ「P」(以下「本件店舗」という。)を営み、事業所得を得た。
(ロ) D及びGは、本件各年において、共有する自宅建物(地上3階建て。共有持分は、Dが10分の2、Gが10分の8である。)の1階部分を貸し付け、毎月末に現金で賃料(年額○○○○円)を得て、これを各人の共有持分割合に応じて分配し(分配額は、Dが年額○○○○円、Gが年額○○○○円)、それぞれが不動産所得を得た。
(ハ) Dは、上記(ロ)の分配額のほか、本件各年において、国民年金及び企業年金に係る収入を得た。
(ニ) Gは、平成20年中に3,900,000円を預託して外国為替証拠金取引を行い、同年中に○○○○円の損失を生じた(以下、この外国為替証拠金取引を「本件FX取引」といい、この損失を「本件FX損失」という。)。なお、同人は、平成20年中に、本件FX取引用の口座から資金を引き出すことはしなかった。
(ホ) Jは、平成3年にu国から来日し、繁華街の飲食店等で働いて所得を得ていたが、Gとの婚姻後は収入がなく、本件各年においても、無給で本件店舗の事業に従事していた。
(ヘ) また、K及びLも、本件各年における収入はなかった。
ハ 原処分庁所属の調査担当職員は、平成20年11月から請求人の所得税に係る税務調査を実施し、請求人に対して本件店舗に係る帳簿書類の提示を求めた。しかし、請求人は、帳簿を作成していないとして提示せず、また、売上金額や必要経費に関する書類の保存も適切にしていなかった。
 原処分庁は、請求人が提示した一部の書類のみによっては、請求人の本件各年分の事業所得の総収入金額及び必要経費を実額で計算することができなかったため、資産負債増減法により本件各年分の事業所得の金額を推計して、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を行った。

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2 原処分庁が主張する本件各更正処分の根拠

 原処分庁は、別表2の原処分庁主張額のとおり、まず、本件各年の期首及び期末における請求人らの資産の額、負債の額及び純資産の額を確定して、本件各年分の純資産の増減額を算定し、次に、これに、本件各年における所得の処分である生活費の額等を加算し、また、請求人の事業所得に係る収入以外の収入である預金利子の額等を減算する調整を施して、請求人の本件各年分の事業所得の金額を算出した(別表2−付参照)。
 そして、これに基づき、請求人の本件各年分の所得税の納付すべき税額を算定すると、別表1の「原処分庁主張額」欄のとおり、本件各更正処分の額と同額(平成18年分及び平成19年分)又はこれを上回る額(平成20年分)となるから、本件各更正処分はいずれも適法であると主張している。

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3 争点

 本件の争点は、次のとおりである。
 なお、請求人は、原処分庁が請求人の本件各年分の所得税について推計の方法による課税を行わざるを得なかったこと、及び資産負債増減法が推計の方法として合理性を有することに関しては、争っていない。

(1) 資産及び負債の額について

  1. 争点1−1 推計の基礎とされた預貯金のうちに、本件各年の資産として推計の基礎とするべきでないものが含まれているか否か。
  2. 争点1−2 平成18年1月1日現在において請求人の手元に10,330,000円の現金が存在し、これを資産として推計の基礎とするべきであるか否か。
  3. 争点1−3 平成18年1月1日及び同年12月31日現在において請求人のHに対する貸付金が存在し、これを資産として推計の基礎とするべきであるか否か。
  4. 争点1−4 平成18年1月1日及び本件各年の12月31日現在において請求人のQに対する貸付金が存在し、これを資産として推計の基礎とするべきであるか否か。
  5. 争点1−5 平成18年7月21日にR(請求人の前夫であるCの弟)から送金された金員は借入金が入金されたものであり、当該金員と同額の借入金が存在し、これを負債として推計の基礎とするべきであるか否か。

(2) 加算調整項目について

  1. 争点2−1 原処分庁が採用した生活費の額の算出根拠たる数値に、合理性があるか否か。
  2. 争点2−2 生命保険料の支払額の一部は、G及びJが負担したものであるから、加算調整項目に含めるべきでないのか否か。
  3. 争点2−3 本件FX損失は、G及びJが負担したものであるから、加算調整項目に含めるべきでないのか否か。

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4 争点1−1(推計の基礎とされた預貯金のうちに、本件各年の資産として推計の基礎とするべきでないものが含まれているか否か)について

(1) 主張

請求人 原処分庁
 原処分庁が推計の基礎とした別表3の各口座に係る預貯金のうち、同表の「請求人の主張」欄に×印を付したものは、それぞれの名義人のものである。
 また、本件各年において、K及びL名義の各口座に係る預貯金は、両親のG及びJが管理しており、J名義の同表のNo.35及びNo.36の各口座は、同人が兄のSに貸していた。
 したがって、これらの預貯金は、推計の基礎に含めるべきではない。
 資産負債増減法を用いた推計においては、納税者と世帯を一にする者がある場合、その世帯員の資産及び負債も推計の基礎に含めて純資産の増減額を算出し、その後に、世帯員の所得金額などの当該納税者の所得を源泉としない純資産の増加要因について、減算することになる。
 したがって、請求人以外の者が名義人である口座の預貯金も、推計の基礎に含めるべきであり、それと同旨の原処分に誤りはない。

(2) 判断

イ 生計を一にする者の資産及び負債等について
 資産負債増減法は、その年における純資産の増加額はその年の所得により賄われるものであるとの合理的な経験則に基づき、当該純資産の増加額に、その年中に処分(消費)した所得の額を加算し、事業所得以外の所得や非課税所得に該当するものを控除するなどの調整を施して事業所得の金額を算定するものであり、推計の基礎となるべき各科目の金額を正確に把握し得る限り、所得の推計方法として十分な合理性を有するものということができる。
 しかしながら、その納税者に生計を一にする者がある場合には、一般に、生活費等の支出すなわち所得の処分(消費)が一体としてなされるため、両者の資産及び負債は、混在し、また、相互に関連して増減することとなるから、その生計内の特定の者に係る資産、負債及び処分した所得を他の者のものと明瞭に区分して、推計の基礎となるべき各科目の金額を正確に把握することは困難であるし、上記の資産等の実態を考慮することなく、名義などの形式のみに着目して、その特定の者の資産、負債及び処分した所得を抽出し、これを推計の基礎とすることは適切でない。
 したがって、この場合、両者の資産、負債及び処分(消費)した所得を区分せずに推計の基礎とした上で、上記の各調整を加え、その際に、当該納税者の生計を一にする者に固有の収入等をも控除する調整を施すことによって、その納税者の事業所得の金額を算出する方法を採るのが、合理的である。
ロ 本件への当てはめ
(イ) 上記1の(4)のイの(ニ)のとおり、本件各年において、請求人らは生計を一にしており、請求人らの生活費の大部分を請求人が負担したのであるから、請求人らの生活費の支出は、一体としてなされていたと認められる。
 また、請求人は、別表3の各口座のうち、D名義の全部及びG(F)名義の一部の各口座に係る預貯金については、推計の基礎とされることを争っておらず、また、推計の基礎とされることを争っている預貯金に関しても、K名義及びL名義のT銀行の各定額貯金については、当審判所に対し、すべて請求人が受領したU生命保険の満期一時金(平成16年12月14日満期の5,000,000円及び平成19年6月22日満期の2,000,000円)を原資とするものである旨の答述をしている(この答述は、具体的で明確なものであるから、信用できる。)。このように、請求人自身の主張や答述からも、本件各年において、請求人らの資産が相互に関連して増減していたことがうかがえる。
 したがって、別表3の各口座に係る預貯金は、その名義にかかわらず、すべてを推計の基礎に含めるべきである。
(ロ) もっとも、請求人は、V銀行j支店のJ名義の普通預金口座(別表3のNo.35)及びW銀行j支店のJ名義の普通預金口座(同No.36)は、いずれもJが同人の兄であるSに貸していたものである旨主張しており、Sは請求人と生計を一にする者ではないから、請求人の主張どおりの事実関係があれば、これらの口座に係る預貯金は、推計の基礎から除外すべきこととなる。そこで、以下、この点について検討する。
 当審判所の調査の結果によれば、別表3のNo.35の口座については、別表3−付1のとおり、平成18年1月13日から同年11月29日までの間に、多数の小切手による入金が認められるところ、これらの小切手は、X社(d県k市m町○−○所在のビル清掃等を目的とする法人であり、平成18年12月○日の破産手続開始決定により解散し、平成19年5月○日に同手続廃止決定が確定した。)から、Sが受領したものである。また、別表3−付1及び同表−付2のとおり、平成21年6月16日から同年10月20日までの間に、上記各口座から500,000円ずつの現金出金が頻繁に行われているところ、これらの現金出金は、いずれもキャッシュカードを用いる方法での引き出しであり、銀行の窓口で一括して引き出しを行うことのできない者などが、銀行ATMで利用限度額までの引き出しを繰り返し行ったものと考えられる。
 一方、上記各口座について、Jは、当審判所に対し、銀行口座を作ることができない状況にあったSに貸す目的で、平成13年及び平成14年に順次開設し、以来、同人に対し、上記各口座のキャッシュカード及び通帳を貸していたが、請求人に対する税務調査が行われたのを機に返却を求め、平成22年にSからキャッシュカード及び通帳を受け取った旨を答述し、また、Sは、当審判所に対し、昭和63年にu国から来日し、平成4年7月に在留期限が経過した後、平成20年2月に再度の外国人登録を行うまでの間は、自分名義の銀行口座を利用することが困難な状況にあり、X社から受けとった上記小切手を現金化するため、Jに上記各口座を借りたが、その後に同人から返却を求められたので、預金を引き出した上、キャッシュカード及び通帳を返却した旨を答述している。これらの答述は、小切手による入金及び現金出金の各状況と整合しており、信用することができる。
 したがって、請求人の主張するとおり、本件各年において、上記各口座は、Jがその兄であるSに貸していたものと認められるから、上記各口座に係る預貯金は、推計の基礎から除外すべきである。
ハ 以上により、別表3のNo.35及び同No.36の各口座を除く、同表の各口座に係る預貯金のすべてを推計の基礎とするべきであるから、これと一致する限度において、原処分に誤りはないが、これに反する部分は、誤りである。

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5 争点1−2(平成18年1月1日現在において請求人の手元に10,330,000円の現金が存在し、これを資産として推計の基礎とするべきであるか否か)について

(1) 主張

請求人 原処分庁
 請求人は、平成19年に13回に分けて合計7,630,000円を、平成20年に5回に分けて合計2,700,000円を、それぞれ預金口座へ預け入れたが、当該預入れの原資は、平成18年1月1日以前から手元に保管していた現金である。
 したがって、平成18年1月1日現在及び同年12月31日現在で10,330,000円、平成19年12月31日現在で2,700,000円、平成20年12月31日現在で零円の現金有り高を推計の基礎として計上すべきである。
 請求人は、預金口座の残高が年々増加していることについて、手元の現金を入金したものである旨主張するが、原処分に係る調査及び異議申立てに係る調査において、現金出納帳をはじめ、上記主張の裏付けとなる証拠資料は、一切提示されなかった。
 したがって、請求人が主張する現金有り高の変動は認められず、これを推計の基礎としなかった原処分に誤りはない。

(2) 判断

 請求人は、平成18年1月1日現在において請求人の手元に10,330,000円の現金が存在し、これを、平成19年から平成20年にかけて、次表のとおり預金口座へ順次預け入れたから、その現金の有り高は、同年12月31日現在では同額、平成19年12月31日現在では2,700,000円、平成20年12月31日現在では零円であった旨主張する。

(単位:円)
月日 預入金額 月日 預入金額
平成19年 2月19日 1,000,000 平成20年 1月15日 500,000
2月20日 500,000 2月12日 400,000
3月14日 1,000,000 2月18日 500,000
3月14日 1,000,000 8月15日 1,000,000
3月17日 300,000 8月18日 300,000
6月28日 500,000 2,700,000
6月28日 500,000  
7月24日 330,000
7月30日 500,000
11月12日 500,000
11月14日 500,000
11月19日 500,000
11月19日 500,000
7,630,000

 しかしながら、原処分に係る調査、異議申立て及び審査請求のいずれの段階においても、上記の手元の現金が存在したことの裏付けとなる客観的資料は、請求人から何も提出されなかった。
 また、請求人は、当審判所に対し、平成19年から平成20年にかけて多額の現金を預金口座に入金した理由として、同郷人の間で行われていた無尽が平成19年ころから少なくなり、現金の出入りが頻繁でなくなった旨や、平成13年ころに自宅の金庫から純金や時計などを盗まれたことがあり、自宅に現金を置くことに危険を感じた旨を答述しているが、無尽の存在及び実態を示す客観的資料が提出されないことに加え、盗難被害に遭ってから6年も経過した時点で、初めて手元の現金を預金口座に入金したというのは、甚だ不自然で、合理性を欠く。結局、請求人の上記答述は、信用することができない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がなく、当審判所の調査の結果によっても、平成18年1月1日現在において請求人の手元に10,330,000円の現金が存在したとの事実は認められないから、本件各年における現金有り高に変動がないとした原処分に、誤りはない。

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6 争点1−3ないし争点1−5について

(1) 主張

請求人 原処分庁
イ 請求人は、平成15年1月に、娘の夫のHに対し、同人の母の葬儀費用として2,000,000円を貸し付けた。
 平成19年2月23日に、Hから同額が振り込まれているのは、上記貸付けに対する返済金である。
ロ 請求人は、平成11年2月に、友人のQに対し、5,000,000円を貸し付けた。
 平成18年中に360,000円、平成19年中に300,000円、平成20年中に375,000円がQから振り込まれているのは、上記貸付けに対する返済金である。
 なお、平成20年12年31日現在の貸付金残高は、65,000円であった。
ハ 平成18年7月21日に前夫の弟であるRから5,281,453円が送金されているのは、息子のGがラーメン屋を開業する資金として、Rから借り入れたものである。
ニ したがって、上記イ及びロの各貸付金の額を資産として、また、上記ハの借入金の額を負債として、それぞれ推計の基礎とするべきである。
 請求人は、預金口座の残高が年々増加していることについて、平成11年及び平成15年に貸し付けた貸付金(資産)が存在し、その貸付けに対する返済金が入金されたもの(左記イ及びロ)、及び平成18年中に借り入れた借入金(負債)が存在し、その借入金が入金されたもの(左記ハ)である旨主張する。
 しかしながら、原処分に係る調査及び異議申立てに係る調査において、上記各主張の裏付けとなる証拠資料は、一切提示されなかった。
 したがって、請求人が主張する貸付金及び借入金が存在するとの事実は認められず、これらの金額を資産及び負債の額として推計の基礎としなかった原処分に誤りはない。

(2) 判断

イ 争点1−3(平成18年1月1日及び同年12月31日現在において請求人のHに対する貸付金が存在し、これを資産として推計の基礎とするべきであるか否か)について
 原処分庁は、平成19年2月23日にV銀行j支店のF名義の普通預金口座(別表3のNo.31)へ、Hから振り込まれた2,000,000円を、請求人の純資産の額の増加要因であるとしている。
 しかしながら、Hは、当審判所に対し、平成15年1月に同人の母(同月○日死亡)の葬儀費用として、Eを通じ、請求人から現金で2,000,000円を借り入れたこと、実際には当該金員を葬儀後の法要の費用に使用したこと、平成16年ころにY社を退職し、この際に受け取った退職金の一部をもって、平成19年2月23日に上記借入金の返済をしたこと、その返済に際して請求人に振込先を確認したところ、F名義の上記口座に振り込むよう指示されたことを答述している。この答述は、相応の具体性があり、直ちに信ぴょう性のないものとはいえない。
 したがって、請求人の主張するとおり、平成19年2月23日にHが行った2,000,000円の振込みは、平成15年1月に発生した貸付けに対する返済金であり、別表5のとおり、平成18年1月1日及び同年12月31日現在において、同額の貸付金があったものと認められる。
ロ 争点1−4(平成18年1月1日及び本件各年の12月31日現在において請求人のQに対する貸付金が存在し、これを資産として推計の基礎とするべきであるか否か)について
 原処分庁は、本件各年において、V銀行j支店のZ名義の普通預金口座(別表3のNo.8)へ、Qから、次表のとおり振り込まれた金員を、請求人の純資産の額の増加要因であるとしている。

(単位:円)
月日 振込金額 月日 振込金額 月日 振込金額
平成18年 4月14日 40,000 平成19年 5月18日 40,000 平成20年 1月28日 40,000
5月15日 40,000 6月22日 40,000 2月28日 40,000
6月15日 40,000 8月7日 20,000 3月26日 30,000
7月18日 40,000 8月27日 50,000 5月7日 40,000
8月15日 40,000 9月20日 40,000 5月26日 30,000
9月15日 40,000 10月30日 4,000 7月1日 30,000
10月16日 40,000 10月30日 36,000 7月25日 30,000
11月22日 40,000 11月27日 40,000 8月25日 30,000
12月25日 40,000 12月26日 30,000 9月25日 30,000
360,000 300,000 10月29日 30,000
    12月15日 45,000
375,000

 しかしながら、Qは、当審判所に対し、平成12年ころ請求人から5,000,000円を借用したこと、返済時期や方法の取決めはしなかったが、本件各年においては、1回当たり30,000円から50,000円位ずつの返済を、振込みの方法で、順次行った旨を答述し、この答述は、上記振込み状況と整合しており、信用できる。
 したがって、請求人が主張するとおり、Qに対する平成20年12月31日現在の貸付金の残高は65,000円であり、平成18年1月1日以後の当該貸付金の額は、別表5のとおりであったと認められる。
ハ 争点1−5(平成18年7月21日にR(請求人の前夫であるCの弟)から送金された金員は借入金が入金されたものであり、当該金員と同額の借入金が存在し、これを負債として推計の基礎とするべきであるか否か)について
 原処分庁は、平成18年7月21日にV銀行j支店のF名義の普通預金口座(別表3のNo.31)へ、t国在住のRから送金された5,281,453円を、請求人の純資産の額の増加要因であるとしている。
 しかしながら、Rが、甥のGに対して、ラーメン屋を開く資金として1,500,000t国ドルを貸し、平成18年7月19日に送金した旨が記載された書面が、当審判所に提出されている上、当審判所の調査の結果によれば、他に海外からGあてに送金がなされる原因は見当たらないことからすると、上記5,281,453円の金員は、Rからの借入金であると認定できる。
 なお、当該金員は、入金後に引き出されていないから、別表6のとおり、本件各年の12月31日現在において、同額の借入金があったものと認められる。
ニ 以上より、上記イ及びロの各貸付金の額を資産として、また、上記ハの借入金の額を負債として、それぞれ推計の基礎とするべきであるから、これに反する原処分は、その限りにおいて誤りである。

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7 争点2−1(原処分庁が採用した生活費の額の算出根拠たる数値に、合理性があるか否か)について

(1) 主張

請求人 原処分庁
 原処分庁が「都民のくらしむき(東京都生計分析調査報告・年報)」の世帯員6人以上の世帯の平均額を根拠に、生活費の額を算出したことに、一応の合理性があることは否定しないが、平成20年の当該平均額と平成19年のその額とは、約1.4倍(差額は1,401,120円である。)もの格差があり、これは通常あり得ない不自然かつ異常な数値であるといわざるを得ない。
 したがって、標本数が多く、より合理性が高いと考えられる都平均(全世帯の平均額)を、生活費の額の算出根拠とすべきである。
 特別な事情がない限り、請求人と同じ世帯人員の生活費に係る数値を使用して、生活費の額を算出するのが合理的であり、各年の数値にばらつきがあるとの理由のみで、これを都平均の数値に変更することは、課税庁が恣意的な判断に基づく計算を行うことになり、その結果、推計は合理性を欠くものとなる。
 したがって、「都民のくらしむき(東京都生計分析調査報告・年報)」の世帯員6人以上の世帯の平均額を根拠に、生活費の額を算出した原処分に、誤りはない。

(2) 判断

イ 原処分庁が請求人の本件各年の生活費の額を算出するに当たって用いた「都民のくらしむき(東京都生計分析調査報告・年報)」は、東京都が、都民の暮らし向きの実態を明らかにするとともに、都行政における各種施策を立案、実施するための基礎資料を提供することを目的として行っている東京都生計分析調査の結果を毎年公表するために作成しているものであり、本件各年に係る標本数(792世帯)からみても、その数値の合理性及び客観性は、相当程度、担保されているといえる。
 したがって、原処分庁が別表7の「世帯人員6人以上」欄の各数値を用いて、請求人の本件各年の生活費の額を算出したことは、十分に合理性があると認められる。
ロ これに対し、請求人は、原処分庁が用いた上記各数値は、年ごとの格差が大きく、不自然かつ異常であるから、別表7の「都平均」欄の各数値を用いる方が合理的である旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、「都民のくらしむき(東京都生計分析調査報告・年報)」の標本調査の結果には、相当程度の合理性及び客観性があると認められるところ、推計の基礎となる数値は、できるだけ当該年分の他の納税者の状況に近似したものを用いるべきであるから、年ごとの数値に多少の変動があるとしても、それだけをもって直ちに、その数値の合理性及び客観性が損なわれることはないというべきである。
 そうすると、請求人が指摘する年ごとの数値の格差は、それだけをもって別表7の「世帯人員6人以上」欄の各数値の合理性及び客観性を損なうものではなく、また、これらの数値ではなく、あえて世帯人員の要素を反映していない全世帯の平均額である「都平均」欄の各数値を根拠に、生活費の額を算出することの方が合理的であると認めるべき理由もない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は、採用できない。

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8 争点2−2(生命保険料の支払額の一部は、G及びJが負担したものであるから、加算調整項目に含めるべきでないのか否か)及び争点2−3(本件FX損失は、G及びJが負担したものであるから、加算調整項目に含めるべきでないのか否か)について

(1) 主張

請求人 原処分庁
イ 別表10の生命保険料の支払額のうち、同表の「請求人の主張」欄に×印を付したものは、G及びJの負担で支払ったから、これらを加算調整項目に含めるべきではない。
ロ 本件FX損失は、G及びJが原資を負担して行った本件FX取引によって生じたものであるから、加算調整項目に含めるべきではない。
 生命保険料の支払額及び本件FX損失は、いずれも請求人の資産ないし所得を源泉とするものであるから、加算調整項目に含めるべきである。

(2) 判断

イ 上記4の(2)のイのとおり、生計を一にする者がある納税者について資産負債増減法を用いた推計を行う場合には、両者の資産、負債及び処分(消費)した所得を区分せずに推計の基礎とした上で、その生計を一にする者に固有の収入等を控除するなどの調整を施すことにより、その納税者の事業所得の金額を算出する方法をとるのが、合理的である。
 そうすると、仮に、別表10の生命保険料のうちに請求人と生計を一にする者がその支払額を負担したものがあり、また、本件FX損失が請求人と生計を一にする者の負担で行った取引から生じたものであるとしても、それらをすべて加算調整項目に含めて、推計の基礎とするべきである。
ロ なお、生命保険料の支払額の一部及び本件FX損失に関して、G及びJは、当審判所に対し、同人らが蓄え、手元に保管していた現金を原資として、保険料を支払い、また、本件FX取引をして損失を生じた旨を答述している。しかし、Gらは、上記手元に保管していた現金の中から、別表3の同人らの名義の各口座(同表3のNo.35及びNo.36の各口座を除く。)に係る預貯金の大部分の入金を行った旨も答述している。これらの答述を総合すれば、Gらは、少なく見積もっても、本件各年の合計で、10,000,000円を超える現金(平成18年中は約2,500,000円、平成19年及び平成20年中はそれぞれ約4,000,000円と算出される。)を手元から持ち出して、預金又は貯金をしたことになるはずであるが、当審判所の調査の結果によっても、10,000,000円を超える多額の現金が、当時、同人らの手元に存在したことをうかがわせる客観的資料は見当たらず、かつ、同人らの当時の収入等の状況が上記1の(4)のロの(ロ)、(ニ)及び(ホ)のとおりであったことにも照らすと、同人らの上記各答述は、いずれも信用できない。そうすると、結局、Gらが、上記保険料の支払額の一部及び本件FX取引の資金を負担した事実を認定できない。
ハ したがって、いずれにしても、生命保険料の支払額の一部及び本件FX損失を加算調整項目に含めて推計の基礎とした原処分に、誤りはない。

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9 本件各更正処分及び本件各賦課決定処分について

(1) 請求人の本件各年分の事業所得の金額

 以上により、資産負債増減法を用いて、請求人の本件各年分の事業所得の金額を推計すると、別表11のとおりとなる。
 なお、当審判所における調査の結果によれば、Gが行った本件FX取引に係る平成20年12月31日現在の預託証拠金残高946,708円が存在するので、これを資産に加え、また、介護保険料の額は別表9の「審判所認定額」欄のとおりであるので、加算調整項目のうち介護保険料の額をこれに改めるとともに、資産から除外すべき別表3のNo.35及びNo.36の各口座に係る預貯金の利子等の額を減算調整項目から除外した。

(2) 本件各更正処分について

 そうすると、請求人の本件各年分の納付すべき税額は、別表1の「審判所認定額」欄のとおりとなり、平成20年分については、同年分の更正処分の額を上回るから、同処分は適法であるが、平成18年分及び平成19年分については、これらの年分の各更正処分の額をいずれも下回るから、同各処分は、別紙1及び別紙2のとおり、いずれもその一部を取り消すべきである。

(3) 本件各賦課決定処分について

イ 平成18年分及び平成19年分について
 上記(2)の結果、過少申告加算税の各賦課決定処分の基礎となる税額は、平成18年分が○○○○円、平成19年分が○○○○円となるところ、これらの税額の計算の基礎となった事実について、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、平成18年分及び平成19年分の各過少申告加算税の額は、別表1の「審判所認定額」欄のとおりとなり、これらの年分の過少申告加算税の各賦課決定処分の額をいずれも下回るから、同各賦課決定処分は、別紙1及び別紙2のとおり、いずれもその一部を取り消すべきである。
ロ 平成20年分について
 上記(2)のとおり、平成20年分の更正処分は適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実について、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、平成20年分の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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