(平成23年11月15日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、家庭用電気器具小売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、納税の猶予の申請をしたところ、原処分庁が、請求人には納税を猶予することができる事実がないとして、納税の猶予不許可処分をしたため、請求人が、当該処分は違法であるとして、その取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 確定申告
 請求人は、平成20年1月1日から平成20年12月31日まで及び平成21年1月1日から平成21年12月31日までの各課税期間の消費税及び地方消費税について、原処分庁に対し、納付すべき税額をそれぞれ○○○○円及び○○○○円として、いずれも法定申告期限までに確定申告をした。
ロ 申請及び処分
 請求人は、上記イの各課税期間の納付すべき税額のうち、それぞれ○○○○円及び○○○○円の合計額○○○○円について、原処分庁に対し、平成22年3月29日に納税の猶予を申請した(以下、当該猶予申請に係る申請書を「本件猶予申請書」という。)ところ、原処分庁は、同年6月29日付で納税の猶予不許可処分をした。
ハ 不服申立て
 請求人は、上記ロの納税の猶予不許可処分を不服として、平成22年8月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年11月24日付で棄却する旨の異議決定をしたので、同年12月20日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第46条《納税の猶予の要件等》
 第2項では、税務署長等は、次の各号の一に該当する事実(以下「猶予該当事実」という。)がある場合において、猶予該当事実に基づき、納税者がその国税を一時に納付することができないと認められるときは、その納付することができないと認められる金額を限度として、納税者の申請に基づき、1年以内の期間を限り、その納税を猶予することができる旨規定した上で、猶予該当事実として、第4号では、納税者がその事業につき著しい損失を受けたこと(以下、第4号で規定する事実を「4号該当事実」という。)を、第5号では、前各号の一に該当する事実に類する事実があったこと(以下、第5号で規定する第4号に該当する事実に類する事実を「5号該当(4号類似)事実」という。)を、それぞれ規定している。
ロ 「納税の猶予等の取扱要領の制定について」(昭和51年6月3日付徴徴3−2及び徴管2−32の国税庁長官通達をいい、以下、この通達を「猶予取扱要領」という。)
 猶予取扱要領は、以下に掲げる事項について、要旨次の(イ)ないし(ニ)のとおり定めている。
(イ) 猶予期間の始期(第2章第1節3の(1))
 納税の猶予をする期間の始期は、納税の猶予の申請書に記載された日とする。
(ロ) 「納税者がその事業につき著しい損失を受けたこと」に該当する事実及びその判定方法(第2章第1節1の(3)のニの(イ)及び(ロ))
 4号該当事実とは、調査日(納税の猶予の始期の前日をいい、以下、単に「調査日」という。)前1年間(以下「調査期間」という。)の損益計算において、調査期間の直前の1年間(以下「基準期間」という。)の利益金額の2分の1を超えて損失が生じていると認められる場合(基準期間において損失が生じている場合には、調査期間の損失金額が基準期間の損失金額を超えているとき。)をいうものとし、4号該当事実の判定に当たっては、調査期間及び基準期間のそれぞれについて仮決算を行うこととなるが、調査日又は基準期間の末日に近接した時期において特定の損益計算期間が終了している場合には、その期間の損益計算の結果を基に、上記の利益金額又は損失金額を推計して差し支えない。
 なお、調査期間以内において、例えば、購入予定の資材の高騰、在庫商品の価額の下落、取引先の都合による売買契約の解除等の損失発生の原因となるような事実(季節変動等による恒常的なものを除く。以下「損失原因」という。)があり、損失原因の発生した日(損失原因が継続的に発生していたような場合には、最初にその事実が生じたと認められる日)の特定ができる場合には、その日以降調査日までの間に生じたと認められる損失金額と基準期間の利益金額(損失が生じている場合には、損失金額)のうち損失原因の生じた日以降調査日までの期間に対応する期間の利益金額(又は損失金額)とを比較して判定しても差し支えない。
(ハ) 「納税者に事業上の著しい損失に類する事実があったこと」に該当する事実(第2章第1節1の(3)のヘの(ハ))
 5号該当(4号類似)事実とは、下請企業である納税者が、親会社からの発注の減少等の影響を受けたこと、その他納税者が市場の悪化等その責めに帰すことができないやむを得ない事由により、従前に比べ事業の操業度の低下又は売上げの減少等の影響を受けたことをいう。
(ニ) 猶予該当事実と納付困難との関係(第2章第1節1の(4))
 「猶予該当事実に基づき納付することができない」とは、納税者に猶予該当事実があったことにより、資金の支出又は損失があり、その資金の支出又は損失のあることが国税を一時に納付することができないことの原因となっていることをいい、「国税を一時に納付することができない」(以下「納付困難」という。)とは、納税者に納付すべき国税の全額を一時に納付する資金がないこと、又は資金があっても、それによって一時に納付した場合には、納税者の生活の維持若しくは事業の継続に著しい支障が生ずると認められることをいう。

(4) 基礎事実

 本件猶予申請書の記載内容は、次のとおりである。
イ 「納税の猶予を受けようとする理由」欄
 通則法第46条第2項第4号及び第5号に該当、本年度申告は売り減少により赤字申告でした。
ロ 「納税の猶予を受けようとする期間」欄
 平成22年4月1日から平成23年3月31日まで12月間

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2 争点

(1) 争点1 請求人には、4号該当事実又は5号該当(4号類似)事実があるか否か。

(2) 争点2 請求人は、納付困難と認められるか否か。

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3 主張

(1) 争点1 請求人には、4号該当事実又は5号該当(4号類似)事実があるか否か。

請求人 原処分庁
 請求人には、次のとおり、4号該当事実又は5号該当(4号類似)事実がある。  請求人には、次のとおり、4号該当事実又は5号該当(4号類似)事実があるとは認められない。
イ 4号該当事実
 請求人の所得金額(青色申告特別控除前の金額)は、○○○○円(平成20年分)から△○○○○円(平成21年分)に減少している。前年利益の2分の1を超えない赤字であっても、生活費すら捻出できない利益金額に落ち込んでいることを考えれば、請求人の状況は、納税の猶予の要件に該当する。
 つまり、4号該当事実の損失を赤字と解釈するならば、猶予取扱要領の趣旨からみて、請求人の所得金額から生活費等を控除して利益金額を算定すべきであり、まる1上記の請求人の各年分の所得金額及び青色事業専従者給与の金額(平成20年分は1,020,000円、平成21年分は960,000円)の各合計額から、請求人世帯の生活保護の基準生計費の1.2倍(1,444,752円)及び借入金返済額(1,968,000円)を差し引いた平成20年分及び平成21年分の利益金額は、それぞれ△○○○○円、△○○○○円となること、まる2上記の請求人の各年分の所得金額及び青色事業専従者給与の金額の各合計額から、総務省統計局による平成20年及び平成21年の実支出額(全国の1世帯当たりの消費支出と非消費支出の合計額、平成20年分は4,504,452円、平成21年分は4,372,500円)を差し引いた平成20年分及び平成21年分の利益金額は、それぞれ△○○○○円、△○○○○円となること、まる1及びまる2のいずれの算定方法によっても、基準期間及び調査期間の利益金額がともに赤字となり、猶予取扱要領の4号該当事実の「基準期間において損失が生じている場合には、調査期間の損失金額が基準期間の損失金額を超えているとき」に該当する。
イ 4号該当事実
 猶予取扱要領では、4号該当事実の「事業につき著しい損失を受けた」とは、調査期間の損益計算において、基準期間の利益金額の2分の1を超えて損失、すなわち赤字の状態が生じていると認められるか否かにより4号該当事実の有無を判定することとなるところ、請求人が平成22年5月17日に原処分庁所属の徴収担当職員に提出した売上げ・経費・所得に関する書類(以下「本件計算書」という。)によると平成21年分の損失金額は○○○○円であり、平成20年分の利益金額○○○○円の2分の1を超えておらず、「著しい損失を受けた」事実があると認められない。
ロ 5号該当(4号類似)事実
 まる1上記イのとおり、請求人の各年分の所得金額及び青色事業専従者給与の金額の合計額から生活費等を差し引いた利益(損失)はいずれも赤字であること、まる2猶予取扱要領では、5号該当(4号類似)事実としての売上げの減少等については、比較対象を4号該当事実の調査期間のように、直前の1年間に限定せず、「従前に比べ」としていることから、基準期間との比較に限定すべきでなく、請求人の平成21年分の売上金額○○○○円は、平成13年分の売上金額○○○○円と比べて45.12%減となっており、納税者の責めに帰すような事由によるものでないことから、請求人には5号該当(4号類似)事実がある。
ロ 5号該当(4号類似)事実
 猶予取扱要領では、納税者がその責めに帰すことができないやむを得ない事由により売上げの減少等があった場合にも、「著しい損失を受けた」場合に類するとして5号該当(4号類似)事実に該当することが定められている。そして、売上げの減少による「著しい損失」に類する事実の有無の判断は、調査期間と基準期間の売上金額を比較する方法により行うのが相当であり、これと異なる期間設定をする方法では、納税者自身が恣意的に任意の基準期間を設定できることとなり、一定の要件を満たす納税者のみを保護する恩恵的な措置であるはずの納税の猶予制度を形骸化させ、納税者間の公平を害するもので適切でない。さらに、売上げの減少等とは、「事業の休廃止又は事業上の著しい損失」に類する事実として掲げられたものであることから、単に売上げが減少したというだけでは足りず、事業についての著しい損失と同視できるような、著しい売上げの減少等があったことをいうものである。
 本件計算書によれば、平成21年分の売上金額は○○○○円、平成20年分の売上金額は○○○○円となる。
 そうすると、「著しい損失を受けた」とは、調査期間において基準期間の利益金額の2分の1を超えて損失が生じていると認められる場合とされていることに照らせば、上記各期間の売上金額を比較しても、その減少の程度が著しいとはいえないことから、「著しい損失を受けた」に類する事実があると認められない。

(2) 争点2 請求人は、納付困難と認められるか否か。

請求人 原処分庁
 請求人は、次のとおり納付困難と認められる。
 請求人は、調査日である平成22年3月31日における預金残高は10,381円、手持ち現金は253,000円しかなく、翌月10日までに仕入先に824,597円の支払などを行わなくてはならず、大変逼迫した状態にあった。また、請求人の平成21年分の所得金額は、△○○○○円であり、青色事業専従者給与960,000円と減価償却費354,398円を加えても月に割れば約○○○○円にしかならず、毎月、F公庫・G信用金庫・H銀行に元金だけで合計164,000円の返済をしなければならず、生活費と借入返済がやっとの営業状況であり、納付困難の実情がある。
 請求人には、猶予該当事実が認められない以上、通則法第46条第2項に規定するその他の要件を判断するまでもない。

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4 判断

(1) 争点1 請求人には、4号該当事実又は5号該当(4号類似)事実があるか否か。

イ 法令等解釈
(イ) 4号該当事実
 通則法第46条第2項に基づく納税の猶予は、期限内納付及び国税が期限内に完納されなかった場合の強制徴収の例外として、一定の事由により納付困難になった納税者を救済するものであるが、租税徴収手続における他の納税者との公平という観点をも考慮すると、4号該当事実とは、納税の猶予を申請した納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由によって生じた国税の納付を困難ならしめる事業についての著しい損失をいうものと解される。
(ロ) 5号該当(4号類似)事実
 通則法第46条第2項第5号は、同項第1号から第4号までに掲げる事実に類する事実に基づき、納税者がその国税を一時に納付することができないと認められるときは、その納付することができないと認められる金額を限度として、その納税を猶予することができる旨規定しているところ、これは、同項第1号から第4号までに掲げる事実とはいえない場合であっても、当該事実に類する事実が生じた場合には、国税の納付が困難となる場合もあることから、納税の猶予をすることができる旨規定したものと解される。
 そして、上記(イ)のとおり、4号該当事実とは、納税の猶予を申請した納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由によって生じた国税の納付を困難ならしめる事業についての著しい損失をいうものと解されることからすれば、5号該当(4号類似)事実とは、事業についての著しい損失と同視できるような著しい売上げの減少等であって、納税の猶予を申請した納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由によって生じた国税の納付を困難ならしめるものをいうものと解される。
(ハ) 猶予取扱要領における4号該当事実の判定方法の相当性
 上記(イ)のとおり、4号該当事実とは、納税の猶予を申請した納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由によって生じた国税の納付を困難ならしめる事業についての著しい損失をいうものと解されるところ、事業についての損失の有無は、一定の期間における損益計算を行うことによって判定することが相当であり、損益計算の期間が通常1年間であることからすれば、原則として、それぞれその期間を1年とする調査期間と基準期間における損益を比較して、基準期間の利益金額の2分の1を超えて損失、すなわち赤字が生じていると認められる場合(基準期間において損失が生じている場合には、調査期間の損失金額が基準期間の損失金額を超えているとき)に該当するかどうかにより4号該当事実の有無を判定することとし、例外的に、調査期間以内において、損失原因があり、損失原因の発生した日が特定できる場合は、その日以降調査日までの間に生じたと認められる損失金額と基準期間の利益金額(又は損失金額)のうち損失原因の生じた日以降調査日までの期間に対応する期間の利益金額(又は損失金額)とを比較して4号該当事実の有無を判定しても差し支えないとする前記1の(3)のロの(ロ)の4号該当事実に関する猶予取扱要領の定めは、当審判所においても相当と認められる。
(ニ) 猶予取扱要領における5号該当(4号類似)事実の定めの相当性
 前記1の(3)のロの(ハ)の5号該当(4号類似)事実に関する猶予取扱要領で定める事実は、納税の猶予を申請した納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由によって、国税の納付が困難となる場合が多いと考えられることからすれば、当該定めは合理的な定めというべきであり、当審判所においても相当と認められる。
 そして、上記(ロ)からすれば、猶予取扱要領で定める5号該当(4号類似)事実としての売上げの減少等とは、著しい売上げの減少のみならず、原材料費をはじめとする著しい経費の増加など、事業上の損失が生じる原因となる事実をいうものと解される。
(ホ) 5号該当(4号類似)事実の判定方法等
 5号該当(4号類似)事実が上記(ロ)のとおり解され、猶予取扱要領における4号該当事実の判定方法の定めが相当であることからすれば、5号該当(4号類似)事実の有無を判定するに当たっても、4号該当事実と同様に、それぞれその期間を1年とする調査期間と基準期間における売上げ等を比較して、判定することが相当である。
 なお、上記(イ)及び(ハ)によれば、4号該当事実が、納税の猶予を申請した納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由によって生じた国税の納付を困難ならしめる事業についての著しい損失をいうものと解されることからすれば、売上げの減少等により納税者がその国税を一時に納付することができないと認められる5号該当(4号類似)事実があるというためには、事業上の著しい損失、すなわち、著しい赤字の状態が生じたとまではいえないが、それに近い赤字の状態が生じていることが必要であると解される。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 平成20年分ないし平成22年分の所得税青色申告決算書(一般用)の記載内容
 請求人が原処分庁に提出した平成20年分ないし平成22年分の所得税青色申告決算書(一般用)(以下、平成20年分及び平成21年分の所得税青色申告決算書(一般用)を、それぞれ「平成20年分青色決算書」、「平成21年分青色決算書」といい、平成22年分の所得税青色申告決算書(一般用)と併せて「本件各青色決算書」という。)には、1月ないし12月の月別の売上金額及び仕入金額がそれぞれ記載されており、経費は、各科目の年間の金額がそれぞれ記載されている。
 なお、平成20年分青色決算書及び平成21年分青色決算書に記載された青色事業専従者給与の金額は、平成20年分が1,020,000円、平成21年分が960,000円とそれぞれ記載されている。
(ロ) 本件計算書の記載内容
 本件計算書には、平成12年分ないし平成21年分の各年分の売上げ、仕入れ、期首在庫、期末在庫、科目別の経費及び所得について、それぞれ年間の金額が記載されているが、月別の金額はいずれも記載されていない。
 なお、本件計算書に記載された平成20年分及び平成21年分の上記各金額は、平成20年分青色決算書及び平成21年分青色決算書に記載された年間の各金額と一致する。
ハ 本件への当てはめ
(イ) 4号該当事実の有無
 前記1の(4)のロのとおり、本件猶予申請書に記載された納税の猶予を受けようとする期間の始期は、平成22年4月1日であることから、同(3)のロの(ロ)により、調査日は同年3月31日(以下「本件調査日」という。)となり、これに基づき調査期間及び基準期間のそれぞれについて仮決算を行うことになるが、本件調査日に近接した時期において、特定の損益計算期間が終了している場合又は終了させることができる場合には、その期間の損益計算の結果に基づき、著しい損失が発生したか否かを判断するのが相当である。
 ところで、請求人が納税の猶予に際して原処分庁に対して提出した損益計算に係る資料は本件計算書しかなく、本件計算書には、上記ロの(ロ)のとおり、売上げ、仕入れ、期首在庫、期末在庫、科目別の経費及び所得について、それぞれ年間の金額が記載されているが、月別の金額はいずれも記載されていないから、本件計算書によって、本件調査日を基準とした調査期間及び基準期間の各損益計算をすることができず、また、上記ロの(イ)のとおり、平成20年分青色決算書及び平成21年分青色決算書によっても、平成20年分及び平成21年分の月別の売上金額及び仕入金額は把握できるものの、経費の月別の金額は把握できず、本件調査日を基準とした調査期間及び基準期間の各損益計算をすることができない。
 そこで、本件調査日に近接した平成21年分とその直前の平成20年分の各損益計算の結果である平成20年分青色決算書及び平成21年分青色決算書又は本件計算書に記載された各損益計算の結果をもって、4号該当事実の有無を判定することが相当である。
 ただし、4号該当事実の有無の判定に当たっては、青色事業専従者給与が、生計を一にする配偶者その他の親族のうち事業に専ら従事するものに支払われた場合に必要経費に算入される金額であるから、当該金額を必要経費に含めずに算定した利益金額により4号該当事実の有無を判定すべきである。
 以上に基づき、平成20年分青色決算書、平成21年分青色決算書及び本件計算書により青色事業専従者給与の金額を控除せず各年分の利益金額を算定すると、平成21年分の利益金額は○○○○円、平成20年分の利益金額は○○○○円となり、平成21年分の損益計算の結果、赤字の状態が生じたとは認められないので、著しい損失を受けたとは認められず、4号該当事実があると認めることはできない。
(ロ) 5号該当(4号類似)事実の有無
A 著しい売上げの減少の有無
 請求人が納税の猶予に際して原処分庁に対して提出した売上金額に係る資料は本件計算書しかなく、本件計算書には、上記ロの(ロ)のとおり、平成20年分及び平成21年分の月別の売上金額はいずれも記載されていないから、本件計算書によって、本件調査日を基準とした調査期間と基準期間の各売上金額を比較することはできないが、同(イ)のとおり、本件各青色決算書によれば、本件調査日において1年間の売上げの計算期間を終了させることができるので、これにより売上げの減少の判断をするのが相当である。
 そこで、本件各青色決算書により平成21年4月1日から平成22年3月31日までの1年間(以下「本件調査期間」という。)とその直前の平成20年4月1日から平成21年3月31日までの1年間(以下「本件基準期間」という。)の各売上金額を算定すると、本件調査期間の売上金額は20,077,136円、本件基準期間の売上金額は20,109,119円となる。
 そうすると、本件調査期間の売上金額は本件基準期間の売上金額より減少しているが、その減少の程度が著しいとは言い難いことから、これをもって、著しく売上げが減少した事実があると認めることはできない。
B 著しい利益の減少の有無
 利益の減少の有無については、上記イの(ホ)のとおり、調査期間の損益計算の結果が損失、いわゆる赤字の状態であることが前提であるところ、上記ロの(ロ)のとおり、本件計算書には、平成20年分及び平成21年分の売上げ、仕入れ、期首在庫、期末在庫、科目別の経費及び所得について、それぞれ年間の金額が記載されているが、月別の金額はいずれも記載されておらず、本件各青色決算書から、売上金額及び仕入金額は月別に把握できるものの、経費の月別の金額は把握できないため、本件調査期間と本件基準期間の損益計算をすることはできない。
 そこで、上記(イ)と同様に、経費の合計額には青色事業専従者給与の金額を含めず、平成20年分青色決算書及び平成21年分青色決算書又は本件計算書に記載された本件調査日に近接した平成21年分とその直前の平成20年分の損益計算の結果をもって、5号該当(4号類似)事実の有無を判定すると、平成21年分の利益金額は○○○○円、平成20年分の利益金額は○○○○円となることから、平成21年分の損益計算の結果、赤字の状態が生じたとは認められないので、これをもって、著しく利益が減少した事実があると認めることはできない。
C まとめ
 上記A及びBによれば、請求人には、5号該当(4号類似)事実があるとは認められない。
(ハ) 請求人の主張の採否
 請求人は、前記3の(1)の「請求人」欄のイのとおり、請求人の各年分の所得金額及び青色事業専従者給与の金額の合計額から生活費等を差し引いた平成20年分及び平成21年分の利益金額は、いずれも赤字となり、「基準期間において損失が生じている場合には、調査期間の損失金額が基準期間の損失金額を超えているとき」に該当することから4号該当事実がある旨主張するが、請求人の所得金額及び青色事業専従者給与の金額の合計額から生活費等を差し引くという法令上の根拠がなく、独自の見解というべきであって採用できない。
 また、請求人は、前記3の(1)の「請求人」欄のロのとおり、猶予取扱要領は5号該当(4号類似)事実の有無を判定する比較期間を「従前に比べ」と定めているから、調査期間の直前の1年間に限定すべきではなく、平成21年分の売上金額は、平成13年分の売上金額と比べて減少した旨主張する。
 しかしながら、猶予取扱要領は、4号該当事実の有無について、前記1の(3)のロの(ロ)のとおり、原則として、調査日前1年間である調査期間の損益とその直前の1年間である基準期間における損益を比較して判定する旨定め、例外的に、調査期間以内において、例えば、購入予定の資材の高騰、在庫商品の価額の下落、取引先の都合による売買契約の解除等の損失原因があり、損失原因の発生した日の特定ができる場合には、その日以降調査日までの間に生じたと認められる損失金額と基準期間の利益金額のうち損失原因の生じた日以降調査日までの期間に対応する期間の利益金額又は損失金額とを比較して判定しても差し支えない旨定め、これを受けて、同(ハ)のとおり、5号該当(4号類似)事実について、「従前」と比べて判定する旨定めているのであるから、ここでいう「従前」とは、4号該当事実の原則的な判定方法と例外的な判定方法の基礎となる期間を示していると解するのが相当である。仮に、任意の期間を基準期間としたときは、容易に5号該当(4号類似)事実があることとなるが、4号該当事実が、納税の猶予を申請した納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由によって生じた国税の納付を困難ならしめる事業についての著しい損失をいうと解されることからすれば、任意の期間を基準期間として4号該当事実の有無を判定することを法が予定しているということはできない。そして、上記イのとおり、4号該当事実に該当する損失とは、単なる利益の減少ではなく、赤字が生じていると認められる場合のことをいい、5号該当(4号類似)事実とは、著しい損失に類似する事実をいうのであるから、5号該当(4号類似)事実としての売上げの減少等とは、著しい損失と同視できるような売上げの減少等をいい、売上げの減少等があれば全てが5号該当(4号類似)事実に当たるということはできない。また、平成21年分の売上金額の減少については、上記(ロ)のAのとおり、本件調査期間の売上金額は本件基準期間の売上金額より減少しているが、その減少の程度が著しいとは言い難い。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。

(2) 争点2 請求人は、納付困難と認められるか否か。

 通則法第46条第2項に規定する納税の猶予は、まる1納税者に猶予該当事実があること、まる2猶予該当事実に基づき、納税者が納付困難と認められること、まる3納税者から国税通則法施行令第15条《納税の猶予の申請手続等》第2項に規定する納税の猶予の申請書が提出されていること、まる4通則法第46条第1項の規定による納税の猶予の適用を受ける場合でないこと、まる5原則として、同条第5項に規定する担保の提供があることの全ての要件を充足する場合に限り、税務署長等がその申請を許可できるものである。
 したがって、上記(1)のハの(イ)及び(ロ)のCのとおり、請求人には、4号該当事実又は5号該当(4号類似)事実があるとは認められず、上記まる1の要件を充足しないことから、納税の猶予が認められる余地はなく、争点2については判断するまでもない。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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