(平成23年12月1日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁であるP2国税局長が、貸金業等を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税並びに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について調査を行い、当該調査結果に基づいて、P3税務署長が平成15年分ないし平成21年分の所得税の各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分並びに平成17年1月1日から平成17年12月31日までないし平成21年1月1日から平成21年12月31日までの各課税期間の消費税等の各決定処分等並びに無申告加算税及び重加算税等の各賦課決定処分(以下、これらの処分を併せて「当初処分」という。)を行ったことに対し、また、原処分庁であるP3税務署長が当初処分と同じ年分の所得税及び課税期間の消費税等について各再更正処分及び過少申告加算税等の各賦課決定処分(以下、これらの処分を併せて「再処分」という。)を行ったことに対し、請求人が、違法を理由に再処分及び当初処分の全部の取消しを求めた事案であり、争点は次のとおりである。

  1. 争点1 当初処分に係る調査手続の違法性の有無
  2. 争点2(所得税関係)
    1. 争点2−1 貸金業に係る収入金額
    2. 争点2−2 貸金業に係る貸倒金の有無及び金額
    3. 争点2−3 不動産の譲渡収入に係る所得区分及び収入金額
    4. 争点2−4 不動産の貸付けに係る収入金額
    5. 争点2−5 その他各所得区分に応じた必要経費額等
  3. 争点3(消費税等関係)
    1. 争点3−1 駐車場の貸付けが、課税資産の譲渡等に該当するか否か
    2. 争点3−2 課税資産の譲渡等に係る課税標準額
  4. 争点4 所得税に係る偽りその他不正の行為の有無並びに所得税及び消費税等に係る事実の隠ぺい又は仮装の有無

(2) 審査請求に至る経緯

 平成15年分、平成16年分、平成17年分、平成18年分、平成19年分、平成20年分及び平成21年分(以下、これらを併せて「本件各年分」といい、本件各年分のうちの平成19年分、平成20年分及び平成21年分を特に「本件後続各年分」という。)の所得税並びに平成17年1月1日から平成17年12月31日まで、平成18年1月1日から平成18年12月31日まで、平成19年1月1日から平成19年12月31日まで、平成20年1月1日から平成20年12月31日まで及び平成21年1月1日から平成21年12月31日までの課税期間(以下、順次「平成17年課税期間」、「平成18年課税期間」、「平成19年課税期間」、「平成20年課税期間」及び「平成21年課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等に係る当初処分及び再処分についての審査請求(平成22年12月13日及び平成23年4月28日請求)に至る経緯は、別表1及び2のとおりである。
 なお、再処分に係る平成23年4月28日付の審査請求は、P3税務署長が平成23年4月19日に請求人から異議申立てをされたことを受けて、国税通則法第90条《他の審査請求に伴うみなす審査請求》第1項の規定に基づき国税不服審判所長にその異議申立書等を送付したことによって、同条第3項の規定により、その異議申立書等が国税不服審判所長に送付された日に審査請求がされたものとみなされたものであることから、当初処分に係る平成22年12月13日請求の審査請求と併合審理する。

(3) 関係法令等

 別紙6記載のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成15年以前から「P4」という屋号で貸金業を営むとともに、不動産の売買及び貸付けを行っている。
ロ 請求人は、本件各年分の所得税の確定申告書及び収支内訳書(一般用及び不動産所得用)をいずれも法定申告期限までにP3税務署長に提出した。なお、本件後続各年分の確定申告書及び収支内訳書の各記載内容は別表3−1ないし3−3の各「請求人主張額」欄のとおりである。
ハ 請求人は、平成21年課税期間の消費税等の確定申告書を法定申告期限までにP3税務署長に提出したが、平成17年課税期間ないし平成20年課税期間の消費税等の各確定申告書については、提出しなかった。
ニ P2国税局所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、平成21年11月12日に、請求人の事務所等に対する臨場調査等を行い、P3税務署長は、平成22年7月1日、当初処分を行った。

(5) 略語等

 本文中で使用する略語については、本文中で定義する他、別紙7のとおりである。

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2 主張

(1) 争点1(当初処分に係る調査手続の違法性の有無)について

請求人 原処分庁
 調査担当職員は、請求人の貸倒れを否認するために、P5社の代表取締役であるP6に対して取引先調査を行い、虚偽の内容の回答を書かせるという不正な調査を行ったものであり、その調査に基づく課税処分は取り消されるべきである。  調査担当職員は、P5社の代表取締役であるP6に対して事実関係を確認しながら質問調査を行っており、平成22年2月24日付のP2国税局長からの取引照会に対する回答書(以下「本件回答書」という。)の記載に当たり虚偽の内容を書かせたことはない。

(2) 争点2−1(貸金業に係る収入金額)について

原処分庁 請求人
 貸金業に係る収入金額については、次のとおり認定されるべきである。  原処分庁は、貸金業に係る収入金額について推計の必要性を主張するが、次のとおり、理由がない。
1 推計課税の必要性
(1) 請求人は、調査担当職員が再三にわたり調査に応じ、帳簿書類等を提示するよう要請したにも関わらず、一切これに応じず、請求人の事業所得等を実額により算定することができなかったため、やむを得ず、一部を推計により算定した。
(2) 請求人は、平成15年から平成21年の期間に発生した利息及び遅延損害金の収入は、貸金計算書の「各利息・損害金額」のとおりと主張するが、その資料が何に基づいて作成されたものか不明である。
(3) なお、請求人は、事業所得の一部の収入金額について実額算定により反論しているが、実額計算の方法により所得金額を主張するのであれば、全ての所得計算の基となる収入金額及び必要経費の額についても、実額により明らかにすべきである。
1 請求人は、調査担当職員が請求人の事務所を訪ねてきた時、事務所にある資料を見せた。その他の資料は別の場所に保管していたので、準備して後日提出することにした。しかし、請求人が提出した資料に基づく取引先調査において、調査担当職員が、相手方をだまして虚偽の内容の照会文書を作成するなど、不正な調査がうかがえ、また、調査担当職員に説明を求めたところ誠意のない返答だったので、それ以後は資料の提出を躊躇したものである。
2 貸付金利息収入等の金額の算定
(1) 貸金業に係る利息及び遅延損害金の収入金額について、請求人の取引先等を調査し、把握した契約内容及び返済状況等を基に算定すれば、原処分庁主張額のとおりとなる。
(2) また、請求人の取引のうち、契約内容等により把握できなかった事項については、以下のとおり、推計により算定すべきである。
イ 貸付元本額の推計
 貸付元本額が不明な取引については、調査で把握した本件各年分の取引のうち、貸付元本額及び担保不動産の根抵当権設定額が判明している取引の貸付元本額を根抵当権設定額で割り戻した率の平均値を算定し、これを貸付元本額が不明な取引の根抵当権設定額に乗じて、貸付元本額を推計すべきである。
ロ 約定利率の推計
 貸付利率及び遅延損害金の約定の率が不明な取引については、調査で把握した本件各年分の取引のうち、約定の率が判明している取引の貸付利率及び遅延損害金の約定の率のそれぞれの平均値を算定して適用する方法により、推計すべきである。
ハ 貸付期間の推計
 貸付日及び完済日が不明な取引については、根抵当権の設定日を貸付日、抹消日を完済日とし、貸付金利息収入金額を推計すべきである。
2 原処分庁が主張する貸付金利息収入等の金額については、請求人が提出した貸金計算書記載のとおりであって、これが実額である。
 なお、原処分庁が債務者としたP7ことP8に係る貸金債権は、本件各年分以前に消滅しており、利息及び遅延損害金は発生しない。

(3) 争点2−2(貸金業に係る貸倒金の有無及び金額)について

原処分庁 請求人
1 P9に係る貸倒金
 請求人の平成15年分、平成17年分、平成18年分、平成19年分及び平成20年分の貸倒金については、全てP9に対する遅延損害金の債権放棄によるものとされており、請求人は、P9に対する昭和47年5月1日の貸付けの合計額750,000,000円の一部について、P9との間で準消費貸借契約を締結したものであると主張するが、次の事実関係が認められる。
まる1 平成8年にP9が不動産を購入し、当該不動産を担保として根抵当権等を設定しているが、不動産の購入自体が虚偽(虚偽の売買契約書を作成している)であり、請求人が購入したものである。
まる2 P9には、不動産を購入する動機はなく、したがって借入れを行う理由もない。
まる3 P9に対する貸付けは、請求人が通常行う貸付けと異なり、無担保で大口の貸付けを行っており、不自然である。
まる4 P9の答述では、上記まる1及びまる2を一旦は肯定しており、加えて請求人から督促を受けたこともなく返済をしたこともないと申し立てている。
まる5 P9は、最終的には自分では分からないので、請求人に聞いて欲しい旨を申述したが、多額の借入れを行い、毎年多額の債権放棄を受けていることが分からないのは、社会通念上、到底考えられない。
まる6 P9の申述や各債務者からの聴き取りからも、P9と請求人の間には過去から業務上で深い繋がりが認められ、P9は立場が弱く請求人の言いなりであることがうかがえる。
まる7 請求人は、一部の新規貸付けの契約の際に大口不良債務者であるP9を債務者との間に無理やり介在させ、仲介手数料を債務者からP9に支払わせるなど、債権者として極めて不自然な行動を取っている。
まる8 P9に対して大口の貸付けを行うも一切返済がなく、さらに、その貸付けに係る利息及び遅延損害金も債権放棄をしており、通常、事業者としては、到底あり得ない商行為である。
 以上のことから、P9との間に金銭消費貸借の事実はなく、通謀虚偽により架空の金銭消費貸借契約書を作成した上で、当該架空の貸付金に係る遅延損害金を放棄したような書類を作成し、当該放棄した遅延損害金を貸倒損失として、必要経費に架空計上していることから、P9に係る貸倒損失については、全額否認する。
1 P9に係る貸倒金
(1) 請求人は、P9に対して、昭和47年5月1日までに十数回の金員の貸付けをしていたが、同日、それまでの貸付金の合計額750,000,000円について、準消費貸借契約を締結した。
 請求人とP9は、平成7年から平成8年にかけて、上記の750,000,000円の一部を7通の借用証書(以下「本件各借用証書」という。)に書き直した。そして、その一部は、形式上、P9が売買によって取得したこととなったc物件及びd物件に係る売買代金額と同額であるが、これは、実際の買主は請求人であるものの、請求人を名義人とすると過払金返還請求で不動産を差し押さえられる可能性があったため、P9の所有名義としたものであった。
(2) 請求人とP9は、平成9年3月10日付で「貸金残額及び債権放棄確認証」(以下「平成9年債権放棄確認証」という。)及び「貸金等に関する確認書」(以下「平成9年確認書」という。)を作成した。平成9年債権放棄確認証によって、請求人が、昭和47年5月1日に準消費貸借契約をした750,000,000円に係る遅延損害金の総額686,086,065円と当該元本750,000,000円の一部113,913,935円の合計800,000,000円の債権を放棄したことを確認した。また、平成9年確認書によって、債権放棄後の元本636,086,065円を、次のイとロの2つの債権に分け、ロについて、請求人は、以後の利息及び遅延損害金を免除し、元金のみの返済を求めることとした。
イ 214,212,700円(上記(1)の本件各借用証書に係る元金合計)
ロ 421,873,365円
(3) 請求人は、P9に対し、次のとおり、債権放棄をした。
まる1 平成15年2月17日、上記イに対する平成9年1月1日から平成11年12月31日までの遅延損害金及び上記ロの元金の一部の72,873,365円。
まる2 平成16年2月26日、上記イに対する平成12年1月1日から平成13年12月31日までの遅延損害金及び上記ロの元金の一部の90,000,000円。
まる3 平成17年3月1日、上記イに対する平成14年1月1日から平成15年6月30日までの遅延損害金。
まる4 平成18年3月9日、上記イに対する平成15年7月1日から平成16年12月31日までの遅延損害金。
まる5 平成19年3月1日、上記イに対する平成17年1月1日から平成18年6月30日までの遅延損害金及び上記ロの元金の一部の100,000,000円。
まる6 平成20年3月5日、上記イに対する平成18年7月1日から平成19年12月31日までの遅延損害金及び上記ロの元金の一部の85,000,000円。
まる7 平成21年3月6日、上記イに対する平成20年1月1日から平成20年12月31日までの遅延損害金及び上記ロの元金の一部の74,000,000円。
 なお、請求人は、申告書記載の貸倒金には、上記ロの元金の一部放棄額を計上すべきところ、誤って上記イの遅延損害金の放棄額を計上してしまっている。
(4) 以上のとおり、請求人のP9に対する債権放棄は貸倒金として認められるべきところ、原処分庁は、d物件についてP9の名義を借りたことを曲解して貸金債権を架空であると認定し、請求人の債権をもみ消そうとしている。
2 P5社に係る貸倒金
 請求人の主張するP5社に対する当該債権放棄に係る貸倒損失は、債務者に対して送達された債権放棄の通知が到達していないため、認められないものである。
2 P5社に係る貸倒金
(1) 請求人は、P5社に対して、まる1平成3年3月29日に100,000,000円、まる2平成3年4月11日に50,000,000円、まる3平成3年6月11日に20,000,000円をそれぞれ貸し渡し、同社の代表者P6がそれぞれ連帯保証した。また、請求人は、e市f町所在のP5社所有の土地上について根抵当権の設定を受けた。
(2) P5社は、請求人に対して、平成3年、利息の支払をしたが、その後、元本及び利息の支払をしなかった。
(3) P5社、P6及びP6の妻であるP10は、請求人に対し、平成12年2月21日、P5社所有の上記(1)の土地を上記(1)のまる2の貸付けに係る遅延損害金105,000,000円の弁済に、また、同土地上のP6及びP10の共有に係る建物を上記(1)のまる2の貸付けに係る遅延損害金25,931,500円の弁済に、それぞれ代えて代物弁済した。
(4) その後、請求人に対して、P5社やP6からの弁済は全くなく、連絡が取れなくなったので、請求人は、やむを得ず、P5社及びP6に対して、次のとおり債権を放棄したところ、当該債権放棄に係る貸倒れが認められるべきである。
まる1平成18年12月24日に45,020,000円
まる2平成19年12月25日に71,270,000円
まる3平成20年12月21日に70,920,000円
まる4平成21年12月22日に94,905,000円

(4) 争点2−3(不動産の譲渡収入に係る所得区分及び収入金額)について

原処分庁 請求人
1 事業所得に区分したもの
 不動産の譲渡収入のうち、貸金業を営む者が担保権の実行又は代物弁済等により取得した土地、建物等の資産を譲渡した場合の所得は、貸金業務の関連の行為として行われているものであることから、事業に付随する収入であり、事業所得として算定すべきである。
1 原処分庁が、事業所得に係る収入と区分したj物件の譲渡については、請求人は、担保権者ではなく一般の入札人として買受人となったものであり、担保権の実行又は代物弁済等により取得したものではないので、その譲渡による収入は、譲渡所得(長期譲渡所得)に係る収入と区分されるべきである。
2 譲渡所得に区分したもの
 不動産の譲渡のうち、事業所得として算定したもの以外の取引(g物件に係る譲渡、h物件に係る譲渡及びi物件に係る譲渡)については、譲渡所得として算定すべきである。
2 原処分庁が、譲渡所得に係る収入と区分したg物件の譲渡については、その敷地権に担保権を設定して、貸金業における担保権の実行により取得したものであるから、その譲渡による収入は、事業所得と区分されるべきである。
3 請求人が主張するi物件の譲渡については、請求人の確定申告書において、措置法第33条の4第1項の規定の適用を受けようとする旨の記載がないこと等から、同条第4項により、特別控除の適用はない。 3 i物件の譲渡については、収用交換等により譲渡したものであるから、措置法第33条の4の規定により、50,000,000円の特別控除が適用される。

(5) 争点2−4(不動産の貸付けに係る収入金額)について

原処分庁 請求人
1 請求人が、取得した土地、建物等の資産を長期的な契約で貸し付けるなど、賃貸用として転用した物件から得られる所得は不動産所得となる。 1 原処分庁が不動産の貸付けに係る収入金額として主張する全ての金額について争う。
2 なお、請求人が所有するk駐車場において、コインパーキングとして貸し付けている部分に係る収入金額については、近隣の同業者の駐車スペース1区画の1日当たりの平均利用時間を算定し、請求人の駐車スペースの区画数に乗じて総利用時間を算定し、利用単価を乗じる方法により推計すべきである。 2 なお、原処分庁が推計によっているk駐車場のコインパーキング部分に係る収入は、推計によらず、請求人が作成した日計の記録に基づいて算定すべきである。

(6) 争点2−5(その他各所得区分に応じた必要経費額等)について

原処分庁 請求人
1 事業所得に係る必要経費
(1) 事業所得となる不動産の譲渡収入に係る取得対価は、請求人の作成した資料及び法務局等を調査して認定した。また、仲介手数料及び登記手数料といった取得費用は、請求人の取引先を調査して認定した。
(2) 事業所得に係る経費額についても、調査の上認定した。
1 事業所得に係る必要経費
 原処分庁が主張する必要経費額の全てについて争う。
 なお、原処分には、請求人の事業所得に係る必要経費とされる過払金の返還について、過払金に対する年5分の割合による遅延損害金を算入していないという誤りがある。
 また、請求人の事務所、普通乗用自動車に係る減価償却費の計上が認められるべきである。
2 不動産所得に係る必要経費
 不動産所得に係る必要経費は、調査の上認定した。
2 不動産所得に係る必要経費
 原処分庁が主張する必要経費額の全てについて争う。
3 譲渡所得に係る取得費等
 譲渡所得に係る取得費等は、調査の上認定した。
3 譲渡所得に係る取得費等
 原処分庁が主張する取得費等の全てについて争う。

(7) 争点3−1(駐車場の貸付けが、課税資産の譲渡等に該当するか否か)について

原処分庁 請求人
 請求人が貸し付ける駐車場は、その全てが消費税法施行令第8条に規定する駐車場その他の施設の利用に伴って土地が使用される場合に該当するものであり、いずれも課税資産の譲渡等に該当する。  請求人が貸し付ける駐車場のうち次のものについては、駐車場その他の施設の利用に伴って土地が使用される場合に該当するものではなく、課税資産の譲渡等に該当しない。
1 m駐車場、n駐車場、p駐車場、q駐車場
(1) m駐車場、n駐車場、p駐車場については、いずれも、請求人は、「○○○○」として、賃借人に対して区画を指定した上で車両を駐車させるという目的により駐車場を貸し付けており、また、当該駐車場には砂利の敷設やロープによる区画割りがされているものであるから、請求人は、駐車場としての用途に応じる地面の設備や区画の設置等をしているものと認められ、駐車場の貸付けは、駐車場その他の施設の利用に伴って土地が使用される場合に該当するものであり、課税資産の譲渡等に該当する。
(2) q駐車場については、請求人は、「○○○○」として、賃借人に対して区画を指定した上で車両を駐車させるという目的により駐車場を貸し付けていたものであり、また、現在は貸付けがされていないため、砂利の敷設やロープによる区画割りの有無について確認することはできないが、当該駐車場に係る契約書附属のq市駐車場配置図によれば、何らかの方法で6つに区画割りされていたものと認められるのであるから、請求人は、駐車場としての用途に応じる地面の設備や区画の設置等をしているものと認められ、駐車場の貸付けは、駐車場その他の施設の利用に伴って土地が使用される場合に該当するものであり、課税資産の譲渡等に該当する。
1 m駐車場、n駐車場、p駐車場、q駐車場
 これらは、いずれも未舗装かつ駐車枠線なしの月ぎめ駐車場であるから、土地の貸付けである。
2 r駐車場
 r駐車場については、請求人とP11社との契約書によれば、請求人は、P11社に対し、自身の所有している駐車場を車両を駐車させる目的により貸し付けており、賃貸料は1台当たり月額10,000円(消費税込)とし駐車場台数21台相当分の月額210,000円(消費税込)とする旨の定めがあるところ、請求人は、P11社から賃料に消費税等相当額を含めて支払を受けていたのであるから、請求人においても、当該物件の賃貸に関し消費税等の課税の認識があったものと推認することができる。
 また、当該駐車場は、無人時間貸駐車場として利用されることを認識しながら、土地上の駐車場として利用可能なアスファルト舗装等の減価償却資産(構築物)が存するまま貸与する旨合意し、実際に貸与したものであることから、当該貸付けは、駐車場その他の施設の利用に伴って土地が使用される場合に該当するものである。
2 r駐車場
 もともと、r駐車場は、アスファルト舗装をし、白線の駐車枠を引いた月ぎめ駐車場であるので(枠数は95枠あった)、その賃貸料には課税される。
 しかし、請求人は、平成18年5月8日、21枠の駐車枠を消して、コインパーク業者であるP11社に貸し付け、同社が、自社のコインパーク用機械の仕様に合う大きさの駐車枠を引き直して営業しており、コインパーク用機械の他、車止めのコンクリートブロックもP11社が設置したものである。
 したがって、請求人が貸し付けたのは、アスファルト舗装しただけの線引きしていない土地であり、駐車場又は駐輪場としての用途に応じる地面の設備、フェンス、区画、建物の設置をしていないから、非課税である。
3 s駐車場
 s駐車場については、請求人とP12社との契約書によれば、請求人は、P12社に対し、自身の所有している駐車場を車両を駐車させる目的により貸し付けており、賃貸料は月額1,900,000円(消費税込)とする旨の定めがあるところ、請求人は、P12社から賃料に消費税等相当額を含めて支払を受けていたのであるから、請求人においても、当該物件の賃貸に関し消費税等の課税の認識があったものと推認することができる。
 また、当該駐車場は、請求人において機械式時間貸駐車場及び月ぎめ駐車場として利用されることを認識しながら、土地上の駐車場として利用可能なアスファルト舗装等の減価償却資産(構築物)が存するまま貸与する旨合意し、実際に貸与したものであることから、当該貸付けは、駐車場その他の施設の利用に伴って土地が使用される場合に該当するものである。
3 s駐車場
 s駐車場は、請求人がアスファルト舗装をしたが、枠線は引いていない。
 購入等の経緯は、まる1請求人が購入する前から地上げが行われていて、地権者らに無断で駐車場営業がされており、その駐車場は、地面は砂利で未舗装のまま、機械類は設置せず人が料金精算をしていたが、まる2請求人が当該土地を購入して、それらの不法占有者を排除してブロック塀を設置し、また、建築基準法第42条《道路の定義》第2項所定のいわゆる2項道路が指定されていたのでアスファルト舗装をすることとした、まる3ブロック塀及びアスファルト工事を始めた頃はまだコインパーキング業者に賃貸することは考えていなかったが、工事の途中に数社のコインパーキング業者から賃貸の打診を受け、賃貸することとした、というものである。
 そして、請求人は、平成21年7月6日、当該土地をP12社に賃貸し、同社が、自社のコインパーキング用機械類の仕様に合わせて枠線を引いて、機械類を設置したものである。
 したがって、請求人が貸し付けたのは、アスファルト舗装しただけの線引きしていない土地であり、駐車場又は駐輪場としての用途に応じる地面の設備、フェンス、区画、建物の設置をしていないから、非課税である。

(8) 争点3−2(課税資産の譲渡等に係る課税標準額)について

原処分庁 請求人
 請求人の課税資産の譲渡等に係る課税標準額は、上記の争点2−1ないし2−4及び争点3−1で主張したとおり実額及び推計により算出した。  原処分庁の主張額については、上記の争点2−1ないし2−4及び争点3−1で主張したとおり、誤りがある。

(9) 争点4(所得税に係る偽りその他不正の行為の有無並びに所得税及び消費税等に係る事実の隠ぺい又は仮装の有無)について

原処分庁 請求人
1 請求人のP9に対する貸付金に係る遅延損害金を放棄した旨記載した確認書は内容虚偽のものと考えられ、このことは、通則法第68条第1項及び第2項に規定する隠ぺい又は仮装及び通則法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為に該当する。 1 上記の争点2−2で述べたとおり、請求人のP9に対する貸金債権は存在するものであり、また、請求人はP9に対して当該貸金債権を放棄したものであるから、原処分庁の主張には理由がない。
2 さらに、請求人の不動産所得については、次の事実が認められる。
まる1 真実の所得金額と申告額との較差は、平成21年分以外は約半分である。
まる2 請求人は、申告している不動産収入に係る振込口座と申告していない振込口座は同一であり、簡単に所得計算ができるにも関わらず、特定の物件について申告していない。
まる3 請求人は、原処分庁に対し、「不動産所得は通帳を見れば1時間、2時間で計算できる」旨を述べた。
まる4 平成21年分の不動産所得の申告においては、全ての物件について申告しているが、これは調査着手後に提出した申告書である。
まる5 平成21年分の確定申告に関して、請求人は、原処分庁に対し、「去年おたくらが来たから慎重に作らなあかん」旨を申し述べた。
まる6 請求人が申告した平成21年分の不動産収入は平成20年分の不動産収入に対して213.5%の増加である。
まる7 請求人の職業は金融業であり、利息計算等を日常的に行っていることから、所得金額の計算能力や記帳能力は十分有している。
 以上によれば、請求人は預金通帳により不動産所得金額を十分把握していたにも関わらず、所得を過少に申告する意図をもって申告したといえるから、このことは、通則法第68条第1項及び第2項に規定する隠ぺい又は仮装、及び通則法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為に該当する。
2 上記の争点2−4で述べたとおり、原処分庁が不動産の貸付けに係る収入金額として主張する全ての金額は誤りであるから、原処分庁の主張には理由がない。

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3 争点1(当初処分に係る調査手続の違法性の有無)に関する判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 調査担当職員は、平成22年2月24日、t県内のP6の居宅に臨場し、P6と請求人との取引内容等を聴取した。これに対し、P6は、調査担当職員が持参した「照会文書」と表題のある請求人との取引内容等についての回答を求める旨記載された文書の余白に、要旨以下の内容を手書きして、署名、押印の上、本件回答書を作成し、これを調査担当職員に交付した。
(イ) 平成3年にP5社が請求人から借りた170,000,000円は、担保に入れていたe市f町○丁目○の物件の代物弁済で全て終了している。
(ロ) 請求人とは阪神大震災のあと平成7年に会ったのを最後に一切連絡を取っていないし、一切会ってもいない。
(ハ) 請求人から債権放棄を受けたことはない。
ロ 調査担当職員は、平成22年3月2日付で、P6名義の要旨次の記載のある文書(以下「本件3月2日付文書」という。)を受領した。本件3月2日付文書は、本文についてワープロ印字されており、P6名義の署名が手書きされ、P6名義の押印がある。
 なお、調査担当職員は、平成22年3月8日付でも、P6名義の文書(以下「本件3月8日付文書」といい、本件3月2日付文書と併せて、「本件各文書」という。)を受領しているが、本件3月8日付文書は、本件3月2日付文書と同趣旨の内容が記載されていた。
(イ) 先日、調査担当職員が訪ねてきて、P5社と請求人との取引について事情を聞いたが、取引から年数が経っており記憶がはっきりしない、分からない旨答えた。すると、調査担当職員が、あらかじめ用意していた下書きのとおりで間違いないので当該下書きのとおりに書くよう要求したため、照会文書にまる1f町の代物弁済で全て終わったこと、まる2平成7年以後請求人と会っておらず連絡も取っていないこと及びまる3債権放棄してもらっていないこと等を記載して、署名押印した。
(ロ) しかし、翌々日の26日、請求人から当時の資料に基づいて説明を受け、まる1平成12年の代物弁済はP5社及び私の債務を一部弁済するのみであること及びまる2残った債権については税金対応のため請求人が部分放棄していくことを双方で確認していたことを思い出した。
(ハ) 調査担当職員の下書きは、事実とは異なるものであり、調査担当職員は、徴税のために、事実の確認を怠り又は事実を捏造している。このようなやり方は公権力の濫用に当たるかと思われ、本件回答書については撤回する。
ハ P6は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ) 私が請求人から170,000,000円を借りたことは確かである。
(ロ) 請求人に対する債務は、f町所在不動産による代物弁済でなくなっているものと認識している。請求人から、債務が残っているとか、返済しろと言われたこともないし、手紙やはがきといった類の書面を受け取ったこともない。
 また、私は、請求人からの借入金については、f町所在不動産による代物弁済後に、残債務があるとは認識していない。請求人が税金対応のために部分放棄していくことを確認したということもないし、当該代物弁済契約書を見たこともない。
(ハ) 請求人からの借入金については、f町所在不動産で代物弁済することにしたのは間違いないが、それは、平成4年のことであり、平成12年ではない。平成7年以降、請求人と会ったことも電話で話したこともなく、また、平成12年当時妻とは音信不通であったので、代物弁済契約書を作成できるはずはない。
(ニ) 調査担当職員宛の本件各文書は、私の関知するものではない。確かに、本件各文書に署名・押印をしたが、それは、請求人が本件各文書を持ってt県までやってきて、国税に煩わされることのないようにするための書類だということで、署名・押印したものである。内容を確認せずに署名・押印したことは軽率であったと思っているが、請求人とも国税局とも関わりあいたくなかったので、本件各文書に署名・押印すれば、これ以上関わらなくてよくなるのであればと思い、軽い気持ちで署名・押印した。
(ホ) 調査担当職員からの照会に対する本件回答書については、真実を書いたのであって、虚偽の回答などしていない。

(2) 判断

 請求人は、調査担当職員は、請求人の貸倒れを否認するために、P6に対して取引先調査を行い、虚偽の内容の照会回答を書かせるという不正な調査を行ったものであり、その調査に基づく課税処分は取り消されるべきである旨を主張し、原処分庁は当該事実を否認する。
 そこで検討するに、上記(1)のイ及びハのとおり、P6が調査担当職員の求めに応じて作成した平成22年2月24日付の本件回答書の記載内容と、P6の当審判所に対する答述内容とは合致する上、P6は、当審判所に対し、上記(1)のロの調査担当職員宛の各文書は、請求人の求めに応じて署名及び押印したのみであり、その記載内容については関知していないこと、また、調査担当職員からの照会に対する回答については、真実を書いたものであることを答述していることなどからすれば、調査担当職員は、平成22年2月24日にP6と面談した際、P6の申述内容どおりの回答が記載された本件回答書を受領したものと認められ、その他本件の全証拠をもってしても、調査担当職員がP6に対して脅迫をする等不正な調査を行ったものと認めることはできない(なお、P6の答述の信用性は、後記の争点2−2に関する判断の中で検討する。)。
 したがって、請求人の主張はその前提を欠くものであり、採用することはできない。

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4 争点2−1(貸金業に係る収入金額)に関する判断

(1) 法令解釈

イ 推計課税について
 課税処分における課税標準の認定は、実額計算の方法によるのが原則であるが、所得税法第156条は、所得の金額を推計して課税することを認めているところ、これは、納税義務者が、収支を明らかにし得る帳簿書類を備えていない、帳簿書類を備えていても記帳が不正確である、あるいは、資料の提供を拒否する等税務調査に非協力であるなどのため、実額での把握が不可能又は著しく困難である場合、課税を放棄することは租税の公平負担の見地から許されないため、税務署長が入手し又は容易に入手し得る推計のための基礎事実及び統計資料等の間接的な資料を用いて、所得金額に近似した額を推計し、これをもって課税することを是認する趣旨と解される。
 そうすると、所得金額を推計して所得税に係る課税処分を行う場合には、推計の必要性及び合理性がその要件となるものであり、原処分庁が推計によって主張している収入金額を含む所得の金額の認定については、推計をする必要性及び合理性がその要件となる。
ロ 貸付金の利息等の収益計上について
 所得税法第36条第1項は、その年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定しており、ここでいう「その年において収入すべき金額」とは、その年において収入すべきことが確定した金額によるべきことを示しているものと解されるところ、所得税基本通達36−8において、金銭の貸付けによる利息で契約等により支払日が定められているものについては、その支払日に収入すべきものとされており、当審判所においても、上記通達の定める契約内容に基づく取扱いは相当であると認める。
 一方、債務者に対して、利息制限法による制限利率を超過する利率をもって金銭を貸し付け、利息、遅延損害金を収受している場合の収益計上については、次のとおり解するのが相当である。
 すなわち、まず、まる1現実に利息、遅延損害金が収受された場合には、確かに、利息制限法による制限利率を超過する利息、遅延損害金の支払がされても、当該制限超過部分は、民法第491条《元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当》により残存元本に充当されるものではあるが、課税の対象となるべき所得を構成するか否かは、必ずしも、その法律的性質によって決せられるものではなく、当事者間において約定の利息、遅延損害金として授受され、貸主において当該制限超過部分が元本に充当されたものとして処理されることなく、依然として従前どおりの元本が残存するものとして取り扱っている以上、制限超過部分をも含めて、現実に収受された利息、遅延損害金の全部が貸主の所得として課税の対象となるものと解すべきである。
 次に、まる2利息、遅延損害金が未収の場合には、その履行期が到来すれば、現実にはなお未収の状態にあるとしても、所得税法第36条第1項に規定する「収入すべき金額」に当たるものとして、課税の対象となるべき所得を構成するものと解されるが、それは、特段の事情のない限り、収入実現の可能性が高度であると認められるからである。一方で、利息制限法による制限利率を超過する利息、遅延損害金は、その基礎となる約定自体が無効であって、約定の履行期の到来によっても、法律上、利息、遅延損害金は生じることはなく、貸主としては、借主がこれを支払うことを事実上期待し得るにとどまるのであって、収入実現の蓋然性があるものとはいえず、制限利率を超過する利息、遅延損害金は、たとえ約定の履行期が到来しても、未収である限り、所得税法第36条第1項に規定する「収入すべき金額」に該当しないものと解すべきである。したがって、利息、遅延損害金が未収の場合には、利息制限法による制限利率の限度においてその約定の履行期が到来する年分の収益として計上し、当該制限利率を超過する部分については、現実に受領しない限り、収益計上をすることはできないものである。
 なお、利息、遅延損害金が未収の場合において、それ以前に利息制限法による制限利率を超過する利息、遅延損害金の支払がされているときは、現実に元本に充当していたか否かに関わらず充当されたものとして、その残額(残元本)についてのみ利息、遅延損害金を生じることとなるのであって、当該残元本を基準にした制限利率の限度において収益計上をすることとなる。

(2) 貸金業に係る収入金額の推計の必要性について

 原処分庁は、請求人の貸金業に係る収入金額を算定するに当たり、貸付元本額等を推計するべきである旨を主張するので、推計の必要性について検討する。
イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、原処分庁の調査時において、一定の貸金契約関係書類、支払予定明細表等を提出したものの、一部の債務者に係る資料を提出しなかった。その後、請求人は、調査担当職員が請求人の取引先に虚偽の内容の照会回答書を作成させた等として、その他の帳簿書類の提示を拒否した。
(ロ) 原処分庁は、債務者等に対する取引先調査等を行ったが、一部の債務者については貸出日、完済日、貸付元本額、約定利率、遅延損害金の率等を把握することができなかった。
(ハ) 請求人は、当審判所に対し、平成23年8月31日、「貸金計算書」と題する資料を提出した。当該資料には、原処分庁が特定した債務者ごとに、貸付日、貸付金額、弁済日等が一覧形式で記載されている。
 そして、当該「貸金計算書」においては、原処分庁が貸付元本額を推計した取引について、当該推計額を上回る金額が記載されている債務者もおり、また、同一の債務者に係る原処分庁が把握していなかった貸付けも記載され、さらに、約定の利息及び遅延損害金の率(以下、これらを併せて「約定率」という。また、利息制限法による利息及び遅延損害金の率を併せて「法定率」という。)については、原処分庁の主張額とおおむね合致する。
ロ 判断
(イ) 原処分時における推計の必要性
 上記イの(イ)及び(ロ)の事実からすれば、請求人は、原処分庁に対し、資料の提出を拒否する等税務調査に対して非協力的な対応をとり、その結果、原処分庁においては、一部の債務者について実額での収入金額の把握が不可能ないしは著しく困難になったものというべきであって、このことを上記(1)のイの法令解釈に当てはめれば、上記一部の債務者に係る収入金額について原処分時における推計課税の必要性は認められる。
(ロ) 裁決時における推計の必要性
 一方で、請求人は、上記イの(ハ)のとおり、当審判所に対し、「貸金計算書」と題する資料を提出した。当該資料の作成経緯は証拠上明らかではないものの、当該資料に記載のある貸付日、貸付金額、弁済日等については、原処分庁が収集した契約書、領収証等の原始記録と全体的に整合しており、また、原処分庁が推計した貸付元本額を上回る貸付金額が記載されているものもあり、原処分庁が把握していない取引も記載され、約定率は原処分庁の主張額とおおむね合致することなどからすれば、請求人が、原処分庁が把握した債務者に係る取引について、自らに不当に有利になるように(貸金業に係る収入金額を過少に見せるために)当該資料を提出したとは考え難く、当該資料にある、まる1債務者、まる2貸付日、まる3貸付金額、まる4弁済日の記載内容については、信用性を認めることができる。
 そうすると、まる1債務者、まる2貸付日、まる3貸付金額、まる4弁済日については、上記「貸金計算書」に記載の内容が事実であり、当該事実に基づいて計算した収入金額が実額と認められるのであって、裁決時における推計の必要性は認められない。なお、約定率については、貸金計算書及び原処分庁が収集した契約書等の証拠に基づき認定するのが相当である。
(ハ) 原処分庁の主張について
 原処分庁は、実額計算の方法により所得金額を主張するのであれば、全ての所得計算の基となる収入金額及び必要経費の額についても、実額により明らかにすべきである旨を主張するが、原処分庁がした推計の方法は、請求人の貸金業に係る債務者のうちその者に係る収入金額を実額で算定するための基礎となる貸付日、完済日、貸付元本額、約定利率、遅延損害金の率等を把握することができなかった債務者に係る収入金額について、これら算定の基礎となる事項を調査により把握した請求人自身の貸金業に係る取引内容から推定することによって、当該債務者に係る収入金額を推計するという方法であって、経費等との対応関係を問題にする余地はないから、この点についての原処分庁の主張は採用することができない。

(3) 実額による貸金業の収入金額について

 以上のことを前提に、各債務者の各取引ごとに、まる1取引に係る年月日、借入金額、弁済額、取引間の日数を明らかにした上で、まる2約定率に基づく利息額、未払利息額、残元金を明らかにし、また、まる3法定率に基づく利息額、未払利息額、残元金を明らかにした上で、上記(1)のロの貸付金の利息等の収益計上に係る法令解釈に従って収益計上額を認定していくと、以下のとおりとなる。
 なお、収益計上額の認定に際し、貸付けの初日についての利息は、原則として発生するものとしているが、当事者間の弁済状況等から当該初日の利息が発生しない旨の合意が成立していると認められる取引については、利息が発生しないこととした。
 また、後述のように、本件では更正処分の期間制限の延長の根拠となるべき「偽りその他不正の行為」(国税通則法第70条第5項)があるとは認められないので、所得税に関しては、本件後続各年分についてのみ検討している(以下の争点についても同様である。)。
イ P13社について
(イ) P13社については、付表2−1の「年月日」「借入金額」「弁済額」「約定率」欄記載のとおりの借入れ及び弁済の事実が認められる。
(ロ) これを上記(1)のロの法令解釈に当てはめると、付表2−1の「収入計上額」欄のとおりの額が収益計上される金額となる。
ロ P14について
(イ) P14については、付表2−2及び2−3の「年月日」「借入金額」「弁済額」「約定率」欄記載のとおりの借入れ及び弁済の事実が認められる(以下、付表2−2に係る貸付けを「P14第1貸付け」、付表2−3に係る貸付けを「P14第2貸付け」という。)。
 なお、P14第1貸付けについては、平成19年7月31日に、P14第2貸付けについては、平成19年12月31日に、それぞれ期限の利益を喪失したものと認められる。
(ロ) これを上記(1)のロの法令解釈に当てはめると、付表2−2及び2−3の「収入計上額」欄のとおりの額が収益計上される金額となる。
 なお、P14第1貸付け及びP14第2貸付けのいずれも、約定率は、利息○○%及び遅延損害金○○%と認められるが、請求人はP14につき担保不動産競売を申し立て、法定率に引き直して元本等を計算している事実が認められるから、上記(1)のロの法令解釈からして、約定率を法定率と同一として計算するのが相当である。
ハ P15について
(イ) P15については、付表2−4の「年月日」「借入金額」「弁済額」「約定率」欄記載のとおりの借入れ及び弁済の事実が認められる。  なお、当該貸付けについては、平成18年6月30日に期限の利益を喪失したものと認められる。
(ロ) これを上記(1)のロの法令解釈に当てはめると、付表2−4の「収入計上額」欄のとおりの額が収益計上される金額となる。
ニ P16について
(イ) P16については、付表2−5の「年月日」「借入金額」「弁済額」「約定率」欄記載のとおりの借入れ及び弁済の事実が認められる。
 なお、当該貸付けについては、平成18年1月10日に期限の利益を喪失したものと認められる。
(ロ) これを上記(1)のロの法令解釈に当てはめると、付表2−5の「収入計上額」欄のとおりの額が収益計上される金額となる。
ホ P17について
(イ) P17については、付表2−6ないし2−8の「年月日」「借入金額」「弁済額」「約定率」欄記載のとおりの借入れ及び弁済の事実が認められる(以下、付表2−6に係る貸付けを「P17第1貸付け」、付表2−7に係る貸付けを「P17第2貸付け」、付表2−8に係る貸付けを「P17第3貸付け」という。)。
 なお、P17第1貸付け、P17第2貸付け及びP17第3貸付けのいずれについても、平成17年11月30日に、期限の利益を喪失したものと認められる。
(ロ) これを上記(1)のロの法令解釈に当てはめると、付表2−6ないし2−8の「収入計上額」欄のとおりの額が収益計上される金額となる。
 なお、P17第1貸付け、P17第2貸付け及びP17第3貸付けのいずれも、約定率は利息○○%及び遅延損害金○○%と認められるが、請求人はP17につき担保不動産競売を申し立て、最終的に法定率を前提に弁済を受けている事実が認められるから、上記(1)のロの法令解釈からして、約定率を法定率と同一として計算するのが相当である。
ヘ P18について
(イ) P18については、付表2−9の「年月日」「借入金額」「弁済額」「約定率」欄記載のとおりの借入れ及び弁済の事実が認められる。
 なお、当該貸付けについては、平成18年12月31日に期限の利益を喪失したものと認められる。
(ロ) これを上記(1)のロの法令解釈に当てはめると、付表2−9の「収入計上額」欄のとおりの額が収益計上される金額となる。
 なお、当該貸付けに係る約定率は、利息○○%及び遅延損害金○○%と認められるが、請求人はP18につき担保不動産競売を申し立て、法定率にて元本等を計算している事実が認められるから、上記(1)のロの法令解釈からして、約定率を法定率と同一として計算するのが相当である。
 また、請求人は、最終弁済日(平成21年6月26日)における残元金について債権放棄したと認められるところ、当該日以後には収益は発生しない。
ト P19社について
(イ) P19社については、付表2−10及び2−11の「年月日」「借入金額」「弁済額」「約定率」欄記載のとおりの借入れ及び弁済の事実が認められる。
(ロ) これを上記(1)のロの法令解釈に当てはめると、付表2−10及び2−11の「収入計上額」欄のとおりの額が収益計上される金額となる。
チ P20社について
(イ) P20社については、付表2−12及び2−13の「年月日」「借入金額」「弁済額」「約定率」欄記載のとおりの借入れ及び弁済の事実が認められる(以下、付表2−12に係る貸付けを「P20社第1貸付け」という。)。
 なお、P20社第1貸付けについては、平成19年1月31日に期限の利益を喪失したものと認められる。
(ロ) これを上記(1)のロの法令解釈に当てはめると、付表2−12及び2−13の「収入計上額」欄のとおりの額が収益計上される金額となる。
リ P21について
(イ) P21については、付表2−14及び2−15の「年月日」「借入金額」「弁済額」「約定率」欄記載のとおりの借入れ及び弁済の事実が認められる(以下、付表2−15に係る貸付けを「P21第2貸付け」という。)。
 なお、P21第2貸付けについては、平成20年2月10日に期限の利益を喪失したものと認められる。
(ロ) これを上記(1)のロの法令解釈に当てはめると、付表2−14及び2−15の「収入計上額」欄のとおりの額が収益計上される金額となる。
ヌ P22について
(イ) P22については、付表2−16の「年月日」「借入金額」「弁済額」「約定率」欄記載のとおりの借入れ及び弁済の事実が認められる。
 なお、当該貸付けについては、平成19年12月27日に期限の利益を喪失したものと認められる。
(ロ) これを上記(1)のロの法令解釈に当てはめると、付表2−16の「収入計上額」欄のとおりの額が収益計上される金額となる。
ル P23社について
(イ) P23社については、付表2−17の「年月日」「借入金額」「弁済額」「約定率」欄記載のとおりの借入れ及び弁済の事実が認められる。
(ロ) これを上記(1)のロの法令解釈に当てはめると、付表2−17の「収入計上額」欄のとおりの額が収益計上される金額となる。
ヲ P24について
(イ) P24については、付表2−18ないし2−23の「年月日」「借入金額」「弁済額」「約定率」欄記載のとおりの借入れの事実が認められる。なお、弁済があった事実は認められないが、請求人の当審判所に対する答述からは、請求人は弁済を猶予していないことが認められる。
(ロ) これを上記(1)のロの法令解釈に当てはめると、付表2−18ないし2−23の「収入計上額」欄のとおりの額が収益計上される金額となる。
ワ P25社について
(イ) P25社については、付表2−24の「年月日」「借入金額」「弁済額」「約定率」欄記載のとおりの借入れ及び弁済の事実が認められる。
 なお、当該貸付けについては、平成20年7月5日に期限の利益を喪失したものと認められる。
(ロ) これを上記(1)のロの法令解釈に当てはめると、付表2−24の「収入計上額」欄のとおりの額が収益計上される金額となる。
カ P7ことP8(ないしはP26)について
(イ) P7ことP8(ないしはP26)については、平成3年から平成6年までの貸付け、弁済等の事実が認められるものの、平成8年頃、回収不能の状態が生じ貸倒損失が発生したものと認められる。
(ロ) そうすると、本件後続各年分において、収益計上すべき貸金利息及び遅延損害金収入はないこととなる。
ヨ P27社について
(イ) P27社については、付表2−25及び2−26の「年月日」「借入金額」「弁済額」「約定率」欄記載のとおりの借入れ及び弁済の事実が認められる。
(ロ) これを上記(1)のロの法令解釈に当てはめると、付表2−25及び2−26の「収入計上額」欄のとおりの額が収益計上される金額となる。
タ P28について
(イ) P28については、付表2−27の「年月日」「借入金額」「弁済額」「約定率」欄記載のとおりの借入れ及び弁済の事実が認められる。
 なお、当該貸付けについては、平成20年8月31日に期限の利益を喪失したものと認められる。
(ロ) これを上記(1)のロの法令解釈に当てはめると、付表2−27の「収入計上額」欄のとおりの額が収益計上される金額となる。
レ P29ことP30について
(イ) P29ことP30については、付表2−28の「年月日」「借入金額」「弁済額」「約定率」欄記載のとおりの借入れ及び弁済の事実が認められる。
 なお、当該貸付けについては、平成21年8月31日に期限の利益を喪失したものと認められる。
(ロ) これを上記(1)のロの法令解釈に当てはめると、付表2−28の「収入計上額」欄のとおりの額が収益計上される金額となる。
ソ P31社について
(イ) P31社については、付表2−29の「年月日」「借入金額」「弁済額」「約定率」欄記載のとおりの借入れ及び弁済の事実が認められる。
 なお、当該貸付けについては、平成20年11月30日に期限の利益を喪失したものと認められる。
(ロ) これを上記(1)のロの法令解釈に当てはめると、付表2−29の「収入計上額」欄のとおりの額が収益計上される金額となる。
ツ P32社について
(イ) P32社については、付表2−30の「年月日」「借入金額」「弁済額」「約定率」欄記載のとおりの借入れ及び弁済の事実が認められる。
(ロ) これを上記(1)のロの法令解釈に当てはめると、付表2−30の「収入計上額」欄のとおりの額が収益計上される金額となる。
ネ P33について
(イ) P33については、付表2−31ないし2−34の「年月日」「借入金額」「弁済額」「約定率」欄記載のとおりの借入れ及び弁済の事実が認められる。
 なお、これらの貸付けについては、いずれも、平成21年9月20日に期限の利益を喪失したものと認められる。
(ロ) これを上記(1)のロの法令解釈に当てはめると、付表2−31ないし2−34の「収入計上額」欄のとおりの額が収益計上される金額となる。
ナ P34について
(イ) P34については、付表2−35及び2−36の「年月日」「借入金額」「弁済額」「約定率」欄記載のとおりの借入れ及び弁済の事実が認められる(以下、付表2−35に係る貸付けを「P34第1貸付け」、付表2−36に係る貸付けを「P34第2貸付け」という。)。
 なお、P34第1貸付けについては、平成21年6月30日に、P34第2貸付けについては、平成21年5月31日に、それぞれ期限の利益を喪失したものと認められる。
(ロ) これを上記(1)のロの法令解釈に当てはめると、付表2−35及び2−36の「収入計上額」欄のとおりの額が収益計上される金額となる。 
ラ P35社について
(イ) P35社については、付表2−37の「年月日」「借入金額」「弁済額」「約定率」欄記載のとおりの借入れ及び弁済の事実が認められる。
 なお、当該貸付けについては、平成21年2月28日に期限の利益を喪失したものと認められる。
(ロ) これを上記(1)のロの法令解釈に当てはめると、付表2−37の「収入計上額」欄のとおりの額が収益計上される金額となる。
ム P36について
(イ) P36については、平成12年から平成17年までの貸付け、弁済等の事実が認められるものの、平成17年頃、後記5の(1)でいうところの回収不能の状態が生じ貸倒損失が発生したものと認められる。
(ロ) そうすると、本件後続各年分において、収益計上すべき貸金利息及び遅延損害金収入はないこととなる。

(4) 小括

 以上のことからすれば、請求人の本件後続各年分の貸金利息及び遅延損害金に係る収入金額は、付表1のとおりとなる。

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5 争点2−2(貸金業に係る貸倒金の有無及び金額)に関する判断

 請求人は、P9及びP5社に係る貸倒損失を必要経費に算入すべき旨を主張し、原処分庁はこれを争うので、以下検討する。

(1) 法令解釈

 所得税法第51条第2項は、居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業について、その事業の遂行上生じた売掛金、貸付金、前渡金その他これらに準ずる債権の貸倒れその他政令で定める事由により生じた損失の金額は、その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入すると規定している。
 当該規定からすれば、まず、貸倒れによる損失が必要経費に算入されるためには、前提として、貸倒れに係る債権が存在したことが必要である。
 次に、事業の遂行上生じた債権の貸倒損失が認められるためには、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、債権者が債権放棄、債務免除等その債権を整理する意向を表明したこと、又は債務者の事業閉鎖、所在不明その他これに準ずべき事情が生じ、その債務者の資産状況、支払能力等からみて債権全額の回収の見込みがないことが客観的に明らかであることを要すると解すべきである(以上に当たるようなときを、以下「回収不能の状態」という。)。そして、所得税法第51条第2項が、「その損失の生じた日の属する年分」という文言を用いているのは、債権の貸倒れをし意的に計上するのが相当ではないことから、これを損失の生じた日の属する年分に限定する趣旨であり、したがって、ある年分の損失となる貸倒れというためには、当該年中に当該債権について以上で述べた回収不能の状態が初めて生じたものであることを要すると解するのが相当であって、一旦回収不能の状態が生じた債権について、以後の年分でその一部ないし全部の債権放棄等をしても、当該年分に初めて回収不能の状態が生じたものではないから、その年分において貸倒損失とすることは認められないと解される。

(2) P9について

イ 請求人提出証拠の内容等
(イ) 昭和47年5月1日付「金銭貸借契約証書」(以下「昭和47年借用証書」という。)には、「金七億五千萬円也」、「右、金員拙者正に借用し、受領致しました」、「借用金員の弁済方法昭和四七年五月一日貸付 支払期日昭和四七年五月末日 元利金一括払い利息年一割五分・遅延損害金年三割」との記載があり、債務者欄には、「P9」名義の署名及び押印があり、宛先は請求人とされている。
(ロ) 借主をP9、宛先を請求人とする次の本件各借用証書が作成されており、いずれもP9名義の署名押印がある。
A 平成7年8月29日付金額10,000,000円の借用証書
B 平成8年2月18日付金額10,500,000円の借用証書
C 平成8年3月4日付金額5,000,000円の借用証書
D 平成8年3月19日付金額6,836,500円の借用証書
E 平成8年3月19日付金額85,500,000円の借用証書
F 平成8年4月15日付金額94,500,000円の借用証書
G 平成8年4月15日付金額1,876,200円の借用証書
(ハ) 平成8年6月3日付「貸金債権残額及び放棄確認証」(以下「平成8年債権放棄確認証」という。)には、「甲」欄に請求人名義の記名及び押印並びに「乙」欄に「P9」名義の署名及び押印があり、乙(P9)は、甲(請求人)に対し、上記(イ)の借入金債務があることを認める旨及び同借入金債務は、甲(請求人)が乙(P9)に対し「昭和47年4月30日までの間に貸付けた十数回の貸金債務をまとめて、昭和47年5月1日、準消費貸借契約によって新に消費貸借金額としたものであることを双方確認する」との記載がある。また、平成8年債権放棄確認証には別表が添付され、当該別表においては、昭和47年5月1日から平成8年6月3日までの利息、遅延損害金等が一覧表形式で記載され、当該期間において、入金額は、「0円」とされており、平成8年債権放棄確認証の本文において、乙(P9)は、上記(イ)の貸金について、平成7年12月31日までに発生した利息及び損害金が当該別表のとおりであることを認める旨、甲(請求人)が、上記利息及び損害金について、乙(P9)に対し、毎年発生した損害金について当該別表による請求権を放棄してきたことを乙(P9)は認める旨及び平成8年に発生する損害金については、甲(請求人)、乙(P9)協議の上処理法を取り決める旨の記載がある。
(ニ) 平成9年債権放棄確認証には、「甲」欄に請求人名義の署名及び押印並びに「乙」欄にP9名義の署名及び押印があり、甲(請求人)と乙(P9)は、上記(イ)の貸金債権についての平成8年12月31日現在の遅延損害金の総額が686,086,065円であることを確認する旨、並びに甲(請求人)と乙(P9)は、甲(請求人)が、乙(P9)に対して、平成8年12月31日、上記遅延損害金全額と上記貸金元本750,000,000円の一部金113,913,935円の合計額800,000,000円を放棄したこと及び当該債権放棄によって乙(P9)が甲(請求人)に負担する借入金債務元金額が636,086,065円に減少したことを確認する旨の記載がある。
(ホ) 平成9年確認書には、「甲」欄に請求人名義の署名及び押印並びに「乙」欄に「P9」名義の署名及び押印があり、第1項として、「甲と乙は、別紙書類目録記載の8の元金7億5,000万円の一部を、別紙書類目録記載の1乃至7の各借用証書に書き直したことを確認する」との記載がある。
 平成9年確認書の別紙の書類目録においては、1番目ないし7番目の書類として本件各借用証書が掲げられ、8番目の書類として平成8年6月3日を作成日時とする「貸金債権残額及び放棄確認証」(上記(ハ)の平成8年債権放棄確認証と認められる。)が掲げられている。
 また、平成9年確認書の本文には、甲(請求人)と乙(P9)は、上記(ニ)の借入金債務元金額636,086,065円に本件各借用証書に書き直した7口の元金(以下「本件各元金」という。)合計214,212,700円が含まれていることを確認する旨及び甲(請求人)は、上記借入金元金額636,086,065円から本件各元金合計214,212,700円を差し引いた残りの部分の元金421,873,365円については、利息及び損害金を免除し、以後、残りの部分の元金421,873,365円には利息及び損害金が発生しないことを確認する旨の記載がある。
(ヘ) 平成15年2月17日付で貸主(甲)を請求人、借主(乙)をP9とする「貸金等に関する確認書」(以下「平成15年確認書1」という。)が作成されており、本件各借用証書に係る貸金が記載された貸金目録が別紙1として、また、本件各元金に対する平成9年1月1日から平成11年12月31日までの遅延損害金の額が記載された遅延損害金一覧表が別紙2としてそれぞれ添付され、「甲」欄に請求人名義の、「乙」欄にP9名義の各署名押印がある。
 平成15年確認書1には、乙(P9)は、甲(請求人)に対し、別紙1記載の借入金債務を負担していること及び本件各元金に対する遅延損害金が別紙2記載の金額であることを確認する旨並びに甲(請求人)は、乙(P9)に対し、上記遅延損害金の請求権を放棄する旨が記載されている。
(ト) 平成15年2月17日付で貸主(甲)を請求人、借主(乙)をP9とする「貸金等に関する確認書」(以下「平成15年確認書2」という。)が作成されており、本件各借用証書に係る貸金並びに平成8年債権放棄確認証及び平成9年債権放棄確認証が記載された書類目録が別紙として添付され、「甲」欄に請求人名義の、「乙」欄にP9名義の各署名押印がある。
 平成15年確認書2には、甲(請求人)と乙(P9)は、平成9年債権放棄確認証の借入金債務元金636,086,065円に本件各元金合計214,212,700円が含まれていることを確認する旨及び上記借入金元金636,086,065円から本件各元金合計214,212,700円を差し引いた残りの部分の元金421,873,365円のうち72,873,365円を放棄する旨が記載されている。
(チ) 平成16年2月26日付で貸主(甲)を請求人、借主(乙)をP9とする「貸金等に関する確認書」(以下「平成16年確認書1」という。)が作成されており、本件各借用証書に係る貸金が記載された貸金目録が別紙1として、また、本件各元金に対する平成12年1月1日から平成13年12月31日までの遅延損害金の額が記載された遅延損害金一覧表が別紙2としてそれぞれ添付され、「甲」欄に請求人名義の、「乙」欄にP9名義の各署名押印がある。
 平成16年確認書1には、乙(P9)は、甲(請求人)に対し、別紙1記載の借入金債務を負担していること及び本件各元金に対する遅延損害金が別紙2記載の金額であることを確認する旨並びに甲(請求人)は、乙(P9)に対し、上記遅延損害金の請求権を放棄する旨が記載されている。
(リ) 平成16年2月26日付で貸主(甲)を請求人、借主(乙)をP9とする「貸金等に関する確認書」(以下「平成16年確認書2」という。)が作成されており、本件各借用証書に係る貸金並びに平成8年債権放棄確認証及び平成9年債権放棄確認証が記載された書類目録が別紙として添付され、「甲」欄に請求人名義の、「乙」欄にP9名義の各署名押印がある。
 平成16年確認書2には、甲(請求人)と乙(P9)は、平成9年債権放棄確認証の借入金債務元金636,086,065円に本件各元金合計214,212,700円が含まれていることを確認する旨及び上記借入金元金636,086,065円から本件各元金合計214,212,700円を差し引いた残りの部分の元金421,873,365円のうち90,000,000円を放棄する旨が記載されている。
(ヌ) 平成17年3月1日付で貸主(甲)を請求人、借主(乙)をP9とする「貸金等に関する確認書」(以下「平成17年確認書」という。)が作成されており、本件各借用証書に係る貸金が記載された貸金目録が別紙1として、また、本件各元金に対する平成14年1月1日から平成15年6月30日までの遅延損害金の額が記載された遅延損害金一覧表が別紙2としてそれぞれ添付され、「甲」欄に請求人名義の、「乙」欄にP9名義の各署名押印がある。
 平成17年確認書には、乙(P9)は、甲(請求人)に対し、別紙1記載の借入金債務を負担していること及び本件各元金に対する遅延損害金が別紙2記載の金額であることを確認する旨並びに甲(請求人)は、乙(P9)に対し、上記遅延損害金の請求権を放棄する旨が記載されている。
(ル) 平成18年3月9日付で貸主(甲)を請求人、借主(乙)をP9とする「貸金等に関する確認書」(以下「平成18年確認書」という。)が作成されており、本件各借用証書に係る貸金が記載された貸金目録が別紙1として、また、本件各元金に対する平成15年7月1日から平成16年12月31日までの遅延損害金の額が記載された遅延損害金一覧表が別紙2としてそれぞれ添付され、「甲」欄に請求人名義の、「乙」欄にP9名義の各署名押印がある。
 平成18年確認書には、乙(P9)は、甲(請求人)に対し、別紙1記載の借入金債務を負担していること及び本件各元金に対する遅延損害金が別紙2記載の金額であることを確認する旨並びに甲(請求人)は、乙(P9)に対し、上記遅延損害金の請求権を放棄する旨が記載されている。
(ヲ) 平成19年3月1日付で貸主(甲)を請求人、借主(乙)をP9とする「貸金等に関する確認書」(以下「平成19年確認書1」という。)が作成されており、本件各借用証書に係る貸金が記載された貸金目録が別紙1として、また、本件各元金に対する平成17年1月1日から平成18年6月30日までの遅延損害金の額が記載された遅延損害金一覧表が別紙2としてそれぞれ添付され、「甲」欄に請求人名義の、「乙」欄にP9名義の各署名押印がある。
 平成19年確認書1には、乙(P9)は、甲(請求人)に対し、別紙1記載の借入金債務を負担していること及び本件各元金に対する遅延損害金が別紙2記載の金額であることを確認する旨並びに甲(請求人)は、乙(P9)に対し、上記遅延損害金の請求権を放棄する旨が記載されている。
(ワ) 平成19年3月1日付で貸主(甲)を請求人、借主(乙)をP9とする「貸金等に関する確認書」(以下「平成19年確認書2」という。)が作成されており、本件各借用証書に係る貸金並びに平成8年債権放棄確認証及び平成9年債権放棄確認証が記載された書類目録が別紙として添付され、「甲」欄に請求人名義の、「乙」欄にP9名義の各署名押印がある。
 平成19年確認書2には、甲(請求人)と乙(P9)は、平成9年債権放棄確認証の借入金債務元金636,086,065円に本件各元金合計214,212,700円が含まれていることを確認する旨及び上記借入金元金636,086,065円から本件各元金合計214,212,700円を差し引いた残りの部分の元金421,873,365円のうち100,000,000円を放棄する旨が記載されている。
(カ) 平成20年3月5日付で貸主(甲)を請求人、借主(乙)をP9とする「貸金等に関する確認書」(以下「平成20年確認書1」という。)が作成されており、本件各借用証書に係る貸金が記載された貸金目録が別紙1として、また、本件各元金に対する平成18年7月1日から平成19年12月31日までの遅延損害金の額が記載された遅延損害金一覧表が別紙2としてそれぞれ添付され、「甲」欄に請求人名義の、「乙」欄にP9名義の各署名押印がある。
 平成20年確認書1には、乙(P9)は、甲(請求人)に対し、別紙1記載の借入金債務を負担していること及び本件各元金に対する遅延損害金が別紙2記載の金額であることを確認する旨並びに甲(請求人)は、乙(P9)に対し、上記遅延損害金の請求権を放棄する旨が記載されている。
(ヨ) 平成20年3月5日付で貸主(甲)を請求人、借主(乙)をP9とする「貸金等に関する確認書」(以下「平成20年確認書2」という。)が作成されており、本件各借用証書に係る貸金並びに平成8年債権放棄確認証及び平成9年債権放棄確認証が記載された書類目録が別紙として添付され、「甲」欄に請求人名義の、「乙」欄にP9名義の各署名押印がある。
 平成20年確認書2には、甲(請求人)と乙(P9)は、平成9年債権放棄確認証の借入金債務元金636,086,065円に本件各元金合計214,212,700円が含まれていることを確認する旨及び上記借入金元金636,086,065円から本件各元金合計214,212,700円を差し引いた残りの部分の元金421,873,365円のうち85,000,000円を放棄する旨が記載されている。
(タ) 平成21年3月6日付で貸主(甲)を請求人、借主(乙)をP9とする「貸金等に関する確認書」(以下「平成21年確認書1」という。)が作成されており、本件各借用証書に係る貸金が記載された貸金目録が別紙1として、また、本件各元金に対する平成20年1月1日から平成20年12月31日までの遅延損害金の額が記載された遅延損害金一覧表が別紙2としてそれぞれ添付され、「甲」欄に請求人名義の、「乙」欄にP9名義の各署名押印がある。
 平成21年確認書1には、乙(P9)は、甲(請求人)に対し、別紙1記載の借入金債務を負担していること及び本件各元金に対する遅延損害金が別紙2記載の金額であることを確認する旨並びに甲(請求人)は、乙(P9)に対し、上記遅延損害金の請求権を放棄する旨が記載されている。
(レ) 平成21年3月6日付で貸主(甲)を請求人、借主(乙)をP9とする「貸金等に関する確認書」(以下「平成21年確認書2」という。)が作成されており、本件各借用証書に係る貸金並びに平成8年債権放棄確認証及び平成9年債権放棄確認証が記載された書類目録が別紙として添付され、「甲」欄に請求人名義の、「乙」欄にP9名義の各署名押印がある。
 平成21年確認書2には、甲(請求人)と乙(P9)は、平成9年債権放棄確認証の借入金債務元金636,086,065円に本件各元金合計214,212,700円が含まれていることを確認する旨及び上記借入金元金636,086,065円から本件各元金合計214,212,700円を差し引いた残りの部分の元金421,873,365円のうち74,000,000円を放棄する旨が記載されている。
(ソ) 請求人は、当審判所に対し、P9からは昭和47年以降弁済はなく、回収を試みたことはあるが、結局回収できていない旨を答述した。
ロ 登記事項全部証明書の内容
(イ) c物件
 c物件については、次の登記が経由されている。
A 平成3年12月26日受付、原因を平成3年12月26日設定、極度額金2億円、根抵当権者を請求人とする根抵当権設定登記。
B 平成8年3月19日受付、原因を平成8年3月19日売買、所有者をP9とする共有者全員持分全部移転登記。
C 平成8年3月19日受付、原因を平成8年3月19日設定、極度額金3億円、債務者をP9、権利者を請求人とする根抵当権設定仮登記。
D 平成22年5月17日受付、原因を真正な登記名義の回復、所有者を請求人とする所有権移転登記。
(ロ) d物件
 d物件については、次の登記が経由されている。
A 平成8年4月15日受付、原因を平成8年4月15日売買、所有者をP9とする所有権移転登記。
B 平成8年4月15日受付、原因を平成8年4月15日設定(条件 平成8年4月15日金銭消費貸借の債務不履行)、債務者をP9、権利者を請求人とする条件付根抵当権設定仮登記。
C 平成22年5月17日受付、原因を真正な登記名義の回復、所有者を請求人とする所有権移転登記。
ハ 貸倒れに係る債権の存否について
(イ) 原処分庁は、請求人がP9に対して行ったとする債権放棄について、登記簿上は平成8年にP9が売買によってc物件及びd物件を取得したこととされているが、この売買は、虚偽の売買契約書を作成してされた虚偽のものであって、真実は請求人が購入したものであり、P9には借入れを行う理由がないから、請求人とP9との間の金銭消費貸借契約は架空のものであって、そもそも債権放棄に係る債権が存在せず、したがって、これを原因とする貸倒損失の計上は認められない旨を主張する。
 一方で、請求人は、平成8年当時、現実にP9に対して貸付けはしていないが、昭和47年5月1日、P9との間で、それまでの同人に対する十数回にわたる貸付金の合計額750,000,000円について準消費貸借契約を締結し、平成7年から平成8年にかけてこの準消費貸借契約に基づく準消費貸借金の一部を本件各借用証書に書き直した上、本件各借用証書に係る貸金を含む上記準消費貸借金の元金の一部及び遅延損害金について、平成9年から平成21年にかけて、これを順次債権放棄してきた旨及びc物件及びd物件については、実際の買主は請求人であるものの、請求人を所有名義人とすると過払金返還請求でこれを差し押さえられる可能性があったため、形式上P9が本件各借用証書の一部に係る借入金額と同額でこれを購入したこととして、P9の所有名義としたものである旨主張し、上記イのとおり、当該主張に沿う証拠を提出する。
(ロ) そこで検討するに、平成8年当時に請求人とP9の間で貸付けに係る金銭の授受が行われていないことについては、原処分庁と請求人との間に争いはなく、また、本件の全証拠からしても当該平成8年当時に金銭の授受は行われていないと認められることから、P9に対する貸倒れに係る債権の存在については、上記イの(イ)の昭和47年借用証書に係る準消費貸借契約の成立が前提となる。
 そうであるところ、証拠によれば、昭和47年借用証書及び本件各借用証書並びに平成8年債権放棄確認証、平成9年債権放棄確認証及び平成9年確認書は、いずれも、遅くとも平成9年3月には存在していた事実が認められる。そして、本件各借用証書の中に登記簿上記載されたc物件及びd物件の各売買日と合致する日付のものが存在すること及びc物件については請求人が売買前から根抵当権を設定していたことなどからすれば、上記各物件については、実際の買主は請求人であるものの、請求人を所有名義人とすると過払金返還請求でこれを差し押さえられる可能性があったため、形式上P9が本件各借用証書の一部に係る借入金額と同額でこれを購入したこととして、P9の所有名義としたものである旨の請求人の主張内容が、不自然、不合理であるとはいえず、そうであるとすれば、昭和47年借用証書に係る準消費貸借金750,000,000円の一部を本件各借用証書に書き直した旨の平成9年確認書等の記載内容も、それ自体直ちに不自然、不合理であるということはできない。このことに加えて、昭和47年借用証書にはP9名義の署名押印がされており、その成立を疑わせるに足りる証拠はないこと、昭和47年借用証書に記載されたP9の住所地は、平成8年債権放棄確認証、平成9年債権放棄確認証及び平成9年確認書に記載されたP9の住所地と異なっていることからして、昭和47年借用証書は平成8年債権放棄確認証等とは異なる時期(平成8年債権放棄確認証等の作成時期よりも前の時期)に作成された様子がうかがわれること、当該時期において請求人がP9に対し貸金債権等を何ら有していなかったにも関わらずP9との間で内容虚偽の借用証書を作成して準消費貸借契約を仮装しなければならない特段の事情の存在は証拠上見当たらないことなどを併せ考えると、昭和47年借用証書に係る準消費貸借金債権の存在を否定するのは困難というべきであり、また、本件各借用証書の成立を疑わせるに足りる証拠もないことからすれば、本件各借用証書に係る債務の存在を否定することも困難というべきである。したがって、請求人の主張するP9に対する貸倒れに係る債権が存在しないとまでは認めることができず、原処分庁の主張には理由がない。
ニ 貸倒損失の計上の可否について
 そこで、請求人の主張する貸倒損失の計上が認められるか否かを検討すると、上記イの(ハ)の平成8年債権放棄確認証の記載内容及び同(ソ)の請求人の答述からすれば、P9は、請求人に対し、昭和47年借用証書が作成された当時から今日に至るまでの間、昭和47年借用証書に係る準消費貸借金ないし本件各借用証書に係る準消費貸借金について、元本、利息及び遅延損害金の名目のいかんを問わず一切の支払をしていないことが認められ、かえって、請求人は、P9に対し、平成8年6月3日付の平成8年債権放棄確認証により昭和47年借用証書に係る準消費貸借金債務750,000,000円に対する平成7年12月31日までの利息及び遅延損害金を放棄したことを確認する旨の処理をし、平成9年3月10日付の平成9年債権放棄確認証により上記準消費貸借金債務の元金の一部(113,913,935円)を平成8年12月31日付で放棄した旨の処理をしているのであって、平成8年末当時P9が本件各借用証書に係る債務を包含する昭和47年借用証書に係る準消費貸借金債務の全部又は一部を返済するに足りる資産を有していたことをうかがわせるような証拠も見当たらない。
 そうすると、遅くとも平成8年末頃までには、本件各借用証書に係る債務を含む昭和47年借用証書に係る準消費貸借金債権について、元金、利息及び遅延損害金を含むその全額が回収不能であることが客観的に明らかであったということができるから、このことを上記(1)の法令解釈に当てはめれば、上記債権の貸倒れにより生じた損失については、請求人の平成9年分以降の事業所得の金額の計算上、その全部又は一部を必要経費に算入することはできないものというべきである。

(3) P5社について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、P5社に対し、平成3年3月29日、同年4月11日及び同年6月11日に、合計170,000,000円を貸し付けた(以下、当該貸付けに係るP5社の債務を併せて「本件P5社借入金」という。)。また、P5社の代表者であるP6は、請求人に対し、本件P5社借入金債務について、各貸付けがされた時に連帯保証をした。
(ロ) 請求人が当審判所に提出した平成12年2月21日付「代物弁済契約書」(以下「本件P5社代物弁済契約書」という。)には、「甲」欄に請求人名義の署名及び押印、「乙」欄に「P5社 清算人 P6」名義の署名及びP5社名義の押印、「丙」欄に「P6」名義の署名及び押印、「丁」欄に「P10」名義の署名及び押印があり、本文において、まる1第1条第1項には、乙(P5社)は、甲(請求人)に対し、上記(イ)の平成3年4月11日の貸付けに係る借入金元金(50,000,000円)に対する平成3年6月1日から平成10年5月31日までの遅延損害金(○○○○円)の弁済に代え、所有する不動産(e市f町○丁目所在、地番○番。以下「f土地」という。)の所有権を移転する旨、まる2同条第2項には、丙(P6)は、甲(請求人)に対し、所有する不動産(e市f町○丁目○番地所在の建物。以下「f建物」という。)の共有持分2分の1を移転し、第1項の借入金元金(50,000,000円)に対する平成10年6月1日から平成12年2月21日までの遅延損害金(○○○○円)の弁済に代える旨、まる3第3条には、丁(P10)は、甲(請求人)のために、f建物の共有持分2分の1を放棄する旨の記載がある。
(ハ) f土地及びf建物においては、いずれも、平成12年2月21日受付、原因を平成12年2月21日代物弁済、所有者(ないし共有者)を請求人とする所有権移転登記ないし持分全部移転登記が経由されている。
(ニ) 上記(ハ)の登記申請手続においては、P5社、P6及びP10の印鑑証明書が添付されているが、当該印鑑証明書の印影は、上記(ロ)の本件P5社代物弁済契約書におけるP5社、P6及びP10の署名欄にある印影と同一である。
(ホ) P5社は、平成元年1月○日に設立された、不動産の売買、仲介及び管理等を目的とする株式会社であったが、平成9年6月○日、平成2年法律第64号附則第6条第1項《株式会社が最低資本金に達しない場合の措置》の規定により、解散したものとみなされ、解散に係る登記が経由された。
(ヘ) P5社の登記簿謄本における役員に関する事項欄においては、平成3年4月から平成12年までの異動がなく、平成12年1月27日、清算人をP6とする就任登記が経由された。
(ト) P5社は、平成3年中に、請求人に対し、本件P5社借入金について、合計9,000,000円を弁済したものの、それ以降、P5社及びP6は、上記(ロ)及び(ハ)のf土地及びf建物による代物弁済を除く他弁済をしていない。
(チ) 請求人は、当審判所に対し、P5社及びP6からは平成12年2月21日の代物弁済以降は回収できていない、代物弁済契約の前から、P5社及びP6は無一文であると、P6から聞いている旨を答述した。
ロ 貸倒れに係る債権の存否について
(イ) 請求人は、P5社に対し、本件P5社借入金について、まる1平成18年12月24日に45,020,000円、まる2平成19年12月25日に71,270,000円、まる3平成20年12月21日に70,920,000円、まる4平成21年12月22日に94,905,000円の各債権放棄をしたから、平成18年分ないし平成21年分において貸倒損失の計上が認められるべきである旨主張し、次のとおり債権放棄書を提出する。
A 平成17年12月22日付P5社及びP6宛の各債権放棄書
 上記各債権放棄書には、平成3年3月29日付貸付金100,000,000円に対する平成3年6月1日から同月30日までの約定利息3,000,000円及び同年7月1日から平成4年6月30日までの約定損害金36,500,000円の合計39,500,000円並びに平成3年6月11日付貸付金20,000,000円に対する平成3年6月11日から同年7月20日までの約定利息933,600円及び同月21日から平成4年6月30日までの約定損害金8,053,150円の合計8,986,750円、以上合計48,486,750円を放棄する旨の記載がある。
B 平成18年12月24日付P5社及びP6宛の各債権放棄書
 上記各債権放棄書には、平成3年3月29日付貸付金100,000,000円に対する平成4年7月1日から平成5年6月30日までの約定損害金36,500,000円及び平成3年6月11日付貸付金20,000,000円に対する平成4年7月1日から平成5年6月30日までの約定損害金8,520,000円の合計45,020,000円を放棄する旨の記載がある。
C 平成19年12月25日付P5社及びP6宛の各債権放棄書
 上記各債権放棄書には、平成3年3月29日付貸付金100,000,000円に対する平成5年7月1日から平成6年6月30日までの約定損害金36,500,000円、平成3年4月11日付貸付金50,000,000円に対する平成12年2月22日から平成13年7月31日までの約定損害金26,250,000円及び平成3年6月11日付貸付金20,000,000円に対する平成5年7月1日から平成6年6月30日までの約定損害金8,520,000円の合計71,270,000円を放棄する旨の記載がある。
D 平成20年12月21日付P5社及びP6宛の各債権放棄書
 上記各債権放棄書には、平成3年3月29日付貸付金100,000,000円に対する平成6年7月1日から平成7年6月30日までの約定損害金36,500,000円、平成3年4月11日付貸付金50,000,000円に対する平成13年8月1日から平成14年12月31日までの約定損害金25,900,000円及び平成3年6月11日付貸付金20,000,000円に対する平成6年7月1日から平成7年6月30日までの約定損害金8,520,000円の合計70,920,000円を放棄する旨の記載がある。
E 平成21年12月22日付P5社及びP6宛の各債権放棄書
 上記各債権放棄書には、平成3年3月29日付貸付金100,000,000円に対する平成7年7月1日から平成8年12月31日までの約定損害金54,750,000円、平成3年4月11日付貸付金50,000,000円に対する平成15年1月1日から平成16年6月30日までの約定損害金27,375,000円及び平成3年6月11日付貸付金20,000,000円に対する平成7年7月1日から平成8年12月31日までの約定損害金12,780,000円の合計94,905,000円を放棄する旨の記載がある。
(ロ) この点、P5社の代表者であるP6は、当審判所に対し、上記3の(1)のハのとおり、請求人から170,000,000円を借りたことはあるものの、平成4年に、f土地及びf建物をもって代物弁済をしたことにより、本件P5社借入金は消滅しており、残債務があるとは認識していない旨及びP6は、平成7年以降、請求人と会ったことも電話で話したこともなく、また、平成12年当時妻とは音信不通であったので、代物弁済契約書を作成できるはずはない旨の答述をする(以下、当該答述を「本件P6答述」という。)。
 しかしながら、上記イの(イ)ないし(ヘ)の各事実からすれば、本件P5社代物弁済契約書は、その作成日付である平成12年2月21日頃作成された事実が認められることに加えて、本件P5社代物弁済契約書のP5社、P6及びP10の署名欄の印影は、各々の印鑑証明書の印影と同一であって、本人の実印によって顕出されたことが認められるから、本人の意思に基づいて押印された事実が推定され、本件P5社代物弁済契約書は、P5社、P6及びP10の意思に基づいて作成された事実が推定されるところ、本件P6答述についてはこれを裏付ける客観的証拠はなく、本件の全証拠をもってしても、上記推定を覆すに足りる証拠はない。
 そうすると、本件P5社代物弁済契約書はその作成日付である平成12年2月21日頃にその作成名義人であるP6らの意思に基づいて作成されたものであると認められるから、P5社及びP6は、本件P5社代物弁済契約書の記載のとおり、平成12年2月21日付にて、本件P5社借入金のうち平成3年4月11日付貸付金50,000,000円に対する平成3年6月1日から平成12年2月21日までの年○割の割合による遅延損害金債務(合計○○○○円)の弁済に代えてf土地及びf建物の所有権を請求人に移転したものと認められるから、上記代物弁済をもって、本件P5社借入金の全額が消滅したものとは認められない。
ハ 貸倒損失の計上の可否について
 そこで、請求人が主張する本件後続各年分における本件P5社借入金に係る貸倒損失の計上が認められるかを検討すると、上記イの(ホ)ないし(ト)のとおり、P5社は、平成3年中に、請求人に対し、本件P5社借入金について、合計9,000,000円を弁済したものの、それ以降は、平成12年の代物弁済を除いて全く弁済をしていない事実が認められるところ、P5社は、上記代物弁済当時、いわゆる休眠状態にあったものと認められ、上記イの(チ)のとおり、請求人自身、上記代物弁済の前から、P5社及びP6は無一文であるとP6から聞いている旨答述しており、上記代物弁済以降は、P5社及びP6に対して債権放棄を繰り返しているのみであり、P5社らに対して履行の請求をしていない事実が認められる。
 そうすると、遅くとも、上記の代物弁済後の平成12年末の時点において、P5社に対する本件P5社借入金及びP6に対する本件P5社借入金に係る連帯保証債権は、その全額が回収不能であることが客観的に明らかであったということができるから、このことを上記(1)の法令解釈に当てはめれば、上記各債権の貸倒れにより生じた損失については、請求人の平成13年分以降の事業所得の金額の計算上、その全部又は一部を必要経費に算入することはできないものというべきである。

(4) 小括

 以上のことからすれば、原処分が、P9及びP5社に係る貸倒損失を本件後続各年分における事業所得の金額の計算上、必要経費に算入していないことに違法はない。

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6 争点2−3(不動産の譲渡収入に係る所得区分及び収入金額)に関する判断

(1) 法令解釈

 原処分庁は、請求人が行った不動産の譲渡に係る収入について、当該収入に係る所得区分を、所得税基本通達27−4により、譲渡所得及び事業所得に区分している。
 そこで検討するに、所得税法第33条によれば、非課税に該当しない資産の譲渡に係る所得は、原則として譲渡所得に区分されているが、資産の譲渡であっても、棚卸資産等の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡や山林の伐採又は譲渡による所得は、譲渡所得から除外されている。これは、資産の譲渡によって生じた所得であっても、税負担の衡平を図る見地から一律の取扱いをすることなく、保有期間の値上がり益や外部的な変化に基因する資産価値の増加が一時的・偶発的に実現する場合については、人的努力及び活動に基因する資産価値の増加が経常的・計画的に実現する場合と比較して担税力において劣ることから、両者を区分し、前者については譲渡所得として税負担の軽減を図り、後者については事業所得又は雑所得等として譲渡所得の範囲から除外する趣旨と解される。
 そして、金融業を営む者が担保権の実行又は代物弁済等によって土地、建物等を取得した後これを譲渡した場合には、当該譲渡は所得税法施行令第63条第8号に規定する金融業の関連の行為として行ったものと見るのが相当であり、このような土地、建物等の譲渡は、棚卸資産等の譲渡に該当するとして所得税法第33条第2項第1号の規定の適用により事業所得と区分されると解すべきであって、これと同趣旨の所得税基本通達27−4の定めは当審判所においても相当と認められる。

(2) 判断

 原処分庁は、請求人が本件後続各年分にて行った不動産の譲渡に係る所得区分について、まる1j物件に係る譲渡を事業所得、まる2g物件に係る譲渡を譲渡所得、まる3h物件に係る譲渡を譲渡所得、まる4i物件に係る譲渡を譲渡所得であると認定し、請求人は、所得税基本通達27−4の定めからすれば、まる1について譲渡所得、まる2について事業所得である旨を主張する。
 そこで、請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果から認められる事実に基づき検討すれば次のとおりである。
イ j物件については、請求人は自ら担保権を実行したものではなく、競売手続によって取得したものと認められ、当該不動産の譲渡は金融業の関連の行為とはいえず、事業所得とはいえないから、請求人の主張するとおり、譲渡所得に区分される。
 なお、譲渡に係る収入金額は、付表3の「j物件」の「譲渡価額」欄のとおりと認められる。
ロ g物件については、まる1請求人が、区分所有建物の所有者(P37)に対して貸付けを行い、平成6年9月2日、当該区分所有建物について根抵当権設定登記を経由し、まる2請求人がまる1の区分所有建物について担保不動産の競売を申し立てて自ら競落したところ、まる3平成7年の阪神大震災によりまる1の区分所有建物が倒壊していたことから、まる4請求人が、平成11年に、まる3の震災後まる1の区分所有建物の替わりとして再築された区分所有建物を取得し、まる5請求人が、P38に対し、平成19年6月15日、まる4の区分所有建物を譲渡した事実が認められ、これらの事実によれば、当該区分所有建物の譲渡は、金融業の関連の行為といえるから、棚卸資産等の譲渡に該当し、請求人の主張するとおり、事業所得に区分される。
 なお、譲渡に係る収入金額は、付表3の「g物件」の「譲渡価額」欄のとおりと認められる。
ハ h物件及びi物件に係る各譲渡については、いずれも譲渡所得に区分されることについて、原処分庁と請求人の間に争いはなく、本件の全証拠からしても当該所得区分を相当と認める。
 なお、それぞれの譲渡に係る各収入金額は、付表3の「h物件」及び「i物件」の各「譲渡価額」欄のとおりと認められる。
ニ また、請求人は、平成20年分のi物件の譲渡について、収用交換等により譲渡したものであるから、租税特別措置法第33条の4の第1項の規定により、50,000,000円の特別控除がされるべきである旨を主張するが、当該規定の適用を受けるためには、同条第4項により、請求人のように平成20年分の所得税の確定申告義務がある者においては、当該確定申告書にその適用を受けようとする旨の記載をすること等が要件となるところ、請求人は平成20年分の確定申告において当該要件を満たしていないことが認められるから、請求人の主張は採用することができない。

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7 争点2−4(不動産の貸付けに係る収入金額)に関する判断

(1) はじめに

 請求人の不動産の貸付けに係る収入金額について、請求人は、下記(2)のk駐車場(月ぎめ契約を除くコインパーキング部分。以下「k駐車場コインパーキング部分」という。)以外の物件について、争うとしつつも具体的な主張、立証をしておらず、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果からすれば、k駐車場コインパーキング部分以外の不動産の貸付けに係る収入金額は、少なくとも、付表4−1、4−2及び4−4ないし4−22のとおりの金額と認められる。なお、原処分庁の認定額に一部誤りがあったので、その点は訂正した。
 また、請求人は、平成15年分ないし平成20年分の確定申告に係る不動産所得の各収支内訳書において、○○物件(付表4−5)、uガレージ(付表4−6)、i駐車場(付表4−8)、p駐車場(付表4−10)、q駐車場(付表4−13)、vガレージ(付表4−20)、dガレージ(付表4−21)の各物件に係る不動産収入をいずれも計上しておらず、平成20年分については、k駐車場コインパーキング部分を除く不動産賃貸収入は合計○○○○円であるところ、うち○○○○円(○○物件、uガレージ、i駐車場、p駐車場、vガレージ、dガレージに係る各収入金額の合計額であり、k駐車場コインパーキング部分を除く不動産賃貸収入の合計額○○○○円に占める割合は約30パーセント)が申告されていないことが認められる。

(2) k駐車場コインパーキング部分について

 原処分庁は、k駐車場コインパーキング部分に係る収入金額について、推計の方法による認定額を主張するところ、上記4の(1)のイの推計課税に係る法令解釈からすれば、推計の必要性及び合理性が要件となるので、以下検討する。
イ 推計の必要性について
(イ) 原処分時における推計の必要性
 本件の全証拠によれば、請求人は、当初処分に係る調査及び再処分に係る調査を通じて税務調査に非協力的な対応をとり、k駐車場に係る収入金額を把握できる資料を提出しなかったことが認められ、このことによって、原処分庁は実額での収入金額の把握が困難となったものであり、原処分時における推計の必要性は認められる。
(ロ) 裁決時における推計の必要性
 この点、請求人は、当審判所に対して、平成23年6月28日、「k駐車場・日計」(以下「本件コインパーキング日計記録」という。)と題する資料を提出し、当該資料記載の金額が実際の収入金額である旨を主張するものと解されるので検討する。
A 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(A) 請求人は、当審判所に対し、k駐車場に設置されたコインパーキング機械(以下「本件コインパーキング機械」という。)の設置状況、料金の管理方法等について、まる1多いときは1日2回、少ないときは1日から5日ごとに、請求人又は請求人の長男がコインパーキングの精算機の金庫から現金を回収する、まる2コインパーキングの精算機には、毎日0時0分に集計したものが表示されるので、駐車料金を回収する際に、表示された金額をメモに控えて持ち帰り、パソコンの表計算ソフトに入力して保存しており、その表計算ソフトで印刷したものが本件コインパーキング日計記録であり、それ以外の記録はない旨を答述した。
(B) 本件コインパーキング機械には、P40社の製品である旨の表示があり、その形状は同社のカタログにおける「w商品」という製品と合致し、当該製品に係る取扱説明書によれば、ジャーナルプリンター、レシートプリンター等が内蔵されている。
(C) 請求人は、当審判所に対し、料金の集計方法は、まる1上記(A)のとおりの精算機に表示されるものをその場でメモする方法の他、まる2精算機を開けて排出される、料金が記載されたジャーナル用紙を持って帰り、それをパソコン入力するという方法がある、ジャーナルは4日くらい前まで出る、なお、ジャーナル用紙はぐちゃぐちゃになってしまうので、パソコン入力後は事務所で捨てており、現在保存していない旨答述した。
(D) 本件コインパーキング日計表に記録された収入金額は、平成15年分は16,855,100円、平成16年分は8,128,200円、平成17年分は7,030,700円、平成18年分は6,800,300円、平成19年分は6,700,400円、平成20年分は6,020,800円及び平成21年分は9,800,700円である。
(E) k駐車場コインパーキング部分の駐車区画(当駐車場の駐車可能区画数(38台)から月ぎめ契約の区画数を除いたもの)は、付表5−2の各「区画数」欄記載のとおりである。
 また、k駐車場コインパーキング部分の利用時間ごとの単価は、付表5−3の「単価」欄記載のとおり、まる1午前8時から午後12時(合計16時間)までが20分間ごとに100円、まる2午後12時から午前8時(合計8時間)までが60分ごとに100円である。
B 判断
 上記(イ)のとおり、請求人は、原処分庁の税務調査の段階では、k駐車場に係る収入金額を確認できる資料を提出せず、当審判所に対する審査請求の段階で初めて本件コインパーキング日計記録を提出したものであるが、上記Aの(B)のとおり、本件コインパーキング機械は、ジャーナルプリンター等が内蔵されており、利用の都度その売上金額が正確に記録される仕組みになっていると認められるところ、請求人は、上記Aの(A)及び(C)のとおり、本件コインパーキング日計記録の作成経緯について、請求人又は請求人の長男が精算機の金庫から現金を回収する際に精算機に表示された集計金額をメモに控えて持ち帰ったものをパソコンに入力し、あるいは、精算機から排出されるジャーナル用紙を持ち帰ってパソコンに入力して作成した旨答述し、ジャーナル用紙については、ぐちゃぐちゃになってしまうのでパソコン入力後は事務所で捨てており保存していない旨答述して、本件コインパーキング日計記録作成の基となった原始記録を一切提出しない。
 そうであるところ、上記Aの(D)及び(E)のとおり、本件コインパーキング日計記録によれば、平成21年分の収入金額は9,800,700円であり、これを、利用時間(16時間:8時間)であん分すると、まる1午前8時から午後12時(合計16時間)までの売上げが6,468,462円、まる2午後12時から午前8時(合計8時間)までの売上げが3,332,238円となるが、平成21年分の駐車区画は、付表5−2のとおり、各月とも38台であり、この区画が全て毎日午前8時から午後12時まで16時間利用された場合の年間売上金額は、38台×100円×960分(16時間)/20分×365日=66,576,000円となるのであって、本件コインパーキング日計記録に記載された売上金額は、k駐車場コインパーキング部分が全区画全時間完全に利用された場合の売上金額の約10%程度にすぎないことになり、それ以前の年分についても、本件コインパーキング日計記録に記載された売上金額による限り、同程度の比率となる。しかしながら、上記のような本件コインパーキング日計記録の売上金額の記載から推定されるk駐車場コインパーキング部分の利用状況は、その立地条件等に鑑みると、経験則上、にわかに信用し難いものというべきである。
 これらのことからすれば、請求人が当審判所に提出した本件コインパーキング日計記録の記載がk駐車場コインパーキング部分の真実の収入金額を正確に記録したものであると認めることはできず、真実の収入金額を実額で把握することは不可能又は著しく困難であるから、裁決時においても上記収入金額の認定につき推計の必要性を認めざるを得ない。
ロ 推計の合理性について
(イ) k駐車場コインパーキング部分の収入金額について原処分庁が主張する推計方法は、近隣の同業者3件に係る駐車スペース1区画の1日当たりの平均利用時間を算定し、k駐車場コインパーキング部分の駐車スペースの区画数に乗じて総利用時間を算定し、利用単価を乗じる、という方法である。
 なお、原処分庁は、k駐車場コインパーキング部分においては利用料金の上限が設けられていないことから、同業者のうち一定の時間内の料金の上限(最大料金)を設定しているものに係る平均利用時間を算定するに当たり、最大料金相当の利用時間を超過する利用時間を控除する(24時間以内の利用であれば一定の料金が最大料金と設定されている同業者の場合、当該最大料金相当の利用時間を超える時間分利用した者については、最大料金相当の利用時間分だけ利用したものとして計算する)という方法によっている。
(ロ) そこで検討するに、原処分庁は、k駐車場に近接するコインパーキングのうち、利用事績が詳細に残されている同業者3件を選定したことが認められ、その選定した同業者について業種及び業態に類似性が認められる上、これらの同業者の利用状況に係る資料は正確なものと認められるところ、これらの同業者に係るコインパーキング利用状況とk駐車場コインパーキング部分の利用状況は同程度のものと考えられるから、原処分庁の採用した推計方法には、合理性があると認められる。
 以上によって、k駐車場コインパーキング部分に係る収入金額を推計すれば付表5−1ないし5−3のとおりである。なお、原処分庁による算定には、最大料金の考慮方法の一部の過程に誤りがあったので、その点を修正した。

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8 争点2−5(その他各所得区分に応じた必要経費額等)に関する判断

(1) 事業所得に係る必要経費

 原処分庁は、事業所得に係る必要経費について取引先調査等により把握した一定の金額を主張し、請求人はこれらの全てを争うとするものの、ほぼ全ての原処分庁主張額について、具体的な主張及び立証をしない。
 そこで、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果から認められる事実に基づき、請求人の本件後続各年分の事業所得に係る必要経費を認定すれば、付表6−1ないし付表6−7及び付表3の「g物件」の「取得費」欄及び「譲渡費用」欄記載のとおりである。
 なお、請求人が主張する過払金に対する年5分の割合による遅延損害金については、付表6−4の「利息」の「合計」欄記載のとおりの金額を必要経費に算入すべきである。

(2) 不動産所得に係る必要経費

 原処分庁は、不動産所得に係る必要経費について取引先調査等により把握した一定の金額を主張し、請求人はこれらの全てを争うとするものの、原処分庁主張額について、具体的な主張及び立証をしない。
 そこで、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果から認められる事実に基づき、請求人の本件後続各年分の不動産所得に係る必要経費を認定すれば、付表7−1ないし7−5のとおりである。

(3) 譲渡所得に係る取得費等

 原処分庁は、不動産の譲渡に係る取得費等について取引先調査等により把握した一定の金額を主張し、請求人はこれらの全てについて争うとするものの、原処分庁主張額について、具体的な主張及び立証をしない。
 そこで、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果から認められる事実に基づき、請求人の本件後続各年分の譲渡所得に係る取得費等を認定すれば、付表3の「j物件」、「h物件」及び「i物件」の各「取得費」欄及び各「譲渡費用」欄記載のとおりである。

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9 争点3−1(駐車場の貸付けが、課税資産の譲渡等に該当するか否か)に関する判断

(1) 法令解釈

イ 消費税法施行令第8条の趣旨
 消費税法第6条第1項は「国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第一に掲げるものには、消費税を課さない。」とし、同表第1号で「土地の譲渡及び貸付け(一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)」と規定して、土地の貸付けを原則として非課税取引としつつ、消費税法施行令第8条で消費税法別表第一第1号に規定する政令で定める場合として、「駐車場その他の施設の利用に伴って土地が使用される場合」を規定して、この場合の「土地の貸付け」を非課税取引から除き、課税取引としている。
 これは、消費税が物品又はサービスの消費に税負担を求めるという性格であるところ、土地の貸付けは、消費そのものではなく、単なる資本の振替ないし移転であると考えられることから、原則として非課税取引とするものの、「駐車場その他の施設の利用に伴って土地が使用される場合」は、土地そのものの貸付けではなく、駐車場その他の施設の利用に消費としての性格が認められることから、課税取引としたものであると解される。
ロ 消費税法基本通達6−1−5の(注)1の定めの相当性
 消費税法基本通達6−1−5の(注)1は、「事業者が駐車場として土地を利用させた場合において、その土地につき駐車場としての用途に応じる地面の整備又はフェンス、区画、建物の設置等をしていないときは、その土地の使用は、土地の貸付けに含まれる。」と定めている。これによれば、「事業者が駐車場として土地を利用させた場合において、その土地に駐車場としての用途に応じる地面の整備又はフェンス、区画、建物の設置等をしている場合、その土地の使用は、施設の貸付けに該当する。」ものとされるが、この取扱いは、上記イのとおりの消費税法第6条第1項、同法別表第一第1号及び消費税法施行令第8条の各規定の趣旨に沿うものということができ、当審判所においても相当であると認める。

(2) 判断

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) m駐車場、n駐車場、p駐車場及びq駐車場について
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、m駐車場、n駐車場及びp駐車場については、いずれも、地面には一面に砂利が敷かれており、駐車スペースにあわせたロープが引かれていることが認められる。
 また、q駐車場については、現在、駐車場として利用されていないが、当該駐車場に係る賃借人は、当該駐車場の外観の状況は、更地でロープが引かれていた旨の申述をするところ、当該賃借人は、請求人と利害関係がなく、具体的な申述をしていることから、q駐車場に係る外観の状況についての申述は、信用性が認められる。
 なお、請求人は、当審判所に対し、q駐車場について、ロープを張っていない旨を答述するところ、q駐車場に係る駐車場賃貸契約書においては契約場所が番号により特定されるものとされており、現地に何らの区画も表されていないとは考え難いこと、また、上記のとおり、請求人が駐車場として賃貸しているm駐車場、n駐車場及びp駐車場についてはいずれも駐車スペースにあわせてロープが張られていることからすれば、q駐車場についてロープを張っていない旨の請求人の答述はにわかに措信できない。
(ロ) r駐車場について
A r駐車場は、請求人がアスファルト舗装をし、白線の駐車枠を引いた形状の月ぎめ駐車場としていたが、平成18年5月頃、一部の駐車枠を消して、当該部分をコインパーキング業者であるP11社に貸し付け、同社が駐車枠を設け、コインパーク用機械等を設置したものである。
B r駐車場に係る一時使用駐車場用地賃貸借契約書においては、借主であるP11社は、まる1当該駐車場を無人時間貸駐車機器の設置及び運営等の目的によって使用することとされ(第1条)、まる2土地を明け渡す際には、アスファルトについては舗装された状態で、車室ラインはペイントされた状態で明け渡すものとされ(第9条)、まる3賃料については消費税等相当額込みの金額であるとされている。
(ハ) s駐車場について
A s駐車場は、元所有者であるP41社が破産をしたことにより、請求人が、P41社破産管財人弁護士から、平成21年3月12日、売買により取得したものである。
B 上記Aの売買に係る不動産売買契約書においては、特約事項として、「本件土地1及び2の各北辺付近、ならびに本件土地3ないし同5の各南辺付近に存在する建築基準法42条2項所定の道路(以下「本件2項道路」という。)の廃道手続等」については、請求人がその費用負担においてこれを行う旨の記載及び「隣地土地上において、時間貸駐車場名称○○○○の営業がなされており、本件2項道路上及び本件2項道路付近の本件各土地上が駐車場敷地の一部として無権原により占有されている恐れがある」ことについて、売主は一切責任を負わない旨の記載がある。
C 請求人は、上記Aの売買による取得(平成21年3月12日)後、建築基準法第42条第2項に規定する道路を含むs駐車場の全体について、アスファルト舗装をした。
D 請求人は、コインパーキング業者であるP12社に対して、s駐車場を賃貸することとし、平成21年7月2日付にて、駐車場使用契約書(名義上の貸主は請求人の長男であるP44)が作成された。
 なお、請求人は、当審判所に対し、平成23年10月5日付書面において、アスファルト舗装はいわゆる2項道路のために行ったものであり、当該舗装工事を始めた頃にはコインパーキング業者に賃貸することは考えておらず、工事の途中にコインパーキング業者よりコインパーク用地として貸して欲しい旨の依頼を受け、アスファルト舗装はコインパーク用としても転用可能であるので、枠線、機械及び看板の設計は借主であるコインパーキング業者に任せて、ただ2項道路のためにアスファルト舗装をしただけの土地を賃貸したものである旨を説明した。
E 上記Dの駐車場使用契約書においては、借主であるP12社は、まる1当該駐車場を機械式時間貸駐車場及び月ぎめ駐車場としてのみ使用するものとされ(第2条)、まる2当該契約の解除時にはP12社の設置した機械式駐車施設及び附属物等を撤去して原状回復するものとされ(第10条)、まる3賃料については消費税等相当額込みの金額であるとされている。
F 上記DのP12社への賃貸後、s駐車場は、一部の土地について駐車場の用に供されている他、2つの出入り口が設けられ、人が通行の用に供することができる状態とされており、いわゆる2項道路部分と駐車場部分とが明確に区分されていないものの、駐車場に隣接して、「コインパーク内、2項道路を通行して下さい。」と記載され、2項道路部分が図示された案内板が設置されている。
ロ 判断
(イ) m駐車場、n駐車場、p駐車場、q駐車場について
 m駐車場、n駐車場及びp駐車場については、上記イの(イ)の各事実からすれば、本件各課税期間において、地面には一面に砂利が敷かれており、駐車スペースに合わせたロープが引かれていたものと認められるから、「事業者が駐車場として土地を利用させた場合において、その土地に駐車場としての用途に応じる地面の整備又はフェンス、区画、建物の設置等をしている場合」に該当し、したがって、「駐車場その他の施設の利用に伴って土地が使用される場合」に該当する。
 また、q駐車場については、上記イの(イ)の事実によれば、駐車場の用に供されていた平成17年課税期間、平成18年課税期間及び平成19年課税期間において、地面の整備が特に行われた形跡はうかがわれないものの、駐車スペースを区画するためのロープが引かれていたものと認められるから、「事業者が駐車場として土地を利用させた場合において、その土地に駐車場としての用途に応じる地面の整備又はフェンス、区画、建物の設置等をしている場合」に該当し、したがって、「駐車場その他の施設の利用に伴って土地が使用される場合」に該当する。
(ロ) r駐車場について
 上記イの(ロ)の各事実からすれば、請求人は、従前よりアスファルト舗装をするなどして月ぎめ駐車場として利用していたr駐車場について、平成18年5月頃、コインパーキングの用に供することを目的として、コインパーキング業者であるP11社に対し、アスファルト舗装がされたままの状態で賃貸したものであり、両者間の賃貸借契約においても、土地の明渡しの際には、アスファルトについては舗装された状態で、車室ラインはペイントされた状態で明け渡すものとされており、これらの事実を総合的にみれば、請求人のP11社に対するr駐車場の貸付けは、「事業者が駐車場として土地を利用させた場合において、その土地に駐車場としての用途に応じる地面の整備又はフェンス、区画、建物の設置等をしている場合」に該当するから、P11社に対する賃貸の前後を問わず、本件各課税期間を通じて、「駐車場その他の施設の利用に伴って土地が使用される場合」に該当するものである。
(ハ) s駐車場について
 上記イの(ハ)の各事実からすれば、s駐車場には、建築基準法第42条第2項に規定する道路(いわゆる2項道路)部分が含まれている様子がうかがわれるところ、請求人は、平成21年3月にs駐車場の用地を売買により取得した後、いわゆる2項道路部分を含むs駐車場の全体について、アスファルト舗装をした上、コインパーキングの用に供することを目的として、コインパーキング業者であるP12社に賃貸したものであり、その駐車場使用契約においても、土地の明渡し(原状回復)の際に、P12社の設置した機械式駐車施設及び附属物等を撤去するものとされているのみで、アスファルトの撤去義務は定められておらず、アスファルト舗装がされたままの状態で明け渡すことが前提とされており、賃貸後は、その一部がいわゆる2項道路に相当する部分として一般の通行が確保された状態で、その余の部分が駐車場の用に供されているのであって、これらの事実を総合的にみれば、P12社に対するs駐車場の貸付けは、「事業者が駐車場として土地を利用させた場合において、その土地に駐車場としての用途に応じる地面の整備又はフェンス、区画、建物の設置等をしている場合」に該当し、したがって、平成21年課税期間において、「駐車場その他の施設の利用に伴って土地が使用される場合」に該当する。なお、上記イの(ハ)のDのとおり、請求人はアスファルト舗装はいわゆる2項道路のために行ったものであると説明しているが、舗装の範囲がいわゆる2項道路部分を越えてs駐車場の全体に及んでいることなどからして、s駐車場の貸付けが「駐車場その他の施設の利用に伴って土地が使用される場合」に該当するとの上記認定判断を左右するものではない。

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10 争点3−2(課税資産の譲渡等に係る課税標準額)に関する判断

(1) 原処分庁は、請求人の課税資産の譲渡等に係る課税標準額を調査等の結果に基づいて主張し、請求人はこれを争うところ、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果から認められる事実に基づき、本件各課税期間の課税売上高(税込み)を判断すれば、付表8−1ないし付表8−3のとおりとなり、さらに、本件各課税期間の課税標準額を判断すれば、別表4−1ないし別表4−5の「審判所認定額」の各「課税標準額」欄のとおりである。
 また、請求人の本件各課税期間の消費税等について、それぞれの基準期間である平成15年1月1日から平成15年12月31日までないし平成19年1月1日から平成19年12月31日までの各課税売上高は、本件の全証拠から、いずれも10,000,000円を超えていると認められ、請求人は、本件各課税期間において課税事業者に該当する。
(2) なお、請求人は、本件各課税期間及び当初処分ないし再処分に係る調査期間を通じて、消費税法第30条第7項に規定する課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存していなかったものと認められるから、同条第1項の規定の適用を受けることはできず、本件各課税期間における消費税等に係る納付すべき税額の計算上、課税標準額に対する消費税額から、課税仕入れに係る消費税額の合計額を控除することは認められない。

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11 争点4(所得税に係る偽りその他不正の行為の有無並びに所得税及び消費税等に係る事実の隠ぺい又は仮装の有無)に関する判断

(1) 法令解釈

イ 通則法第70条第5項は、「偽りその他不正の行為」によりその全部又は一部の税額を免れ、若しくはその全部又は一部の税額の還付を受けた所得税についての更正決定等は、その更正又は決定に係る所得税の法定申告期限から7年を経過する日まですることができる旨規定している。
 そして、ここでいう「偽りその他不正の行為」とは、単なる不申告ないし過少申告では足らず、税額を免れる意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を行うことをいうものと解するのが相当である。
 なお、通則法第70条第5項の適用範囲は、「偽りその他不正の行為」によって免れた税額に相当する部分のみに限られないと解するのが相当である。
ロ 通則法第68条第1項及び第2項が定める重加算税の制度は、納税者が過少申告又は無申告について隠ぺい、仮装という不正手段を用いた場合に、単なる過少申告加算税又は無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を賦課するためには、納税者のした過少申告行為又は納税者の無申告そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為又は無申告等そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされ、又は無申告とされたことを要するものであると解される。
 しかしながら、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告すること、又は、申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をし、又は、その意図に基づき申告をしなかったような場合には、重加算税の上記賦課要件が満たされるものと解すべきである。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 不動産所得に係る収入金額の管理方法
 請求人が不動産の貸付けに関して収受する賃料は、おおむね銀行振込の方法によるものであり、請求人は複数の銀行口座に賃料の振込みを受けていたが、同一の口座について平成15年分ないし平成20年分の申告の対象としたものとそうでないものが混在している。
ロ 原処分庁による調査に対して請求人が提出した書類
 調査担当職員が請求人の事務所等に臨場した際に、請求人が調査担当職員に対して提出した書類には、平成15年分ないし平成20年分において申告の対象とされていない不動産に係る賃貸借契約書ないし物件別の入金表(以下「本件入金表」という。)が含まれていた。
 なお、本件入金表は、平成15年中及び平成16年6月頃までの賃貸物件別の月別入金額が機械印字されたものであるが、合計金額が記載されておらず、さらに、その収入金額の記載内容も計上漏れのない完全なものではなかった。
ハ 請求人の確定申告に関与した税理士の関与の程度
 請求人は、平成15年分ないし平成20年分の所得税の確定申告に関与したP45税理士に対して、請求人ないしは請求人の長男が作成した確定申告書を見せ、P45税理士はこれに署名、押印等をしたものの、P45税理士が請求人に対し、不動産所得を含む各種の所得の具体的内容を質問したり、請求人に確定申告書の記載の裏付けとなる帳簿や預金通帳、契約書その他の原始記録を見せるよう指示したりしたことはなく、また、請求人が、P45税理士に対して、確定申告書以外に、その裏付けとなる帳簿等を見せたことはなかった。
ニ 請求人の答述
 請求人は、請求人の本件各年分の所得税の各確定申告書及び各収支内訳書の作成について、請求人の長男が作成した計算書等を基に請求人が集計を行った旨答述した。

(3) 判断

イ 原処分庁は、請求人のP9に対する貸付金に係る遅延損害金を放棄した旨記載した確認書は内容虚偽のものと考えられることをもって、通則法第70条第5項及び同法第68条第1項の規定の適用がある旨を主張する。
 しかしながら、上記5の(2)のハの(ロ)で説示したとおり、請求人の主張するP9に対する貸倒れに係る債権が存在しないとまでは認めることができないから、請求人が、P9に対する上記債権が存在しないことを知っていながら、所得税等の逋脱を意図して、上記5の(2)のイの(ヘ)ないし(レ)の各貸金等に関する確認書を作成するなどして、P9に対する上記債権が存在するかのような虚偽の外形を作出したとは認められず、また、上記貸倒れに係る損失の計上について税額等の基礎となるべき事実を仮装し、又は隠ぺいしたとは認められない。
 以上により、この点における原処分庁の主張は採用することができない。
ロ また、原処分庁は、不動産収入の管理方法、不動産所得に係る申告状況、請求人の記帳能力等から、平成21年分を除く本件各年分の不動産所得の総収入金額を過少に申告したことが、通則法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為に該当し、同法第68条第1項及び第2項に規定する隠ぺい又は仮装に該当する旨を主張する。
 確かに、上記7の(1)並びに上記(2)のイ及びロのとおり、まる1請求人は、平成15年分ないし平成20年分の確定申告において、収支内訳書に複数の物件に係る不動産収入を計上せず、不動産の貸付けに係る不動産収入を相当程度過少に申告し、平成20年分については、k駐車場コインパーキング部分を除いても約30パーセントを申告していないこと、まる2不動産賃料は、銀行口座に振り込む方法で入金されるものであり、当該銀行口座には、申告の対象となった不動産に係る賃料と申告の対象とならなかった不動産の賃料が混在して振り込まれていること、及びまる3不動産の貸付けに係る賃貸借契約書は、紛失することなく請求人の事務所内で保管されていること等からすれば、請求人が、平成15年分ないし平成20年分の確定申告において、不動産の貸付けに係る不動産収入の正確な金額を容易に把握できたにも関わらず、その一部を除外し、過少に算出された不動産所得の金額が記載された所得税の各確定申告書を作成し、当該各確定申告書をP3税務署長に提出した事実を認めることができる。
 しかしながら、上記(2)のロ及びニのとおり、請求人の不動産の貸付けについては賃貸物件別の月別入金額が記載された本件入金表が作成されており、その収入金額の記載内容は、計上漏れのない完全なものではないものの、請求人が本件入金表を基礎として不動産所得の収入金額を計算した事実を証拠上認めることはできず、また、請求人は、本件各年分の所得税の各確定申告書及び各収支内訳書について、請求人の長男が作成した計算書等を基に請求人が集計を行った旨答述するが、その裏付けとなる計算書等は提出されておらず、請求人ないし請求人の長男が、どのような資料を確定申告における不動産所得の収入金額算定の基礎としたのかも証拠上明らかでない。
 また、上記(2)のハの各事実によれば、請求人が平成15年分ないし平成20年分の所得税の確定申告に関与したP45税理士から不動産所得の具体的内容について説明を求められたことはなく、P45税理士に対し不動産の賃貸収入について内容虚偽の説明をしたり、事実と異なる内容が記載された帳簿等を提示したり、振込口座に係る預金通帳等の原始記録の提示を求められて拒否したりしたことはなかったものと認められる。
 以上の事実関係の下においては、請求人が、平成15年分ないし平成20年分の所得税における不動産所得について、当初から所得を過少に申告等することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたとまではいうことができず、他に当該過少申告行為とは別に隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在することを認めるに足りる証拠もない。また、以上認定説示したところからすれば、上記所得税について、請求人が、不動産所得に係る税額を免れる意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を行ったものということもできず、他に、上記所得税について、請求人が、税額を免れる意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を行った事実を認めるに足りる証拠もない。
ハ 以上のとおりであるから、請求人の平成15年分ないし平成20年分の所得税について、通則法第70条第5項にいう「偽りその他不正の行為」を認めることはできず、また、通則法第68条第1項が重加算税の賦課要件として規定する隠ぺい又は仮装を認めることもできない。
 また、以上認定説示したところからすれば、請求人の不動産の貸付けに係る平成17年課税期間ないし平成20年課税期間の消費税についても、通則法第68条第1項が重加算税の賦課要件として規定する隠ぺい又は仮装を認めることができない。
 そうすると、法定申告期限から3年を経過した平成22年7月1日及び平成23年2月25日にされた平成15年分ないし平成18年分の所得税の各更正処分及び各再更正処分は、その全部を取り消すべきである。

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12 本件後続各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等の税額計算について

(1) 所得税

イ 納付すべき税額について
 上記4の(4)、5の(4)、6の(2)、7及び8並びに当審判所が調査した結果によれば、請求人の本件後続各年分の所得税の各納付すべき税額の計算上、総所得金額は、別表3−1ないし別表3−3の各「審判所認定額」の各「総所得金額」欄のとおりであり、短期譲渡所得の金額は、別表3−1の「審判所認定額」の「短期譲渡所得の金額」欄のとおりであり、さらに、長期譲渡所得の金額は、別表3−1及び別表3−2の各「審判所認定額」の各「長期譲渡所得の金額」欄のとおりである。
 そして、請求人の本件後続各年分の所得税の各納付すべき税額は、別表3−1ないし別表3−3の各「審判所認定額」の各「納付すべき税額」欄のとおりとなり、いずれの年分も別表1の「再処分」及び「当初処分」の各「納付すべき税額」欄の額を下回ることになるので、本件後続各年分の所得税の各再更正処分は、その全部を取り消し、さらに、各更正処分は、別紙4−1ないし別紙4−3のとおり、その一部を取り消すべきである。なお、別紙4−1ないし別紙4−3において計算される本件後続各年分の所得税の取り消される税額は、再更正処分に係る税額の全部と更正処分に係る税額の一部の合計額である。
ロ 重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分について
 上記11の(3)のハのとおり、請求人の本件後続各年分の所得税の税額の計算の基礎となるべき事実に隠ぺい又は仮装と評価すべき行為はなかったと認められるので、平成19年分及び平成20年分の重加算税の各賦課決定処分は、そのいずれについても取消しを免れない。
 他方、本件の全証拠によっても本件後続各年分の各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、重加算税の各賦課決定処分は、別紙4−1及び別紙4−2のとおり、過少申告加算税を超える部分の金額について、いずれも取り消すべきである。
 また、上記イのとおり、平成21年分の所得税の納付すべき税額が一部取り消されたことから、同年分の過少申告加算税の賦課決定処分についても、別紙4−3のとおり、その一部が取り消されるべきである。

(2) 消費税等

イ 消費税等の合計税額
 本件各課税期間の消費税等の納付すべき税額の計算上、課税標準額は、上記9の(2)のロ及び10の(1)のとおり、別表4−1ないし別表4−5の各「審判所認定額」の各「課税標準額」欄のとおりとなる。
 そして、請求人の本件各課税期間の消費税等の納付すべき税額は、別表4−1ないし4−5の各「審判所認定額」の各「納付すべき消費税額」欄及び各「納付すべき地方消費税額」欄の記載のとおりとなり、いずれの課税期間も別表2の「再処分」の各「納付すべき消費税額」欄及び各「納付すべき地方消費税額」欄の額を上回ることとなるので、本件各課税期間の消費税等の各決定処分及び更正処分並びに各再更正処分は適法である。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 上記11の(3)のハのとおり、請求人の平成17年課税期間ないし平成20年課税期間の消費税等の税額の計算の基礎となるべき事実に隠ぺい又は仮装と評価すべき行為はなかったと認められるので、上記各課税期間の当初処分に係る重加算税の各賦課決定処分は、そのいずれについても取消しを免れない。
 他方、上記イのとおり、平成17年課税期間ないし平成20年課税期間の消費税等の各決定処分及び各再更正処分はいずれも相当であり、本件の全証拠によっても、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められず、さらに、各再更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が各再更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、同条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、重加算税の各賦課決定処分は、別紙5−1ないし別紙5−4のとおり、無申告加算税を超える部分の金額について、いずれも取り消すべきである。
ハ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、平成21年課税期間の消費税等の更正処分及び再更正処分はいずれも相当であり、本件の全証拠によっても平成21年課税期間の消費税等の更正処分及び再更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前及び再更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、通則法第65条第1項の規定に基づき行われた過少申告加算税の各賦課決定処分は適法である。

(3) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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