(平成23年11月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、非居住者である審査請求人(以下「請求人」という。)が行っていた○○のインターネット販売の事業の用に供していたアパート及び倉庫は恒久的施設に該当し、請求人には日本国内において所得税の納税義務があるとして、請求人の平成17年分ないし平成20年分の事業所得の金額を推計して所得税の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が、当該アパート及び倉庫は恒久的施設に該当せず、また、推計計算の基礎となる所得率に合理性がないなどとして、その全部の取消しを求めた事案であり、争点は次の2点である。

  1. 争点1 請求人が事業の用に供していたアパート(以下「本件アパート」という。)及び倉庫(以下「本件倉庫」という。)は、恒久的施設に該当するか否か。
  2. 争点2 推計の方法による事業所得の認定に合理性が認められるか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成22年12月9日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。

(3) 関係法令等

 別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人が行っていた○○のインターネット販売について
 請求人は、遅くとも平成14年以降、日本国内で、屋号を「J」、本店及び業務地をa市b町○−○所在の本件アパート、連絡先電話番号を「○○○−○○○−○○○○」(以下「本件第1電話番号」という。)又は「○○○−○○○−○○○○」(以下「本件第2電話番号」という。)として、インターネット上に開設したウェブサイト及びKオークションなどのインターネットオークションサイト等を利用して輸入した外国製の○○を販売する事業(以下「本件事業」という。)を個人で営んでいた。
 請求人は、平成16年4月15日付で、同月12日にS国の国籍を有する女性と婚姻をしたとする旨の届出書をc市長に提出し、さらに、同年10月23日にS国に向けて出国した。
 なお、請求人が上記日付に日本を出国してから原処分がされるまでの間における請求人の日本国内への入出国状況は、別表2のとおりである。
 その一方で、請求人は、平成17年ないし平成20年(以下「本件各年分」という。)を通じて、○○等を日本に輸入し、インターネット上に開設したウェブサイト等を通じて日本国内で販売し続けていた。平成13年11月16日から本件アパートを賃借して本件事業を行った後、平成18年12月1日からはa市d町○−○所在の本件倉庫を賃借し、少なくとも平成20年末までの間、本件アパート及び本件倉庫において請求人が日本に輸入した○○を保管し、日本国内の顧客に発送するという業務が請求人の従業員によってされていた。
ロ 請求人の所得税の申告状況等
(イ) 平成15年分の所得税に係る納税申告
 請求人は、平成16年3月8日に納税地をc市e町○−○として、本件事業に係る事業所得及び給与所得を記載した平成15年分の所得税の確定申告書を原処分庁に提出した。
 なお、請求人が提出した平成15年分の所得税の確定申告書に添付した収支内訳書には、事業所所在地として、本件アパートの所在地が記載されていた。
(ロ) 日本からの出国に伴う届出書の提出等
 請求人は、平成16年11月19日に、S国に移住するため同年10月23日に○○販売の事業を廃止したとする旨の「個人事業の開廃業等届出書」及びS国が住所又は居所となることから平成16年分の所得税の確定申告を行うためにL税理士を納税管理人に選任する旨の「所得税の納税管理人の届出書」を、それぞれ原処分庁に提出した。
(ハ) 平成16年分の所得税に係る納税申告
 請求人は、平成17年3月10日に、平成16年1月1日から同年10月23日までの本件事業に係る事業所得を記載した平成16年分の所得税の確定申告書を、L税理士を納税管理人として、原処分庁に提出した。
 なお、請求人が提出した平成16年分の所得税の確定申告書に添付した青色申告決算書には、平成16年1月1日から同年10月23日までの事業所得の総収入金額は、○○○○円であり、青色申告の各種特典控除前の所得金額(以下「特前所得金額」という。)は、○○○○円である旨及び事業所所在地は、本件アパートの所在地である旨がそれぞれ記載されていた。
(ニ) 平成17年分以降の所得税に係る納税申告
 請求人は、本件各年分に係る所得税の確定申告書を原処分庁に提出しなかった。
ハ 原処分に係る所得税の調査等について
 原処分庁は、平成20年10月8日に、請求人の所得税等の税務調査(以下「本件調査」という。)に着手し、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)による調査の結果に基づいて平成22年6月30日付で原処分を行った。
 なお、請求人は、原処分がされるまでの間、調査担当職員に対しその求めにも関わらず本件各年分に係る帳簿書類を提示しなかった。

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2 主張

 別紙2のとおりである。

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3 判断

(1) 争点1 本件アパート及び本件倉庫は、恒久的施設に該当するか否か。

イ 法令解釈
(イ) 非居住者の行う事業に係る課税については、国内法として所得税法第161条以下の規定が適用される一方、当該非居住者がS国の居住者である場合には、日S租税条約第1条第1項により、日S租税条約が適用される。
(ロ) 日S租税条約第7条第1項は、一方の締約国の居住者が営む企業の利得に対しては、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる旨を原則として規定するとともに、その例外として、一方の締約国の居住者が営む企業が他方の締約国内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約国内において事業を行う場合には、その企業の利得のうち当該恒久的施設に帰せられる部分に対してのみ、当該他方の締約国において租税を課すことができる旨規定している。
 この規定は、一方の締約国の非居住者が当該一方の締約国内に恒久的施設を設けてこれを通じて当該一方の締約国内において事業を行う場合には、当該事業自体が当該一方の締約国との緊密性が強く、当該事業から生じる利得のうち当該恒久的施設に帰せられる部分については、当該一方の締約国内への依存度が当該一方の締約国の居住者の所得の場合と同視することができるほどに極めて高いと認められることから、当該一方の締約国においてその国内法による課税の対象となることを認めた趣旨であると解される。
 他方で、日S租税条約第5条第1項は、恒久的施設の意義について、事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っている場所をいう旨規定し、同条第2項は、恒久的施設には、特に、まる1事業の管理の場所、まる2支店、まる3事務所、まる4工場、まる5作業場及びまる6鉱山、石油又は天然ガスの坑井、採石場その他天然資源を採取する場所を含む旨規定しているが、他方で、同条第4項は、まる1企業に属する物品又は商品の保管、展示又は引渡しのためのみの施設の使用、まる2企業に属する物品又は商品の在庫の保管、展示又は引渡しのためのみの保有、まる3企業に属する物品又は商品の在庫の他の企業による加工のためのみの保有、まる4企業のための物品若しくは商品の購入又は情報収集のみを目的とする事業を行う一定の場所の保有、まる5企業のためにその他の準備的又は補助的な性格の活動を行うことのみを目的とする事業を行う一定の場所の保有又はまる6前記まる1からまる5までの活動を組み合わせた活動を行うことのみを目的とする事業を行う一定の場所の保有で、当該一定の場所における当該組合せによる活動の全体が準備的又は補助的な性格のものである場合は、恒久的施設には含まない旨規定している。
 日S租税条約第5条第4項の規定は、事業を行う一定の場所が上記まる1ないしまる6に該当する場合、当該場所で提供される役務は、当該事業を行っている企業の利得の実現とは関係が希薄なため、当該一定の場所に利得を配分することが困難なことに鑑み、当該一定の場所を課税権の配分の指標としての恒久的施設から除外する趣旨のものと解される。
 そして、上記のとおり、日S租税条約第5条第4項がその(a)から(d)の規定に続けて(e)において「企業のためにその他の準備的又は補助的な性格の活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。」と規定し、さらに、その(f)において「(a)から(e)までに掲げる活動を組み合わせた活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。ただし、当該一定の場所におけるこのような組合せによる活動の全体が準備的又は補助的な性格のものである場合に限る。」旨規定していることに加えて、上記説示の日S租税条約第7条第1項及び第5条第4項の各規定の趣旨をも併せ考えると、同条約第5条第4項(a)ないし(d)の各規定についても、これらの規定に係る一定の場所の保有が準備的又は補助的な性格の活動を行うことのみを目的とするものであることを当然の前提として規定しているものと解される。
ロ 認定事実
 原処分庁資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人の本件事業に係るウェブサイトの掲載事項
 請求人が開設した本件事業に係るウェブサイトには、要旨以下の事項が掲載されていた。
A 商品に初期不良があった場合、当該商品の到着後14日以内に顧客から連絡があれば、送料を請求人の負担により対応する。
B 取扱商品について、「○○○○」と書かれた商品は、請求人作成のオリジナル日本語取扱説明書を無料サービスしている。また、「○○○○」と書かれた商品は、当該○○○○を無料サービスで添付している。
C 業者に対する販売については、電子メール又は本件第2電話番号にファックスすれば、当該業者販売に係る案内を連絡する。また、業者販売に限り当該ファックスでの注文、見積り、在庫照会に応じる。
(ロ) 本件アパート及び本件倉庫における設備等ないし従業員の従事状況等
A 本件倉庫には、電話機、パソコン及びファックス等の通信機器並びにインターネット上に商品を掲載する際の写真撮影のためのカメラ等の撮影機器がそれぞれ設置されていた。
 なお、本件アパートには本件第1電話番号及び本件第2電話番号に係る電話機がそれぞれ設置されていたが、本件倉庫において本件事業が行われるようになってからは、本件倉庫には本件第2電話番号に係るファックス付電話機が設置された。
B 従業員は、顧客から注文のあった商品について配達中に毀損しないようにエアクッション等の緩衝材を用いて梱包していた。
C 請求人から配達業務を受託しているM社は、平成17年8月以降、代金引換による配達業務に係る入金状況等の報告について、本件アパートないし本件倉庫に設置された本件第2電話番号に係るファックス付電話機へファックス通信により行っていた。
(ハ) 請求人が調査担当職員に提示した文書について
 請求人は、S国に移住後、S国内でインターネットを利用した○○の販売を考えているが、日本国内に倉庫を設置して商品を一旦当該倉庫に保管し、日本人を雇用して受注商品を発送させ、発送に国内の宅配便業者を利用するといった業務形態をとった場合に、当該倉庫が恒久的施設に該当するか否か及びその理由について問い合わせる内容の「お伺い書」と題する平成16年8月31日付の文書(以下「本件文書」という。)を調査担当職員に提示した。
 なお、本件文書には、上記の内容以上に当該倉庫における従業員の業務の内容や当該倉庫の機能等について記載されておらず、本件文書の記載内容を裏付ける書類等は、原処分庁に提出されなかった。
ハ 請求人及び従業員の答述
(イ) 請求人の答述
 請求人は、次のとおり答述するところ、同答述は、関係証拠や従業員であるNの答述内容ともおおむね整合し、また、格別不自然な点は認められず、信用することができる。
A 本件各年分の本件事業に係る事業形態
 請求人は、出国前に設定したウェブサイトを運用して、主に○○及び○○などの外国製の○○販売を出国後も継続し、請求人自身がS国において当該ウェブサイトを通じ又は直接送信されたメールにより日本国内の顧客から注文を受けるとともに、S国において全ての商品を調達し、国際宅配便業者を使って商品を日本へ発送し、請求人が賃借する本件アパート又は本件倉庫に搬入させていた。商品の仕入れは、請求人が仕入先を探し、売行きや在庫数量を勘案して、仕入れる商品とその数量を選定していた。そして、請求人の指示に基づき、本件アパート又は本件倉庫で保管、梱包、発送業務に従事する従業員が宅配便業者を使い国内の顧客に商品を発送した。
B 請求人がS国で行っていた事業の内容
 請求人は、本件事業のうち、ウェブサイトの作成及び更新、ウェブサイトによる顧客からの注文の受付、販売する商品の選定、商品の仕入れ注文、日本国内への商品の発送、仕入先への支払、商品の価格の決定、売上金の管理、返品された商品に係る返金の手配、日本語版取扱説明書の作成並びに本件アパート又は本件倉庫の従業員に対する発送業務の指示等をS国から行っていた。
 請求人は、顧客の注文を受けると在庫の有無、納期、手数料を含む受注金額等を確認して受注確認メールを作成し顧客に返信しており、在庫がない場合は注文を断る旨のメールを送信していた。
C 業者からのファックスによる注文
 一部業者からのファックスによる注文は、ファックスデータが電子メールに変換され、ファックスを利用することなくS国の請求人の元へ自動転送され、請求人自身が商品在庫の確認、納期及び手数料を含む受注金額等を確認し、受注確認ファックスを作成して注文者へ送信しており、注文商品の在庫がない場合は、注文を断る旨のファックスを送信していた。
 なお、ファックスによる受注金額は全売上げの10%以下である。
D 本件アパート又は本件倉庫での商品発送作業
 本件アパート又は本件倉庫において作業に従事するパートタイムの従業員は、請求人の送信する受注確認メールを受けて自動的に作成される商品発送伝票を基に、○○を個々に梱包し、宅配便業者に引き渡す作業を行っていた。
 また、従業員は、本件第2電話番号に係る電話機で宅配便業者と商品発送に係る連絡を行っていた。
E 本件アパート又は本件倉庫における商品発送以外の業務
 従業員は、S国から輸入した○○の受け入れ時の動作確認、本件倉庫へ顧客から返品された不良品の受領及び不良品をメーカーに返送する作業を行う他、平成20年以降は、ウェブサイト上に掲載するためにデジタルカメラを用いて商品の撮影を行い、その画像を請求人のS国の事務所に送信していた。
F 本件アパート及び本件倉庫の機能等
 在庫商品は当初は本件アパートで保管していたが、商品が増えたため、平成18年に12月1日から本件倉庫を賃借した。従業員が行っている作業の内容はその前後において変化がない。日本国内に輸入する商品の通関手続は国際宅配便業者が行っている。日本国内にアパートや倉庫を持たずにS国の事業者として本件事業を行うとすれば顧客への送料が高くなると思う。
(ロ) 従業員であるNの答述
 従業員であるNは、次のとおり答述するところ、同答述は、本件事業に係るウェブサイトの掲載内容とも整合し、また、格別不自然な点は認められず、信用することができる。
A 勤務期間
 Nは、平成17年4月末頃から本件事業に従事し、現在に至っている。
 仕事は2人体制で日ごとに交代し、日曜祝日が休日である。
B 業務内容
 Nの業務は、顧客からの注文を午後3時で締め、当該注文メールを基に送り状の印刷及び商品の梱包を行い、午後6時に集荷に来るM社に当該商品を引き渡すものである。
ニ 判断
(イ) 請求人の所得税法上の地位について
 上記1の(4)のイ及びロの(ロ)のとおり、請求人は、平成16年10月23日にS国に向けて出国した後、少なくとも平成20年末までの間、1年の大部分の期間日本国外に滞在していること、同年4月15日付で同月12日にS国国籍を有する女性と婚姻した旨の届出書が当該届出書の所轄官庁であるc市長に提出されていること、また、同年11月19日に原処分庁に対してS国に移住するために同年10月23日に○○販売業を廃業した旨記載した個人事業の開廃業等届出書が提出されていること及び上記ハの(イ)の請求人の答述内容から、請求人は、その出国の翌日の同年10月24日から少なくとも平成20年末までの間、S国の居住者(日本の非居住者)であったものと認められる。
(ロ) 本件アパート及び本件倉庫の恒久的施設の該当性について
A 検討
 上記1の(4)のイ及び上記ハの(イ)によれば、請求人は、少なくとも本件事業の一部を一定の場所である本件アパート又は本件倉庫で行っていたものと認められるから、本件アパート及び本件倉庫は、日S租税条約第5条第1項にいう「事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っている場所」に該当する。
 もっとも、上記イの(ロ)のとおり、非居住者によって日本国内に設けられた事業を行う一定の場所が日S租税条約にいう恒久的施設に該当するというためには、当該場所の保有が「準備的又は補助的な性格の活動を行うことのみを目的とするもの」に該当しないことが必要である。そこで、請求人の本件アパート及び本件倉庫での事業活動の内容が、準備的又は補助的な性格のものか否かについて検討する。
(A) 上記ハの(イ)のAないしCのとおり、請求人は、S国において全ての商品を調達し、商品の仕入れは、請求人が仕入先を探し、売行きや在庫数量を勘案して、仕入れる商品とその数量を選定していた旨答述し、また、顧客等からの注文に対して本件アパート及び本件倉庫における在庫状況を確認し、在庫がない場合は顧客等に対して注文を断る旨のメールを送信していた旨答述していることからすると、本件事業は、顧客の注文に応じてその都度商品を仕入れて輸入販売する形態ではなく、顧客の注文に備えてあらかじめS国内で商品を仕入れて日本国内に輸入した上で、本件アパート又は本件倉庫に在庫として保有し、顧客の注文に応じて在庫商品を販売する形態のものであると認められる。
 そうであるところ、上記ハの(イ)及び(ロ)によれば、本件事業に係る諸業務のうち、ウェブサイトの管理、商品の選定及び仕入れ並びに日本国内への発送、顧客からの受注及び日本国内の従業員に対する受注商品の発送指示、商品の価格の決定、売上金の管理、返品された商品に係る返金の手配、日本語版取扱説明書の作成等を請求人がS国内の事務所において行い、日本国内の本件アパート又は本件倉庫では、パートタイムの従業員が輸入された商品の受け入れ(動作確認を含む。)、返品の受領及びメーカーへの返送、請求人の送信する受注確認メールを受けて自動的に作成される商品発送伝票に基づいた受注商品の梱包及び宅配便業者への配送手配、商品の撮影(平成20年以降)等であったというのである。これらからすれば、本件アパート又は本件倉庫における活動の内容は、本件事業にとって準備的又は補助的な性格のものと見れなくもない。
 しかしながら、上記のとおり、本件事業における外国製○○の輸入販売の取引は、顧客の注文に応じてその都度商品を仕入れて輸入販売する形態のものではなく、あらかじめ輸入しておいた在庫商品を顧客の注文に応じて販売する形態のものであるところ、請求人が本件アパート又は本件倉庫を賃借してまで上記のような在庫販売形態を採用したのは、そうすることによって顧客の発注から納品までの期間を短縮させて顧客の需要に応えるとともに、上記ハの(イ)のFのとおり、輸入配送費用を節減することにあったものと認められる。そうであるとすれば、本件アパート及び本件倉庫は、本件事業の遂行及びこれによる利得の実現にとって不可欠の機能を果たすものであったということができる。
(B) 上記ロの(イ)のB、(ロ)のB及びハの(イ)のDのとおり、本件事業においては、取扱商品につき請求人が作成した日本語版取扱説明書が無料で添付されるとともに、一部の商品については○○○○が無料で添付されており、従業員が、本件アパート又は本件倉庫において商品を顧客に発送する際に、これらの日本語版取扱説明書及び○○○○を同梱していることからすると、本件アパート及び本件倉庫は、顧客に発送すべき商品に日本語版取扱説明書等の添付という経済的付加価値を付与する機能を有するということができる。
(C) 小括
 以上によれば、本件アパート及び本件倉庫は、在庫販売形態により日本国内における外国製○○の輸入販売を行う本件事業において、その販売市場である日本国内における商品の在庫の唯一の保管場所であるとともに、輸入した外国製商品に日本語版取扱説明書等の添付という経済的付加価値を付与する場所でもあり、在庫販売形態を採用し日本語版取扱説明書等をサービスすることによって日本国内における顧客の需要によりよく応え、事業の収益性の向上を図っていく上で、重要な機能を有する必要不可欠の場所であったということができる。
 このような本件アパート及び本件倉庫の機能等に鑑みると、本件アパート及び本件倉庫は、顧客に販売するための商品の在庫の保管という単なる倉庫の機能に留まるものではなく、本件事業の遂行による利得の実現にとって重要かつ必要不可欠の機能を有しているということができるのであって、本件アパート及び本件倉庫において行われる活動の全体は、本件事業にとって準備的又は補助的な範囲を超えるものというべきであるから、上記イにおいて説示した日S租税条約第7条第1項及び第5条第4項の各規定の趣旨に照らしても、本件アパート及び本件倉庫は、同条約に規定する「恒久的施設」要件に該当するものというべきである。
B まとめ
 以上のとおり、本件アパート及び本件倉庫は、日S租税条約に規定する恒久的施設に該当するから、同条約第7条第1項の規定により、請求人の本件事業から生じた所得のうち、当該恒久的施設に帰せられる部分に対しては、我が国において所得税が課税されることになる。
(ハ) 請求人の主張等について
A 請求人は、本件アパート及び本件倉庫での業務が請求人からの指示に基づく輸入商品の保管、顧客への発送、返品された不良品の保管及びメーカーへの返品等であり、また、ウェブサイトに掲載するための商品の写真撮影についても、撮影画像の加工や調整、ウェブサイトへの掲載の重要な部分は請求人自身がS国の事務所で行ったものであることから、本件アパート及び本件倉庫での業務が準備的、補助的なものである旨主張する(請求人の主張1ないし3)。
 しかしながら、上記(ロ)のAで検討したとおり、本件アパート及び本件倉庫は、本件事業の遂行による利得の実現にとって重要かつ必要不可欠の機能を有しており、本件アパート及び本件倉庫における活動の全体は、請求人の本件事業にとって準備的又は補助的な範囲を超えるものというべきであるから、この点における請求人の主張は採用することはできない。
B 請求人は、電子メールによる業者からの注文について、本件倉庫に設置された機器とは関係なくS国内の事務所のパソコンで受注し、さらに、本件倉庫内の電話機兼ファックスの用途について、従業員が商品発送のために宅配便業者との連絡に使用していたものであり、注文を電話で受注することも、購入者からの電話に応対することもなかった旨主張する。
 しかしながら、上記(ロ)のAで検討したとおり、本件アパート及び本件倉庫に設置された通信機器等の利用状況ないし利用態様等をしんしゃくしても、本件アパート及び本件倉庫における活動の全体は、本件事業にとって準備的又は補助的な範囲を超えるものというべきであるから、この点における請求人の主張は採用することはできない。
C 請求人は、事業の場所とは、現実に事業活動を行っている場所を指すところ、本件事業の中心的活動である仕入れ、ウェブサイトの管理、顧客対応、受注契約、決済等をS国内の事務所で行っているのであるから、本件アパートがウェブサイトに連絡先等として掲載されているからといって、本件アパートが恒久的施設の定義に当てはまるものではない旨主張する(請求人の主張5)。
 しかしながら、上記(ロ)のAで検討したとおり、請求人がS国内の事務所において行っている活動内容等をしんしゃくしても、本件アパート及び本件倉庫における活動の全体は、本件事業にとって準備的又は補助的な範囲を超えるものというべきであるから、この点における請求人の主張は、採用することはできない。
D 請求人は、日S租税条約第5条第4項の「企業に属する物品の保管又は商品の保管、展示又は引渡し」にのみ施設が使用されている場合には恒久的施設に当たらない旨の規定は、そのような活動自体が企業の全体としての活動の本質的な部分及び重要な部分を形成するか否かのいかんに関わらず、上記規定の範ちゅうに該当する活動である限り、当該場所は恒久的施設に当たらないとする趣旨のものであって、本件アパート及び本件倉庫において行われていた請求人に属する商品の保管・発送行為はそれ自体が請求人の本件事業にとってどのような重要性を持つかに関わらず、本件アパート及び本件倉庫が恒久的施設に該当することの根拠とすることはできない旨主張する(請求人の主張6及び7の前段)。
 しかしながら、上記(ロ)のAで検討したとおり、上記イにおいて説示した日S租税条約第7条第1項及び第5条第4項の各規定の趣旨に鑑みると、同条約第5条第4項に規定する一定の場所における活動が準備的又は補助的な性格のものであるか否かについては、当該一定の場所が当該事業の遂行上果たしている機能及び重要性等をも勘案した上で当該一定の場所において行われている活動の全体を評価判断すべきであるから、この点における請求人の主張は採用することができない。
E 請求人は、S国に向けて出国する前に、原処分庁の担当職員に対して電話で本件アパート及び本件倉庫の恒久的施設の該当性の問い合わせを行い、当該職員から恒久的施設に該当しない旨の回答を得ている旨主張する(請求人の主張7の後段)。
 しかしながら、上記ロの(ハ)のとおり、請求人が調査担当職員に提示した本件文書の記載内容のみからは、請求人が出国後に行おうとしている事業に係る取引形態や日本国内に設置される倉庫の機能、位置付け等の詳細が明らかにならず、当該事業の実態に即して恒久的施設の該当性を判断することができない上、請求人が、原処分庁の担当職員に対して本件文書に加えて上記判断に必要な資料等を提供したことをうかがわせる証拠も見当たらないから、請求人の主張するとおりの照会回答が原処分庁の担当職員との間で行われていたとしても、本件アパート及び本件倉庫が恒久的施設に該当することの判断を何ら左右するものではない。

(2) 争点2 推計の方法による事業所得の認定に合理性が認められるか否か。

イ 法令解釈
 所得税法第168条は、前編第7章の居住者に係る更正又は決定の規定は、非居住者の総合課税に係る所得税の更正又は決定について準用する旨規定しており、同法第156条の推計課税の規定については、非居住者の総合課税に係る所得税の更正又は決定の際にもその適用がある。
 したがって、所得税法第162条、日S租税条約第1条第1項、第7条の規定により、S国における居住者(日本における非居住者)の事業から生じた所得のうち日本国内の恒久的施設に帰せられる部分に対して我が国が租税(所得税)を課する場合における所得の認定についても、所得税法第156条の推計課税の規定が適用されると解される。
ロ 推計の必要性
 請求人は、推計の必要性について何ら主張しないところ、上記1の(4)のハのとおり、平成20年10月8日から平成22年6月30日までの間の調査担当職員による本件調査において、請求人は調査担当職員から本件各年分に係る帳簿書類の提示を求められたにも関わらず、帳簿書類を提示しなかったことが認められることから、原処分庁が請求人の本件各年分の事業所得の金額を帳簿書類に基づく実額認定の方法によらず、推計の方法により算定したことはやむを得ないものであると認められ、さらに、当審判所の調査、審理手続においても、請求人は帳簿書類を提示していないから、本裁決時においても推計の必要性があると認められる。
ハ 認定事実
 原処分庁資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 原処分庁は、請求人の取引先等に対して調査を行い、請求人の本件各年分の事業所得の金額に係る総収入金額を実額で把握した。これによれば、請求人の本件各年分の事業所得の収入金額は、別表3の「原処分庁主張額」の各「総収入金額」欄のとおり、平成17年分○○○○円、平成18年分○○○○円、平成19年分○○○○円及び平成20年分○○○○円であった。
(ロ) 請求人の平成16年分の事業所得に係る総収入金額は、○○○○円であるところ、これは、同年1月1日から同年10月23日までの金額であり、当該総収入金額をその営業月数の10で除して1か月分の平均収入金額を算出して、当該平均収入金額を12倍して算定した平成16年分の推計年間総収入金額は、○○○○円と算定される。
(ハ) 原処分庁は、本件各年分の請求人の事業所得の金額について、請求人自身の平成16年分の事業所得に係る特前所得金額の総収入金額に占める割合(以下「特前所得率」という。)14.28%を本人比率として算出し、本件調査により把握した本件各年分の事業所得に係る各収入金額に当該本人比率を乗じて算定した。
ニ 推計の合理性
(イ) 推計方法の合理性について
 上記ハの(ハ)のとおり、原処分庁は、請求人の本件各年分の事業所得の金額の推計の基礎として、平成16年分の請求人の事業所得に係る特前所得率を算出し、これを本人比率として実額で把握した本件各年分の事業所得に係る各収入金額に乗じる方法により本件各年分の事業所得の金額を算定している。
 そして、上記1の(4)のイ及びロの(ハ)並びに上記ハの(ロ)のとおり、まる1平成16年分の請求人の申告が青色申告であって、申告内容に正確性が認められること、まる2本件事業において、国内に居住していた平成16年1月1日から同年10月23日までの間の収入金額を基にした平成16年分の年間推計収入金額は○○○○円であって、本件各年分の事業所得の総収入金額との間に大差がないこと、まる3ウェブサイト等を通じて在庫販売形態により外国製○○を輸入販売し、そのための倉庫等を日本国内において賃借するという請求人の事業の基本的な内容、態様は、請求人のS国への出国前後で変更がないことが認められる。
 そうすると、原処分庁が請求人の平成16年分の事業所得の特前所得率を用いて本件各年分の事業所得の金額を推計したことには、合理性が認められるというべきである。
(ロ) 本件各年分の事業所得の金額について
A 本件各年分の事業所得に係る収入金額について
 当審判所の調査の結果によれば、請求人の本件各年分の事業所得に係る収入金額は、別表3の「審判所認定額」の各「総収入金額」欄のとおり、平成17年分○○○○円、平成18年分○○○○円、平成19年分○○○○円及び平成20年分○○○○円であり、いずれも原処分庁主張額と同額である。
B 本件各年分の事業所得の金額について
 当審判所の調査の結果によれば、請求人の本件各年分の事業所得の金額は、本件各年分の収入金額に平成16年分の事業所得に係る本人比率14.28%をそれぞれ乗じて算定した金額から青色申告特別控除の額○○○○円を控除した金額であり、別表3の「審判所認定額」の各「事業所得の金額」欄のとおり、平成17年分○○○○円、平成18年分○○○○円、平成19年分○○○○円及び平成20年分○○○○円となり、いずれの年分においても原処分庁主張額と同額となる。
(ハ) 請求人の主張について
 請求人は、原処分庁が本件各年分の所得金額の算定において、請求人の平成16年分の特前所得率である14.28%を適用しているが、平成16年10月23日にS国に出国し、新たに事務所を立ち上げたため、平成17年分以降は、平成16年よりも多額に経費が発生したので、本件各年分に平成16年分の所得率を適用したことは合理的な根拠がない旨主張する。
 しかしながら、請求人は、当審判所に対し、当該主張に関する証拠資料を提出しないのみならず、請求人が従前日本国内において行っていた業務の一部をS国内において遂行するようになったことによって生じたS国内の事務所の開設費用を含む経費の変動の具体的内容は証拠上不明であるが、既に認定説示した請求人の事業の内容及び態様等に鑑みると、請求人のS国への出国の前後において請求人の事業における経費率(所得率)に無視し得ない程度の変動が生じたとはにわかに考え難いことからすれば、この点における請求人の主張は採用することはできない。

(3) 本件各年分の各決定処分について

 上記(2)のニの(ロ)のBのとおり、本件各年分の事業所得の金額は、いずれも本件各決定処分に係る事業所得の金額と同一であるから、本件各決定処分は、適法である。

(4) その他

 無申告加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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