(平成23年12月14日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の納付すべき滞納国税を徴収するため、請求人が所有する土地の公売に係る公売公告処分、見積価額公告及び請求人に対する公売の通知をしたのに対し、請求人が、当該土地の見積価額は時価よりも著しく低いから、上記公売公告処分及び上記公売の通知、並びに、上記見積価額の公告及び決定はいずれも違法であるとして、これら全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 差押処分
 原処分庁は、請求人が納付すべき別表1の滞納国税を徴収するため、平成22年2月10日付で、請求人が所有する別紙に記載の各土地(以下「本件各土地」という。)の差押処分を行った。
ロ 公売公告処分等
 原処分庁は、平成○年○月○日、公売公告兼見積価額公告により、本件各土地についての公売公告(以下「本件公売公告処分」という。)及び本件各土地の見積価額を別表2の「見積価額」欄の各金額(以下「本件各見積価額」という。)とする見積価額公告をするとともに、同日付の公売通知書を請求人に送付した。
ハ 不服申立て
(イ) 異議申立て及び異議決定
 請求人は、本件公売公告処分及び本件各見積価額に不服があるとして、平成22年11月30日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成23年2月4日付で棄却の異議決定をし、その決定書謄本は、同月13日、請求人に送達された。
(ロ) 審査請求
 請求人は、異議決定を経た後の本件公売公告処分及び本件各見積価額に不服があるとして、平成23年3月7日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 国税通則法
 第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項第1号は、税務署長がした国税に関する法律に基づく処分に不服がある者は、その処分をした税務署長に対する異議申立てをすることができる旨規定している。
ロ 国税徴収法(以下「徴収法」という。)
(イ) 第94条《公売》第1項は、税務署長は、差押財産を換価するときは、これを公売に付さなければならない旨規定し、また、第2項は、公売は、入札又は競り売りの方法により行わなければならない旨規定している。
(ロ) 第95条《公売公告》第1項は、税務署長は、差押財産を公売に付するときは、公売の日の少なくとも10日前までに、同項各号に掲げる事項を公告しなければならない旨規定している。
(ハ) 第96条《公売の通知》第1項は、税務署長は、前条の公告をしたときは、同条第1項各号(第8号を除く。)に掲げる事項及び公売に係る国税の額を滞納者に通知しなければならない旨規定している。
(ニ) 第98条《見積価額の決定》は、税務署長は、公売財産の見積価額を決定しなければならない旨規定している。
(ホ) 第99条《見積価額の公告等》第1項は、税務署長は、公売財産のうち次の各号に掲げる財産を公売に付するときは、当該各号に掲げる日までに見積価額を公告しなければならない旨規定している。
A 第1号 不動産、船舶及び航空機 公売の日から3日前の日
B 第2号 競り売りの方法又は複数落札入札制の方法により公売する財産 公売の日の前日
C 第3号 その他の財産で税務署長が公告を必要と認めるもの 公売の日の前日
(ヘ) 第104条《最高価申込者の決定》第1項は、徴収職員は、見積価額以上の入札者等のうち最高の価額による入札者等を最高価申込者として定めなければならない旨規定している。
(ト) 第113条《不動産等の売却決定》第1項は、税務署長は、不動産、船舶、航空機、自動車、建設機械、小型船舶、債権又は電話加入権以外の無体財産権等を換価に付するときは、公売をする日から起算して7日を経過した日において、最高価申込者に対して売却決定を行う旨規定している。

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2 争点

(1) 争点1 公売財産の見積価額が時価に比べて低廉であることは、公売公告処分の違法事由となるか否か。

(2) 争点2(仮に、違法事由となるとした場合、)本件各見積価額は、時価に比べて低廉であるか否か。

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3 主張

(1) 争点1 公売財産の見積価額が時価に比べて低廉であることは、公売公告処分の違法事由となるか否か。

原処分庁 請求人
 見積価額は、徴収法第95条第1項に規定されている公売公告すべき事項に含まれておらず、見積価額の適否は、公売公告処分の適否を左右するものではない。
 なお、見積価額を公売公告兼見積価額公告として、公売公告と同日付で公告しているが、請求人が取消しを求める公売公告において、公売公告すべき事項には、見積価額は含まれていないのであるから、見積価額が不当であるとの理由で公売公告処分の取消しを求めることはできない。
 また、見積価額自体は、見積価額以上の価額でなければ売却できないことを保証するものにすぎず、公売財産の所有者の権利を制限し、あるいは公売財産の所有者に対して、新たに何らかの義務を課すものではないことから、見積価額の公告又は決定は、国税に関する法律に基づく処分には当たらない。
 徴収法第95条第1項に規定されている公売公告すべき事項に見積価額の決定が含まれていないとしても、原処分庁は、公売公告と見積価額の公告を同日、一体のものとして実施しており、実務上も両者は一体のものとして扱われているから、見積価額が著しく低廉である場合には、公売公告処分の違法事由となる。

(2) 争点2(仮に、違法事由となるとした場合、)本件各見積価額は、時価に比べて低廉であるか否か。

原処分庁 請求人
 次の理由から、本件各見積価額の決定に、何ら違法な点はない。  次の理由から、本件各見積価額の決定は、「公売財産の客観的な時価」を基準としておらず、請求人が取得した不動産業者による不動産査定書と比較しても著しく低廉で不当な価額を基準とした上で、さらに、公売の特殊性を加味し、より低い金額で見積価額を決定しているから、本件公売公告処分、本件公売公告処分に関わる公売の通知並びに見積価額公告及び同公告に係る見積価額の決定は、違法である。
イ 本件各土地の時価に相当する額を算定するため、別紙の売却区分番号d○○○○の土地(以下「本件鑑定土地」という。)について、徴収法第98条の規定に基づき、不動産鑑定士による鑑定評価を依頼している。不動産鑑定士は、平成22年5月10日、取引事例比較法に基づいて鑑定評価額(以下「本件鑑定評価額」という。)を算定しているが、本件鑑定評価額は、財産評価基本通達(昭和39年4月25日直資56、直審(資)17国税庁長官通達。以下同じ。)による評価額及び固定資産評価額に照らしても、適正である。 イ 本件各土地が農地であり取引が頻繁に行われるものではないため、取引事例の収集が困難であるにもかかわらず、十分な事例を収集することなく鑑定が行われたものであり、見積価額が適正な鑑定評価額とはいえない。
ロ 別紙の売却区分番号d○○○○ないし同○○○○の各土地は、本件鑑定土地と、同一地域の特性を形成する社会的、経済的、行政的要因及び自然的条件を有しており、個別性を生じさせる要因においても、本件鑑定土地と隣接していることから、形状、接道条件等、格別異なる点があるとは認められない。このため、原処分庁は、本件鑑定評価額を基礎金額として、本件各土地の基準価額を求めたものであり、本件各土地の基準価額は、財産評価基本通達による評価額及び固定資産評価額に照らしても、適正である。原処分庁は、本件各土地の基準価額に対し、公売の特殊性を考慮して、適法かつ適正に見積価額を決定している。 ロ 原処分庁は、本件鑑定土地以外は鑑定評価を行っていないが土地の形状や接道状況も本件各土地により異なっており、特に、別紙の売却区分番号d○○○○の土地は、2面において公道に接続しており、利便性が高く、他の土地と時価評価額が同じであるはずがない。
ハ 本件各土地は、現況農地であり、都市計画法上の区域区分が、市街化を抑制すべき区域である市街化調整区域に所在している。
 さらに、本件各土地が所在する地域は、農業振興地域の整備に関する法律上、自然的・経済的・社会的諸条件を考慮して、一体として農業の振興を図ることが相当であると認められた農業振興地域であり、本件各土地は、農用地等として利用すべき土地として定められた、農用地区域に所在する農地である。
 本件各土地は、農地法第4条《農地の転用の制限》の規定により、原則として、農地以外の地目への転用が認められず、同法第5条《農地又は採草放牧地の転用のための権利移動の制限》の規定により、農地以外のものへの転用を目的に取得することもできない土地である。その上、近隣地域は、田を主体とした農用地区域であること、さらに、本件各土地の地勢、形状、接面街路等様々な個別的要因を吟味した結果、原処分庁は、本件各土地を、農地として評価することが、最も妥当であると判断したものである。
ハ 個人の財産権を強制的に処分する本件のような手続では、宅地価格での売却が現実的でないという事情が特に認められない限り、被処分者に有利な価格で売却を試みるべきであり、本件各土地は宅地としての客観的な時価を基準として見積価額を決定すべきである。
 本件各土地は、農業振興地区内の農用地(青地)であるが、農振除外申請を行い農振計画を変更した上で農地法第4条及び第5条による農地転用を行うことが可能である。

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4 判断

(1) 争点1(公売財産の見積価額が時価に比べて低廉であることは、公売公告処分の違法事由となるか否か。)について

 税務署長は、差押財産を公売に付するときは、公売の日の少なくとも10日前までに公売公告しなければならないとされ(徴収法第95条第1項)、公売財産が不動産であるときは、税務署長は、公売の日から3日前までに見積価額を公告しなければならないとされている(徴収法第99条第1項)が、公売財産の見積価額は、公売公告事項とされていない。このことからすれば、見積価額公告は、公売公告の後にされることが予定されているということができ、見積価額の決定も公売公告の前に予定されていると解することはできない。
 そして、後にされた行政行為に何らかの瑕疵があったとしても、そのことゆえに先行の行政行為が違法となることはないと解されるから、見積価額が仮に低廉であったとしても、そのことが公売公告処分の取消原因にはならないと解するのが相当であり、また、そのように解したとしても、公売財産の所有者等は、見積価額が低廉であることを理由に、その後の売却決定の取消しを求める不服申立てをすることを妨げられないので、公売財産の所有者等の権利が害されるともいえない。したがって、見積価額が低廉であることは、公売公告処分の取消原因にはならないと解するのが相当である。
 請求人は、前記3の(1)の「請求人」欄のとおり、徴収法第95条第1項に規定されている公売公告すべき事項に見積価額の決定が含まれていないとしても、原処分庁は、公売公告と見積価額の公告を同日、一体のものとして実施しており、実務上も両者は一体のものとして扱われているから、見積価額が著しく低廉である場合には、公売公告処分の違法事由となる旨主張するが、上記のとおり、見積価額が仮に低廉であったとしても、そのことが公売公告処分の取消原因にはならないと解され、見積価額が低廉であることを理由として本件公売公告処分の取消しを求めることはできないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。

(2) 争点2(本件各見積価額は、時価に比べて低廉であるか否か。)について

 上記(1)のとおり、見積価額が低廉であることを理由として本件公売公告処分の取消しを求めることはできないから、本件各見積価額が時価に比べて低廉であるか否か及びこの点に関する請求人の主張について判断するまでもない。

(3) その他の審査請求の適法性について

イ 見積価額の決定及び公告の取消しを求める審査請求の適法性について
 国税通則法第75条第1項は、国税に関する法律に基づく処分に不服がある者は、 その取消しを求めて不服申立てをすることができる旨規定しているところ、同項にいう処分とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものと解される(最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809ページ参照)。
 ところで、徴収職員は、公売財産について見積価額以上の価額で入札した者のうち最高の価額による入札者を売却決定を受ける地位を取得する最高価申込者として定めなければならないとされている(徴収法第104条第1項、第113条第1項)ところ、見積価額が公売財産の適正な価額よりも低廉であったがゆえに売却決定価額も低廉となった場合には、財産権の侵害として売却決定処分が違法になると解されるが、見積価額それ自体は、公売財産の最低売却価額としての性質を有するにすぎず、その決定及び公告によって、直接国民の権利義務その他法律上の地位に影響を及ぼすものと解することはできない。
 そうすると、本件各見積価額の決定及び本件各見積価額の公告の取消しを求める審査請求は不適法である。
ロ 公売の通知の取消しを求める審査請求について
 税務署長は、公売公告をしたときは、徴収法第95条第1項各号(第8号を除く。)に掲げる事項及び公売に係る国税の額を滞納者に通知しなければならないとされている(徴収法第96条第1項)が、公売の通知は、税務署長が公売公告をした場合において、滞納者に対して最後の納付の機会を与えるため、公売の日時、場所、公売の保証金の金額、買受代金の納付の期限等、公告した事項等を通知するものにすぎず、それ自体として直接国民の権利義務その他法律上の地位に影響を及ぼすものではないから、国税に関する法律に基づく処分には当たらない。
 したがって、本件公売公告処分の通知の取消しを求める審査請求は不適法である。

(4) まとめ

 上記(1)及び(2)のとおり、本件公売公告処分を取り消すべき理由はなく、上記(3)のとおり、その他の審査請求は、いずれも不適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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