(平成24年7月24日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、勤務先の企業グループの株式報酬制度により勤務先の親会社の株式を無償で取得したことによる利益を、平成19年分の所得税の確定申告をした所得に含めていなかったことから、原処分庁が、当該利益は給与所得に当たるとして所得税の更正処分等をしたのに対し、請求人が、まる1当該利益は一時所得に当たること、まる2原処分庁が認定した当該利益の収入すべき時期及び収入すべき金額の計算に誤りがあること、まる3仮に給与所得であるとしても、給与等の支払をする者に源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)について源泉徴収義務があるから、当該更正処分の納付すべき税額に誤りがあること、まる4当該年分の所得税について外国税額控除の適用が認められるべきであることなどを理由として、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成19年分の所得税について、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した(以下「本件申告」という。)。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成23年3月14日付で、別表の「更正処分等」欄のとおりとする所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、本件更正処分等に不服があるとして、平成23年5月10日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月4日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の本件更正処分等に不服があるとして、平成23年8月2日に審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

イ 所得税法(平成21年法律第13号による改正前のもの。以下同じ。)第28条《給与所得》第1項は、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう旨規定している。
ロ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定し、同条第2項は、前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする旨規定している。
ハ 所得税法第57条の3《外貨建取引の換算》第1項は、居住者が外貨建取引を行った場合には、当該外貨建取引の金額の円換算額は、当該外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額として、その者の各年分の各種所得の金額を計算する旨規定している。
ニ 所得税法第95条《外国税額控除》第1項は、居住者が各年において外国所得税(外国の法令により課される所得税に相当する税で政令で定めるものをいう。)を納付することとなる場合には、一定の計算をしたその年分の所得税の額のうち、その年において生じた所得でその源泉が国外にあるものに対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額を限度として、その外国所得税の額をその年分の所得税の額から控除する旨規定し、同条第5項は、同条第1項の規定は、確定申告書に同項の規定による控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細の記載があり、かつ、外国所得税の額を課されたことを証する書類その他一定の書類の添付がある場合に限り、適用する旨規定している。また、同条第7項は、税務署長は、同条第1項の規定による控除をされるべきこととなる金額等につき同条第5項の記載又は書類の添付がない確定申告書の提出があった場合においても、その記載又は書類の添付がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、その記載又は書類の添付がなかった金額につき同条第1項の規定を適用することができる旨規定している。
ホ 所得税法第120条《確定所得申告》第1項は、所得税の確定申告書を提出しなければならない者について規定し、同項第5号は、その年分の総所得金額の計算の基礎となった各種所得の金額につき源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額がある場合には、課税総所得金額等に所定の税率を適用して計算した所得税の額からその源泉徴収税額を控除した金額をその申告書に記載する旨規定している。
ヘ 所得税法第183条《源泉徴収義務》第1項は、居住者に対し国内において同法第28条第1項に規定する給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨規定している。
ト 所得税基本通達36−9《給与所得の収入金額の収入すべき時期》は、その(1)において、給与所得の収入金額の収入すべき時期は、契約又は慣習その他株主総会の決議等により支給日が定められている給与等についてはその支給日、その日が定められていないものについてはその支給を受けた日によるものとする旨定めている。
チ 所得税基本通達57の3−2《外貨建取引の円換算》は、所得税法第57条の3第1項の規定に基づく円換算は、原則としてその取引を計上すべき日における対顧客直物電信売相場と対顧客直物電信買相場(以下「TTB」という。)の仲値(以下「TTM」という。)による旨定めている。
リ 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項は、同条第1項又は第2項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、これらの項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、これらの項の規定を適用する旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成9年2月から、G社a支店(現、H社。以下「日本H社」という。)に勤務し、平成15年10月31日に退職した後、平成16年8月16日にアメリカ合衆国(以下「米国」という。)の法人である米国J証券d支店に勤務し、平成17年3月31日に退職した。
 なお、請求人は、平成19年中において、所得税法第2条《定義》第3号に規定する居住者であった。
ロ K銀行は、日本H社の株式を間接的に100パーセント保有し、同社及び米国J証券を含めた企業グループ(以下「Kグループ」という。)を形成している。
ハ Kグループでは、Kグループが継続的に更なる発展を遂げるため、その中核となる従業員の士気及び勤務意欲を高めるとともに、こうした従業員をグループ内に確保することを目的として、将来、一定の条件を満たした者にK銀行の株式(以下「K株式」という。)を支給する旨の「リストリクテッド・エクイティ・ユニット」(Restricted Equity Units)という株式報酬制度を実施していた。
ニ 上記ハの株式報酬制度(以下、この制度を「本件プラン」という。)の概要は、K銀行が定めた「K Bank Restricted Equity Units Plan/Plan Documentation」と題する書面(以下「本件プラン書」という。)によれば、次のとおりである。なお、同プランによる報酬の支給対象となる従業員を、以下「被付与者」という。
(イ) 本件プランにより被付与者に付与されるリストリクテッド・エクイティ・ユニットは、イニシャルアワード及びエクセプショナルアワードの2つのアワード(以下、これらの各アワードを併せて「各アワード」という。)により構成され、この各アワードは、K株式1株の価格と1単位当たりの価値が同等であるノーショナルK株式により構成される。
(ロ) 被付与者に各アワードが付与された日から「Vesting Date」(以下「ベスティング日」という。)までの間(以下「制限期間」という。)、「Vest」(以下「ベスト」という。)される前の各アワードは、本件プラン書の取消条項に基づいて、一定の違反行為を原因として解雇されるなどの場合に自動的に取り消され、自己都合の退職(違反行為の一つである付与後4年以内に競業他社へ就職する場合を除く。)の場合にも、その一部が取り消されることがあるなど、その全部又は一部が取り消される可能性がある。
 なお、本件プランにおいて、ベストとは、各アワードに本件プラン書の取消条項が適用されなくなることをいい、また、被付与者は、このベスティング日までの間、付与された各アワードを売却又は担保の用に供することはできない一定の制限の下にある。
(ハ) 各アワードは、「Award Statement」と題する書面に記載されているスケジュールにより交付される。被付与者は制限期間の終了の時点において諸条件を満たしていれば、本件プランの運営者の裁量により、K株式、又はベストしたノーショナルK株式の価値に応じた金銭を受領する資格を有することとなる。
(ニ) 本件プランの運営は、K銀行の役員会(以下「K役員会」という。)が本件プランの決定権を有するものとして指名した者(以下「コミッティ」という。)の裁量により行われる。
(ホ) コミッティは、K役員会の指揮下において本件プランの運営に当たるものとし、本件プランの解釈を含め、運営に関する一切の裁量権がK役員会から与えられている。
(ヘ) コミッティは、本件プランの運営に責任を持つ者として、L社をプラン運営者として選定する。プラン運営者は、権利行使、取消し、株式移管、契約、声明及び質疑に責任を有する。また、プラン運営者は、被付与者との間で金融・サービス契約を結ぶ権限及び受託した職責を果たす権限を与えられている。
(ト) プラン運営者が被付与者の各アワードを取り消さなかった場合、当該各アワードに関する全ての制限は、ベスティング日に自動的に解除される。ベスティング日の後、管理手続上現実的に要する期間を経て、プラン運営者は、その裁量により、まる1被付与者が開設し、プラン運営者が承認した証券口座にノーショナルK株式1株に対して、K株式1株を移転するか、又はまる2ノーショナルK株式の価値(1株当たりの価値がベスティング日のK株式の株価と同等のもの。)を基準として所定の方法により計算した金銭の交付を行う。
ホ 請求人は、平成15年2月1日、本件プランに基づき各アワード(以下「本件各アワード」という。)を付与され、その事実を書面で通知された。
 なお、付与の際に請求人に交付された「Award Statement」と題する書面(以下「本件ステイトメント」という。)によれば、請求人に付与された本件各アワードの内容は、次のとおりである。
(イ) 本件各アワードは、請求人がKグループの将来の発展に貢献する可能性があると認められたことと、それに加えて平成14年の業績に対する年間の株式報酬として付与されたものであること。
(ロ) 付与された本件各アワードは、イニシャルアワードとしてノーショナルK株式2,214.27株、エクセプショナルアワードとして同553.57株の合計2,767.84株であること。
(ハ) 付与された本件各アワードのベスティング日は平成19年8月1日であること。
ヘ L社は、平成19年7月9日付で書面により、請求人に対して次の内容を通知した。
(イ) ベストされる本件各アワードの決済には、平成19年8月1日から10日以上を要すること。
(ロ) プラン運営者は、上記(イ)の決済が終わるまでの期間に、法定の源泉徴収の額に相当するK株式を売却し、源泉徴収を行うこと。そのため、平成19年8月17日までは、K株式は請求人の口座に入庫されないこと。
(ハ) 平成19年8月1日にK株式2,767.84株にベストされること。
(ニ) 請求人は、K株式を受け取るために必要な口座を知らせるか又は口座を開設する手続をとらなければならないこと。
(ホ) 請求人は本件各アワードの付与からベスティング日までの間に複数の勤務地にて勤務していたことから、退職までの勤務日数に応じて、それぞれの勤務先を通して、支払及び報告が行われること。
ト 平成19年8月17日、ベストされた本件各アワード(ノーショナルK株式2,767.84株)について、同株数を、請求人の米国における勤務に係る部分と日本における勤務に係る部分とにあん分し、請求人の米国における勤務に係る株数(796.33株)から源泉徴収債務等に相当する株数(329.47株)及び当該勤務に係る1株未満となる端株(0.86株)を差し引いた株数(466株)、並びに請求人の日本における勤務に係る株数(1,971.51株)から当該勤務に係る1株未満となる端株(0.51株)を差し引いた株数(1,971株)との合計の株数2,437株に対応するK株式2,437株(以下「本件K株式」という。)が、K銀行シンガポール支店の請求人の証券口座に入庫された。なお、請求人は、平成15年10月31日に日本H社を退職し、平成16年8月16日から勤務した米国J証券を平成17年3月31日に退職しているが、本件各アワードのうち取り消された部分はない。
チ 請求人は、本件申告において、ベストされた本件各アワードのうち日本H社から請求人に支払われた金員○○○○円(上記トの端株0.51株に対応する金額等)を雑所得として申告したが、その他の部分に係る利益については申告しなかった。なお、請求人は、本件申告において、上記金員について源泉徴収された税額○○○○円を所得税額から控除しなかった。
 また、請求人は、本件申告において提出した確定申告書に、外国税額控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細の記載をせず、平成19年中に外国所得税が課されたことを証する書類等の添付をしなかった。
リ 原処分庁は、これに対し、請求人はベスティング日(平成19年8月1日)に、本件各アワードに係るK株式を無償で取得したことによる経済的利益(以下「本件利益」という。)を得ており、これは給与所得に該当するとして、同K株式の株数2,767株(ノーショナルK株式2,767.84株のうち1株未満の端数を切り捨てたもの。)に、M証券取引所における平成19年8月1日のK株式の1株当たりの株価の終値○○.○○ユーロ、及びN銀行における同日のTTM161.97円を乗じて計算した金額○○○○円(1円未満の端数を切り捨てた後のもの。)を当該給与所得の収入金額とする本件更正処分等を行った。
 なお、本件更正処分等において、上記チの源泉徴収された税額○○○○円は、所得税額から控除されなかった。

(5) 争点

イ 争点1 本件利益は、給与所得又は一時所得のいずれに該当するか。
ロ 争点2 本件利益に係る収入金額の収入すべき日及び収入すべき金額は、次のいずれであるか。
(イ) 収入すべき日は、ベスティング日(平成19年8月1日)であり、収入すべき金額は、同日の株価(終値)及び同日のTTMを用いて計算した金額である。
(ロ) 収入すべき日は、本件K株式の口座への入庫日(平成19年8月17日)であり、収入すべき金額は、同日の株価(終値)及び同日のTTBを用いて計算した金額である。
ハ 争点3 本件利益が給与所得に当たる場合、本件利益について源泉徴収をされるべき所得税の額があるか否か。
ニ 争点4 本件申告において請求人が提出した確定申告書に、外国税額控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細の記載がなく、かつ、外国所得税の額を課されたことを証する書類等の添付がなかったことについて、所得税法第95条第7項に規定する「やむを得ない事情」があるか否か。
ホ 争点5 本件申告が過少申告に当たる場合、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か。

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2 主張

(1) 争点1(本件利益は、給与所得又は一時所得のいずれに該当するか。)

原処分庁 請求人
 請求人は、Kグループである日本H社及び米国J証券の従業員として、K銀行の総括の下に職務を遂行し、本件プランの所定の条件を充足した結果、本件利益を得る地位を取得したものであり、当該利益は、雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された非独立的な労務の対価として給付されたものであるから、給与所得に該当する。  K銀行が本件利益を請求人に給付したとすれば、本件利益は、次の理由から一時所得に該当する。
イ 請求人とK銀行との間に、雇用契約は存在せず、請求人は同社の指揮命令を受けて労務を提供していない。
ロ また、本件利益は、その価額がK銀行の業績や収益力、金利、為替、及び国内外の景気動向等経済情勢の影響を多分に受け、株価の変動により大きく左右されるものであるから、偶発的な利得といわざるを得ない。さらに、反復性、継続性のない給付であり、営利を目的とする継続的行為から生じた所得に該当せず、また、請求人が日本H社及び米国J証券に提供した労務とは直接関わりがなく、過去の精勤に対する対価でもない。
ハ したがって、本件利益は、「通常の労務の対価以外の報奨金としての性格を有するもの」である。

(2) 争点2(本件利益に係る収入金額の収入すべき日及び収入すべき金額について)

原処分庁 請求人
イ 所得税法第36条第1項は、現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとするいわゆる権利確定主義を採用しており、ここにいう収入の原因となる権利の確定時期は、それぞれの権利の特質を考慮し決定されるべきものとされている。
 本件プラン書によれば、各アワードはアワード・ステイトメントに記載される権利確定のスケジュールに従うこととされ、請求人は、制限期間の終了の時点で諸条件を満たしていれば、ベスティング日において、K株式、又は同日のノーショナルK株式の価値に応じた金銭を受領する権利を有することになるところ、本件ステイトメントに、本件各アワードのベスティング日は平成19年8月1日であると記載され、日本H社税務部の担当者が、請求人が本件各アワードに対応するK株式を受領する権利を得たのは、同日である旨申述していることからすると、請求人の当該K株式を受領する権利が確定したのはベスティング日であり、本件利益に係る給与所得の収入すべき日は、同日(平成19年8月1日)である。
 なお、請求人が受領した本件各アワードに対応するK株式を受領する権利は、株式の引渡しがされていない点を除いては、K銀行の株主が有する権利と同じ権利である。
イ 本件利益が給与所得に当たるとしても、次の理由から、本件利益に係る給与所得の収入金額の収入すべき日は、本件K株式が請求人の証券口座に入庫された平成19年8月17日である。
(イ) 所得税法は、所得の年度帰属について、権利確定主義を採用しているところ、本件K株式の支給については、その特質に鑑みるならば、株式の本質的価値であるまる1議決権、まる2配当受領権及びまる3自由売却・処分権を取得した時点、すなわち株主としての権利が移転した当該株式の引渡日(平成19年8月17日)が収入すべき日である。
(ロ) 本件においては、平成19年8月1日は取引日であり、同月17日が決済日であり、同日までは、請求人は決済リスクにさらされており、さらに振り込まれるK株式の数が確定しておらず、売却もできない状況であった。
(ハ) 所得税基本通達36−9に定める支給とは、金銭・物品を給与・給付として払い渡すことであるところ、同通達に当てはめれば、本件各アワードに係る支給日は、平成19年8月17日以降と指定され確定していないことから、実際に支給を受けた日である同日が給与所得の収入金額として収入すべき日である。
ロ 上記イを前提とすると、本件利益に係る給与所得の収入すべき金額は、同日の株価及びTTMを基に計算することになる。なお、原処分庁は、所得税法基本通達57の3−2に定める取扱いに従って、所得税法第57条の3第1項の規定に基づく円換算を、同日におけるTTMにより計算したものである。 ロ 原処分庁は、本件利益に係る給与所得の収入すべき金額の円換算について、平成19年8月1日におけるTTMを用いて計算すべき旨を主張するが、換金可能なレートはTTBであり、また申告納税を源泉徴収と別に扱う合理的理由もないことから、同月17日のTTBを用いるのが合理的である。

(3) 争点3(本件利益が給与所得に当たる場合、本件利益について源泉徴収をされるべき所得税の額があるか否か。)

原処分庁 請求人
イ 次の(イ)のとおり、本件利益の支払をする者は外国法人のK銀行であること、及び次の(ロ)のとおり、本件利益(次のロを除く。)は国内において支払われたものではないことから、同利益について、所得税法第183条第1項の規定により源泉徴収されるべき所得税の額はない。
(イ) 所得税法第183条第1項における「支払をする者」は、支払の主体として、支払債務(義務)を負い、その経済的出捐による債務消滅の効果が帰属する者を意味するものと解されるところ、K銀行は、本件プランに基づき、請求人に対して本件各アワードを付与し、本件各アワードがベストされた後は、L社に、本件K株式を請求人の証券口座に振り替える手続をさせて、本件各アワードに係る支払債務を消滅させたのであるから、本件利益の「支払をする者」は、債務消滅の効果の帰属するK銀行である。
(ロ) また、本件K株式は、国外に所在するL社によって、国外にある証券会社に開設された請求人の証券口座に振り替えられている。
ロ 本件利益のうち端株に相当する利益の支払手続は日本H社により国内にて行われたものであり、日本H社が源泉徴収した所得税の額については、源泉徴収をされるべき所得税の額に当たる。
 本件利益が請求人の給与所得に当たるとしても、次のとおり、本件利益の支払をする者は日本H社であり、またベストされた本件各アワードのうち本件K株式の支払は国内において行われているから、本件利益について、所得税法第183条第1項の規定により源泉徴収されるべき所得税の額がある。
イ 日本H社は、請求人との雇用契約の中で、平成14年の業績に対する年間の株式報酬として本件各アワードを請求人に付与する旨合意したものであるから、雇用者として本件プランに基づく本件K株式を振り込む給与支払債務を負っている。
 さらに、日本H社、K銀行及びL社の三社間の契約文書「Administration and Recharge Agreement」によれば、本件各アワードの支給者は請求人の雇用者である日本H社であり、また、本件各アワードに係る費用は日本H社が負担することとなっており、債務消滅の効果は日本H社に帰属する。
ロ 源泉徴収における納税地は、形式的な支払地のみで判断すべきではなく、実質的な支払事務がどこで行われているかを考慮して判断すべきである。
 日本H社は、本件ステイトメントを直接請求人に通知しているほか、支払事務に必要な情報である在籍日数、支払条件である転職情報及びその他の必要な情報等をL社に提供しており、請求人の元勤務先である米国J証券が、L社に支払代行を委託している一方、源泉徴収の事務を含めた実質的な支払事務を行っているのと同様に、日本H社も実質的な支払事務を行ったものであり、その支払地は日本H社の所在地であり、支払は国内において行われている。
ハ また、日本H社は、平成18年に請求人に対して、Kグループの報酬制度に基づいて金銭で支給したストック・アプリシエーション・ライトの権利行使益及びベストされた本件各アワードのうち請求人に支払われた端株に係る金員について源泉徴収している。
ニ さらに、日本H社は、所轄税務署の指導に基づき、平成21年以降、本件プランと同じ報酬制度に基づいて従業員に対して支給した利益に係る金額について、源泉徴収を行っている。

(4) 争点4(本件申告において請求人が提出した確定申告書に、外国税額控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細の記載がなく、かつ、外国所得税の額を課されたことを証する書類等の添付がなかったことについて、所得税法第95条第7項に規定する「やむを得ない事情」があるか否か。)

請求人 原処分庁
 請求人は、米国における源泉徴収によって課税関係は終了しているとの認識であったため、本件申告の時点において、外国税額控除の申告の必要性についての認識が全くなかった。
 国際税務の複雑さに鑑みれば、本件のように、支払者の事務の取扱いにも不申告等の原因がある場合には、納税者の責めに帰すことのできない「やむを得ない事情」があると判断されるべきである。
 所得税法第95条第7項に規定する「やむを得ない事情」とは、天災による交通及び通信の途絶その他納税者の責めに帰することのできない客観的な事情をいうが、請求人の主張する事情は、これに当たらない。

(5) 争点5(本件申告が過少申告に当たる場合、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か。)

請求人 原処分庁
 請求人が本件利益に係る所得について申告に至らなかったのは、支払者において、税務事務の取扱いが首尾一貫していなかったこと、並びに意図的に源泉徴収義務を回避するような税務事務及び支払の取扱いをしていたことが原因であるから、このような場合には、納税者の責めに帰すことは酷であり、「正当な理由」があると認めるべきである。  通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」とは、例えば、税法の解釈に関して申告当時に公表されていた見解がその後改変されたことに伴い修正申告をし、若しくは更正処分を受けた場合など、申告当時適法とみられていた申告が、その後の事情の変更により、納税者の故意又は過失に基づかずして過少申告となった場合のように、その申告が真にやむを得ない理由によるもので、こうした納税者に過少申告加算税を課すことが不当又は酷になる場合を意味し、単に納税者が税法を知らなかったことや誤解したことに基づく場合は、これに該当しない。
 したがって、請求人の主張する事情は、「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しない。

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3 判断

(1) 争点1(本件利益は、給与所得又は一時所得のいずれに該当するか。)

イ 法令解釈
 所得税法第28条第1項は、給与所得とは、「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得」をいうものと規定しており、同項に列挙された「俸給」等の言葉が持つ通常の意味や、事業所得等の他の所得分類との相違点等を勘案すると、給与所得とは、支払の際の名称のいかんに関わらず、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として受ける給付をいうものと解される。
ロ 本件利益の所得区分について
(イ) 上記1の(4)のハ及びニによれば、各アワードに係る株式報酬制度は、Kグループの報酬体系の一環として位置づけられており、Kグループ内のどの企業の従業員であるかを特に区別することなく、Kグループの中核となる従業員の士気及び勤務意欲を高め、こうした従業員をKグループ内に確保することを目的としたものであり、また、付与された各アワードは、退職など雇用が消滅した場合の取消条項に基づいてその全部又は一部が取り消される可能性があるなど、被付与者が各アワードに係る利益を取得するためには、Kグループの企業における一定期間の勤務を必要とすることが認められる。
 つまり、本件プランにおいては、被付与者が各アワードに係る利益を取得するためには、Kグループの企業に対して継続して労務を提供することがその重要な条件として要求されており、被付与者は、Kグループの企業に対して一定期間労務を提供したからこそ、付与された各アワードに係る利益を取得できるという地位にあると認められる。
 そして、Kグループの中核会社であるK銀行が、このような目的の報酬制度に係る本件プランを策定し、上記1の(4)のニのとおり、K役員会、コミッティその他委任を受けた者が、本件プランに関する決定権や裁量権などの権限を有し本件プランの運用を行っていることからすると、K銀行が、本件プランの目的に合ったKグループ内の従業員を被付与者として選定し、本件プランに基づいて当該被付与者に対し各アワードを付与していると認められる。
(ロ) 請求人は、上記1の(4)のイ、ロ、ホ及びヘのとおり、Kグループの企業であり、K銀行が間接的に支配している日本H社に勤務していた平成15年2月1日に、請求人がKグループの将来の発展に貢献する可能性のある者である等の理由で被付与者に選定されて本件各アワードを付与され、その後、日本H社及び同じくKグループの企業である米国J証券の各勤務を経て、ベスティング日(平成19年8月1日)を迎える約3週間前の同年7月9日付で、事前にプラン運営者であるL社から、ベストされる本件各アワードの支払に関する内容が書面により通知された。
 そうすると、本件プランに基づいて請求人が受けた本件利益は、請求人が日本H社及び米国J証券に対して提供した労務の対価として、Kグループの中核企業であるK銀行から給付されたものというべきである。
(ハ) したがって、本件利益は、請求人がKグループに属する日本H社及び米国J証券の従業員として職務を遂行し、一定期間労務を提供したからこそ、その対価として得た給付であるから、雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された非独立的な労務の対価として給付されたものとして、所得税法第28条第1項に規定する給与所得に該当する。
ハ 請求人の主張について
 請求人は、請求人とK銀行との間に雇用契約は存在せず、請求人は同社の指揮命令を受けて労務を提供しておらず、また、本件利益は、K銀行の株価の変動により大きく左右される偶発的な利得であり、反復性、継続性のない給付であって、営利を目的とする継続的行為から生じた所得に該当しないことなどから、給与所得ではなく、一時所得に該当する旨主張する。
 しかしながら、給与所得に該当するか否かは、その給付が実質的にみて使用者等から支払を受ける労務提供の対価といえるかどうかという観点から判断すべきであって、従業員が、使用者又はこれに準ずる立場にある者から、従業員という地位に基づき経済的利益を与えられたという関係が認められる場合には、当該経済的利益は、使用者等から労務提供の対価として給付されたものとして給与所得に当たるというべきである。そして、上記ロのとおり、本件利益の給付の原因となる本件各アワードは、請求人の各勤務先の属する企業グループの中核企業であるK銀行から付与されたものであり、本件プランに基づいて請求人が取得した本件利益は、当該各勤務先に対する労務提供の対価と認められるから、本件利益は給与所得に当たるというべきである。なお、本件利益が、K銀行の株価の変動により左右されるとしても、請求人の労務提供の対価としての性質に影響を与えるものではない。
 したがって、本件利益が給与所得に該当する以上、本件利益が一時所得に該当する旨の請求人の主張は採用できない。

(2) 争点2(本件利益に係る収入金額の収入すべき日及び収入すべき金額について)

 原処分庁は、上記1の(4)のリのとおり、本件利益に係る収入金額を、ベストされた本件各アワード(ノーショナルK株式2,767.84株)のうち1株未満の端数を切り捨てた2,767株を基礎として算定しているが、同トのとおり、本件各アワードが付与された後ベストされるまでに切り捨てられ、又は取り消された部分はないから、当該収入金額の収入すべき日及び収入すべき金額の判断に当たっては、本件利益を、1株未満の端数を切り捨てないところの、ベストされた本件各アワード全体に係る利益(ノーショナルK株式2,767.84株相当)として、以下検討する。
イ 法令解釈
(イ) 所得税法第36条第1項は、現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとしてその権利確定の時期の属する年分の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用したものと解すべきであり、ここにいう収入の原因となる権利が確定する時期は、その権利の特質を考慮し、決定されるべきものである(最高裁昭和53年2月24日第二小法廷判決・民集32巻1号43頁参照)。
(ロ) 所得税法第36条第2項は、金銭以外の物又は権利その他経済的利益をもって収入する場合の同条第1項に規定する収入すべき金額は、その物若しくは権利を取得し、又はその利益を享受する時における価額とする旨規定しているところ、当該価額とはいわゆる時価(客観的交換価値)をいい、それが外国通貨建てであるときは、その物若しくは権利を取得し、又はその利益を享受するときにおける為替相場により円換算すべきであると解される。
ロ 認定事実
 Kグループのイントラネットに掲載された請求人に係る「14-August-2007 Award Settlement」の記載内容によれば、ベストされた本件各アワード(ノーショナルK株式2,767.84株)は、ベスティング日の後、請求人の各勤務先における勤務日数に応じて、日本における勤務に係る株数(1,971.51株)と米国における勤務に係る株数(796.33株)とに区分され、さらに、日本における勤務に係る株数は、証券口座に入庫される株数(1,971株)と金員で支払われる端株(0.51株)とに分けられ、また、米国における勤務に係る株数は、米国における源泉徴収債務等に充てられる金額に相当する株数(329.47株)を差し引き、その残りの株数が証券口座に入庫される株数(466株)と金員で支払われる端株(0.86株)とに分けられ、次のとおり交付及び充当することが決定されたと認められる。
 なお、上記の米国における源泉徴収債務等に充てられる金額に相当する株数及び金員で支払われる各端株については、L社等が、米国で源泉徴収される税額等及び後日請求人に支払う各金員の計算のために採用したK株式の株価及び為替レートを用いて、これらの各金額を計算している。
(イ) 交付株数 2,437株(日本における勤務に係る部分1,971株、及び米国における勤務に係る部分466株の合計)
(ロ) 米国における源泉徴収債務等に充てられる金額 ○○○○.○○米国ドル(米国における勤務に係る株数のうち329.47株に相当する金額)
(ハ) 日本の勤務に係る金員 ○○○○.○○円(株数のうち端株0.51株に相当する金額)
(ニ) 米国の勤務に係る金員 ○○○○.○○米国ドル(株数のうち端株0.86株に相当する金額)
ハ 本件利益に係る収入金額の収入すべき日について
 上記ロのとおり、請求人が本件プランにより最終的に支払を受けるのはK株式又は各金員であり、その収入の原因は付与された本件各アワードがベストされたことに基づくものであるから、収入の原因となる権利が確定する時期の判断に当たっては、請求人に付与され、ベストされた本件各アワードの内容、及び支払を受けるK株式又は各金員の性質等を検討する必要がある。
(イ) ベスティング日について
A 上記1の(4)のニの(ハ)及び(ト)のとおり、請求人に付与された本件各アワードは、ベスティング日(平成19年8月1日)において、本件プラン書に定める諸条件を満たしたことによりベストされ、ベスティング日の後、決済に要する手続等の期間を経て、本件プランの運営者の裁量により、K株式を請求人の証券口座に入庫し、又は計算した金員を交付することとされている。
B また、上記1の(4)のヘのとおり、ベストされた本件各アワードの決済には、ベスティング日から10日以上を要し、プラン運営者であるL社が、当該決済が終わるまでの間に、調達したK株式を売却し、請求人が退職時までに勤務していた各地域における法定の源泉徴収等を行うため、請求人に支給されるK株式は、平成19年8月17日までは、請求人の証券口座に入庫されないこととされていた。
C 以上のことからすると、ベスティング日においては、本件利益の給付の原因となる本件各アワード(ノーショナルK株式)について、請求人に実際に交付されるK株式の株数が具体的に確定しておらず、また米国における源泉徴収債務等に充てる金員及びその他支給される各金員についても、それらの各金額が具体的に確定していない。そして、本件プラン書及び原処分関係資料等を精査しても、ベスティング日において、請求人が配当受領権や議決権等の株主としての地位を取得したことを裏付ける証拠は見当たらない。
 そうすると、ベスティング日においては、本件利益を構成するK株式及び各金員に係る所得が、担税力のある所得として具体的に実現したとはいえない。
(ロ) 入庫日について
 ベストされた本件各アワードは、上記ロのとおり、ベスティング日の後、本件K株式が入庫された日(平成19年8月17日)までの間に、本件プランの運営者であるL社の裁量により、同ロの(イ)ないし(ニ)のとおりの、請求人の証券口座に入庫される現物株式の株数、並びに、米国税制上の源泉徴収債務等に充てられる金額及び後日請求人に支払う各金員に区分して支給することが決定されたと認められる。そして、その際、当該源泉徴収債務等に充てられる金額及び後日支給する各金員を、区分した各株数を基にL社が独自に採用した株価及び為替レートを用いて、それぞれ米国ドル又は日本円で計算していること、及び、上記入庫日より前に請求人がベストされた本件各アワードに係るK株式の全部又は一部の支給を受けた事実を認めることができず、かえって同日に本件K株式が請求人の証券口座に入庫され、請求人が株主としての地位を取得したと認められることからすれば、ベストされた本件各アワードに係る最初の決済日である入庫日(平成19年8月17日)に、請求人が、ベストされた本件各アワード(ノーショナルK株式2,767.84株)に対応する同数のK株式について、上記ロの(イ)の現物株式である本件K株式を無償で取得したことによる利益、及び同ロの(ロ)ないし(ニ)の本件K株式以外の株式を各金員に換えて支給等を受ける権利が確定し、担税力のある所得が実現したとするのが相当である。
 なお、当該各金員については、実際に各支給を受け、又は源泉徴収債務等に相当する額が納付された時をそれぞれ収入すべき日とすることも考えられるが、これらの各金員は、ベストされた本件各アワード(ノーショナルK株式)に対応するK株式のうち、本件K株式以外の株式を各金員に換えて支給等を受けるものであり、また、本件K株式と同じく、ベストされた本件各アワード(ノーショナルK株式)に対応するK株式を基礎として、各金員に換えて支給等するための株数が確定したものであるから、いずれの収入すべき日も本件K株式の支給を受けた日と同日とするのが合理的である。
ニ 原処分庁の主張について
 原処分庁は、請求人の本件各アワードに対応するK株式を受領する権利が確定したのは、ベスティング日(平成19年8月1日)であるとし、ベスティング日における当該K株式を受領する権利は、株式の引渡しがされていない点を除いては、K銀行の株主が有する権利と同じ権利である旨主張する。
 確かに、ベスティング日(平成19年8月1日)においては、ベストされた本件各アワードに係るK株式又は各金員を受領する権利は、同日以後は取り消されないという意味において収入の原因となる権利は発生しているといえるものの、本件プランは、本件各アワードがベストされたことにより、直ちに請求人にK株式の全部又は一部が支給されるとしたものではない。このことに加えて、上記1の(4)のニの(ヘ)及び(ト)のとおり、決済手続が終了するまでの間は、請求人が、ベストされた本件各アワードに係るノーショナルK株式(2,767.84株)に対応する同数のK株式のうち、どれほどの株数を現物株式で支給を受け、又は、いくつの株数について金員で受け取るのかという決定及び計算自体も、本件プランの運営者であるL社の裁量に委ねられていることを併せ考えれば、ベスティング日においては、本件各アワードがベストされたことにより、請求人にいかなる経済的利益が実現したのかが客観的に明らかとはいえず、請求人がK銀行の株主が有する権利と同じ権利を取得したともいえない。そうすると、単にK株式又は各金員を受領する権利が発生した時点であるベスティング日に、担税力のある経済的利益が生じ、収入の原因となる権利が確定したというのは相当でない。
ホ 本件利益に係る収入金額の収入すべき金額等について
(イ) 本件利益に係る収入金額の円換算について
 一般に、為替相場に用いるTTBとTTMの差額は、金融機関にとって手数料としての性質を含むものであると解されるところ、本件利益を構成する、まる1上記ロの(イ)の現物株式である本件K株式を無償で取得したことによる利益、及びまる2同ロの(ロ)ないし(ニ)の各金員等の支給等を受ける権利等に係る利益の円換算に当たっては、本件K株式及び支給等を受ける各金員等は、実際に金融機関において外貨を円に交換されておらず、手数料が発生したとはいえない状態であるから、為替相場において対顧客取引の基準となるTTMを用いて計算するのが最も合理的である。
(ロ) 本件利益に係る給与所得の収入すべき金額について
 上記(1)のロのとおり、本件利益は給与所得に該当し、上記ハの(ロ)のとおり、本件利益に係る給与所得の収入金額の収入すべき時期は、ベストされた本件各アワードに係る最初の決済日である入庫日(平成19年8月17日)となるから、同日における当該給与所得の収入すべき金額を計算すると、次のとおりとなる。
 なお、請求人は、上記1の(4)のチのとおり、日本H社から請求人に支払われた金員(端株0.51株に対応する金額等○○○○円)を雑所得の収入金額に算入して本件申告をしているが、これは本件各アワードに係るものであり、給与所得に該当するから、請求人の平成19年分の雑所得の金額の計算上減額すべきこととなる(後記(6)のイの(ロ))。
A 請求人の給与所得の収入すべき金額は、上記ロの(イ)の現物株式である本件K株式を無償で取得したことによる利益、及び上記ロの(ロ)ないし(ニ)の各金員の支給等を受ける権利に係る利益であるから、これらの各利益を、それぞれ所得税法第36条第1項及び第2項の規定により計算した次の各金額の合計額○○○○円となる。
(A) 本件K株式 取得株数2,437株 × M証券取引所における平成19年8月17日の株価(終値)○○.○○ユーロ × N銀行の同日のユーロのTTM152.84円 =○○○○円
(B) (上記ロの(ロ)の米国における源泉徴収債務等相当額○○○○.○○米国ドル + 同(ニ)の端株相当額○○○○.○○米国ドル)× N銀行の同日の米国ドルのTTM113.89円 =○○○○円
(C) 上記ロの(ハ)の端株相当額(1円未満を切り上げたもの) ○○○○円
B また、上記ロの(ハ)の日本の勤務に係る1株未満となる端株に相当する金員(○○○○.○○円)については、当審判所の調査の結果によれば、平成19年11月15日、日本H社が、同金額の1円未満の金額を切り上げた○○○○円に社会保険料の調整額21円を加えた金額(○○○○円)から、社会保険料49円及び源泉所得税の額○○○○円を控除した残額(○○○○円)を国内の請求人の銀行預金口座に振り込んだことが認められる(後記(3)のロの(ロ)のB)ところ、上記の調整額21円についても、請求人の給与所得に該当するから、同日に支給を受けた給与として同所得の収入金額に算入すべきである。
C なお、米国の勤務に係る1株未満となる端株の部分については、請求人が当審判所に提出した資料によれば、平成19年9月14日、米国の請求人の銀行預金口座に○○○○.○○米国ドルが振り込まれていることが認められる(後記(3)のロの(ロ)のC)が、支払われた金額は外貨のため差損益が生じていないから、これを考慮する必要はない。また、請求人が交付を受けた「2007 W-2 and EARNINGS SUMMARY」によれば、米国で実際に納付した米国連邦税等の額は、○○○○.○○米国ドルであることが認められ(同C)、上記ロの(ロ)の金額○○○○.○○米国ドルと異なっているが、同ロのとおり、同金額は、L社等が、米国で源泉徴収される税額等に相当する株数を基に、当該税額等の計算のために採用したK株式の株価及び為替レートを用いて算定した金額であり、請求人の収入すべき金額の計算の基になるものであるから、実際の源泉徴収額と異なるとしても、収入すべき金額の認定には影響しない。

(3) 争点3(本件利益が給与所得に当たる場合、本件利益について源泉徴収をされるべき所得税の額があるか否か。)

 所得税法第120条第1項第5号は、確定申告を行う者は、源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額がある場合には、課税総所得金額等に税率を適用して算出された所得税の額からこれを控除した金額をその申告書に記載する旨規定しているところ、給与所得に該当する本件利益について、源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額があれば、その源泉所得税の額を、請求人の平成19年分の納付すべき税額の計算上算出税額から控除することになるから、本件更正処分において算定された納付すべき税額が減少することになる。そこで、以下この点について検討する。
イ 法令解釈
 所得税法第183条第1項は、居住者に対し国内において同法第28条第1項に規定する給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、これを国に納付しなければならない旨規定しているところ、これによれば、当該給与等の支払義務を負う者が、源泉徴収義務を負うものと解される。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件各アワードの付与について
 請求人は、上記1の(4)のホのとおり、本件プラン書に基づき、平成15年2月1日に本件各アワードを付与され、本件ステイトメントの交付により、その付与の事実を通知されたところ、当時の請求人の勤務先であった日本H社は、請求人に付与された本件各アワードの内容の決定に関与していなかった。
(ロ) ベストされた本件各アワードに係る利益の支払について
A 上記(2)のロの(イ)の本件K株式2,437株については、上記1の(4)のトのとおり、平成19年8月17日にK銀行シンガポール支店の請求人の証券口座に入庫されたところ、この株式の支払手続は、プラン運営者であるL社が行った。
B 上記(2)のロの(ハ)の日本の勤務に係る1株未満となる端株に相当する金員(○○○○.○○円)については、同年11月15日、日本H社が、同金額の1円未満の端数を切り上げた○○○○円に社会保険料の調整額21円を加えた金額(○○○○円)から、社会保険料49円及び源泉所得税の額○○○○円を控除した残額(○○○○円)を、国内の請求人の銀行預金口座に振り込んだ。なお、日本H社は、当該源泉所得税の額の控除について、請求人に対し、源泉徴収票を交付した。
C 上記(2)のロの(ロ)の米国における源泉徴収債務等に充てられる金額(○○○○.○○米国ドル)については、請求人が交付を受けた「2007 W-2 and EARNINGS SUMMARY」によれば、米国J証券が、実際の米国連邦税等の額(○○○○.○米国ドル)を納付(源泉徴収)した。そして、同(ニ)の米国の勤務に係る1株未満となる端株に相当する金員(○○○○.○○米国ドル)については、平成19年9月14日、米国の請求人の銀行預金口座に振り込まれた。
(ハ) 本件各アワードについては、プラン運営者であるL社からの請求により、これに相当する費用を日本H社が負担したが、上記(ロ)のAの本件K株式の支払事務について、日本H社がその全部又は一部に関与した事実はない。
ハ 当てはめ
 本件各アワードは、上記(1)のロのとおり、本件プランに基づきK銀行から請求人に付与されたものであり、本件利益は、請求人が日本H社及び米国J証券に対して提供した労務の対価としてK銀行から給付されたもので給与所得に該当するから、請求人に対して、給与所得に該当するベストされた本件各アワードに係る利益の支払をする者は、直接の支払義務を負う国外に所在するK銀行である。そして、上記ロの(ロ)のA及び(ハ)のとおり、プラン運営者として国外に所在するL社が、本件K株式を請求人のK銀行シンガポール支店の証券口座に入庫するという支払事務を行ったのであるから、本件K株式の支払は、国外において行われたものと認められる。
 また、上記ロの(ロ)のCのとおり、米国における源泉徴収債務等に充てられた金額については、米国J証券が、請求人の元勤務先として請求人の米国における源泉徴収債務等に相当する額の納付(源泉徴収)事務を行ったものであり、さらに、米国の勤務に係る1株未満となる端株に相当する金員については、国外において請求人の口座への振込みがなされたのであるから、いずれも国外において当該各金額に係る給与等の支払が行われたものと認められる。
 なお、上記ロの(ロ)のBの日本H社が国内において請求人に支払った金員については、ベストされた本件各アワードの利益の支払をする者がK銀行であるとしても、同Bのとおり、日本H社が、請求人の元勤務先として、請求人に対して給与等に当たる金員の支払をしたものであるから、国内において給与等の支払をしたと評価するのが相当である。
 したがって、上記ロの(ロ)のBの日本H社による支払については、源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額があると認められるものの、その他の各支払については、請求人に対し国内において給与等の支払が行われていないから、源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額があるとは認められない。
ニ 請求人の主張について
(イ) 請求人は、日本H社は、請求人との雇用契約の中で、平成14年の業績に対する年間の株式報酬として本件各アワードを請求人に付与する旨合意したものであるから、日本H社が雇用者として本件プランに基づく本件K株式を振り込む給与支払債務を負っているなどとして、本件利益の支払をする者は日本H社である旨主張する。
 しかしながら、上記1の(4)のホの(イ)のとおり、確かに、本件各アワードは、本件プランに基づき、請求人がKグループの将来の発展に貢献する可能性のある者と認められたため、請求人に対し平成14年の業績に対する年間の株式報酬として付与されたものであるが、上記ハのとおり、本件各アワードはK銀行が本件プラン書に基づき請求人に付与したものであり、本件各アワードに係る利益の支払義務を負う者はK銀行であること、また、本件プランの運営者であるL社が、本件K株式を請求人の海外にある証券口座に入庫する支払手続をしたことからすれば、上記ロの(ハ)のとおり、日本H社が本件各アワードに係る費用を負担したことを考慮しても、源泉徴収義務を判断する上で、日本H社が直接請求人に本件K株式を支払う給与支払債務を負っていたとは認められない。
 したがって、請求人の主張は採用できない。
(ロ) 次に、請求人は、日本H社は、本件ステイトメントを直接請求人に通知しているほか、支払事務に必要な情報である在籍日数、支払条件である転職情報及びその他の必要な情報等をL社に提供しているなど、実質的な支払事務を行っているから、日本H社が本件K株式に係る利益を国内において支払ったのであり、源泉徴収義務を負う旨主張する。
 しかしながら、上記のとおり、日本H社が、本件K株式に係る給与等の支払事務そのものを行った事実がないから、本件プランの運用のために必要な請求人に係る情報等を提供したとしても、それを給与等の支払事務を実質的に行ったものと評価することはできない。そして、本件K株式に係る利益の支払について、源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額があると認められないことは、上記ハのとおりである。
 したがって、請求人の主張は採用できない。
(ハ) また、請求人は、まる1平成18年に請求人が支給を受けたストック・アプリシエーション・ライトの権利行使益に係る金員、まる2ベストされた本件各アワードのうち上記1の(4)のチの日本H社により支払われた端株に係る金員(○○○○円)及びまる3平成21年以降本件プランと同じ報酬制度に基づいて従業員に対して支給した利益について、日本H社が源泉徴収を行っている事実があるから、本件K株式に係る利益についても源泉徴収義務を負う旨主張する。
 しかしながら、本件K株式の支払とは異なり、上記のまる1及びまる2については、日本H社が、実際にこれらの各金員を請求人に支給したものであり、また、上記のまる3については、平成21年以降、日本H社が源泉所得税の額に充てるために、同税額に相当するK株式の売却をL社に指示するなどの支払手続の変更をした上で、給与等の支払者として源泉徴収を行っているのであるから、これらの手続において日本H社が源泉徴収義務を負うとしても、本件K株式に係る利益についても同義務を負うことにはならない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は、本件とは給与等の支払手続が異なる事実関係を前提としたものであり、採用できない。

(4) 争点4(本件申告において請求人が提出した確定申告書に、外国税額控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細の記載がなく、かつ、外国所得税の額を課されたことを証する書類等の添付がなかったことについて、所得税法第95条第7項に規定する「やむを得ない事情」があるか否か。)

イ 法令解釈
 我が国において、非永住者以外の居住者は、国外所得を含む全ての所得について所得税が課されること(所得税法第7条《課税所得の範囲》第1項第1号)から、当該居住者の国外所得に外国所得税が課される場合、いわゆる国際的二重課税の問題が生じることは不可避である。そこで、所得税法は、租税が国際的な経済活動から可能な限り中立性を保ち、国際競争の阻害要因となることを回避する見地から、立法政策として、国外で納めた税額について、国外源泉所得に対応する部分を限度として所得税から直接控除することを認める外国税額控除の制度(所得税法第95条)を採用している。この制度による課税の軽減は、国がその主権の一部をなす課税権の行使について一方的に譲歩する、いわば恩恵的措置であり、その適用要件をどのように定めるかも立法政策に属するものであることから、法令の規定を超えて無条件に認められなければならない性格のものではないと解される。
 そして、同法第95条第5項は、この制度の適用を受けようとする者において、所得税の確定申告を行うに当たり、確定申告書に同条第1項の規定による控除を受けるべき金額及びその計算に関する記載があり、かつ、外国所得税を課されたことを証する書類等を添付することにより、自らその意思内容を明確に示すことを求めることによって、税額計算の安定を確保し、もって租税法律関係の明確化を図るためのものである。
 以上のような同法第95条の趣旨に照らせば、この外国税額控除の適用を受けようとする納税者が、これらの要件を履践しないにもかかわらず、その適用を受けることを認めるものである同条第7項の「やむを得ない事情」とは、天災、交通途絶その他納税者の責めに帰することのできない客観的事情をいい、納税者の法の不知や事実の誤認等の主観的事情はこれに当たらないと解するのが相当である。
ロ 当てはめ
 請求人は、上記1の(4)のチのとおり、本件申告において、ベストされた本件各アワードに係る利益のうち日本H社から支払われた金員(○○○○円)以外の利益について申告しなかったこと、及び所得税法第95条第5項の手続要件を満たしていないことが認められるところ、請求人は、米国における源泉徴収によって本件各アワードに係る課税関係は終了していると思っていたため、本件申告の時点において、外国税額控除の適用を受ける必要があるとの認識は全くなかった旨主張し、また、国際税務の複雑さのため、支払者の事務の取扱いにも原因があって、上記利益の申告をしなかったのであるから、納税者の責めに帰することのできない「やむを得ない事情」があると判断すべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人の主張するこれらの事情は、いずれも単なる税法の不知又は事実の誤認等の主観的な事情にすぎないといわざるを得ないから、納税者の責めに帰すことのできない客観的な事情ということはできない。
 したがって、所得税法第95条第7項に規定する「やむを得ない事情」がある場合には該当しない。

(5) 争点5(本件申告が過少申告に当たる場合、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か。)

イ 法令解釈
 通則法第65条第1項に規定する過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対して課されるものであり、これによって、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
 このような過少申告加算税の趣旨に照らせば、通則法第65条第4項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁参照)。
 そうすると、単に納税者に税法の不知や誤解、事実の誤認、法令解釈の誤りがある場合には、これに当たらないと解すべきである。
ロ 当てはめ
 請求人は、本件申告が過少申告となったのは、支払者において、税務事務の取扱いが首尾一貫していなかったこと、並びに意図的に源泉徴収義務を回避するような税務事務及び支払の取扱いをしていたことが原因であるから、「正当な理由」がある旨主張する。
 しかしながら、上記(3)のロの(ロ)のBのとおり、日本H社は、ベストされた本件各アワードに係る利益の支払手続の実態に応じ、所得税法の規定に基づき源泉徴収すべき給与等について源泉徴収を行っており、当該源泉徴収を行ったことについて、請求人に対し、源泉徴収票を交付していることからすると、請求人を誤認させるような税務事務及び支払の取扱いを行ったとは認められない。また、本件プランの内容等をみれば、上記利益の支払について、K銀行、プラン運営者であるL社及び日本H社が、意図的に所得税法の源泉徴収義務を回避するような税務事務及び支払の取扱いを行っていたとも認めることができない。
 そして、請求人は、上記2の(4)のとおり、本件申告において、ベストされた本件各アワードに係る利益のうち日本H社から支払われた金員(○○○○円)以外の利益について申告しなかったのは、米国における源泉徴収によって課税関係は終了しているとの認識であったためである旨の主張をしているところ、この主張をも踏まえると、本件申告が過少申告となったのは、請求人の単なる税法の不知や誤解、又は事実の誤認等の主観的な事情によるものといわざるを得ないから、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になるとは認められない。
 したがって、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認めることはできない。

(6) 請求人の平成19年分の総所得金額等及び納付すべき税額について

 以上のことを前提として、請求人の平成19年分の総所得金額等及び納付すべき税額を計算すると、次のとおりである。
イ 総所得金額
(イ) 請求人の給与所得の収入金額は、本件申告における給与所得の収入金額○○○○円に、上記(2)のホの(ロ)の本件利益に係る給与所得の収入すべき金額○○○○円(同(ロ)のA)及び社会保険料の調整額21円(同(ロ)のB)を加えた金額○○○○円となり、同金額から給与所得控除額を差し引いて給与所得の金額を計算すると、○○○○円となる。
(ロ) 次に、雑所得の金額については、請求人は、本件申告において、日本H社から支払われた金員○○○○円を雑所得の収入金額に含め、当該金員に係る必要経費2,455円を当該雑所得の必要経費に含めていることが認められるところ、上記金員は、上記(イ)の給与所得の収入金額に含めることになるから、上記金員及び必要経費の各金額を、本件申告における雑所得の収入金額○○○○円及び必要経費等602,455円からそれぞれ控除して、雑所得の金額を計算すると、○○○○円となる。
(ハ) そして、上記(イ)の給与所得の金額、同(ロ)の雑所得の金額、及び本件申告における不動産所得の金額○○○○円を合計して、請求人の総所得金額を計算すると、○○○○円となる。
ロ 所得控除の額の合計額
 原処分庁は、本件更正処分において、所得控除の額の合計額を本件申告に係る確定申告書の記載に基づき、2,714,684円と算定しているところ、上記(3)のロの(ロ)のBのとおり、日本H社が端株に係る給与等の支払の際に控除した社会保険料の額49円を、社会保険料控除の額として加算する必要があるから、所得控除の額の合計額は、2,714,733円となる。
ハ 株式等に係る譲渡所得等の金額
(イ) 原処分庁は、本件更正処分において、請求人の本件申告における上場株式等の譲渡に係る譲渡所得の金額○○○○円と、本件K株式の譲渡に係る譲渡損失の金額○○○○円(譲渡収入金額34,803,374円から同株式の取得費○○○○円(上記1の(4)のリの原処分庁が本件利益に係る給与所得の収入金額を認定する際に用いた株価(終値)及びTTMにより計算した金額)及び譲渡費用348,052円を差し引いた金額)を合計した後の譲渡損失の金額○○○○円を算出した上、当該譲渡損失の金額は、租税特別措置法(平成20年法律第23号による改正前のものをいう。)第37条の10《株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》第1項の規定により生じなかったものとみなされることから、請求人の株式等に係る譲渡所得等の金額は零円と算定した。
(ロ) 本件K株式については、上記(2)のホの(ロ)のAのとおり、本件K株式に係る給与所得の収入金額は○○○○円となるから、これに伴い、当該K株式を譲渡した場合の取得費も同額となる。その結果、譲渡損失の金額は○○○○円となるが、本件更正処分と同様に、株式等に係る譲渡所得等の金額は零円となり、本件更正処分の額と同額となる。
ニ 納付すべき税額
(イ) 原処分庁は、本件更正処分において、請求人の納付すべき税額の計算上控除する源泉所得税の額を、本件申告に係る確定申告書の記載に基づき、○○○○円と算定し、上記1の(4)のリのとおり、日本H社から請求人に支払われた金員○○○○円に係る源泉所得税の額○○○○円を控除していなかったところ、当該金額は、上記(3)のハのとおり、納付すべき税額の計算上控除すべき金額に当たるから、源泉所得税の額は○○○○円となる。
(ロ) 以上の結果、請求人の平成19年分の納付すべき税額を計算すると、○○○○円(100円未満の端数を切り捨てた後の金額)となる。

(7) 本件更正処分について

 上記(6)のとおり、請求人の平成19年分の納付すべき税額は、○○○○円となり、この金額は、本件更正処分の額○○○○円を下回るから、本件更正処分は、別紙の「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。

(8) 本件賦課決定処分について

イ 上記(7)のとおり、本件更正処分は、その一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の賦課決定処分の基礎となる税額は、○○○○円となる。
ロ また、上記(5)のロのとおり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められず、他に同項に規定する正当な理由があるとも認められない。
ハ したがって、請求人の過少申告加算税の額は○○○○円となり、この金額は、本件賦課決定処分の額○○○○円を下回るから、本件賦課決定処分は、別紙の「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。

(9) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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