(平成24年9月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、上場株式等(租税特別措置法(平成22年法律第6号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第37条の11の3《特定口座内保管上場株式等の譲渡等に係る所得計算等の特例》第2項に規定する上場株式等をいう。以下同じ。)の譲渡による所得の金額の計算上、民事再生法の規定による再生計画に基づき無償で消滅した株式の取得価額を必要経費に算入して申告したところ、原処分庁が、当該株式の消滅に係る損失は、措置法第37条の10の2《特定管理株式等が価値を失った場合の株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》第1項の規定による特例(以下「本件特例」という。)の適用はないから、当該株式の取得に要した金額は取得費に算入できないなどとして更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、本件特例等の規定は無償で消滅した株式の損失が控除できる場合とできない場合とを合理的な理由なく不平等に取り扱うものであるから日本国憲法に違反するなどとして、同各処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成23年8月31日)に至る経緯は、別表1のとおりである。
 なお、以下において、別表1の「更正処分等」欄に係る更正処分を「本件更正処分」といい、同欄に係る過少申告加算税の賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。

(3) 関係法令

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ C社(以下「本件法人」という。)は、平成8年9月にD証券取引所の市場第一部に株式を上場したが、平成20年8月○日にE地方裁判所に対し民事再生手続開始の申立てを行い、同年9月○日に上場廃止となった。
 その後、本件法人は、平成21年3月○日にE地方裁判所から民事再生法の規定による再生計画認可の決定を受け、当該認可の決定は、同年4月○日に確定し、本件法人は、同月○日に当該再生計画に基づき発行済株式の全てを無償で消滅させた。
ロ 請求人は、F証券及びG証券の特定口座以外の口座(以下「一般口座」という。)において、別表2記載のとおり取得した本件法人の株式(以下「本件株式」という。)について、上記イの上場廃止の日まで、保管の委託及び取引をしていた。
ハ 請求人は、平成21年分の上場株式等の譲渡による所得の金額の計算に当たり、別表2の「取得金額」欄記載の金額(以下「本件取得金額」という。)を必要経費に算入した。
ニ 原処分庁は、請求人の上場株式等の譲渡による所得の金額の計算上、まる1本件取得金額は取得費に算入できないが、まる2その所得の計算過程において所得金額を7,499,180円過大に計算した誤りがあるとして、本件更正処分を行った。

(5) 争点

 請求人の上場株式等の譲渡による所得の金額の計算上、本件取得金額を必要経費又は取得費に算入することができるか否か。

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2 主張

(1) 原処分庁

 請求人の上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額の計算上、本件取得金額については、次のとおり、取得費に算入することはできない。
イ 本件株式は、その取得の時から一般口座において保管の委託がされており、特定口座において保管の委託がされていた事実及び特定口座から特定管理口座に移管された事実等は認められず、本件特例の対象となる特定管理株式(措置法第37条の10の2第1項に定める「特定管理株式」をいう。以下同じ。)及び特定保有株式(措置法第37条の10の2第1項に定める「特定保有株式」をいう。以下同じ。)のいずれにも該当しないので、本件特例の適用を受けることはできない。
 なお、請求人の上場株式等の譲渡による所得の区分については、請求人から事業所得又は雑所得に該当する旨の主張又はそれを確認できる資料等の提出がなかったことから、譲渡所得として申告されたものと認定した。
ロ 本件特例等の規定が違憲であるか否かについては、原処分庁の判断すべき事項ではない。

(2) 請求人

 上場株式等の譲渡による所得の金額の計算上、本件取得金額については、次のとおり、必要経費に算入すべきである。
イ 本件特例は、特定口座において株式を管理していた個人と、一般口座において株式を管理していた個人とを合理的な理由なく不平等に取り扱うものである。
ロ 保有する株式の価値喪失分の取扱いについて、法人の場合は、法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》の規定により全額損金算入を認めているのに対し、所得税法では、本件特例に該当しないと所得金額の必要経費として控除を認めないとする点で、法人と個人とを合理的な理由なく不平等に取り扱うものである。
ハ 以上のとおり、所得税法等の規定は、日本国憲法第14条第1項及び同法第84条の平等原則等に違反し、違憲である。

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3 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、平成21年中において、F証券、G証券及びH証券の特定口座及び一般口座の双方で信用取引を中心に上場株式等の取引を行っており、この取引中、約2,800回にわたって総計60銘柄超、約1,050万株の上場株式等を売却している。なお、請求人の平成21年中の取引における譲渡の対価の額、取得費等の額及び取引の種類等は、別表3記載のとおりである。
 また、請求人が、現物取引に係る上場株式等を保有した期間は、その大部分が6か月未満である。
ロ 請求人は、平成20年1月から平成21年12月までの間に、本件株式を取得した別表2記載の証券会社の一般口座において、本件株式以外にも複数の銘柄の上場株式等の取引を行っていた。
ハ 請求人は、平成20年3月27日から同年4月28日にかけて、本件株式以外の本件法人の株式を別表4のとおり取引している。

(2) 法令解釈

 上場株式等が株式としての価値を失ったことによる損失が生じた場合の措置法及び所得税法の取扱いは、次のとおりである。
イ 措置法上の取扱い
 その上場株式等が特定管理株式又は特定保有株式に該当する場合で、その他本件特例の適用要件を満たす場合には、株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上、その損失の金額は、その株式の譲渡をしたことにより生じた損失とみなされることにより、考慮される。
 なお、上場廃止の日において一般口座で保管の委託がされていた上場株式等については、特定管理株式及び特定保有株式のいずれにも該当しない。
ロ 所得税法上の取扱い
(イ) その上場株式等が事業所得の基因となるものであるときは、所得税法第37条第1項の規定に基づき、売上原価の計算を通じて自動的にその株式の取得価額相当額がその損失の発生した年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入される。
(ロ) その上場株式等が雑所得の基因となるものであるときは、所得税法第51条第4項の規定に基づき雑所得の金額を限度として、その損失が発生した年分の雑所得の金額の計算上、その株式の取得価額相当額が資産損失として必要経費に算入される。
(ハ) その上場株式等が譲渡所得の基因となるものであるときは、その損失は所得金額の計算上考慮されないもの(家事上の損失)となる。

(3) 争点について

イ 本件株式が株式としての価値を失ったか否かについて
 本件株式については、平成21年4月○日に本件法人の再生計画認可の決定が確定し、本件法人は、同月○日に当該再生計画に基づき発行株式の全てを無償消滅させたことから(上記1(4)イ)、同日に本件株式は株式としての価値を失ったものと認められる。
ロ 本件特例の適用の可否について
 上記(2)イのとおり、上場廃止の日において一般口座で保管の委託がされていた上場株式等については、特定管理株式及び特定保有株式のいずれにも該当しないことから、本件特例の適用はないところ、本件株式は、取得の時から本件株式が上場廃止となる日に至るまで一般口座で保管の委託がされていたものであるから(上記1(4)ロ)、本件株式が株式としての価値を失ったことにつき、本件特例の適用はない。
ハ 所得税法第37条第1項又は同法第51条第4項の適用の可否について
(イ) まず、請求人における平成21年中の株式の譲渡がいかなる種類の所得の基因となるかについて検討するに、株式等の譲渡による所得が、事業所得若しくは雑所得に該当するか、又は譲渡所得に該当するかの判断方法については、所得税法第33条第2項第1号によれば、当該株式等の譲渡が営利を目的として継続的に行われているかどうかによって判定するものとされている。
 これを本件についてみると、請求人は、上記(1)イのとおり、平成21年中に証券会社3社において、信用取引を中心に、売却額約164億円、取得額は諸費用等を含めて約162億円にも上る多額の取引を行っており、また、このうち、売却のみを見ても、売却回数約2,800回、売却銘柄60銘柄を超えていること、及び(信用取引はもちろんのこと、)現物取引に係る株式についても、大部分の保有期間が6か月未満であることからすると、請求人は、短期間のうちに大量かつ多額の株式を売買して利益を上げようとしているものであり、明らかに営利を目的として株式の譲渡を継続的に行っていると認められる。したがって、請求人の平成21年中の上場株式等の譲渡による所得は、譲渡所得には当たらず、事業所得又は雑所得と認めるのが相当である。
(ロ) そうすると、本件においては、上記イのとおり、本件株式は平成21年4月○日に株式としての価値を失っており、上記(イ)のとおり、請求人の平成21年中の上場株式等の譲渡による所得は、事業所得又は雑所得に該当すると認められるから、これを上記(2)ロの(イ)又は(ロ)に当てはめれば、本件株式が株式としての価値を失ったことによる損失につき、所得税法第37条第1項又は同法第51条第4項の規定が適用されることにより、その損失の金額は、請求人の平成21年分の株式等の譲渡による事業所得又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入できることになる。
 なお、本件株式が株式としての価値を失ったことによる損失の金額を事業所得又は雑所得の必要経費に算入することについては、上記(1)ハのとおり、本件法人が民事再生手続開始の申立てを行う前に、請求人は、本件株式以外の本件法人の株式を約1か月の間に売買して利益を得ていること、また、本件株式は、上記(1)ロのとおり、F証券及びG証券の一般口座で本件株式以外の上場株式等の取引とともに取得されていたと認められることからすれば、本件株式の取得もまた請求人の営利を目的として継続的に行われていた株式の譲渡の一環として行われているものといえることからしても相当である。
ニ 事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額について
 本件株式が株式としての価値を失ったことにつき、請求人の平成21年分の株式等の譲渡による事業所得又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入する金額を計算するに当たっては、本件株式が事業所得の基因となるものであるときは、所得税法第48条第1項及び同法施行令第108条第1項の規定に基づき総平均法により、また、本件株式が雑所得の基因となるものであるときは、所得税法第48条第3項及び同法施行令第118条第1項の規定に基づき総平均法に準ずる方法により、各々評価することとなる(これにより算出された価額を、以下「本件株式評価額」という。)。そして、上記各方法により算出された本件株式評価額は、別表5記載のとおりとなり、本件取得金額の額である41,774,512円と同額か、又は同額以上となる。
ホ 小括
 以上によれば、上記2(2)のイからハまでの請求人の主張に関わらず、少なくとも本件取得金額は、請求人の上場株式等の譲渡による所得の金額の計算上、必要経費に算入することができる。

(4) 本件更正処分について

 上記(3)ホのとおり、請求人の上場株式等の譲渡による所得の金額の計算上、本件取得金額を必要経費に算入することができるから、これを算入することができないとして行われた本件更正処分はその全部を取り消すべきである。

(5) 本件賦課決定処分について

 上記(4)のとおり、本件更正処分はその全部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分はその全部を取り消すべきである。

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