(平成24年8月31日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)がその親族から不動産を200,000円で譲り受けたことに対し、原処分庁が、相続税法第7条《贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合》に規定する「著しく低い価額の対価」で当該不動産の譲渡を受けた場合に当たるとして、贈与税の決定処分等を行ったことから、請求人が、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 平成19年分の贈与税について、審査請求(平成23年9月12日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。
 以下、平成23年6月23日付でされた平成19年分の贈与税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分を、それぞれ「本件決定処分」及び「本件賦課決定処分」といい、これらの各処分を併せて「本件決定処分等」という。

(3) 関係法令等

イ 相続税法第7条は、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があった時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があった時における当該財産の時価との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与により取得したものとみなす旨規定している。
ロ 「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」(平成元年3月29日付直評5、直資2−204の国税庁長官通達。以下「本件個別通達」という。)の第1項本文は、土地及び家屋のうち、個人間の対価を伴う取引により取得したものの価額は、当該取得時における通常の取引価額に相当する金額によって評価する旨定めている。

(4) 基礎事実

 次の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人の親族関係
 請求人は、Fの配偶者であり、後記ロの(イ)の不動産売買契約の売主であるGは、Fの姉である。
ロ 不動産売買契約等
(イ) Gは、平成19年当時、別表2の土地(以下「本件土地」という。)及び別表3の建物(以下「本件建物」といい、本件土地と併せて「本件不動産」という。)を所有していたところ、請求人は、平成19年7月3日、Gとの間で、本件土地及び本件建物をそれぞれ100,000円として、本件不動産を200,000円で買い受ける旨の不動産売買契約を締結し、本件不動産の譲渡を受けた。
 そして、請求人は、本件不動産の代金として200,000円をGに支払った。
 以下、本件不動産の譲受価額200,000円を「本件譲受価額」という。
(ロ) 本件建物は、平成19年7月3日の時点において、留学生に住居として賃貸されていた。
 本件建物の賃貸人の地位は、本件不動産の譲渡により、Gから請求人に移転した。
ハ 本件不動産の固定資産税評価額
 本件不動産に係る平成19年度の固定資産税評価額は、本件土地がXX,XXX,XXX円、本件建物がXXX,XXX円であった。
ニ 原処分に至る経緯
 請求人は、平成19年分の贈与税の申告書を提出しなかったところ、原処分庁は、原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)の結果を踏まえ、平成19年7月3日時点における本件不動産の時価をXX,XXX,XXX円(本件土地の時価XX,XXX,XXX円と本件建物の時価XXX,XXX円とを合計した額)と認定し(以下、この価額を「原処分認定額」という。)、上記ロの(イ)のとおり、請求人が本件不動産を本件譲受価額で買い受ける旨の契約を締結し、本件不動産の譲渡を受けたことは、相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に当たるとし、本件譲受価額と原処分認定額との差額に相当する金額XX,XXX,XXX円を請求人がGから贈与により取得したものとみなして、平成23年6月23日付で、本件決定処分等を行った。

(5) 争点

 平成19年7月3日時点における本件不動産の時価は幾らか。

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2 主張

原処分庁 請求人
 平成19年7月3日時点における本件不動産の時価は、次のとおり、XX,XXX,XXX円である。
(1) 本件個別通達は、相続税法第7条の規定の適用上、土地及び家屋のうち、個人間の対価を伴う取引により取得したものの価額は、当該取得時における通常の取引価額(時価)に相当する金額によって評価する旨定めるところ、請求人は、平成19年7月3日にGから本件不動産を、対価を伴う取引により取得したことが認められるから、相続税法第7条の規定の適用上、本件不動産の価額は、同日時点の通常の取引価額に相当する金額によって評価することとなる。
(2) そこで、平成19年7月3日時点の本件不動産の通常の取引価額をみると、次のとおりである。
イ 原処分庁が、H不動産鑑定士(以下「H鑑定士」という。)に本件不動産の鑑定評価を依頼したところ、H鑑定士は、平成19年7月3日時点の本件不動産の時価をXX,XXX,XXX円(本件土地の鑑定評価額XX,XXX,XXX円と本件建物の鑑定評価額XXX,XXX円とを合計した額)と鑑定評価した(以下、H鑑定士が鑑定評価した本件不動産の時価を「原処分庁鑑定評価額」といい、原処分庁鑑定評価額について記載した不動産鑑定評価書を「原処分庁鑑定書」という。)。
ロ H鑑定士は、本件不動産の鑑定評価に当たり、本件土地については、地価公示法第2条《標準地の価格の判定等》に規定する「正常な価格」である公示価格等に基づき地域要因及び個別的要因等の格差補正を行って時価を算定し、本件建物については、原価法を適用して得た再調達原価に、残存耐用年数、機能的、経済的な減価等を考慮して時価を算定しており、いずれも合理的に鑑定評価したことが認められる。
(3) したがって、平成19年7月3日時点における本件不動産の時価は、原処分庁鑑定評価額(XX,XXX,XXX円)と認められる。
 そして、本件譲受価額は、原処分庁鑑定評価額に比して著しく低い価額の対価に該当すると認められ、これらの差額XX,XXX,XXX円が相続税法第7条に規定する贈与により取得したものとみなされ贈与税の課税対象となるところ、原処分庁は、本件不動産の時価(原処分庁鑑定評価額)を下回る原処分認定額XX,XXX,XXX円と本件譲受価額との差額XX,XXX,XXX円を本件決定処分の課税価格としたのであるから、本件決定処分等は適法である。
 平成19年7月3日時点における本件不動産の時価は、次の(1)のとおり、200,000円である。
 仮に平成19年7月3日時点における本件不動産の時価が200,000円を上回るとしても、次の(2)のとおり、2,500,000円と評価されるべきである。
(1) 請求人は、Gから本件不動産を200,000円で買い取ってほしいと言われた際、本件不動産については、これに至る唯一の道路である、本件土地の北東側に接する道路(市道「c号」線。以下「本件道路」という。)が狭く、一般の買い手がつかない物件であるから200,000円が時価相当であると判断して、その価額で本件不動産を買い受けた。
 したがって、売買当事者が合意した本件不動産の売買価額は本件不動産の上記事情に照らして合理的な価額であるから、本件不動産の時価は200,000円と評価されるべきである。
(2) 仮に平成19年7月3日時点における本件不動産の時価が200,000円を上回るとしても、次のような要素を考慮すれば、2,500,000円と評価されるべきである。
イ 本件道路は極めて狭く、普通自動車による進入は不可能であり、軽自動車による進入も容易ではない。
ロ 本件道路が極めて狭いことから、本件建物の取壊し及び建物の新築には、通常の場合よりも多額の費用を要する。
ハ 本件土地の敷地内には高さ約2.5メートルの段差がある。
ニ 平成24年6月25日、請求人は、J社との間で、本件不動産の売却価額を4,600,000円とする売買を媒介する旨の専任媒介契約を締結し、J社が買主を探索するなどしたところ、本件不動産を2,500,000円で買いたいとする買い手が現れたので、請求人は、同年8月11日、本件不動産を2,500,000円でその者に売却することとした。
(3) 以上のように、平成19年7月3日時点における本件不動産の時価は200,000円であるから、本件決定処分等は、その全部が違法であり、取り消されるべきである。
 仮に本件不動産の時価が200,000円を上回るとしても、2,500,000円と評価されるべきであるから、本件決定処分等は、当該価額と本件譲受価額との差額を上回る部分が違法であり、取り消されるべきである。

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3 判断

(1) 争点について

イ 法令解釈
 相続税法第7条は、「著しく低い価額の対価」で財産の譲渡を受けた場合には、法律的には贈与といえないとしても、経済的・実質的にはその対価と時価との差額について贈与を受けたものと同視できることから、この経済的実質に着目して、上記差額について贈与を受けたものとみなして贈与税を課すことで、課税の公平を図ることを目的として設けられた規定であると解される。
 したがって、上記のような相続税法第7条の趣旨に鑑みると、同条に規定する「著しく低い価額の対価」とは、その対価に経済的合理性がないことが明らかな場合をいうものと解され、その判定は、当該財産の価格形成に関する諸要素を勘案して、社会通念に従い、時価と当該譲渡の対価との開差が著しいか否かによって行うのが相当である。
 また、相続税法第7条に規定する「時価」とは、当該財産の譲渡があった時において、その財産の状況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値を意味するものと解するのが相当であり、これと同旨の本件個別通達の第1項本文は当審判所においても相当と認められる。
ロ 認定事実
 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件不動産の位置等
A 本件不動産は、d鉄道a駅から北東方向に約1.5キロメートル離れたe山の山麓に位置し、本件不動産が所在するa市f町○丁目は、第1種住居地域に指定され、多数の小中規模の戸建住宅が存在する地域である。
B 県道g線から本件不動産に至るには、e山がある南西方向に向かう本件道路(この部分の幅員約1.5メートル)に入り、途中北西方向に右折して幅員約1.8メートルとなった本件道路を上りながら約140メートル進む必要がある。
 上記県道から本件不動産までの道路は舗装されているが、狭い道を右折しなければならないため、軽自動車による進入は可能であるが、普通自動車による進入は不可能である。
(ロ) 本件土地の状況等
A 本件土地は、別紙2の「本件土地の平面図」のとおり、間口約14メートル、奥行約30メートルの不整形地であり、北東側約14メートルが本件道路に等高から約1.5メートルの高低差をもって接している。
 本件土地は、その南西側も幅員約1.3メートルの未舗装の市道「h号」線に約23メートル接しているが、本件土地から同市道まで約4メートルの高さの擁壁になっているため、本件土地からは同市道を利用することはできない状態となっている。
 本件道路は、特定行政庁であるa市長から建築基準法第42条《道路の定義》第2項に規定する道路の指定を受けていないため、本件土地の上に建物の建替え、増築等をする場合は、同法第43条《敷地等と道路との関係》第1項ただし書に規定する建築審査会の同意及び特定行政庁であるa市長の許可を受ける必要がある。
 a市の定める建築基準法第43条第1項ただし書に規定する同意基準によれば、本件道路の幅員を4メートルとみなし、容積率及び建ぺい率の制限は、本件道路と本件土地との境界から約1.1メートルの部分(約15.4平方メートル)を敷地面積から除外して適用することになる。
B 本件土地は、土地の形状及び利用形態から、大別して、別紙2の「本件土地の平面図」の丸Aから丸Eまでの5つの部分に区分することができる。
 本件土地のうち本件道路に接する丸Aの部分は、平坦な土地であり、賃貸駐車場として利用されている。
 本件土地のうち丸B丸C及び丸Dの各部分は、庭として利用されているが、丸Bの部分は緩傾斜の法地、丸Dの部分は平坦な土地(丸Aの部分より若干高くなっている。)、丸Cの部分は丸Aの部分と丸Dの部分とをつなぐ緩やかな傾斜地となっている。
 本件土地のうち丸Eの部分は、本件建物の敷地として利用されている部分であるが、丸Dの部分と丸Eの部分の間には、高低差約2.5メートルの段差があるため、本件土地を更地として使用する場合には整地等が必要である。
 本件土地のうち丸Aから丸Eまでの各部分の面積及び面積割合は、それぞれ別紙2の「本件土地の各区分別の面積等」に記載したとおりである。
 なお、別紙3の平面図の太線を断面としてその側面から見た本件土地と本件建物の概略は別紙3の側面図(イメージ図)のとおりである。
(ハ) 本件建物の状況
A a市役所資産税課職員の本件調査の担当者に対する申述、本件建物に係る不動産登記の登記事項証明書、原処分庁鑑定書及び当審判所の調査の結果によれば、本件建物は、昭和6年頃に建築され、平成19年7月3日時点で約76年が経過した、木造瓦葺3階建て、床面積合計269.57平方メートルの建物であり、本件不動産の周辺の戸建住宅と比較して大きい規模の住宅と認められる。
 また、本件建物の使用資材、施工の程度は標準的なものであり、本件建物に目視できる程度の損壊は認められない。
B 本件建物は、上記1の(4)のロの(ロ)のとおり、平成19年7月3日当時、賃貸に供されていたが、各部屋を襖及び施錠のない引き戸で仕切るなど、共同住宅の用途に供する設計とはなっていない。
 なお、請求人とGとの間で作成された平成19年7月3日付の確認書及びFの当審判所に対する答述によれば、本件建物の賃貸借契約は、賃貸借期間を1年間、賃貸借契約を終了するときは終了の6か月以上前に賃貸借契約の終了を通知する、6か月以内に退去を求めるときは1か月分の家賃を負担するものとされていたこと、本件建物の賃貸借は平成23年5月31日に終了し、空き家となったこと、請求人は、本件建物の賃借人に対し、賃貸借契約の終了を6か月以上前に通知し、賃借人の立ち退きに際し、立退料等の金員を交付することはなかったことが認められる。
(ニ) 本件不動産の売却
 請求人とJ社との間で締結された本件不動産に係る平成24年6月25日付の専任媒介契約書、同年7月21日付の本件不動産の売出広告、J社の媒介で締結された本件不動産に係る同年8月11日付の不動産売買契約書並びに請求人及びJ社の担当者の当審判所に対する各答述によれば、請求人は、同年6月25日、J社との間で、本件不動産の売却価額を4,600,000円として専任媒介契約を締結したこと、同日以降、J社は、インターネット上のホームページで本件不動産を4,600,000円で売りに出し、同年7月21日付の売出広告においても4,600,000円で売りに出したこと、請求人は、同年8月3日までに本件不動産を代金2,500,000円で売却することを内諾し、同月11日、上記売買契約書の買主(請求人と親族関係のない第三者)との間で本件不動産の売買契約を締結し、代金2,500,000円で売却したことが認められる。
ハ 判断
(イ) 原処分庁主張額について
 原処分庁は、上記2の「原処分庁」欄の(2)のとおり、原処分庁鑑定評価額が平成19年7月3日時点における本件不動産の時価であると主張することから、原処分庁鑑定書に記載された本件不動産の鑑定評価について検討すると、次のとおりである。
A 本件土地の鑑定評価額
(A) 原処分庁鑑定書に記載された本件土地の鑑定評価の要旨は、別紙4の1のとおりであり、H鑑定士は、別紙4の1の(3)のロのとおり、取引事例比較法を適用して近隣地域の標準的画地の価格を査定するに当たり、取引事例1及び取引事例3の各取引価格に係る事情補正につき、それぞれ売り急ぎによる減価要因があったとして、取引価格に70分の100を乗じる事情補正を行っている。
 しかしながら、H鑑定士の当審判所に対する答述から、取引事例1及び取引事例3の各取引価格に係る事情補正について、H鑑定士は、各取引価格から売り急ぎがあったと推測しただけで、売り急ぎの事実を確認していなかったことが認められる。
(B) また、近隣地域の標準的画地と本件土地との個別的要因の補正について、別紙4の1の(4)のとおり、H鑑定士は、本件土地の敷地内に3箇所の段差があることは本件土地の個別的要因に当たるとして、標準的画地の価格と比較した減価率を20%と査定して個別格差修正率を80%と査定しているところ、H鑑定士の当審判所に対する答述から、H鑑定士は、段差1箇所につき5%から10%までの減価率を適用することが一般的であるとした上で、本件土地には3箇所の段差があることから20%の減価率を査定したことが認められる。
 しかしながら、H鑑定士は、客観的な基準によって個別格差修正率を80%と査定したものではない上、上記ロの(ロ)のBのとおり、本件土地の約12%が法地であること、本件土地の中央部に約2.5メートルに及ぶ段差等が存在し、本件土地を更地として使用する場合には整地等が必要であること、上記ロの(ロ)のAのとおり、本件土地には、その接する本件道路との関係で、建築基準法等の規定等に基づき、道路とみなされる部分を本件土地の敷地面積から除外して容積率及び建ぺい率の制限を適用することになるという事情が存することなど、本件土地はH鑑定士の指摘する3箇所の段差の存在以外にも有効利用が困難な現状にあることに鑑みれば、H鑑定士が当該段差の存在のみをもって減価率を20%と査定したことは、本件土地の現状を十分に考慮したということはできない。
(C) 以上のとおり、原処分庁鑑定書は、近隣地域の標準的画地の価格の査定上、また、近隣地域の標準的画地と本件土地との個別的要因の補正上にそれぞれ問題があり、本件土地の価格が合理的に査定されたものとは認められないから、原処分庁鑑定評価額における本件土地の価額XX,XXX,XXX円が平成19年7月3日時点における本件土地の時価であると認めることはできない。
B 本件建物の鑑定評価額
(A) 原処分庁鑑定書に記載された本件建物の鑑定評価の要旨は、別紙4の2の(2)のとおり、原価法を適用して、本件建物の再調達原価に残存耐用年数、観察減価、市場性を考慮して1平方メートル当たりの価格を査定し、これに床面積を乗じて本件建物の評価額を査定したというものである。
(B) 上記(A)の鑑定評価に当たり、H鑑定士は、別紙4の2の(2)のとおり、本件建物の1平方メートル当たりの再調達原価をXXX,XXX円としているところ、H鑑定士の当審判所に対する答述から、本件建物の1平方メートル当たりの再調達原価をXXX,XXX円とした理由は、建物の鑑定評価において、共同住宅の通常の再調達原価を1平方メートル当たりXXX,XXX円とした上、本件建物は構造材が良かったことから、1平方メートル当たりの再調達原価をXXX,XXX円としたというものであることが認められる。
 しかしながら、上記ロの(ハ)のBのとおり、本件建物は、共同住宅の用途に供する設計とはなっていないから、共同住宅の再調達原価を適用したことは不合理である上、別紙4の2の(1)のとおり、原処分庁鑑定書においては、本件建物の「使用資材、施工の程度などは標準的」としているのであるから、通常の共同住宅の建物の再調達原価よりも高い原価としたことは不合理である。
(C) 以上のとおり、原処分庁鑑定書は、再調達原価の適用に不合理な要因があり、本件建物の価格が合理的に査定されたものとは認められないから、原処分庁鑑定評価額における本件建物の価額XXX,XXX円が平成19年7月3日時点における本件建物の時価であると認めることはできない。
(ロ) 審判所認定額について
A 本件土地の時価
 上記(イ)のAの(C)のとおり、原処分庁鑑定書における本件土地の価額は時価と認めることができない。
 そこで、当審判所が一般財団法人K社(以下「K社」という。)に本件土地の鑑定評価を依頼したところ、K社は、平成19年7月3日時点における本件土地の時価をX,XXX,XXX円と鑑定評価したので、以下、これが合理的な鑑定評価に基づくものであるか否かを検討する(以下、K社が鑑定評価した本件土地の鑑定評価額を「審判所鑑定評価額」といい、作成した鑑定評価書を「審判所鑑定書」という。)。
(A) 審判所鑑定書に記載された本件土地の鑑定評価の要旨は、別紙5のとおり、まる1取引事例比較法を適用して求めた各価格について、相対的に規範性の高い取引事例1、取引事例3及び取引事例4の各価格を相互に比較検討し、相対的に規範性がやや劣る取引事例2の価格を参考にとどめ、公示価格を規準とした価格との均衡を考慮し、本件土地の近隣地域の標準的画地の価格を査定し、まる2これに本件土地の個別的な増減価要因に基づく補正を行って査定した本件土地の1平方メートル当たり価格に本件土地の面積を乗じた上、市場性修正率を乗じて平成19年7月3日時点における本件土地の価額を鑑定評価し、収益還元法を適用した価格を査定していないところ、その理由は、本件土地が存在する地域は賃貸市場が未成熟であるなどというものであり、その鑑定評価方法は十分合理性が認められる。
(B) そして、別紙5の1の(2)及び(3)のイのとおり、K社は、本件土地の近隣地域の範囲を、a市f町○丁目○、○、○及び○番街区のうち本件土地の行政的条件と同じ規制を受ける住宅地域とし、近隣地域の標準的画地を、本件土地と同様に復員1.8メートルの本件道路に等高から約1.5メートル高く接するものとし、かつ、近隣地域において標準的な規模とするため、間口を8メートル、奥行き16メートル、地積128平方メートルとする長方形地としているところ、本件土地の近隣地域の範囲及び近隣地域の標準的画地を上記のとおりとしたことについて不合理と認められるものはない。
 また、別紙5の1の(3)のロのとおり、K社は、近隣地域の標準的画地の価格を査定するに当たり、まる1取引事例比較法を適用し、各取引価格に事情補正、時点修正を行ってそれぞれの現在推定価格を査定し、まる2建築基準法等の規定等に基づき、道路とみなされる部分を取引事例に係る土地の敷地面積から除外して容積率及び建ぺい率の制限を適用する必要性の有無などの事情を考慮して標準化補正を行い、まる3各取引事例地と近隣地域の標準的画地との地域要因格差による修正を行った上で、各取引事例に基づく近隣地域の標準的画地の1平方メートル当たりの推定標準価格をXX,XXX円からXX,XXX円までの価格と査定し、このようにして査定した当該各推定標準価格と地価公示地の価格に規準して査定した近隣地域の標準的画地の1平方メートル当たりの推定標準価格XX,XXX円との均衡に留意して、近隣地域の標準的画地の1平方メートル当たりの価格をXX,XXX円と査定しているところ、このような近隣地域の標準的画地の1平方メートル当たりの価格の査定に不合理と認められるものはない。
 さらに、別紙5の1の(4)のとおり、K社は、本件土地と近隣地域の標準的画地との個別的要因の格差を補正するため、近隣地域の標準的画地の1平方メートル当たりの価格XX,XXX円に本件土地の段差等の減価要因を考慮して個別格差修正率51%を乗じ、本件土地の1平方メートル当たりの価格をXX,XXX円と査定し、これに本件土地の地積488.00平方メートルを乗じた上、市場性修正率70%を乗じて審判所鑑定評価額X,XXX,XXX円を査定しているところ、その判断過程に不合理と認められるものはない。
 なお、上記1の(4)のロの(ロ)のとおり、本件建物は留学生に賃貸されていたことが認められるのに、K社は、別紙5の1の(1)のとおり、実質的に自己使用目的の土地と異なることはないとして、本件土地の鑑定評価上これを減価要因にしていないところ、上記ロの(ハ)のBのとおり、本件建物の賃貸借契約は、賃貸借期間が1年という短期間のもので、その終了に際し、終了6か月以上前に通知すれば、賃貸人が立退料等を交付する必要はなく、平成23年5月31日に賃貸借契約が終了した時も、請求人は、賃借人に立退料等を支払うことなく、賃貸借契約が終了したことなどを考慮すれば、K社が本件建物の賃貸借を本件土地の鑑定評価上減価要因にしなかったことは、不合理と認められるものではない。
(C) したがって、平成19年7月3日時点における本件土地の更地としての時価は、別紙5の2のとおり、X,XXX,XXX円であると認めるのが相当である。
B 本件建物の時価
 上記(イ)のBの(C)のとおり、原処分庁鑑定書における本件建物の価額は時価と認めることができないところ、当審判所が本件建物の時価を算定すると、次のとおりである。
(A) 建物については再建築価格によって評価することが基本的、普遍的であると考えられるところ、建物の固定資産税評価額は、固定資産評価基準に基づき、木造家屋及び木造家屋以外の家屋の区分に従い、各個の家屋について評点数を付設し、当該評点数に評点1点当たりの価額を乗じて求める方法によるものとされ、各個の家屋の評点数については、当該家屋の再建築費評点数を基礎とし、これに家屋の損耗の状況による減点を行って付設し、家屋の状況に応じ必要があるものについては、更に家屋の需給事情による減点を行うものとされている。
 このような固定資産評価基準が定める家屋の評価方法は、客観的に算出された再建築費評点数を基礎とし、主観的な個別事情等を排した家屋の客観的な交換価値を評価する方法として一般的な合理性を有するものといえるから、固定資産評価基準に従って算出された価格は、特段の事情のない限り、適正な時価と認めることができる。
(B) そして、上記1の(4)のハのとおり、平成19年度における本件建物の固定資産税評価額はXXX,XXX円であったところ、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果から、本件建物の固定資産税評価額は固定資産評価基準に定める方法に基づき決定されたものと認められ、上記ロの(ハ)のAのとおり、本件建物には目視できる損壊は認められず、上記評価額の決定後、本件建物の価格を低下させるような損耗はなかったことを考慮すれば、平成19年7月3日時点における本件建物の時価が固定資産税評価額を著しく下回るような特段の事情は認められないから、平成19年7月3日時点における本件建物の時価はXXX,XXX円と認めるのが相当である。
 なお、上記1の(4)のロの(ロ)のとおり、本件建物は留学生に賃貸されていたことが認められるが、上記Aの(B)のとおり、本件建物の賃貸借状況から、本件建物の賃貸借は本件建物の時価の算定上減価要因にはならない。
C まとめ
 上記Aの(C)及びBの(B)のとおり、本件土地の時価はX,XXX,XXX円と認められ、本件建物の時価はXXX,XXX円と認められるから、平成19年7月3日時点における本件不動産の時価は、これらの合計額であるX,XXX,XXX円となる。
(ハ) 請求人の主張について
A 請求人は、上記2の「請求人」欄の(1)のとおり、平成19年7月3日時点における本件不動産の時価は200,000円である旨主張するが、上記1の(4)のイ及びロの(イ)のとおり、当該価額は、親族関係にある売主と買主との間の相対取引により決定された価額であることからすれば、直ちに当該価額が本件不動産の客観的な交換価値であるということはできない。
 そして、平成19年7月3日時点における本件不動産の時価がX,XXX,XXX円と認められることは、上記(ロ)のCのとおりである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
B 請求人は、上記2の「請求人」欄の(2)のイからニまでに掲げる事情をもって、本件不動産の時価は2,500,000円と評価されるべきである旨主張する。
 確かに、上記ロの(ニ)のとおり、請求人は平成24年8月11日付の不動産売買契約により、親族関係のない第三者に対し、本件不動産を代金2,500,000円で売却したことが認められるが、一般に現実の取引価格は、その取引の際の個別的な事情による偏差があり、当該取引価格をもって直ちに客観的な交換価値であると認めることはできない上、上記ロの(ニ)のとおり、請求人は、同年7月21日に本件不動産を4,600,000円で売り出した後、同年8月3日までには本件不動産を代金2,500,000円で売却することを内諾するに至ったことから、売り急ぎの事情がうかがえること、請求人が主張する本件不動産の売買価額は平成24年8月11日時点のものであり、請求人がGから本件不動産の譲渡を受けた平成19年7月3日から約5年の時が経過した時点の取引価額であることからすれば、本件不動産の売却価額2,500,000円を本件不動産の時価ということはできない。
 そして、上記2の「請求人」欄の(2)のイからハまでの各事情について、当審判所は、上記(ロ)のAのとおり、本件土地の時価の算定に当たり、これらの事情を考慮して本件土地を評価し、また、上記(ロ)のBのとおり、本件建物については再建築価格によって評価したのであって、それぞれ合理的に本件土地及び本件建物を評価している。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 本件決定処分について

 上記(1)のハの(ロ)のCのとおり、本件不動産の時価はX,XXX,XXX円となることから、本件譲受価額(200,000円)は、本件不動産の時価(X,XXX,XXX円)を大きく下回り、社会通念に照らし、相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価」に該当すると認めるのが相当である。
 そうすると、本件譲受価額(200,000円)と譲渡があった時における本件不動産の時価(X,XXX,XXX円)との差額に相当する金額X,XXX,XXX円は、相続税法第7条の規定により、請求人がGから贈与により取得したものとみなされる。
 これを前提として請求人の贈与税の納付すべき税額を計算すると、別表4のまる4欄のとおり、○○○○円となり、この金額は本件決定処分のそれを下回るから、本件決定処分は、その一部を別紙1「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(3) 本件賦課決定処分について

 上記(2)のとおり、本件決定処分の一部が取り消されることに伴い、無申告加算税の基礎となる税額は○○○○円となる。
 また、期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合に該当しないので、同項及び第2項の規定に基づき無申告加算税の額を計算すると○○○○円となり、この金額は本件賦課決定処分のそれを下回るから、本件賦課決定処分は、その一部を別紙1「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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