(平成24年7月4日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人H(以下「請求人H」という。)、同K(以下「請求人K」という。)、同L(以下「請求人L」という。)及び同M(以下「請求人M」といい、これら4名を併せて「請求人ら」という。)が相続により取得した一部の土地の価額について、請求人らが財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達をいい、以下「評価基本通達」という。)24−4《広大地の評価》に定める広大地として評価をして、相続税の申告をしたのに対し、原処分庁が、当該土地は広大地には当たらないとして、相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったことから、請求人らが当該各更正処分等の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人らは、平成19年11月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したN(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人であり、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、法定申告期限までに、他の共同相続人とともに、別表の「期限内申告」欄のとおり記載した申告書を原処分庁へ提出した。
 なお、請求人らは、同申告において、本件相続により取得した一部の土地の価額について、当該土地が評価基本通達24−4(以下「広大地通達」という。)に定める広大地に該当するものとして評価した。
ロ 請求人らは、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、平成22年3月11日、租税特別措置法第69条の4《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》の適用等について誤りがあったとして、他の共同相続人とともに、別表の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を原処分庁へ提出した。
ハ 原処分庁は、上記ロの修正申告に対して、平成22年5月31日付で、別表の「賦課決定処分」欄のとおり過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ニ 次いで、原処分庁は、平成23年3月28日付で、上記イの土地は広大地通達に定める広大地に該当しないが、他の土地について正面路線価の採用等に誤りがあったとして、別表の「更正処分等」欄のとおり各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ホ 請求人らは、平成23年5月17日、上記ニの各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成23年7月8日付で、上記ニの各更正処分に係る異議申立てを棄却したが、請求人らが上記イの土地を広大地通達に定める広大地として評価したことについては国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由」があるとして、請求人Hに対する上記ニの過少申告加算税の賦課決定処分の全部を取り消す異議決定並びに請求人K、請求人L及び請求人Mに対する上記ニの過少申告加算税の各賦課決定処分の一部を取り消す異議決定をした(以下、上記ニの各更正処分及び異議決定により一部が取り消された後の請求人K、請求人L及び請求人Mに対する上記ニの過少申告加算税の各賦課決定処分をそれぞれ「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」といい、これらの各処分を併せて「本件各更正処分等」という。)。
 なお、当該異議決定に係る異議決定書は、平成23年7月11日に、請求人らに送達された。
ヘ 請求人らは、上記ホの異議決定を経た後の本件各更正処分等に不服があるとして、平成23年8月10日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、同日、請求人Hを総代として選任し、その旨を届け出た。

(3) 関係法令等の要旨

 別紙6のとおりである(なお、略称等は本文中の例による。)。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人らと原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件相続について
(イ) 本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の妻であるP、子である請求人K、いずれも養子である請求人H、請求人L及び請求人Mの5名である。
(ロ) 本件被相続人は、本件相続の開始時において、別紙7の物件目録の順号1ないし3の各土地を所有していた。
(ハ) 平成20年8月13日、上記(イ)の共同相続人間で本件相続に係る遺産分割協議が成立し、別紙7の物件目録記載の順号1の土地、同2の土地のうち実測地積389.5平方メートルの部分及び同3の土地のうち実測地積168.62平方メートルの部分については、請求人Hが全部を、同2の土地のうち実測地積1,070.06平方メートルの部分及び同3の土地のうち実測地積1,027.92平方メートルの部分については、請求人Hが共有持分209,798分の67,138を、請求人Kが同209,798分の90,213を、請求人Lが同209,798分の29,370を、請求人Mが同209,798分の23,077をそれぞれ相続した。
ロ 上記イの(ハ)の各土地等の利用状況及び法的規制等について
(イ) 本件被相続人は、別紙7の物件目録記載の順号1ないし3の各土地(同順号2の土地の駐車場部分458.12平方メートルを除く。)並びに当該各土地に隣接する同4及び同5の国有地(畦畔)を林地として、一体で使用していた(以下、別紙7の物件目録の順号1ないし3の土地のうち、上記イの(ハ)の請求人Hが単独で相続した各土地及び当該各土地に隣接する同4の国有地(畦畔)を併せた1,604.17平方メートルを「本件A土地」といい、上記イの(ハ)の請求人らが共有で相続した各土地及び当該各土地に隣接する同5の国有地(畦畔)を併せた2,108.19平方メートルを「本件B土地」といい、本件A土地及び本件B土地を併せて「本件各土地」という。)。
(ロ) 請求人Hは、本件相続開始日後の平成20年9月30日、別紙7の物件目録記載の順号4及び同5の国有地(畦畔)を6,100,000円で取得し、同年10月22日付で所有権保存登記がされた。
(ハ) 本件各土地に係る用途地域(都市計画法第8条《地域地区》第1項第1号に規定する各地域をいう。)は、第1種中高層住居専用地域で、建ぺい率は60%、容積率は200%である。

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2 争点

 本件各土地を広大地通達に定める広大地として評価することの可否(広大地通達に定める中高層の集合住宅等の敷地用地に適している土地(以下「マンション適地等」という。)に該当するか否か。)

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3 主張

(1) 原処分庁

 次のとおり、本件各土地はいずれもマンション適地等に該当することから、広大地通達に定める広大地として評価することはできない。
イ 本件各土地の最有効使用を判断するに当たっては、広大地通達に定める「その地域」の標準的使用の状況を参考とするべきであるところ、「その地域」とは、評価対象地が属する地域の土地の利用状況、環境等がおおむね同一と認められるある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域を指すものというべきである。本件各土地が属する「その地域」とは、本件各土地が所在するa県b市q町○−○、同番に隣接する同○番、同○番及び同○番の地域のうち用途地域が第1種中高層住居専用地域として同一の地域である。
ロ 上記イの地域には、戸建住宅の用に供している土地もあるものの、中高層のマンションが多く存在している。
ハ 平成10年以降、上記イの地域において、中高層のマンションが建築された土地は複数存する反面、開発許可を要する規模の土地で、これを細分化して戸建住宅が建築されたものはない。
ニ 本件各土地はマンションを建築することが可能な容積率200%の第1種中高層住居専用地域にあり、d鉄道○線e駅から約500メートルの距離に位置し、交通の便も良いことなどマンションの建築に適している。
ホ 本件相続開始日後、本件B土地に7階建てのマンションが建築されたことは、本件相続開始日時点においても、本件各土地がマンション適地等であったという判断が正しいことを裏付けるものである。

(2) 請求人ら

 平成17年6月17日付の国税庁資産評価企画官情報「広大地の判定に当たり留意すべき事項」において、「容積率200%の地域は、評価対象地の最有効使用の判定が困難な場合もあることから、周囲の状況や専門家の意見から明らかにマンション等の敷地に適していると認められる土地を除き、広大地に該当する」旨説明されているところ、次のとおり、本件各土地はいずれも明らかなマンション適地等とは認められないから、広大地通達に定める広大地として評価すべきである。
イ 本件各土地の周辺地域の状況等
 マンション適地等に当たるか否かの判定は、評価対象地の「周辺地域」の標準的使用を参考とするところ、本件各土地の周辺地域は、本件各土地と都市計画法上の規制(第1種中高層住居専用地域、建ぺい率60%、容積率200%)が同じであり、かつ、ある程度の広がりがある地域(主にd鉄道○線の沿線地域である。以下「請求人ら主張地域」という。)である。
(イ) 請求人ら主張地域は、戸建住宅とマンションが混在している地域である。
(ロ) 請求人ら主張地域のa県b市f町○丁目において、本件A土地と同程度の地積である土地が平成10年に開発許可を受け、戸建住宅用地として開発されている。また、上記(1)のイの原処分庁の主張する「その地域」内であるa県b市q町○−○の街区においても、現に、平成16年に戸建住宅が6棟建築されている。
(ハ) 本件各土地は、容積率200%の第1種中高層住居専用地域に存するが、容積率200%の消化が困難である。また、戸建住宅志向が強い地域である。
ロ 最有効使用についての専門家の意見
 マンション適地等の判定には、評価対象地の個別の特性を考える必要があるところ、次のとおり、専門家が本件各土地の形状(不整形)からして容積率が消化できないことや、戸建住宅志向が強い地域であることなど、具体的な理由を掲げて、マンションの敷地よりも戸建住宅の敷地に適しているとの意見を述べていることから、本件各土地はマンション適地等に該当しない。
(イ) 本件相続開始日後、本件B土地及び隣接する駐車場を取得したQ社の担当者は、本件各土地の所在する地域は戸建住宅志向が強いこと及び本件各土地はいずれも不整形であり容積率200%を消化するマンションの建築ができないことから、本件各土地は、いずれも戸建住宅用地に適していると申述している。
(ロ) Q社が依頼した仲介業者は、本件各土地は、いずれも戸建住宅用地に適していると申述している。
(ハ) 大手の開発業者に所属し、多数の土地開発事例を熟知している不動産鑑定士は、本件各土地について、戸建住宅用地の分譲及びマンション分譲を想定し、それぞれの開発法による価格(開発主体の投資採算性に着目した価格)を査定した結果から、本件各土地はいずれも戸建住宅用地に適している旨、別紙8のとおり「不動産調査書」において意見を述べている。また、当該不動産調査書において想定されたマンションの容積率は、本件A土地に係るものは138.23%、本件B土地に係るものは167.11%と指定容積率200%を大きく下回る。

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4 判断

(1) 法令解釈等

イ 相続税法第22条《評価の原則》は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、特別の定めがあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているが、全ての財産の時価(客観的交換価値を示す価額)は、必ずしも一義的に確定できるものではない。
 そこで、課税実務上は、財産評価の一般的基準が評価基本通達によって定められており、評価基本通達により算定される価額が時価を上回るなど、評価基本通達に定められた評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによりかえって実質的な租税負担の平等を著しく害することが明らかであるといった特別の事情がある場合を除き、評価基本通達に定められた評価方法によって、当該財産の評価をすることとされている。
 当審判所においても、この取扱いは、納税者間の公平や効率的な租税行政の実現等の観点から、相当であると解する。
ロ 広大地通達について
 広大地通達は、評価の対象となる宅地の地積が当該宅地の属する地域の標準的な宅地の地積に比して著しく広大な宅地で、都市計画法第4条《定義》第12項に規定する開発行為(以下「開発行為」という。)を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの(マンション適地等を除く。以下「広大地」という。)の価額の評価について、減額の補正を行う旨定めている。
 このような減額の補正を行うこととした趣旨は、まる1評価の対象となる宅地の地積が、当該宅地の価額の形成に関して直接影響を与える特性を持つ当該宅地の属する地域の標準的な宅地の地積に比して著しく広大で、まる2当該宅地が評価の時点において経済的に最も合理的に使用されておらず開発行為を要するときに、経済的に最も合理的な開発行為が当該宅地を細分化して戸建住宅等の敷地とすることである場合、当該開発行為により道路、公園等の公共公益的施設用地の負担が必要となって、いわゆる潰れ地が生じ、評価基本通達15《奥行価格補正》ないし同20−5《容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価》による減額の補正では十分といえない場合があることから、このような宅地の価額の評価に当たっては、潰れ地が生ずることを当該宅地の価額に影響を及ぼす事情として、価値が減少していると認められる範囲で減額の補正を行うこととしたものと解される。
 しかしながら、評価の時点における当該宅地の属する地域の標準的使用の状況等に照らして、経済的に最も合理的な開発行為が、当該宅地を細分化せずに一体として利用してマンション等の敷地とすることである場合(すなわち、当該宅地がマンション適地等に該当する場合)には、公共公益的施設用地の負担は必要とならず、潰れ地は生じないから、減額の補正を行う必要はないので、広大地通達は、マンション適地等は広大地に該当しない旨も定めている。
 当審判所においても、上記のとおりの広大地通達の取扱いは相当であると解する。
ハ 広大地通達における「その地域」について
 上記ロの広大地通達の趣旨に照らすと、同通達でいう評価対象地の属する「その地域」(以下「その地域」という。)とは、まる1河川や山などの自然的状況、まる2行政区域、まる3都市計画法による土地利用の規制など公法上の規制等、まる4道路、鉄道及び公園など、土地の利用状況の連続性や地域の一体性を分断して土地利用上の利便性や利用形態に影響を及ぼすことがあり得る客観的な事情を総合勘案し、利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域を指すものと解するのが相当である。
ニ 広大地から除かれるマンション適地等について
 そして、評価対象地がマンション適地等であると認められる場合とは、「その地域」におけるまる1マンション等の建築の状況、まる2用途地域・建ぺい率・容積率や地方公共団体の開発規制、また、まる3交通、教育、医療等の公的施設や商業地への接近性等から判断して、評価対象地をマンション等の敷地とすることが経済的に最も合理的であると認められる場合を指すと解するのが相当である。

(2) 認定事実

 請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件土地の位置、形状等について
(イ) 本件A土地は、南側でg号線(g街道)に、東側及び西側で市道に接面する鍵状の土地である。
(ロ) 本件B土地は、東側及び西側で市道に接面する鍵状の土地である。
(ハ) 本件A土地は、その北側で本件B土地に接面する。
ロ 本件各土地の周辺の状況について
(イ) 本件各土地の北側には、幹線道路であるh号線(h通り)がある。
(ロ) 本件各土地の東側には、幹線道路であるi号線(環状i号線)がある。
(ハ) 本件各土地の南側には、幹線道路であるg号線(g街道)がある。
(ニ) 本件各土地が西側で接面する市道の西側に隣接する地域の用途地域は、g街道沿いを除き第1種低層住居専用地域である。
(ホ) 上記(イ)ないし(ニ)の各道路で囲まれたa県b市q町○−○ないし○番の街区のうち、本件土地の存する同○番の街区の全域並びに同○番ないし○番及び○番の各街区の一部の地域の用途地域は第1種中高層住居専用地域であり、建ぺい率は60%で、容積率は200%である(以下、上記(イ)ないし(ニ)の各道路で囲まれた用途地域、容積率及び建ぺい率が同一の地域を「本件地域」という。)。
ハ 本件各土地の交通、教育等の公的施設及び商業施設への接近性
(イ) 本件各土地は、d鉄道○線e駅の北西約500メートルに位置し、また、同駅の周辺にはスーパーマーケット等の商業施設が存する。
(ロ) 本件各土地は、R小学校の北方約400メートルに位置する。
ニ 本件地域には、a県b市q町○−○の街区に地上4階建てのマンション(名称「S」)及び地上3階建ての寄宿舎(名称「T」)、同○番の街区に地上9階建て及び同10階建てのマンション(名称「U j棟」及び「U k棟」。以下「U」という。)、同○番の街区に地上5階建てのマンション(名称「V」)、地上4階建てのマンション(名称「W」)及び地上3階建てのマンション(名称「X」)がそれぞれ存する。
ホ 本件地域において、本件相続開始日前10年間、開発行為を行う場合に許可を要する規模である500平方メートル以上の土地に係る建物の建築状況を確認したところ、2件の建築事例があり、2件ともマンションの建築事例であった(上記ニの「U」及び「V」)。
ヘ 請求人らが、上記3の(2)のイの(ロ)のまた書きにおいて、平成16年に戸建住宅が6棟建築された旨主張する土地は、間口が約25メートル、奥行が約14メートルで、地積が約365平方メートルの土地である。
ト 平成20年9月26日、本件B土地及びその隣接地(a県b市q町○丁目○番○及び同○番○の土地(仮実測面積2,566.31平方メートル。なお、所在地番はいずれも同日現在のものである。)について、売主を請求人ら、買主をQ社として、要旨以下のとおりの売買契約が締結された。
(イ) 請求人らは、上記の土地を○○○○円にてQ社に売り渡し、Q社はこれを買い受ける。
(ロ) 請求人らは、Q社が、上記の土地に分譲用共同住宅を建築し、第三者に分譲する目的で買い受けることを確認する。
(ハ) 上記(ロ)の分譲用共同住宅については、敷地面積は2,566.31平方メートル、建築面積は1,344.00平方メートル、延床面積は7,236.93平方メートル及び構造規模はRC造地上7階地下1階とする。
チ 本件相続開始日後、上記トの契約に基づき、同(ハ)の分譲用共同住宅が建築され、全戸(総戸数79戸)が、しゅん工前に売却された。
リ a県b市f町○丁目は、d鉄道に面する地域である。

(3) 当てはめ

イ 広大地通達に定める「その地域」について
(イ) 上記(2)のロからすると、本件各土地における「その地域」は、同(イ)ないし(ニ)の各道路で囲まれた地域のうち、都市計画法上の規制である用途地域(第1種中高層住居専用地域)、建ぺい率(60%)及び容積率(200%)が同一である本件地域であると認められる。
(ロ) 請求人らは、まる1広大地通達に定める「その地域」の概念は評価対象地の地積が著しく広大であるか否かを判断するためのものであり、マンション適地等に当たるか否かの判断に用いるものではない、まる2本件地域は、本件各土地及び本件被相続人の所有する土地を除けば、平成12年に建築された大規模マンション(U)が大部分を占める極めて狭い地域であり、標準的な土地の使用の状況を合理的に判断できる状況にはなく、マンション適地等に当たるか否かの判断は本件各土地の「周辺地域」の標準的な使用の状況を参考とするところ、本件各土地の「周辺地域」は本件各土地と都市計画法上の規制が同じであり、かつ、ある程度の広がりがある地域で主にd鉄道○線沿線地域(請求人ら主張地域)である旨を主張する。
 しかしながら、上記(1)のロ及びハのとおり、広大地通達に定める「その地域」とは、評価の対象となる宅地の価額に直接影響を与える属性を持つ当該宅地の存する地域をいうものであり、まる1河川や山などの自然的状況、まる2行政区域、まる3都市計画法による土地利用の規制など公法上の規制等、まる4道路、鉄道及び公園など、土地の利用状況の連続性や地域の一体性を分断して土地利用上の利便性や利用形態に影響を及ぼすことがあり得る客観的な事情を総合勘案し、利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域を指すものであると解されるから、広大地通達に定める「その地域」をマンション適地等に当たるか否かの判定に用いる地域とすることは相当であると認められる。
 また、本件各土地は幹線道路である環状i号線の西側及びd鉄道○線の北側に位置するところ、請求人ら主張地域をマンション適地等に当たるか否かの判定に用いる地域とすると、d鉄道○線の北側及び南側の地域や環状i号線の東側及び西側の地域など、鉄道や幹線道路等により土地の利用状況の連続性や地域の一体性が分断された地域を一の地域として、マンション適地等に当たるか否かの判定を行うこととなり、合理性を欠くと認められる。
 したがって、請求人らの主張は採用できない。
ロ マンション適地等に当たるか否かについて
(イ) まる1上記(2)のロの(ホ)のとおり、本件地域は用途地域が第1種中高層住居専用地域であり、建ぺい率60%及び容積率200%であるから、マンション等の建築に係る規制が厳しくない地域であること、まる2上記(2)のハのとおり、本件各土地はd鉄道○線e駅、公立の小学校及びスーパーマーケット等に近接するなど、公共施設及び商業施設への接近性に優れていること、まる3上記(2)のニのとおり、本件地域には複数のマンションが存すること、まる4およそ、マンションの敷地とするためには、ある程度大規模な地積が必要と認められるが、上記(2)のホのとおり、本件地域において、本件相続開始前10年間における500平方メートル以上の土地に係る建物の建築状況を確認したところ、2件の建築事例があり、2件ともマンションの建築事例であること、まる5上記(2)のチのとおり、本件相続開始日後、現に本件B土地及びその隣接地を敷地としてマンションが建築されていることからすると、本件各土地は明らかにマンション適地等に該当するものと認められる。
(ロ) 請求人らの主張について
A 請求人らは、まる1請求人ら主張地域は戸建住宅とマンションが混在する地域であること、まる2請求人ら主張地域内であるa県b市f町○丁目において、本件A土地と同程度の地積である土地が平成10年に開発許可を受け、戸建住宅用地として開発されていること及びまる3a県b市q町○−○の街区(本件地域内)においても、現に、平成16年に戸建住宅が6棟建築されていることから、本件各土地はマンション適地等とは認められない旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、マンション適地等の判定の基礎とする地域は、請求人ら主張地域でなく本件地域とすることが相当であるし、請求人らが平成10年に戸建住宅用地に開発された土地があるとするa県b市f町○丁目は、請求人らの主張するd鉄道○線の沿線地域ではなくむしろd鉄道△線の沿線地域である。
 また、マンションの敷地とするためには、ある程度大規模な地積が必要と認められるところ、まる1請求人らが主張する平成16年に戸建住宅が6棟建築分譲された土地は、上記(2)のヘのとおり、間口が約25メートル、奥行が約14メートルで、地積が約365平方メートルの土地であり、本件各土地の地積に比して著しく地積が小さい土地であることに加え、まる2本件地域には、まるア本件相続開始日現在、複数のマンションが存していたこと及びまるイ本件相続開始日後、本件B土地及びその隣接地を敷地として、現にマンションが建築されていることなどからすると、上記まる1の土地に戸建住宅が建築分譲されたことをもって、本件各土地がマンション適地等でないと認めることはできない。
 したがって、請求人らの主張は採用できない。
B 請求人らは、本件各土地は、容積率200%の第1種中高層住居専用地域に存するが、容積率200%の消化が困難であるし、また、戸建住宅志向が強い地域であるから、マンション適地等とは認められない旨主張する。
 しかしながら、まる1マンションの建築分譲は、戸建住宅の建築分譲に比して、道路等の潰れ地を必要とせず、土地の有効利用の点において優るところ、本件各土地において、マンションの建築を不可能とする事情は見当たらない上、まる2まるア本件各土地は公共施設及び商業施設への接近性に優れていること、まるイ本件相続開始日現在、本件地域には複数のマンションが存し、また、まるウ本件相続開始日後、本件B土地及びその隣接地を敷地として、現にマンションが建築され、当該マンションはしゅん工前に全戸が完売しているといった事情などからみて、本件地域はマンションが選好される地域であると認められることなどからすると、本件地域がマンションより戸建住宅の志向の強い地域であると認めることはできないし、仮に容積率を200%使用することができないとしても、そのことをもって、本件各土地がマンション適地等ではないと認めることもできない。
 したがって、請求人らの主張を採用することはできない。
C 請求人らは、本件相続開始日後に本件B土地及びその隣接地を敷地として7階建てのマンションが建築分譲されたのは、当該土地を取得したQ社が請求人らの強い希望により当該マンションを建築分譲したからである旨主張する。
 しかしながら、そもそも、マンション適地等の該当性の判断は上記(1)のニで述べた要素を検討して客観的にされるべきものであるから、仮に請求人らの強い希望があったとしても、そのことがマンション適地等の該当性の判断に影響を及ぼすものであるとはいえない。なお、この点をおくとしても、営利企業であるQ社が当該土地について戸建住宅の建築分譲ではなくマンションの建築分譲を選択したということは、経験則に照らし、同社がより利潤の得られる手法はいずれかであるかについても検討した結果であると認められるのであり、同社が請求人らの強い希望があったことのみにより当該マンションを建築分譲したとは認められない。
 また、請求人らは、租税法律主義の下では後発事由を課税の根拠とすることはあってはならないものであるところ、本件B土地及びその隣接地上に当該マンションが建築されたのは本件相続開始日後の事実であるから、これをマンション適地等の判定要素とすることは許されない旨主張する。
 しかしながら、上記のとおり、マンション適地等の該当性の判断は上記(1)のニで述べた要素を検討して客観的にされるべきものであるところ、上記要素の1つである「その地域」におけるマンション等の建築の状況を検討するに当たり、財産評価の時点のみならずその後のマンション等の建築の状況を検討し、本件各土地が本件相続の開始時点においてマンション適地等であるとの判定の基礎の一として、本件相続開始日後に本件B土地及びその隣接地上に当該マンションが建築分譲された事実があることを考慮することに何ら問題はない。
 したがって、請求人らの主張はいずれも採用することはできない。
D 請求人らは、本件地域内にあるT及びSの各マンションは、本件被相続人が、空き地のままにしておくわけにもいかないために建てた賃貸マンションであり、当該土地が最有効使用されていたとはいい難いから、本件各土地と状況が大きく異なるこれらのマンションの建築事例が存在することをもって、マンション適地等であると判定することは不合理である旨主張する。
 しかしながら、マンション適地等の該当性の判断は上記(1)のニで述べた要素を検討して客観的にされるべきものであるから、上記要素の1つである「その地域」におけるマンション等の建築の状況を検討するに当たり、現に戸建住宅ではなくマンションが建築されている以上、当該マンションが存する事実をもって、マンション適地等であるとの判定の基礎の一とすることは何ら不合理ではない。
 したがって、請求人らの主張を採用することはできない。
E 請求人らは、Uは、共同住宅の跡地に建設されたものであり、基礎や土台がしっかりしており、新たなマンション建築のための工事もあまり必要としなかったと思われ、また、その敷地面積が8,000平方メートルを超えていることから、本件各土地と状況が大きく異なるマンションの建築事例が存在することをもって、マンション適地等であると判定することは不合理である旨主張する。
 しかしながら、マンション適地等の該当性の判断は上記(1)のニで述べた要素を検討して客観的にされるべきものであるところ、当該建築事例において当該敷地の基礎や土台が堅牢であってマンション新築のための新たな造成工事をあまり必要としなかったとしても、そのことが直ちに本件各土地のマンション適地等の該当性を否定するものではない。
 また、Uの敷地の地積と本件各土地の地積が大きく異なるといっても、Uの敷地の地積は規模が大きいものであるから、マンションの建築分譲及び戸建住宅の建築分譲のいずれにも利用可能であることからすると、戸建住宅ではなくマンションが建築分譲されたこと(かかる建築事例の存在)をもって、マンション適地等であるとの判定の基礎の一つとすることは何ら不合理ではない。
 したがって、請求人らの主張を採用することはできない。
F 請求人らは、マンション適地等の判定には評価対象地の個別の特性を考える必要があるところ、本件各土地については、Q社の担当者などの専門家が、その形状(不整形)からして容積率が消化できないことや戸建住宅志向が強い地域であることなどの具体的な理由を挙げて、マンションの敷地よりも戸建住宅の敷地に適しているとの意見を述べていることを根拠として、本件各土地はマンション適地等に該当しない旨主張する。
 しかしながら、上記Bのとおり、本件地域がマンションより戸建住宅の志向の強い地域であると認めることはできないし、仮に容積率を200%使用することができないとしても、そのことをもって、本件各土地がマンション適地等ではないと認めることもできない。
 したがって、請求人らの主張を採用することはできない。
G 請求人らは、大手の開発業者に所属し多数の土地開発事例を熟知している不動産鑑定士が、別紙8の不動産調査書のとおり、本件各土地について戸建住宅の建築分譲及びマンションの建築分譲を想定し、それぞれの開発法による価格(開発主体の投資採算性に着目した価格)を査定した結果、本件各土地はいずれも戸建住宅用地に適していると意見しており、また、上記不動産調査書において想定されたマンションの容積率は、本件A土地に係るもので138.23%、本件B土地に係るもので167.11%と指定容積率200%を大きく下回るから、本件各土地はマンション適地等とは認められない旨主張する。
 しかしながら、上記不動産調査書によると、本件各土地について、それぞれ戸建住宅の建築分譲及びマンションの建築分譲を想定して開発法により求めた価格は、いずれも、戸建住宅の建築分譲を想定した価格がマンションの建築分譲を想定した価格を上回っているところ、上記不動産調査書は、両者の開発法による価格の査定に当たり、戸建住宅の建築分譲を想定する場合には、販売費及び一般管理費を分譲収入の8%とし、分譲収入等を価格時点の現在価値に割り引く投下資本収益率を10%とする一方、マンションの建築分譲を想定する場合には、販売費及び一般管理費を分譲収入の12%とし、投下資本収益率を15%としており、両者の間にこのような差異を設けることについて何ら理由が示されていないばかりか、その合理性を裏付ける事情も見当たらないから、戸建住宅の建築分譲を想定した価格がマンションの建築分譲を想定した価格を上回る旨の上記不動産調査書の結論そのものの合理性を確認することはできないのであり、かかる上記不動産調査書を根拠として本件各土地をマンション適地等ではないと認めることはできない。
 したがって、請求人らの主張を採用することはできない。
ハ 結論
 以上により、本件各土地はそれぞれマンション適地等に該当すると認められるから、広大地とは認められない。

(4) 本件各更正処分における評価基本通達に基づく価額について

 別紙9の本件各更正処分における計算では、評価基本通達15に定める奥行価格補正について、評価基本通達20《不整形地の評価》(2)に基づき、地積を間口距離で除して算出した計算上の奥行距離(平均的な奥行距離)を基に、不整形地補正率を適用しているが、本件各土地はいずれも鍵状の土地であるから、評価基本通達20(4)に基づき、別紙10のとおり、それぞれ近似整形地を求め、当該近似整形地を基に奥行価格補正率を適用することが相当である。
 そうすると、評価基本通達に基づく価額は、別紙11のとおりとなる。

(5) 本件各更正処分について

 以上により、請求人らの課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表の「審判所認定額」欄のとおりとなるから、本件各更正処分については、いずれもその一部を別紙2ないし別紙5のとおり取り消すべきである。

(6) 本件各賦課決定処分について

 上記(5)に基づき、請求人K、請求人L及び請求人Mの過少申告加算税の額を計算すると、別表の「審判所認定額」欄のとおりとなるから、請求人Lに係る本件各賦課決定処分は、その一部を別紙4のとおり取り消すべきである。また、請求人K及び請求人Mの過少申告加算税の額は「異議決定」欄の額と同額となるから、請求人K及び請求人Mに係る本件各賦課決定処分は、いずれも適法である。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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