(平成24年12月4日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)を代表取締役とする同族会社の収入として計上された不動産の賃貸料は請求人に帰属するとして所得税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該賃貸料収入は同社に帰属するから同処分は違法であるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成20年分、平成21年分及び平成22年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までにそれぞれ申告した。また、請求人は、平成20年分の所得税について、別表1の「修正申告等」欄の「総所得金額」欄ないし「納付すべき税額」欄のとおり記載して、平成21年6月12日に修正申告をし、原処分庁は、これに対し、平成21年7月9日付で別表1の「修正申告等」欄の「過少申告加算税の額」欄のとおり過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ロ 原処分庁は、本件各年分の所得税について、平成23年12月5日付で別表1の「更正処分等まる1」欄のとおり、各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を併せて「当初各更正処分等」という。)をした。
ハ 原処分庁は、平成23年12月7日付で当初各更正処分等を全て取り消す処分(以下「本件各取消処分」という。)をした。
ニ 原処分庁は、本件各年分の所得税について、平成23年12月8日付で別表1の「更正処分等まる2」欄のとおり、各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、各更正処分を「本件各更正処分」といい、過少申告加算税の各賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」といい、これらを併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
ホ 請求人は、本件各更正処分等を不服として平成24年1月10日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 所得税法第12条《実質所得者課税の原則》は、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する旨規定している。
ロ 所得税法第28条《給与所得》第1項は、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう旨規定している。
ハ 所得税法第120条《確定所得申告》第1項第5号は、居住者は税務署長に対し申告書を提出する際に記載する事項として、各種所得につき源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額がある場合には、課税所得金額、課税退職所得金額及び課税山林所得金額につき同法第2編第3章(税額の計算)の規定を適用して計算した所得税の額からその源泉徴収された又はされるべき所得税の額を控除した金額を記載する旨規定している。
ニ 会社法第330条《株式会社と役員等との関係》は、株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う旨規定している。
ホ 民法第648条《受任者の報酬》第1項は、受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人が原処分時(a市b町○−○の土地については平成22年10月のg県による収用前)に所有していたa市d町○−○、同市b町○−○、同所○番○、同所○番○、同所○番○、同所○番○及び同市b町○−○の土地(以下、これらを併せて「本件各土地」という。)に所在していた別表2のまる1ないしまる7の各建物(以下、これらを併せて「本件各建物」という。)は、請求人を所有者として不動産登記されていた。
ロ 本件各土地のうちのa市d町○−○の土地には、本件各建物の賃借人専用の駐車場とは別に別表2のまる8の「賃借人」に貸し付けられた駐車場があった。
ハ 本件各建物のうち、別表2のまる1まる2及びまる6の各建物は、請求人が新築により取得し、別表2のまる3ないしまる5の各建物は、請求人が平成3年4月○日に請求人の母Hから相続により取得した。なお、請求人は、Hが別表2のまる3ないしまる5の各建物の建築資金としてJ信用組合から平成2年4月25日に借り入れた56,800,000円及び平成3年2月1日に借り入れた70,000,000円の借入金の残高も同時に相続した。
ニ K社は、平成5年11月○日に設立された、請求人を代表取締役とする同族会社であり、原処分時における株主は請求人の妻及び子の2名である。
ホ K社は、平成6年1月1日に別表2のまる1ないしまる6の各建物を請求人から売買により譲り受けたとして、これらを同社の建物及び建物附属設備とする会計処理を行い、当該売買に係る対価の支払に代えて同社が請求人の借入金を引き受けることとし、上記ハのHから相続した借入金の残高及び請求人がアパート建築資金の名目でL銀行から平成5年3月4日に借り入れた49,500,000円の借入金の残高(以下、これらを併せて「旧借入金」という。)を同社の長期借入金とする会計処理を行った。
 また、K社は、平成15年9月24日に、別表2のまる7の建物を建築したとしてこれらを同社の建物及び建物附属設備等とする会計処理を行い、請求人が当該建物の建築資金に充てるためJ信用組合からそれまで短期的に手形借入れしていたものを平成15年12月29日に請求人名義の88,660,000円の借入金(以下「新借入金」という。)にまとめて借換えし、K社の長期借入金とする会計処理を行った。
 なお、各金融機関における旧借入金及び新借入金の借入名義人は、いずれも請求人のままであった。
ヘ 本件各建物の貸付けによって生じた賃貸料収入及び本件各土地の貸付けによって生じた駐車場収入(以下、これらを併せて「本件賃貸料収入」という。)に係る各不動産賃貸借契約書(以下「本件各賃貸借契約書」といい、本件各賃貸借契約書による契約を「本件各賃貸借契約」という。)の賃貸人は請求人となっている。
ト 本件各賃貸借契約の賃借人は、別表2の「賃借人」欄のとおりである。
チ 別表2のまる2の建物及びその所在する土地は、平成21年9月10日にg県による公共事業のための買取り等(以下「本件買取り等」という。)の申出が行われ、同月17日にg県と請求人との間で本件買取り等に係る土地売買に関する契約が締結され、平成22年10月14日に引渡しが行われた。
リ 請求人及びK社は、同社の資産として計上していた別表2のまる2の建物を平成22年1月31日付でK社から請求人に譲渡したとの会計処理を行った。
ヌ K社の資産として計上された請求人名義の各普通預金口座にはそれぞれ継続して本件賃貸料収入の入金があるほか、以下のような入出金がある。
(イ) J信用組合本店営業部の普通預金口座(口座番号○○○○)(以下「J信用組合口座」という。)について
 上記チの本件買取り等に係る入金並びに請求人名義の上記ホの借入金の返済及び請求人の申告所得税の納付に係る口座振替による出金。
(ロ) L銀行e支店の普通預金口座(口座番号○○○○)(以下「L銀行口座」という。)について
 請求人名義の上記ホの借入金の返済である口座振替による出金。
(ハ) M銀行f支店の普通預金口座(口座番号○○○○)(以下「M銀行口座」という。)について
 請求人の医療費の補填金の振込みによる入金、請求人の生活費である水道代、電気代、電話代、新聞代及びNHK受信料の口座振替による出金並びに請求人の妻の○○費用の口座振替による出金。
ル K社は、平成19年9月1日から平成20年8月31日まで、同年9月1日から平成21年8月31日まで、同年9月1日から平成22年8月31日まで及び同年9月1日から平成23年8月31日までの各事業年度(以下、これらを順次「平成20年8月期」などという。)の総勘定元帳に、本件各建物を資産、本件賃貸料収入を収入、本件各土地に係る地代及び役員給与を費用としてそれぞれ計上し、これらに基づき作成した平成20年8月期ないし平成23年8月期の法人税の確定申告書をそれぞれ提出した。
ヲ 請求人は、K社からの地代を不動産所得に係る総収入金額に算入し、同社からの役員給与を給与所得の収入金額として、本件各年分の所得税の確定申告書を提出した。なお、請求人は、本件買取り等に伴う所得を平成22年分の所得税の分離長期譲渡所得として申告している。
ワ 本件各更正処分等は、不動産所得の金額の計算に、本件賃貸料収入及び本件賃貸料収入に係る費用を算入すべきとし、K社からの地代を算入すべきでないとして、また、請求人の給与所得を確定申告のとおりとして行われ、それらの課税標準、納付すべき税額及び過少申告加算税の額は、いずれも当初各更正処分等と同額であった。

(5) 争点

  1. 争点1 原処分庁は、取り消された当初各更正処分等と課税標準、納付すべき税額及び過少申告加算税の額を同額とする本件各更正処分等を行うことができるか否か。
  2. 争点2 本件賃貸料収入は、請求人に帰属するか否か。
  3. 争点3 K社が請求人に対する役員給与として計上した金額は、請求人の給与所得の収入金額とすべきか否か。

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2 争点1について

(1) 主張

請求人 原処分庁
 当初各更正処分等と本件各更正処分等は、課税標準、納付すべき税額及び過少申告加算税の額が同じであるから、その処分の理由も同じであると認められる。
 そして、本件各取消処分には当初各更正処分等を取り消す理由の記載がないので、当初各更正処分等は、その処分の理由に誤りがあったから取り消されたものと認められ、当初各更正処分等と同じ理由による本件各更正処分等を行うことはできない。
 原処分庁が更正処分を取り消す処分は、法律関係を元に戻すという行政処分であり、当初各更正処分等を取り消した本件各取消処分の効力がその後の処分に承継されるものではないから、本件各取消処分の後に新たな行政処分として本件各更正処分等を行うことはできる。

(2) 判断

 請求人は、上記(1)のとおり、原処分庁が行った当初各更正処分等は、その処分の理由に誤りがあったから取り消されたものと認められるので、当初各更正処分等と同じ理由による本件各更正処分等を行うことはできない旨主張する。
 しかしながら、原処分庁が更正処分等を取り消し、再度更正処分等をすることができないとする法令上の規定はなく、原処分庁は適正な課税の確保の実現を図るため、更正処分等の瑕疵を発見したときは、当該瑕疵が実体的なものであれ手続的なものであれ、これを取り消して新たに更正処分等をなし得るものと解すべきである。
 これを本件についてみると、原処分庁は、当初各更正処分等の通知書に当該処分の理由が記載された別紙を添付していないという瑕疵を発見したことから、当初各更正処分等を取り消す本件各取消処分を行った上で、処分の理由が記載された別紙を添付して本件各更正処分等を行ったのであり、瑕疵ある処分を是正したものであるから、本件各更正処分等は違法な処分とは認められない。
 したがって、原処分庁は、取り消された当初各更正処分等と課税標準、納付すべき税額及び過少申告加算税の額を同額とする本件各更正処分等を行うことができるので、請求人の主張には理由がない。

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3 争点2について

(1) 主張

原処分庁 請求人
 収益の帰属につき、形式と実質が相違している場合には、実質に即して帰属を判定すべきであるが、本件賃貸料収入は、次のことから、形式的にも実質的にも請求人に帰属する。  収益の帰属につき、形式と実質が相違している場合には、実質に即して帰属を判定すべきであり、本件賃貸料収入は、次のことから、実質的にはK社に帰属する。
イ 本件各建物の所有権の登記名義人は請求人であるから、本件各建物の所有者は請求人であると推定される。 イ 本件各建物の所有権の登記名義人は請求人であるが、K社は、各建物を請求人から譲り受けて取得し、又は建物の完成時に原始取得するなどして本件各建物の全てを取得し、資産として総勘定元帳に計上していることから、本件各建物の所有者は同社である。
ロ 本件各賃貸借契約は、請求人を賃貸人として締結されている。 ロ 本件各賃貸借契約書上の賃貸名義人を賃借人の都合によって請求人としているが、本件各建物の所有者はK社であることから、本件各賃貸借契約の賃貸人も同社である。
ハ 本件賃貸料収入が振り込まれていた各普通預金口座は、名義人がいずれも請求人であり、かつ、請求人に帰属する入出金があることから、これらはいずれも請求人の普通預金口座である。 ハ 本件賃貸料収入が振り込まれていた各普通預金口座の名義人はいずれも請求人であるが、K社は、当該各預金口座を資産として総勘定元帳に計上し、自らの普通預金口座として管理している。
  ニ K社は、法人設立以降17年間にわたり、本件賃貸料収入を同社に帰属するとして総勘定元帳を作成し、法人税の確定申告を行ってきた。

(2) 判断

イ 法令解釈
 所得税法第12条は、上記1の(3)のイのとおり規定するところ、資産から生ずる収益が誰に帰属するかは、法律上の真実の権利者が実質的にも収益の帰属者であるとの考え方に立ち、法律上の形式がその法的実質と異なる場合にはその実質に即して収益の帰属を判断すべきであることを明らかにしたものである。そして、賃貸料収入は賃貸借契約の賃貸人に法律上帰属するものであるから、賃貸料収入の帰属は、賃貸借契約の真実の賃貸人が誰であるかによって判断すべきものと解するのが相当である。
ロ 関係者の答述等
 以下の関係者は、当審判所等に対し、要旨次のとおり答述等をした。
(イ) 請求人の答述
A 別表2のまる1ないしまる6の各建物の所有権の登記名義人は請求人であるが、当該各建物は請求人がK社に譲渡したものであるから、その実質の所有者はK社である。
B 別表2のまる1及びまる2の各建物については、収用される話や取壊しの予定があったので、所有権移転登記の申請はしていない。
C 別表2のまる3ないしまる6の各建物に係る不動産賃貸借契約の賃貸人名義の変更及び所有権移転登記の申請については、K社の設立当時の不動産管理会社であったN社の担当者から、賃貸物件の建築請負契約の当事者が請求人であるから不動産賃貸借契約の賃貸人をK社に変更することはできないとの話があったので賃貸人名義は変更しなかったし所有権移転登記の申請もしていないが、その後N社の担当者が変更となったら賃貸人名義をK社に変えてもらおうと思っていた。
D 別表2のまる7の建物の所有権の登記名義人については、個人で建築請負契約をしていたので個人名義で登記をしたが、法人で建築することが本来と考えていたので、建物の完成時に法人の所有として会計処理をした。
E 旧借入金及び新借入金を請求人からK社が引き受けることを金融機関側に知らせていないので、債務の引受けについて金融機関の承諾は得ていない。
(ロ) 賃借人等の答述等
A 別表2のまる3ないしまる7の各建物の賃借人であるP社の担当者の答述
(A) P社は、N社が行っていた請求人に係る賃貸管理業務を平成11年に引き継ぎ、賃貸物件の管理等を行っていたが、平成20年以降は当社が一括借上げをして転貸する一括賃貸借契約をしている。
(B) 請求人から、別表2のまる3ないしまる7の各建物について、賃貸経営を法人で行うという話や他の者に譲渡するとの話を聞いたことはない。
(C) 請求人の賃貸物件に係る管理の担当者は、平成16年4月以降、数回の交代を経た後、原処分時の担当者に引き継がれた。
B 別表2のまる1及びまる2の各建物の賃借人を請求人に仲介していたQ社の代表者の、原処分の調査を担当した職員に対する申述
 請求人から、請求人が社長をしている会社の存在については聞いたことがなく、賃貸人の名前を会社名義にしたいとの申出もなかった。
C g県a土木事務所の担当者の答述
 本件買取り等について、別表2のまる2の建物の所有権の登記名義人が請求人であったことから、請求人を当事者として買取り等の交渉をしたものであり、交渉の過程で請求人及び第三者から、当該建物の真実の所有者が別にいるとの話はなかった。
D 請求人が融資を受けているJ信用組合本店及びL銀行e支店の融資担当者の、原処分の調査を担当した職員に対する申述
 請求人から、法人への貸付けや借換えの相談を受けたことはなかった。
ハ 判断
(イ) 本件各建物の所有者について
 賃貸料収入の帰属は、上記イのとおり、賃貸借契約における真実の賃貸人が誰であるかによって判断すべきものと解されるが、請求人は上記(1)のイ及びロのとおり、登記名義に関わらず本件各建物の真実の所有者がK社であることを理由として、本件各賃貸借契約の賃貸人もK社である旨主張する。
 ところで、不動産の所有者が誰であるかについては、所有権の登記名義人は反証のない限りその不動産を所有するものと推定されるところ、上記1の(4)のイのとおり、本件各建物の所有権の登記名義人は請求人であるから、本件各建物の所有者も請求人であると推定される。
 したがって、本件賃貸借契約の真実の賃貸人が誰であるかの判断に先立ち、上記推定を覆す根拠等の有無を検討し、本件各建物の真実の所有者が誰であるかについて判断することとする。
A 請求人は上記ロの(イ)のAのとおり、別表2のまる1ないしまる6の各建物は請求人がK社に譲渡したものであるから同社が真実の所有者である旨答述する。
 ところで、K社の設立前に建築されていた別表2のまる1ないしまる6の各建物のうち、まる1及びまる2の各建物については、K社が請求人から譲り受けたとする平成6年1月1日以降、原処分が行われた平成23年12月8日まで請求人からK社への所有権移転登記の申請がされていない。このことについて、請求人は、上記ロの(イ)のBのとおり、この間に収用等の話があったことが原因である旨答述しているが、上記1の(4)のチのとおり、本件買取り等の申出が行われたのは請求人からK社への譲渡があったとする平成6年1月から15年以上も経った平成21年9月のことであり、また、収用が予想されたならば、むしろ請求人が真実の所有者と主張するK社に当然にその利益を享受させるべく、所有権に関する登記名義を移転させておくべきであったといえる。
 さらに、別表2のまる3ないしまる6の各建物については、上記ロの(イ)のCのとおり、賃貸物件の建築請負契約の当事者が請求人であるから、賃貸人名義をK社に変更することはできないとN社の担当者から言われたことを理由に所有権移転登記の申請も行わなかったとしているが、長期にわたって登記名義人をK社としなかった理由としては説得力を欠くものというほかない。
B 次に、K社が設立された後の平成15年9月6日に建築された別表2のまる7の建物については、同社が不動産賃貸業を行い、その収益も同社に帰属するとするのなら、当然にK社名義で所有権保存登記の申請がなされてしかるべきところ、請求人は上記ロの(イ)のDのとおり、当該建物の建築請負契約が個人名義であったから登記名義人も個人名義としたものの、会計処理については完成時に法人の所有としたものである旨答述しているが、この点についても、真にK社が建築したものであるならば、会計処理を行った平成15年9月24日以降、原処分が行われた平成23年12月8日までの8年以上もの間登記名義を変更しないのは理解し難い。
C また、本件買取り等に係る別表2のまる2の建物については、平成6年1月1日に請求人からK社に譲渡されたとしたにも関わらず登記名義人は請求人のままにしていたところ、上記1の(4)のチのとおり平成22年10月14日に本件買取り等に係る引渡しが行われたものであるが、上記ロの(ロ)のCにおいてg県a土木事務所の担当者が答述するとおり、本件買取り等の交渉は登記名義人たる請求人を当事者として行われ、その過程で請求人から当該建物の真実の所有者についての特段の申出等はなかったことが認められる。
 そして、上記1の(4)のリのとおり、その後の平成22年1月31日に当該建物の帳簿上の所有者をK社から請求人に再度譲渡したとして元に戻すという一連の会計処理は、まさに当該建物の真実の所有者がK社ではなく、登記名義人どおり請求人であることを自認したものであるともいえる。
D さらに、K社は、上記1の(4)のホのとおり、旧借入金及び新借入金を同社が引き受けたことが本件各建物の譲渡代金の支払の対価であるとしているが、上記ロの(イ)のE及び(ロ)のDのとおり、債権者たる金融機関に何らの連絡もせず、また金融機関も法人への貸付けや借換えの相談を受けたことのない状況では、K社が請求人の借入金を債務として引き受けたと認めることはできない。
E 以上のことから、請求人からK社への譲渡があったとする平成6年1月1日以降の請求人及びK社の本件各建物の不動産登記をめぐる行動を社会通念に照らして総合的に判断するに、本件各建物の所有権の登記名義人を同社とすることができない特段の事情はなく、本件各建物の真実の所有者は請求人であるとの推定を覆す合理的な根拠も見当たらない。
 加えて、上記ロの(ロ)のとおり、P社の担当者、Q社の代表者及びg県a土木事務所の担当者は、それぞれが関係する別表2の各建物についてK社という法人の存在すら認識しておらず、本件各建物の取得等に係る金融機関の融資担当者が法人への融資や借換えの相談は受けていないことからしても、外形的にK社という法人の存在は一切認識されない状態であったことは明らかであり、請求人が主張する別表2のまる1ないしまる6の各建物についての譲渡及び別表2のまる7の建物についての原始取得ともその取引としての実態は存在せず、本件各建物の取得についてのK社の会計処理は、請求人とK社の代表者が同一人であるからこそ可能となった単なる帳簿操作にすぎないと認められる。
 したがって、本件各建物の所有権の登記名義人は請求人であることから推定されるとおり、本件各建物の真実の所有者は請求人であると認められる。
(ロ) 本件各賃貸借契約の賃貸人について
 上記イのとおり、本件賃貸料収入の帰属は、本件各賃貸借契約の真実の賃貸人が誰であるかによって判断すべきものと解されるところ、本件各建物の全てについて所有者はK社であるとの請求人の主張にも関わらず、本件各賃貸借契約の賃貸人を同社とせず請求人として締結していることについて、請求人は、上記ロの(イ)のCのとおり、賃貸物件の建築請負契約の当事者が請求人であるから不動産賃貸借契約の賃貸人をK社に変更することはできないとN社の担当者から話があったことを理由としつつ、その後担当者が変更となったら賃貸人名義も変えてもらおうと思っていたとも答述している。
 しかしながら、別表2のまる3ないしまる6の各建物を請求人からK社に譲渡したとし、別表2のまる7の建物を同社が新築したとするなら、譲渡に伴う所有権移転登記の申請又は新築に伴う所有権保存登記の申請を経た上で不動産賃貸借契約の賃貸人を同社に変更することは可能なはずであったばかりか、上記ロの(ロ)のAのとおり、別表2のまる3ないしまる6の各建物の賃貸物件の管理等は当初のN社からP社へと引き継がれ、その間に複数名の担当者の変遷がありながらも賃貸人名義の変更を行っていない事実からすると、請求人の答述を信用することはできない。
 また、他に本件各賃貸借契約の賃貸人をK社にできない特段の事情も見当たらないことから、本件各賃貸借契約の真実の賃貸人は請求人であると認められる。
(ハ) 本件賃貸料収入を享受する者について
 上記1の(4)のヌのとおり、本件賃貸料収入の入金があるJ信用組合口座、L銀行口座及びM銀行口座の各口座における入出金は、それぞれ請求人のものと認められる取引であり、これらの普通預金口座はいずれも請求人に帰属する普通預金口座であることから、本件賃貸料収入を享受しているのは請求人であると認められる。
(ニ) 結論
 以上のとおり、本件各建物の真実の所有者、本件各賃貸借契約の真実の賃貸人及び本件賃貸料収入を享受している者はいずれも請求人であると認められるから、本件賃貸料収入は請求人に帰属する。

(3) 請求人のその他の主張について

 請求人は、K社は法人設立以降17年間にわたり、本件賃貸料収入を同社に帰属するとして総勘定元帳を作成し、法人税の確定申告を行ってきたと主張するが、そのような事実は本件賃貸料収入の帰属の判断に影響を及ぼすものではない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

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4 争点3について

(1) 主張

原処分庁 請求人
 まる1請求人は、K社の代表取締役として会社の業務に関する一切の権限を有し、株主総会における議長としての職務や法人税の確定申告書の提出に関する職務を行っていること、まる2同社は、株主総会において役員給与の限度額を1億円以内とする決議をしていること、まる3同社は、請求人に対して毎月末に役員給与を支給したという会計処理を行い、確定した決算において役員給与を計上していることから、請求人は、同社に対して役員給与の支払請求権を有している。
 なお、K社の収入の有無又は多寡により、役員給与の支払請求権が発生しなくなるというものではなく、同社に役員給与を支払う原資がなかったとしても、それが役員給与の支払請求権の確定に何ら影響を及ぼすものでもない。
 したがって、K社が請求人に対する役員給与として計上した金額は、請求人の給与所得の収入金額とすべきである。
 仮に、K社の収入の全てである本件賃貸料収入が請求人に帰属するならば、同社は、事業を何ら行っていないことになり、役員給与を支払うための原資も有しないことになる。
 そうすると、請求人には対外的に何ら代表取締役として執行すべき職務が存在しないので役員給与を受け取るべき権利がなく、K社は役員給与を支払うことができないから請求人は役員給与を受け取っていないことになる。
 したがって、K社が請求人に対する役員給与として計上した金額は、請求人の給与所得の収入金額とすべきではない。

(2) 判断

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) J信用組合口座、L銀行口座及びM銀行口座から各月の中途に数回にわたって出金された現金は、K社の総勘定元帳によると、出金の都度同社の現金勘定に受け入れた後、各月末に役員給与として支払われたものとして経理されている。
(ロ) K社には、本件賃貸料収入以外の収入はない。
(ハ) K社は、平成19年10月26日開催の株主総会において、取締役の報酬総額を年額1億円以内とし、その配分方法は取締役会に一任することを決議している。
ロ 判断
 上記イの(イ)のとおり、役員給与はK社から請求人に対して現金で支払われていたとされているが、その現金は、上記3の(2)のハの(ハ)のとおり、実質的には請求人に帰属する請求人名義のJ信用組合口座、L銀行口座及びM銀行口座から引き出されたものであり、請求人が請求人の各普通預金口座から出金した現金を自らが所持していたにすぎず、同社が請求人に対して役員給与を支払ったと認められるものではない。
 また、上記イの(ロ)のとおり、K社の収入の全てであった本件賃貸料収入が、上記3の(2)のハの(ニ)のとおり、請求人に帰属し同社には帰属しないのであるから、K社は、法人として行う事業を有しておらず、同社の代表取締役であった請求人には行うべき業務はなかったと認められる。
 ところで、原処分庁は、請求人にはK社の代表取締役として株主総会の議長としての職務や同社の確定申告を行うという職務がある旨主張するが、会社法第330条及び民法第648条は、役員等と会社との関係についてそれぞれ上記1の(3)のニ及びホのとおり規定しており、取締役は会社に対して特約がなければ無償委任となるところ、これらの職務は、法人が組織として存在する上での最小限の職務であるから、これらの職務に対して報酬を支払うことについて、取締役の委任契約において黙示的な支払の特約があったとまではいえず、したがって請求人は、これらの職務について役員給与の支払請求権を有していたとは認められない。
 なお、原処分庁が役員給与の支払の根拠として主張する株主総会決議は、上記イの(ハ)のとおり、その事実は存在するものの、単に取締役の報酬総額を決議しただけであり、それによって請求人に報酬の支払請求権が発生するものではない。
 さらに、本件における法人の確定した決算は、本件賃貸料収入の帰属を誤った重大な瑕疵ある決算というべきものであり、その決算の中で承認された役員給与であることからすれば、当該決算において計上されたことや株主総会で承認されたことを当該役員給与に対する支払請求権を有する根拠とすることは相当ではない。
 したがって、K社が請求人に対して役員給与を支払っていたとは認められず、また、請求人はK社に対して役員給与の支払請求権を有していないから原処分庁の主張には理由がない。
 そうすると、K社から請求人に支払ったとされる役員給与の額は発生しないこととなり、請求人の給与所得の収入金額は○○○○円となる。

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5 原処分の適法性に関する判断

(1) 本件各更正処分について

イ 総所得金額
 原処分庁が本件賃貸料収入及び本件賃貸料収入に係る費用は請求人に帰属するとしたことは適正であるが、K社から請求人に支払ったとされる役員給与の額は発生せず、請求人の給与所得の収入金額は○○○○円となるから、本件各年分の総所得金額は、別表3の「審判所認定額」欄のとおり、平成20年分が○○○○円、平成21年分が○○○○円及び平成22年分が○○○○円であり、これらの額は本件各更正処分の額をいずれも下回ることとなる。
ロ 源泉所得税額
 原処分庁は、役員給与に係る源泉所得税額を平成20年分が○○○○円、平成21年分が○○○○円及び平成22年分が○○○○円であるとして、本件各更正処分を行ったが、上記の4の(2)のロのとおり、請求人には、役員給与に係る給与所得があるとは認められない。
 ところで、上記1の(3)のハのとおり、所得税法第120条第1項第5号に規定する源泉徴収された又はされるべき所得税の額とは、給与その他の所得についてその支払者が源泉徴収をしたか否か、又はこれを納付したか否かに関わらず、源泉徴収すべき所得税の額を意味するものであり、支払者がした所得税の源泉徴収に誤りがある場合に、その受給者が、確定申告の手続において、納付すべき税額の計算上、支払者が誤って徴収した金額を所得税額から控除し又はその誤徴収額の全部若しくは一部の還付を受けることはできないと解するのが相当である。
 そうすると、確定申告と同様に納付すべき税額を確定する手続である更正処分において、納付すべき税額の計算上、誤って徴収された源泉徴収税額を控除することはできないから、本件各年分の源泉徴収税額は、別表3の「審判所認定額」欄のとおり、いずれも○○○○円である。
ハ 納付すべき税額
 請求人の本件各年分の納付すべき税額は、別表3の「審判所認定額」欄のとおり、平成20年分が○○○○円、平成21年分が○○○○円及び平成22年分が○○○○円であり、これらの額は本件各更正処分の額をいずれも下回ることから、本件更正処分は、いずれもその一部を別紙1ないし別紙3のとおり取り消すべきである。

(2) 本件各賦課決定処分について

 上記(1)のハのとおり、本件各更正処分はいずれもその一部が取り消されることに伴い、本件各賦課決定処分の基礎となる税額は、平成20年分が○○○○円、平成21年分が○○○○円及び平成22年分が○○○○円となるところ、請求人の場合、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、国税通則法第65条第1項及び第2項の規定に基づいて過少申告加算税の額を計算すると別表3の「審判所認定額」欄のとおり、平成20年分が○○○○円、平成21年分が○○○○円及び平成22年分が○○○○円となり、これらの額は本件各賦課決定処分の額をいずれも下回ることから、本件各賦課決定処分はいずれもその一部を別紙1ないし別紙3のとおり取り消すべきである。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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