(平成24年10月24日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、国内線の○○航空運送事業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が外国法人に対して支払った航空機操縦士の派遣に係る報酬等について、原処分庁が、当該報酬等は、所得税法第161条《国内源泉所得》第2号に規定する当該外国法人が支払を受ける人的役務の提供に係る対価に該当するとして源泉徴収に係る所得税の納税告知処分等をしたのに対し、請求人が、当該報酬等は当該人的役務の提供に係る対価に該当しないとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成23年7月8日付で、別表1のとおり、源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の各納税告知処分(以下「本件各納税告知処分」という。)及び不納付加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ロ 請求人は、これらの各処分を不服として、平成23年9月1日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月31日付で棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成23年11月29日に審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

イ 所得税法第161条は、国内源泉所得とは、同条各号に掲げるものをいう旨規定しており、同条各号のうち同条第2号においては、国内において人的役務の提供を主たる内容とする事業で政令で定めるものを行う者が受ける当該人的役務の提供に係る対価を掲げている。
 そして、所得税法施行令第282条《人的役務の提供を主たる内容とする事業の範囲》第3号は、所得税法第161条第2号に規定する政令で定める事業として、科学技術、経営管理その他の分野に関する専門的知識又は特別の技能を有する者の当該知識又は技能を活用して行う役務の提供を主たる内容とする事業を規定している。
ロ 所得税法第212条《源泉徴収義務》第1項は、外国法人に対し国内において同法第161条第2号に掲げる国内源泉所得の支払をする者は、その支払の際、これらの国内源泉所得について所得税を徴収し、これを国に納付しなければならない旨規定し、同法第213条《徴収税額》第1項第1号は、同法第212条第1項の規定により同法第161条第2号に規定する国内源泉所得について徴収すべき所得税の額は、その国内源泉所得の金額に100分の20の税率を乗じて計算した金額とする旨規定している。
ハ 所得税基本通達161−8《非居住者等のために負担する旅費等》は、所得税法第161条第2号に掲げる「人的役務の提供に係る対価」の支払者が、当該人的役務を提供する者の当該役務を提供するために要する往復の旅費、国内滞在費等の費用を負担する場合には、その負担する費用も当該対価に含まれることに留意する旨、ただし、その費用として支出する金銭等が、当該人的役務を提供する者に対して交付されるものでなく、当該対価の支払者から航空会社、ホテル、旅館等に直接支払われ、かつ、その金額がその費用として通常必要であると認められる範囲内のものであるときは、当該金銭等については課税しなくて差し支えない旨定めている。
ニ 所得税基本通達161−10の4《人的役務の提供に係る対価に含まれるもの》は、所得税法施行令第282条各号に掲げる事業を行う者が受ける所得税法第161条第2号に規定する人的役務の提供に係る対価には、国内において当該事業を行う者が当該人的役務の提供に関して支払を受ける全ての対価が含まれることに留意する旨定めている。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ F社は、航空機の乗務員を航空会社に派遣することを業とし、ドミニカ国(The Commonwealth of Dominica)に所在する外国法人である。
ロ 請求人は、平成20年5月21日付で、F社との間で、要旨次の内容の運航乗務員派遣契約(以下「本件派遣契約」といい、当該契約に係る契約書を「本件契約書」という。)を締結し、F社から、請求人の航空機の操縦に従事する乗務員(以下「運航乗務員」という。)の派遣を受けた(以下、請求人が派遣を受けた運航乗務員を「本件派遣乗務員」という。)。
(イ) 請求人は、F社に対して運航乗務員としての資格要件及び労働条件を提示し、F社は、請求人に当該資格要件を満たす運航乗務員を推薦し、請求人は、F社が推薦した運航乗務員の資格技量等を審査して派遣受入れを決定する(本件契約書第2条第1項ないし第3項)。
 なお、上記の資格要件とは、具体的には、まる1ICAO(国際民間航空機関)加盟国の○○運送用操縦士の免許(G機限定)、まる2国際電気通信連合加盟国の航空級無線の免許及びまる3出身国の航空身体検査証書のいずれも保持している者であり、かつ、まる4総飛行時間が○○時間以上(○○機の飛行時間が○○時間以上、G機の機長としての飛行時間が○○時間以上)の者であることであった(以下、これらの資格要件を併せて「本件資格要件」という。)。
(ロ) F社は、本件派遣乗務員となる者をF社の社員として採用し、請求人との間で本件派遣乗務員となる者ごとに個人派遣契約を締結の上、請求人に派遣する(本件契約書第2条第4項)。
(ハ) 請求人は、本件派遣乗務員に対して必要な訓練等を実施し、請求人の指定する業務に従事するために必要な資格(国土交通省の定めるG○○型機の機長資格)を取得させる(本件契約書第2条第5項)。
(ニ) 本件派遣契約に規定された責務を実施するために必要な費用は、特段の規定又は合意がない場合、原則として実施者の負担とする(本件契約書第4条)。
(ホ) 請求人は、F社に対し、上記(ロ)の本件派遣乗務員ごとの個人派遣契約が存する期間中、本件派遣乗務員の人数に応じた報酬を支払う(本件契約書第5条)。
(ヘ) 請求人は、本件派遣乗務員に支払われる基本給与、日当等の附帯給与を負担する(本件契約書第6条)。
(ト) F社は、請求人に対し、上記(ホ)の報酬、同(ヘ)の基本給与、日当等の附帯給与及び各種保険費用(国民健康保険、疾病保険及び傷害保険の掛金をいう。以下同じ。)を毎月10日までに請求し、請求人は、当該請求に対して当該月の20日までにF社に支払う(本件契約書第8条)。
(チ) 請求人は、F社に対し、セキュリティーデポジットと称して上記(ロ)の個人派遣契約の締結時に本件派遣乗務員一人当たり10,000アメリカ合衆国ドルを支払うが、当該セキュリティーデポジットは、当該個人派遣契約の終了時に、F社から請求人に返還される(本件契約書第9条)。
ハ 本件派遣乗務員の労働条件については、基本給与、労働時間、住宅の提供、通勤手当の支給、休暇の取得等に関し、上記ロの(ロ)の個人派遣契約において別途定められていた。
 そして、当該個人派遣契約によれば、本件派遣乗務員に対する住宅の提供に関しては、上記ロの(ハ)の訓練期間中は請求人がホテルを提供し、同(ハ)の請求人の指定する業務に従事するための機長資格取得後は、請求人が本件派遣乗務員に係る住宅の家賃として最大月額125,000円の他、敷金、礼金及び仲介手数料の各相当額をF社に支払うこととなっており、月額家賃の実額が125,000円を超える場合のその超過額(以下「本件超過家賃額」という。)及び当該住宅に係る火災保険料の額又は家財保険料の額(以下「本件火災保険料額等」という。)は、本件派遣乗務員が負担することとされていた。なお、請求人は、当該住宅の貸主が外国籍の個人、法人との賃貸借契約に応じない場合はF社の代理契約者になることとなっていた。
ニ 請求人は、本件派遣契約に基づき、F社から、平成20年6月から平成22年8月までの間の各月において、上記ロの(ホ)の報酬、本件派遣乗務員に係る基本給与、国内宿泊日当等、航空券代等の旅費交通費、住宅家賃等(最大月額125,000円までの家賃の他、敷金、礼金、仲介手数料を含み、本件超過家賃額及び本件火災保険料額等を除く。以下同じ。)及び各種保険費用等並びに同ロの(チ)のセキュリティーデポジット等の合計額(以下「本件各請求額」という。)について請求を受けた。
ホ 請求人は、本件各請求額につき、別表2の「支払年月」欄記載の各月において、同表の「本件各支払額」欄記載の各金額を支払った(以下、請求人が当該各月に支払った額を「本件各支払額」という。)。
 なお、本件各支払額は、本件派遣乗務員に係る住宅について、請求人が、当該住宅の貸主と賃貸借契約を締結し、当該契約に基づき住宅家賃等の額、本件超過家賃額及び本件火災保険料額等(以下、これらの額の合計額を「本件各支払家賃額等」という。)を支払っていたことから、本件各請求額から本件各支払家賃額等を控除(本件各請求額と本件各支払家賃額等とを相殺)した後のものであった。
ヘ 原処分庁は、本件派遣乗務員が所得税法施行令第282条第3号に規定する科学技術、経営管理その他の分野に関する専門的知識又は特別の技能を有する者(以下、この者を「特別技能者等」という。)に該当し、本件各支払額は、特別技能者等の知識又は技能を活用して行う役務の提供を主たる内容とする事業を行う者が受ける所得税法第161条第2号に規定する国内源泉所得に該当するとして、同法第212条及び第213条の規定により本件各納税告知処分をした。

(5) 争点

イ 争点1 本件派遣契約に基づき支払われた対価は、所得税法第161条第2号及び所得税法施行令第282条第3号に規定する特別技能者等の知識又は技能を活用して行う役務の提供を主たる内容とする事業を行う者が受ける人的役務の提供に係る対価に該当するか否か。
ロ 争点2 本件派遣契約に基づき支払われた対価が所得税法第161条第2号に規定する人的役務の提供に係る対価に該当するとした場合、当該人的役務の提供に係る対価の額はいくらか。

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2 主張

(1) 争点1(本件派遣契約に基づき支払われた対価は、所得税法第161条第2号及び所得税法施行令第282条第3号に規定する特別技能者等の知識又は技能を活用して行う役務の提供を主たる内容とする事業を行う者が受ける人的役務の提供に係る対価に該当するか否か。)について

原処分庁 請求人
 請求人が本件派遣契約に基づきF社から本件派遣乗務員を受け入れる場合の資格要件は、本件資格要件のとおりであり、本件資格要件からすれば、本件派遣乗務員は、高度の専門的知識を要する資格試験の合格者であるとともに、経験を積み熟練した技能を有する者と認められるから、所得税法施行令第282条第3号に規定する特別技能者等に該当する。
 そうすると、本件各支払額は、所得税法第161条第2号及び所得税法施行令第282条第3号に規定する特別技能者等の知識又は技能を活用して行う役務の提供を主たる内容とする事業を行う者(F社)が受ける人的役務の提供に係る対価に該当する。
 本件派遣乗務員は、請求人が実施する訓練を受け、請求人において運航する航空機を機長として操縦できる資格を取得することによって特別の技能を有することになるのであり、派遣時においてはその有する既存の免許及び経験だけでは請求人において運航する航空機の機長として操縦することができず、特別の技能を有する者とはいえないから、所得税法施行令第282条第3号に規定する特別技能者等には該当しない。
 また、航空機の操縦が所得税法施行令第282条第3号に規定する役務に該当するとしても、F社は、運航代行業を営んでいるものではなく、請求人が提示した本件資格要件を有する者を請求人に紹介して派遣し、その派遣に係る報酬を得ているだけである。
 したがって、本件派遣契約において支払われる対価は、人的役務の提供に係る対価には該当しない。

(2) 争点2(本件派遣契約に基づき支払われた対価が所得税法第161条第2号に規定する人的役務の提供に係る対価に該当するとした場合、当該人的役務の提供に係る対価の額はいくらか。)について

原処分庁 請求人
 所得税法施行令第282条各号に掲げる事業を行う者が受ける所得税法第161条第2号に規定する人的役務の提供に係る対価には、国内において当該事業を行う者が当該人的役務の提供に関して支払を受ける全ての対価が含まれる旨、所得税基本通達161−10の4において明らかにされているところ、本件各支払額は、いずれも本件派遣契約に基づく人的役務の提供に関して支払われるものと認められるから、その全てが人的役務の提供に係る対価の額である。  本件各支払額には、F社が請求人に代わって立て替えた交通費等の実費が含まれており、当該交通費等については所得税基本通達161−8ただし書の定めを援用し、人的役務の提供に係る対価の額に含めるべきではない。
 また、本件各支払額には、請求人が保証金として資産計上し、本件派遣契約の終了のときに、F社から請求人に返還されるセキュリティーデポジットの支払額が含まれているから、この金額も人的役務の提供に係る対価の額に含めるべきではない。
 なお、本件各請求額と相殺され、本件各納税告知処分における人的役務の提供に係る対価の額に含まれていない本件各支払家賃額等は、請求人が直接借主となって住宅を賃借し、本件派遣乗務員の宿舎として提供するために支出したものであるから、所得税基本通達161−8ただし書の定めが適用され、人的役務の提供に係る対価の額には含まれない。

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3 判断

(1) 争点1(本件派遣契約に基づき支払われた対価は、所得税法第161条第2号及び所得税法施行令第282条第3号に規定する特別技能者等の知識又は技能を活用して行う役務の提供を主たる内容とする事業を行う者が受ける人的役務の提供に係る対価に該当するか否か。)について

イ 法令解釈
 所得税法施行令第282条第3号に規定する特別技能者等とは、ある特定の分野に関しての一般的な知識又は技能のレベルを相当程度超えると認められる高度な知識又は技能を有する者をいうものと解するのが相当である。
ロ 当てはめ及び請求人の主張の当否
(イ) 上記1の(4)のロのとおり、請求人は、本件派遣契約に基づき、航空機の操縦等に関して本件資格要件を満たす本件派遣乗務員の派遣を受けているところ、我が国において航空機の操縦等を行うためには、○○運送用操縦士等の資格に応じて航空法第22条《航空従事者技能証明》に規定する航空従事者技能証明を有する必要があり(同法第28条《業務範囲》)、国土交通大臣は、技能証明を行う場合には、学科試験及び実地試験を行わなければならない(同法第29条《試験の実施》)こととされている一方で、国土交通大臣は、ICAO加盟国であり国際民間航空条約の締約国である外国の政府が授与した航空業務(航空機に乗り組んで行うその運行等をいう。以下同じ。)の技能に係る資格証書を有する者については、申請により、学科試験(国内航空法規に係るものを除く。)及び実地試験の全部又は一部を行わないで技能証明、技能証明の限定の変更等を行うことができる(同法第29条第4項、航空法施行規則第50条第1項)こととされていることからすると、当該資格証書を有する者については、我が国において航空業務に従事するための知識及び技能を一定程度有する者として評価されているものと認められる。
 なお、○○運送用操縦士の技能証明は、航空機の種類別に国土交通省令で定める年齢及び要旨次の要件を満たす者でなければ受けることができないこととされている(航空法第26条《技能証明の要件》)。
A ○○歳以上の者であって、飛行機について技能証明を受けようとする場合は、所定の飛行時間(○○時間以上)を有していること(航空法施行規則第43条《技能証明等の要件》第1項、同施行規則別表二)。
B 航空業務に従事するのに必要な知識及び能力を有するかを判定するための、航空工学、航空気象、空中航法、航空通信及び航空法規の各分野に関する学科試験並びに実地試験の各試験に合格すること(航空法第29条第1項、航空法施行規則第46条《試験の科目等》、同施行規則別表第三)。
(ロ) そうすると、本件派遣乗務員は、まる1派遣時において既にICAO加盟国であり国際民間航空条約の締約国である外国の政府が授与した航空業務の技能に係る資格を有しており、我が国において航空業務に従事するために必要な知識及び技能を一定程度有している者として評価できること、まる2本件派遣乗務員の本件資格要件における総飛行時間は○○時間以上であり、これは、上記(イ)のAの我が国における○○運送用操縦士の資格を取得する際に必要とされる飛行時間○○時間をはるかに上回るものであること及びまる3G機の○○運送用操縦士として一定の経験を有していることが認められることからすれば、本件派遣乗務員の派遣時における航空機の操縦に関する知識又は技能は、航空機の操縦の分野に関する一般的な知識又は技能のレベルを相当程度超える高度な知識又は技能であると認めるのが相当であるから、本件派遣乗務員は、所得税法施行令第282条第3号に規定する特別技能者等に該当するというべきである。
 そして、上記1の(4)のイのとおり、F社は、航空機の乗務員を航空会社に派遣する事業を行っており、上記のとおり、本件派遣乗務員は、特別技能者等に該当するのであるから、F社は、所得税法施行令第282条第3号に規定する特別技能者等の当該知識又は当該技能を活用して行う役務の提供(本件派遣乗務員の派遣)を主たる内容とする事業を行う者に該当するというべきであり、そうすると、本件派遣契約に基づき支払われる対価は、請求人からF社が受ける所得税法第161条第2号に規定する人的役務の提供に係る対価に該当するというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。

(2) 争点2(本件派遣契約に基づき支払われた対価が所得税法第161条第2号に規定する人的役務の提供に係る対価に該当するとした場合、当該人的役務の提供に係る対価の額はいくらか。)について

イ 法令解釈等
 所得税法第161条第2号に規定する人的役務の提供に係る対価について、所得税基本通達161−8の定めは、支払者の立場からみて、同号に規定する人的役務の提供事業に係る対価は、その対価として支払われるものに限られず、その対価の性質を有するものである限り、その対価の支払者がその役務の提供者に対し旅費、滞在費等の名目によって支払うものも、その対価とされることを前提とするが、その対価の支払者が、人的役務の提供事業者又は提供者のその提供をするために必要な交通機関、宿泊施設等を提供し、その旅費、滞在費等を負担する場合において、その費用として支出する金銭等が、その人的役務を提供する者に対して交付されるものではなく、その対価の支払者から航空会社、ホテル等に直接支払われ、かつ、その金額が妥当と認められるものであるときは、それによって人的役務の提供者に課税の対象とすべき経済的な利益が生じたとみることは必ずしも妥当ではないことから課税の対象とはしない旨を明らかにしたものであると解され、この取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
 また、所得税基本通達161−10の4の定めは、支払を受ける立場からみて、所得税法施行令第282条各号に掲げる事業を行う者が受ける所得税法第161条第2号に規定する人的役務の提供に係る対価には、国内においてその事業を行う者がその人的役務の提供に関して支払を受ける全ての対価が含まれる旨を明らかにしたものであると解され、この取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
 そうすると、所得税法施行令第282条第3号に規定する事業を行う者に対して支払う所得税法第161条第2号に規定する人的役務の提供に係る対価は、一定の要件に該当する費用を除き、その対価の支払者が、国内においてその事業を行う者に対してその人的役務の提供に関して支払をする全ての対価が含まれると解するのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件各支払額には次の(イ)ないし(ハ)のものが含まれていた。
(イ) セキュリティーデポジットの額
 請求人は、本件派遣契約に従い、上記1の(4)のロの(チ)のとおり、セキュリティーデポジットとして本件派遣乗務員一人当たり10,000アメリカ合衆国ドルを個人派遣契約の締結時にF社に支払い、保証金として請求人の資産に計上しており、当該セキュリティーデポジットの額は、当該個人派遣契約の終了時にF社から請求人に返還されていた。
 なお、請求人が支払っていたセキュリティーデポジットの日本円に換算した額は、別表2の「セキュリティーデポジットの額まる2」欄記載のとおりであった。
(ロ) 請求人の代表取締役の海外出張旅費
 請求人は、請求人の代表取締役Dの海外出張に係る航空券の購入費用として、平成20年10月20日に40,434円及び同年11月20日に20,866円をそれぞれF社に支払っていた。
(ハ) 訓練用マニュアルの配送費用
 請求人は、本件派遣乗務員の機長資格取得のための訓練の際に用いるマニュアルの外国間の配送又は外国から日本への配送に係る費用として、平成20年12月19日に41,328円、平成21年1月20日に22,979円及び同年4月20日に25,242円をそれぞれF社に支払っていた。
ハ 人的役務の提供に係る対価の額等について
 上記イのとおり、所得税法第161条第2号に規定する人的役務の提供に係る対価は、一定の要件に該当する費用を除き、その対価の支払者が、国内においてその事業を行う者に対してその人的役務の提供に関して支払をする全ての対価が含まれると解するのが相当であるところ、原処分庁は、本件各支払額の全てが人的役務の提供に係る対価の額である旨主張し、一方、請求人は、F社が請求人に代わって立て替えた交通費等の実費については所得税基本通達161−8ただし書の定めを援用して人的役務の提供に係る対価の額に含めるべきではない等の旨を主張するので、本件各支払額又は本件各請求額について検討すると、次のとおりである。
(イ) 本件各支払額に含まれている、まる1セキュリティーデポジットの額については、上記1の(4)のロの(チ)のとおり、F社から請求人への返還が予定されているものであり、上記ロの(イ)のとおり、請求人は保証金として資産に計上し、実際に本件派遣乗務員に係る個人派遣契約の終了時にF社から請求人に返還されていること、まる2同ロの(ロ)の請求人の代表取締役Dの海外出張に係る航空券の購入費用の額は、請求人が本来支払うべきものであると認めるのが相当であること、まる3同ロの(ハ)の本件派遣乗務員の機長資格取得のための訓練の際に用いるマニュアルの配送に係る費用の額については、本件派遣乗務員に対する訓練は請求人が実施するものであり、請求人が当該訓練に当たって本来支払うべきものであると認めるのが相当であることから、これらの各金額は、いずれも人的役務の提供に係る対価の額には含まれないというべきである。
 その他上記の各金額以外の本件各支払額のうちに、提出された全証拠を当審判所が調査した結果によっても、人的役務の提供に係る対価の額には含まれないとするものは認められない。
(ロ) 一方、上記1の(4)のニないしヘのとおり、F社は、請求人に対して本件派遣乗務員に係る住宅家賃等の額を含む本件各請求額を請求し、請求人は、本件派遣乗務員に係る住宅の貸主と賃貸借契約を締結して当該契約に基づき本件各支払家賃額等を当該住宅の貸主に直接支払っていたことから、本件各請求額から本件各支払家賃額等を控除(本件各請求額と本件各支払家賃額等とを相殺)した後の本件各支払額をF社に支払い、原処分庁は、当該控除後の本件各支払額を基礎として本件各納税告知処分をしているところ、上記1の(4)のハの個人派遣契約によれば、本件派遣乗務員の住宅の家賃(最大月額125,000円)、敷金、礼金及び仲介手数料の各相当額は、請求人がF社に対して支払うことになっていたこと、本件超過家賃額及び本件火災保険料額等は、本件派遣乗務員が負担すべきものであったこと並びに請求人は、当該住宅の貸主が外国籍の個人、法人との賃貸借契約に応じない場合にF社の代理契約者になることになっていたこと、同(4)のニのとおり、F社は、住宅家賃等の額を含む本件各請求額を請求人に請求していたことからすると、請求人は、当該住宅の賃貸借契約の借主が請求人であるかF社であるかに関わらず、住宅家賃等の額をF社に支払うべきであったと認められ、請求人が当該住宅の賃貸借契約の貸主に支払ったことは、請求人がF社に代わって家賃等の額を立て替えていたというべきであり、また、本件超過家賃額及び本件火災保険料額等は、本件派遣乗務員が負担すべきものであったと認められるから、本件各請求額から本件各支払家賃額等を控除(本件各請求額と本件各支払家賃額等とを相殺)した後の額(上記(イ)の人的役務の提供に係る対価に含まれないとする各金額を除く。)を、請求人がF社に対して支払った人的役務の提供に係る対価の額とするのは相当でない。
 なお、本件各請求額における住宅家賃等の額には、当該住宅の賃借に係る敷金の額が含まれているが、当該敷金の額は、契約が解除された時点で請求人に返還され、請求人に帰属すべきものであると認められるから、人的役務の提供に係る対価の額には含まれないと認めるのが相当である。
(ハ) そうすると、請求人が、本件派遣契約に基づき、F社に対して人的役務の提供に係る対価として支払った額は、本件各請求額から、人的役務の提供に係る対価の額に含まれないとする上記(イ)の各金額及び同(ロ)の住宅家賃等の額のうち敷金の額を控除した額(本件各支払額から、上記(イ)の各金額を控除し、本件各支払家賃額等から敷金の額を控除した後の金額(別表2の「本件派遣乗務員に係る住宅家賃等の額まる4」欄記載の金額)を加えた金額)とすべきである。
 以上により、所得税法第161条第2号に規定する人的役務の提供に係る対価の額を計算すると、別表2の「人的役務の提供に係る対価の額(まる1まる2まる3まる4まる5」欄のとおりとなる。
(ニ) なお、請求人は、F社が請求人に代わって立て替えた交通費等の実費及び住宅家賃等の額については、所得税基本通達161−8ただし書の定めを援用又は適用して、人的役務の提供に係る対価の額に含めるべきではない旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、所得税基本通達161−8ただし書は、人的役務の提供に係る対価の支払者が、人的役務の提供事業者又は提供者のその提供をするために必要な交通機関、宿泊施設等を提供し、その旅費、滞在費等を負担する場合において、その費用として支出する金銭等が、その人的役務を提供する者に対して交付されるものではなく、その対価の支払者から航空会社、ホテル等に直接支払われ、かつ、その金額が妥当と認められるものであるときは、課税の対象とはしない旨を定めているところ、これを本件についてみると、まる1交通費等の実費については、その支払者は請求人ではなくF社であって、請求人はF社からの請求に基づいて当該交通費等をF社に支払っているのであり、また、請求人において交通機関等に直接支払ったという事実は認められないことからすると、同通達161−8ただし書の定めは援用できないというべきであり、さらに、まる2住宅家賃等の額については、請求人が住宅の貸主と賃貸借契約を締結してその家賃等を支払ってはいるものの、上記(ロ)のとおり、請求人がF社に代わって当該住宅の賃貸借契約における借主となっているからであって、当該住宅の賃貸借契約の借主が請求人であるかF社であるかに関わらず、住宅家賃等の額は請求人がF社に支払うべきであったのであるから、同通達161−8ただし書の定めは適用できないというべきである。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(3) 本件各納税告知処分について

 上記(1)のロのとおり、本件派遣契約において支払われる対価は、所得税法第161条第2号に規定する請求人からF社が受ける人的役務の提供に係る対価に該当し、同(2)のハの(ハ)のとおり、その対価の額は、別表2の「人的役務の提供に係る対価の額(まる1まる2まる3まる4まる5」欄のとおりとなるところ、当該各金額に基づき納付すべき源泉所得税の額を計算すると、別表3の「源泉所得税の額」の「審判所認定額」欄のとおりとなる。
 そうすると、本件各納税告知処分のうち、平成20年8月から平成21年1月まで、同年6月及び同年10月の各月分については、審判所認定額がいずれも原処分の額を下回るから、別紙「取消額等計算書」のとおり、いずれもその一部を取り消すべきであるが、その他の各月分については、審判所認定額がいずれも原処分の額と同額又はこれを上回るから、いずれも適法である。

(4) 本件各賦課決定処分について

 上記(3)のとおり、本件各納税告知処分のうち、平成20年8月から平成21年1月まで、同年6月及び同年10月の各月分については、いずれもその一部を取り消すべきであり、また、その他の各月分については、いずれも適法であるところ、その一部の取消し後の税額又は適法である各納税告知処分による税額を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、不納付加算税の額を計算すると別表3の「不納付加算税の額」の「審判所認定額」欄のとおりとなる。
 そうすると、本件各賦課決定処分のうち、平成20年8月、同年9月、同年12月、平成21年6月及び同年10月の各月分については、審判所認定額がいずれも原処分の額を下回るから、別紙「取消額等計算書」のとおり、いずれもその一部を取り消すべきであるが、その他の各月分については、原処分の額と同額であるから、いずれも適法である。

(5) 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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