(平成24年10月16日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、仮払金としていた額を法人に対する貸金債権であるとし、当該仮払金の額を貸倒償却勘定に計上し、損金の額に算入していたことについて、原処分庁が、請求人が当該仮払金について当該法人に金銭の貸付けを行った事実がないにも関わらず貸倒償却勘定に計上したことは、帳簿書類に取引の一部を仮装して記載したものであるなどとして、法人税の青色申告の承認の取消処分及び更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該法人に対する金銭の貸付けの事実はあり帳簿書類を仮装した事実はないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 法人税について
(イ) 請求人は、平成19年4月1日から平成20年3月31日まで、平成20年4月1日から平成21年3月31日まで及び平成21年4月1日から平成22年3月31日までの各事業年度(以下、順次「平成20年3月期」、「平成21年3月期」及び「平成22年3月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までにそれぞれ申告した。
(ロ) G税務署長は、これに対し、平成23年5月31日付で、平成20年3月期以後の法人税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色取消処分」という。)をするとともに、別表の「更正処分等」欄のとおり、本件各事業年度の法人税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各重加算税賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
(ハ) 請求人は、これらの処分を不服として、平成23年7月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成23年9月16日付で、棄却の異議決定をし、異議決定書の謄本は、同月20日、請求人に送達された。
(ニ) 請求人は、異議決定を経た後の本件青色取消処分及び本件各更正処分等に不服があるとして、平成23年10月20日に審査請求をした。
ロ 源泉徴収に係る所得税について
(イ) H税務署長は、平成23年5月31日付で、平成17年7月から平成17年12月までの期間分の給与所得の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)について、源泉所得税の額を○○○○円とする納税告知処分(以下「本件納税告知処分」という。)及び不納付加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件納税告知処分と併せて「本件納税告知処分等」という。)をした。
 なお、本件納税告知処分等は、所得税法第17条(平成23年法律第82号による改正前のもの)《源泉徴収に係る所得税の納税地》の規定に基づき、上記の期間分の所得税法第28条《給与所得》第1項に規定する給与等の支払の日における請求人の納税地であった、d市e町○−○を所轄するH税務署長によって行われたものである。
(ロ) 請求人は、これらの処分を不服として、平成23年7月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成23年9月21日付で、棄却の異議決定をした。
(ハ) 請求人は、異議決定を経た後の本件納税告知処分等に不服があるとして、平成23年10月20日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 法人税法第127条《青色申告の承認の取消し》第1項及び同項第3号は、青色申告の承認を受けた内国法人につき、その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し又は記録し、その他その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該事業年度まで遡って、その承認を取り消すことができる旨規定し、この場合において、その取消しがあったときは、当該事業年度開始の日以後その内国法人が提出したその承認に係る青色申告書は、青色申告書以外の申告書とみなす旨規定している。
ロ 法人税法第130条《青色申告書等に係る更正》第2項は、税務署長は、内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合には、その更正に係る国税通則法(以下「通則法」という。)第28条《更正又は決定の手続》第2項に規定する更正通知書にその更正の理由を付記しなければならない旨規定している。
ハ 通則法第68条《重加算税》第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税に代え、重加算税を課する旨規定している。
ニ 所得税法第28条第1項は、給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下「給与等」という。)に係る所得をいう旨規定している。
ホ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定し、同条第2項は、当該経済的な利益の価額は、当該利益を享受する時における価額とする旨規定している。
ヘ 所得税法第183条《源泉徴収義務》第1項は、居住者に対し国内において給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、これを国に納付しなければならない旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 請求人の概要について
(イ) 請求人は、平成14年5月○日に、J社として設立され、平成24年7月○日に現在の商号に変更した。
(ロ) Fは、請求人の設立以来の代表取締役であり、平成17年4月1日から平成18年3月31日までの事業年度以後平成22年3月期までの各事業年度において、請求人の発行済株式(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の施行の日(平成18年5月1日)前は、出資口数。以下同じ。)の総数の3分の2を保有していた。
(ハ) 請求人は、平成17年7月分から平成17年12月分までの給与等については、所得税法第216条(平成24年法律第16号による改正前のもの)《源泉徴収に係る所得税の納期の特例》に規定する源泉所得税の納期の特例の承認を受けていた。
ロ Fを貸主とする金銭消費貸借契約等について
(イ) Fは、平成17年8月19日、請求人の事務所において、知人であるKとの間で、Fを貸主、Kを借主、Kの知人であるLを連帯保証人とし、貸金の額を35,000,000円、利息を年○○パーセント、返済期限を同年11月20日とする消費貸借契約(以下「本件消費貸借契約」という。)を締結し、当該35,000,000円の内金として10,000,000円を交付する一方で、K及びLが署名押印した同年8月19日付の「金銭借用証書」と題する書面を受領した(以下、本件における35,000,000円の貸金債権を「本件債権」という。)。
(ロ) その後、Fは、Kから、本件債権のうち先に交付した10,000,000円を除く残金25,000,000円の送金先として、Lが代表取締役であるM社名義のN銀行f支店普通預金口座(以下「本件M社口座」という。)を指定されたことから、平成17年8月24日、請求人の経理担当者に対し、請求人名義のP銀行g支店の預金口座から本件M社口座に25,000,000円を送金するように指示した。
(ハ) 請求人の経理担当者は、平成17年8月24日、Fの指示に従い、P銀行g支店において、同支店の請求人名義の普通預金口座から本件M社口座に対し、請求人名義で25,000,000円を送金した(以下、この25,000,000円の送金を「本件送金」という。)。
ハ 本件債権の回収行為について
(イ) Fは、本件債権が返済期限を過ぎても返済されなかったことから、Q地方裁判所に対し、平成18年3月○日付で、Fを原告、K及びLを被告とし、本件債権の返済を求める訴訟(同裁判所平成○年(○)第○号貸金請求事件。以下「本件訴訟」という。)を提起したところ、同裁判所は、平成18年5月○日、Fの請求の全部を認容する判決(以下「本件判決」という。)を言い渡し、本件判決は、平成18年5月末頃に確定した。
 なお、本件判決の内容は、要旨次のとおりであった。
A 請求原因
(A) Fは、Kに対し、平成17年8月19日、35,000,000円を、利息を年○○パーセント、返済期を同年11月20日とする約定により、貸し付けた。
(B) Lは、Fに対し、平成17年8月19日、本件消費貸借契約に基づくKの債務について、連帯保証をする旨約した。
(C) K及びLは、返済期を過ぎても返済をしない。
(D) よって、Fは、Kに対し、本件消費貸借契約に基づき、Lに対し、上記(B)の連帯保証の契約に基づき、連帯して、35,000,000円並びにこれに対する平成17年8月19日から同年11月20日までの利息制限法所定内の年1割5分の割合による利息及び同月21日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払を求める。
B Kの請求原因に対する認否及び反論
 上記Aの(A)の事実については、KがFから借り入れたのは、35,000,000円の半額の17,500,000円にすぎず、残りの17,500,000円は、Lの借入金である。その余の請求原因事実は認める。
C Q地方裁判所の判断
(A) Kに対する請求について
 上記Aの(A)の事実については、証拠により、これを認めることができ、同(C)の事実は、当事者間に争いはない。
 この点につき、Kは、本件消費貸借契約について、Kの借入債務は17,500,000円であり、残りはLの債務である旨主張するが、上記証拠によれば、Kが35,000,000円全額の借主として金銭借用証書に署名押印をしたことは明らかであり、Kの主張は、結局、Lとの間の内部的な事情をいうものにすぎず、直ちに採用できない。
(B) Lに対する請求について
 Lは、口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。したがって、Lにおいて請求原因事実を争うことを明らかにしないものとして、これを自白したものとみなす。
(ロ) Kは、本件債権に関し、平成19年3月30日、同年4月27日及び同年5月31日に、F名義のP銀行g支店の普通預金口座にそれぞれ50,000円を送金した。
(ハ) Fの代理人弁護士は、Kに対し、平成19年7月23日付で、要旨次の内容が記載された「通知書」と題する書面を、内容証明郵便で送付した。
A Q地方裁判所は、K及びLとFとの間の本件訴訟において、本件判決を言い渡している。
B Fは、Kに対し、平成18年11月17日付通知書により、同年中に本件債権のうち5,000,000円を支払い、併せて残金の返済計画を提出するよう求めたのに対し、Kは、平成19年2月27日付ファックスで、同年4月末日限りで5,000,000円を、同年12月末日限りで5,000,000円をそれぞれ支払う他、別途、本件債権の半額に達するまで、同年3月末日から毎月50,000円を支払う旨の申入れをしたが、Kが現在まで実際に支払ったのは、50,000円を3回分の合計150,000円にすぎない。ついては、この通知書の到達後7日以内に、最低でも5,000,000円を支払ってほしい。
C 万一、支払がない場合は、Kの破産手続開始の申立てを行う所存である。
(ニ) Fの代理人弁護士は、Kに対し、平成19年12月26日付で、同人は、本件判決を受け、Fに対し、平成19年4月から分割で返済する旨の返済計画を提出しているが、当該返済計画は全く実行されていないから、かねてより伝えているとおり、Fは、来年早々にも、Kについて破産の申立てをする旨を記載した「ご連絡」と題する書面を送付した。
(ホ) Fの代理人弁護士は、Q地方裁判所に対し、平成20年2月○日付で、Fを債権者、Kを債務者とする破産手続開始の申立てをしたところ、同裁判所は、同年4月○日に、Kを破産者とする破産手続を開始する決定をし、同年8月○日、破産手続の廃止の決定をした。
ニ 本件債権に関する請求人の経理処理について
(イ) 請求人は、平成17年8月24日付で、本件送金の額25,000,000円について、取引先をM社、取引内容を「仮払内容不確定分」として仮払金勘定に計上した(以下、仮払金勘定に計上された25,000,000円を「本件仮払金1」という。)。
(ロ) 請求人は、平成20年2月1日付で、上記ロの(イ)の35,000,000円の内金として交付した10,000,000円に関し、取引先を「F」、取引内容を「現金不足のため、会社へ融通した8/24分」、相手勘定を役員借入金として、10,000,000円の現金勘定を増加させ、また、同日付で、取引先をM社、取引内容を「仮払8/24分」として、同額を現金勘定から減少させるとともに、同額を仮払金勘定に計上した(以下、仮払金勘定に計上された10,000,000円を「本件仮払金2」という。)。
(ハ) 請求人は、平成20年3月31日付で、本件仮払金1及び本件仮払金2の合計35,000,000円について、取引先をM社、取引内容を「相手先個人破産のため償却」として、当該金額の全額を平成20年3月期の貸倒償却勘定に計上し、損金の額に算入した(以下、請求人が貸倒償却勘定に計上し、損金の額に算入した経理処理を「本件貸倒処理」といい、上記(イ)及び(ロ)の経理処理と併せて「本件各経理処理」という。)。
ホ 本件納税告知処分等、本件青色取消処分及び本件各更正処分等について
(イ) H税務署長は、本件送金は、平成17年7月から同年12月までの期間分のFに対する給与等の支払に該当するとして、本件納税告知処分等をした。
(ロ) G税務署長は、請求人が本件各経理処理をしたことについて、法人税法第127条第1項第3号に規定する隠ぺい又は仮装の行為があったとして、本件青色取消処分をした。
 また、G税務署長は、請求人においてM社に対するものとして経理処理された本件仮払金1及び本件仮払金2の合計35,000,000円は、Fが個人的にKに対する貸付金として交付したものであり、請求人がM社に対して金銭の貸付けを行った事実は認められず、本件貸倒処理は認められないとして、本件各更正処分等をした。
 なお、本件各更正処分等に係る各更正通知書(以下「本件各更正通知書」という。)には、いずれも更正の理由は付記されていなかった。

(5) 争点

  1. 争点1 本件各経理処理が法人税法第127条第1項第3号に規定する帳簿書類に取引の一部を仮装して記載した場合に該当するとして行われた本件青色取消処分は適法か否か。
  2. 争点2 本件各更正通知書に更正の理由が付記されずに行われた本件各更正処分は適法か否か。
  3. 争点3 本件各経理処理が通則法第68条第1項に規定する事実の一部を仮装した場合に該当するとして行われた本件各重加算税賦課決定処分は適法か否か。
  4. 争点4 本件送金が請求人のFに対する経済的な利益の供与に該当し給与等の支払があったとして行われた本件納税告知処分等は適法か否か。

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2 主張

(1) 争点1(本件各経理処理が法人税法第127条第1項第3号に規定する帳簿書類に取引の一部を仮装して記載した場合に該当するとして行われた本件青色取消処分は適法か否か。)について

イ 原処分庁
 請求人が貸倒れとした35,000,000円の仮払金(本件債権)は、FとKとの間で締結された本件消費貸借契約に基づいて支出されたものであり、また、請求人がM社に対して同額の金銭を貸し付けた事実は存しない。
 さらに、Fは、本件債権がFに帰属するものとして本件債権の回収行為を行っているから、遅くとも本件各経理処理を行ったときには本件債権が請求人に帰属しないことを認識していたものと認められる。
 したがって、本件各経理処理は、請求人が故意に虚偽の取引内容を帳簿書類に記載したものであり、これは、法人税法第127条第1項第3号に規定する帳簿書類に取引の一部を仮装して記載した場合に該当するから、本件青色取消処分は適法である。
ロ 請求人
 請求人が貸倒れとした35,000,000円の仮払金(本件債権)は、本件消費貸借契約を合意解約した後、新たに請求人とM社との間で締結された金銭消費貸借契約に基づいて支出されたものであるから、本件各経理処理は、事実に即したものであり、虚偽の取引内容を帳簿書類に記載したものではない。仮に、本件債権がFに帰属するものであるとしても、請求人は、本件債権が請求人に帰属するものと誤信して本件各経理処理を行ったものであり、故意に虚偽の取引内容を帳簿書類に記載したものではない。
 したがって、本件各経理処理は、法人税法第127条第1項第3号に規定する帳簿書類に取引の一部を仮装して記載した場合に該当しないから、本件青色取消処分は違法である。

(2) 争点2(本件各更正通知書に更正の理由が付記されずに行われた本件各更正処分は適法か否か。)について

イ 原処分庁
 本件青色取消処分は適法であり、そうすると、本件各更正処分は、青色申告書以外の申告書を提出する法人に対してされたものであるから、法人税法第130条第2項の規定は、本件各更正処分には適用されない。
 したがって、本件各更正通知書に更正の理由が付記されていないとしても、そのことが本件各更正処分の適法性に影響を及ぼすものではない。
ロ 請求人
 本件青色取消処分は違法であり、取り消されるべきであるところ、本件青色取消処分が取り消されると、本件各事業年度の法人税に係る各申告書は青色申告書となるから、本件各更正処分については法人税法第130条第2項の規定が適用される。
 したがって、本件各更正通知書に更正の理由が付記されていない本件各更正処分は、法人税法第130条第2項の規定に違反し、いずれも違法である。

(3) 争点3(本件各経理処理が通則法第68条第1項に規定する事実の一部を仮装した場合に該当するとして行われた本件各重加算税賦課決定処分は適法か否か。)について

イ 原処分庁
 請求人は、請求人のM社に対する貸金債権は存在しないにも関わらず、FとKとの間で行われた金銭の貸付けに係る35,000,000円を、請求人とM社との間で行われた金銭の貸付けに係る支出であるかのように仮装し、M社に対する仮払金として帳簿書類に記載した上で、当該仮払金につき貸倒れが生じたとして本件貸倒処理を行ったものと認められる。
 したがって、本件各経理処理は、通則法第68条第1項に規定する事実の一部を仮装した場合に該当するから、本件各重加算税賦課決定処分はいずれも適法である。
ロ 請求人
 本件各経理処理は、請求人とM社との間で締結された金銭消費貸借契約に係る貸金債権について行われたものであり、事実に即したものであるから、虚偽の取引内容を帳簿書類に記載したものではない。
 したがって、通則法第68条第1項に規定する事実の一部を仮装した場合に該当しないから、本件各重加算税賦課決定処分はいずれも違法である。

(4) 争点4(本件送金が請求人のFに対する経済的な利益の供与に該当し給与等の支払があったとして行われた本件納税告知処分等は適法か否か。)について

イ 原処分庁
 請求人は、本件送金の額25,000,000円の貸主がFであることを知りながら本件送金をしていること、また、請求人とFとの間で、本件送金の額に相当する額(25,000,000円)の金銭の返済に関する取決めが行われた事実は認められないことからすれば、請求人は、Fに対して返済を求める意思を有さずに、本件送金をしたものと認められる。
 そうすると、請求人は、本件送金をしたことによって、25,000,000円の経済的な利益をFに供与したことになり、請求人はこれに係る源泉所得税を国に納付していないのであるから、本件納税告知処分等は適法である。
ロ 請求人
 本件送金は、請求人を貸主とする貸付けとして行われたものであるから、請求人がFに対して経済的な利益を供与したことにはならない。仮に、本件送金がFを貸主とする貸付けとして行われたものであるとしても、請求人は、請求人自らが貸主であると誤信して本件送金をしたものであるから、本件送金は、FがKに対して負っていた25,000,000円を貸し渡す債務の弁済としては無効であり、そうすると、Fは、本件送金が行われたとしても、当該債務の弁済を免れることはできず、Kに当該債務の弁済をしなければならないのであるから、Fが本件送金によって利得を受けたとはいえず、本件送金は、Fに対する経済的な利益の供与には該当しない。
 したがって、請求人は、Fに対して25,000,000円の経済的な利益を供与していないから、本件納税告知処分等は違法である。

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3 判断

(1) 争点1(本件各経理処理が法人税法第127条第1項第3号に規定する帳簿書類に取引の一部を仮装して記載した場合に該当するとして行われた本件青色取消処分は適法か否か。)について

イ 本件債権について
 請求人は、本件債権は、本件消費貸借契約を合意解約した後、新たに請求人とM社との間において締結された法人間契約に基づくものである旨主張する。
 しかしながら、上記1の(4)のハのとおり、本件訴訟の提起からKの破産手続の廃止までの一連の本件債権の回収行為は、一貫して、F又は同人の代理人弁護士が原告又は申立人等となって行っており、請求人が行っている事実は認められないこと、また、同ハの(イ)のとおり、本件判決において、Q地方裁判所は、FがKに対して本件債権を貸し付けた事実を認めており、Kも、同人が借り入れた債務の額の主張は異なるものの、Fからの借入れである事実を認めていること、さらに、同ハの(ロ)のとおり、Kは、本件債権に関し、3回にわたって合計150,000円をF名義の普通預金口座に送金したことに加え、当審判所の調査の結果によれば、まる1本件消費貸借契約が合意解約され、新たに請求人とM社との間における法人間の契約が締結されたことを裏付ける証拠は認められないこと、まる2M社が債務者であり、返済が滞っているのであれば、本件送金の日を含むM社の平成16年9月1日から平成17年8月31日までの事業年度の貸借対照表において借入金等の負債科目に本件債権の額35,000,000円又は本件送金の額25,000,000円の記載があるのが通常であるが、当該記載は認められないこと、まる3KがF名義の普通預金口座に送金した上記150,000円について、請求人が何らかの経理処理を行った事実は認められないこと、まる4請求人がM社に対し、請求人が主張する法人間の契約に基づき本件債権に係る督促、訴訟等をした事実は認められないことを併せ考慮すると、本件消費貸借契約が合意解約され請求人とM社との間で新たに消費貸借契約が締結された事実はなく、本件債権は、同ロの(イ)のとおり、本件消費貸借契約、すなわちFとKとの間において締結された契約に基づきFに帰属するものであると認めるのが相当である。
 なお、上記1の(4)のロの(ハ)のとおり、25,000,000円が請求人名義で本件M社口座に対して送金されているが、これは単に貸金の受渡しの方法としてそのような手段を採用したということであって、そのことをもって上記認定が左右されるものではなく、また、請求人は、当審判所に対して本件消費貸借契約は合意解約され法人間の契約が成立した旨を記載したKの陳述書を提出しているが、この陳述内容は、請求人に対するG税務署長所属の調査担当職員の調査時において、Kが金銭借用証書の撤回や新規に当事者を法人名に変更する話は一度も聞いたことがない旨申述した内容とは正反対のものであり、同ハの(イ)のBのとおり、本件訴訟におけるKの認否及び反論の内容とも異なるものであるから、当該陳述及び当該申述の内容のいずれも採用することはできない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ロ 本件各経理処理について
 請求人は、本件各経理処理は、事実に即したものであり、又は請求人に帰属するものと誤信して行ったものである旨主張するので、以下検討する。
(イ) 上記イのとおり、本件債権は、本件消費貸借契約に基づきFに帰属するものであると認めるのが相当であるから、本件送金は、請求人がFに代わって支出したものと認めるのが相当である。そして、本件仮払金1については、上記1の(4)のニの(イ)のとおり、取引先をM社、取引内容を「仮払内容不確定分」と記載されているものの、同ロの(ハ)のとおり、Fからの指示を受けた請求人の経理担当者が本件送金をしたものであるところ、Fが当審判所に提出した陳述書では、Fが当該経理担当者に対し本件送金の内容の説明をしていなかった旨述べており、この点につき、FのG税務署長所属の調査担当職員に対する申述でも同様の旨を述べていて、これに反する証拠は見当たらないことから、当該経理担当者がFに係る支出である旨の適正な記載をしなかったとしてもこれはやむを得ないものと認められ、故意に虚偽の取引内容を帳簿書類に記載したものとまではいえない。
(ロ) 一方、本件仮払金2については、上記1の(4)のロの(イ)のとおり、Fが本件消費貸借契約に基づき本件債権の一部として平成17年8月19日に貸し付けた10,000,000円について、同ニの(ロ)のとおり、平成20年2月1日付で経理処理が行われたものであり、当該経理処理のとおりの、請求人がFから現金を入金した事実及び請求人からM社に対して現金が支出された事実は認められず、そして、FのG税務署長所属の調査担当職員に対する申述によれば、当該経理処理は、Fの経理担当者に対する指示に基づくものであったことが認められ、これに反する証拠は見当たらない。
 また、Fが当審判所に提出した陳述書によれば、本件貸倒処理は、上記1の(4)のハの(ホ)の、平成20年2月○日付、FのKに対する破産手続開始の申立てを契機として行われたものであることが認められ、これに反する証拠は見当たらないところ、当該破産手続開始の申立ては、Fが個人として申し立てたものであるから、請求人の経理担当者は、Fの指示なしには本件貸倒処理を行うことはできず、本件貸倒処理は、Fが請求人の経理担当者に指示して行わせたものであると認めるのが相当である。
 さらに、上記1の(4)のハ及び上記イのとおり、平成18年3月○日付の本件訴訟の提起から平成20年3月期後の平成20年8月○日のKの破産手続の廃止までの間、一貫して、F又は同人の代理人弁護士が原告又は申立人等となって本件債権の回収行為を行っていること、本件判決後の当該回収行為は、本件判決においてFの請求が全て認められたことによるものであると認められること、Kは、3回にわたって合計150,000円をF名義の普通預金口座に送金しているところ、当該150,000円について、請求人は何らの経理処理も行っていないことに加え、Fが当審判所に提出した陳述書において、本件消費貸借契約の締結後、顧問税理士に、万一本件債権が返済されなかった場合に、法人間の貸付けであれば請求人が貸倒損失として損金算入できる一方、個人間の貸付けではF自身の貸倒損失の経理処理ができない旨説明を受けたとしていることからすると、Fは、平成20年3月期において、本件仮払金2の経理処理及び本件貸倒処理が行われたときには、本件債権は、本件消費貸借契約に基づき、Fに帰属するものであることを認識していながら、請求人の貸倒損失を計上し損金算入するために、経理担当者に指示して本件仮払金2の経理処理及び本件貸倒処理を行ったと認めるのが相当である。
 したがって、本件仮払金2の経理処理及び本件貸倒処理に関し、請求人の主張には理由がない。
ハ 本件青色取消処分について
 法人税法第127条第1項第3号の前段でいう取引の全部又は一部を「隠ぺいし又は仮装し」というのは、青色申告制度の前提となる信頼関係を毀損する行為として、積極的に帳簿を操作し、欺罔しようとするものであり、存在しない取引に関し、あたかも、それが存在するかのように装って帳簿に記載することは帳簿上の虚偽記載として「仮装したこと」に該当すると解するのが相当であるところ、上記イ及びロを総合すると、上記1の(4)のイの(ロ)のとおり、請求人の代表取締役であり、請求人の発行済株式の総数の3分の2を有するFは、本件債権が同人に帰属するものであることを認識しながら、本件債権が返済されない場合に、法人間の貸付けであれば請求人の貸倒損失として損金算入できることから、平成17年8月19日にFが行ったKに対する10,000,000円の貸付けを請求人が行った取引とするために、請求人の経理担当者に指示して、請求人において現金の入出金という事実が存在しないにも関わらず、平成20年2月1日に本件仮払金2の経理処理を行わせるとともに、M社に対して請求人には実際に存在しない本件債権について、その貸倒れが生じたとする本件貸倒処理を行わせたものであると認めるのが相当であり、このことは、請求人が存在しない取引を存在するかのように装って帳簿にその取引を記載したというべきあるから、帳簿書類に取引の一部を仮装して記載した場合に該当するというべきである。したがって、本件仮払金2の経理処理及び本件貸倒処理は、法人税法第127条第1項第3号に規定する帳簿書類に取引の一部を仮装して記載した場合に該当するから、本件青色取消処分は適法である。

(2) 争点2(本件各更正通知書に更正の理由が付記されずに行われた本件各更正処分は適法か否か。)について

イ 請求人の主張について
 請求人は、本件青色取消処分は違法であり取り消されるべきであるから、本件各更正通知書に更正の理由が付記されていない本件各更正処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、法人税法上、更正の理由を付記しなければならないのは、青色申告書に係る更正処分に限られるのであって、青色申告書以外の申告書については、その更正通知書に更正の理由を付記すべき旨を定めた法令の規定はないところ、上記1の(2)のイの(ロ)及び同(4)のホの(ロ)のとおり、請求人は、平成23年5月31日付で、平成20年3月期以後の本件青色取消処分を受けており、本件青色取消処分が適法であることは、上記(1)のハのとおりであり、同日以後にG税務署長が本件各更正処分をしていることからすれば、本件各更正通知書に更正の理由が付記されていなくても、そのことをもって本件各更正処分が違法となるものではない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ロ 本件各更正処分について
 上記イのとおり、本件各更正通知書に更正の理由が付記されていなくても、そのことをもって本件各更正処分が違法となるものではなく、また、当審判所の調査の結果によっても、本件各更正処分が違法であるとする証拠は認められず、本件各事業年度の所得金額及び納付すべき税額を計算すると、いずれも本件各更正処分の金額と同額になるから、本件各更正処分はいずれも適法である。

(3) 争点3(本件各経理処理が通則法第68条第1項に規定する事実の一部を仮装した場合に該当するとして行われた本件各重加算税賦課決定処分は適法か否か。)について

イ 通則法第68条第1項に規定する重加算税を課するためには、納税者がした過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要し、「仮装と評価すべき行為」とは、存在しない取引に関し、あたかも、それが存在するかのように装うなど、故意に事実をわい曲することをいうものと解するのが相当である。
ロ これを本件についてみると、次のとおりである。
 請求人は、本件各経理処理は事実に即したものであるから、通則法第68条第1項に規定する事実の一部を仮装した場合に該当しない旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のハのとおり、請求人の代表取締役であり請求人の発行済株式の総数の3分の2を有するFは、本件債権が同人に帰属するものであることを認識しながら、本件債権が返済されない場合に、法人間の貸付けであれば請求人の貸倒損失として損金算入できることから、平成17年8月19日にFが行ったKに対する10,000,000円の貸付けを請求人が行った取引とするために、請求人の経理担当者に指示して、請求人において現金の入出金という事実が存在しないにも関わらず、平成20年2月1日に本件仮払金2の経理処理を行わせるとともに、M社に対して請求人には実際に存在しない本件債権について、その貸倒れが生じたとする本件貸倒処理を行わせたものであると認められるところ、このことは、請求人が存在しない取引をあたかも存在するかのように装い、故意に事実をわい曲して、本件各事業年度の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を仮装したものというべきであり、そして、上記(2)のロのとおり、本件各更正処分は適法であるところ、請求人は、当該仮装の行為に基づき過少に計算した所得金額を記載した確定申告書を提出しているのであるから、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たしており、本件各重加算税賦課決定処分は、いずれも適法である。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(4) 争点4(本件送金が請求人のFに対する経済的な利益の供与に該当し給与等の支払があったとして行われた本件納税告知処分等は適法か否か。)について

イ 本件納税告知処分について
(イ) 所得税法第36条第1項に規定する経済的な利益には、債務の免除を受けた場合におけるその免除を受けた金額に相当する利益が含まれ、法人が、当該法人の役員に対して債務を免除した場合には、当該債務の免除による経済的な利益を供与したこととなり、この経済的な利益の供与は、当該役員に対する給与等の支給に該当するものと解される。ただし、債務の免除による経済的な利益の供与が行われた事実が存するというためには、使用者である法人による明示的又は黙示的な行為が存することを要すると解するのが相当である。
(ロ) これを本件についてみると、次のとおりである。
 原処分庁は、請求人は、本件送金の額25,000,000円について、Fに対して返済を求める意思を有さずに、本件送金をしたと認められるから、請求人が本件送金をしたことによって、25,000,000円の経済的な利益をFに供与したことになる旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のイのとおり、本件債権は、FとKとの間における本件消費貸借契約に基づきFに帰属するものであると認められるところ、請求人は、上記1の(4)のロの(ロ)及び(ハ)のとおり、FがKから指定された本件M社口座に本件送金をし、同ニの(イ)のとおり、本件仮払金1の額(本件送金の額25,000,000円)に関する経理処理をしており、上記(1)のロの(イ)のとおり、当該経理処理は、請求人が故意に虚偽の取引内容を帳簿に記載したものとまではいえないことからすると、本件仮払金1は、請求人がFに代わって立て替えて本件送金をしたものと認めるのが相当であり、そして、請求人は、本件仮払金1を平成20年3月期において、本件仮払金1の額を含めた本件債権の額について本件貸倒処理が行われるまでの間、請求人の帳簿上、依然として仮払金として計上していたものと認められる。
 そうすると、請求人において、平成17年7月から同年12月までの期間に、Fに対して本件仮払金1の額(本件送金の額)の返済を免除するなどの明示的又は黙示的な行為を行った事実はないというべきであり、当審判所の調査の結果によっても、この認定を左右するに足りる証拠は認められないから、請求人がFに対して、本件仮払金1の額(本件送金の額)について債務を免除した事実はなく、経済的な利益を供与したということはできない。
(ハ) したがって、平成17年7月から同年12月までの期間において、請求人がFに対して本件仮払金1の額(本件送金の額)の経済的な利益を供与し給与等の支払があったとして行われた本件納税告知処分は違法であって、その全部を取り消すべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イの(ハ)のとおり、本件納税告知処分は、その全部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分も、その全部を取り消すべきである。

(5) 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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