(平成25年2月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事案の概要

 本件は、○○業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁の勧奨に従い、所得税並びに消費税及び地方消費税の各修正申告書を提出したところ、原処分庁が、重加算税の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、上記各修正申告は強迫等によりさせられたものであるから無効であるなどとして、当該各賦課決定処分等の全部又は一部の取消しを求めた事案である。

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2 審査請求に至る経緯

(1) 所得税に係る重加算税の賦課決定処分について

 請求人は、平成24年2月22日に、平成23年9月16日付でされた平成16年分、平成17年分、平成18年分、平成19年分、平成20年分、平成21年分及び平成22年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の所得税に係る重加算税の各賦課決定処分(以下、これらの処分を併せて「本件所得税各賦課決定処分」という。)について審査請求をした。
 この審査請求に至る経緯は、別表1−1記載のとおりである。

(2) 消費税及び地方消費税に係る重加算税の賦課決定処分について

 請求人は、平成24年2月22日に、平成23年9月16日付でされた平成17年1月1日から平成17年12月31日まで、平成18年1月1日から平成18年12月31日まで、平成19年1月1日から平成19年12月31日まで、平成20年1月1日から平成20年12月31日まで、平成21年1月1日から平成21年12月31日まで及び平成22年1月1日から平成22年12月31日までの各課税期間(以下、順次「平成17年課税期間」、「平成18年課税期間」、「平成19年課税期間」、「平成20年課税期間」、「平成21年課税期間」、「平成22年課税期間」とそれぞれいい、これらを併せて「各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下、併せて「消費税等」という。)に係る重加算税の各賦課決定処分について審査請求をした。
 この審査請求に至る経緯は、別表1−2記載のとおりである。

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3 平成17年課税期間の消費税等に係る重加算税の賦課決定処分及びその他の審査請求の対象に対する審査請求について

(1) 平成17年課税期間の消費税等に係る重加算税の賦課決定処分に対する審査請求について

 請求人は、本件審査請求において、平成17年課税期間の消費税等に係る重加算税の賦課決定処分の取消しを求めている。
 しかしながら、同処分は、原処分関係資料によると、平成24年1月24日付でされた異議決定により取り消されたことが明らかであるから、本件審査請求のうち、同処分の取消しを求める部分の審査請求は、その対象を欠く不適法なものである。

(2) その他の審査請求の対象に対する審査請求について

 請求人は、本件審査請求において、別紙1の2の「その他の審査請求の対象」記載の各修正申告の全部又は一部の取消しを求めている。
 しかしながら、修正申告は、国税通則法(平成23年法律第114号による改正前のものをいい、以下「通則法」という。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項に規定する国税に関する法律に基づく処分に当たらないから、本件審査請求のうち、これらの修正申告の取消しを求める部分の審査請求は不適法である。

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4 平成17年課税期間の消費税等に係る重加算税の賦課決定処分以外の原処分に対する審査請求について

(1) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、L社名下にて、○○業(以下「本件事業」という。)を営んでいる個人事業主である。
ロ 請求人は、各年分の所得税について、青色以外の確定申告書に別表1−1の「確定申告」欄のとおり記載して、また、各課税期間の消費税等について、確定申告書に別表1−2の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ハ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成23年6月から同年8月にかけて、請求人の所得税及び消費税等の調査(以下「本件調査」という。)を行い、請求人は、平成23年8月25日に、各年分の所得税及び各課税期間の消費税等の各修正申告書(以下、これらに係る修正申告書を各々「本件各所得税修正申告書」、「本件各消費税等修正申告書」という。また、平成16年分、平成17年分、平成18年分及び平成19年分の所得税の各修正申告並びに平成18年課税期間及び平成19年課税期間の消費税等の各修正申告を併せて、「本件各修正申告」といい、これらに係る各修正申告書を併せて「本件各修正申告書」という。)を提出した。

(2) 関係法令の要旨

 別紙4のとおりである。

(3) 争点

イ 平成16年分から平成19年分までの所得税に係る重加算税の各賦課決定処分並びに平成18年課税期間及び平成19年課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分の適否の前提として本件各修正申告は無効か否か。
ロ 通則法第68条第1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装した」事実はあるか否か。

(4) 主張

イ 争点イについて
(イ) 請求人
 以下の理由により、本件各修正申告は無効であるから、本件各修正申告を前提とする平成16年分、平成17年分、平成18年分及び平成19年分の所得税に係る重加算税の各賦課決定処分並びに平成18年課税期間及び平成19年課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分は違法である。
A 強迫を原因とする意思の欠缺
 本件各修正申告は、平成23年8月25日に、本件調査担当職員から「もう、今日はだめですよ。私の上司がせっかくよくしてくれたのに、もっと悪くなることもありますよ。」と強迫され、意思が抑圧された上で署名押印し提出させられたものであるから無効である。
B 強迫を原因とする意思表示の瑕疵
 請求人は、本件調査担当職員の上記A記載の言葉により強迫されて修正申告させられたものであるから、本件各修正申告を、民法第96条《詐欺又は強迫》第1項により取り消す(民法第121条《取消しの効果》により遡及的無効)。
C 詐欺を原因とする意思表示の瑕疵
 請求人は、本来であれば、所得税は平成20年分以降、消費税等は平成20年課税期間以降しか修正申告する必要がなかったのに、本件調査担当職員の欺罔行為によって、所得税は平成16年分以降、消費税等は平成17年課税期間以降の修正申告が義務だと思い込まされ、つまり、だまされて修正申告させられたものであるから、本件各修正申告を民法第96条第1項により取り消す(民法第121条により遡及的無効)。
D 調査手続の違法
 本件調査においては、本件調査担当職員から請求人に対し、修正申告の意義や内容、通則法第70条の更正又は決定等の除斥期間に関する規定内容及び税務運営方針の内容について説明がなされなかったところ、このような調査手続は、税務運営方針及び昭和56年の通則法第70条改正の際の国会附帯決議(以下「本件附帯決議」という。)に違反する違法なものである。本件各修正申告は、このような違法な調査手続に基づいてさせられたものであるから、無効である。
(ロ) 原処分庁
 以下の理由により、本件各修正申告は有効である。
A 本件調査担当職員が請求人に対し、強迫又は詐欺と評価される言動を行った事実はなく、調査は適法に行われていた。
B 税務運営方針は、税務行政の一般的あるいは原則的な方針を示したものにすぎず、また、本件附帯決議は、立法府の意見を表明したものとして尊重されるべきものであるが、それ自体が法律でないことは明らかであり、これに基づいて課税処分が行われるということではない。
ロ 争点ロについて
(イ) 原処分庁
A 所得税について
 以下の事実を総合的に勘案すれば、請求人は、自己の収入金額を十分に認識していながら、真実の収入金額をあえて秘匿し、それが課税の対象となることを回避することを意図し、実際の所得金額を把握できる帳簿書類を破棄した上で、必要経費に根拠のない金額を計上し、ことさらに所得金額を少なく記載した各年分の所得税の各確定申告書(以下「本件各確定申告書」という。)を提出していたものといえ、「隠ぺいし、又は仮装した」事実がある。
(A) 収入について
 請求人の事業に係る収入は、まる1全て請求人名義の預金口座に振込決済されており、預金通帳を確認すれば容易に全ての収入金額を把握できること、まる2請求人自身も預金通帳から収入金額を把握できることを認識していたことを認めた上で、収入金額の多い主要な取引先以外の収入金額の一部を除外して集計していた旨申述していること、まる3主要な取引先に係る収入金額は、預金通帳から把握できる収入金額とおおむね同額が各年分の各収支内訳書(以下「本件各収支内訳書」という。)に記載されているものの、主要な取引先以外に係る収入金額については合計金額の一部しか記載せず、約28万円から579万円もの金額を除外した虚偽の金額を記載していること、まる4本件各確定申告書には、本件各収支内訳書に記載された収入金額の合計を本件事業に係る収入金額として記載していること。
(B) 必要経費について
 まる1受領した領収書等の原始記録の大部分をその都度破棄していること、まる2保存のある領収書等についても、これを集計することなく本件各収支内訳書の各経費科目の金額欄に根拠のない数字を記載している旨申し述べていること、まる3本件各収支内訳書の各経費科目の金額欄には、何ら根拠となる帳簿書類が存在しないラウンド数字が記載されていること。
(C) 総所得金額について
 本件各確定申告書に記載された総所得金額は、いずれの年分も「所得から差し引かれる金額」を若干下回る金額となっていること。
B 消費税等について
 上記A(A)の事実を総合的に勘案すれば、請求人は、自己の収入金額を十分に認識していながら、真実の収入金額をあえて秘匿し、それが課税の対象となることを回避することを意図し、実際の課税標準額を把握できる帳簿書類を破棄し、ことさらに消費税等の課税売上高を過少に記載した各課税期間の消費税等の各確定申告書を提出したといえ、「隠ぺいし、又は仮装した」事実がある。
(ロ) 請求人
 単なる計算誤りの結果、所得金額及び消費税の課税売上高が過少となったものであり、「隠ぺいし、又は仮装した」事実はない。
 なお、平成20年分から平成22年分までの所得税に係る重加算税の各賦課決定処分については、上記のとおり、計算誤りにより所得金額を過少に申告したことは事実であるので、過少申告加算税が賦課されることは争わないが、上記年分の各修正申告額は、平成23年中の必要経費であった○○のエンジン交換費用2,445,964円(以下「本件車両修繕費」という。)を考慮していない本人所得率によって算出された誤ったものであるから、本件車両修繕費を考慮に入れた本人所得率で算出された所得金額を基準に過少申告加算税額を算出すべきである。

(5) 判断

イ 争点イについて
(イ) 認定事実
 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
A 平成23年6月13日調査
(A) 本件調査担当職員が、本件調査のため請求人の自宅兼事務所へ赴いたところ、請求人から、売上金が振り込まれる2つの銀行預金口座(M銀行e支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)及び同銀行f支店のL社代表者J(請求人)名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下、両口座を併せて「本件各口座」という。))の各預金通帳及び平成23年分(以下「本件進行年分」という。)の出面帳と呼ばれる日ごとの業務の詳細が記載された帳面の提示を受けた。
(B) 本件調査担当職員は、請求人宅を辞去した後、本件各口座に振り込まれた金員のうち、出面帳の記載及び送金相手先の名称等から売上金と思われる金員を集計した表(以下「本件売上金集計表」という。)を作成した。なお、本件各収支内訳書において売上先を個別に摘示して収入金額を記載した欄(以下「個別記載欄」という。)は、本件売上金集計表よりも最大で約100万円程度少なく記載された年分はあったものの、年によってはむしろ数十万円程度多く記載されていることもある一方で、具体名を記載せずに「上記以外の売上先」と区分して記載した収入金額は、平成17年分を除いて、本件売上金集計表による集計金額より100万円から500万円程度少なく記載されており、総計でみると、本件各確定申告書及び本件各収支内訳書の総収入金額は、本件売上金集計表による総収入金額よりも、おおむね300万円から600万円ほど少なかった。
B 平成23年6月27日調査
(A) 本件調査担当職員が、請求人宅に臨場し、請求人に対し、本件売上金集計表を示しながら、同表において売上金以外のものが売上金として集計されていないか確認するよう求めたところ、請求人は「大体合っている。」と答えた。
(B) 本件調査担当職員が、請求人に対し、本件売上金集計表に基づく収入金額が本件各確定申告書及び本件各収支内訳書記載の収入金額の総計よりも多いことを指摘し、その差異が発生した理由を尋ねたところ、請求人は、「酒を飲みながら申告書を作っていたので分からない。」、「(差異が発生したのは)たまたまです。」、「申告書がやっとできたという安心感が大きいから、内容がおかしいとかいうことまでは考えなかった。」などと答えた。
(C) そこで、本件調査担当職員が「出面帳はきちんと作成されているのに申告を間違うのはおかしいのではないか。本件各収支内訳書の個別記載欄に記載された主要な取引先の売上額はほとんど合っているのに、本件各収支内訳書の『上記以外の売上先』欄だけが毎年少なく間違うのは、意図的かそうじゃないかというと、意図的と取らざるを得ないのではないか。」と質問したところ、請求人は「こんないい加減な申告をして、誰が見ても分かりますよね。」と答えた。
(D) 本件調査担当職員は、本件進行年分以外の帳票類がほとんど廃棄され、各年分の事業所得の金額を明確にする資料がなかったことから、請求人に対し、平成23年1月から5月までの収入金額と本件各口座からの引落し額等から算出した必要経費の額を基に、同期間の請求人の所得率(以下「本件本人所得率」という。)を算出し、同率を本件各口座の入金額から算出した各年分の総収入金額にそれぞれ乗じて、各年分の事業所得の金額を算出することを提案したところ、請求人は「そうですね。」と答えた。
(E) その後、本件調査担当職員は、本件各口座の引落し額からは分からない必要経費の額については、請求人から聴取する等して計算した上で、本件本人所得率を30.24%と算出した。なお、本件車両修繕費は、本件本人所得率の算出の基礎に含まれていない。
C 平成23年7月13日調査
(A) 本件調査担当職員は、請求人宅へ赴き、本件本人所得率の算出の基礎となる平成23年1月から5月までにおける各月の収入金額及び必要経費額を記載した表を示しつつ、必要経費の各費目をどのように算出したかを説明した。その上で、請求人に対し、本件本人所得率に基づいた各年分の所得金額がいくらになるかを告げた。
(B) その後、本件調査担当職員が請求人に対し「申告した内容が誤っていたということであれば、これを是正する方法として修正申告があります。修正申告は任意ですけども、申告内容が誤っていたということであれば直さないといけませんよね。」などと申し向けて、修正申告を勧奨したところ、請求人は「間違って申告している以上、仕方ないですよね。」と答えた。
(C) また、本件調査担当職員が、7年間遡って重加算税が課される可能性とその場合における概算の納税額を伝えたところ、請求人は「現時点では一度に支払うことができないので、3台持っている○○車のうち1台を売却して税金の支払に充てようと思っています。」などと答えた。
D 平成23年8月3日の電話でのやり取り
 本件調査担当職員が、請求人に電話をかけ「準備が整ったので、修正申告をしに来てください。」などと申し向けたところ、請求人は「分かりました。」と答えた。
E 平成23年8月22日のやり取り
 請求人が電話の上、原処分庁に来署したため、本件調査担当職員は、請求人に対し、本件調査の結果に基づいて算出した、各年分の所得金額、増加する所得税の額及び消費税等の額、重加算税額等を伝えるとともに、事業税額、国保税・住民税、加算税・延滞税及び源泉所得税の各見込額等が記載された表を手渡し、修正申告を勧奨した。
 これに対し、請求人は「収入が多い年はその分経費もかかっているので、その経費額を特殊事情として認めてほしい。」などと申し述べた。これに対し、本件調査担当職員は「経費の領収書がない以上、余分に経費がかかったといってもそれは認められないが、本件本人所得率で推計しているので、収入金額が多くなっている年はその分経費額も多い額を認めていることになっています。」と回答した。
F 平成23年8月25日のやり取り
 請求人が電話の上、原処分庁に来署し、本件調査担当職員に対し、上記E同様、収入が多い年には特殊事情として必要経費をより多く認めて欲しい旨申し出たため、本件調査担当職員が、上記Eと同旨の回答をしたところ、請求人は「分かりました。」と答えた。
 そこで、本件調査担当職員は、事前に作成していた本件各所得税修正申告書及び本件各消費税等修正申告書の各用紙を手渡し、再度、修正申告額の算出過程を説明するとともに、各申告書用紙の記載内容を説明し、署名押印を求めた。また、修正申告書を提出した場合は修正申告額を基に所得税額が確定する等修正申告における注意事項を教示し、同旨が記載された「修正申告等について」と題する書面を手渡し、「今、私が説明した内容とおおむね同じことが書いてありますので、確かに説明しましたということでお渡しします。」と述べていたところ、請求人が本件各所得税修正申告書及び本件各消費税等修正申告書の各用紙に署名をし始めた。
 請求人は、署名後、押印は本件調査担当職員がしてほしい旨申し述べたが、本件調査担当職員が断ったところ、結局自ら押印して、本件各所得税修正申告書及び本件各消費税等修正申告書を提出した。
G 平成23年9月2日のやり取り
 請求人は、原処分庁に来署し、本件調査担当職員とその上司である統括国税調査官に対し、要旨次のとおり述べた。
(A) 本件調査担当職員から、上記B、C及びEのとおり、調査結果及び修正申告の意義など種々の説明をしてもらい、修正申告の内容については納得している。
(B) 本件調査担当職員の目つきから、税務署職員の権限は絶対であり、修正申告は義務なのだと勘違いしてしまったことから、調査及び修正申告は直近の3年分が対象であるはずであるのに過去7年分について調査されて同期間分の修正申告に応じてしまった。
(C) 本心においては修正申告をしたくなかったので、修正申告を取り消してほしい。
(ロ) 本件調査の内容に関する関係者等の答述等の信用性に対する判断
 上記(イ)の事実認定の基となった本件調査の内容に関する関係者等の答述等の信用性に対する判断は、以下のとおりである。
A 請求人作成書面及び答述の内容
(A) 請求人が作成し、当審判所に提出した平成24年5月10日付「反論書」と題する書面には、要旨以下の記載がある。
a 平成23年6月13日の調査について
 税務署職員は国家公務員で全ての権限があると思い込み、反論してはいけないと思い込む。
 本件調査担当職員から、売上金額が過少であるとの指摘があったので、私はどのくらい違っていますかと説明を求めたが、本件調査担当職員は、私の計算に間違いないと怒り、金額や内容の説明はされなかった。
b 平成23年6月27日の調査について
 本件調査担当職員から、計算した結果売上金額に間違いがあると指摘されたので、こんなにありましたかと説明を求めたところ、本件調査担当職員は私の計算に間違いはないと強く自己主張し、私の話を聞いてくれず、また、その他の説明もしてくれなかった。
 本件調査担当職員は、いきなり重加算税がつきますよと強く主張してきて、これ以外の説明及び言葉はなく、隠ぺい仮装行為についての説明もなかった。
c 平成23年7月13日の調査について
 本件調査担当職員が、税額等の見込額を記した書面を手渡し、こういう数字になりますとだけ言い、内容については一切説明しなかった。
 本件調査担当職員に対し、同業者よりも車両の消耗が激しく、必要経費が多くかかると説明したが、返事がなく、返事を求めたが無関心であった。
 本件本人所得率の内容、所得金額の算出の根拠、重加算税の内容についての説明はなかった。
d 平成23年8月22日の調査について
 急きょ仕事が休みになったので、本件調査担当職員に電話して原処分庁に赴き、平成19年以前の修正申告は認められないこと、及び、必要経費が余分にかかっている点につき説明したが、本件調査担当職員に表情がなく時間の無駄なので自ら帰った。修正申告の説明は一切なく、税金の内容についても説明がなかった。
e 平成23年8月25日の調査について
 平成19年以前まで遡及して是正することに納得ができないので、修正申告する意思はないと抗議しようと思い、原処分庁に赴き、本件調査担当職員に対し、平成19年以前の修正申告は認められないですよ、と言った。
 しばらくして、本件調査担当職員が、多くの書類を持って戻ってきた上で「もう今日はだめですよ。私の上司がせっかくよくしてくれたのに、もっと悪くなることもありますよ。」と言った。私が怖くてぼう然としていると、本件調査担当職員が「7年前からですよ。(平成)16年の所得税です。」などと言って、私に修正申告書の用紙を手渡した。
 私は、このとき初めて7年前から修正申告することを知った。
 私は、修正申告は強制だと思い込み、修正申告書の用紙に署名した。本件調査担当職員は「ここにサインして。」と言った以外、修正申告書の内容や金額について一切説明しなかった。
 本件調査担当職員から押印も求められたが、納得がいかないので、印鑑を机の上にドンドンと叩きつけ、本件調査担当職員が勝手に押すよう求めたが、本件調査担当職員が「私が押すわけにはいきません。」と言って、再度押印を求めてきたので、押印した。
 各年分の調査結果の内容、修正申告の内容、重加算税、延滞税等の説明はなかった。
f 平成23年9月2日のやり取り
 本件調査担当職員とその上司である統括国税調査官との間で話し合いの場を設けてもらった。
 私は、最後まで平成19年以前の修正申告は認められないと抗議していたなどと述べた。また、7年間調査が遡ることについても説明がなかったと抗議した。
(B) 請求人の当審判所に対する答述
 請求人は、当審判所に対し、上記(A)に沿う事実に加えて、要旨以下のとおり答述した(以下、請求人の平成24年5月10日付反論書と併せて「本件請求人答述等」という。)。
a 本件調査担当職員に対し、本件調査中、本件車両修繕費を考慮してほしいと申し出、本件車両修繕費の領収書も見せた。
b 修正申告をした当時、修正申告とは当初申告の内容に間違いがあった場合にこれを訂正して再度申告し直すものであると理解していたし、修正申告書用紙に署名押印して提出すれば、修正申告書に記載された修正申告額のとおり申告することになることは理解していた。
B 本件調査担当職員作成書面及び答述の内容
 本件調査担当職員は、当審判所に対して、上記(イ)に沿う内容を答述し、また、その旨記した回答書面(以下、本件調査担当職員の答述及び回答書面を併せて「本件調査担当職員答述等」という。)を提出した。また、本件調査担当職員は、本件調査時における請求人との雑談の様子や、納税資金の捻出のため、請求人が所有する○○車1台を売却する予定である旨の話を聞いた際における請求人の様子などを細かく述べるとともに、本件調査時に本件調査担当職員が作成した調査経過にまる1「請求人が収入金額の除外を認める」と記載した点、及び、まる2「除外した金額は生活費(学費含む)や事業用車両の購入費に充てていた」と記載した点について、請求人が同旨を明確に認めたわけではないと認めつつ、まる1に関しては上記(イ)B(C)のやり取りをもとに請求人が収入除外を自認したものと考えた旨を、まる2に関しては、請求人が所得金額を上回る出費(学費を含む生活費と事業用車両の現金支払額の総計)を認めたため、除外した金員は同出費に充てられたと考えた旨を答述した。
C 本件調査の内容に対する関係者等の答述等の信用性に対する判断
(A) 本件請求人答述等について
 本件請求人答述等によれば、請求人は、本件調査の過程において、本件調査担当職員から、修正申告額や修正申告後に発生する税額等の見込額等、調査の結果に関するあらゆる事項に関し、何の説明も受けなかったとのことであるが、税務署職員が税務調査に赴き修正申告を勧奨するに当たり、説明の巧拙はともかく、修正申告額の算出方法はおろか修正申告額そのものすら教示しないということは通常考えられず、また、説明しない理由もない。
 また、仮に、本件請求人答述等のとおり、本件調査担当職員から請求人に対し、何の説明もなかったとすれば、請求人は、修正申告額の算出方法、修正申告額について何も知らなかったはずであるが、他方で、本件請求人答述等には、上記A(A)c及びd並びに同(B)aのとおり、必要経費の額を増額させようと交渉した、又は、本件進行年分中の必要経費である本件車両修繕費の存在について本件調査担当職員に申し入れて本件本人所得率の引下げを求めていた等、そもそも修正申告額やその算出方法を知らなければ行い得ない言動が含まれているのであり、その答述等の内容は矛盾している。
 また、請求人は平成23年9月2日の本件調査担当職員及びその上司である統括国税調査官との面談において、同面談を録音するほどに重要視していたにも関わらず、本件調査担当職員の言動とは無関係に、自ら税務署職員の権限は絶対だと思い込んだ旨述べているのみであり、強迫行為及び欺罔行為について何ら言及していない。
 以上を総合的に勘案すると、本件請求人答述等のうち、少なくとも本件調査時における請求人と本件調査担当職員のやり取りの内容、特に本件調査担当職員による強迫行為及び欺罔行為があったとする点については、信用性が認められない。
 もっとも、上記A(B)bの、修正申告に関する請求人の認識については、特段この部分の答述の信用性を否定する事情は認められないことから、同答述のとおり、請求人は、本件各所得税修正申告書及び本件各消費税等修正申告書を提出した際、修正申告の意味について正しく理解していたものと認められる。
(B) 本件調査担当職員答述等について
 本件調査担当職員答述等は、その内容が具体的かつ詳細で、話の流れとして不自然な点はない上、上記Bのとおり、本件調査において実際に請求人とやり取りをしなければ答述できない内容が含まれており、また、本件調査時に作成された調査経過に記載された内容を補足する際にも自己に不都合となり得る事情も述べるなど、その答述態度も誠実であると認められる。
 よって、本件調査担当職員答述等には信用性が認められ、上記(イ)のとおりの事実が認定できる。
(ハ) 結論
A 強迫ないし詐欺について
 請求人は、上記(4)イ(イ)のとおり、本件調査担当職員から強迫行為ないし欺罔行為を受けたとし、その結果、修正申告の意思欠缺ないし修正申告の意思表示の瑕疵により、本件各修正申告は無効である旨主張するが、請求人が本件各修正申告書を提出するに至るまでの経緯は上記(イ)の認定のとおりであって、本件調査担当職員が請求人に対し強迫行為又は欺罔行為を行った事実は認められない。
 したがって、強迫行為及び欺罔行為を前提とする請求人の本件各修正申告の無効の主張はいずれも理由がない。
B 調査手続の違法について
 請求人は、本件調査担当職員から修正申告の意義や内容、通則法第70条の更正又は決定等の除斥期間に関する規定内容及び税務運営方針の内容について説明がなされなかったとし、かかる調査手続は、税務運営方針及び本件附帯決議に違反する違法なものであるから、違法な調査手続に基づいてさせられた本件各修正申告は無効である旨主張する。
 しかしながら、本件調査担当職員は、上記(イ)のとおり、修正申告の意義、本件各修正申告の内容等について一応の説明をしており、また、修正申告の勧奨ないし重加算税の賦課に当たり、税務署職員に通則法第70条及び税務運営方針の内容について説明する義務もないことからすると、請求人の主張はその前提を欠き理由がない。
C 本件各修正申告について
 請求人は、上記(イ)E及びFのとおり、修正申告額の算定方法の説明を受けた後、修正申告額が自己に有利となるよう、修正申告の勧奨を受けてからも自ら原処分庁を訪れ、本件調査担当職員に対し、必要経費の額の増額の申出をした上で、結局、同申出が認められることはなかったものの、上記(イ)Gのとおり、請求人自身が修正申告の内容については納得していると発言するほど修正申告の内容を了承し、本件調査担当職員の勧奨に応じて、上記(ロ)C(A)のとおり、修正申告の意味を理解した上で、本件各修正申告書の各用紙に署名押印してこれを提出したのであるから、請求人は自己の意思において本件各修正申告書を提出したものと認められ、修正申告を無効とするような事情は存しないというべきである。
 したがって、本件各修正申告は無効ではなく、有効なものと認められる。
ロ 争点ロについて
(イ) 法令解釈
 過少申告をした納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、その納税者に対して重加算税を課することとされている。この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解すべきである。
(ロ) 認定事実
 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
A 請求人の売上金は全て、本件各口座のいずれかに振り込まれており、現金での決済はない。
 各年分における本件各口座に振り込まれた額は別表2−1のまる2欄記載のとおりである。
B 請求人は、本件事業に関し、出面帳及び請求書のみを作成している。
C 請求人が作成していた本件進行年分の出面帳には、要旨以下の記載がある。
 なお、請求人は、出面帳を毎年作成しており、その記載内容はいずれの年分も以下と同様である。
(A) ノートに日ごとの欄を設け、その日ごとに、業務の有無、業務がある場合は、当該業務の発注先、工事現場名、見込まれる売上金額及び確定した売上金額等(後日、預金通帳にて振込みを確認できればその旨の印も付している。)を記載し、請求書を発行した場合はその旨の印を付している。
(B) 請求書を発行する必要がある会社から受注した仕事については、請求書の発行漏れがないよう、毎月、上記(A)の記載に加えて、別途、会社ごとに、日時、売上金額及び当該月の売上金額の総額等をまとめて記載するとともに、請求書を発行した場合にはその旨の印を付している。
(C) さらに、請求人が別業者に外注した場合については、上記(A)の記載に加えて、別途、「代車」欄と表して、外注先と外注費の金額を記載し、外注費を支払った場合はその旨の印を付している。
D 請求人は、本件事業に係る必要経費の領収書を適切に収集し保存することをせず散逸するに任せており、本件各確定申告書の必要経費額の記載に当たっては、確定申告書作成時点で残っている領収書を多少の参考にしつつも、おおむね自らの感覚で算出した金額を必要経費額としていた。なお、毎年の確定申告後には、残っていた領収書の大部分及び当該年分の出面帳も廃棄していた。
E 請求人が作成した、本件各確定申告書に記載された各収入金額は別表2−1の各年分の各「収入金額計」欄のまる1欄記載のとおりであり、また、本件各確定申告書に添付された本件各収支内訳書の個別記載欄に記載された売上先及び売上金額等は別表2−1の各年分の各「収入金額の明細」欄のまる1欄記載のとおりである。
 請求人は、消費税の課税標準額を所得税の収入金額に基づいて申告しており、各課税期間の消費税等の各確定申告書に記載された課税標準額等は別表1−2の各課税期間の各「確定申告」欄記載のとおりである。なお、請求人は、消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》の規定の適用を受けている。
 また、請求人は、各年分の収入金額及び各課税期間における課税売上高について、売上金が本件各口座へ振り込まれた日を基準に算定している(以下、この算定方法を「現金主義」という。)。
F N社はP社に商号変更した。
G 請求人は、本件事業で使用する○○のエンジン交換を各年分においては、行っていない。
H 請求人の各年分における総所得金額及び所得控除額は、別表2−1の各年分の各「総所得金額(事業所得の金額)」欄及び「所得から差し引かれる金額」欄記載のとおりである。
(ハ) 結論
A 収入について
(A) 請求人は、上記(ロ)B及びCのとおり、各年分において、出面帳に毎日の業務及び売上金額等を記載し、また、預金通帳で入金状況をチェックして、その入金状況を更に出面帳に記すなどし、日頃から収入の管理に努めていたことからすると、請求人は確定申告書作成時点で、自己の収入金額を正しく把握していたものと認められる。また、そもそも、本件事業には現金入金はないのであるから、正確な収入金額は出面帳及び本件各口座の預金通帳を見れば容易に計算できたものであり、この点は請求人も争わない。
(B) ところが、請求人は、平成16年分及び平成18年分から平成22年分までの各収支内訳書において、別表2−1の各年分の「収入金額の明細」欄記載のとおり、各収支内訳書の「上記以外の売上先」欄のみ約300万円から約600万円を過少に記載して申告している(以下「本件各過少申告行為」という。)。上記(A)のとおり、請求人は収入金額を正確に把握していたことからすると、収支内訳書に記載した収入金額が300万円以上も少なければ、その誤りに気づくのが通常であるし、これに加えて、平成17年分については、上記(ロ)E及び別表2−1の平成17年分の「収入金額の明細」欄記載のとおり、現金主義によって計算していたことから収入の計上時期を誤ってはいるものの集計違算なく収入金額を記載していること、また、請求人は本件過少申告行為によって、収支内訳書の「上記以外の売上先」欄の収入金額を正確な収入金額に比し常に300万円以上も下回って計上している一方で、収支内訳書の個別記載欄記載の収入金額の開差は最大で25万円程度であり、年によってはむしろ過大に記載していること等も併せ鑑みると、本件過少申告行為の原因が単なる計算誤りであるとは考えられない。さらに、請求人は、本件調査の際には、本件各口座への売上金の振込額と本件各確定申告書記載の収入金額の開差についても、調査当初において、飲酒しながら作成していたから分からないなどと曖昧な説明に終始していた。
 上記事情を併せ考えると、請求人は、自己の収入金額を正しく認識していながら、平成17年分を除き、平成16年分から平成22年分までほぼ連続して作為的に収入金額を過少に記載した各確定申告書及び各収支内訳書を提出して総額約2,500万円もの収入を意図的に申告せず、更には本件調査当初において曖昧な説明に終始して、本件各過少申告行為における過少申告の意図を隠そうとしていたものと認められる。
 とすると、本件各過少申告行為は、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上で行われたものといえるから、上記(イ)の重加算税の賦課要件を満たすと認めるのが相当である。
(C) なお、請求人は、平成17年分の収支内訳書の「上記以外の売上先」欄の収入金額も過少に記載しているが、請求人は現金主義によって収入金額を計算しており、この計算方法を前提とすると、別表2−1の平成17年分の「収入金額の明細」欄記載のとおり、平成17年分の収支内訳書の「上記以外の売上先」欄記載の収入金額と本件各口座への振込額は合致することから、請求人に当初から所得を過少に申告する意図は認められず、平成17年分については上記(イ)の重加算税の賦課要件を満たさない。
B 必要経費について
 請求人は、帳票類を適切に保管せず、かつ、帳票類によらずに必要経費の額を申告しているのであるが、本件本人所得率を基に算出した必要経費の額(修正申告における必要経費の額)は、平成16年分から平成18年分までについては申告額を下回るものの、平成19年分から平成22年分までについては申告額を上回っており、かかる必要経費の額の動きを見ると、特段、請求人において必要経費を過大に計上しようとした意図を推認することはできず、また、他に必要経費につき、請求人に同意図を認めるに足りる証拠もない。
 この点、原処分庁は、上記(4)ロ(イ)Aのとおり、請求人が、所得金額を所得控除額よりも少なく申告することで所得税が賦課されるのを回避しようとしていたとし、同事実を前提に、収入及び必要経費の双方につき過少申告の意図があるとして必要経費についても重加算税の賦課要件が満たされる旨主張するが、請求人が各年分において、所得控除額よりも少ない所得金額を申告してきた事実のみをもって、必要経費に関する過少申告の意図を認めることはできない。
 よって、必要経費部分に関する請求人の過少申告行為は、上記(イ)の重加算税の賦課要件を満たさず、この点に関する原処分庁の主張は理由がない。
C 重加算税と過少申告加算税の対象額
(A) 原処分庁は、平成19年分の収入金額について、N社とP社を別会社として集計した上で、N社からの収入金額を重加算税の対象とし、他方でP社からの収入金額については過少申告加算税の対象としている。しかしながら、上記(ロ)Fのとおり、N社とP社は同一会社であるから、N社からの収入金額はP社の収入金額に含めるべきである。また、P社は請求人が確定申告の本件各収支内訳書において個別記載欄に記載した会社であり、個別記載欄における記載について請求人に過少申告の意図を認めることはできないから、請求人のこの部分に係る過少申告行為について上記(イ)の重加算税の賦課要件を満たしているとは認められない。したがって同社に係る収入金額は別表2−2の平成19年分の「P社」欄のまる7欄記載のとおり過少申告加算税の対象とし、また、同表の平成19年分の「上記以外の売上」欄のまる6欄記載のとおり、N社名義で入金された売上金額分は重加算税の対象から差し引くのが相当である。
(B) 以上のとおり、上記A及びBを踏まえ、さらに上記(A)の点を勘案すると、請求人の各年分の所得税に係る重加算税及び過少申告加算税の対象額は別表2−2の各年分の「事業所得の金額」欄の「審判所認定額」欄のまる6欄及びまる7欄記載のとおりとなる。
D その他の請求人の主張について
 請求人は、平成20年分から平成22年分までの所得税に係る重加算税の各賦課決定処分については、過少申告加算税のみが課されるべきであるとし、さらに、同過少申告加算税額は、本件本人所得率に基づく各修正申告額ではなく、本件車両修繕費を考慮した本人所得率を基に算出した所得金額を基準に計算すべきであるから、上記年分の所得税に係る重加算税の各賦課決定処分の一部を取り消すべきと主張する。
 しかしながら、請求人の平成20年分から平成22年分までの一部の収入に対する行為が重加算税の賦課要件を満たすことは上記Aのとおりである。さらに、税法上、申告納税制度を採る所得税の納税義務者において、修正申告を含む自らの申告に係る税額が過大であるとしてこれを是正するためには、法定の期間内に法定の手続である更正の請求(通則法第23条)によることが必要とされており、本来、納税義務者による自らの申告に係る税額の是正は専ら更正の請求によって図られるべきであるから、修正申告額の過大を理由として賦課決定処分のみを争うことはできないと解すべきである。したがって、修正申告額の過大のみを理由に平成20年分から平成22年分までの所得税に係る重加算税の各賦課決定処分の一部の取消しを求めることはできず、また、そもそも請求人が本件本人所得率算出に当たって考慮すべきという本件車両修繕費は、上記(ロ)Gのとおり、各年分において発生していない必要経費であり、そのような必要経費を本人所得率の算出において考慮できないことは論を待たず、請求人の主張はその前提を欠き理由がない。
ハ 本件所得税各賦課決定処分の適法性について
(イ) 平成16年分及び平成18年分から平成22年分までの所得税に係る重加算税の各賦課決定処分について
 通則法第70条第5項は、偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れた国税についての更正決定等は、更正決定等に係る国税の法定申告期限又は納税義務の成立の日から7年を経過する日まで、することができる旨規定しているところ、平成16年分及び平成18年分から平成22年分までにおける本件各過少申告行為は、上記ロ(ハ)Aのとおり、重加算税の賦課要件を満たし、また、「偽りその他不正の行為」にも該当するから、平成16年分及び平成18年分から平成22年分までの所得税に係る重加算税の各賦課決定処分は、通則法第70条の規定する期間制限内に行われたものと認められる。
 そして、本件各所得税修正申告書の提出により納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうち、上記ロ(ハ)Bの確定申告における必要経費の額と修正申告における必要経費の額の開差に係る部分、及び、上記ロ(ハ)C(A)の平成19年分におけるN社からの収入金額に係る部分については、重加算税の対象として計算することはできない。
 そこで、当審判所において重加算税の対象額を計算すると、別表2−2の各年分の「事業所得の金額」欄の「審判所認定額」欄のまる6欄記載のとおりとなり、また、過少申告加算税の対象額は、当該部分に通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められるものはないから、別表2−2の各年分の「事業所得の金額」欄の「審判所認定額」欄のまる7欄記載のとおりとなる。
 以上に基づき、平成16年分及び平成18年分から平成22年分までの各年分の重加算税の額を計算すると別表3の上記年分の各「審判所認定額」欄記載のとおりとなる。
 そうすると、平成16年分及び平成18年分の所得税に係る重加算税の各賦課決定処分の額は当審判所の認定した加算税の額を上回るため、いずれもその一部を、それぞれ別紙2及び別紙3のとおり取り消すべきである。また、平成19年分から平成22年分までの所得税に係る重加算税の各賦課決定処分の額は、当審判所の認定した加算税の額と同額か又はこれを下回るため、平成19年分から平成22年分までの所得税に係る重加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。
(ロ) 平成17年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分について
 平成17年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分については、上記ロ(ハ)A(C)のとおり、重加算税の賦課要件を満たさないことから、過少申告加算税が賦課されるべきであったところ、通則法第70条第4項第2号は、課税標準申告書の提出を要しない賦課課税方式による国税に係る賦課決定は、その納税義務の成立の日から5年を経過した日以後においては、することができない旨規定しており、平成17年分の所得税に係る過少申告加算税の賦課決定処分は、平成23年3月15日までになされる必要がある。しかしながら、平成17年分の所得税に係る加算税の賦課決定処分は平成23年9月16日付でなされており、上記の期間制限を徒過しているから、平成17年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。
ニ 平成18年課税期間から平成22年課税期間までの消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分の適法性について
 請求人は、消費税等の確定申告及び修正申告を所得税の各申告に基づいて行っているのであるから、消費税等の申告に関しても、本件各過少申告行為に基づいて過少に申告された額に対応した金額部分については重加算税の賦課要件を満たしていると認められ、この点につき「隠ぺいし、又は仮装した」事実がなかったとする請求人の主張は理由がない。
 また、請求人の消費税等に関する申告につき重加算税の賦課要件が満たされることから、請求人の当該行為は、通則法第70条第5項「偽りその他不正の行為」に該当すると認められ、同項の規定により、更正決定等の期間制限は延長され平成18年課税期間から平成22年課税期間までの消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分は期間制限内に行われたものといえる。
 そこで、当審判所において重加算税対象税額を計算すると、別表4の各課税期間のまる4欄記載のとおりとなり、また、過少申告加算税対象税額は別表4の各課税期間のまる3欄記載のとおりとなる。
 以上に基づき、各課税期間の消費税等に係る加算税の額を計算すると別表5の各課税期間のまる2欄記載のとおりとなる。
 そうすると、平成18年課税期間から平成22年課税期間までの消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分の額は、当審判所が認定した加算税の額と同額か又はこれを下回るため、平成18年課税期間から平成22年課税期間までの消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。
ホ その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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