(平成25年3月4日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、不動産賃貸業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成20年分、平成21年分及び平成22年分の所得税について、請求人が代表取締役を務める法人に対して賃貸物件の管理費として支払った各金員を請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入するなどして各確定申告をしたところ、原処分庁が、当該各金員は必要経費に算入されないなどとして各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該各更正処分等のうち当該各金員が必要経費に算入されないとして課された部分の取消しを、それぞれ求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成20年分、平成21年分及び平成22年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までにそれぞれ申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成24年3月13日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成24年5月10日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

 所得税法第37条《必要経費》第1項は、その年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、不動産所得の総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における不動産所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人の不動産賃貸業について
 請求人は、平成20年から平成22年までの各年(以下「本件各年」という。)において、別表2の順号1ないし5の各建物及びそれらの敷地である一団の土地を所有し、当該各建物及びその一団の土地上の駐車場(以下、これらを併せて「本件各物件」という。)を賃貸していた。
ロ H社について
(イ) H社は、平成17年11月21日、不動産賃貸業及び不動産管理業を目的として設立され、本件各年において、請求人及びその親族が発行済株式の総数を有する法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社である(以下、H社を「本件同族会社」という。)。
(ロ) 本件同族会社の所在地は請求人の住所地と同一である。また、本件同族会社の代表取締役は設立当初から請求人であり、同社の取締役は、平成21年11月1日までは請求人の亡妻J(以下「J」という。)、平成23年11月11日以後は請求人の子K及びLである。
ハ 本件各物件の管理委託料について
 請求人は、本件各年において、本件各物件の管理委託料として、次の(イ)及び(ロ)の各金額を支払うとともに、本件各年分の不動産賃貸業に係る総勘定元帳の「管理料」の勘定科目に、当該各金額をそれぞれ計上した上、いずれも本件各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費(管理費)に算入した。
(イ) 本件同族会社に対する管理委託料として、平成20年分11,428,572円、平成21年分12,000,000円及び平成22年分8,550,000円(以下、これらの各金額を併せて「本件各金員」という。)
(ロ) M社に対する管理委託料として、平成20年分5,079,463円、平成21年分5,626,062円及び平成22年分5,106,531円
ニ 本件各更正処分等について
 原処分庁は、請求人と本件同族会社との間の委託契約に基づく管理業務は、請求人の不動産賃貸業の遂行上必要な業務であるとは認められず、かつ、当該管理業務を履行したとする客観的な証拠資料もないから、本件各金員は請求人の本件各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入されないなどとして、本件各更正処分等をした。
 なお、請求人は、審査請求において、まる1本件各更正処分のうち、本件各金員が不動産所得の金額の計算上必要経費に算入されないとして課された部分(平成20年分の更正処分の全部、並びに平成21年分及び平成22年分の各更正処分の各一部)及びまる2本件各賦課決定処分のうち、まる1に伴う部分(平成20年分及び平成21年分の各賦課決定処分の各全部、並びに平成22年分の賦課決定処分の一部)の取消しを求め、本件各更正処分等について、それ以外の点は争っていない。

トップに戻る

2 争点

(1) 争点1 本件各金員は、請求人の本件各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきであるか否か。
(2) 争点2 本件各金員を請求人の本件各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入しないとした本件各更正処分等に、手続上の瑕疵があるか否か。

トップに戻る

3 主張

(1) 争点1(本件各金員は、請求人の本件各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきであるか否か。)について

イ 原処分庁
 本件各金員は、次の理由から、請求人の本件各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきではない。
(イ) 請求人は、本件各物件の別に締結された当該各物件の管理業務をM社に委託する旨の契約(以下「本件各M社契約」という。)により、当該各物件の管理業務を網羅的にM社に委託しており、同じ業務を本件同族会社に重複して委託する必要性がない。
(ロ) 現に、まる1本件各物件に設置されている管理会社の連絡先を示す看板には、M社の連絡先のみが記載され、本件同族会社の連絡先が記載されていないこと、まる2本件各更正処分等に係る調査において、請求人自身が、本件各物件の管理業務について、本件同族会社が行っている業務はなく、営業日誌や業務日報も作成していない旨を申述していたこと、まる3同調査段階では、請求人から、本件同族会社が本件各物件の管理業務を行ったことを示す資料が一切提示されなかったことからすれば、本件各年において、本件同族会社による本件各物件の管理業務が日常的に行われていたとはいえない。
(ハ) さらに、仮に請求人及びその妻子が本件各物件に係る何らかの業務を行っていたとしても、その一部(後記ロの(ロ)のまる1及びまる2の業務)に係る実費相当額が、請求人個人の本件各年分の不動産所得に係る必要経費に算入されていることからすると、当該業務は、請求人個人又はその家族が行ったものというべきであるから、本件同族会社に対して支払われた本件各金員は、請求人個人の本件各物件の賃貸業務について社会通念上客観的にみて必要な費用であるとはいえない。
ロ 請求人
 本件各金員は、次の理由から、請求人の本件各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである。
(イ) 請求人は、M社に外注委託するだけでは本件各物件の管理を賄えなかったため、当該外注委託を補完する目的で本件同族会社を設立した上、同社との間で本件各物件の管理業務を同社に委託する旨の契約(以下「本件同族会社契約」という。)を締結した。
(ロ) これを受けて、本件同族会社では、本件各年において、同社の代表取締役である請求人並びに同社の取締役であるJ及びJの補助者である請求人の子が、まる1ごみ収集時の立会い、まる2廃棄物の保管・処理、まる3不法駐車車両への対応、まる4本件各物件の各種設備の点検・交換及び修理の依頼・立会い等という日常の管理業務を行ったほか、同社の代表取締役である請求人が、請求人個人を代理して、まる5外部委託業者との打合せ、まる6入居者退去時の内装工事等に係る業者との折衝・工事依頼・立会い等という管理業務を行った。これらのことは、Jが作成した本件同族会社の業務日誌(連絡簿)の記載内容からも、明らかである。
(ハ) 確かに、請求人は、上記(ロ)のまる1及びまる2の管理業務に係る実費相当額を請求人個人が負担した上、請求人の本件各年分の不動産所得に係る必要経費に算入しているが、これらの金額は、請求人が本件各物件の所有者として当然に負担すべき費用である。

(2) 争点2(本件各金員を請求人の本件各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入しないとした本件各更正処分等に、手続上の瑕疵があるか否か。)について

イ 請求人
 請求人は、本件各更正処分等に係る調査において、同調査の担当職員から執ように修正申告のしょうようを受けたが、その際の本件各金員に係る指摘の内容は、請求人の平成16年分ないし平成18年分の所得税に係る前回の調査における指摘の内容と異なるものであった上、この点及びしょうようした額の計算根拠に関する請求人の税務代理人である税理士の質問に対して回答することなく、上記のしょうよう時の指摘の内容とも異なる本件各更正処分等がなされた。このような処分に至る過程は、当該担当職員による修正申告のしょうようの不合理さ及びその内容に重大な誤りがあったことを示すものであり、本件各金員を請求人の本件各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入しないとした本件各更正処分等には手続上の瑕疵があるから、当該各更正処分等のうち当該各金員が必要経費に算入されないとして課された部分は取り消されるべきである。
ロ 原処分庁
 請求人が上記イのとおり主張するように、本件各更正処分等に係る調査において、同調査の担当職員が執ように修正申告をしょうようしたことはなく、また、当該担当職員は、請求人の税務代理人である税理士に対して本件各更正処分等の内容(本件各金員の全額が必要経費にならない理由)の説明もした。その上で、原処分庁は、同調査によって新たに把握した事実関係等を踏まえて本件各更正処分等をしたのであるから、本件各金員を請求人の本件各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入しないとした本件各更正処分等に手続上の瑕疵はない。

トップに戻る

4 判断

(1) 争点1(本件各金員は、請求人の本件各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきであるか否か。)について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人による本件各物件に係る管理委託契約の締結状況
A 請求人は、本件同族会社との間で、平成19年12月31日付の「賃貸不動産管理基本契約書」と題する書面(以下「本件同族会社契約書」という。)を取り交わし、その旨の本件同族会社契約を締結した。
B 本件同族会社契約書には、要旨次のとおり記載されている。
(A) 請求人が本件同族会社に委託する業務の範囲は、まる1建物・構築物・附属設備・敷地の保全・点検、まる2建物・構築物・敷地の清掃・管理・近隣対策、まる3建物・構築物・附属設備の補修業務とする(第2条(業務の範囲))。
(B) 請求人は、上記(A)の業務の対価を本件同族会社に支払う(第3条(管理委託料))。
(C) 本件同族会社が請求人の同意を得て管理業務を実施する上で必要な契約範囲外の費用が生じた場合は、請求人は本件同族会社の請求により直ちにその費用を支払わなければならない(第4条(業務範囲外の費用))。
(D) 本件同族会社契約は、平成20年1月1日から平成25年12月31日までの5年間とする(第8条(契約期間))。
C 請求人は、M社との間で、本件各物件の別に作成された「建物管理業務委託契約書」と題する書面(以下「本件各M社契約書」という。)をそれぞれ取り交わし、その旨の本件各M社契約をそれぞれ締結した。
D 本件各M社契約書には、要旨次のとおり、それぞれ記載されている。
(A) 請求人がM社に委託する管理業務は、まる1入居者選定・審査業務(随時)、まる2契約金、賃料等の請求・集金業務(月1回、随時)、まる3滞納保証業務(随時)、まる424時間緊急対応(随時)、まる5建物巡回外視点検業務(月1回)、まる6建物定期清掃業務(月2回)、まる7苦情処理・折衝業務(随時)、まる8共用部分の管理業務(随時)、まる9鍵の保管業務、まる10各種証明書の発行業務(随時)、まる11更新業務(随時)、まる12損傷査定・工事手配・発注を含む解約・精算業務(随時)、まる13請求人への報告業務(月1回、随時)、まる14保険業務(随時)に限定する(第3条(管理業務の範囲)及び第4条(管理業務の特定)並びに本件各M社契約書の末尾に記載された「管理業務委託内容」)。
(B) 契約期間を平成17年9月1日から平成19年8月31日までの2年間とする。契約期間満了の3か月前までに請求人又はM社から書面で申出がない場合は、本件各M社契約は同一条件で2年間更新されるものとし、それ以降も同様とする(第5条(契約期間・契約更新)等)。
(C) 本件各M社契約に係る管理委託料及び管理登録料(家賃の1か月分)は、上記(A)のまる2の業務(契約金、賃料等の請求・集金業務)に係る請求人への送金時に精算するものとする(第7条(管理費用等))。
E 請求人は、M社との間で、本件各物件の別に作成された「『○○○○システム』覚書」と題する書面をそれぞれ取り交わし、本件各M社契約に追加して、要旨次のとおり合意した。
(A) 賃借人が退去した際の内装工事は、部屋ごとにあらかじめ設定した内装工事価格でM社の指定業者が行い、同社がその代金の全額を支払うものとする(第2条(内装工事))。
(B) 請求人の負担分は、上記(A)の内装工事価格の50パーセントを48か月の月割りとした額を、M社から請求人への賃料等の送金時に差し引いてM社が受領した分とし、送金明細報告書をもってその証とする(第3条(請求人の負担分))。
(ロ) 本件各年におけるM社による本件各物件の管理業務の実施状況
A M社は、本件各物件の設備に故障や破損等が発生した際の、本件各物件の入居者からの連絡窓口になっていた。
B M社は、毎月、本件各物件の入居者から集金した賃料等から同社の管理手数料その他の費用を差し引いた残金を請求人に支払い、その明細を記載した「送金のご案内」と題する書面を作成し、本件同族会社宛に送付した。
C M社の営業担当者は、建物巡回外視点検業務及び共用部分の管理業務として、月に1回、不定期に本件各物件の外周の見回りを行っていたが、当該各業務を担当する特定の従業員はおらず、当該各業務の履行状況に係る記録の保存や請求人への報告をしていなかった。
D M社は、同社の指定業者であるN社に対し、本件各物件に係る入居者退去時の原状回復及びリフォーム工事を発注し、その工事代金をN社に支払うとともに、その代金のうち所定の金額を上記BのM社の管理手数料その他の費用に含めて差し引く旨記載した上記Bの書面を、N社が発行した領収書等を添付して本件同族会社宛に送付した。
(ハ) 本件各年における本件各物件に係る消防・防災設備の点検業務の実施状況
A 本件同族会社は、P社との間で、別表2の順号1ないし4の各物件に係る消防・防災設備の点検に関する契約を、当該各物件ごとにそれぞれ締結した。請求人は、本件同族会社の代表取締役として、当該各契約に基づいて毎年1月の機器点検及び同7月の総合点検が実施される際に立ち会った。
B P社は、上記Aの各点検作業の完了後、「請求書」及び「消防用設備等点検作業報告書」を作成して本件同族会社宛に郵送した。また、P社は、上記Aの各物件について、設備の交換・修理が必要な場合には、「御見積書」を作成して本件同族会社宛に郵送し、同社の了解を得て当該交換・修理作業を行った。
(ニ) 本件各年における本件各物件に係る給湯設備の修理等業務の実施状況
A 本件同族会社は、Q社に対し、年に2、3回程度、本件各物件に係る給湯設備の修理及び取替工事を発注した。
B Q社は、上記Aの工事後、「御請求書」を作成し、本件同族会社宛に送付した。
(ホ) 本件同族会社による本件各物件の管理業務の記録状況
A 請求人は、当審判所に対し、Jが作成した本件同族会社の業務日誌(連絡簿)であるとして、「H社NO2 18年11月15日〜20年9月3日」及び「H社NO.3 20年9月4日〜」とそれぞれ表題の付された2冊のノート(以下、これらを併せて「本件各ノート」という。)を提出した。
B 本件各ノートは、Jが、平成18年11月頃から、平成21年1月頃に体調を崩すまでの間、ほぼ毎月の出来事をほぼ日付順に記載したものである。その主な記載内容は、平成18年11月から平成21年1月までの間における、まる1M社からの連絡事項等(本件各物件に係る入退居及び契約更新の状況、賃料等の収受状況、修理等の実施状況及び入居者からの苦情・要望等)、まる2P社、N社、Q社、その他造園、シルバー人材センター、テレビ及び電気関係の業者からの連絡事項等(本件各物件に係る工事等の実施状況及び費用等)、及びまる3交番や弁護士からの連絡事項等であり、いずれも日付及び相手方を特定した上、個別具体的な出来事が前後矛盾なく記載されている。
C 上記BのとおりのJによる本件各ノートの記載状況、及びそれらの記載内容自体に特に不自然、不合理な点が見当たらないことに加え、上記(ハ)及び(ニ)のとおりの現に本件同族会社が発注した工事等に関する記載が複数含まれていることを併せ考えれば、本件各ノートは、当時、本件同族会社の取締役であったJが、その職務上作成したものであり、基本的には本件同族会社の業務に係る実際の出来事をありのまま記載したものであると認められる。
ロ 検討
(イ) 本件同族会社は本件各物件の管理業務を行っていたか否かについて
 本件同族会社は、本件各年において、上記イの(イ)のとおり、請求人から本件各物件の管理業務の委託を受けて、上記イの(ハ)及び(ニ)のとおり、本件各物件に係る消防・防災設備の点検業務並びに給湯設備の修理及び取替工事の発注を行うなどした事実が認められる。また、上記イの(ロ)のB及びD、同(ハ)のB並びに同(ニ)のBのとおり、M社、N社、P社及びQ社がそれぞれ作成した送金や見積り・請求等に係る書類を本件同族会社宛に送付していた事実からすると、本件同族会社は、M社、N社、P社及びQ社と連絡を取り合い、また、当該各社による管理業務や工事等の実施内容・状況等の報告を受けていたものと認められる。さらに、上記イの(ホ)のB及びCのとおり、本件同族会社は、本件各ノートに記載されたとおり、随時、本件各物件の管理業務や工事等を委託又は依頼した業者等からの連絡等を受け付け、必要な対応等を行っていたものと認められる。
 以上を総合すれば、本件同族会社は、本件各年において、本件同族会社契約書第2条に定められた本件各物件の管理業務(上記イの(イ)のBの(A))を行っていたと認めるのが相当である。
(ロ) 原処分庁の主張について
A 原処分庁は、請求人が本件各物件の管理業務を網羅的にM社に委託しており、同じ業務を本件同族会社に重複して委託する必要性がない旨主張する。
 しかしながら、上記イの(イ)のDの(A)及び同(ハ)のとおり、本件各物件に係る消防・防災設備の点検業務は、M社の管理業務の範囲に含まれておらず、現に本件同族会社がP社に委託してこれを行っていたこと、また、同(ニ)及び(ホ)のとおり、現に本件同族会社が毎年、必要に応じて給湯設備の修理及び取替工事をQ社に自ら発注していたほか、随時、M社等の業者からの連絡等を受け付け、必要な対応等を行っていたものと認められることからすると、請求人が本件各物件の管理業務を網羅的にM社に委託していたとはいえないし、本件同族会社とM社が同じ業務を重複して行っていたとも認められないから、原処分庁の上記主張はその前提を欠くものである。
B 原処分庁は、まる1本件各物件に設置されている管理会社の連絡先を示す看板に、本件同族会社の連絡先が記載されていないこと、まる2本件各更正処分等に係る調査において、請求人自身が、本件各物件の管理業務に係る本件同族会社の業務日報等は作成されていない旨申述したこと、及びまる3同調査段階では、本件同族会社が当該管理業務を行ったことを示す資料が一切提示されなかったことからすれば、本件同族会社が本件各物件の管理業務を日常的に行っていたとはいえない旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ロ)のAのとおり、M社が本件各物件の入居者からの連絡窓口になっており、同(ホ)のとおり、本件各ノートの記載からも、入居者に関する情報のほとんどがM社からの連絡によりもたらされていることからすれば、請求人は、入居者への対応等を要する業務を基本的にはM社に任せていたと認められるから、管理会社の連絡先を示す看板に本件同族会社の連絡先が記載されていなくても、本件同族会社が本件各物件の管理業務を日常的に行っていなかったとはいえない。
 また、上記イの(ロ)のB及びD、同(ハ)のB並びに同(ニ)のBのとおり、本件各更正処分等に係る調査の際には不明であったとしても、当審判所の調査の結果によれば、現に複数の業者が本件各物件の管理業務や工事等の実施に係る書類を本件同族会社宛に送付した事実が認められることに加え、上記イの(ホ)のとおり、本件各更正処分等に係る調査の際には提示されなかったとしても、本件同族会社の管理業務に係る業者等からの連絡事項等を継続的に記録した本件各ノートが現に存在していることをも考慮すると、請求人の同調査時の言動をもって本件同族会社が本件各物件の管理業務を日常的に行っていたことを否定する原処分庁の上記主張は、現時点ではその根拠を欠くに至っている。
C 原処分庁は、仮に請求人及びその妻子が本件各物件に係る何らかの業務を行っていたとしても、その一部(ごみ収集時の立会い及び廃棄物の保管・処理)に係る実費相当額が、請求人個人の本件各年分の不動産所得に係る必要経費に算入されていることからすると、上記の業務は、請求人個人又はその家族が行ったものというべきである旨主張する。
 確かに、当審判所の調査の結果によれば、請求人の本件各年分の総勘定元帳(「雑費」勘定)には、本件各物件のごみ処理等に係る実費相当額が計上され、それらの金額が請求人の本件各年分の不動産所得に係る必要経費に算入されている事実が認められるが、上記イの(イ)のBのとおり、本件同族会社契約書において、請求人が本件同族会社に委託した管理業務に係る費用の負担に関する明確な定めがない以上、請求人が、本件各物件の管理業務を本件同族会社に委託しつつ、当該管理業務の一部に係る実費相当額を自ら負担することもあり得ないことではないから、原処分庁が主張するとおりの事情があることをもって、本件同族会社が本件各物件の管理業務を行っていたことを否定することはできない。
D 以上のとおりであるから、原処分庁の主張には、いずれも理由がない。
ハ 結論
 以上によれば、請求人が本件同族会社に支払った本件各金員は、いずれも本件同族会社が行った本件各物件の管理業務の対価であると認められるから、本件各金員は、請求人の本件各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである。

(2) 争点2(本件各金員を請求人の本件各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入しないとした本件各更正処分等に、手続上の瑕疵があるか否か。)について

 請求人は、上記1の(4)のニ及び上記3の(2)のイのとおり、まる1本件各更正処分のうち、本件各金員が不動産所得の金額の計算上必要経費に算入されないとして課された部分(平成20年分の更正処分の全部、並びに平成21年分及び平成22年分の各更正処分の各一部)及びまる2本件各賦課決定処分のうち、まる1に伴う部分(平成20年分及び平成21年分の各賦課決定処分の各全部、並びに平成22年分の賦課決定処分の一部)の取消しを求める理由の一つとして、争点2に関する主張をするが、かかる請求人の審査請求の段階における主張の仕方(争い方)を前提とすると、上記(1)のハのとおり、争点1に関し、本件各金員は、請求人の本件各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきであるとの請求人の主張に沿う結論が出た以上、当審判所は、争点2に関する判断を要しないものと認める。

(3) 本件各更正処分について

 上記(1)及び(2)の判断を踏まえて請求人の本件各年分の不動産所得の金額を計算すると、別表3の「審判所認定額」欄のとおりであり、これを前提とすると、請求人の本件各年分の総所得金額及び納付すべき税額は、それぞれ別表1の「審判所認定額」欄のとおりとなるところ、これらの額は、いずれも本件各更正処分の額を下回る。
 したがって、本件各更正処分のうち、平成20年分についてはその全部を取り消し、平成21年分及び平成22年分については、別紙1及び別紙2の「取消額等計算書」のとおり、いずれもその一部を取り消すべきである。

(4) 本件各賦課決定処分について

 上記(3)のとおり、平成20年分の所得税の更正処分は、その全部を取り消すべきであるから、これに伴って同年分の所得税に係る過少申告加算税の賦課決定処分についてもその全部を取り消すべきである。
 また、平成21年分の所得税の更正処分は、その一部を取り消すべきであり、これを前提とすると、同年分の所得税に係る過少申告加算税の基礎となる税額は○○○○円であるから、これに伴って同年分の所得税に係る過少申告加算税の賦課決定処分はその全部を取り消すべきである。
 そして、平成22年分の所得税の更正処分は、その一部を取り消すべきであり、これを前提とすると、同年分の所得税に係る過少申告加算税の基礎となる税額は○○○○円であり、かつ、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、当該過少申告加算税の額は、別表1の「審判所認定額」欄のとおりとなるところ、この額は、同年分の賦課決定処分の額を下回る。したがって、平成22年分の所得税に係る過少申告加算税の賦課決定処分は、別紙2「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る

トップに戻る