(平成25年3月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、溶接業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税並びに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、所得税の青色申告の承認の取消処分を行うとともに推計課税による各更正処分等を行ったのに対し、請求人が、事業所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額等について、原処分庁が算定した金額に誤りがあるなどとして、各更正処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 平成20年分、平成21年分及び平成22年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について、審査請求(平成24年7月12日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。
 以下、平成24年3月5日付でされた本件各年分の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を、それぞれ「本件所得税各更正処分」及び「本件所得税各賦課決定処分」といい、本件所得税各更正処分と本件所得税各賦課決定処分を併せて「本件所得税各更正処分等」という。
ロ 平成20年1月1日から同年12月31日まで、平成21年1月1日から同年12月31日まで及び平成22年1月1日から同年12月31日までの各課税期間(以下、順次「平成20年課税期間」、「平成21年課税期間」及び「平成22年課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等について、審査請求(平成24年7月12日請求)に至る経緯及び内容は、別表2のとおりである。
 以下、平成24年3月5日付でされた本件各課税期間の消費税等の各更正処分を「本件消費税等各更正処分」という。

(3) 関係法令

 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定している。

(4) 基礎事実

 次の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人の概要
(イ) 請求人は、平成20年、平成21年及び平成22年(以下、これらを併せて「本件各年」という。)において、「f社」の屋号で溶接業を営み、g社から溶接工事を請け負っていた。
(ロ) 請求人は、本件各年において、g社から、毎月、前月16日から当月15日までの間の工事代金の額を記載した「平成 年 月度 工事代金支払明細書」と題する書面(様式は別紙7のとおりである。以下、g社が毎月この様式で作成し、請求人に交付した書面を「本件各支払明細書」という。)の交付を受け、別表3のとおり、「請求年月日」欄の各日付で、本件各支払明細書の期間(別表3の「請求期間」欄の各期間)の工事代金の額(別表3の「請求金額」欄の各金額)をg社に請求し、事業所得に係る収入を得ていた。
 なお、上記収入を除き、請求人には、本件各年において事業所得に係る収入はない。
(ハ) 請求人は、本件各課税期間の消費税等に係る基準期間(消費税法第2条《定義》第1項第14号に規定する期間をいう。)の課税売上高について、平成18年は約○○○○円、平成19年は約○○○○円、平成20年は約○○○○円として確定申告をしており、同人は、本件各課税期間において、消費税法第5条《納税義務者》第1項及び地方税法第72条の78《地方消費税の納税義務者等》第1項の各規定に基づく消費税等の納税義務者であった。
 また、請求人は、平成9年3月14日、当時の納税地を所轄するP税務署長に対し、消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項の規定の適用を受ける旨の届出書(消費税簡易課税制度選択届出書)を提出した。
ロ 原処分に至る経緯
(イ) 原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)の担当者(以下「本件調査担当者」という。)は、平成23年8月4日、請求人の自宅に臨場して、本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税等の調査を開始したが、当日、請求人は不在であったため、自宅における調査はできなかった。
 その後、本件調査担当者は、平成23年12月22日までの間、20回にわたり、請求人に対し、電話又は連絡表を差し置くなどして、調査への協力依頼及び帳簿書類の提示要求をしたが、請求人は、多忙又は体調不良を理由としてこれに応じず、青色申告書の提出の承認を受けた者(以下「青色申告者」という。)が備え付けていなければならない現金出納帳その他の帳簿書類を本件調査担当者に提示しなかった。
(ロ) 原処分庁は、請求人が青色申告者が備え付けていなければならない現金出納帳その他の帳簿書類を提示しなかったことを理由として、平成24年3月5日付で平成20年分以後の青色申告の承認を取り消すとともに、本件各年に請求人がg社に請求した工事代金の合計額(別表3の本件各年の「合計」欄の各金額)を基礎として推計の方法により事業所得の金額を計算し、本件所得税各更正処分等及び本件消費税等各更正処分を行った。

(5) 争点

  1. 争点1 本件各年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額及び本件各課税期間の消費税の課税標準額は幾らか。
  2. 争点2 原処分は信義誠実の原則に反し、違法であるか否か。

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2 主張

(1) 争点1(本件各年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額及び本件各課税期間の消費税の課税標準額は幾らか。)

原処分庁 請求人
 本件各年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額及び本件各課税期間の消費税の課税標準額は、次のとおり、別表4の本件各年分の「事業所得に係る総収入金額」欄の各金額及び別表4の本件各課税期間の「消費税の課税標準額」欄の各金額である。  本件各年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額及び本件各課税期間の消費税の課税標準額は、次のとおり、別表5の本件各年分の「事業所得に係る総収入金額」欄の各金額及び別表5の本件各課税期間の「消費税の課税標準額」欄の各金額である。
イ 上記1の(4)のイの(ロ)のとおり、請求人は、g社から本件各支払明細書を受け取った後、本件各支払明細書に記載された工事代金をg社に請求していたことからすると、請求人は、g社との間で、g社から本件各支払明細書を受け取った後、g社に工事代金を請求できる旨の契約を締結していたと認められるから、請求人がg社に請求した時に収入すべき権利が確定したといえる。
 そうすると、本件各年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額は、その年中に請求人がg社に請求した役務の提供に係る対価の合計額であり、具体的には別表3の本件各年の「合計」欄の各金額となる。
イ 本件各年において、請求人は、g社に対し、毎月、前月の16日から当月の15日までの請求人及びその従業員の実働時間に対応する対価の合計額を請求していたが、請求人が行っていた溶接工事は、その溶接ごとに当該役務の提供が完了するから、各年の1月に請求した前年の12月16日から同月31日までの請求人及びその従業員の労働時間に対応する対価はその年の収入金額ではなく、前年の収入金額になる。
 したがって、本件各年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額は、本件各年の請求人及びその従業員の労働時間に対応する対価の合計額であり、具体的には、別表6の本件各年の「合計」欄の各金額となる。
ロ また、本件各課税期間の消費税の課税標準額は、本件各年にg社に請求した役務の提供に係る対価の合計額(本件各年分の事業所得に係る総収入金額)に105分の100を乗じて算出した金額となる。 ロ また、本件各課税期間の消費税の課税標準額は、本件各年の請求人及びその従業員の労働時間に対応する対価の合計額(本件各年分の事業所得に係る総収入金額)に105分の100を乗じて算出した金額となる。

(2) 争点2(原処分は信義誠実の原則に反し、違法であるか否か。)

請求人 原処分庁
 仮に、所得税における事業所得の金額の計算について、理論的には原処分庁が主張する計算方法が正しいとしても、請求人は、平成14年頃、当時の納税地を所轄していたD税務署の所得税及び消費税等の調査において、その調査担当者から、「総収入金額は各年の1月1日から12月31日までの労働時間に対応する金額を事業所得の金額の計算上総収入金額に算入するのが正しい。」旨の指導を受け、それ以来、当該指導を信じて申告してきたのだから、原処分のうち当該指導に反する部分は、信義誠実の原則に反し、違法である。  請求人は、平成14年頃の請求人に対する調査において、その調査担当者から指導を受けたことにより、当該指導を信じて申告してきた旨主張するが、調査担当者が請求人の主張する内容の指導を行った事実は認められず、また、税務官庁が当該内容の公的見解を表示した事実も認められないから、請求人の主張には理由がない。

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3 判断

(1) 争点1(本件各年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額及び本件各課税期間の消費税の課税標準額は幾らか。)

イ 法令解釈
 所得税法は、一暦年を単位としてその期間ごとに課税所得を計算し課税を行うこととしているのであるが、同法第36条第1項が上記期間中の総収入金額の計算について「収入すべき金額」によるとしていることから考えると、同法は、現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして上記権利確定の時期の属する年分の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用しているものと解される。
 そして、上記にいう収入の原因となる権利が確定する時期はそれぞれの権利の特質を考慮し決定されるべきものであるが、物の引渡しを要しない請負契約による報酬請求権は、特約又は慣習がない限り、その約した役務の提供が完了した時に発生、確定すると解されるから、当該請負契約に基づく報酬請求権の収入すべき時期は、特約又は慣習がない限り、その役務の提供を完了した日とするのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人とg社との間の請負契約の内容
 上記1の(4)のイのとおり、請求人は、本件各年において、g社から溶接工事を請け負っていたところ、請求人とg社との間で作成された平成22年4月15日付の工事請負基本契約書(別紙8の内容の契約書。以下「本件工事請負基本契約書」という。)及びg社代表取締役であるhの当審判所に対する答述から、請求人とg社との間の請負契約(以下「本件請負契約」という。)は、g社がi社から請け負った船舶の溶接及び鉄工工事について、請求人がその下請となり、i社の造船所内で、請求人及びその従業員が、g社から指示されたブロックの溶接等を行うというものであったことが認められる。
(ロ) 報酬金額の算出及び支払等
 本件各支払明細書、g社が毎月作成した前月16日から当月15日までの期間に係る請求人及びその従業員各人ごとの作業従事時間を記載した書面(以下「本件従事時間内訳書」という。)、j銀行k支店の請求人名義の普通預金口座(番号○○○○。以下「本件請求人口座」という。)に係る取引履歴明細表(以下「本件取引履歴明細表」という。)及びhの当審判所に対する答述から、まる1g社は、本件従事時間内訳書を作成し、請求人に対して支払う報酬を、1時間当たりの単価に、前月16日から当月15日までの期間における請求人及びその従業員の作業時間数を乗じて算出していたこと、まる2g社は、毎月末に上記まる1のとおり算出した前月16日から当月15日までの期間に係る報酬額から請求人及びその従業員に提供した弁当代並びに振込手数料を差し引いた金額を本件請求人口座に振り込む方法で請求人に支払っていたこと、また、まる3既に完了した溶接等の報酬については、いつでも請求人から支払を求めることができたことが認められる。
 本件各支払明細書のうち「平成20年1月度」、「平成21年1月度」、「平成22年1月度」及び「平成23年1月度」(いずれも前年12月16日から当年1月15日までの期間)に係るもの並びにこれらに対応する本件従事時間内訳書から、平成19年12月16日から同月31日まで、平成20年12月16日から同月31日まで、平成21年12月16日から同月31日まで及び平成22年12月16日から同月31日までの各期間に係る請求人及びその従業員の日勤(午前8時から始まる作業をいう。)、夜勤(午後5時から始まる作業をいう。)の作業時間数及び単価は、それぞれ別表7から別表10までの「各人の作業時間」欄及び「時間当たり単価」欄のとおりであったこと、そして、これらに基づき算定した上記各期間に係る報酬金額の合計額(税込み)は、それぞれ別表7から別表10までの「報酬金額の合計額(税込み)」欄のとおりであったことが認められる。
(ハ) 交通費等の名目の支払
 本件工事請負基本契約書、本件各支払明細書、本件取引履歴明細表及びhの当審判所に対する答述から、g社は、遠隔地から仕事に来た請求人の従業員について、「交通費」の名目でJRの片道運賃に相当する金額及び「車中」の名目で移動に要する時間分の日当に相当する金額を請求人に支払っていたこと、また、当該従業員に対しては、通常g社の寮を提供していたが、満室等のために当該従業員が当該寮に入寮できなかった場合には、その代わりに「宿泊費」の名目で入寮できなかった者1人につき1か月当たり定額60,000円を請求人に支払っていたこと、そして、当該各支払は、本件各支払明細書に記載され、毎月末の報酬金額の支払の際に併せて支払われていたことが認められる。
 なお、「平成20年1月度」、「平成21年1月度」、「平成22年1月度」及び「平成23年1月度」(いずれも前年12月16日から当年1月15日までの期間)においては、g社から、請求人に対し、平成20年1月31日に「平成20年1月度」の宿泊費60,000円が支払われたことが認められる。
ハ 判断
(イ) 争点について
A 請負契約に基づく報酬請求権の収入すべき時期
 上記ロの(イ)のとおり、本件請負契約は、i社の造船所内で、請求人及びその従業員が、g社から指示されたブロックの溶接等を行うというものであるから、物の引渡しを要しない役務の提供を内容とする請負契約であると認められる。
 そして、上記ロの(ロ)のとおり、g社は、請求人の報酬を日々の作業時間から算出していたこと、また、請求人は既に完了した溶接等の報酬の支払を随時請求することができたことからすれば、請求人とg社は、日々の役務の提供が完了するごとに報酬請求権が発生、確定する旨の請負契約を締結していたと認めるのが相当である。
 そうすると、本件請負契約に基づく報酬請求権の収入すべき時期は、その役務の提供が完了した日の属する年分となり、本件各年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額は、それぞれ暦年の1月1日から12月31日までになされた役務の提供に係る対価の合計額となる。
B 本件各年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額
 上記Aから、本件各年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額は、原処分庁主張額からまる1前年の12月16日から同月31日までの役務の提供に係る対価の額を減算し、まる2当年の12月16日から同月31日までの役務の提供に係る対価の額を加算した額となる。
 なお、上記ロの(ハ)のとおり、交通費、車中及び宿泊費名目で請求人に対して支払われた金員は、片道の交通費相当額、日当相当額及び入寮の代わりに一定額を支払うとの趣旨のものであり、その支払を受けた年分の総収入金額に算入するべきものと認められるので、上記算定には影響しない。
 以上から、本件各年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額は、別表11の本件各年分の「審判所認定額」欄の「事業所得に係る総収入金額」欄のとおり、平成20年分が○○○○円、平成21年分が○○○○円、平成22年分が○○○○円となる。
C 本件各課税期間の消費税の課税標準額
 本件各課税期間の消費税の課税標準額は、上記Bの本件各年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額にそれぞれ105分の100を乗じて、国税通則法第118条《国税の課税標準の端数計算等》第1項の規定に基づき1,000円未満の端数を切り捨てた金額であり、別表12の本件各課税期間の「審判所認定額」欄の「消費税の課税標準額」欄のとおり、平成20年課税期間が○○○○円、平成21年課税期間が○○○○円、平成22年課税期間が○○○○円となる。
(ロ) 原処分庁の主張について
 原処分庁は、上記2の(1)の「原処分庁」欄のイのとおり、請求人がg社に請求した時に収入すべき権利が確定したなどと主張する。
 しかしながら、上記(イ)のAのとおり、請求人とg社は、本件請負契約による収入の原因となる報酬請求権について、請求人及びその従業員による日々の役務の提供が完了するごとに確定する旨の請負契約を締結していたと認められるから、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

(2) 争点2(原処分は信義誠実の原則に反し、違法であるか否か。)

 上記2の(2)の「請求人」欄のとおり、請求人の主張は、原処分のうち、本件各年分の事業所得に係る総収入金額として原処分庁が認定した額(別表4の本件各年分の「事業所得に係る総収入金額」欄の各金額)が請求人主張額(別表5の本件各年分の「事業所得に係る総収入金額」欄の各金額)を超える金額に対応する部分については、信義誠実の原則に反し違法であるというものであるところ、上記(1)のハの(イ)のB及びCのとおり、当審判所が認定した本件各年分の事業所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額は、平成20年分が○○○○円、平成21年分が○○○○円、平成22年分が○○○○円、本件各課税期間の消費税の課税標準額は、平成20年課税期間が○○○○円、平成21年課税期間が○○○○円、平成22年課税期間が○○○○円となり、当該各金額は、いずれの年分及び課税期間も原処分庁主張額を下回り、請求人主張額と同額となる。
 そうすると、請求人が取消しを求める部分は、争点2について判断するまでもなく、いずれも取り消すことになる。

(3) 本件所得税各更正処分

 請求人は、本件各年分の事業所得の金額を推計の方法により算定することについては争っていないところ、当審判所が本件各年分の事業所得の金額を算定すると、次のとおりである。
イ 推計の必要性
 上記1の(4)のロの(イ)のとおり、請求人は、本件調査において、多忙又は体調不良を理由として調査への協力依頼及び帳簿書類の提示要求に応じず、現金出納帳その他の帳簿書類を本件調査担当者に提示しなかったことから、原処分庁は、本件各年分の事業所得の金額を実額計算の方法により算定することができず、これを推計の方法により算定する必要性があったものと認められる。
 また、請求人は、当審判所に対しても、本件各年分の事業所得の金額の計算に必要な資料を提出しないから、当審判所においても、本件各年分の事業所得の金額を推計の方法により算定せざるを得ない。
ロ 推計の合理性
(イ) 原処分庁が採用した推計方法
 原処分関係資料によれば、原処分庁は、本件各年分の事業所得の金額を、請求人の収入先であるg社を調査して把握した総収入金額を基礎として、青色申告者で、請求人と業種、業態の類似する同規模程度の同業者(以下「類似同業者」という。)を選定し、その平均所得率(青色申告者に限り認められている特典を受けないものとして計算し直した所得金額の総収入金額に対する割合の平均値をいう。以下同じ。)を乗じて、別表11の本件各年分の「原処分庁主張額」欄の「事業所得の金額」欄の各金額のとおり算定したこと、類似同業者の抽出に当たり、まる1m県内又はn県内に事業所を有して1年間事業を継続して営み、青色申告書により所得税の確定申告書を提出しており、その年の所得税について不服申立て又は訴訟が係属中でないこと、まる2船舶の溶接業を営んでいる事業者で、人件費があり、仕入れがないなど業種・業態が請求人と類似すること、まる3その年の売上(収入)金額が請求人の0.5倍以上2倍以内であるなど事業規模が請求人と類似することという基準を設け、当該基準に該当する同業者を機械的に抽出したことが認められるところ、原処分庁が採用した類似性の基準に基づく上記推計方法は、当審判所においても、合理性を有するものと認められる。
(ロ) 事業所得の金額
 上記(イ)のとおり、原処分庁が採用した推計方法は合理性を有するものと認められるところ、上記(1)のハの(イ)のBのとおり、推計の基礎となる本件各年分の総収入金額は、平成20年分が○○○○円、平成21年分が○○○○円、平成22年分が○○○○円となる。
 そこで、当審判所が、原処分関係資料に基づき、上記(イ)の抽出基準に従って本件各年分における請求人の類似同業者を抽出してその平均所得率を算定すると、別表11の本件各年分の「審判所認定額」欄の「類似同業者の平均所得率」欄の各割合となり、上記各総収入金額に当該各割合を乗じて本件各年分の事業所得の金額を算定すると、別表11の本件各年分の「審判所認定額」欄の「事業所得の金額」欄のとおり、平成20年分が○○○○円、平成21年分が○○○○円、平成22年分が○○○○円となる。
ハ 総所得金額
 上記ロの(ロ)のとおり、本件各年分の事業所得の金額は、平成20年分が○○○○円、平成21年分が○○○○円、平成22年分が○○○○円となり、請求人にはその他の所得金額はないから、上記各金額が本件各年分の総所得金額となる。
 そうすると、本件各年分の総所得金額は、いずれも本件所得税各更正処分のそれを下回るので、本件各更正処分は、いずれもその一部を別紙1から別紙3までの「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(4) 本件所得税各賦課決定処分

 上記(3)のハのとおり、本件所得税各更正処分の一部がそれぞれ取り消されることに伴い、本件各年分の所得税に係る過少申告加算税の基礎となる税額は、平成20年分が○○○○円、平成21年分が○○○○円、平成22年分が○○○○円となるところ、これらの税額の計算の基礎となった事実が本件所得税各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があると認められるものがある場合に該当しないから、同条第1項の規定に基づいて本件各年分の所得税に係る過少申告加算税の額を計算すると、平成20年分が○○○○円、平成21年分が○○○○円、平成22年分が○○○○円となる。
 そうすると、平成22年分の所得税に係る過少申告加算税の額は、平成22年分の所得税に係る過少申告加算税の賦課決定処分のそれと同額となるので、当該賦課決定処分は適法であるが、平成20年分及び平成21年分の所得税に係る過少申告加算税の額は、当該各年分の所得税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分のそれらを下回るので、当該各賦課決定処分は、いずれもその一部を別紙1及び別紙2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(5) 本件消費税等各更正処分

イ 課税標準額
 上記(1)のハの(イ)のCのとおり、本件各課税期間の消費税の課税標準額は、平成20年課税期間が○○○○円、平成21年課税期間が○○○○円、平成22年課税期間が○○○○円となる。
ロ 課税標準額に対する消費税額
 上記イの各課税標準額に対する消費税額は、上記イの各課税標準額にそれぞれ100分の4を乗じて計算した金額であり、別表12の本件各課税期間の「審判所認定額」欄の「消費税額」欄のとおり、平成20年課税期間が○○○○円、平成21年課税期間が○○○○円、平成22年課税期間が○○○○円となる。
ハ 控除対象仕入税額
 上記1の(4)のイの(ハ)のとおり、請求人は、本件各課税期間において、消費税法第37条第1項の規定の適用を受ける旨の届出書を提出した者であり、平成20年課税期間及び平成21年課税期間に係る各基準期間の課税売上高(同法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第2項に規定する課税売上高をいう。)は、上記1の(4)のイの(ハ)のとおり、平成18年は約○○○○円、平成19年は約○○○○円であり、また、平成22年課税期間に係る基準期間の課税売上高は、上記イの平成20年課税期間の課税標準額(○○○○円)に照らし、いずれも50,000,000円以下と認められるから、同法第37条第1項の規定の適用を受ける課税事業者と認められる。
 そして、上記(1)のハの(イ)のAのとおり、請求人の営む溶接業は、加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業であり、消費税法施行令第57条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第5項第5号に規定する第四種事業に該当すると認められるから、消費税法第37条第1項の規定に基づき、上記ロの各消費税額の100分の60に相当する金額が控除対象仕入税額となる。
 そうすると、本件各課税期間の控除対象仕入税額は、別表12の本件各課税期間の「審判所認定額」欄の「仕入税額控除の額」欄のとおり、平成20年課税期間が○○○○円、平成21年課税期間が○○○○円、平成22年課税期間が○○○○円となる。
ニ 納付すべき消費税等の額
 上記ロ及びハに基づき、本件各課税期間の納付すべき消費税額及び地方消費税額をそれぞれ算定すると、別表12の本件各課税期間の「審判所認定額」欄の「納付すべき消費税額」欄及び「納付すべき地方消費税額」欄のとおり、平成20年課税期間が○○○○円及び○○○○円、平成21年課税期間が○○○○円及び○○○○円、平成22年課税期間が○○○○円及び○○○○円となり、これらの金額は、いずれも本件消費税等各更正処分のそれらを下回るので、本件消費税等各更正処分は、いずれもその一部を別紙4から別紙6までの「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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