(平成25年2月28日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人L(以下「請求人」という。)が平成17年中及び平成19年中に複数回にわたり母親から現金の交付を受けたことについて、母親からの贈与により取得したものであるとして、平成17年分及び平成19年分の贈与税の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該現金は母親からの贈与により取得したものではないとして、当該各処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成24年3月8日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。

(3) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人及び関係者について
(イ) 請求人は、○○郵便局長であったZ(以下「父Z」という。)及びW(以下「母W」という。)の二女である。
(ロ) 父Zは平成14年12月○日に死亡し(以下、この相続を「父Z相続」といい、父Z相続に係る相続税を「父Z相続税」という。)、母Wは平成20年4月○日に死亡した(以下、この相続を「母W相続」といい、母W相続に係る相続税を「母W相続税」という。)。
ロ 母W相続税の更正処分等について
(イ) r税務署長は、母W相続税について、K1国税局長所属の調査担当職員の調査に基づき、母Wの請求人に対する預け金等が申告漏れであったとして、平成23年5月24日付で、請求人に対し、相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした(以下、これらの処分を併せて「母W相続税各処分」という。)。
(ロ) 請求人は、平成23年6月13日、母W相続税各処分に不服があるとして、相続税法附則第3項ただし書の規定に基づき、K2国税局長に対して異議申立てをした。
(ハ) K2国税局長は、上記(ロ)の異議申立てに対し、平成23年9月9日付で、要旨次の理由により、母W相続税各処分の全部を取り消す旨の異議決定をした。
A r税務署長は、母W名義の預貯金口座からの出金のうち、請求人名義の預貯金口座に入金されたものは、母Wから請求人に対する預け金(母Wの相続財産)であると認定しているが、母Wと請求人との間で当該入金に係る金員を将来的に返還することを約した事実は認められないから、当該金員を母Wから請求人に対する預け金と認めることはできない。
 しかしながら、母W名義の預貯金口座から出金された金員は、別表2の「母W名義の預貯金口座からの出金・解約」欄の順号1ないし3から「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の順号1ないし3のとおり、請求人名義の預貯金口座へ入金されており、この資金移動のうち、同欄の順号1のまる1を除くものについては、母W相続の開始前3年以内に行われた母Wから請求人に対する贈与であると認めるのが相当である。
B 上記Aに基づき母W相続税に係る請求人の納付すべき税額を計算すると、当該税額は、上記(イ)の母W相続税の更正処分に係る請求人の納付すべき税額を下回り、かつ、母W相続税の期限内申告に係る請求人の納付すべき税額を下回る。
ハ 原処分について
(イ) 原処分庁所属の調査担当職員は、別表2の資金移動(上記ロの(ハ)の異議決定によりその全部が取り消された母W相続税の更正処分において、母Wから請求人に対する預け金とされていたもの)について、母Wから請求人に対する贈与と認められるとして、請求人に対して贈与税の期限後申告のしょうようをしたが、請求人は、当該贈与税の申告書を提出しなかった。
(ロ) 原処分庁は、平成17年中に母Wから贈与により取得した○○○○円及び平成19年中に母Wから贈与により取得した○○○○円に係る贈与税の申告書の提出がないとして、平成23年11月17日付で、平成17年分及び平成19年分の贈与税について、別表1の「決定処分等」欄のとおりの贈与税の各決定処分(以下「本件各決定処分」という。)及び無申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各決定処分と併せて「本件各決定処分等」という。)をした。
 なお、原処分庁は、母W相続税各処分に係る調査段階における請求人の申述又は提出資料に基づき、別表2の「母W名義の預貯金口座からの出金・解約」欄の順号1ないし3の出金に係る金員が、それぞれ、同表の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の順号1ないし3の入金に係る金員に対応する関係(以下「本件対応関係」という。)にあり、請求人が、母Wから、同欄の各「入金・預入日」記載の日を含む直前の数日内に、書面によらない贈与により、母Wの預貯金口座からの出金に係る、母Wの財産である現金(まる1平成17年中に合計○○○○円、まる2平成19年中に合計○○○○円)を取得したものとして、本件各決定処分等を行った。
ニ 請求人が父Z相続税、母W相続税及び本件に係る各調査において提出又は提示した書面の記載内容等について
(イ) 「L定額」と題する書面について
A 請求人は、父Z相続税の調査において、r税務署長所属の調査担当職員に対して、父Zが作成した書面として、「L定額」と題する書面(以下「父Zメモ」という。)を提出した。
B 父Zメモには、複数の定額貯金について、預入年月日、氏名(請求人以外の者の氏名も含む。)、住所、記号、番号、金額及び備考の各欄の記載がされている(このうち、預入年月日、金額及び備考の各欄の記載は別紙1のとおりである。)。
(ロ) 平成8年10月1日付の母W名義の書面について
A 請求人は、母W相続税の調査において、K1国税局長所属の調査担当職員に対して、母Wが作成した書面として、平成8年10月1日付の母W名義の署名押印がされた請求人宛の「預り証」と題する書面(以下「母W預り証」という。)を提示した(なお、請求人は、当審判所に対して、母W預り証の写しを提出している。)。
B 母W預り証には、要旨、次のとおり記載されている。
(A) 請求人が父Zに預けた金は母Wが預かっている。
(B) それを母W名義の貯金や国債にしてある。
(C) 全部で53,580,000円ある。
(D) これは全て父Zから預かったものである。
(E) ここに証する。
(ハ) 平成14年12月26日付の母W名義の書面について
A 請求人は、母W相続税の調査において、K1国税局長所属の調査担当職員に対して、母Wが作成した書面として、母Wが使用していたノート(以下「母Wノート」という。)の平成14年12月26日付の母W名義の署名押印がされた記載(以下「平成14年12月26日付母Wメモ」という。)を提示した(なお、請求人は、上記ロの(ロ)の母W相続税各処分の異議申立てに係る異議申立書に平成14年12月26日付母Wメモの写しを添付してK2国税局長に提出している。)。
B 平成14年12月26日付母Wメモには、要旨、まる1父Zから預かった請求人の金を返した旨、まる2請求人の通帳○○○○へ5,000,000円を入金した旨が記載されている。
C なお、郵便局(現在の株式会社ゆうちょ銀行。以下「ゆうちょ銀行」という。)の請求人名義の通常貯金口座(記号番号○○○○)には、平成14年12月26日に、5,000,000円が入金されている。
(ニ) 平成17年5月1日付の母W名義の書面について
A 請求人は、母W相続税の調査において、K1国税局長所属の調査担当職員に対して、母Wが作成した書面として、平成17年5月1日付の母W名義の署名押印がされた書面(以下「平成17年5月1日付母Wメモ」という。)を提示した(なお、請求人は、上記ロの(ロ)の母W相続税各処分の異議申立てに係る異議申立書に平成17年5月1日付母Wメモの写しを添付してK2国税局長に提出している。)。
B 平成17年5月1日付母Wメモには、要旨、次のとおり記載されている。
(A) 定額郵便貯金証書
 母W名義 住所 b市d町○−○
 記号番号○○○○ 01、02、03、04、05、06、07、08、09
          個別番号
(B) 上記のものは母Wのものではない。
 全て請求人の金でa県で作ったものである。
C なお、ゆうちょ銀行には母W名義の定額貯金(記号番号○○○○−01ないし09)が存在し、これは、平成17年5月2日から同月6日にかけて、M郵便局において解約され、次のとおり、合計10,000,000円及びその税引後利息額が出金されており、払戻請求書の筆跡は母Wのものとうかがわれる。
(A) 平成17年5月2日 6,102,809円(記号番号○○○○−01ないし06(計5,700,000円)及びその税引後利息)
(B) 平成17年5月6日 4,489,499円(同07ないし09(計4,300,000円)及びその税引後利息)
(ホ) 平成17年10月19日付の母W名義の書面について
A 請求人は、母W相続税の調査において、K1国税局長所属の調査担当職員に対して、母Wが作成した書面として、母Wノートの平成17年10月19日付の母W名義の署名押印がされた記載(以下「平成17年10月19日付母Wメモ」という。)を提示した(なお、請求人は、当審判所に対して、平成17年10月19日付母Wメモの写しを提出している。)。
B 平成17年10月19日付母Wメモには、要旨、次のとおり記載されている。
(A) N銀行e支店で母Wの定期○○○○円おろす。
(B) 請求人におろしてもらった。
(C) 請求人から○○○○円と利息10,160円全て受け取った。

(4) 関係法令の要旨

イ 相続税法第1条の4《贈与税の納税義務者》第1号は、贈与により財産を取得した個人で当該財産を取得した時において同法の施行地に住所を有する者は、同法により、贈与税を納める義務がある旨規定している。
ロ 民法第549条《贈与》は、贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる旨規定している。

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2 争点

 請求人は、母Wからの贈与により、まる1平成17年中に現金合計○○○○円を、まる2平成19年中に現金合計○○○○円を、それぞれ取得したと認められるか否か。

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3 主張

原処分庁 請求人
 次の理由から、請求人は、母Wからの贈与により、まる1平成17年中に現金合計○○○○円を、まる2平成19年中に現金合計○○○○円を、それぞれ取得したと認められる。  次の理由から、請求人は、母Wからの贈与により、まる1平成17年中に現金合計○○○○円を、まる2平成19年中に現金合計○○○○円を、それぞれ取得したとは認められない。
(1) 母W預り証は、作成経緯が不明であり、内容が極めて具体性を欠く上、作成後の経過が不自然であるから、これをもって、母Wが、父Zから、請求人が父Zに預けていた預け金を預かった事実を認めることはできない。また、父Zが死亡した時点において、請求人の父Zへの預け金が存在し、父Zの相続財産に混和した事実も認めることはできない。
 母Wは、請求人に対して、別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の入金・預入日を含む直前の数日内に、同欄の各金員と同額の現金を交付しているところ、上記のとおり預け金の存在を認めることはできないのであるから、当該現金は、母Wに帰属する財産であったと認められる。
 そして、親族間で財産的利益の付与がされた場合には、後にその利益と同等の価値が現実に返還されるか又は将来返還されることが極めて確実である等特別の事情が存在しない限り、相続税法第1条の4の贈与であると認めるのが相当であると解されるところ、本件においてそのような特別の事情は認められないから、別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の各金員は、請求人が、母Wからの贈与により取得したものと認めるのが相当である。
(1) 請求人は、父Zに対して、その所有する金員を預けていたところ、母Wは、上記預け金53,580,000円を父Zから預かった。このことは、母W預り証の内容からみても明らかである。
 請求人は、平成15年から平成19年までの5年間にわたり、母Wから、現金で上記預け金の返還を受け、後日、上記返還された現金を、請求人名義の預金口座に入金した。
 請求人が、別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄のとおり、請求人名義の口座に、同欄の各金員(まる1平成17年中に現金合計○○○○円、まる2平成19年中に現金合計○○○○円)を、いずれも自ら入金したことは間違いないが、上記入金した現金は、母Wから返還された預け金、立替金及びその他自己資金等であるから、請求人所有に係るものであり、母Wからの贈与により取得したものではない。
(2) なお、請求人が母W相続税の調査の際に提出した書面等によれば、本件対応関係があると認められる。
(2) なお、原処分庁は、本件対応関係がある旨主張するが、請求人が平成15年から平成19年までの5年間に母Wから返還を受けた現金には、上記預け金53,580,000円だけでなく、立て替えていた父Zの介護関係の諸経費に係るものもあり、原処分庁が主張するような本件対応関係は認められない。

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4 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 母W名義の預貯金口座からの出金・解約の状況等
(イ) 平成17年1月6日、M郵便局において、ゆうちょ銀行の母W名義の通常貯金口座(記号番号○○○○)から、通帳払いにより、○○○○円が出金された(別表2の「母W名義の預貯金口座からの出金・解約」欄の順号1)。
 なお、上記通常貯金に係る郵便貯金払戻請求書には、金額欄に○○○○円と記載され、また、母W名義の署名押印がされている。
(ロ) 平成17年6月3日、P農業協同組合(以下「JA−P」という。)f支店において、同支店の母W名義の定期貯金(口座番号○○○○)が中途解約され、○○○○円が出金された(別表2の「母W名義の預貯金口座からの出金・解約」欄の順号2)。
 なお、上記定期貯金に係る証書には、同日付でその元利金を受領した旨が記載され、また、母W名義の署名押印がされている。
(ハ) 平成17年10月19日、Q銀行g支店において、同支店の母W名義の定期預金(口座番号○○○○)が中途解約され、○○○○円が出金された(別表2の「母W名義の預貯金口座からの出金・解約」欄の順号3)。
 なお、上記定期預金に係る定期預金払戻請求書には、母W名義の署名押印がされており、また、摘要欄に「代理人(娘L)来店 14:10本人(W)より電話あり 定期全額解約の意思確認、本人・娘とも熟知先であり保険証徴求」との記載がされている。
ロ 請求人名義の預貯金口座への入金・預入の状況等
(イ) 平成17年中の入金の状況
A 平成17年1月7日、ゆうちょ銀行の請求人名義の通常貯金口座(記号番号○○○○。以下「ゆうちょ請求人口座」という。)に、まる1R郵便局取扱いの現金自動預け払い機により、現金○○○○円が3回入金され、まる2S郵便局取扱いの現金自動預け払い機により、現金○○○○円が3回入金された(別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の順号1のまる1)。
B 平成17年5月12日、T銀行h支店i出張所(現在のj支店。以下同じ。)の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「T銀行h請求人口座」という。)に、同出張所取扱いの現金自動預け払い機により、現金○○○○円が入金された(別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の順号1のまる2)。
C 平成17年6月14日、T銀行h請求人口座に、T銀行h支店i出張所取扱いの現金自動預け払い機により、まる1現金○○○○円が1回入金され、まる2現金○○○○円が4回入金された(なお、別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の順号2のまる7では、○○○○円の入金のみが記載されている。)。
D 平成17年6月16日、ゆうちょ請求人口座に、U郵便局取扱いの現金自動預け払い機により、現金○○○○円が2回入金された(別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の順号1のまる3)。
E 平成17年6月16日、V銀行(現在のX銀行。以下「V銀行」という。)k支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「V銀行請求人口座」という。)に、同銀行j支店取扱いの現金自動預け払い機により、現金○○○○円が3回入金された(別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の順号2のまる8)。
F 平成17年6月17日、V銀行請求人口座に、V銀行j支店取扱いの現金自動預け払い機により、まる1現金○○○○円が1回入金され、まる2現金○○○○円が1回入金された(別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の順号2のまる9)。
G 平成17年6月17日、T銀行h請求人口座に、T銀行h支店取扱いの現金自動預け払い機により、現金○○○○円が2回入金された(なお、別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄には、当該入金に係る記載はない。)。
H 平成17年9月6日、ゆうちょ請求人口座に、Y郵便局取扱いの現金自動預け払い機により、現金○○○○円が入金された(別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の順号1のまる4)。
I 平成17年9月6日、T銀行h請求人口座に、T銀行h支店i出張所において、○○○○円が入金された(別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の順号1のまる5)。
J 平成17年9月7日、T銀行j支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「T銀行j請求人口座」という。)に、同支店において、○○○○円が入金された(別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の順号1のまる6)。
(ロ) 平成19年中の入金の状況
A 平成19年7月4日、T銀行j支店において、○○○○円が入金されたことにより、同支店の請求人名義の定期預金(口座番号○○○○、金額○○○○円、満期日平成21年7月4日)が設定され、平成19年7月4日、請求人名義の定期預金(口座番号○○○○、金額○○○○円、満期日平成20年7月4日)に書き換えられた(別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の順号3のまる10)。
B 平成19年7月31日、T銀行j支店において、○○○○円が入金されたことにより、同支店の請求人名義の定期預金(口座番号○○○○、金額○○○○円、満期日平成20年1月31日)が設定された(別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の順号3のまる11)。
C 平成19年9月10日、T銀行h請求人口座に、T銀行j支店取扱いの現金自動預け払い機により、現金○○○○円の入金が2回された(なお、別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の順号3のまる12では、○○○○円の入金1回のみが記載されている。)。
(ハ) 上記(イ)のH、I及びJの入金日と同日の出金の状況
A 平成17年9月6日、T銀行j支店において、T銀行h請求人口座から、○○○○円が出金された。
B 平成17年9月7日、T銀行h支店i出張所において、T銀行h請求人口座から、○○○○円が出金された。
(ニ) 原処分庁は、本件対応関係の存在を前提として本件各決定処分をしているところ、原処分庁の主張を前提とした場合の別表2記載の母W名義の預貯金口座からの出金日から請求人名義の預貯金口座への入金日までの間隔は、次のとおりである。
A 順号1について
 1日ないし約8か月
B 順号2について
 11日ないし14日
C 順号3について
 約1年8か月ないし約1年10か月
ハ 母W名義の預貯金口座からの出金・解約と請求人名義の預貯金口座への入金・預入との対応関係に関する請求人の供述の経過等
(イ) 母W相続税各処分に係る調査段階における申述等
 母W相続税各処分に係る調査段階における請求人の最終的な申述又は提出資料の内容は、本件対応関係の存在を認めるものであった(なお、別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の順号3のまる10については、請求人の提出資料には口座への入金日が平成19年7月14日と記載されているが、当該口座の取引明細によれば、当該入金日は平成19年7月4日の誤記であると認められる。)が、請求人は、当初からその旨の説明をしていたものではなかった(請求人のK1国税局長所属の調査担当職員に対する説明内容の状況は別紙2のとおりである。)。
 なお、まる1平成17年9月6日のゆうちょ請求人口座への入金(別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の順号1のまる4)、まる2同日のT銀行h請求人口座への入金(同欄の順号1のまる5)及びまる3翌7日のT銀行h請求人口座への入金(同欄の順号1のまる6)について、いずれもこれらの日と同日に、請求人名義の預金口座から当該各入金額と同額又はこれを上回る出金があった(上記ロの(ハ))ため、K1国税局長所属の調査担当職員は、請求人に対し、上記まる1ないしまる3の各入金に係る金員は、母W名義の預貯金口座から出金されたものではなく、上記ロの(ハ)の請求人名義の預金口座から出金されたものではないかと確認したところ、請求人は、当該金員の原資は、母Wの貯金を解約した金員を入金したものに間違いない旨申述していた。
(ロ) 本件各決定処分等に係る調査段階における申述
 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員から、母W名義の預貯金口座からの出金と請求人名義の預貯金口座への入金が本件対応関係にあることは間違いないかと確認された際、請求人が答えることではなく、原処分庁が調査することである旨申述し、本件対応関係の存在を認めなかった。
(ハ) 当審判所に対する答述
 請求人は、当審判所に対し、別表2の「母W名義の預貯金口座からの出金・解約」欄の順号1及び3の出金に係る金員が、それぞれ、同表の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の順号1及び3の入金に係る金員に対応するものではない旨答述し、本件対応関係を認めなかった。

(2) 当てはめ

イ はじめに
(イ) 上記1の(3)のハの(ロ)のとおり、原処分庁は、請求人が、母Wから、別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の各「入金・預入日」欄記載の日を含む直前の数日内に、母Wの預貯金口座からの出金に係る、母Wの財産である現金(まる1平成17年中に合計○○○○円、まる2平成19年中に合計○○○○円)を取得したものとして、本件各決定処分等をしている。原処分庁は、上記数日内において母Wから請求人に対する上記の現金の受渡しがされた事実を書面によらない贈与とみて、請求人が相続税法第1条の4第1号の「贈与により財産を取得した個人」に該当するとしたものである。
(ロ) ところで、請求人は、別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の入金について、現金で自ら入金した事実は争っておらず(上記3)、このことに加え、当審判所の調査の結果によっても当該入金の事実を疑わせる事情は認められないから、当該入金の事実についてはこれを認めることができる。
 しかしながら、請求人は、当該入金に係る現金は、母Wから返還された預け金、立替金及びその他自己資金等である旨主張しており(上記3)、そうすると、請求人は、少なくとも当該入金に係る現金のうち原資が自己資金であると主張するものについては、母Wから請求人に対する受渡しがされた現金であると認めていない。
(ハ) そこで、以下においては、まず、原処分庁が主張するように、別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の各「入金・預入日」欄記載の日を含む直前の数日内に、母Wから請求人に対する現金の受渡しがされた事実を認めることができるか否かについて検討することとする(なお、請求人は、当該各入金のうち、いずれが預け金や立替金の返還に当たり、いずれが自己資金の入金に当たるかについての対応関係については具体的に主張していないので、当該各入金の全部について検討する。)。
ロ 母Wから請求人に対する現金の受渡しがされた事実を認めることができるか否かについて
(イ) 別表2記載の母W名義の預貯金口座からの出金及び請求人名義の預貯金口座への入金の客観的な状況は、上記(1)のイ及びロのとおりであるところ、まる1本件対応関係の存在を前提とする原処分庁の主張によれば、当該出金日から当該入金日までの間隔は、長いものでは約1年10か月もあいているものもあることとなる(上記(1)のロの(ニ))上、まる2当審判所の調査の結果によっても、当該出金日以降の当該出金に係る金員の管理・保管状況は明らかではなく、まる3当該各入金日と同日に、請求人名義の預金口座からそれぞれの日の入金額を上回る出金がされている場合もあること(上記(1)のロの(ハ))の他、まる4原処分庁の主張する本件対応関係にない請求人名義の預貯金口座への入金の事実があること(上記(1)のロの(イ)のCのまる1、同G及び同(ロ)のC)も踏まえると、別表2記載の請求人名義の預貯金口座への入金の事実のみから、直ちにその原資の全てが同表記載の母W名義の預貯金口座からの出金に係る現金であると推認することはできない。
(ロ) ところで、母Wから請求人に対する現金の受渡しがされた事実を認めることができるとする原処分庁の主張は、本件対応関係が存在することを前提としているところ、原処分庁が本件対応関係が存在することの根拠とする証拠は、母W相続税各処分に係る調査段階における請求人の申述又は提出資料であり(上記(1)のハの(イ))、当審判所の調査の結果によっても、他に本件対応関係の存在を裏付ける証拠は見当たらない。しかるに、請求人は、本件各決定処分等に係る調査段階以降、本件対応関係の存在を認めていない(上記(1)のハの(ロ)及び(ハ))から、結局、本件対応関係の存在を認めることができるか否かは、母W相続税各処分に係る調査段階における請求人の申述又は提出資料の信用性を認めることができるか否かに帰着する。
 そこで検討するに、母W相続税各処分に係る調査段階における請求人の申述又は提出資料の内容は、そもそも当該調査段階においてさえ変遷がみられるものである(上記(1)のハの(イ))上、当審判所の調査の結果によっても、当該申述又は提出資料の内容を直接裏付けるような客観的な証拠や、当該変遷に合理的な理由があることをうかがわせる証拠の存在は見当たらない。したがって、原処分庁がその主張の根拠とした母W相続税各処分に係る調査段階における請求人の申述又は提出資料については、その信用性を認めることはできず、そうすると、本件対応関係の存在を認めることもできない。
 そして、当審判所の調査の結果によっても、他に母Wから請求人に対する現金の受渡しがされた事実を認めるに足りる証拠は見当たらない。
(ハ) したがって、別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の各「入金・預入日」欄記載の日を含む直前の数日内に、母Wから請求人に対する現金の受渡しがされた事実が認められるとする原処分庁の主張には、理由がない。
(ニ) ところで、原処分庁は、母Wから請求人に対し、別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の各「入金・預入日」欄記載の日を含む直前の数日内に、本件対応関係のとおりの現金の受渡しがされた事実が、書面によらない贈与であるとして、本件各決定処分等をしているのであるから、請求人に対して本件各決定処分に係る贈与税を課税するためには、請求人が相続税法第1条の4第1号の「贈与により財産を取得した個人」に該当する必要があり、原処分庁は当該贈与の事実が存在することにつき、証明責任を負うものである。
 そして、請求人は、上記イの(ロ)のとおり、別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の入金に係る現金のうち、原資が自己資金であると主張するものについて、母Wからの現金の受渡しがされた事実を否認する主張をしているが、他方で、上記イの(ハ)のとおり、当該入金のうち、いずれが自己資金の入金に当たるかについての対応関係を具体的に主張していないから、請求人が相続税法第1条の4第1号の「贈与により財産を取得した個人」に該当するといえるためには、結局、本件対応関係のとおりの現金の受渡しがされた事実の全てについて、証拠により証明される必要がある。
 しかるに、上記(ロ)のとおり、母Wから請求人に対して、本件対応関係のとおりの現金の受渡しがされた事実を認めるに足りる証拠はないから、このことのみをもってしても、請求人が相続税法第1条の4第1号の「贈与により財産を取得した個人」に該当するということはできない。
ハ 請求人の母Wに対する預け金等について
(イ) 上記ロの(ロ)のとおり、本件においては、贈与の事実、すなわち、母Wから請求人に対し、別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の各「入金・預入日」欄記載の日を含む直前の数日内に、本件対応関係のとおりの現金の受渡しがされた事実を認めることはできず、このことのみをもってしても請求人は相続税法第1条の4第1号の「贈与により財産を取得した個人」に該当しないことは明らかである。
 もっとも、請求人は、別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の入金に係る現金のうち、原資が預け金や立替金の返還であると主張するものについては、その返還の時期はともかく、母Wからの現金の受渡しがされた事実自体は認めていることから、以下、念のため、請求人の母Wに対する預け金等の存否について検討する。
(ロ) 請求人は、父Zに対する預け金の存在を主張しており(上記3。請求人は、母Wに対する預け金は、母Wが、請求人の父Zに対する預け金を預かったものである旨主張する。)、父Zメモ(上記1の(3)のニの(イ))は、請求人が当該預け金の存在を裏付ける証拠とするものである。
 父Zメモには父Zの署名押印は存しないが、複数の定額貯金の預入状況等が極めて詳細に記載されており、その客観的な記載状況自体に照らしても、○○郵便局長であり利殖に長けていたとうかがわれる父Zが作成したものであることが強くうかがわれるものである。そして、当審判所の調査の結果によっても、父Zメモを父Z以外の者が作成したことをうかがわせる事情は認められないから、これらの事情を総合すると、父Zメモは、その作成時期や作成状況(記載内容の全てが同時に記載されたのかどうかなど)までは明らかとはいえないものの、父Zが作成したものであると推認される。
 そして、父Zメモの記載内容を疑わせる事情も特に見当たらないことからすると、父Zメモによれば、少なくとも、父Zメモが作成された時点において、請求人の父Zに対する預け金が存在していた可能性は否定できない。
(ハ) ところで、母W預り証、平成14年12月26日付母Wメモ、平成17年5月1日付母Wメモ及び平成17年10月19日付母Wメモの各書面には、いずれも母W名義の署名押印がされている(上記1の(3)のニの(ロ)、(ハ)、(ニ)及び(ホ))ところ、当審判所の調査の結果によれば、上記各書面の各押印は母Wの印章によるものと認められ、上記各書面の成立の真正を疑わせる事情を認めることはできない(さらにいえば、父Z相続に係る遺産分割協議書における母Wの署名の筆跡や、母Wが請求人に宛てた葉書における母Wの筆跡と、上記各書面の筆跡とを比較すると、両者は酷似していると認められる。)。
 したがって、母W預り証、平成14年12月26日付母Wメモ、平成17年5月1日付母Wメモ及び平成17年10月19日付母Wメモは、いずれも母Wが作成したものと認められる。
(ニ) 母W預り証については、母W預り証の記載内容を疑わせる事情も特に見当たらないことからすると、母W預り証によれば、少なくとも、母W預り証が作成された時点(平成8年10月1日)において、請求人の母Wに対する預け金53,580,000円が存在していた事実が認められるというべきである。
 なお、原処分庁は、母W預り証について、まる1その作成経緯が不明である、まる2その内容が極めて具体性を欠く、まる3その作成後の経過が不自然である旨主張するが、母W預り証には母Wの署名押印が存し、当審判所の調査の結果によっても、母W預り証を母W以外の者が作成したことをうかがわせる事情は認められないし、その記載内容(上記1の(3)のニの(ロ)のB)は相応の具体性を有していて、作成後の経過が特に不自然であるともいえない上、仮に作成経緯が不明であったからといって、そのことのみをもって母W預り証の信用性が否定されるものでもない。
(ホ) そして、母W預り証の作成後の母W作成名義に係る書証として、平成14年12月26日付母Wメモ及び平成17年5月1日付母Wメモが存するところ、そのいずれについても、その記載内容が客観的な口座の存在や取引状況と合致していること(上記1の(3)のニの(ハ)のB及びC、同(ニ)のB及びC)からすると、当該記載内容を信用することができ、そうすると、少なくとも、まる1平成14年12月26日の時点で、請求人の母Wに対する預け金のうち5,000,000円が請求人に返還されたこと、まる2平成17年5月1日の時点で、母W名義の借名定額貯金の形で請求人の母Wに対する預け金10,000,000円が存在していたことを認めることができる。
(ヘ) しかしながら、母W預り証を前提とすると請求人の母Wに対する預け金の額は母W預り証が作成された時点(平成8年10月1日)で53,580,000円であり、そうすると、上記(ホ)の事実関係を踏まえても、その他の請求人の母Wに対する平成17年及び平成19年当時の預け金の存否については、当審判所の調査の結果によっても明らかとはなっていない。
 したがって、平成17年中及び平成19年中に、請求人の母Wに対する預け金が存する可能性を否定することはできない。
 なお、請求人は、父Zメモは、父Zが請求人からの預り金のうち定額貯金として管理していた分を記載したものである旨主張するとともに、父Zに対する預け金は父Zメモに記載したものにとどまらない旨主張しており、当審判所の調査の結果によっても、当該主張を排斥することができるだけの証拠は見当たらないから、母W預り証の記載内容と父Zメモの記載内容が整合していないとすることまではできない。
(ト) また、請求人の母Wに対する立替金の存否についても、預け金同様、当審判所の調査の結果によっても明らかとはなっていないから、平成17年中及び平成19年中に、請求人の母Wに対する立替金が存する可能性を否定することはできない。
(チ) 以上のとおり、請求人の母Wに対する預け金等が存する可能性を否定することはできないのであって、そうすると、別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の入金に係る現金のうち、請求人が母Wから現金の受渡しがされた事実自体は認めているものがあったとしても、当該現金の受渡しが母Wによる贈与であることが証拠により証明されたこととはならず、結局、請求人が相続税法第1条の4第1号の「贈与により財産を取得した個人」に該当しないとの結論を左右するものではない。
ニ 小括
 以上のとおりであるから、請求人は、母Wからの贈与により、まる1平成17年中に現金合計○○○○円を、まる2平成19年中に現金合計○○○○円を、それぞれ取得したとは認められない。

(3) 本件各決定処分について

 以上のとおり、母Wが請求人に別表2の「請求人名義の預貯金口座への入金・預入」欄の各「入金・預入日」欄記載の日を含む直前の数日内に、母Wから請求人に対する現金の受渡しがされた事実は認められず、他に請求人が平成17年分及び平成19年分の贈与税の申告書を提出する義務を負うこととなる事実も認められない。
 したがって、本件各決定処分は違法であるから、その全部を取り消すべきである。

(4) 本件各賦課決定処分について

 上記(3)のとおり、本件各決定処分はその全部を取り消すべきであるから、本件各賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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