(平成25年4月4日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、同族会社が第三者に対して負っていた敷金返還債務の物上保証人又は連帯保証人であった被相続人H(以下「亡H」という。)が、平成21年に譲渡した不動産の譲渡代金の一部によって当該債務を代位弁済し、当該代位弁済に係る保証債務の履行に伴う求償権の行使が不能であるとして、譲渡所得の金額の計算において所得税法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》第2項に規定する特例(以下「保証債務の特例」という。)を適用して所得税の申告をしたところ、原処分庁が、当該不動産の譲渡は相続税納付のために行われたものであり、保証債務を履行するための資産の譲渡に当たらないから保証債務の特例の適用は認められないとして更正処分等をしたのに対し、亡Hの相続人である審査請求人(以下「請求人」という。)が、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 亡Hは、平成21年分の所得税の確定申告書に所得金額及び納付すべき税額を別表1の「期限内申告」欄のとおり記載し、これを法定申告期限までに原処分庁に提出して、所得税の期限内申告をした。
ロ 亡Hは、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、平成23年2月28日、所得金額及び納付すべき税額を別表1の「修正申告」欄のとおりとする所得税の修正申告をした。
ハ 原処分庁は、上記ロの修正申告に対し、平成23年5月31日付で、過少申告加算税の額を別表1の「修正申告」欄のとおりとする過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ニ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成23年7月8日付で、所得金額及び納付すべき税額を別表1の「更正処分等」欄のとおりとする所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税の額を別表1の「更正処分等」欄のとおりとする過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした(以下、本件更正処分及び本件賦課決定処分に係る同日付の平成21年分所得税の更正及び加算税の賦課決定通知書を、「本件更正等通知書」という。)。
ホ 亡Hは、平成23年9月7日、上記ニの各処分に不服があるとして、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成24年4月25日付で、棄却の異議決定をした。
 なお、亡Hは上記異議申立て後の平成23年9月○日に死亡したので、亡Hの相続人である請求人は、異議申立人の地位を承継した。
ヘ 請求人は、平成24年5月22日、異議決定を経た後の上記ニの各処分に不服があるとして、審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

イ 所得税法第155条《青色申告書に係る更正》第2項は、税務署長は、居住者の提出した青色申告書に係る年分の総所得金額、退職所得金額若しくは山林所得金額又は純損失の金額の更正をする場合には、その更正に係る国税通則法(平成23年法律第114号による改正前のものをいう。)第28条《更正又は決定の手続》第2項(更正通知書の記載事項)に規定する更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない旨規定している。
ロ 所得税法第64条第2項は、保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときは、その行使することができないこととなった金額(不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を除く。)を同条第1項に規定する回収することができないこととなった金額とみなして、同条第1項の規定を適用する旨規定し、同条第1項は、その年分の各種所得の金額(事業所得の金額を除く。)の計算の基礎となる収入金額若しくは総収入金額(不動産所得又は山林所得を生ずべき事業から生じたものを除く。)の全部若しくは一部を回収することができないこととなった場合には、政令で定めるところにより、当該各種所得の金額の合計額のうち、その回収することができないこととなった金額に対応する部分の金額は、当該各種所得の金額の計算上、なかったものとみなす旨規定している。
ハ 所得税基本通達64−4《保証債務の履行の範囲》は、所得税法第64条第2項に規定する保証債務の履行があった場合とは、民法第446条《保証人の責任等》に規定する保証人の債務又は同法第454条《連帯保証の場合の特則》に規定する連帯保証人の債務の履行があった場合の他、他人の債務を担保するため抵当権を設定した者がその債務を弁済し又は抵当権を実行された場合も、その債務の履行等に伴う求償権を生ずることとなるときは、これに該当するものとする旨定めている。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ J社について
(イ) J社は、不動産の賃貸及び管理等を目的として昭和60年に設立された法人であり、創業者は亡Hの父である亡Kであった。
(ロ) 亡Hは、平成20年6月1日から平成21年5月31日までの事業年度(以下「平成21年5月期」という。)においてJ社の全株式を所有する株主であり、同年4月16日まで代表取締役でもあった。
ロ J社がL社との間で締結していた賃貸借契約について
(イ) i市j町所在の店舗について
A i市j町所在の店舗の賃貸借契約について
(A) J社とL社は、平成9年5月27日付で、J社が亡Kから賃借している店舗について、亡Kの承諾の下、賃貸人をJ社、賃借人をL社とする、要旨次の内容の賃貸借契約を締結した(以下、当該賃貸借契約を「本件j町賃貸借契約」といい、本件j町賃貸借契約に係る契約書を「本件j町賃貸借契約書」という。)。
a 賃貸借物件(本件j町賃貸借契約書第1条)
 賃貸借物件は、i市j町○−○所在の鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺3階建て建物の1階部分店舗271.86平方メートルである(以下、この賃貸借物件を「本件j町賃貸物件」という。)。
b 賃貸借期間(本件j町賃貸借契約書第3条)
 賃貸借期間は、平成9年6月23日から平成12年6月22日までとする。
 ただし、本件j町賃貸借契約の期間満了6か月前までにJ社及びL社のいずれからも文書による別段の意思表示がない場合には、本件j町賃貸借契約を3か年更新し、その後も同様とする。
c 賃料(本件j町賃貸借契約書第4条)
 賃料は、月額7,500,000円(消費税別)とする。
d 敷金(本件j町賃貸借契約書第7条)
(a) 敷金は、800,000,000円とし、利息はつけない(以下、当該敷金を「本件j町敷金」という。)。
(b) 本件j町敷金は、本件j町賃貸借契約の終了後、L社が本件j町賃貸借契約に定める明渡しその他のL社の債務を完全に履行した後、J社からL社に、賃料その他の未払債務の弁済額を差し引いた残額を返還する。
(c) J社は、本件j町敷金より平成9年から平成18年までの10回にわたり毎年14,400,000円を償却し、J社の所得とする。
e 抵当権設定登記(本件j町賃貸借契約書特約事項)
 本件j町敷金のうち656,000,000円について、L社を権利者、J社を義務者として、まる1i市j町○−○の宅地275.66平方メートル及びまる2同所同番地○所在の家屋番号○番○の○の鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺3階建て建物(1階271.86平方メートル、2階及び3階各275.57平方メートル)に敷金返還請求権の抵当権設定登記をする(以下、この宅地及び建物を併せて「本件j町物件」という。)。
(B) 本件j町賃貸借契約書には、契約当事者であるJ社及びL社の各代表取締役(J社の代表取締役は亡Kである。)の記名押印の他に、亡K個人の署名押印がされていた。
(C) 本件j町賃貸借契約は、自動更新された後、本件j町物件が平成21年1月9日付でMに売却された際に合意解約された。
B 本件j町物件の所有者及び抵当権設定登記の状況について
(A) 本件j町物件について、本件j町賃貸借契約締結当時の所有者は亡Kであり、平成21年1月9日付でMに売却された当時の所有者は亡Hであった。
(B) 本件j町物件には、平成9年9月29日受付で、同年5月27日賃貸借契約の敷金返還債権同日設定を原因とし、債務者をJ社、抵当権者をL社、債権額を656,000,000円とする抵当権設定登記が経由されていたが、当該登記は、平成21年1月14日弁済を原因として抹消された。
(ロ) i市k町所在の貸室について
A i市k町所在の貸室の賃貸借契約について
(A) J社とL社は、平成8年3月19日付で、J社が亡Kから賃借している貸室について、亡Kの承諾の下、賃貸人をJ社、賃借人をL社とする、要旨次の内容の賃貸借契約を締結した(以下、当該賃貸借契約を「本件k町賃貸借契約」といい、本件k町賃貸借契約に係る契約書を「本件k町賃貸借契約書」という。)。
a 賃貸借物件(本件k町賃貸借契約書第1条)
 賃貸借物件は、i市k町○−○所在のmビル(鉄骨鉄筋コンクリート・鉄骨造陸屋根地下4階付34階建て建物)のうち、地下1階○号部分店舗100.81平方メートル及び地下1階△号部分店舗26.02平方メートルである(以下、この賃貸借物件を「本件k町賃貸物件」という。)。
b 賃貸借期間(本件k町賃貸借契約書第3条)
 賃貸借期間は、平成8年4月1日から平成11年3月31日までとする。
 ただし、本件k町賃貸借契約の期間満了6か月前までにJ社及びL社のいずれからも文書による別段の意思表示がない場合には、本件k町賃貸借契約を3か年更新し、その後も同様とする。
c 賃料(本件k町賃貸借契約書第4条)
 賃料は、月額4,000,000円(消費税別)とする。
d 敷金(本件k町賃貸借契約書第7条)
(a) 敷金は、500,000,000円とし、利息はつけない(以下、当該敷金を「本件k町敷金」という。)。
(b) 本件k町敷金は、本件k町賃貸借契約の終了後、L社が本件k町賃貸借契約に定める明渡しその他のL社の債務を完全に履行した後、J社からL社に、賃料その他の未払債務の弁済額を差し引いた残額を返還する。
(c) J社は、本件k町敷金より毎年10,000,000円を償却し、J社の所得とする。
e 解約(本件k町賃貸借契約書第15条)
 J社又はL社が本件k町賃貸借契約を解約しようとする場合には、原則として、6か月前までに相手方に対して書面をもってその旨の予告をしなければならない。
(B) 本件k町賃貸借契約書には、契約当事者であるJ社及びL社の各代表取締役(J社の代表取締役は亡Kである。)の記名押印の他に、亡K個人の署名押印がされていた。
(C) 本件k町賃貸借契約は、自動更新された後、L社がJ社に対し、平成21年2月24日付書面により、本件k町賃貸借契約書第15条に基づき、同年8月31日をもって解約する旨の予告をし、同日をもって解約された。
B 本件k町敷金に関する覚書について
 J社、L社及び亡Kは、平成8年3月19日付で、J社がL社に対して上記Aの(A)のdの(b)に基づき返還すべき本件k町敷金の残額について、亡KはJ社と連帯してL社に対して履行する旨が記載された覚書(以下「本件k町覚書」という。)を作成した。
 なお、本件k町覚書には、本件k町賃貸借契約について、J社とL社との間で締結したものである旨も記載されている。
C 本件k町賃貸物件の所有者について
 本件k町賃貸物件について、本件k町賃貸借契約締結当時の所有者は亡Kであり、平成21年4月6日付でN社に譲渡された当時の所有者は亡Hであった。
ハ 相続による承継等について
(イ) 亡Kを被相続人とする相続について
 亡Kは、平成11年3月○日に死亡し、遺産分割の結果、亡Kの配偶者であるP(以下「亡P」という。)が単独で、本件j町物件及び本件k町賃貸物件を取得し、また、本件k町覚書の当事者としての地位を承継した(なお、亡Pが単独で本件k町覚書の当事者の地位を承継することについて、本件k町敷金の債権者であるL社は、本件k町敷金に関する「敷金領収書」に「J社に代わり連帯保証人である亡Hが支払った」旨記載していること(後記ホの(ロ))からすると、その地位の承継を同意していたものと認められる。)。
(ロ) 亡Pを被相続人とする相続について
 亡Pは、平成20年5月○日に死亡し、その相続により、亡Pの長男であり、唯一の法定相続人である亡Hが単独で、本件j町物件及び本件k町賃貸物件を取得し、また、本件k町覚書の当事者としての地位を承継した(なお、以下、亡Pを被相続人とする相続税を「亡P相続税」という。)。
ニ 本件j町物件の譲渡及び本件j町敷金の返還等について
(イ) 本件j町物件の譲渡について
 亡H及びMは、平成21年1月9日付で、亡Hを売主、Mを買主として、本件j町物件を、要旨次の内容で売却する旨の不動産売買契約(以下「本件j町売買契約」といい、本件j町売買契約に係る契約書を「本件j町売買契約書」という。)を締結し、同月14日、本件j町物件について、亡HからMへ、同月9日売買を原因とする所有権移転登記が経由された。
A 売買代金(本件j町売買契約書第2条)
 売買代金は、総額○○○○円(消費税込み)とする。
B 売買代金の支払及び所有権の移転登記(本件j町売買契約書第3条)
 Mは亡Hに対し、平成21年1月14日限り、亡Hから所有権移転登記手続に必要な書類の一切の交付を受けるのと引換えに売買代金○○○○円を支払う。
(ロ) 本件j町売買契約及び本件j町賃貸借契約に関する合意について
 亡H、J社、L社及びMは、平成21年1月14日付で、本件j町売買契約及び本件j町賃貸借契約に関して、要旨次の内容の合意を成立させた(以下、当該合意を「本件j町合意」といい、本件j町合意に係る合意書を「本件j町合意書」という。)。
A 基本合意(本件j町合意書第1項)
 亡H、J社、L社及びMは、亡HとMとの間で本件j町売買契約が成立した場合には、まる1J社とL社の間の本件j町賃貸借契約を合意解約した上、まる2当該合意解約と同時に、M(新賃貸人)とL社(賃借人)との間で本件j町賃貸借契約と同一内容の新たな賃貸借契約(以下「本件j町新賃貸借契約」という。)を締結することについて、異議なく承諾する。
B 本件j町賃貸借契約及び本件j町新賃貸借契約の内容の確認(本件j町合意書第3項)
(A) 亡H、J社及びL社は、亡HとMとの間で本件j町売買契約が成立するのを停止条件として、J社とL社との本件j町賃貸借契約を合意解約することについて、異議なく承諾する。
(B) L社とMは、J社とL社との上記(A)の合意解約が成立すると同時に、L社とMとの間で本件j町新賃貸借契約が成立するものとし、本件j町新賃貸借契約の内容は、原則、本件j町賃貸借契約の内容と同一とすることについて、異議なく承諾する。
(C) J社、L社及びMは、本件j町賃貸借契約又は本件j町新賃貸借契約の主たる内容は、次のとおりであることを相互に確認する。
a 家賃は月額7,500,000円(消費税別)である。
b 本件j町敷金は、償却後の648,800,000円であり、本件j町新賃貸借契約に係る敷金も同額とする。
C 本件j町敷金の返還等(本件j町合意書第5項)
(A) 本件j町賃貸借契約の合意解約に基づきJ社がL社に負担する本件j町敷金648,800,000円の返還債務については、本件j町賃貸借契約を合意解約した際に、J社が無資力のため、連帯保証人である亡HがL社に対し、連帯保証の履行として返済する。
(B) 本件j町敷金の返還を受けたL社は、本件j町新賃貸借契約の新賃貸人となるMに対し、同額の敷金を同時に差し入れる。
(C) 亡H、J社、L社及びMは、まる1上記(A)の本件j町敷金の亡HからL社への返済と、まる2上記(B)の本件j町新賃貸借契約に係る敷金のL社からMへの差入れについては、実際の現金授受は行わず、L社から亡Hへ「領収書」(連帯保証人亡H宛の連帯保証債務の履行としてのもの)を交付し、更に本件j町新賃貸借契約に係る敷金として、MからL社への「敷金差入証」の交付のみで互いに現金授受をしたものとみなし、処理することを異議なく承諾し、相互に確認する。
(ハ) 本件j町敷金の返還等について
A Mは、平成21年1月14日、本件j町合意(上記(ロ)のCの(C))に基づき、本件j町物件の売買代金○○○○円から648,800,000円を差し引いた○○○○円を亡Hに支払い、亡H代理人弁護士は、Q銀行n支店の亡H代理人弁護士名義の普通預金口座(以下「本件口座」という。)に入金した。
B L社が亡H宛に作成した平成21年1月14日付の「領収證」には、J社に対するj町○○店(本件j町賃貸物件)の敷金の返還分として、648,800,000円を領収した旨が記載されている。
ホ 本件k町賃貸物件等の譲渡及び本件k町敷金の返還等について
(イ) 本件k町賃貸物件等の譲渡について
 亡H及びN社は、平成21年4月6日付で、亡Hを売主、N社を買主として、まる1本件k町賃貸物件、まる2i市k町○−△所在のpビル(鉄骨鉄筋コンクリート・鉄骨造陸屋根地下4階付25階建て建物)のうち、亡Hが所有する地下1階○号部分店舗99.24平方メートル、並びにまる3本件k町賃貸物件及び上記まる2の店舗の各敷地部分(以下、これらの物件を併せて「本件k町譲渡物件」という。)を、要旨次の内容で売却する旨の不動産売買契約(以下「本件k町売買契約」といい、本件k町売買契約に係る契約書を「本件k町売買契約書」という。)を締結し、同年6月11日、本件k町譲渡物件について、亡HからR社へ、同日売買を原因とする所有権移転登記が経由された。
A 基本合意(本件k町売買契約書第1条)
 亡Hは、本件k町譲渡物件を本件k町売買契約書の約定で売り渡し、N社は、本件k町譲渡物件を買い受けた。
 なお、亡Hは、N社が同社以外の第三者に本件k町譲渡物件を売買することを認め、その場合、亡Hは、売買代金決済時において、N社が指定する第三者に対して、売買代金と引換えに中間省略登記に必要な一切の書類を交付する。
B 売買代金(本件k町売買契約書第2条)
 売買代金は、総額○○○○円(消費税込み)とする。
C 売買代金の支払方法(本件k町売買契約書第3条)
 N社は亡Hに対し、まる1本件k町売買契約締結時に手付金として○○○○円、まる2平成21年6月末日限り、所有権移転登記手続に必要な一切の書類と引換えに残代金○○○○円を支払う。
 なお、上記まる1の手付金は、上記まる2の残代金の支払時に売買代金の一部に充当するものとし、利息は付さない。
D 所有権移転の時期(本件k町売買契約書第4条)
 本件k町譲渡物件の所有権は、N社が売買代金全額を支払ったときに、亡HからN社に移転する。
E 確認条項(本件k町売買契約書第16条)
 亡HとN社は、以下のとおり相互に確認する。
(A) 本件k町賃貸物件については、本件k町賃貸借契約が継続中であるが、L社は平成21年8月31日をもって退去し明け渡す。
(B) 亡Hは、L社に対し、L社から預かり保管中の敷金残金全額(本件k町敷金の8月分までの敷金償却分を控除した金額)を、本件k町譲渡物件の引渡時に返還する。
(ロ) 本件k町敷金の返還等について
A N社は、本件k町譲渡物件の売買代金○○○○円のうち、まる1手付金○○○○円を、平成21年4月7日に、まる2残金○○○○円を、同年6月12日に、それぞれ亡Hに支払い、亡H代理人弁護士は、いずれも本件口座に入金した。
B 亡H代理人弁護士は、平成21年6月12日、本件口座からS銀行k支店のL社の普通預金口座に301,200,000円を送金した。
 なお、L社がJ社及び亡H宛に作成した平成21年6月12日付の「敷金領収書」には、J社とL社との間で、本件k町賃貸借契約を解約したことに伴い返還すべき敷金につき、J社に代わり連帯保証人である亡Hが支払った保証履行金として、301,200,000円を領収した旨が記載されている。
ヘ 亡Hが上記(2)のイの期限内申告の確定申告書に添付した「保証債務の履行のための資産の譲渡に関する計算明細書」について
 亡Hが上記(2)のイの期限内申告の確定申告書に添付した「保証債務の履行のための資産の譲渡に関する計算明細書」には、本件j町敷金及び本件k町敷金の各返還債務に係る保証債務に関し、要旨次表のとおり記載されている。

項目 本件j町敷金の返還債務に係る保証 本件k町敷金の返還債務に係る保証
保証債務の明細 主たる債務者 J社 J社
債権者 L社 L社
保証債務の内容 平成9年9月24日
連帯保証
平成8年3月19日
連帯保証
保証した債務の金額 648,800,000円 301,200,000円
保証債務の履行日と履行した金額 平成21年1月14日
648,800,000円

平成21年6月30日

301,200,000円

求償権の額(A) 648,800,000円 301,200,000円
(A)のうち既に支払を受けた金額 0円 0円
求償権の行使不能日と求償権の行使不能額 平成21年9月24日
648,800,000円
平成21年9月24日
301,200,000円
保証債務の履行のため譲渡した資産と譲渡価額 本件j町物件
○○○○円
本件k町譲渡物件
○○○○円

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2 争点

(1) 争点1

 本件更正等通知書に更正の理由を附記していないことが、本件更正処分の取消事由となるか否か。

(2) 争点2

 亡Hが平成21年中に譲渡した本件j町物件及び本件k町譲渡物件の譲渡所得の金額の計算上、保証債務の特例の適用があるか否か。

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3 争点1について

(1) 主張

請求人 原処分庁
 所得税法第155条第2項には、青色申告者への更正通知書には更正の理由を附記する旨の記載はあるが、青色申告者以外の申告者、すなわち、いわゆる白色申告者への更正通知書に更正の理由を附記しなくてもよいとの記載はない。
 本件更正処分は、亡Hが原処分庁の調査担当者から出された疑義に全て反論した結果行われたものであるから、亡Hの疑問に答えるべく更正の理由を附記すべきであり、また、理由の附記を求めても原処分庁に問題を生じさせ、又は負担を課すものではない。
 したがって、本件更正等通知書に更正の理由を附記していないことは、本件更正処分の取消事由となる。
 所得税法第155条第2項は、青色申告書に係る年分の総所得金額等を更正する場合には更正通知書に更正の理由を附記しなければならない旨規定しているところ、亡Hが提出した確定申告書は青色申告書ではないから、本件更正等通知書に更正の理由の附記が求められているわけではない。
 したがって、本件更正等通知書に更正の理由を附記していないことが、本件更正処分の取消事由となるものではない。

(2) 判断

 所得税法は、青色申告書に係る更正処分の場合には、その通知書に更正の理由を附記しなければならない旨規定しているが(同法第155条第2項)、青色申告書以外の申告書(以下「白色申告書」という。)に係る更正処分については、平成23年法律第114号(平成23年12月2日公布)による国税通則法の改正前において、更正の理由を附記すべき旨の法令上の規定はない。
 当審判所の調査の結果によれば、まる1本件更正処分は白色申告書に係る更正処分であること、まる2原処分庁所属の職員は、平成23年7月8日、亡Hの住所において亡Hが不在であったため、同住所のマンション1階の亡Hの集合ポストに本件更正等通知書を差し置き、これを送達したことが認められるから、本件更正処分は、平成23年法律第114号による国税通則法の改正前にされた白色申告書に係る更正処分であることが認められる。
 そうすると、本件更正等通知書に更正の理由の記載がなくても、本件更正処分は違法ではなく、また、本件更正等通知書に更正の理由の記載がないからといって、本件更正処分が不当となるものでもないから、本件更正等通知書に更正の理由を附記していないことが本件更正処分の取消事由となるとの請求人の主張には理由がない。

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4 争点2について

(1) 主張

原処分庁 請求人
イ 保証債務の特例の適用を受けるための要件は、まる1債権者に対して債務者の債務を保証したこと、まる2上記まる1の保証債務を履行するための資産の譲渡であること、まる3上記まる1の保証債務を履行したこと、及びまる4上記まる3の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使できなくなったことである。 イ 保証債務の特例の適用を受けるための要件は、まる1債権者に対して債務者の債務を保証したこと、まる2上記まる1の保証債務を履行するための資産の譲渡であること、まる3上記まる1の保証債務を履行したこと、及びまる4上記まる3の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使できなくなったことであり、それ以上に債権者から解約請求があったこと等が要件とされるものではなく、保証債務の履行のためという目的の他に資産譲渡の動機が並存していたとしても、上記の要件を充足しないものとされるものではない。
ロ 亡HがJ社に代わって本件j町敷金をL社に返還したのは、亡Hの納付すべき亡P相続税の資金の捻出を目的として本件j町物件を譲渡したという事情に基因するものであり、亡Hが本件j町敷金の返還という保証債務を履行するために本件j町物件を譲渡したものとは認められない。
 また、亡Hが本件k町譲渡物件を譲渡した時には、既に本件j町物件の譲渡により得た金員があったことから、亡Hが本件k町敷金の返還という保証債務を履行するために本件k町譲渡物件を譲渡したものとは認められない。
ロ 本件では、まる1L社から解約の申入れがされて本件k町敷金を返還する必要に迫られていたこと、まる2本件k町譲渡物件の時価が値下がりしていたことから、本件k町敷金を返還するためには本件j町物件を譲渡して資金を捻出する必要があったことという事情に加えて、まる3亡P相続税の納付が必要になったことから、その解決策として本件j町物件と本件k町譲渡物件を譲渡したものであり、本件j町物件の譲渡には、亡P相続税の納付資金の捻出という目的もあったが、主たる目的は本件k町敷金の返還資金の捻出であり、結果として、上記の本件k町敷金の返還の問題と亡P相続税の納付の問題が一挙に解決したものである。
ハ したがって、本件j町物件及び本件k町譲渡物件の譲渡は、いずれも上記イのまる2の要件を充足していないから、本件j町物件及び本件k町譲渡物件の譲渡所得の金額の計算において、保証債務の特例を適用することはできない。 ハ したがって、本件j町物件及び本件k町譲渡物件の譲渡は、いずれも上記イのまる2の要件を充足しており、また、同まる1まる3及びまる4の要件も充足しているから、本件j町物件及び本件k町譲渡物件の譲渡所得の金額の計算において、保証債務の特例を適用すべきである。

(2) 判断

イ 認定事実
 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ) 本件j町敷金及び本件k町敷金の各返還債務と亡Hとの関係について
A 本件j町敷金の返還債務について
(A) 上記1の(4)のロの(イ)のAの(A)のe及び同Bの各事実によれば、亡Kは、J社が負担する本件j町敷金の返還債務について、自己が所有する本件j町物件を担保として提供し、当該債務を被担保債権とする抵当権を設定して物上保証をしていたものと認められ、また、上記1の(4)のロの(イ)のBの(A)及び同ハの各事実によれば、亡Hは、亡K及び亡Pを被相続人とする各相続を経て、本件j町物件を取得したことにより、本件j町売買契約の時点において、亡Kの上記物上保証人の地位を承継していたものと認められる。
(B) また、上記1の(4)のニの(ロ)のCの(A)のとおり、本件j町合意において、J社が負担する本件j町敷金の返還債務については、本件j町賃貸借契約の合意解約時には、連帯保証人である亡HがL社に対し、連帯保証の履行として返済すると合意されている事実が認められることに照らせば、亡Hは、遅くとも本件j町合意の時点までに、J社及びL社らとの間で、J社が負担する本件j町敷金の返還債務について連帯保証をする旨を合意したものと認められる。そして、本件j町売買契約の契約日付は平成21年1月9日(上記1の(4)のニの(イ))、本件j町合意の合意日付は同月14日(上記1の(4)のニの(ロ))であるが、まる1本件j町合意書の基本合意条項の定め方(上記1の(4)のニの(ロ)のA)や、まる2本件j町売買契約において履行期が同月14日と定められていること(上記1の(4)のニの(イ)のB)に加え、まる3請求人提出資料によれば、本件j町合意の合意日付が平成21年1月14日となったのは当事者が一堂に会する日が同日となったためであって、合意内容自体は同月8日には定まっていたと認められることからすると、本件j町売買契約と本件j町合意とは同時期に合意形成がされたものと認められ、そうすると、本件j町売買契約の時点において、実質的には既に本件j町合意が成立していたと解するのが相当である。
 したがって、亡Hは、本件j町売買契約の時点において、本件j町敷金の返還債務について、連帯保証人としての地位にもあったものと認められる。
(C) 以上からすると、亡Hは、本件j町売買契約の時点において、本件j町敷金の返還債務について、物上保証人であるとともに連帯保証人の地位にあったものと認められる。
B 本件k町敷金の返還債務について
 J社が負担する本件k町敷金の返還債務について、本件k町覚書には、亡KがJ社と連帯して履行する旨が記載されており(上記1の(4)のロの(ロ)のB)、この記載のみからすると、亡Kは連帯債務者の地位にあったとも考えられる。しかしながら、まる1本件k町敷金の返還債務について定める本件k町賃貸借契約の契約当事者はJ社とL社であって、当該債務を負担しているのは飽くまでJ社であること(上記1の(4)のロの(ロ)のAの(A))、まる2他方で、亡Kは、本件k町賃貸借契約の内容を承諾した上で、本件k町賃貸借契約書に署名押印していること(上記1の(4)のロの(ロ)のAの(A)及び同(B))も併せ考えると、本件k町覚書は、亡KがJ社及びL社との間で、J社が主債務者として負担する本件k町敷金の返還債務の連帯保証をすることを合意したものと解すべきである。そして、亡Hは、亡K及び亡Pを被相続人とする各相続を経て、本件k町売買契約の時点において、本件k町覚書の当事者としての地位を承継したものである(上記1の(4)のハ)から、亡Kの上記連帯保証人としての地位も承継したというべきである。本件k町覚書について上記のように解することは、本件k町敷金に関する「敷金領収書」に「J社に代わり連帯保証人である亡Hが支払った」旨記載されていること(上記1の(4)のホの(ロ))とも符合する。
 したがって、亡Hは、本件k町売買契約の時点において、本件k町敷金の返還債務について、連帯保証人としての地位にあったものと認められる。
(ロ) 亡Hが本件j町物件及び本件k町譲渡物件を譲渡した経緯について
A J社とL社は、平成16年、本件k町賃貸借契約の月額賃料を2,000,000円に減額する旨を合意した。
B L社は、平成17年11月17日、J社に対して、経営難を理由として、本件k町賃貸借契約を解約の上、本件k町敷金(500,000,000円)の返還を求めたい旨の意向を表明したが、J社は、償却後の本件k町敷金の返還額全額の資金繰りの見込みがつかなかった。
 そのため、J社及びL社は、双方の代理人弁護士による交渉を経て、平成17年12月16日、まる1J社は、平成18年1月31日限り、本件k町敷金のうち50,000,000円をL社に返還すること、まる2賃料の支払及び本件k町敷金への充当については、月額賃料の額は2,000,000円のままとするが、月額1,000,000円を本件k町敷金からの償却額とすることとして、L社の月々の実質的な支払額を月額1,000,000円とすることを合意して、本件k町賃貸借契約を継続していた。
C その後、平成20年5月○日に亡Pが死亡したことから亡P相続税の納付資金の捻出の必要性が生じ、亡Hは、本件j町物件及び本件k町賃貸物件の売却によって亡P相続税の納付資金を捻出することを検討するようになり、代理人弁護士を通じて、L社に対して買取りの意向の有無を確認するなどの交渉を試みたが、折り合いがつかずにいたところ、本件j町物件については、第三者であるMがL社が賃借した状態で買い受ける旨の意向を表明したことから、平成21年1月9日に本件j町売買契約が締結されることとなった。
 また、本件k町賃貸借契約については、L社が、平成21年2月24日に本件k町賃貸借契約の解約予告をしたため、同年8月31日をもって解約される(上記1の(4)のロの(ロ)のAの(C))こととなったところ、本件k町賃貸物件についても、第三者であるN社が買い受ける旨の意向を表明し、同年4月6日に本件k町売買契約が締結されることとなった。
(ハ) 本件j町敷金及び本件k町敷金の返還と求償権の取得等について
A 本件j町敷金について
 本件j町敷金のうちJ社がL社に返還すべき額(648,800,000円)は、平成21年1月14日に亡HからL社に対して返還されていると認められる(上記1の(4)のニの(ハ))ところ、まる1当該返還金の原資は、亡Hが所有する本件j町物件の売買代金の一部と認められること(上記1の(4)のニの(ロ)のCの(C)及び同(ハ)のA)、まる2亡Hは物上保証人としての地位にあったと認められること(上記(イ)のAの(A))からすると、本件j町敷金の返還は、物上保証人であった亡Hが、物上保証人として、J社がL社に対して負担する本件j町敷金の返還債務を代位弁済したものと認められる。
 したがって、亡Hは、上記代位弁済により、J社に対して、648,800,000円の求償権を取得したものと認められる(なお、亡Hは、連帯保証人としての地位にもあったと認められるところ(上記(イ)のAの(B))、本件j町合意には、亡Hが連帯保証債務の履行として本件j町敷金の返還を行う旨が定められている(上記1の(4)のニの(ロ)のCの(A))が、当審判所の調査の結果によっても、亡Hが本件j町敷金の返還債務に係る連帯保証債務の負担をすることとなった時期は判然とせず、そうすると、亡HがJ社に対する求償を前提とすることなく当該連帯保証をした可能性も否定できない。しかしながら、亡Hは、本件j町敷金の返還債務に係る物上保証人として、本件j町敷金の返還債務を代位弁済しているのであるから、仮に亡HがJ社に対する求償を前提とすることなく当該連帯保証をしていたとしても、そのことが上記認定に影響を及ぼすものではない。)。
B 本件k町敷金について
(A) 本件k町敷金のうち、平成21年6月12日の時点でJ社がL社に返還すべき額について
a 亡Hは、平成21年1月14日、L社に対して、本件k町敷金の一部として、2,700,954円を支払い、L社は、同日、亡Hに対して、本件k町敷金の一部として受領した旨記載された「領収證」を交付した。
b 上記1の(4)のホの(ロ)のBの事実によれば、本件口座からL社の預金口座に送金された301,200,000円は、本件k町敷金のうちJ社がL社に返還すべき額の返還金として送金されたものと認められるところ、上記301,200,000円の中には、上記aの2,700,954円が控除されずに含まれていた。
c したがって、本件k町敷金のうち、平成21年6月12日の時点でJ社がL社に返還すべき額は、301,200,000円から2,700,954円を控除した298,499,046円であったと認められる。
(B) 本件k町敷金の返還の状況等について
a 本件口座の残高の異動状況等は、以下のとおりである。
(a) 平成21年4月7日に本件k町譲渡物件の売買代金の手付金○○○○円(上記1の(4)のホの(ロ)のA)が入金される直前の本件口座の残高は、169,718円であった。
(b) 亡Hは、平成21年6月10日、まる1Q銀行q支店の亡H名義の普通預金口座から324,864,190円を出金し、また、まる2本件口座へ304,147,865円を振込入金した。
 上記まる2の振込入金直前の本件口座の残高は、179,028円であった。
(c) 平成21年6月12日に本件k町譲渡物件の売買代金の残代金○○○○円(上記1の(4)のホの(ロ)のA)が入金される直前の本件口座の残高(以下「本件残代金入金直前の残高」という。)は、306,244,244円であり、当該○○○○円が入金された直後の本件口座の残高は、○○○○円であった。
b 本件k町敷金のうちJ社がL社に返還すべき額(上記(A)の298,499,046円)は、平成21年6月12日に亡HからL社に対して返還されている(上記1の(4)のホの(ロ)のB。ただし、送金元は本件口座であり、送金額は301,200,000円である。)。
c まる1上記aの本件口座の残高の異動状況等からすると、上記bの返還金の原資は、本件残代金入金直前の残高306,244,244円及び本件k町譲渡物件の売買代金の残代金○○○○円であると認められること、まる2亡Hは本件k町敷金の返還債務の連帯保証人としての地位にあったと認められること(上記(イ)のB)、まる3L社が作成した平成21年6月12日付の「敷金領収書」において、L社は連帯保証人である亡Hが支払った保証履行金として301,200,000円を領収した旨が記載されていること(上記1の(4)のホの(ロ)のB)からすると、本件k町敷金の返還のうち本件k町譲渡物件の売買代金分に相当する金額である○○○○円を原資とする部分は、本件k町敷金の返還債務の連帯保証人であった亡Hが、連帯保証債務の履行として、J社がL社に対して負担する本件k町敷金の返還債務を代位弁済する資金に充てられたものと認められる。
d したがって、亡Hは、上記代位弁済により、J社に対して、求償権を取得したものと認められる(なお、求償権の額については後記ハの(ロ)において述べる。)。
(ニ) J社の決算状況及び破産手続の状況等について
A J社の平成14年6月1日から平成15年5月31日まで、平成15年6月1日から平成16年5月31日まで、平成16年6月1日から平成17年5月31日まで、平成17年6月1日から平成18年5月31日まで、平成18年6月1日から平成19年5月31日まで及び平成19年6月1日から平成20年5月31日までの各事業年度(以下、順次「平成15年5月期」、「平成16年5月期」、「平成17年5月期」、「平成18年5月期」、「平成19年5月期」及び「平成20年5月期」という。)並びに平成21年5月期の決算状況(主な損益科目並びに資産、負債及び資本の各残高)の推移は、別表2のとおりである。
B J社は、平成21年9月○日付で、T地方裁判所に対し、破産を申し立て、同月○日、破産手続が開始され、平成22年1月○日、破産手続が終結した。
C 上記BのJ社の破産申立書の別紙である「債務整理前の債権者一覧表」には、平成21年9月○日現在の亡HのJ社に対する債権額の総額は1,979,906,192円であり、当該債権額には本件j町物件及び本件k町譲渡物件の売買代金から代位弁済した本件j町敷金及び本件k町敷金の求償債権も含まれている旨記載されている。
D 上記BのJ社の破産申立書の別紙である「債権譲渡金(配当金)一覧表」には、亡HがJ社から受けた債権譲渡金(配当金)は107,152,180円である旨記載されている。
E J社の破産手続において作成された「財産目録及び収支計算書」によれば、まる1平成21年9月○日現在のJ社の資産は現金3,978,229円のみであること、まる2J社の債権者からの債権届出が1件もなかったため、事務費及び管財人報酬を除いた3,027,229円がJ社に返還されていることが認められる。
ロ 法令解釈
(イ) 所得税法第64条第2項の趣旨は、保証人が、将来保証債務の履行をすることとなったとしても、主債務者に対する求償権の行使により最終的な経済的負担は免れ得るとの予期の下に保証契約を締結したにもかかわらず、一方では、保証債務の履行を余儀なくされたために資産を譲渡し、他方では、求償権行使の相手方の無資力その他の理由により、予期に反して求償権を行使することができなくなった場合に、その資産の譲渡者は、実質的にみてその譲渡による所得を享受しているとはいえないため、資産の譲渡代金が回収不能となったときと同様、求償不能となった金額は所得計算上存在していなかったものとみなして課税上の救済を図り、その資産の譲渡に係る所得に対する課税を求償権が行使できなくなった限度で差し控えるべきとしたものと解される。
 上記の趣旨に照らせば、資産の譲渡について保証債務の特例を適用するためには、まる1債権者に対して債務者の債務の保証をしたこと、まる2上記まる1の保証債務の履行のための資産の譲渡であること、まる3上記まる1の保証債務を履行したこと、及びまる4上記まる3の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができなくなったことの4つの実体的要件が必要であると解される。
(ロ) そして、上記実体的要件にいう保証債務について、所得税基本通達64−4は、保証債務の履行があった場合とは、民法第446条に規定する保証人の債務又は同法第454条に規定する連帯保証人の債務の履行があった場合の他、他人の債務を担保するため抵当権を設定した者がその債務を弁済し又は抵当権を実行された場合も、その債務の履行等に伴う求償権を生ずることとなるときは、これに該当するものとしている(上記1の(3)のハ)。
 これは、連帯保証を含む保証債務の履行の他、他人の債務を担保するため抵当権を設定した者がその債務を弁済し又は抵当権を実行されたといった場合にも、保証債務の履行と同様の事情があるといえることから、上記(イ)の趣旨が妥当し、保証債務の特例の適用を認めるべきであるとの判断に基づくものと考えられ、当審判所も、上記通達の取扱いは相当であると考える。
(ハ) また、上記(イ)の趣旨に照らすと、上記実体的要件のまる2は、資産の譲渡による収入が保証債務の履行又は物上保証がされた債務の弁済に充てられたというけん連関係を要求するものであり、例えば、資産の譲渡による収入の一部が保証債務の履行又は物上保証された債務の弁済に充てられていなかったといった事情や、資産の譲渡の時期が主債務の返済期限の到来よりも先行したといった事情が存したとしても、そのことをもって直ちに上記実体的要件のまる2を欠くこととなるものではないと解される。
ハ 当てはめ
(イ) 上記ロの(イ)の実体的要件まる1ないしまる3について
A 本件j町物件の譲渡について
 上記イの(イ)のAのとおり、本件j町売買契約の時点において、亡Hは、J社がL社に対して負担する本件j町敷金の返還債務について、物上保証をしていたものであるから、上記ロの(イ)の実体的要件まる1を充足する。
 そして、本件j町物件の譲渡は、本件j町敷金の返還債務に係る物上保証人である亡Hがしたものであることは明らかであるし、また、本件j町敷金に係る返還金(648,800,000円)の原資は、本件j町物件の売買代金の一部であると認められる(上記1の(4)のニの(ロ)のCの(C)及び同(ハ)のA)から、上記ロの(イ)の実体的要件まる2を充足する。
 さらに、上記イの(ハ)のAのとおり、亡Hが、J社がL社に対して負担する本件j町敷金の返還債務を代位弁済しているから、亡Hが物上保証人として代位弁済をしたことも認められ、上記ロの(イ)の実体的要件まる3を充足する。
 以上からすれば、本件j町物件の譲渡については、上記ロの(イ)の実体的要件のまる1ないしまる3をいずれも充足する。
B 本件k町譲渡物件の譲渡について
(A) 上記イの(イ)のBのとおり、本件k町売買契約の時点において、亡Hは、J社がL社に対して負担する本件k町敷金の返還債務について、連帯保証をしていたものであるから、上記ロの(イ)の実体的要件まる1を充足する。
 そして、本件k町譲渡物件の譲渡は、本件k町敷金の返還債務に係る連帯保証人である亡Hがしたものであることは明らかであるし、まる1本件k町敷金に係る返還金の原資に充てられた本件k町譲渡物件の売買代金の残代金の額は、当該返還金の返還が、当該残代金が本件口座に入金された日に本件口座から送金する方法で行われていたこと(上記イの(ハ)のBの(B))からすると、当該残代金の全額○○○○円であると認められること、まる2L社が作成した平成21年6月12日付の「敷金領収書」において、L社は連帯保証人である亡Hが支払った保証履行金として301,200,000円を領収した旨が記載されていること(上記1の(4)のホの(ロ)のB)によれば、亡Hは、連帯保証債務の履行として、本件k町譲渡物件を譲渡したものと認められるから、上記ロの(イ)の実体的要件まる2を充足する(なお、上記ロの(ハ)で述べたことからすれば、本件k町売買契約の代金の一部(手付金)が連帯保証債務の履行に充てられていなかったとしても、上記結論を左右するものではない。)。
 さらに、上記イの(ハ)のBのとおり、亡Hが、J社がL社に対して負担する本件k町敷金の返還債務を代位弁済しているから、亡Hが連帯保証債務を履行したことも認められ、上記ロの(イ)の実体的要件まる3を充足する。
 以上からすれば、本件k町譲渡物件の譲渡については、上記ロの(イ)の実体的要件のまる1ないしまる3をいずれも充足する。
(B) なお、本件k町敷金に係る代位弁済は本件k町賃貸借契約の解約(平成21年8月31日)よりも前に行われている(平成21年6月12日)から、当該代位弁済はL社のJ社に対する本件k町敷金の返還請求権に係る停止条件(すなわち、本件k町賃貸借契約の終了後、L社が本件k町賃貸借契約に定める明渡しその他のL社の債務を完全に履行するという条件(上記1の(4)のロの(ロ)のAの(A)のdの(b)))が成就する前に行われていることとなるが、上記ロの(ハ)で述べたとおり、上記ロの(イ)の実体的要件のまる2は、資産の譲渡による収入が保証債務の履行に充てられたというけん連関係を要求するものであり、また、亡Hが本件k町譲渡物件を譲渡した経緯(上記イの(ロ))並びに本件k町譲渡物件の譲渡及び本件k町敷金の返還の状況(上記1の(4)のホ)によれば、亡Hは本件k町敷金の返還とのけん連関係がないのに本件k町譲渡物件の譲渡をしたものとも認められない。
 したがって、本件k町敷金に係る代位弁済が本件k町賃貸借契約の解約前に行われていることが、上記ロの(イ)の実体的要件のまる2を充足する旨の結論に影響を及ぼすものではない。
(ロ) 上記ロの(イ)の実体的要件まる4について
 上記イの(ニ)のBのとおり、J社については、平成21年9月○日に破産手続が開始され、平成22年1月○日に破産手続が終結しているところ、亡Hは、J社の破産手続中に、本件j町敷金及び本件k町敷金の各返還債務の求償権(本件j町物件の譲渡に係る求償権の額648,800,000円及び本件k町譲渡物件の譲渡に係る求償権の額○○○○円(上記(イ)のBの(A)))のうち、その一部を債権譲渡金(配当金)として回収しており(上記イの(ニ)のD)、また、残りの一部のうち、破産手続中に支払われたJ社への返還金3,027,229円(上記イの(ニ)のE)については求償権の行使が可能であったと認められるが、その他のJ社に対する亡Hの上記求償権は、J社の破産手続の終結により、行使不可能となったと認められる。
 以上からすれば、本件j町物件の譲渡及び本件k町譲渡物件の譲渡については、いずれも上記ロの(イ)の実体的要件のまる4を充足する。
(ハ) 保証債務の特例の適用について
 上記(イ)及び(ロ)のとおり、本件においては、上記ロの(イ)の実体的要件のまる1ないしまる4のいずれも充足することから、本件j町物件及び本件k町譲渡物件の各譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、いずれも保証債務の特例が適用されることとなる。
ニ 原処分庁の主張について
(イ) 原処分庁は、本件j町物件の譲渡は亡P相続税の納付資金を捻出するための譲渡であり、保証債務を履行するための譲渡ではないから、保証債務の特例は適用されない旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(ハ)で述べたとおり、上記ロの(イ)の実体的要件のまる2は、資産の譲渡による収入が保証債務の履行に充てられたというけん連関係を要求するものであり、資産の譲渡による収入の一部が他の用途に充てられたといった事情が存したとしても、そのことをもって直ちに上記実体的要件のまる2を欠くこととなるものではない。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
(ロ) また、原処分庁は、亡Hは、本件k町譲渡物件の譲渡の時点において、本件j町物件の譲渡により本件k町敷金を返還するのに十分な資金を保有していたことから、本件k町譲渡物件の譲渡は保証債務を履行するための譲渡に当たらず、保証債務の特例は適用されない旨主張する。
 しかしながら、保証債務の特例が設けられた趣旨に照らすと、その適用の要件は上記ロのとおりと解され、譲渡者の資産の保有状況が要件であるとは解されない。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

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5 本件更正処分について

 上記4の(2)のハの(ハ)のとおり、本件j町物件及び本件k町譲渡物件の各譲渡については、いずれも保証債務の特例の適用があるので、これを前提に亡Hの平成21年分の所得税について、譲渡所得の金額を計算すると、別表3の「審判所認定額」の「分離長期譲渡所得の金額」欄のとおりとなり、納付すべき税額は、別表4の「納付すべき税額」欄のとおりとなる。
 そうすると、別表4の「納付すべき税額」欄の金額は、本件更正処分前の納付すべき税額である別表1の「修正申告」欄の「納付すべき税額」欄の金額を下回るから、本件更正処分は、その全部を取り消すべきである。

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6 本件賦課決定処分について

 上記5のとおり、本件更正処分はその全部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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