(平成25年4月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、不動産貸付業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、a県(以下「県」という。)が実施する県民住宅経営安定化促進助成制度(以下「本件助成制度」という。)に基づいて一括交付を受けた金員を臨時所得に該当するとして、所得税法第90条《変動所得及び臨時所得の平均課税》に規定する平均課税を適用して計算した税額による確定申告をした後、平均課税を適用しないで修正申告をし、その後に、平均課税を適用して更正の請求を行ったところ、原処分庁において、当該金員は臨時所得に該当しないとして更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったため、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成22年分の所得税について、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに確定申告をし、次いで、平成23年3月16日に別表の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を提出した。
ロ その後、請求人は、平成24年3月5日に別表の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした。
ハ これに対し、原処分庁は、平成24年5月16日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成24年6月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月24日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の本件通知処分に不服があるとして、平成24年9月20日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 所得区分関係
(イ) 所得税法(平成23年法律第114号による改正前のもの。以下同じ。)第26条《不動産所得》第1項は、不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機(以下「不動産等」という。)の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう旨規定している。
 また、同条第2項は、不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする旨規定している。
(ロ) 所得税法第27条《事業所得》第1項は、事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう旨規定している。
(ハ) 所得税法第34条《一時所得》第1項は、一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう旨規定している。
(ニ) 所得税法施行令第63条《事業の範囲》は、所得税法第27条第1項に規定する政令で定める事業は、次に掲げる事業(不動産の貸付業又は船舶若しくは航空機の貸付業に該当するものを除く。)とする旨規定している。
A 農業(第1号)
B 林業及び狩猟業(第2号)
C 漁業及び水産養殖業(第3号)
D 鉱業(土石採取業を含む。)(第4号)
E 建設業(第5号)
F 製造業(第6号)
G 卸売業及び小売業(飲食店業及び料理店業を含む。)(第7号)
H 金融業及び保険業(第8号)
I 不動産業(第9号)
J 運輸通信業(倉庫業を含む。)(第10号)
K 医療保健業、著述業その他のサービス業(第11号)
L 上記AないしKに掲げるもののほか、対価を得て継続的に行う事業(第12号)
(ホ) 所得税法施行令第94条《事業所得の収入金額とされる保険金等》第1項は、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務を行う居住者が受ける次に掲げるもので、その業務の遂行により生ずべきこれらの所得に係る収入金額に代わる性質を有するものは、これらの所得に係る収入金額とする旨規定している。
A 当該業務に係るたな卸資産(譲渡所得の基因とされないたな卸資産に準ずる資産を含む。)、山林、工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの又は著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)につき損失を受けたことにより取得する保険金、損害賠償金、見舞金その他これらに類するもの(第1号)
B 当該業務の全部又は一部の休止、転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもの(第2号)
ロ 臨時所得関係
(イ) 所得税法第2条《定義》第1項第24号は、臨時所得について、役務の提供を約することにより一時に取得する契約金に係る所得その他の所得で臨時に発生するもののうち政令で定めるものをいう旨規定している。
(ロ) 所得税法第90条第1項は、居住者のその年分の変動所得の金額及び臨時所得の金額の合計額(その年分の変動所得の金額が前年分及び前前年分の変動所得の金額の合計額の2分の1に相当する金額以下である場合には、その年分の臨時所得の金額)がその年分の総所得金額の100分の20以上である場合には、その者のその年分の課税総所得金額に係る所得税の額は、次に掲げる金額の合計額とする旨規定している。
A その年分の課税総所得金額に相当する金額から平均課税対象金額の5分の4に相当する金額を控除した金額(当該課税総所得金額が平均課税対象金額以下である場合には、当該課税総所得金額の5分の1に相当する金額。以下「調整所得金額」という。)をその年分の課税総所得金額とみなして同法第89条《税率》第1項の規定を適用して計算した税額(第1号)
B その年分の課税総所得金額に相当する金額から調整所得金額を控除した金額に上記Aに掲げる金額の調整所得金額に対する割合を乗じて計算した金額(第2号)
(ハ) 所得税法第90条第3項は、同条第1項に規定する平均課税対象金額とは、変動所得の金額(前年分又は前前年分の変動所得の金額がある場合には、その年分の変動所得の金額が前年分及び前前年分の変動所得の金額の合計額の2分の1に相当する金額を超える場合のその超える部分の金額)と臨時所得の金額との合計額をいう旨規定している。
(ニ) 所得税法第90条第4項は、同条第1項の規定は、確定申告書に同項の規定の適用を受ける旨及び同項各号に掲げる金額の合計額の計算に関する明細の記載がある場合に限り、適用する旨規定している。
(ホ) 所得税法施行令第8条《臨時所得の範囲》は、所得税法第2条第1項第24号に規定する政令で定める所得は、次に掲げる所得及びこれらに類する所得とする旨規定している。
A 職業野球の選手その他一定の者に専属して役務の提供をする者が、3年以上の期間、当該一定の者のために役務を提供し、又はそれ以外の者のために役務を提供しないことを約することにより一時に受ける契約金で、その金額がその契約による役務の提供に対する報酬の年額の2倍に相当する金額以上であるものに係る所得(第1号)
B 不動産、不動産の上に存する権利、船舶、航空機、採石権、鉱業権、漁業権又は工業所有権その他の技術に関する権利若しくは特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるものを有する者が、3年以上の期間、他人にこれらの資産を使用させること(地上権、租鉱権その他の当該資産に係る権利を設定することを含む。)を約することにより一時に受ける権利金、頭金その他の対価で、その金額が当該契約によるこれらの資産の使用料の年額の2倍に相当する金額以上であるものに係る所得(譲渡所得に該当するものを除く。)(第2号)
C 一定の場所における業務の全部又は一部を休止し、転換し又は廃止することとなった者が、当該休止、転換又は廃止により当該業務に係る3年以上の期間の不動産所得、事業所得又は雑所得の補償として受ける補償金に係る所得(第3号)
D 上記Cに掲げるもののほか、業務の用に供する資産の全部又は一部につき鉱害その他の災害により被害を受けた者が、当該被害を受けたことにより、当該業務に係る3年以上の期間の不動産所得、事業所得又は雑所得の補償として受ける補償金に係る所得(第4号)

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人、県及びa県住宅供給公社(以下「公社」という。)は、平成6年12月20日、請求人が、特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律(平成5年法律第52号)に基づく供給計画の認定をa県知事(以下「県知事」という。)より受けて、建設・所有する住宅について、県は県民住宅として活用し、公社が請求人から借り上げ、管理に関する業務を行うことなどについて協定を結んだ。
ロ 請求人は、独立行政法人P(当時の名称はQ公庫。以下「旧公庫」という。)から建設資金の融資(以下、当該融資を「本件融資」といい、当該融資金を「本件融資金」という。)を受けて、平成8年3月4日に自らの所有する土地上に賃貸用住宅「R」(以下「本件住宅」という。)を新築した。また、請求人は、同年5月1日、上記イの協定に基づき、公社との間で、本件住宅を公社が県の実施するa県県民住宅制度における借上型の県民住宅として、転貸することを承諾の上、公社に賃貸する旨の賃貸借契約を締結した。
ハ 請求人は、平成8年7月以降、特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律その他の法令等に基づいて県が実施するa県優良民間賃貸住宅等利子補給助成制度(当時の名称はa県優良民間賃貸住宅制度。以下「本件利子補給制度」という。)に基づき、本件融資金の額等を基に所定の計算方法により算出した一定額の利子補給金(以下「本件利子補給金」という。)の交付(以下「本件利子補給」という。)を受けていた。
 なお、県知事は、本件利子補給に当たり、利子補給対象期間を平成8年7月13日から平成38年7月12日までの30年間とし、平成9年6月22日から、年2回ずつ、合計60回にわたり、一回当たり2,709,030円(6月分)の本件利子補給金(総額162,541,800円)を交付する旨決定していた。
ニ 請求人は、平成22年2月4日、要旨次の(イ)ないし(ニ)のとおり記載した「平成21年度県民住宅経営安定化促進助成申込書」と題する書面を県知事に提出し、県が実施する本件助成制度に基づき、本件利子補給金の交付予定額のうち、既に交付を受けた分を除いた額(第27回分ないし第60回分の本件利子補給金の合計92,107,020円)の一括交付(以下「本件一括交付」という。)を受けるための申込みをした。
(イ) 現在交付を受けている利子補給に係る住宅名 R
(ロ) 一括交付予定額 92,107,020円
(ハ) 予定している繰上返済の内容 旧公庫に対する本件融資に係る残債務の全額
(ニ) 資金計画
 A 繰上償還充当額    46,000,000円
 B 繰上償還諸費用     1,200,000円
 C 税金相当額      44,907,020円
 D 計(一括交付予定額) 92,107,020円
ホ 県知事は、請求人を本件一括交付の対象者として選定した上、交付金額を92,107,020円(上記ニの(ロ)の一括交付予定額と同額)とする旨決定し、平成22年2月15日付の交付決定通知書をもってその旨を請求人に通知した。
ヘ 請求人は、平成22年2月24日、S銀行e支店から275,000,000円の借換融資を受け、本件融資金の未返済額及びその利息額の合計319,657,151円を全額繰上償還(返済)し、その旨を県知事に報告した。
ト その後、県知事は、請求人に対する本件一括交付に係る交付金額を92,107,020円(上記ホの決定金額と同額)と確定し、平成22年3月19日付の額確定通知書をもってその旨を請求人に通知した。
チ 請求人は、平成22年4月5日に、上記ホの金員92,107,020円(以下「本件金員」という。)の交付を受けた。
リ 請求人は、本件金員を不動産所得の総収入金額に算入し、かつ、本件金員の全額が臨時所得に該当するとして、所得税法第90条を適用して平均課税による税額計算を行い、平成22年分の所得税の確定申告をした(別表の「確定申告」欄を参照)。
ヌ その後、請求人は、平成23年3月16日に、平均課税を適用しない内容の修正申告をしたが(別表の「修正申告」欄を参照)、平成24年3月5日に、上記リの確定申告と同内容による更正の請求をした(別表の「更正の請求」欄を参照)。
ル これに対し、原処分庁は、更正をすべき理由がないとして、平成24年5月16日付で本件通知処分をした(別表の「通知処分」欄を参照)。

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2 争点

 本件金員に係る所得は、不動産所得に該当し、かつ、所得税法第2条第1項第24号に規定する臨時所得に該当するか否か。

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3 主張

請求人 原処分庁
(1) 本件金員は、賃貸借契約の当事者でない県から受領したものであり、不動産等を使用又は収益させる対価としての性質を有しないから、「貸付けによる所得」とはいえない。このことからすれば、本件金員に係る所得は、一義的には一時所得に該当すべきものであるが、本件金員は、不動産所得の必要経費(支払利息)を補填する本件利子補給金の17年間分を一括で受けたものであるから、本件金員に係る所得は不動産所得に該当することとなる。
(2) 本件金員に係る所得は、以下の理由から臨時所得に該当する。
イ 臨時所得の平均課税は、所得税に累進税率が採用されていることの弊害を解決するために設けられた制度であるから、本件金員に係る所得が臨時所得に該当するか否かを判断するに当たっては、当該制度が設けられた趣旨を重視すべきである。
 そうすると、所得税法施行令第8条各号に掲げる所得は、臨時所得に該当する所得の例示にすぎず、臨時所得には、同条柱書の「これらに類する所得」も含まれる。そして、この「これらに類する所得」とは、当該各号に掲げる所得と並列、対等の関係にある所得、すなわちまる1その所得が事業所得、不動産所得又は雑所得に該当すること、及びまる2その所得の計算の基礎とされた期間が3年以上であることを必須条件とし、その所得の性格に応じて更にまる3金額基準(平年使用料等の2倍以上)を条件とするものと解するのが相当である。
ロ 本件金員は、賃貸借契約の当事者間で授受される金員ではないから、同条第2号に掲げる所得ではない。しかし、まる1上記(1)のとおり、本件金員に係る所得は、不動産所得に該当する。そして、まる2本件金員が、本件利子補給金の未交付の金額に相当する額であること、また、本件一括交付を受けると、当初の利子補給期間満了予定日までの今後17年間、利子補給期間中とみなされ、請求人は、従前と同様に本件利子補給制度における賃貸条件等を遵守する義務を負い、請求人が当該義務に違反した場合には、県知事はその年分以降の支給額の返還を求めることができることからすると、本件金員に係る所得の計算の基礎とされた期間は、本件利子補給金の未交付の金額の交付期間である17年とするのが相当であるから、3年以上であることは明らかである。さらに、まる3金額基準(平年使用料等の2倍以上)の条件が必要であるとしても、本件金員は、本件利子補給金の各年の交付額の2倍以上に該当する。
ハ したがって、本件金員に係る所得は、同条第2号に掲げる所得に類する所得に当たる。
(3) 仮に、本件金員が、「原処分庁」欄の(2)のハのとおり、本件利子補給金の未交付の金額(17年分)を一括して支給されたものでない(臨時所得に該当しない)場合は、本件金員に係る所得は、以下の理由から一時所得に該当する。
イ 本件金員は、賃貸借契約の当事者でない県から受けたものであり、また、本件住宅を使用又は収益させる対価でもない上、本件金員は、本件利子補給金のように、継続的に受けるものでも、不動産所得の必要経費を補填するためのものでもないから、その全額が一時所得の収入金額とされるべきである。
ロ 仮に、本件金員の全額が一時所得の収入金額とされないとしても、本件利子補給金が不動産所得の必要経費(支払利子)を補填するための金員として不動産所得の総収入金額に算入されることに照らせば、本件金員についても、本件融資金(借入金元本)の返済とその借換えに伴い生じた費用(登記費用等)の補填に当てられた部分以外の金額は、一時所得の収入金額とされるべきである。
(1) 本件金員は、請求人の不動産所得を生ずべき業務の用に供する資産である本件住宅の新築に係る本件融資金の繰上償還による負担軽減を目的として交付されたものである。また、本件金員は、本件利子補給制度等の定めを遵守して本件住宅の賃貸を継続することを条件に交付されるものである上、その使途は、上記繰上償還に限られている。さらに、本件金員の額は、請求人の不動産所得に係る費用の補填を目的とする本件利子補給金の未交付の金額を基に算出されている。
 これらのことからすれば、本件金員は、請求人の本件住宅の貸付業務の遂行に付随して生じたものであって、不動産所得に係る総収入金額に算入されるべきである。
(2) 本件金員に係る所得は、以下の理由から臨時所得には該当しない。
イ 所得税法施行令第8条柱書は、同条各号に掲げる所得のほか「その他これらに類する所得」も臨時所得に含まれる旨規定しているから、この「その他これらに類する所得」とは、「請求人」欄の(2)のイのまる1ないしまる3の各条件を満たす前提として、同条各号に掲げる所得に類するものでなければならないと解される。
 そして、同条第2号は、「請求人」欄の(2)のイのまる3の金額基準について、不動産等の使用料との比較を必要としているから、同号に掲げる所得とは、権利金、頭金等の、賃貸借契約の当事者間で授受されるものであると解される。そうすると、同号に類する所得も、賃貸借契約の当事者間で授受されるものであることを前提とする必要がある。
ロ 本件金員は、本件住宅の賃貸借契約の当事者間で授受されるものではないから、同条第2号に掲げる所得及びこれに類する所得のいずれにも当たらない。
ハ なお、本件一括交付は、本件住宅の建設資金に係る本件融資金を繰上償還させるための助成金であり、その交付金額が本件利子補給金の未交付の金額を基に算定されているとしても、将来の利子補給対象期間に係る利子補給金の繰上支給とはその性質を異にするから、本件利子補給金の未交付の金額を一括して支給するものではない。したがって、本件利子補給に係る利子補給対象期間や本件利子補給金の交付金額をもって、「請求人」欄の(2)のイのまる2の所得の計算の基礎とされた期間や、同まる3の金額基準に当てはまるか否かを判定することはできない。
(3) また、本件金員に係る所得は、以下の理由から一時所得に該当しない。
イ 所得税法第26条第1項に規定する不動産等の貸付けによる所得とは、「貸付けに基づく」又は「貸付けを原因とする」という意味であるから、不動産所得に係る総収入金額には、賃貸人が賃借人に対して一定の期間、不動産等を使用又は収益させる対価としての性質を有するもの及び所得税法施行令第94条第1項に規定するこれに代わる性質を有するもののほか、不動産等の貸付業務の遂行に付随して生じたもの(付随収入)も含まれると解される。
ロ 上記イの不動産所得の意義及び範囲に照らすと、本件金員に係る所得は、上記(1)のとおり不動産所得に該当し、そうである以上、その全額が、一時所得に該当しない。

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4 判断

(1) 法令解釈

イ 所得区分関係
(イ) 所得税法第26条第1項は、不動産所得とは、「不動産等の貸付けによる所得」である旨規定しているところ、この「貸付けによる」とは、「貸付けに基づく」又は「貸付けを原因とする」という意味に解されるから、その文理上、不動産所得に係る総収入金額には、賃貸人が賃借人に対して一定の期間、不動産等を使用又は収益させる対価としての性質を有するもののほか、これに代わる性質を有するものも含まれると解される。この趣旨は、所得税法施行令第94条第1項第2号が、不動産所得を生ずべき業務を行う者が受ける、当該業務の収益の補償として取得する補償金等で、その業務の遂行により生ずべき不動産所得に係る収入金額に代わる性質を有するものも、不動産所得に係る収入金額とする旨規定していることからも、明らかである。
(ロ) また、所得税法第26条第2項が、不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする旨規定していることに鑑みると、不動産所得の必要経費に算入される金額の補填を目的とする金員の支払や、同金額に係る未払債務の支払免除を受けた場合には、その支払や支払免除を受けた金額は、不動産所得の総収入金額に算入すべきである。
(ハ) さらに、不動産所得を生ずべき業務の性質・内容が、不動産等の貸付けによる利益の稼得を目的とした経済活動であることからすれば、当該業務の遂行に伴って本来企図した収入以外の収入が付随して生ずる場合もあり得るところ、所得税法が、所得の性質や発生の態様によって異なる担税力に応じた公平な課税の実現を図るため、所得をその源泉や性質によって区分して課税するものとしていることに鑑みると、上記(イ)のような本来企図した収入ではないが、不動産所得を生ずべき業務の遂行に伴い付随して生じた収入のうち、所得税法上、利子所得、配当所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得のいずれか(以下「他の所得」という。)に分類されないものについては、不動産所得の総収入金額に含まれると解するのが相当である。この趣旨は、所得税法第27条第1項及び所得税法施行令第63条に規定する事業所得を生ずべき事業の範囲との比較によっても、明らかである。すなわち、所得税法第27条第1項の委任を受けて事業所得を生ずべき事業の範囲を定める所得税法施行令第63条が、「不動産の貸付業又は船舶若しくは航空機の貸付業に該当するもの」を事業から除く旨規定していることからすると、所得税法第26条第1項に規定する「不動産等の貸付けによる所得」とは、不動産等の貸付業を含む不動産等の貸付業務から生ずる所得を意味するのであり、事業所得の場合と同様に、不動産等の貸付業務の遂行に伴って付随して生じた収入のうち、所得税法上、他の所得に分類されないものは、不動産所得に係る総収入金額に含まれると解される。
ロ 臨時所得関係
(イ) 所得税法は、所得の増加に応じて適用税率を累進的に増加させる超過累進税率を採用しているのであるが、臨時所得は、経常的に発生する所得ではないから、毎年経常的に発生する所得と同様の方式で課税すると経常的な所得に比べて過重な負担を強いる結果となる。そこで、臨時所得については、平均課税の方法(いわゆる5分5乗方式)により税額を計算し、超過累進税率を緩和し、税負担の軽減を図ることができるとされているところ、所得税法は、平均課税の対象となる臨時所得の範囲を、同法第2条第1項第24号により委任された所得税法施行令第8条に規定する所得に限定し、その限りで超過累進税率を緩和し、特別に税負担の軽減を図ることとしている。
(ロ) このような臨時所得及び平均課税の制度の目的及び内容や、各法規の文理解釈によれば、臨時所得の範囲は、所得税法施行令第8条第1号ないし第4号に掲げる各所得及び同条各号に掲げる所得に類する各所得のいずれかに該当するものに限定されるというべきである。そして、同条第2号に掲げる「資産を使用させることを約することにより一時に受ける権利金、頭金その他の対価」とは、権利金又は頭金のように、その使用を約することにより一時に受ける対価を指すものであり、また、同号に掲げる所得に類する所得とは、その文理上、資産の使用に係る対価そのものではないものの、これに類する性質を有する所得を指すと解するのが相当である。

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ a県優良民間賃貸住宅制度要綱及びa県優良民間賃貸住宅制度実施要領によれば、本件利子補給制度の概要は、以下のとおりである。
(イ) 本件利子補給制度は、土地所有者等がその土地を活用して優良な賃貸住宅を建設する場合に県がその建設資金について利子補給を行うことにより、優良民間賃貸住宅(土地所有者等が、この要綱に定めるところにより県の助成を受けて建設をした賃貸住宅)の供給を誘導するとともに、当該住宅を公社等が県民住宅(県民住宅制度要綱による県民住宅の用に供する特定優良賃貸住宅で、公社等が借上げ等の管理をする優良民間賃貸住宅)等として借上げ等の管理をすることにより、公共賃貸住宅の供給を促進し、もって県民の居住水準の向上に資することを目的とする。
(ロ) 県は、優良民間賃貸住宅を建設する土地所有者等で所定の要件を備えるものに対し、旧公庫の融資金を対象として、これに対する利子補給を行うものとする。
(ハ) 優良民間賃貸住宅の賃貸条件等(家賃の設定及び変更、入居者の募集及び選定の方法など)は、この要綱及び要領の定めるところによるものとする。
(ニ) 県知事は、優良民間賃貸住宅を建設して利子補給金の額の決定を受けた者が、まる1旧公庫から融資等の契約の解除等が行われた場合、まる2優良民間賃貸住宅が滅失し、又は著しく毀損したとき、まる3旧公庫に対し、利子補給対象の融資金等の残額を繰上償還したとき、まる4その他、この要領の規定に違反したとき、の一に該当するときは、利子補給に係る交付決定を取り消すことができる。
ロ 県民住宅経営安定化促進助成制度実施要綱には、本件助成制度の概要について、要旨以下のとおり定められている。
(イ) 本件助成制度は、県民住宅の認定事業者の建設時の借入金に係る返済の負担を軽減することにより、県民住宅の経営の安定化を図り、優良な住宅ストックの保全を図ることを目的とする(第1・目的)。
(ロ) 本件助成制度の対象となる者は、県民住宅の所有者で、本件利子補給制度による利子補給の交付決定を受け、申込日現在、利子補給期間が満了していない者とする(第3・対象者)。
(ハ) 県知事は、本件助成制度の対象となる者について、本件利子補給制度により交付決定を行った利子補給交付予定額のうち、既に交付した利子補給金を除いた額を一括して交付できるものとする(第4・一括交付)。
(ニ) この要綱に基づき県民住宅の利子補給に係る一括前渡し(以下「前渡し」という。)を受けた住宅については、前渡しを受ける前の利子補給期間満了予定日まで利子補給期間中であるものとみなし、前渡しを受けた者は、本件利子補給制度による賃貸条件等を遵守する義務を負うものとする(第5・義務の継続)。
(ホ) 県知事は、前渡しを受けた者が上記(ニ)の規定に違反した場合、当該年度以降分の支給額の返還を求めることができる(第6・交付金の返還)。
ハ 県民住宅経営安定化促進助成制度実施要領には、本件助成制度の細目について、要旨以下のとおり定められている。
(イ) 本件助成制度による助成を受けようとする者は、次に掲げる要件を満たす者でなければならない(第3・申込資格)。
A 平成9年度以前に本件利子補給制度による利子補給の交付決定を受けていること。
B 申込日現在、利子補給期間が満了していないこと。
(ロ) 県知事は、旧公庫の利用者である申込者から、所定の書類(県民住宅経営安定化促進助成申込書など)の提出があったときは、これを審査し、適格であると認める者を交付対象者として決定するとともに交付額を決定し、交付対象者に対し、交付決定通知書により通知する(第5・申込みに必要な書類、第6・交付の決定)。
(ハ) 県知事は、交付対象者から所定の書類(旧公庫への全額又は一部の繰上償還が完了した旨の報告書)の提出があったときは、これを審査し、適格であると認めるときは、利子補給金前倒しの額の決定を行い、当該利子補給金前倒しの額を決定したときは、交付対象者に額確定通知書により通知する(第7・繰上償還完了の報告、第8・額の決定)。
(ニ) 交付対象者のうち、旧公庫の利用者は、県知事から支払を受けた交付額を、旧公庫資金の全額繰上償還又は一部繰上償還に要した費用、並びにこれに係る手数料等諸費用及び公租公課等の用途に充てることができる(第10・交付金の用途)。
(ホ) 交付対象者が遵守すべき賃貸条件については、次のA又はBによる(第18・賃貸条件の遵守)。
A 県民住宅として管理している期間については、a県県民住宅制度要綱に定めるところによる。
B 県民住宅としての管理期間終了後(用途廃止の場合も含む。)については、本件利子補給制度に係る要綱及び実施要領に定めるところによる。ただし、利子補給期間満了予定日までの期間とする。
(ヘ) 県知事は、交付対象者が、まる1交付金を県知事が承認した目的以外に使用したことが判明したとき、まる2上記(ホ)に規定する条件を履行しなかったとき、の一に該当するときは、上記(ロ)の交付決定を取り消すことができる(第19・交付決定の取消し)。
(ト) 県知事は、上記(ヘ)の規定により交付決定が取り消されたときは、既に支払った交付金の全部又は一部の返還を求めることができる(第20・交付金の返還等)。
ニ 県知事から請求人に対して発せられた交付決定通知書(上記1の(4)のホ)及び額確定通知書(同ト)には、本件金員の支払を受けた後の請求人の義務等について、要旨次のとおり記載されている。
(イ) 交付対象者は、一括交付前の利子補給対象期間満了予定日まで、家賃等の限度や入居者の募集・選定方法など、本件利子補給制度に係る要綱及び実施要領に定める賃貸条件を遵守しなければならない。
(ロ) 県知事は、交付対象者が上記(イ)の義務その他の本件利子補給制度に係る要綱及び実施要領の規定に違反したときは、本件助成制度に係る交付金額の交付決定を取り消すことができる。また、既に支払った交付金の全部又は一部の返還を求めることができる。

(3) 当てはめ

イ 所得区分関係
(イ) 上記1の(4)及び上記(2)の各事実によれば、請求人は、県民住宅の所有者であり、当該住宅の建設に係る本件融資金について平成9年度以前に本件利子補給制度に基づく利子補給の交付決定を受けた上、本件利子補給を受けていた者であるところ、そもそも、本件利子補給制度は、県民住宅の所有者が一定の賃貸条件等を遵守して当該住宅を賃貸の用に供することを前提に、当該所有者に対し、当該住宅の建設に係る融資金を対象とする利子補給を行うというものであるから、本件利子補給制度により請求人に対して交付される本件利子補給金は、請求人が本件住宅を県民住宅として賃貸の用に供することに伴って交付される金員であり、上記(1)のイの不動産所得の意義等に照らせば、不動産所得の総収入金額に算入すべきものである。
(ロ) そして、請求人は、県民住宅の建設に係る融資金の返済の負担を軽減することにより、県民住宅の経営(すなわち県民住宅の所有者による不動産の貸付業務)の安定化と優良な住宅ストックの保全を図ることを目的とする本件助成制度に基づき、平成9年度以前に本件利子補給制度に基づく利子補給の交付決定を受け、かつ、当該利子補給に係る利子補給期間が満了していない者であることを要件とする本件一括交付の決定をも受けた者であるところ、本件一括交付に係る本件金員は、本件利子補給を受けた者を対象として、本件利子補給を受け続けた場合と同じくその利子補給期間の満了日まで一定の賃貸条件等を遵守して当該住宅を県民住宅として賃貸の用に供することを前提に、本件利子補給に係る交付予定額のうち、既に交付を受けた分を除いた額を一括して前渡しするというものであることからすれば、本件金員は、本件利子補給金と同じく、請求人が本件住宅を県民住宅として賃貸の用に供することに伴って交付される金員である。
(ハ) そうすると、本件金員は、請求人による不動産の貸付業務の遂行に伴って付随して生じた収入であり、所得税法上、他の所得に分類されるものではないから、本件一括交付を受けることが確定した日の属する平成22年分の請求人の不動産所得に係る総収入金額に算入すべきものである。
 したがって、本件金員に係る所得は、不動産所得に該当し、一時所得に該当しない。
ロ 臨時所得関係
 上記1の(4)のイないしハ及び上記(2)の各事実からすると、本件金員の金額算定の根拠としている本件利子補給金が、賃借人である公社に本件住宅を使用させるための対価とも、転借人である入居者に本件住宅を使用させるための対価ともいうことができない上、それぞれの対価に類する性質を有する所得ということもできないことから、上記(2)のロないしニのとおりの本件一括交付に係る本件金員も、賃借人である公社又は転借人である入居者に資産を使用させることを約することにより受ける「対価」そのものではないし、当該「対価」に類する性質を有するものでもない。よって、所得税法施行令第8条第2号に掲げる所得及び同号に掲げる所得に類する所得のいずれにも該当しない。また、上記1の(4)のイないしハ及び上記(2)の各事実によれば、本件金員が、同条第1号、第3号及び第4号に掲げる所得並びにこれらに類する所得にも該当しないことは明らかである。
 したがって、本件金員は、所得税法第2条第1項第24号に規定する臨時所得には該当しない。

(4) 請求人の主張について

イ 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)及び(2)のとおり、本件金員は、不動産所得の必要経費(支払利子)を補填する本件利子補給金の17年間分を一括で受けたものであるから、不動産所得に該当し、また、臨時所得の要件とされる、まる1その所得が事業所得、不動産所得又は雑所得に該当するものであること、まる2その所得の計算の基礎とされた期間が3年以上であること、さらにまる3その所得の性格に応じた金額基準(平年使用料等の2倍以上)も満たしているから、所得税法施行令第8条第2号に掲げる所得に類する所得に当たり、臨時所得に該当する旨主張する。
ロ しかしながら、本件金員に係る所得は、不動産所得に該当するものの、上記1の(4)のヘのとおり、本件融資の返済が終了している以上、本件融資の利子そのものについて補給するものとはいえない。また、上記(1)のロのとおり、ある所得が臨時所得に該当するか否かは、所得税法第2条第1項第24号及び所得税法施行令第8条の文理解釈によるべきであり、同条柱書に規定する「これらに類する所得」とは、同条第1号ないし第4号に掲げるいずれかの所得に類する所得であると解するのが相当である。請求人が主張する上記イのまる1ないしまる3の各要件は、同条第1号ないし第4号に掲げる所得に共通する要件であるとは認められるものの、当該各要件を満たしているものが全て同条各号に類する所得と解することはできないから、ただ単に上記イのまる1ないしまる3の各要件に該当することをもって、同条第2号に掲げる所得に類する所得に当たると解することはできない。
 したがって、請求人の上記主張は、採用することができない。
ハ さらに、請求人は、上記3の「請求人」欄の(3)のとおり、本件金員が臨時所得に該当しない場合、本件金員は、賃貸借契約の当事者でない県から受けたものであり、また、本件住宅を使用又は収益させる対価でもない上、本件金員は、本件利子補給金のように、継続的に受けるものでも、不動産所得の必要経費を補填するためのものでもないから、その全額が一時所得の収入金額とされるべきである旨主張する。
 しかしながら、不動産所得の意義及び範囲については、上記(1)のイのとおりに解釈するのが相当である。そして、本件金員の性質等は、上記(2)のロ及びハのとおりであるから、本件金員に係る所得は、請求人の不動産所得に該当し、一時所得には該当しない。
 したがって、これに反する請求人の上記主張は、採用することができない。

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5 本件通知処分について

 以上のとおり、本件金員に係る所得は、請求人の平成22年分の不動産所得に該当するが、所得税法第2条第1項第24号に規定する臨時所得には該当しない。
 したがって、請求人が、本件金員を臨時所得に該当するものとしてされた更正の請求に対し、更正をすべき理由がないとした本件通知処分は、適法である。

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6 その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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