(平成25年6月13日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、各種イベントの企画及び運営などを営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、「Kキャンペーン」と称する商品に係る取引に対して支払った金額を外注費として損金の額に算入し、法人税の確定申告書を提出していたところ、原処分庁が、「Kキャンペーン」と称する商品に係る取引はその実体がなく、事実を仮装したものであるとして、法人税の青色申告の承認の取消処分を行ったのに対し、請求人が、当該取引は実際に行われたものであるとして、同処分の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成21年6月1日から平成22年5月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に所得金額を○○○○円及び納付すべき税額を○○○○円と記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、原処分庁所属の調査担当職員(以下「原処分担当職員」という。)の調査に基づき、平成24年2月8日付で本件事業年度以後の法人税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色取消処分」という。)を、また、同月13日付で本件事業年度の法人税の所得金額を○○○○円及び納付すべき税額を○○○○円とする更正処分並びに過少申告加算税の額を○○○○円及び重加算税の額を○○○○円とする各賦課決定処分をそれぞれ行った。
ハ 請求人は、上記ロの処分のうち本件青色取消処分を不服として、平成24年4月6日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月27日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成24年7月25日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 法人税法第127条《青色申告の承認の取消し》第1項本文及び同項第3号は、同法第121条《青色申告》第1項の承認を受けた内国法人につき、その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し又は記録し、その他その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該事業年度まで遡って、その承認を取り消すことができる旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても認められる事実及び証拠によって容易に認められる事実である。
イ 請求人の概要等
 請求人は、平成15年6月○日に主たる事業目的を各種イベントの企画及び運営などとして設立された有限会社であり、その事業年度は毎年6月1日から翌年5月31日までであった。
 なお、請求人は、平成15年6月○日に本店所在地をd市e町○−○として設立され、その後数度にわたる異動を経て、最終的に平成20年10月7日に肩書地へ異動した後、平成23年5月○日に解散し、代表者であったH(以下「H代表」という。)を清算人として、同年8月○日に清算結了した旨の登記がされた。
ロ 青色申告の承認の経緯
 請求人は、平成16年9月30日に、当時の本店所在地の所轄税務署長であったL税務署長に対し、平成17年6月1日から平成18年5月31日までの事業年度以後の法人税について青色申告の承認を受けたい旨の申請書を提出したところ、L税務署長は、当該申請につき遅くとも平成18年5月31日までに承認又は却下の処分をしなかったため、法人税法第125条《青色申告の承認があったものとみなす場合》の規定に基づき、青色申告の承認があったものとみなされた。
ハ テレビ番組「M」に係る取引及び放送の状況
 請求人は、平成21年9月頃に、N社との間で、○○を題材とした「M」と称するテレビ番組(以下「本件番組『M』」という。)の制作及び同番組のP社での放送に係る取引を開始した。
 なお、本件番組「M」は、請求人のいわゆる持込番組(持込側がテレビ局に対し番組の企画を提供した上で、映像を持込側が用意し、テレビ局から放送時間枠を購入するもので、持込側は、当該放送時間枠のCM枠をスポンサーに販売し収入を得る一方で、テレビ局に対し放送時間枠の購入対価としての電波料の支払のほかに、制作会社に対し映像を制作するための制作費を負担するものをいう。)であり、P社とその後に放送を開始したN社及びQ社における本件番組「M」の放送状況は、次のとおりである。
(イ) P社
 P社は、平成21年10月から平成22年9月までは各月4回、平成22年10月から平成23年3月までは各月2回、それぞれ放送した。
(ロ) N社
 N社は、平成22年4月から同年9月までは各月4回、同年10月から平成23年3月までは各月2回、それぞれ放送した。
(ハ) Q社
 Q社は、平成22年10月から平成23年3月まで各月2回放送した。
ニ 「Kキャンペーン」に係る放送料金請求書
 請求人は、N社から、次表のとおりの放送料金請求書を受領した(以下、各放送料金請求書を「本件商品請求書」といい、当該各請求書の「番組タイトル」欄に記載された「N社Kキャンペーン3月分」及び「N社Kキャンペーン4〜5月分」を「本件商品」と、「当月差引請求額」欄に記載された金額を「本件商品請求額」という。)。

(単位:円)
番号 請求日付 番組タイトル 契約内容 請求額 消費税 当月差引請求額
まる1
2010年2月15日 N社
Kキャンペーン3月分
タイム電波料 3,600,000 180,000 3,780,000
まる2 2010年3月15日 N社
Kキャンペーン4〜5月分
タイム電波料 8,100,000 405,000 8,505,000

ホ 本件商品請求額の支払及び経理処理等
(イ) 本件商品請求額の支払
 請求人は、N社に対し、上記ニの順号まる1の「N社Kキャンペーン3月分」に係る本件商品請求額3,780,000円及び別表1記載のP社に係る本件番組「M」の平成22年3月分の放送料金請求書の「差引請求金額」欄の1,921,500円との合計額5,701,500円を、同年2月26日に支払った。
 さらに、請求人は、N社に対して、上記ニの順号まる2の「N社Kキャンペーン4〜5月分」に係る本件商品請求額8,505,000円及び別表2−1記載のP社に係る本件番組「M」の平成22年4月分の放送料金請求書の「差引請求金額」欄の504,000円から振込手数料840円を控除した金額との合計額9,008,160円を、同年3月25日に支払った。
(ロ) 請求人の経理処理及び税務処理
 請求人は、上記(イ)の各支払を、総勘定元帳にそれぞれ外注費として計上し、本件事業年度の法人税の所得金額の計算上、それぞれ損金の額に算入して、上記(2)のイのとおりの確定申告をした。
ヘ 本件青色取消処分に係る青色申告の承認の取消通知書の記載内容
 本件青色取消処分に係る青色申告の承認の取消通知書には、要旨、次のとおりの記載がある。
 本件青色取消処分の基となった事実として、「本件事業年度までの法人税確定申告書、決算書類及びその作成の基礎となった備付帳簿書類について調査したところ、請求人はN社から請求を受けた次表の『番組タイトル及び契約内容』について、いずれも本件事業年度中に放送が完了したとして、次表の金額の合計額12,285,000円を本件事業年度の外注費として計上していますが、当該金額のうち8,190,000円は、次表の『正当番組タイトル及び契約内容』及び『正当放送期間』のうち本件事業年度に放送が完了していない平成22年6月から同年9月までの外注費であるにも関わらず、N社に依頼し事実と異なる次表の『番組タイトル及び契約内容』の請求書を作成させることにより本件事業年度の外注費に計上し」たと記載されるとともに、このことが、法人税法第127条第1項第3号に規定する「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し、その他その記載事項の全体についてその真実性を疑うに足る相当の理由があることに該当する」との処分理由が記載されている。

 
外注費計上年月日 金額 請求年月日 番組タイトル及び契約内容 正当番組タイトル及び契約内容 正当放送期間
平成22年2月26日 3,780,000円 平成22年2月15日 N社
Kキャンペーン3月分
タイム電波料
M
タイム電波料
タイム制作費
平成22年4月

平成22年9月
平成22年3月25日 8,505,000円 平成22年3月15日 N社
Kキャンペーン4〜5月分
タイム電波料
合計 12,285,000円  

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2 争点

 本件商品請求額を外注費として帳簿に記載したことは、法人税法第127条第1項第3号に規定する「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し」たことに該当するか否か。

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3 主張

原処分庁 請求人
 請求人は、次のとおり、本件商品に係る取引がないにもかかわらず、本件商品請求書をN社に作成させて当該取引があるかのように仮装し、本件商品請求額を総勘定元帳の外注費勘定に記載した。  請求人は、次のとおり、N社との間で、本件商品に係る取引を行っており、取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して本件商品請求額を総勘定元帳の外注費勘定に記載した事実はない。
(1) N社のa支社勤務の営業職であったR、N社の経理部長であったS(以下「S部長」という。)の各申述によれば、請求人は、N社との間で、本件商品に係る取引を行っていなかった。 (1) 請求人は、平成22年1月頃、N社との間で、本件商品に係る取引を行っていた。
 本件商品の内容は、N社で放送される○○戦のスポーツ中継のCM枠(以下「○○戦CM枠」という。)の平成22年4月中の1回、5月中の1回(合計2回)のうちのCM12枠(1スポンサーにつき60秒。1回放送中に6社。4月に2回なども相談に応じる。)及びテレビ番組「T」(以下「番組『T』」という。)の公開収録の権利を同年1月中旬から下旬までの1週間あるいは10日間、独占的に販売する権利であった。
(2) 本件商品請求額は、平成22年4月から同年9月までの放送分の本件番組「M」に関する番組制作費及びN社で放送される電波料(以下「本件N社分電波料」という。)であった。
 N社は、本件商品請求額について、前受金として同社の総勘定元帳に記載した上、放送月を経過するに従って前受金から売上げに振り替える経理処理をしていた。
(2) 請求人は、平成22年4月から同年9月までの放送分の本件番組「M」に関して、N社との間で番組制作費及び本件N社放送分電波料を負担する契約をしていなかった。
 N社から、平成22年2月頃、同年4月から同年9月までの期間で空いている放送枠があり、本件番組「M」を放送したいと要請されたため、請求人は、これに応じたにすぎない。
(3) H代表は、放送が本件事業年度の翌期となる本件番組「M」の制作費及び本件N社分電波料を本件事業年度の損金の額に算入するため、平成22年1月末頃から同年2月15日までの間に、Rに対し、上記(1)のとおり本件商品は存在しないにも関わらず、本件商品請求書の作成を依頼し、N社をして、事実と異なる放送料金請求書を作成させた。 (3) H代表は、Rに対して、内容虚偽の本件商品請求書の作成を依頼したことはなかった。

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4 判断

(1) 法令解釈

 前記1の(3)のとおり、法人税法第127条第1項第3号は、青色申告の承認を受けた法人について、その事業年度に係る「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し又は記録し」ている場合には、当該事業年度まで遡って、その承認を取り消すことができる旨規定している。この場合、同項の「隠ぺい」とは、売上除外のように課税要件に該当する事実の全部又は一部を隠すことをいい、「仮装」とは、架空仕入れの計上、架空契約書の作成など存在しない課税要件事実が存在するように見せかけることをいうものと解される。

(2) 認定事実

 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件番組「M」の制作経緯
 請求人は、当初、P社に対し本件番組「M」の番組企画を持ち込んだが、当該番組の制作については、N社を通じて行うこととし、N社は、当該番組の制作をU社に発注した。これにより、請求人は、本件番組「M」に係る番組制作費とP社の電波料をN社に対し支払うこととなった。
ロ 本件番組「M」に係る平成22年4月分ないし同年9月分の放送料金について
 N社は、平成22年4月分ないし同年9月分のP社で放送された本件番組「M」に係る電波料(以下「本件P社分電波料」という。)についての放送料金請求書を、平成22年4月分については同年2月15日付で、同年5月分については同年3月15日付で、それぞれ別表2−1及び別表2−2のとおり作成し、請求人に送付した(ただし、当該各放送料金請求書の控えをN社は保存していない。)。
 これに対し、請求人は、平成22年4月分及び同年5月分の本件P社分電波料を、上記各放送料金請求書に基づいて同年3月25日及び同年4月23日にそれぞれ支払い、総勘定元帳の外注費勘定に計上した(同年6月分以降の本件P社分電波料についても、同年4月分及び同年5月分と同様にそれぞれ前月下旬頃に支払っている。)。
 なお、N社では、平成22年4月分ないし同年9月分の本件番組「M」に係る放送料金請求書として、本件P社分電波料に係る放送料金請求書以外には、下記ハの請求書を作成していた。
ハ 放送料金請求書の未送付
 N社は、平成22年4月分ないし同年9月分の本件番組「M」に係る放送料金請求書として、別表3のとおりの各月分の放送料金請求書を作成していたが、請求人には送付していなかった(以下、別表3のとおりの各月分の放送料金請求書を「本件未送付請求書」という。)。
 なお、本件未送付請求書の金額から本件P社分電波料の金額を控除した金額の6か月分の合計額が、本件商品請求額の合計額と一致する。
ニ N社の経理処理
 N社は、本件商品請求書に係る請求人からの受領額について、平成22年4月分ないし同年9月分の本件番組「M」に係る番組制作費及び本件N社分電波料の前受金として経理処理し、各月の放送が終了するごとに売上げに振替計上していた。
ホ ○○戦CM枠及び番組「T」の公開収録の権利の販売状況について
(イ) ○○戦CM枠の販売状況について
 N社は、広告代理店等に対して、平成22年3月から5月頃にかけて、同年4月○日、○日及び○日並びに同年5月○日及び○日放送の○○戦CM枠を販売していた(ただし、販売した広告代理店等に請求人は含まれていない。)。
(ロ) 番組「T」の公開収録の権利の販売状況について
 N社は、平成22年1月から同年9月までの放送分の番組「T」の公開収録の権利を販売していた(ただし、公開収録が行われた実績の中に請求人に対する権利の販売に基づくものはない。)。

(3) R、S部長及びH代表の申述等並びにN社の回答

 R、S部長及びH代表の原処分担当職員及び前記1の(2)のハの異議審理庁所属の調査担当職員(以下「異議担当職員」という。)に対する申述並びに当審判所に対する答述並びに当審判所のN社に対する質問に対しN社が当審判所に提出した平成24年11月28日付の回答書(以下「本件N社回答書」という。)の記載内容は、要旨、以下のとおりである。
イ Rの申述等
(イ) 原処分担当職員に対する申述
 本件商品は存在しておらず、本件商品請求書は、H代表に依頼されて作成したのであって、真実の内容は平成22年4月分ないし同年9月分の本件番組「M」に係る番組制作費及び本件N社分電波料である。
(ロ) 異議担当職員に対する申述
A 番組「T」の公開収録の権利は販売されるものではない。
B 本件商品請求書は、平成22年1月末頃にH代表から依頼されて作成し、請求人に送付したものであり、真実の内容は同年4月分ないし同年9月分の本件番組「M」に係る番組制作費及び本件N社分電波料である。
(ハ) 当審判所に対する答述
A 本件商品請求書は、平成22年2月中旬頃にH代表から作成を依頼され、業務部に口頭又はファックスで依頼し作成したものであり、番組タイトル名や請求金額はH代表からの指示どおりにしただけで、どうしてそのようにするのかとか、どうして2回に分割するのかという理由は聞いていない。
 また、H代表から本件番組「M」の番組制作費及び電波料の6か月分を前払したいという明確な話があったかどうか、どういうお金として支払うと言われたのかについては記憶が定かではない。ただし、N社としては、本件番組「M」の番組制作費等の前払という認識であり、H代表に対し、本件商品請求額を本件番組「M」の番組制作費及び電波料6か月分の前受金として処理する旨を伝えるとともに、社内的にも経理部にその旨を伝えた。
B N社では、営業担当者が契約を取ってきて、業務部に依頼して請求書を発行し、当該請求書作成のデータを経理部に回付することで売掛金等の債権管理をする。したがって、本件商品請求書の控えは、経理部がこれを正式の請求書であると認識すると本件商品の売上げとして計上されてしまうため、経理部には回付していない。
 なお、営業担当者は、広告代理店等の取引先との間で契約締結交渉を行うに当たり、広告代理店等から売上代金の支払を受ける時期については経理部の了承を得る必要がある。
C 請求人から入金された前受金について、経理部から本件P社分電波料が足りない旨の指摘を受けたため、私が業務部に伝えて本件P社分電波料の請求書を作成させ、請求人に対して送付したが、当該請求書の控えはN社では保存していない。また、本件商品請求額は本件番組「M」の番組制作費と本件N社分電波料であり、本件P社分電波料は含まれていないが、これは、H代表に言われたとおりにしただけであり、その理由は聞いていない。
D 広告代理店等に対しCM枠を一括していわゆる買い切りという形で販売すること(以下「買い切り契約」という。)があるが、その場合には放送日が決まっているのでCMスポンサーの決定に期限を設ける。広告代理店等は、仮に当該期限までに当該CM枠の購入者を見つけることができない場合であっても、N社に対しては当該CM枠の代金の全額を支払う必要がある。この場合、N社が当該CM枠を再販売することとなるが、広告代理店等から支払を受けた当該買い切り契約の代金がもらい得になるので、そういう場合には、その分をN社が別番組で広告代理店等に対して請求すべき代金に充てるという便宜を図るなど、持ちつ持たれつといった取引を行うこともある。本件番組「M」のQ社での放送もそういうことだと思う。
E 社外の者と合意の上、内容虚偽の請求書を送付することは社内的には許されていない。
F Q社では、平成22年9月頃に放送枠に空きができたため、本件番組「M」を同年10月から放送することが決定したが、その際、N社は、請求人に対し、Q社分の電波料を請求していない。
 なお、トラブルの後のサービスで、電波料を請求せずに放映することはある。
ロ S部長の原処分担当職員に対する申述
 営業担当者から内容虚偽の請求書を発行することを依頼され、営業部門が高額な長期契約の売上げを確保することができるようにするため、請求内容については特に精査することなく本件商品請求書を発行した。放送の始まる前に支払われた本件商品請求額については前受金として計上し、月の経過とともに売上げに振り替えていた。
ハ H代表の原処分担当職員に対する申述
(イ) 平成22年1月中旬頃にRと雑談している中で、○○戦CM枠と番組「T」の公開収録の権利を独占的に販売できる権利に係る買い切り契約の話があった。当該買い切り契約の具体的な内容は、N社で平成22年4月に1回と5月に1回の計2回放送される○○戦のCM12枠及び番組「T」の公開収録の権利を、請求人が契約開始日から平成22年1月末頃までの期間内に独占的に販売する権利である。
(ロ) 買い切り契約をした場合、その対象となったCM枠や権利の購入を希望する者はいかに大手の広告代理店であっても、権利者である買い手(本件の場合は請求人)から購入するほかないので、買い切り契約を締結することは、買い手のブランド力の向上につながることになる。つまり、買い切り契約は買い手が一定期間ある特定の放送枠や権利を販売することが独占できるということに重点が置かれ、その独占したことに対して対価を支払うのである。
 ただし、本件商品の合計金額は11,700,000円(消費税抜き)であるところ、一括で支払うことが難しいので、Rに分割払を依頼した結果、Rから3,600,000円と8,100,000円の2回払との提示があり、これを承諾した。
(ハ) 請求人としては、広告料収入を得ることができるかどうか考えたが、素材自体が魅力的だったので、購入することを決めた。新規顧客を獲得することができれば、今後、本件番組「M」のスポンサーになってもらえる可能性もあると考えた。
(ニ) 平成22年4月から同年9月までの間、本件番組「M」がN社で放送されたのは、当時、N社から、番組枠が空いていたので請求人が著作権を有する本件番組「M」を使用したい旨の連絡があったため、それに応じたものである。
ニ 本件N社回答書の記載内容
(イ) 本件番組「M」の平成22年4月から同年9月までの放送等について
 本件番組「M」の平成22年4月から同年9月までの放送は、P社では同年2月頃に、N社では同年3月頃にそれぞれ放送することが決定し、N社は、同年3月頃に番組制作をU社に発注した。
(ロ) ○○戦CM枠の販売について
 ○○戦CM枠の販売は、例年、1月から3月頃に行っているが、4月以降でも販売している場合がある。

(4) 争点について

イ はじめに
 本件について、原処分庁は、本件商品に係る取引がないにも関わらず、内容虚偽の本件商品請求書に基づき支払った本件商品請求額を本件事業年度の外注費として帳簿書類に記載したことが、法人税法第127条第1項第3号に掲げる青色申告の承認の取消要件に該当するとしていることから、本件商品に係る取引はなく、本件商品請求書の内容が虚偽であるか否かが問題となる。
 そして、原処分庁は、R及びS部長の申述並びにN社における経理処理を根拠として、本件商品に係る取引はなく、H代表がRに対して内容虚偽の本件商品請求書の作成を依頼したと主張するのに対し、請求人は、本件商品に係る取引は実際に行われており、本件商品請求書は内容虚偽のものではない上、H代表がRに対して本件商品請求書の作成を依頼した事実はない旨主張する。
ロ R及びS部長の申述の信用性について
 そこで、まず、原処分庁の主張(本件商品請求書が内容虚偽である)の根拠とする本件商品請求書の作成の経緯についてのR及びS部長の申述等の信用性について判断する。
(イ) 本件商品請求書の作成の経緯について、Rは、上記(3)のイの(イ)及び(ロ)のとおり、本件商品請求書は、H代表から依頼されて作成したものであり、本件商品は存在せず(番組「T」の公開収録の権利は販売されるものではない。)、本件商品請求額の真実の内容は、本件番組「M」に係る平成22年4月分ないし同年9月分の番組制作費及び本件N社分電波料である旨申述する。
 しかしながら、上記(2)のホの(ロ)のとおり、N社は、番組「T」の公開収録の権利を販売していたことが認められるから、Rの上記申述はこれと明らかに反する上、上記(3)のニの(イ)のとおり、N社は本件番組「M」を同放送局において平成22年4月から放送することが確定したのは同年3月頃であった旨回答しているところ、本件商品請求書は平成22年2月15日付で発行されていることからすると、H代表がまだ放送することも確定していない番組の制作費等を前払することを前提として本件商品請求書の作成を依頼することは不可能であると認められ、仮に、N社における放送の話が同年2月頃から出始めていたとしても、N社と具体的な交渉を経ずに請求金額を指示したというのは想像し難い。この点に関し、Rは、本件商品請求額が本件番組「M」に係る平成22年4月分ないし同年9月分の番組制作費及び電波料として受領することになったことについて、具体的な申述等を全くしていないどころか、むしろ、上記(3)のイの(ハ)のAのとおり、Rは、H代表から本件番組「M」に係る番組制作費及び電波料の6か月分を前払したいと明確な話があったかどうか記憶が定かでなく、H代表の指示どおりにしただけである旨曖昧な答述に終始しているところ、仮に、そうであったとしても、上記(3)のイの(ハ)のEのとおり、Rは、内容虚偽の請求書を送付することは社内的には許されていなかった旨答述している(当該答述は、一般的に当然のことと認められる。)ことからすると、同人がH代表からの依頼に対し何ら疑問を呈さずに内容虚偽の請求書の作成を承諾したというのは、甚だ疑問であるといわざるを得ない。
(ロ) この点に関し、S部長は、上記(3)のロのとおり、営業担当者から内容虚偽の請求書を発行することを依頼され、請求内容については特に精査することなく本件商品請求書を発行した旨申述しており、当該申述はRの申述と符合するところ、S部長の当該申述は、同人の社内における役職を考慮すると明らかに軽率であり直ちに信用することができないばかりか、上記(3)のイの(ハ)のBのとおり、Rは、本件商品請求書の控えは経理部には回付していない旨答述しているにも関わらず、経理部長であるS部長が本件商品請求書を発行した経緯について申述すること自体が極めて不自然であるといわざるを得ない。
(ハ) 以上のとおり、本件商品請求書がH代表から作成を依頼されたとするRの申述及びその申述に符合するS部長の申述には、不自然な点が散見され、にわかに信用することはできない。
ハ N社における経理処理について
 次に、N社における本件商品請求額の経理処理についてみてみると、上記(2)のニの経理処理からは、原処分庁が主張するとおり、本件商品請求額が当初から本件番組「M」の番組制作費及び本件N社分電波料に充てられることを予定して本件商品請求書が作成された可能性があることは否定できない。
 しかしながら、N社では、上記(3)のニの(イ)のとおり、本件番組「M」をN社において平成22年4月から放送することが決定したのは同年3月頃である旨回答していることからすると、本件商品請求書が作成された平成22年2月15日の時点で本件N社分電波料等に充てられることを予定していたというのは明らかに矛盾する。この点、本件番組「M」のN社における放送開始の決定が平成22年2月15日前であったと仮定すれば、原処分庁の主張も直ちに否定できず、R及びS部長もそれに沿う申述等をするが、R及びS部長の申述等が信用し難いことは上記ロで認定説示したとおりであって(なお、Rは、本件商品に係る請求人からの前受金は本件P社分電波料に相当する金額が不足していると経理部から指摘を受けたため本件P社分電波料に係る放送料金請求書を作成した旨答述する(上記(3)のイの(ハ)のC)が、本件商品請求書が当初から本件番組「M」の番組制作費及び本件N社分電波料の前払として作成されたものであるとすれば、そのような指摘をすること自体が不自然であるし、本件商品請求書と本件P社分電波料に係る放送料金請求書はいずれも平成22年2月15日付で作成されているのであるから、指摘を受けて作成したという経緯も不自然であり、当該答述も信用できない。)、むしろ、N社における経理処理からは、本件商品に係る取引において請求人は何ら収益を上げることができなかったため、その善後策として、N社が請求人に対し本来請求すべき本件番組「M」の番組制作費及び本件N社分電波料を請求しないこととした可能性も否定できず、そのため、N社では、その経理処理に沿うような別表3の本件未送付請求書を事後的に作成した可能性も否定できない(ただし、別表3の本件未送付請求書には本件P社分電波料が含まれているところ、本件P社分電波料については、上記(2)のロのとおり、別途請求書が送付され、本件商品請求額とは別に支払がされているのであるから、N社が、本件商品請求書に係る請求人からの受領額を本件番組「M」に係る番組制作費及び本件N社分電波料の前受金とし、これに沿う請求書を作成するのであれば、本件未送付請求書に本件P社分電波料を含めて作成する必要はなかったと認められ、なぜ本件P社分電波料が含まれているのか、また、なぜ請求人に送付された本件P社分電波料に係る請求書の控えを保存していないのかなど、N社における経理処理には不自然な点が認められるが、この点も本件商品請求書が内容虚偽のものであることを裏付けるものではない。)。
ニ 本件商品に係る取引について
 そうすると、結局、本件商品に係る取引が実際にあったのかどうかが問題となるので、以下、この点について判断する。
(イ) 上記(3)のニの(ロ)のとおり、N社は、例年1月から3月頃にかけて○○戦CM枠の販売を行っていた旨回答し、また、N社は、番組「T」の公開収録の権利を実際に販売していたことが認められるところ、これらのことは、平成22年1月頃に本件商品に係る取引を行ったとする請求人の主張と矛盾するものではない上、上記(3)のイの(ハ)のDのRの答述(広告代理店等にCM枠を一括で買い切りという形で販売することもある旨)とも矛盾していないことに加え、Rは、当該代理店が期限までにスポンサーを見つけられない場合は、既に支払を受けた代金をその後に請求すべき代金に充当することもある旨答述していることからすると、請求人はN社との間で本件商品に係る取引を行ったが、結局、請求人はスポンサーを見つけることができなかったことから、N社において当該CM枠を平成22年3月から5月頃にかけて再販売し、その見返りとして本件商品請求書に係る請求人からの受領額を本件番組「M」に係る平成22年4月分ないし同年9月分の番組制作費及び本件N社分電波料に充当することで、請求人に対しその請求をしないこととしたとしても何ら不自然ではない(むしろ、Rは、本件番組「M」のQ社での放送もそういう趣旨である旨答述し(上記(3)のイの(ハ)のD及びF)、暗に、請求人が本件商品に係る取引からは何ら結果を出すことができなかったことに対する見返りとして、N社が請求人に対し便宜を図った事実があることを窺わせる答述をしている。)。
(ロ) また、本件商品請求額は決して少額とは認められず、前記1の(4)のホのとおり、2回に分割して支払われていることからすると、H代表があえて本件番組「M」の6か月分の対価を前払したいと自ら要請したというのは甚だ疑問であり、仮に、当該要請の目的が外注費の前倒し計上、すなわち所得金額の圧縮にあるとしても、請求人は5月決算であるから、1月又は2月の時点で5月までの決算の状況を予想することは困難であると考えられる上、決算が近い時期に費用を前倒し計上するならまだしも、決算までまだ間がある2月及び3月に向こう6か月分の代金を前払したいとするのは、一般的には考えにくく、むしろ、H代表が申述するとおり(上記(3)のハの(ロ))、H代表はRから本件商品の取引を持ちかけられたが、一括で支払うことは困難であると判断し分割払を要請したところ、Rがその要請に応じたとすれば何ら不自然ではない(この点に関し、Rは、上記(3)のイの(ハ)のBのとおり、N社では売上代金の支払を受ける時期について経理部の了承を得る必要がある旨答述していることから、本件商品請求額を2回に分割して請求書を発行するに当たっても、経理部の了承を得ているものと推認される。)。
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)からすれば、請求人は、N社との間で本件商品に係る取引を行ったものの、結局、期限までにスポンサーを獲得することができなかったため、N社は、その見返りとして請求人から受領した本件商品請求額を、本件番組「M」を平成22年4月からN社において放送することが決定したことを受けて、同年4月分ないし同年9月分の当該番組の制作費及び本件N社分電波料に充当することとし、請求人に対してこれを請求しないこととしたと推認するのが合理的である。
ホ まとめ
 以上のことからすると、原処分庁が本件青色取消処分を適法であると主張する理由の主要な事実、すなわち、H代表が内容虚偽の本件商品請求書の作成をRに対し依頼した事実を推認することはできず、当審判所の調査の結果によっても、かかる事実を認めるに足りる証拠は見当たらない。
 したがって、請求人が、「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し」た事実を認めることはできないから、原処分庁の主張は採用することができない。

(5) 本件青色取消処分について

 以上のとおり、本件においては法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由を認めることはできないから、本件青色取消処分は、これを取り消すべきである。

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