(平成25年7月9日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、不妊治療専門のクリニックを経営する審査請求人(以下「請求人」という。)が、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入した開業費の償却費、接待交際費及び旅費交通費の各一部の費用について、原処分庁が、当該各費用は、請求人の業務の遂行上必要なものとは認められず、必要経費に算入できないとして所得税の各更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該各費用は、請求人の業務の遂行上必要なものであるとして、当該各更正処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成20年分、平成21年分及び平成22年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、平成20年分の所得税について別表1の「修正申告等」欄のとおりとする修正申告書を平成23年11月9日に提出した(以下、平成20年分の修正申告と平成21年分及び平成22年分の確定申告とを併せて「本件確定申告等」という。)。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成23年11月28日付で、別表1の「修正申告等」欄のとおり、過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ニ その後、原処分庁は、平成24年3月8日付で、本件各年分の所得税について、別表1の「更正処分等」欄のとおり、各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ホ 請求人は、上記ニの各処分を不服として、平成24年4月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月23日付で、別表1の「異議決定(一部取消し)」欄のとおりとする一部取消しの異議決定をした(以下、当該異議決定によりいずれもその一部が取り消された後の上記ニの各処分を、順に「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」という。)。
ヘ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成24年9月21日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 必要経費関係
(イ) 所得税法第37条《必要経費》第1項は、その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、事業所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他事業所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定している。
(ロ) 所得税法第45条《家事関連費等の必要経費不算入等》第1項第1号は、家事上の経費(以下「家事費」という。)及びこれに関連する経費(以下「家事関連費」という。)で政令で定めるものの額は、その者の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入しない旨規定している。
(ハ) 所得税法施行令第96条《家事関連費》は、所得税法第45条第1項第1号に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする旨規定している。
A 家事関連費の主たる部分が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費(第1号)
B 上記Aに掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事関連費のうち、取引の記録等に基づいて、事業所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分の金額に相当する経費(第2号)
ロ 開業費関係
(イ) 所得税法第2条《定義》第1項第20号は、繰延資産とは、事業所得を生ずべき業務に関し個人が支出する費用のうち、支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもので政令で定めるものをいう旨規定しており、これを受けて所得税法施行令第7条《繰延資産の範囲》第1項第1号において、開業費とは、個人が支出する費用(資産の取得に要した金額とされるべき費用及び前払費用を除く。)のうち、事業所得を生ずべき事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用をいう旨規定している。
(ロ) 所得税法第50条《繰延資産の償却費の計算及びその償却方法》第1項は、その年12月31日における繰延資産につきその償却費として同法第37条(必要経費)の規定によりその者の事業所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、その繰延資産に係る支出の効果の及ぶ期間を基礎として政令で定めるところにより計算した金額とする旨規定しており、これを受けて所得税法施行令第137条《繰延資産の償却費の計算》第1項第1号では、同令第7条第1項第1号に掲げる開業費の償却費について、その開業費の額を60で除し、これにその年において事業所得を生ずべき業務を行っていた期間の月数を乗じて計算した金額とする旨規定した上で、同令第137条第3項において、居住者が、当該開業費につきその年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額として、当該開業費の額の範囲内の金額をその年分の確定申告書に記載した場合には、開業費の償却費の金額は、同条第1項第1号の規定にかかわらず、当該金額として記載された金額とする旨規定している。
ハ 過少申告加算税関係
 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書が提出された場合において、更正があったときは、その更正により納付すべき税額を基礎として過少申告加算税を課する旨規定し、同条第4項は、更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、その更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、当該納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額を控除して、同条第1項の規定を適用する旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、平成20年○月○日、r県e市f町○−○において、名称を「Jクリニック」とする不妊治療専門のクリニック(以下「本件クリニック」という。)を開設した。
ロ 原処分庁は、原処分に係る調査の結果に基づいて、請求人が本件各年分の事業所得の必要経費に算入した開業費の償却費、接待交際費及び旅費交通費の一部について必要経費に算入することはできないとして、本件各年分の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ハ これに対し、平成24年4月26日、請求人が異議申立てをしたところ、異議審理庁は、上記ロにおいて否認した各費用の一部を認容し、上記ロの各処分の一部を取り消す異議決定をした。
ニ 請求人は、上記ハの異議決定を経た後、請求人の本件各年分の事業所得の金額は、別表2の「請求人主張額」欄のとおりであるとして、審査請求をした。
 なお、以下、請求人が必要経費であるとして主張する、本件各年分の開業費、接待交際費及び旅費交通費を併せて「本件各費用」という。
ホ なお、請求人は、請求人の住所地であるr県s市d町○−○を納税地としていたが、所得税法第16条《納税地の特例》第2項の規定に基づき、平成22年12月1日に、納税地を本件クリニックの所在地であるr県e市f町○−○に変更した。

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2 争点

 本件の争点は、次の2点である。

  1. 争点1 本件各費用は、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入されるか否か。
  2. 争点2 本件確定申告等が過少申告となったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるか否か。

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3 主張及び判断

(1) 争点1について

イ 主張

原処分庁 請求人
(イ) 接待交際費について
 請求人が本件各年分の接待交際費として必要経費に算入されると主張する各費用について、請求人から個別具体的な内容についての説明等もなく、このような状況の下で、請求人が接待の目的を飲食の相手によって区分しても、当該目的に信ぴょう性がないと認められたことから、客観的にみて、これらの費用の主たる部分が請求人の業務と直接関係をもち、かつ、当該業務の遂行上必要なものとは認められず、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにしたということもできない。
 したがって、請求人が本件各年分の接待交際費として主張する各費用は、必要経費に算入されない。
(イ) 接待交際費について
 別表3の(1)のまる1、(2)のまる1及び(3)のまる1の「請求人主張額」の各欄の各費用は、以下の理由から、請求人が医療関係者等に対し、飲食店やクラブ等で接待供応を行ったものであり、業務上の情報提供、意見交換及び請求人の患者の入院、手術、検査等における利益や便宜の供与を図るものであるから、当該各費用は、業務と直接関係をもち、業務の遂行上必要なものである。
 したがって、上記各費用は、必要経費に算入される。
A 本件クリニックは、無床の不妊治療に特化していることから、当院だけでは治療が完結しない場合は、他の医療施設との連携が必要となってくるため、どれだけの人脈があるかが必要となってくる。
B また、不妊治療は、日々急速に進歩しており、請求人は、最新の情報を得て日々技術が向上している。そのためには、通常の学会に出席しているだけではなく、医療関係者と連絡を密にして最新の情報を得る必要がある。
(ロ) 旅費交通費について
A 請求人が上記(イ)の接待交際の際に移動のために利用したと主張するタクシー料金は、当該接待交際に係る費用が請求人の業務と直接関係をもち、かつ、当該業務の遂行上必要なものとは認められない以上、請求人の業務の遂行上必要なものとは認められず、必要経費に算入されない。
B 請求人が主張する上記A以外のタクシー料金については、乗降の場所及び移動の目的が個別に明らかでないことから、客観的にみて、請求人の業務と直接関係をもち、かつ、当該業務の遂行上必要なものとは認められず、必要経費に算入されない。
C 請求人が必要経費に算入されると主張する有料高速道路料金(以下「高速代」という。)及び時間貸駐車料金(以下「駐車場代」という。)については、請求人から個別具体的な内容についての説明等がないことから、客観的にみて、請求人の業務と直接関係をもち、かつ、当該業務の遂行上必要なものとは認められず、必要経費に算入されない。
(ロ) 旅費交通費について
A 別表3の(1)のまる2、(2)のまる2及び(3)のまる2の「請求人主張額」の各欄の各費用のうち、上記(イ)の接待交際に伴うタクシー料金は、接待供応に通常付随する支出であり、業務の遂行上必要なものであるから、必要経費に算入される。
B 上記A以外のタクシー料金は、業務に関連する備品等の購入の際の移動手段等のために支出したものであり、業務の遂行上必要なものであるから、必要経費に算入される。
C 別表3の(1)のまる2、(2)のまる2及び(3)のまる2の「請求人主張額」の各欄の各費用のうち、高速代及び駐車場代については、事業専用割合100%である自動車(以下「本件g自動車」という。)に係る費用であり、業務の遂行上必要なものであるから、必要経費に算入される。
(ハ) 開業費について
 請求人が開業費に該当するとして主張する各費用について、請求人から個別具体的な内容についての説明等がないことから、客観的にみて、当該各費用の主たる部分が請求人の業務と直接関係をもち、かつ、当該業務の遂行上必要なものとは認められない。
 したがって、請求人が開業費として主張する各費用は、開業費に該当せず、その償却費は必要経費に算入されない。
(ハ) 開業費について
 別表3の(1)のまる3の「請求人主張額」欄の各費用は、請求人が本件クリニックを開業するに当たり、打合せのために利用したタクシー代や開業に際し他の医師等に相談した時の飲食代、業務専用に使用するパソコンの購入代等の各費用であり、当該各費用は、開業準備のために特別に支出した旅費、調査費、接待費等であるから、開業費に該当する。
 したがって、その償却費は必要経費に算入される。

ロ 判断
(イ) 法令解釈等
A 所得税法第37条第1項に規定する「販売費、一般管理費及びその他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」とは、当該業務の遂行上生じた費用、すなわち業務と関連のある費用をいうが、単に業務と関連があるというだけでなく、客観的にみてその費用が業務と直接の関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要なものに限られると解するのが相当である。
B なお、個人の場合には活動全てが利益追求ではなく、所得獲得活動の他にいわゆる消費生活があるので、個人の支出の中には収入を得るために支出されているとは言い難い、むしろ所得の処分としての性質を有しているというべきものがある。例えば、食費・住居費等がその代表である。所得税法第45条は、これらを家事費と呼び必要経費に含めないことを明記している。
 しかし、ある支出が家事費であるかそれとも事業上の経費であるか明確に区分けできない場合も多く、また、例えば店舗兼用住宅の減価償却費のように、家事費と事業上の経費とが混在している場合も少なくない。
 そこで、所得税法第45条は、両方の要素を有している支出を家事関連費といい、必要経費になる部分が明らかでないためこれを原則として必要経費に含めないとしつつ、所得税法施行令第96条に規定する事業の遂行上明らかにできる一定部分に限ってこれを必要経費に算入することを認めている。
 このように、所得税法は、明確に事業上の経費といえないものは、原則として必要経費としないこととしているのである。
(ロ) 認定事実
 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、K医大を卒業後、同大学産婦人科学教室での研究及び同大学病院での診療を経て、平成17年10月頃から本件クリニックを開業する直前の平成20年○月○日まで、医療法人社団L会が開設したMクリニック(現在は、M産婦人科。以下「M産婦人科」という。)に勤務していた。
B 請求人の事業内容等
(A) 本件クリニックの診療時間は、月曜日から土曜日までの午前8時30分から午後0時30分まで、並びに月曜日ないし水曜日、金曜日及び土曜日の午後3時から7時までで、木曜日の午後と日曜日・祝日は休診である。
(B) 本件クリニックの医師は請求人1人であり、本件クリニックには不妊治療を受けるための患者が1日におよそ50ないし80人来院するため、請求人は、流産した患者に対する処置は本件クリニックでは行わないこととしていた。また、本件クリニックには入院設備がないため、請求人は、入院を伴う手術や子宮筋腫等の症状が認められた患者に対する内視鏡手術については、これらの手術を専門とする病医院に当該患者の手術を依頼していた。
(C) 請求人は、患者が妊娠6ないし7週目になると、患者を本人の希望する病医院(分娩施設)に紹介していた。なお、多胎妊娠や合併症のおそれのある患者など分娩リスクの高い患者に対しては、請求人は、その症状に対応できる設備と専門医がいる大学病院での出産を勧め、それらの病院に当該患者の分娩管理を依頼していた。
(D) 本件クリニックには、請求人及び請求人の妻であるP2の他、10人前後の看護師及び培養士が勤務していた。
C 接待交際費について
(A) 請求人は、平成20年ないし平成22年において、飲食店等にて別表4の順号1ないし32の各医師等に対し接待をしていた。
 請求人は、平成21年及び平成22年において、別表4の順号6及び20の医師と数回ゴルフを行い、その際のプレー代を必要経費に算入していた。
(B) 請求人は、従業員の採用面接時や、スタッフミーティングとして従業員1人1人と飲食を共にすることがあり、また、看護師全員と喫茶することがあったが、その費用は請求人が負担していた。
(C) 請求人は、本件クリニック開業前の勤務医であった頃から、社団法人K医科大学同窓会(以下「本件同窓会」という。)の会費を支払っていた。
 なお、本件同窓会の定款第4条は、同会の目的として「会員相互の親睦研修により知識の増進を図るとともに、K医科大学と連絡協調して医学並びに医学教育の充実発展を期すること」と定めており、また、同定款第6条は、同会の正会員を「K医科大学並びにその前身の医学校の卒業者」とする旨定めている。
(D) 請求人が参加していた○○を考える会(以下「○○会」という。)は、○○を考えること及び不妊治療に関する情報交換と会員相互の親睦を目的とする婦人科医数名で任意に結成された会であり、年2回から3回、主に冬はp、夏はq方面において1泊2日程度の日程で開催されていた。そして、その際には、必ずゴルフのプレーがセットされており、ゴルフができない者は○○会には参加することができなかった。
(E) 請求人は、平成21年1月8日に眼鏡店で眼鏡(以下「本件眼鏡」という。)を購入した。
 本件眼鏡は、請求人の視力に合わせた度付きの一般的な眼鏡であり、常時、本件クリニックの院長室に保管されていた。請求人は、顕微鏡をのぞくと眼鏡のレンズに傷がつくという理由から、業務の際、本件眼鏡を日常使用している眼鏡に代えて使用していた。
D 旅費交通費について
(A) 本件g自動車の使用状況等
a 請求人は、M産婦人科に勤務していた当時、同院から通勤用及び緊急呼び出し時の移動手段として、本件g自動車の貸与を受けていた。
b 本件g自動車は、M産婦人科がN社と平成19年9月26日から36か月間のオートリース契約を締結したリース物件であり、請求人は、平成20年7月4日に、同院及び同社とリース契約の地位承継に関する契約を締結し、同年8月1日から本件g自動車に係る賃借人の地位を承継した。その後、請求人は、オートリース契約満了(満了日:平成22年9月25日)に伴い、本件g自動車を購入した。
c 請求人は、本件クリニックの診療日には、妻P2とともに、自宅から本件クリニックまで、本件g自動車で通勤していた。なお、通勤には、○○高速道路を利用し、主に、自宅に近いh料金所から本件クリニックに近いi料金所までの区間を利用していた。
d 請求人は、本件g自動車を100%事業の用に供していた。
(B) 請求人は、本件g自動車の他、主に妻P2が家事用に使用していたj自動車(以下「本件j自動車」という。)を所有していたが、平成22年6月頃に中古車買取販売会社に売却した。また、請求人は、平成22年9月頃に自動車(k自動車。以下「本件k自動車」という。)を購入した。
 なお、請求人は、本件j自動車及び本件k自動車が事業用資産ではないことについては争っていない。
E 開業費について
(A) 請求人は、本件クリニックの開業に当たり、培養士として採用するために、平成20年6月7日にm県n市在住のP3との面接を行った際、P3のn・r間の交通費29,360円を負担した。
(B) また、請求人は、本件クリニックの開業に当たり、平成20年9月9日にパソコンを2台購入し(以下、これらのパソコンを「本件各パソコン」という。)、本件クリニックの院長室及び診察室1にそれぞれ設置した。なお、本件各パソコンの購入価額の合計は156,396円(本体価額は1台55,050円)であった。
(C) 平成20年6月16日から同年9月下旬までの間、開業準備のため本件クリニックの内装工事が行われていた。
(ハ) 検討
A 本件各年分の接待交際費について
 上記(イ)のAのとおり、ある支出が必要経費として総収入金額から控除されるためには客観的に見てその支出が業務と直接の関係をもち、かつ、業務の遂行上必要なものに限られると解されるところ、接待交際費については、個々の支出に係る接待交際の理由、目的、相手方及び金額等諸般の事情等からみて専ら業務の遂行上必要である場合に限って必要経費になると解される。
 そこで、請求人が必要経費であると主張する接待交際費について、以下検討する。
(A) 別表4の順号1ないし26の各医師らとの飲食代
a 請求人は、順号1ないし6の各医師らとの飲食代について、上記イの請求人の主張(イ)のとおり、業務上の情報提供、意見交換及び請求人の患者の入院、手術、検査等における利益や便宜の供与を図るものであることから、当該各費用は業務と直接関係をもち、業務の遂行上必要なものである旨主張する。
 確かに、請求人は、不妊治療中の患者に内視鏡手術等を必要とする症状が認められた場合に、本件クリニックでは内視鏡手術等を行っていないため、内視鏡手術等を行っている産婦人科等の医師らに患者を紹介し、手術を依頼するなど、双方向の診療連携を行っており、当該連携先の医師らは、請求人の業務と直接関連があるものと認められる。
 しかしながら、当該医師らを日頃から接待することで、将来、内視鏡手術等が必要となった場合に、結果的に請求人の患者らによりよい治療ができたとしても、そもそも、医師には診療義務があり、他の医師等への紹介状が必須というわけではなく、患者においても手術等を終えた後に本件クリニックに戻るとも限らず、接待すれば本件クリニックに戻るという関係があるわけでもないことからすると、順号1ないし6の各医師らとの飲食代が、専ら業務の遂行上必要であるとまでは認めることはできない。また、上記(イ)のBからすれば、これらの費用の中には家事費が含まれていると認められるから、当該費用は家事関連費に該当し、そのうち業務に必要な部分が明らかに区分されていないことから、所得税法第45条及び所得税法施行令第96条の規定からすると、必要経費に算入することはできない。
b また、請求人は、順号7ないし26の各医師らとの飲食代について、医療関係者から最新の医療情報を得ることは、業務の遂行上必要なものであると主張する。
 しかしながら、当該医師らに日頃から接待をすることで、将来、患者の紹介を受けたり有益な情報を得るなど医院経営に有益なことがあると期待されることがあるとしても、証拠上、順号7ないし26の各医師らとの飲食代が、専ら業務の遂行上必要であるとまでは認めることはできない。また、上記(イ)のBからすれば、これらの費用の中には家事費が含まれていると認められるから、当該費用は家事関連費に該当し、そのうち業務に必要な部分が明らかに区分されていないことから、所得税法第45条及び所得税法施行令第96条の規定からすると、必要経費に算入することはできない。
(B) 別表4の順号27及び28の事業者(P4税理士、P5建築士)との飲食代
 請求人は、P4税理士及びP5建築士との飲食代について、請求人の勤務が終了してから、P4税理士とは税務相談を、P5建築士とは本件クリニックのホームページの更新・修正の打合せをしたため、食事をしながら打合せ等をすることとなった費用であるから、当該費用は業務と直接関係をもち、業務の遂行上必要なものである旨主張する。
 しかしながら、請求人の主張のとおり、請求人の勤務時間の都合上、食事をしながら税務相談及び本件クリニックのホームページの更新・修正の打合せをすることとなったとしても、食事を一緒にするという事態がたまたま生じたにすぎず、P4税理士及びP5建築士との飲食代が、専ら業務の遂行上必要であるとまでは認めることはできない。また、上記(イ)のBからすれば、これらの費用の中には家事費が含まれていると認められるから、当該費用は家事関連費に該当し、そのうち業務に必要な部分が明らかに区分されていないことから、所得税法第45条及び所得税法施行令第96条の規定からすると、必要経費に算入することはできない。
(C) 別表4の順号29ないし32のP6、P7、P8、P9との飲食代
 請求人は、P6、P7、P8及びP9との飲食代について、P6及びP7とはWeb業者の紹介等を受けた際の、P8とは看護師の紹介を受けた際の、P9とは医療関係の情報収集をした際の費用であるから、当該費用は業務と直接関係をもち、業務の遂行上必要なものである旨主張する。
 しかしながら、この4名は、請求人の知人であり、請求人との業務上の取引がないことからすると、これらの者らに対する飲食代は、私的な交際に基づく飲食代と認められる。
 したがって、上記の者らとの飲食代は家事費に該当するから、所得税法第45条の規定により必要経費に算入することはできない。
(D) 従業員との飲食代
 請求人は、従業員との飲食代は、従業員の採用面接時の際の飲食代、若しくは本件クリニックで働いている従業員に対し、福利厚生を目的とする飲食代である旨主張する。
 しかしながら、従業員と懇親のために支出する費用が必要経費に該当するか否かは、当該懇親の目的、従業員等の参加割合及び支出した金額等を総合的に判断して、それが、業務の遂行上必要といい得るか否かによって判断されるべきであるところ、上記の従業員との飲食代は、請求人が個別の従業員と飲食した費用であって、いずれも従業員の一部を対象としたものであることからすると、一般的に業務の遂行上必要なものとは認められない。また、従業員の採用面接時の際の飲食代については、客観的に見てその必要性を認めるに足りる証拠はないから、業務の遂行上必要なものとは認められない。
 したがって、別表3の請求人が主張する本件各費用のうち、「スタッフ」と記載されたものについては、業務の遂行上必要であるとは認められないから、必要経費に算入することはできない。
 なお、平成21年9月28日に請求人が看護師全員と喫茶した際に支出した費用は、従業員の慰労を目的とするものと認められるため、必要経費に算入される。
(E) 本件同窓会の会費
 本件同窓会の会費は、上記(ロ)のCの(C)のとおり、請求人がK医大の卒業生として支払っているものであり、本件同窓会の目的から見ても、家事費に該当する。したがって、別表3の請求人が主張する各費用のうち、本件同窓会の会費とされるもの及びこれに関連する費用(振込手数料等)は、所得税法第45条の規定により必要経費に算入することはできない。
(F) ○○会の参加費
 ○○会は、上記(ロ)のCの(D)のとおり、懇意な医師同士が任意に結成した会であり、年に数回、会員同士の懇親を目的として開催されているところ、その参加条件をゴルフに参加することとし、夜の食事の時間を情報交換会と称して懇親に当てていることから判断すると、私的な交際、つまりは、家事費の部分が主であると認められる。
 そうすると、請求人が○○会に参加することによって、請求人の業務に何らかの利益をもたらすとしても、これらの支出は家事関連費に当たると認められ、そのうち業務に必要な部分が明らかに区分されていないことから、別表3の請求人が主張する各費用のうち、○○会に係るもの及びこれに関する費用(ゴルフ代)は、所得税法第45条及び所得税法施行令第96条の規定により、必要経費に算入することはできない。
(G) 別表4の順号6及び20の医師らとのゴルフ代
 請求人は、P10医師及びP11医師とのゴルフ代について、業務上の情報交換、連携相談のために必要である旨主張する。
 しかしながら、ゴルフを共にプレーした者は、別表4の順号6及び20の「請求人との関係等」欄のとおり、両者とも請求人とはK医大勤務時の先輩後輩の間柄であることに加え、P10医師及びP11医師とゴルフをすることで、ゴルフ中の会話に基づく情報交換、連携相談が、請求人の医療技術の向上、患者との信頼関係醸成に資する等、何らかの点で請求人の業務に利益をもたらすとしても、客観的に見て、これらの者と業務の遂行上ゴルフを行う必要性はないと認められるから、これらの支出は家事費に当たると認められ、所得税法第45条の規定により必要経費に算入することはできない。
(H) その他
a 本件眼鏡の費用について
 本件眼鏡は、上記(ロ)のCの(E)のとおり、請求人が日常使用する眼鏡と同様の度付きの眼鏡であり、業務用に特別な仕様を施したようなものではないから、業務専用に使用するものとはいえず、その費用は家事費に該当し、所得税法第45条の規定により、必要経費に算入することはできない。
b 接待交際の相手方が不明な費用
 請求人において接待交際の相手方が特定できなかった飲食代及び送り先が明らかでないお中元代について、請求人は、当審判所に対しても、これらに関する具体的な内容を明らかにすることができず、業務との関連性を説明することができていないのであるから、客観的に見て、請求人の業務の遂行上必要な支出とは認められない。
 したがって、必要経費に算入することはできない。
B 旅費交通費について
(A) 接待交際に伴うタクシー代
 上記Aの(A)ないし(C)のとおり、接待交際に係る各医師等との飲食代は必要経費に算入することはできないから、当該飲食に伴い支出したタクシー代についても同様に必要経費に算入することはできない。
(B) ○○会に参加するためのタクシー代等
 ○○会に係るタクシー代等についても、上記Aの(F)のとおり、参加費自体が必要経費に算入することはできないから、それに付随するタクシー代等も必要経費に算入することはできない。
(C) 上記(A)及び(B)以外のタクシー代
 請求人は、タクシーは業務に関する備品等の購入のための移動手段であることを理由として、タクシー代は業務に関連する支出であると主張する。
 しかしながら、請求人は、上記(ロ)のDの(A)のdのとおり事業用車両である本件g自動車を保有していることに加え、当審判所に対し、これらのタクシー代が請求人の業務に必要とされる具体的な理由を明らかにしていないことから、当該タクシー代は、請求人の業務の遂行上必要なものとは認められず、必要経費に算入することはできない。
(D) ガソリン代、駐車場代、高速代及び本件g自動車の洗車代
a 上記(ロ)のDの(A)のcのとおり、請求人及び妻P2は、本件g自動車を診療日の通勤に使用し、主に○○高速道路のh料金所からi料金所までを利用していることが認められるから、当該料金所を利用していた高速代のうち、既に請求人の必要経費に計上されている日の分を除く各診療日の往復に係るものについては、本件g自動車の高速代として請求人の旅費交通費となり、必要経費に該当する。
b また、本件g自動車に係るガソリン代及び洗車代についても、請求人の旅費交通費と認められるから、必要経費に該当する。
c 一方、請求人は、本件g自動車のほかにも本件j自動車や本件k自動車を所有していたことからすれば、駐車場代及び上記通勤の高速代に係る部分以外の高速代が、本件g自動車、すなわち事業用車両に係るもののみであるとは直ちには認められない。そして、請求人は、個々の駐車場代及び高速代が請求人の業務と関係があることについて、合理的な事実及び具体的な理由を明らかにせず、業務の遂行上必要であった旨を主張するのみであるから、駐車場代及び上記通勤の高速代に係る部分以外の高速代は、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
C 開業費について
(A) 別表4の順号1、4、6、7、11、14、16、22、23、及び27ないし30の各医師等との接待交際に係る飲食代
 上記Aの(A)ないし(C)のとおり、請求人と別表4の各人との接待交際費は必要経費と認められないから、開業前に支出した接待交際に係る飲食代についても同様であり、開業費に該当しない。
(B) 採用予定者(P3)との面談費用について
 病院の開設を予定する請求人にとって、本件クリニックの職員に採用する予定者との面談等は開業準備に当たるから、面談のため負担した交通費は業務のために開業前に特別に支出した費用に該当するものと認められる。
 したがって、平成20年6月7日にP3との面談のために支出した交通費は開業費に該当する。
(C) 本件各パソコンについて
 上記(ロ)のEの(B)からすると、本件各パソコンは事業の用に供されていると認められるから、減価償却資産に該当(所得税法施行令第6条《減価償却資産の範囲》第7号、減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第一)し、その購入の対価は減価償却資産の取得価額となるから、開業費から除かれる。
 なお、本件各パソコンの1台当たりの取得価額は約80,000円であることから、所得税法施行令第138条《少額の減価償却資産の取得価額の必要経費算入》の規定により少額の減価償却資産に当たり、その全額が、請求人の平成20年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入される。
(D) タクシー代について
 請求人は、開業費に計上したタクシー代について、開業準備のために特に支出したものである旨主張する。
 しかしながら、請求人は、開業準備のための移動手段としてタクシーを使った用途等を明らかにすることができていないから、業務に関して支出した費用とは認めることができない。したがって、上記タクシー代は開業費に該当しない。
(E) ガソリン代、高速代及び駐車場代について
 上記(ロ)のDの(A)のとおり、本件クリニックの開業以前において、請求人は、主に本件g自動車をM産婦人科への通勤用として使用しており、前職の退職時期が開業前日(平成20年○月○日)であることからすれば、開業費として計上したガソリン代、高速代、駐車場代は、前職に係る部分が含まれていることが考えられるところ、請求人は、これらの支出について、個々の支出の内容を明らかにすることができていないのであるから、業務に関して支出した費用とは認めることができない。したがって、ガソリン代、高速代及び駐車場代は、開業費に該当しない。
(F) 別表4の順号1のP12医師とのゴルフ代について
 上記ゴルフ代について、請求人は、P12医師との開業準備のための情報交換のために必要である旨主張する。
 しかしながら、P12医師は、別表4の順号1の「請求人との関係等」欄のとおり、請求人が本件クリニックを開業する前に勤務していた医院の院長であることに加え、上記Aの(G)と同様に、客観的に見て情報交換等を行うためにゴルフを行う必要性は認められないから、ゴルフ代の支出は家事費に当たると認められ、開業費に該当しない。
(G) 本件同窓会の会費について
 本件同窓会の会費が必要経費に該当しないことは、上記Aの(E)と同様であるから、開業前に支出した当該同窓会の会費についても、同様であり、開業費に該当しない。
(H) P13教授就任記念祝賀会の会費について
 P13教授就任記念祝賀会の会費については、○○会で交流のあった別表4の順号4のP13医師の教授就任に対する祝賀会の会費であり、請求人が個人的な立場で出席したと認められるから、その支出は家事費に該当し、業務に関して支出した費用とは認められず、開業費に該当しない。
(I) その他の費用
 請求人が本件クリニックの内装工事の工事業者の差し入れのために平成20年8月19日に支払ったジュース代は、上記(ロ)のEの(C)の内装工事期間中に支払われたものであり、開業前に特別に支出した費用に当たることから、開業費に該当する。
ハ 平成20年分の事業所得について
(イ) 接待交際費について
A 上記ロの(ハ)のAの(D)のとおり、別表6の(1)のまる1の請求人が従業員と飲食をした14,017円については必要経費として認められない。よって、原処分(異議決定によりその一部が取り消された後のもの。以下同じ。)の額から減算する。
B 異議審理庁が接待交際費と認定した44,659円は開業前の支出であるから、原処分の額の開業費に振り替え減算する。
C 以上の額を原処分の額から減算すると、別表2の(1)の「審判所認定額」欄の「接待交際費」の項の158,815円となる。
(ロ) 旅費交通費について
 上記ロの(ハ)のBの(D)のとおり、別表5の(1)のまる1の請求人の旅費交通費として認められた9,100円を原処分の旅費交通費の額に加算すると、別表2の(1)の「審判所認定額」欄の「旅費交通費」の項の366,755円となる。
(ハ) 開業費について
A 上記ロの(ハ)のCの(B)及び(I)のとおり、別表5の(1)のまる2のJR乗車券29,360円及びジュース代1,604円の計30,964円は開業費と認められることから、原処分の額に加算する。
B 上記(イ)のBの接待交際費から開業費に振り替えた44,659円のうち、別表6の(1)のまる2の従業員の採用面接の際の食事代13,259円は、上記ロの(ハ)のAの(D)のとおり必要経費に算入されないため、従業員に対する福利厚生のために支出したと認められる31,400円のみを原処分の額に加算する。
C 以上の額を原処分の開業費の額(10,710,218円)に加算すると、10,772,582円となる。
D なお、上記1の(3)のロの(ロ)(所得税法施行令第137条第3項)のとおり、居住者が繰延資産(開業費)の償却費につき、その年分の必要経費として事業所得の金額の計算上、当該繰延資産の額の範囲内の金額をその年分の確定申告書に記載した場合には、当該記載された金額が必要経費として認められるところ、請求人は、平成20年分の開業費の償却費として確定申告書に5,630,643円と記載しているのであるから、その記載した金額が平成20年分の開業費の償却費となる。
 この点について、原処分庁は、請求人が開業費の償却費として計上した金額のうち、原処分において否認した金額1,348,698円を平成20年分の開業費の償却費の額から控除して請求人の所得金額を計算しているが、これは所得税法第50条及び所得税法施行令第137条第3項の適用を誤っているから、この点についての原処分庁の計算は誤っている。
(ニ) 減価償却費について
 上記ロの(ハ)のCの(C)のとおり、本件各パソコンは少額の減価償却資産であるから、別表5の(1)のまる3の156,396円を原処分の額に加算すると、別表2の(1)の「審判所認定額」欄の「減価償却費」の項の2,339,944円となる。
(ホ) その他について
 別表3の(1)のまる2のお菓子代(患者用)1,774円は雑費と認められるから、原処分の額に加算すると、別表2の「審判所認定額」欄の「上記以外の経費」の項は12,577,057円となる。
(ヘ) 以上のことから、請求人の平成20年分の事業所得の金額は△○○○○円となる。
ニ 平成21年分の事業所得について
(イ) 接待交際費について
 上記ロの(ハ)のAの(D)のとおり、別表6の(2)のまる1の請求人が従業員と飲食した費用114,297円は必要経費に算入できないから、原処分の額から減算すると、別表2の(2)の「審判所認定額」欄の「接待交際費」の項の426,632円となる。
(ロ) 旅費交通費について
A 上記ロの(ハ)のBの(D)のaのとおり、別表5の(2)のまる1の通勤時の高速代等26,946円は旅費交通費と認められるから、原処分の額に加算する。
B 上記ロの(ハ)のBの(B)のとおり、別表6の(2)のまる2の○○会に係る旅費交通費59,010円は必要経費に算入できないから、原処分の額から減算する。
C 以上の額を原処分の額から加算減算すると、別表2の(2)の「審判所認定額」欄の「旅費交通費」の項の2,185,934円になる。
(ハ) 開業費について
 上記ハの(ハ)のCのとおり、請求人の開業費は10,772,582円であるから、平成21年分の開業費の償却費は、当該金額から平成20年分の償却費として必要経費に算入された金額5,630,643円を控除した金額5,141,939円となる。
(ニ) その他について
A 上記ロの(ハ)のAの(D)のとおり、別表5の(2)のまる2の看護師全員との喫茶代4,675円は福利厚生費になるから原処分の額に加算する。
B 上記ロの(ハ)のAの(F)のとおり、別表6の(2)のまる3の○○会の会費10,000円は必要経費に算入できないから、原処分の額から減算する。
C 以上のとおり、原処分の額に加算減算すると、別表2の(2)の「審判所認定額」欄の「上記以外の経費」の項の63,931,555円となる。
(ホ) 以上のことから、請求人の平成21年分の事業所得の金額は○○○○円となる。
ホ 平成22年分の事業所得について
(イ) 接待交際費について
A 上記ロの(ハ)のAの(F)のとおり、別表6の(3)のまる1の○○会の会費10,000円は必要経費に算入できないから、原処分の額から減算する。
B 上記ロの(ハ)のAの(A)のとおり、別表6の(3)のまる2のP10医師との飲食代51,190円は必要経費に算入できないから、原処分の額から減算する。
C 上記ロの(ハ)のAの(D)のとおり、別表6の(3)のまる3の従業員との飲食代151,901円は必要経費に算入できないから、原処分の額から減算する。
D 以上のとおり、原処分の額から減算すると、別表2の(3)の「審判所認定額」欄の「接待交際費」の項の546,805円となる。
(ロ) 旅費交通費について
A 上記ロの(ハ)のBの(D)のaのとおり、別表5の(3)のガソリン代等22,216円は旅費交通費と認められるから、原処分の額に加算する。
B 上記ロの(ハ)のBの(B)のとおり、別表6の(3)のまる4の○○会に係る交通費161,690円は必要経費に算入できないから、原処分の額から減算する。
C 以上のとおり、原処分の額に加算減算すると、別表2の(3)の「審判所認定額」欄の「旅費交通費」の項の3,308,968円となる。
(ハ) その他について
 本件k自動車は、上記ロの(ロ)のDの(B)のとおり、事業用の車両ではないから、別表6の(3)のまる5の当該k自動車の駐車場代128,800円は必要経費とは認められない。よって、原処分の額から減算すると別表2の(3)の「審判所認定額」欄の「上記以外の経費」の項の86,659,589円となる。
(ニ) 以上のことから、請求人の平成22年分の事業所得の金額は○○○○円となる。

(2) 争点2について

イ 主張

請求人 原処分庁
 原処分において認められなかった費用が、異議審理庁において一部請求人の必要経費と認められている。原処分庁の判断でさえその後改変されるのであるから、そのような必要経費の判断を請求人がすべきであったとするのは、大変酷なことである。請求人は、本件各費用が自らの業務と直接関係のある経費であることを確信して、必要経費に算入したのであり、故意過失に基づくことなく過少申告となったのであるから、真にやむを得ない理由によるものであり、「納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合」に該当する。
 したがって、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められる。
 通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」とは、税額を過少に申告したことが納税者の故意又は過失に基づかず、納税者の責めに帰することができない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解される。
 請求人の左記事情は、上記「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するとは認められず、また他に正当な理由があるとも認められないことから、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」はない。

ロ 判断
(イ) 法令解釈
A 過少申告加算税は、過少申告による納税義務違反の事実があれば、原則としてその違反者に対し課されるものであり、これによって、当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。このような過少申告加算税の趣旨に照らせば、通則法第65条第4項にいう「正当な理由」があると認められる場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁参照)。
B そして、上記Aの過少申告加算税の趣旨に照らせば、通則法第65条第4項にいう「正当な理由」とは、例えば、まる1税法の解釈に関して、申告当時に公表されていた見解が、その後改変されたことに伴い、修正申告をし又は更正を受けるに至った場合、まる2災害又は盗難等に関し、申告当時に損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険金、損害賠償金等の支払、盗難品の返還等を受けたため、修正申告をし又は更正を受けるに至った場合のように、申告当時適法とみられた申告がその後の変更により納税者の故意過失に基づかないで過少申告となり、申告した税額に不足が生じたごとく、当該過少申告が真にやむを得ない理由によるものであり、かかる納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものであって、単に、納税者に税法の不知や法令解釈の誤解がある場合は、これに当たらないとするのが相当である。
(ロ) 本件への当てはめ
 これを本件についてみると、請求人の本件確定申告等が過少となったのは、請求人が自身の判断の下に、本件各費用を請求人の事業所得の必要経費に算入し計算したことによるものであるから、請求人の主観的事情に基づく法令解釈の誤りによるものであり、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があるとはいえない。
 したがって、上記(イ)のAの過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、請求人に過少申告加算税を賦課することが、不当又は酷になる場合とはいえないから、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」は認められない。
(ハ) 請求人の主張について
 請求人は、原処分において必要経費と認められなかった費用が、異議審理庁において一部認められていることからすれば、そのような必要経費の判断を請求人が正しくすべきであったとするのは、大変酷なことである旨主張する。
 しかしながら、当該事情は、請求人が本件確定申告等をした後に生じた事情でしかなく、上記(イ)のBのとおり、申告当時適法と見られた申告がその後の変更により納税者の故意過失に基づかないで過少申告となり、申告した税額に不足が生じたといった場合ではない。むしろ、上記(ロ)のとおり、請求人の当該確定申告等が過少となったのは、請求人自身が必要経費の該当性を判断した結果、その判断を誤ったものであるから、上記(イ)のAの過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお、過少申告加算税を課すことが酷になる場合とはいえない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(3) 本件各更正処分について

 請求人の本件各年分の事業所得の金額は、上記(1)のハないしホのとおりとなり、平成20年分は、原処分の額を下回ることとなるから、別紙「取消額等計算書」のとおりその一部を取り消し、平成21年分及び平成22年分については、原処分の額を上回るから、当該各年分の各更正処分は適法である。

(4) 本件各賦課決定処分について

 上記(3)のとおり、平成20年分の更正処分はその一部を取り消すべきところ、取消し後の当該更正処分において通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められないことから、同条第1項の規定により過少申告加算税の額を計算すると○○○○円になる。しかしながら、通則法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第4項の規定により、加算税の額が5,000円未満であるときには、その全額を切り捨てることとなるから、平成20年分の賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。
 また、平成21年分及び平成22年分の各更正処分については、上記(3)のとおりそれぞれ適法であるところ、当該各更正処分において通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められないことから、同条第1項の規定に基づきなされた当該各年分の各賦課決定処分は適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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