(平成25年7月30日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、日本赤十字社等に対して金員を支出したが、同金員は所得税法第78条《寄附金控除》に規定する寄附金控除の対象となる特定寄附金に該当するとして、平成23年分の所得税の確定申告及び修正申告をしたところ、原処分庁が、同金員は請求人が支出したものではないなどとして寄附金控除の適用を認めず更正処分をしたのに対し、請求人が、同金員のうち街頭募金に対して支出したものと、日本赤十字社に対する義援金については寄附金控除の適用が認められるべきであるとして、原処分の一部の取消しを求めた事案であり、争点は次の2点である。

  1. 争点1 請求人が街頭募金に対して支出したとする金員について寄附金控除の適用が認められるか否か。
  2. 争点2 請求人の妻の名義で支払われた義援金について寄附金控除の適用が認められるか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成24年12月27日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。

(3) 関係法令等

 別紙2のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成24年3月12日に、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した平成23年分の所得税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を原処分庁に提出した。
 請求人は、本件確定申告書の第2表において、その年中に支出した特定寄附金の合計額として565,295円(以下「本件寄附金」という。)と記載するとともに、同第1表において、寄附金控除の額として563,295円と記載した。
 なお、本件寄附金の内訳は、別表2のとおりである。
ロ 請求人は、平成24年6月14日に、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した平成23年分の所得税の修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を原処分庁に提出した。本件修正申告書の第1表においても、寄附金控除の額として、上記イの本件確定申告書と同額の563,295円が記載されていた。
ハ 原処分庁は、本件寄附金のうち、別表2の番号7のNPO法人E活動費(以下「本件活動費」という。)、同番号8の街頭募金(以下「本件街頭募金」という。)及び同番号9の東北関東大震災義援金(以下「本件義援金」という。)については寄附金控除の適用が認められないとして、平成24年8月6日付で、別表1の「更正処分」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。

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2 主張

 別紙3のとおりである。
 なお、請求人は、本件更正処分において寄附金控除の適用が認められなかった別表2の番号7の本件活動費については、本審査請求においては争わない旨主張している。
 また、請求人が寄附金控除の対象であると主張する別表2の寄附金等のうち、NPO法人E代表(代表者)D名義で支出した番号3及び番号4の東日本大震災義援金については、原処分庁が、請求人の寄附金控除の対象となる特定寄附金に該当することを認めている。

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3 判断

(1) 争点1 本件街頭募金について寄附金控除の適用が認められるか否か。

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件確定申告書には、本件街頭募金に係る所得税法施行規則第47条の2第3項第1号所定の書面(以下「寄附金控除のための領収書等」という。)が添付されておらず、また、請求人が寄附金控除のための領収書等を本件確定申告書の提出の際に提示した事実も認められない。
(ロ) 請求人は、本審査請求手続においても、本件街頭募金に係る寄附金控除のための領収書等を提出していない。
ロ 判断
(イ) 本件街頭募金の寄附金控除の適否
 所得税法第120条第3項第1号、所得税法施行令第262条第1項及び所得税法施行規則第47条の2第3項第1号イは、居住者が、その年中に支出した特定寄附金について寄附金控除に関する事項を記載した確定申告書を提出する場合には、確定申告書に当該特定寄附金の明細書及び寄附金控除のための領収書等を添付し、又は、確定申告書の提出の際に提示することを要求しているところ、請求人は、本件街頭募金については、上記イの(イ)のとおり、確定申告時において、寄附金控除のための領収書等を添付せず、これを提示することもしていない。
 また、本審査請求手続において、請求人は、本件街頭募金に係る寄附金控除のための領収書等の交付を受けていない旨自認しており、その他請求人が本件街頭募金を支出したことを認めるに足りる証拠はない。
 そうすると、通常街頭募金に領収書が交付されることはないなど、請求人の主張する事情を踏まえても本件街頭募金について、寄附金控除の適用を認めることはできない。
(ロ) 請求人の主張について
 請求人は、本件街頭募金についての領収書等はないが、国は寄附を奨励すべきであるから、寄附金控除の対象とすべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人の上記主張は、法令の規定等に基づかない独自の見解というべきであって、本件街頭募金の寄附金控除の適否については、上記(イ)で説示したとおりである。
 したがって、この点における請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2 本件義援金について寄附金控除の適用が認められるか否か。

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件確定申告書に添付された郵便振替払込請求書兼受領証について
 請求人が本件確定申告書に添付した本件義援金に係る振替払込請求書兼受領証(以下「本件振込票」という。)には、口座記号番号に「○○○○」、加入者名欄に「日本赤十字社東北関東大震災義援金」、金額欄に「¥30000」、ご依頼人欄に「F」、日附印欄に「○−○−○ G郵便局」とそれぞれ記載されている。Fは、請求人の妻であり、H銀行の口座記号番号「○○○○」は、日本赤十字社の東北関東大震災義援金の指定受付口座である。
(ロ) Fの寄附金控除の適用について
 Fは、平成23年分の所得税の確定申告書を提出しておらず、寄附金控除の適用を受けていない。
(ハ) Fが作成した書面について
 請求人が異議審理庁に対して提出した平成24年10月1日付のF作成の書面(以下「本件申立書面」という。)には、「私、Fは平成23年4月21日に東日本災害に義援金として寄付をした金額3万円は夫であるDから受け取った金銭であります。」と記載されている。
(ニ) 日本赤十字社が発行した受領証について
A 請求人は、平成24年12月12日付で、日本赤十字社f県支部に対し、本件義援金は、妻であるFの名義で振込手続をしているものの、請求人が支出した金員であるから、本件義援金の名義を請求人とすることを依頼する旨の書面(以下「本件依頼書面」という。)に、本件申立書面の写し等を添付して送付した。本件依頼書面等を受けて、日本赤十字社は、本件義援金に係る受領証(以下「本件受領証」という。)を発行し、平成24年12月28日に請求人に送付した。
B 本件受領証には、日本赤十字社が、平成23年4月21日に東日本大震災義援金として請求人から30,000円を受領した旨及び当該受領した金員が所得税法第78条第2項第1号に規定する寄附金に該当する旨が記載されている。
C 日本赤十字社においては、東日本大震災義援金について、寄附の件数が多く、その全てについて受領証を発行することが事務処理上困難であったことや、国税庁において、日本赤十字社の東日本大震災義援金口座への寄附等に関しては、振込票の控えなどをもって寄附金控除の適用を受ける場合の寄附したことを証する書類と認める取扱いをすることとしていたことから、寄附を行った者から受領証の発行依頼があった場合にのみ受領証を発行することとしていた。
 また、日本赤十字社では、寄附金の受領とともに受領証の発行実績についても記録しており、同一の寄附金について受領証を重複して発行することはない。
(ホ) 本件義援金の配分について
 本件義援金は、日本赤十字社において受け付けられた後、被災都道県や義援金受付団体等で構成された義援金配分割合決定委員会で示された配分に従って、被災した各都道県へ配分される。そして、各都道県に設置された義援金配分委員会の決定に基づき、都道県から管下の被災市町村へ送金されるものである。
ロ 判断
 上記1の(4)のイ及び上記イの(イ)のとおり、請求人は、本件義援金を含む本件寄附金を特定寄附金として寄附金控除すべき旨を記載した本件確定申告書を提出し、寄附金控除を受ける金額の計算の基礎となる金額その他の事項を証する書類としてF名義の本件振込票を添付する。Fは請求人の妻であるところ、同(ハ)のとおり、Fは本件申立書面において、本件義援金に係る金員は請求人から受け取ったものである旨申し立てている。そして、同(ロ)のとおり、Fは平成23年分の所得税の確定申告をしておらず、本件振込票以外に、Fが本件義援金を支出したことを推認させる事情は見当たらない。加えて、同(ニ)のとおり、本件確定申告書の提出後ではあるものの、請求人は、本件義援金の受付先である日本赤十字社に対し、本件依頼書面を送付して本件義援金は自己が支出したものであることを認めるよう求め、これを受けて日本赤十字社が、Fではなく請求人に宛てて、日本赤十字社が本件義援金を受領した旨、本件義援金の額及び受領した年月日を記載した本件受領証を発行し、請求人がこれを提出していることを併せ考えると、本件受領証に記載のとおり、本件義援金は、請求人が支出したものと認めることが相当である。
 そして、上記イの(ホ)のとおり、本件義援金は、日本赤十字社において受け付けられているものの、最終的には地方公共団体に拠出されるものであると認められ、所得税法第78条第2項第1号の地方公共団体に対する寄附金に該当し、同条第1項に規定する特定寄附金に該当するものであるから、本件義援金については、寄附金控除の適用が認められるというべきである。

(3) 本件更正処分について

 以上のとおり、本件義援金については、寄附金控除の適用を認めることから、平成23年分の寄附金控除の額は、別表2の番号1ないし同番号6及び同番号9の合計額530,000円から所得税法第78条第1項の規定に基づいて2,000円を控除した528,000円となり、別表1の「更正処分」の「寄附金控除」欄の額を上回ることになるので、本件更正処分は、別紙1の「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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