(平成25年9月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、解散した法人であるD社(以下「本件滞納法人」という。)が株主である審査請求人(以下「請求人」という。)に対して残余財産の分配をしたことについて、請求人に対し、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第34条《清算人等の第二次納税義務》第1項の規定に基づき第二次納税義務の納付告知処分をしたところ、請求人が、まる1本件滞納法人は、本件滞納法人に課されるべき、又は本件滞納法人が納付すべき国税を納付しないで残余財産の分配をしたものではない、まる2本件滞納法人については徴収不足であるとは認められないとして、当該処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 本件滞納法人は、平成24年6月6日現在、次表記載の国税(以下、当該国税を「本件滞納国税」といい、本件滞納国税の税目である源泉徴収に係る所得税を「源泉所得税」という。)を滞納していた。

【本件滞納国税の明細】

年度 税目 納期限 本税 不納付加算税 延滞税 法定納期限
平成19 源泉所得税 平20.5.28 ○○○○円 ○○○○円 法律による金額 平19.10.10

ロ 原処分庁は、平成20年11月25日、本件滞納国税について、国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、E税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ハ 原処分庁は、本件滞納国税を徴収するため、平成24年6月6日付で、請求人に対し、徴収法第34条第1項の規定に該当する事実があるとして、同法第32条《第二次納税義務の通則》第1項の規定に基づき、まる1納付すべき限度の額を○○○○円、まる2納付の期限を平成24年7月6日、まる3その他必要な事項を記載した納付通知書により、第二次納税義務の納付告知処分(以下「本件納付告知処分」という。)をし、同通知書は、同年6月7日、請求人へ送達された。
ニ 請求人は、平成24年6月18日、本件納付告知処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月13日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、平成24年10月9日、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

イ 徴収法第32条第1項は、国税局長(同法第184条《国税局長が徴収する場合の読替規定》の規定による読み替え後のもの。)は、納税者の国税を第二次納税義務者から徴収しようとするときは、その者に対し、徴収しようとする金額、納付の期限その他必要な事項を記載した納付通知書により告知しなければならない旨規定している。
ロ 徴収法第34条第1項は、法人が解散した場合において、その法人に課されるべき、又はその法人が納付すべき国税を納付しないで残余財産の分配又は引渡しをしたときは、その法人に対し滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合に限り、清算人及び残余財産の分配又は引渡しを受けた者は、その滞納に係る国税につき第二次納税義務を負う旨、ただし、清算人は分配又は引渡しをした財産の価額の限度において、残余財産の分配又は引渡しを受けた者はその受けた財産の価額の限度において、それぞれその責めに任ずる旨規定している。
ハ 国税徴収法基本通達(昭和41年8月22日付徴徴4−13ほか国税庁長官通達をいい、以下「徴収法基本通達」という。)第34条関係《清算人等の第二次納税義務》2《法人に課されるべき国税等》は、徴収法第34条第1項の「法人に課されるべき、又はその法人が納付すべき国税」とは、法人が結果的に納付しなければならないこととなる全ての国税をいい、解散の時又は残余財産の分配若しくは引渡しの時において成立していた国税に限られない旨定めている。
ニ 徴収法基本通達第34条関係4《徴収すべき額に不足すると認められる場合》は、徴収法第34条第1項の「徴収すべき額に不足すると認められる場合」は、徴収法基本通達第22条関係《担保権付財産が譲渡された場合の国税の徴収》4《国税に不足すると認められるとき》と同様である旨、ただし、不足するかどうかの判定は、納付通知書を発する時の現況によるものとする旨定めている。
ホ 徴収法基本通達第22条関係4は、徴収法第22条《担保権付財産が譲渡された場合の国税の徴収》第1項の「国税に不足すると認められるとき」とは、納税者に帰属する財産で滞納処分(交付要求及び参加差押えを含む。)により徴収できるものの価額が、納税者の国税の総額に満たないと認められるときをいい、その判定は、滞納処分を現実に執行した結果に基づいてする必要はないものとする旨定めている。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件滞納法人の解散及び清算並びに請求人との関係等
(イ) 本件滞納法人は、昭和26年2月○日に設立された、不動産の貸付等を目的とする株式会社である。
(ロ) 本件滞納法人は、平成12年10月○日、株主総会の決議により解散し、当時弁護士であったFが清算人(以下、Fを「本件清算人」という。)となった。
(ハ) 本件滞納法人は、解散後、不動産を所有していた子会社の清算等を経て、平成18年5月31日開催の臨時株主総会において、残余財産の額を○○○○円と確定した旨決議し、同年6月30日、E税務署長に対し、清算確定申告書を提出した。
 当該清算確定申告書には、この申告に係る残余財産分配の日は、平成18年8月31日である旨記載されていた。
(ニ) 本件滞納法人は、上記(ハ)の申告により○○○○円の還付金が発生したことなどから、改めて、平成19年12月31日開催の臨時株主総会において、残余財産の額を○○○○円と確定した旨決議した。
(ホ) 本件滞納法人の平成18年当時の発行済株式総数は6,000株であり、請求人は、4,090株を保有する株主であった。
ロ 本件滞納国税(源泉所得税)の納税告知処分等
 E税務署長は、本件滞納法人の解散(上記イの(ロ))に係る残余財産の分配の一部が所得税法第25条《配当等とみなす金額》第1項第3号に該当するとして、平成20年4月28日付で、本件滞納法人に対し、同法第181条《源泉徴収義務》第2項の規定に基づき、本件滞納法人の残余財産の分配に係る支払が、その支払の確定した平成18年8月31日(上記イの(ハ))から1年を経過した日である平成19年9月1日においてあったものとみなした上、まる1源泉所得税の額を○○○○円(残余財産の分配に係るみなし配当金額を○○○○円として算出された税額)とする納税告知処分を行うとともに、まる2当該源泉所得税が法定納期限(平成19年10月10日)までに納付されなかったことから、不納付加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分を行った。
ハ 本件滞納法人による本件滞納国税(源泉所得税)の一部納付
 本件滞納法人は、上記ロの各処分を受けた後、まる1平成20年7月31日に上記ロの納税告知処分に係る源泉所得税の本税100,000,000円を、まる2同年10月23日に同納税告知処分に係る源泉所得税の本税4,000,000円をそれぞれ納付した。
 なお、当該各納付後の残額が、本件納付告知処分時における本件滞納国税の額である。
ニ 本件清算人の破産等
 本件清算人は、平成23年9月○日、後見開始の審判を受け、平成24年3月○日、破産手続開始決定を受けた。

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2 争点

(1) 争点1

 本件滞納法人は、本件滞納法人に課されるべき、又は本件滞納法人が納付すべき国税を納付しないで残余財産の分配をしたか否か(本件は、徴収法第34条第1項の「その法人に課されるべき、又はその法人が納付すべき国税を納付しないで残余財産の分配……をしたとき」の要件に該当するか否か。)。

(2) 争点2

 本件滞納法人に対し滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められるか否か(本件は、徴収法第34条第1項の「その法人に対し滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合」の要件に該当するか否か。)。

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3 主張

(1) 争点1について

原処分庁 請求人
イ 徴収法第34条第1項の「その法人に課されるべき、又はその法人が納付すべき国税」について、徴収法基本通達第34条関係2は、法人が結果的に納付しなければならないこととなる全ての国税をいい、解散の時又は残余財産の分配若しくは引渡しの時において成立していた国税に限られない旨定めている。
 これを本件についてみると、本件納付告知処分に係る滞納国税は、本件滞納法人が結果的に納付しなければならない国税であるから、「その法人に課されるべき、又はその法人が納付すべき国税」に該当する。
ロ また、本件滞納法人が徴収法第34条第1項の「残余財産の分配」をしたことについては、まる1分配に係る金員は本件滞納法人の残余財産であり、まる2分配が請求人の所有株式数に応じてされることを前提としていると認められることから、これに該当する。
ハ 以上のとおりであるから、本件は、徴収法第34条第1項の「その法人に課されるべき、又はその法人が納付すべき国税を納付しないで残余財産の分配……をしたとき」の要件に該当する。
イ 徴収法第34条第1項の第二次納税義務は、まる1法人が国税を納付することなく違法に株主等に残余財産を分配したことについて、清算人及び分配金受領者に納税義務を負わせるものであり、まる2本来の納税義務者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような特別の関係にある第三者に対して補充的に課される義務である。
ロ 本件滞納法人は、残余財産の分配時において国税を滞納しておらず、正当かつ適法に残余財産の分配をしたものであるから、本件滞納法人に課されるべき、又は本件滞納法人が納付すべき国税を納付しないで残余財産の分配をしたものではない。
ハ また、本件滞納法人は結果的に国税を滞納しているが、滞納発生の理由は、本件滞納法人が上記ロのとおり適法な残余財産の分配に係る配当所得について源泉徴収した金員を、本件清算人が、職務懈怠又は横領したことにより、国に納付しなかったためである。このような経緯で発生した本件滞納国税に関し、既に源泉徴収され、確定申告も完了し、正当な納税義務を履行している株主である請求人に第二次納税義務を負わせるのは、上記イのまる2の趣旨に反し法律を拡大解釈するものである。
ニ 以上のとおりであるから、本件は、徴収法第34条第1項の「その法人に課されるべき、又はその法人が納付すべき国税を納付しないで残余財産の分配……をしたとき」の要件に該当しない。

(2) 争点2について

原処分庁 請求人
イ 徴収法第34条第1項の「その法人に対し滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合」について、徴収法基本通達第34条関係4は、不足するかどうかの判定は、納付通知書を発するときの現況によるほかは、同通達第22条関係4と同様である旨定めているところ、同通達第22条関係4は、納税者に帰属する財産で滞納処分により徴収できるものの価額が納税者の国税の総額に満たないと認められるときをいい、その判定は滞納処分を現実に執行した結果に基づいてする必要はない旨定めている。
 これを本件についてみると、本件滞納法人は、本件納付告知処分の時において、本件滞納国税の全額を満たすだけの財産を有していない。
ロ したがって、本件は、徴収法第34条第1項の「その法人に対し滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合」の要件に該当する。
イ 本件滞納国税が発生してから、本件納付告知処分の納付通知書を発するまでに、原処分庁が本件清算人から、本件滞納国税を徴収する手続を行っていれば、本件納付告知処分時の徴収不足は生じなかったはずである。
ロ このような場合に、徴収法第34条第1項の「その法人に対し滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合」の文言を形式的に適用し、徴収不足であるとするのは、法律の拡大解釈であり違法である。

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4 判断

(1) 請求人に対してされた残余財産の分配額について

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 平成14年4月27日付の「御連絡」と題する書面及び振込入金
(イ) 本件清算人から請求人、G(請求人の長男であり、本件滞納法人の株主である。)及びH(請求人の二男であり、本件滞納法人の株主である。)に対する平成14年4月27日付の「御連絡」と題する書面には、まる1本件滞納法人に係る清算配当金について、清算結了及び清算配当金の確認の特別決議をして清算配当金の実行をすることになるが、現在、株主総会を開催し得ない状況にある旨、まる2そのため、請求人、G及びHに対して、それぞれ配当予定金の4分の3に相当する金額(請求人が○○○○円、G及びHが各○○○○円)を中間配当として実行する旨が記載されている。
(ロ) 請求人は、平成14年4月30日、本件清算人から、振込入金の方法により上記(イ)の○○○○円の支払を受けた。
ロ 平成18年11月22日付の「御通知」と題する書面及び振込入金
(イ) 本件清算人から請求人に対する平成18年11月22日付の「御通知」と題する書面には、まる1本件滞納法人の清算に伴う最終配当金は、請求人が○○○○円、G及びHが各○○○○円である旨(いずれも、各人の持株数に応じた分配金額から、各人の源泉所得税額(上記1の(4)のロ)及び各人の中間配当額(上記イ)を控除した金額である。)、まる2一方、本件滞納法人が、請求人に対する未収入債権(合計○○○○円)を有するため、請求人が本件滞納法人に支払うべき精算金(以下「本件精算金」という。)の額が○○○○円(○○○○円−○○○○円)である旨、まる3本件精算金については、G及びHに対する各最終配当金が合計で○○○○円(○○○○円×2)であることから、請求人、G及びHを一体と考え、請求人に対し、本件精算金(○○○○円)からG及びHの各配当金(合計○○○○円)を控除した○○○○円を本件清算人の預金口座に送金するよう求める旨が記載されている。
(ロ) 請求人は、平成18年11月27日、本件清算人の預金口座に上記(イ)の○○○○円を振込入金した。
ハ 請求人が分配を受けるべき残余財産の額
 請求人の代理人であり、本件滞納法人の解散直後から本件滞納法人の関与税理士であるJ税理士は、平成20年2月頃、平成19年12月31日の臨時株主総会決議(上記1の(4)のイの(ニ))に基づく残余財産の確定を受けて、まる1本件滞納法人の各株主の氏名、まる2各株主に係る株式数、まる3各株主に係る分配金額、まる4各株主に係る源泉所得税額、まる5各株主に係る差引分配額等を記載した「D社清算分配金」と題する書面を作成しているところ、同書面には、請求人の差引分配額は○○○○円と記載されている。
ニ 小括
 上記イ及びロの各事実によると、本件滞納法人は、請求人に対して、まる1平成14年4月30日、本件滞納法人の残余財産の分配金として、振込入金の方法により、○○○○円を支払い、まる2平成18年11月27日、請求人が本件滞納法人の残余財産の分配金として支払を受けるべき残額○○○○円について、本件滞納法人が請求人に対して有する未収入債権の合計額○○○○円と対当額(○○○○円)で相殺したものと認められ、請求人に対する残余財産の分配額は、○○○○円(○○○○円+○○○○円)であると認められる。
 なお、残余財産が確定していなかったことから、上記各分配は、いずれも仮払いとして実行されたものであり、上記1の(4)のイの(ニ)の平成19年12月31日の臨時株主総会決議に基づく残余財産の確定により、残余財産の分配として確定したものである。
 また、上記ハによれば、平成19年12月31日の臨時株主総会決議(上記1の(4)のイの(ニ))に基づく残余財産の確定により、請求人が分配を受けるべき残余財産の額は○○○○円と確定したと認められるところ、この額から仮払いとして実行された上記各分配の額(○○○○円)を差し引いた残額(○○○○円)については、請求人への分配は未了であると認められる。

(2) 争点1について

イ 法令解釈
 会社法は、法人が解散した場合、まる1その清算人は当該法人の債務を弁済した後でなければその財産を株主等に分配することができず(会社法第502条《債務の弁済前における残余財産の分配の制限》及び同法第664条《債務の弁済前における残余財産の分配の制限》参照)、また、まる2清算人が悪意又は重大な過失によりこれに反する行為をしたことによって当該法人の債権者に損害が生じたときは、当該債権者は清算人に対する損害賠償請求等により保護される(会社法第487条《清算人の第三者に対する損害賠償責任》及び同法第653条《清算人の第三者に対する損害賠償責任》参照)旨規定している。しかるに、徴収法第34条第1項の第二次納税義務は、国税債権を迅速かつ適切に確保するためにはこれらの方法によることが適当とはいえないことを考慮し、解散した法人が国税を納付せずに残余財産の分配又は引渡しをしたときは、その法人に対して滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合に限り、清算人及び残余財産の分配又は引渡しを受けた者に対して、その悪意等を要件とすることなく滞納者の滞納に係る国税についての第二次納税義務を負わせることにより、国税債権の迅速かつ適切な確保を図ることとしたものと解される。
 そして、徴収法基本通達第34条関係2は、徴収法第34条第1項の「法人に課されるべき、又はその法人が納付すべき国税」とは、法人が結果的に納付しなければならないこととなる全ての国税をいい、解散の時又は残余財産の分配若しくは引渡しの時において成立していた国税に限られない旨を定めているところ、上記の徴収法第34条第1項の趣旨、特に国税債権の適切な確保の観点からすると、徴収法基本通達の当該定めは、当審判所においても相当であると考える。
ロ 当てはめ
 上記イのとおり、徴収法第34条第1項の「その法人に課されるべき、又はその法人が納付すべき国税」とは、法人が結果的に納付しなければならないこととなる全ての国税をいい、解散の時又は残余財産の分配若しくは引渡しの時において成立していた国税に限られないところ、まる1上記(1)のニのとおり、本件滞納法人は、株主である請求人に対し、金○○○○円について、残余財産の分配をしたものと認められ、まる2上記1の(2)のイのとおり、本件滞納法人は、本件納付告知処分時に、本件滞納国税を滞納していたものであるから、本件は、徴収法第34条第1項の「その法人に課されるべき、又はその法人が納付すべき国税を納付しないで残余財産の分配……をしたとき」の要件に該当する。
ハ 請求人の主張について
 請求人は、まる1本件滞納法人は、残余財産の分配時において国税を滞納しておらず、正当かつ適法に残余財産の分配をしたものであるから、徴収法第34条第1項の「その法人に課されるべき、又はその法人が納付すべき国税を納付しないで残余財産の分配……をした」ものではなく、まる2本件滞納国税が滞納となっているのは、本件滞納法人が請求人から配当所得に係る源泉所得税を徴収していながら、本件清算人が職務懈怠又は横領によって納付しなかったことによるものであり、適法に残余財産の分配を受け、確定申告も完了し、正当な納税義務を履行している株主である請求人に第二次納税義務を負わせるのは、法律の拡大解釈であり、違法である旨主張する。
 しかしながら、徴収法第34条第1項の「その法人に課されるべき、又はその法人が納付すべき国税」とは、上記イで述べたとおり、解散の時又は残余財産の分配若しくは引渡しの時において成立していた国税に限られないのであって、請求人の主張するような上記まる2の事情があったとしても、そのことによって同項の規定を適用することができなくなるものではないから、請求人の主張を採用することはできない。

(3) 争点2について

イ 法令解釈
 上記(2)のイのとおりの徴収法第34条第1項の趣旨に照らしても、また同項の文理解釈からしても、徴収不足とは、第二次納税義務の納付告知処分をする時の現況において、納税者に帰属する財産で滞納処分により徴収することができるものの価額が納税者の滞納国税の総額に満たないと認められる場合をいい、その判定に当たっては、滞納処分を現実に執行した結果に基づいて行う必要はないと解される。
 したがって、上記と同様に解すべきこととする徴収法基本通達第34条関係4及び同通達第22条関係4の定めは、当審判所においても相当であると考える。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件滞納法人の平成18年5月31日現在の貸借対照表には、本件滞納法人の資産として、普通預金3,521円、未収入金23,425,183円及び預け金○○○○円が計上されていた。
(ロ) 上記(イ)の預け金とは、本件清算人が、本件滞納法人の解散後に、本件滞納法人が解散時に所有していた財産の換価、債権の取立て及び債務の弁済を行った後の残余の金員を本件清算人の預金口座に入金して管理していたものであり、本件滞納法人は、本件清算人に対し、清算人として保管している当該金員の返還請求権を有していた。
 しかしながら、本件清算人は、本件納付告知処分の約3か月前である平成24年3月○日に破産手続開始決定を受けており(上記1の(4)のニ)、また、当該破産手続において、本件清算人の破産財団を換価しても一般債権者への配当は見込めない状況にあることからすると、本件納付告知処分時においては、仮に原処分庁が上記返還請求権を本件滞納法人に対する滞納処分によって差し押さえた上で、当該破産手続において債権届出を行ったとしても、当該破産手続に係る本件清算人の破産財団から本件滞納国税の総額を満たす配当を受けることができる見込みはなかったものと認められる。
(ハ) なお、本件滞納法人が平成12年に解散し(上記1の(4)のイの(ロ))、平成18年に清算確定申告をしている(上記1の(4)のイの(ハ))ことなどを総合すると、少なくとも、平成18年5月31日以降、上記(イ)の未収入金の額が増加した事実は認められず、また、上記(イ)の普通預金については、平成24年5月22日、原処分庁が預金残高15,898円について差押処分をした。
ハ 当てはめ
 上記イのとおり、徴収法第34条第1項の徴収不足とは、第二次納税義務の納付告知処分をする時の現況において、納税者に帰属する財産で滞納処分により徴収することができるものの価額が納税者の滞納国税の総額に満たないと認められる場合をいい、その判定に当たっては、滞納処分を現実に執行した結果に基づいて行う必要はないと解されるところ、上記ロの事実からすると、本件納付告知処分時においては、本件滞納法人に対して滞納処分を執行したとしても、本件滞納国税の総額を徴収することはできなかったと認められる。
 したがって、本件は、徴収法第34条第1項の「その法人に対し滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合」に該当する。
ニ 請求人の主張について
 請求人は、本件滞納国税が発生してから、本件納付告知処分の納付通知書を発するまでに、原処分庁が本件清算人から、本件滞納国税を徴収する手続を行っていれば、本件納付告知処分時の徴収不足は生じなかったはずであって、このような場合に、徴収法第34条第1項の「その法人に対し滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合」の文言を形式的に適用し、徴収不足であるとするのは、法律の拡大解釈であり違法である旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、徴収法第34条第1項の趣旨及び文理解釈からして、徴収不足に当たるか否かは、納付告知処分をする時の現況において判定するものとされていることからすれば、仮に納付告知処分より前に滞納処分等の徴収手続を行っていれば滞納国税を徴収することができたとしても、そのことが徴収不足の要件の判定に影響を及ぼすと解することはできず、請求人の主張を採用することはできない。

(4) 本件納付告知処分について

 以上のとおり、本件は、本件滞納法人が解散した場合において、本件滞納法人が納付すべき国税を納付しないで、株主である請求人に対して金○○○○円の残余財産を分配したときに当たり、本件滞納法人に対し滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる。そして、原処分庁は、納付すべき限度の額を残余財産の分配額の範囲内である○○○○円として本件納付告知処分をしているから、原処分庁が、請求人に対し、徴収法第34条第1項の規定に該当する事実があるとして、本件納付告知処分をしたことは適法である。

(5) その他について

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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