(平成26年3月6日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、司法書士業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、ロータリークラブの入会金及び会費を事業所得の金額の計算上必要経費に算入して所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該入会金等については必要経費に算入することができないとして、所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、顧客の獲得につながる当該クラブの活動は事業の遂行上必要な活動であるから、当該入会金等は必要経費に算入することができるとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

 審査請求(平成25年7月26日請求)に至る経緯等は、別表のとおりである。
 なお、以下、平成25年2月25日付でされた平成22年分及び平成23年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税の各更正処分を「本件各更正処分」といい、過少申告加算税の各賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」という。

(3) 関係法令の要旨

イ 所得税法第37条《必要経費》第1項は、その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、事業所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定している。

ロ 所得税法第45条《家事関連費等の必要経費不算入等》第1項は、居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入しない旨規定し、同項第1号は、家事上の経費(以下「家事費」という。)及びこれに関連する経費(以下「家事関連費」という。)で政令で定める旨規定している。

ハ 所得税法施行令第96条《家事関連費》は、所得税法第45条第1項第1号(必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする旨規定している。

(イ) 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費

(ロ) 上記(イ)に掲げるもののほか、青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、事業所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分の金額に相当する経費

ニ 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書が提出された場合において、更正があったときは、当該納税者に対し、その更正に基づき同法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。
 また、通則法第65条第4項は、同条第1項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、同項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として所定の方法により計算した金額を控除して、同項の規定を適用する旨規定している。

ホ 司法書士法第3条《業務》第1項は、司法書士は、同法の定めるところにより、他人の依頼を受けて、登記又は供託に関する手続について代理することなどを業とする旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人は、a市d町○−○において、司法書士業を営んでいる。

ロ 請求人は、平成22年4月27日に、Gロータリー・クラブ(以下「本件クラブ」という。)に入会した。

ハ 請求人は、平成22年中に本件クラブに支払った入会金○○○○円及び会費○○○○円並びに平成23年中に本件クラブに支払った会費○○○○円(以下、これらを併せて「本件各諸会費」という。)について、本件各年分の事業所得の金額の計算上、必要経費にそれぞれ算入し、所得税の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載していずれも法定申告期限までに申告した。

ニ 本件クラブの定款の第4条《綱領》には、要旨次のとおり記載されている。
 ロータリーの綱領は、有益な事業の基礎として奉仕の理想を鼓吹し、これを育成し、特に次の各項を鼓吹、育成することにある。

第1 奉仕の機会として知り合いを広めること。

第2 事業及び専門職務の道徳的水準を高めること。あらゆる有用な業務は尊重されるべきであるという認識を深めること。そしてロータリアン各自が業務を通じて社会に奉仕するために、その業務を品位あらしめること。

第3 ロータリアン全てが、その個人生活、事業生活及び社会生活に常に奉仕の理想を適用すること。

第4 奉仕の理想に結ばれた、事業と専門職務に携わる人の世界的親交によって、国際間の理解と親善と平和を推進すること。

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2 争点

本件各諸会費は、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することができるか否か。

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3 主張

原処分庁 請求人
 本件各諸会費は、次のとおり、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することができない。  本件各諸会費は、次のとおり、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することができる。
(1) ある支出が必要経費とされるには、その支出が客観的にみて事業の業務と直接の関係を持ち、かつ業務の遂行上通常必要な支出であることを要し、その判断は当該事業の業務内容など個別具体的な諸事情に即して社会通念に従って実質的に行われるべきである。 (1) 所得税法第37条第1項に規定する「その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」とは、同項を文理解釈する限り「所得を生ずべき業務を遂行するのに必要であった費用」であって、事業の業務と直接の関係を持つことが要件であるとの解釈をすることはできない。このことは、東京高等裁判所平成24年9月19日判決(平成23年(行コ)第298号更正処分取消等請求控訴事件。以下「本件高裁判決」という。)の判示からも明らかである。
 そして、事業所得を生ずべき業務に該当するか否かについては、当該活動が社会通念に照らし、客観的にみて所得を生ずるのに必要な活動であるといえるか否かで判断すべきである。
(2) 本件クラブの綱領は、有益な事業の基礎として奉仕の理想を鼓吹し、これを育成することとしており、本件クラブは、当該綱領に基づき奉仕活動を行うことが目的であるところ、当該奉仕活動は、請求人が司法書士として行う事業には該当しない。
 また、本件クラブの支出の内訳は、会食費、例会会場費の占める割合が最も多くなっていること、及び本件クラブは、司法書士業を営む者が全て入会しなければならないものではなく、個人的な立場で入会するものであって、本件クラブの活動は、事業所得を生ずべき業務に密接に関係するものとはいえないことから、本件各諸会費は、請求人の事業と直接関連するものではなく、かつ、業務の遂行上通常必要な支出であるとは認められない。
 なお、請求人は、所得税基本通達により、入会が強制でなく、個人の立場で入会する商工会議所の入会金等について、必要経費への算入が認められている旨主張するが、商工会議所に対して支払った会費が必要経費に算入できるか否かは、所得税法第37条、同法第45条第1項第1号及び所得税法施行令第96条の法令及び解釈から判断すべきであり、直ちに必要経費に算入できるものではなく、業務に関連するものが必要経費に算入できるにすぎない。
(2) 請求人の行う司法書士業務は、人とのつながりが特に重要であり、紹介により仕事を獲得することが多いものであるところ、請求人は、営業活動の一環として、本件クラブに入会し、本件クラブの活動に継続的に参加することにより、顧客を獲得している。
 したがって、本件クラブの活動は、事業の遂行上必要な活動に該当する。
 これに対して、原処分庁は、本件各諸会費が必要経費に算入できない理由として、本件クラブは、司法書士業を営む者が全て入会しなければならないものではなく、個人的な立場で入会するものである旨主張するが、入会が強制でなく、個人的な立場で入会する商工会議所の入会金及び会費については、所得税基本通達37−9《農業協同組合等の賦課金》により、必要経費への算入が認められているのであるから、入会の強制の有無や、個人的な立場での入会を理由に必要経費でないとすることは妥当ではない。
 また、本件クラブの綱領が、有益な事業の基礎として、奉仕の理想を鼓吹し、これを育成することとあるからといって、なぜに本件各諸会費が必要経費に算入できないのかは不明であり、本件クラブの支出について、会食費等飲食を伴う支出が多いことを理由に一律に家事費であるとする原処分庁の主張は誤りである。
(3) 所得税法は、事業活動の主体であると同時に消費活動を行う個人を対象としているため、所得税法第45条第1項及び所得税法施行令第96条において、事業と家計の区分の必要上、交際費等の家事関連費について、家事費か必要経費かの判断基準を明文の規定により明らかにしている。一方、法人税法は、所得税法のような規定はなく、その損金性の判断基準を所得税法とは異にしていることから、法人が支出するロータリークラブの会費等について、経費とすることが認められているからといって、所得税と法人税を同様に取り扱わなくてはならないとする根拠はない。 (3) 法人が支出するロータリークラブの会費等については交際費等の経費として認められており、同じ会費等の支出であるのに、人格の違い及び税法上の解釈で経費計上の取扱いが異なることは、合理性を欠くといえるから、個人事業者においても交際費等として必要経費に算入されるべきである。
(4) 本件各諸会費は、所得税法第45条第1項第1号に規定する家事上の経費であるところ、仮に同号及び所得税法施行令第96条に規定する家事関連費に該当するとしても、請求人の本件クラブにおける活動が、主として業務上の必要性に基づくものであると客観的に認めることはできず、また業務上の必要性があったとしても、事業所得を生ずべき業務の遂行上必要である部分を明らかにすることができない。 (4) 本件各諸会費は、業務上の経費であるから100%必要経費であり、家事関連費となる余地はない。

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4 判断

(1) 法令解釈

イ 事業所得の金額の計算上、必要経費が総収入金額から控除されることの趣旨は、投下資本の回収部分に課税が及ぶことを回避することにあると解されるところ、個人の事業主は、日常生活において事業による所得の獲得活動のみならず、所得の処分としての私的な消費活動も行っているのであるから、事業所得の金額の計算に当たっては、事業上の必要経費と所得の処分である家事費とを明確に区分する必要がある。このような事業所得の金額の計算上、必要経費が総収入金額から控除されることの趣旨及び個人における必要経費と家事費とを区分する必要性、並びに所得税法第37条第1項、同法第45条第1項及び所得税法施行令第96条第1号の各文言に照らすと、所得税法第37条第1項に規定する「販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」とは、当該支出が所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、業務の遂行上必要なものに限られると解するのが相当である。そして、かかる費用に該当するか否かの判断は、単に業務を行う者の主観的な動機・判断によるのではなく、当該業務の内容や、当該支出の趣旨・目的等の諸般の事情を総合的に考慮し、社会通念に照らして客観的に行われなければならないと解される。

ロ 所得税法第45条第1項第1号及び所得税法施行令第96条第1号の各規定によれば、家事関連費については、当該費用の主たる部分が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要なものであり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合に、その部分に相当する経費に限って必要経費に算入されると解される。

(2) 認定事実

イ 本件クラブの会員資格、組織及び主な活動内容等

(イ) 本件クラブにおいては、クラブ奉仕、職業奉仕、社会奉仕、国際奉仕及び新世代奉仕からなる五大奉仕部門が活動のための理念と実践の枠組みであるとされており、本件クラブは、五大奉仕部門の各活動に積極的に取り組むこととされている。

(ロ) 本件クラブの正会員となるためには、一般に認められた有益な事業若しくは専門職務の持主等であること、又は一般に認められた事業若しくは専門職務等において裁量の権限ある管理職の重要な地位にあることなどに加え、その事業所又は住居が本件クラブの所在地域内又はその周辺地域内にあることを要し、各会員は、その事業又は専門職務等に従って分類される。

(ハ) 本件クラブの管理主体は、理事会であり、その承認の下に、常任委員会として、クラブ奉仕委員会、職業奉仕委員会、社会奉仕委員会、国際奉仕委員会及び新世代奉仕委員会が設置されている。

(ニ) 本件クラブは、毎週火曜日の12時30分から1時間程度、例会と呼ばれる定期の会合(以下「例会」という。)を開催しているところ、例会時には昼食が出されるとともに、事務連絡及び卓話と呼ばれる勉強会が行われていた。
 また、本件クラブは、本件各年分において、年に4回程度の親睦会を開催していた。

ロ 本件クラブの会計状況

(イ) 本件クラブの会計年度は、7月1日から翌年6月30日までの期間とされており、本件各年分に係る本件クラブの会計年度は、平成21年7月1日から平成22年6月30日までの期間(以下「平成22会計年度」という。)、平成22年7月1日から平成23年6月30日までの期間(以下「平成23会計年度」という。)及び平成23年7月1日から平成24年6月30日までの期間(以下、「平成24会計年度」といい、これらの期間を併せて「本件各会計年度」という。)であった。

(ロ) 平成22会計年度の年間総合報告書、平成23会計年度の事業報告書及び平成24会計年度の事業報告書における各決算書によると、本件各会計年度の一般会計における本件クラブの収入のうち、会員から半年ごとに徴収する会費及び新入会員からの入会金による収入は、前年度繰越金や定期預金の解約収入を除く一般会計の収入の9割以上を占めていた。
 また、上記各決算書によると、本件各会計年度の一般会計における本件クラブの支出のうち、例会の会食費や会場費等を含む本件クラブの運営費並びに親睦会における親睦活動費等を含む本件クラブ及び委員会の活動費としての支出は、次年度繰越金を除く支出の8割程度を占めていた。

ハ 請求人の本件クラブでの活動内容等

(イ) 上記イの(ロ)のとおり、本件クラブの会員は、その事業又は専門職務等に従って分類されるところ、請求人は、司法書士として分類された。

(ロ) 請求人は、ほぼ毎週例会に出席し、また、上記イの(ニ)の親睦会に参加していたほか、平成24会計年度には、上記イの(ハ)の○○委員会の中の○○委員会に所属し、例会の○○等をしていた。
 なお、上記ロの(ロ)のとおり、例会や親睦会での飲食代等は、本件クラブから支出されるため、請求人は、原則として例会等において飲食代等を支払うことはなかった。

ニ 本件クラブの会員の紹介等による登記業務の依頼

 請求人は、本件クラブに入会した後、本件クラブの会員から直接、又はその紹介によって登記業務の依頼を受けており、本件クラブの会員の紹介等に基づく請求人の収入は、請求人が本件クラブに入会した平成22年中は1件で10,500円であったが、平成23年中は15件で合計8XX,XXX円まで増加し、総収入金額のおおむね4%を占めるに至った。

(3) 判断

イ 当てはめ

(イ) 上記(1)のイのとおり、所得税法第37条第1項に規定する「販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」とは、客観的にみてその費用が業務と直接関係し、かつ、業務の遂行上必要なものに限られると解するのが相当であるところ、前記1の(4)のイのとおり、請求人は、司法書士業を営む者であり、同(3)のホのとおり、司法書士は、他人の依頼を受けて、登記又は供託に関する手続について代理することなど司法書士法第3条第1項各号に規定する事務を行うことを業とし、かかる事務を行う対価として報酬を得ることで事業所得を得ているのであるから、本件各諸会費が、請求人が司法書士として行う事業所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、当該業務の遂行上必要なものであれば、必要経費に該当することとなる。
 これを本件についてみると、上記(2)のロの(ロ)のとおり、本件各会計年度の一般会計における本件クラブの収入(前年度繰越金や定期預金の解約収入を除く。)のうち、会費及び入会金による収入が9割以上を占めており、他方、本件各会計年度の一般会計における本件クラブの支出(次年度繰越金を除く。)のうち、本件クラブの運営費及び活動費等による支出が8割程度を占めていることからすれば、会費及び入会金の大部分が本件クラブの運営費及び活動費等に充てられており、本件各諸会費もその大部分が本件クラブの運営費及び活動費等に充てられたものと認められる。
 そして、前記1の(4)のニのとおり、本件クラブの綱領は、有益な事業の基礎として奉仕の理想を鼓吹し、これを育成することにあるなどとされ、本件クラブは、当該綱領に従って、上記(2)のイの(イ)のとおりの各奉仕活動をしていたものであり、具体的な活動についてみても、上記(2)のイの(ニ)のとおり、例会において、昼食が出されるとともに事務連絡及び勉強会が実施されたり、親睦会が開催されたりしていたにすぎないのであるから、請求人が本件クラブの会員として行った活動を社会通念に照らして客観的にみれば、その活動は、登記又は供託に関する手続について代理することなど司法書士法第3条第1項各号に規定する業務と直接関係するものということはできず、また、例会や親睦会の活動が司法書士としての業務の遂行上必要なものということはできない。
 したがって、本件各諸会費が、請求人の司法書士として行う事業所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、当該業務の遂行上必要なものであったと認めることはできない。

(ロ) 上記(イ)のとおり、本件各諸会費は、請求人の司法書士としての業務の遂行上必要なものであったとは認められないものであるが、仮に、業務の遂行上必要なものが一部含まれており、家事関連費に該当するとしても、上記(1)のロのとおり、家事関連費については、当該費用の主たる部分が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要なものであり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合に、その部分に相当する経費に限って必要経費に算入されると解されるところ、本件各諸会費の主たる部分が請求人が司法書士として行う事業所得を生ずべき業務の遂行上必要なものであるとは認められず、また、その必要である部分を明らかに区分することができるとも認められない。

(ハ) 以上のことから、本件各諸会費は、請求人の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することはできない。

ロ 請求人の主張について

(イ) 前記3の「請求人」欄の(1)の主張について
 請求人は、本件高裁判決を引用し、所得税法第37条第1項に規定する「所得を生ずべき業務について生じた費用」とは、「所得を生ずべき業務を遂行するのに必要であった費用」であって、事業の業務と直接の関係を持つことが要件であるとの解釈をすることはできず、また、事業所得を生ずべき業務に該当するか否かについては、当該活動が社会通念に照らし、客観的にみて所得を生ずるのに必要な活動であるといえるか否かで判断すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件高裁判決は、弁護士が弁護士会等の役員としての活動に伴い支出した懇親会費等の一部が、その事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することができるか否かが争われた事案につき、弁護士については、弁護士会等へのいわゆる強制入会制度が採られており、弁護士会等の活動は、弁護士として行う事業所得を生ずべき業務に密接に関係するとともに、会員である弁護士がいわば義務的に多くの経済的負担を負うことにより成り立っているものであることなどを理由として、当該懇親会費等の一定の範囲について、必要経費に算入することができると判断した事例であって、本件とは事案を異にするから、請求人の主張には理由がない。

(ロ) 前記3の「請求人」欄の(2)の主張について

A 請求人は、営業活動の一環として本件クラブに入会し、その活動に参加することにより顧客を得ており、本件クラブの活動は事業の遂行上必要な活動に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のイのとおり、業務と直接関係し、かつ、業務の遂行上必要なものに該当するか否かの判断は、単に業務を行う者の主観的な動機・判断によるのではなく、当該業務の内容や当該支出の趣旨・目的等の諸般の事情を総合的に考慮し、社会通念に照らして客観的に行われなければならないと解される。これを本件についてみると、請求人が本件クラブに加入した主たる動機が、奉仕の理想の鼓吹、育成や奉仕活動の実行のみならず、本件クラブへの加入及び例会、親睦会等への参加を通じて、本件クラブの各会員との親睦を深め、知己となった会員やその紹介を受けた者から登記業務等の依頼を受けることが期待でき、顧客獲得につながり得ると考えたことにあったとしても、請求人が顧客を獲得するために人的つながりを構築、拡大する方途は多種多様であって、奉仕の理想の鼓吹、育成や奉仕活動を行う本件クラブに加入し、例会や親睦会に参加することが、司法書士の業務の遂行上必要とまでは認められないことは上記イの(イ)のとおりである。また、上記(2)のニのとおり、請求人が、上記の期待どおり、実際に本件クラブの会員の紹介等によって登記業務の依頼を受けたことが複数回あったことが認められるものの、それは、本件各諸会費を支払ったことによる直接の効果であると認めることはできず、飽くまでも、請求人が会費を支払い、本件クラブの会合等へ参加し、本件クラブの会員と親睦を深めたこと等を契機として、間接的、副次的に生じた効果の一つにすぎないとみるのが相当である。

B また、請求人は、本件クラブが司法書士業を営む者全てが入会しなければならないものではないことや個人的な立場で入会するものであることをもって、本件各諸会費が必要経費ではないとすることは妥当ではない旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のイのとおり、本件各諸会費が必要経費に該当するか否かについては、業務の内容や当該支出の趣旨・目的等の諸般の事情を総合的に考慮して判断されるものであり、請求人が主張する入会の強制の有無や個人的な立場での入会か否かという事情のみにより、本件各諸会費が必要経費に算入できないと判断したものではないことは上記イのとおりである。

C 更に、請求人は、本件クラブの綱領の内容や本件クラブの支出の多くが飲食を伴うものであることを理由に一律に家事費であるとするのは誤りである旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のイのとおり、本件各諸会費が必要経費に該当するか否かについては、業務の内容や当該支出の趣旨・目的等の諸般の事情を総合的に考慮して判断すべきであって、本件クラブの支出の多くが飲食を伴うものであることのみを理由として一律に家事費と判断しているわけではなく、また、本件各諸会費の大部分が本件クラブの運営費及び活動費等に充てられていることからすると、本件クラブの活動の指針となるべき綱領の内容等は、本件各諸会費を支出した趣旨・目的等を判断する上での重要な考慮要素といえる。

D 以上のとおりであるから、請求人の主張にはいずれも理由がない。

(ハ) 前記3の「請求人」欄の(3)の主張について
 請求人は、法人が支出するロータリークラブの会費等が経費として認められているのであれば、個人事業者においても必要経費に算入されるべきである旨主張する。
 しかしながら、法人は、事業遂行又は所得獲得を目的として設立されるものであり、その活動は全て事業遂行又は所得獲得のために行われる結果、その活動により生じた支出を損金として益金から控除することが認められているのに対して、個人は、事業遂行又は所得の獲得活動の主体であると同時に私的な消費活動の主体でもあり、その支出には所得の獲得活動に関連した必要経費の性質をもつものがある一方で、消費支出(家事費の支出)の性質をもつものがあるため、前記1の(3)のイないしハのとおり、所得税法では同法第37条で必要経費を規定しながら、同法第45条で家事費及び家事関連費について必要経費に算入しない旨を規定し、いわば所得の享受又は処分という性質を有し、収入を得るために支出される費用とはみられないものを必要経費から除いているのである。
 そうすると、個人の支出に関する取扱いは、家事費及び家事関連費という概念がない法人の支出に関する取扱いとはおのずと異なるものといわざるを得ない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(ニ) 前記3の「請求人」欄の(4)の主張について
 請求人は、本件各諸会費は、業務上の経費であるから100%必要経費であり、家事関連費となる余地はない旨主張するが、本件各諸会費が請求人の司法書士の業務と直接関係し、かつ、当該業務の遂行上必要なものであるとは認められず、必要経費に該当しないことは、上記イで述べたとおりであって、請求人の主張には理由がない。

(4) 本件各更正処分について

 上記(3)のとおり、本件各諸会費は、請求人の事業所得の計算上必要経費に算入することはできないため、これに基づき本件各年分の総所得金額及び納付すべき税額を算定すると、いずれも別表の「更正処分及び賦課決定処分」欄と同額となるから、本件各更正処分は適法である。

(5) 本件各賦課決定処分について

 上記(4)のとおり、本件各更正処分は適法であり、また、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行われた本件各賦課決定処分は適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。


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