(平成26年1月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)がG社(以下「本件滞納者」という。)から金銭を無償で譲り受けたとして、請求人に対し、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》の規定に基づく第二次納税義務の納付告知処分を行ったところ、請求人が、本件滞納者から金銭を無償で譲り受けた事実はないとして、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、本件滞納者が納付すべき別表記載の滞納国税を徴収するため、請求人に対し、徴収法第39条の規定に該当する事実があるとして、同法第32条《第二次納税義務の通則》第1項の規定に基づき、平成24年9月27日付の納付通知書により、納付すべき金額の限度額を○○○○円とする第二次納税義務の納付告知処分(以下「本件納付告知処分」という。)をした。
ロ 請求人は、本件納付告知処分を不服として、平成24年11月15日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成25年2月14日付で棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の本件納付告知処分に不服があるとして、平成25年3月12日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

 徴収法第39条は、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免かれた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他の特殊関係者であるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実については、請求人及び原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件滞納者について
 本件滞納者は、平成3年5月○日に、飲食店業等を目的として設立された法人であり、設立時から現在に至るまで請求人の長女であるHの夫であるJことK(以下「J」という。)が代表取締役を務めている。また、平成4年5月1日から現在に至るまで、Hが取締役を務めている。
ロ L社について
 L社は、平成22年7月○日に、不動産の売買等を目的として設立された法人であり、設立時から平成23年11月15日までの間は請求人が、同日から現在に至るまではHが代表取締役として登記されている。
ハ J及びHの自宅の競売について
(イ) Jが所有していたa市d町○−○の土地及び同所所在の家屋番号○番○の建物(以下、これらを併せて「本件不動産」という。)は、J及びHの自宅であり、Jを債務者とする根抵当権が設定されていたところ、平成○年○月○日に、M地方裁判所において担保不動産競売開始決定がされた(以下、同決定に係る競売事件を「本件競売事件」という。)。
(ロ) L社は、平成22年7月13日に、入札価額を36,219,900円、入札保証金の額を8,192,000円と記入した入札書をM地方裁判所執行官へ提出した。
(ハ) L社は本件不動産を競落し、平成22年9月1日に、担保不動産競売による売却を原因としてL社に所有権移転登記が経由された。
ニ 金銭の移動について
(イ) 本件滞納者の普通預金口座からの出金について
 本件滞納者に帰属するJ名義のN信用金庫e支店の普通預金口座(口座番号○○○○)(以下「本件滞納者口座」という。)から、平成22年7月6日に○○○○円、同年8月20日に○○○○円が出金された(以下、これらの出金された金銭をそれぞれ「本件金員1」、「本件金員2」という。)。
(ロ) 請求人の預金口座への入金及び同口座からの出金について
 請求人のP銀行f支店の普通預金口座(口座番号○○○○)(以下「本件請求人口座」という。)に、平成22年7月6日に本件金員1、同年8月23日に本件金員2が入金され、同口座から同月25日に○○○○円が出金された。
 なお、本件金員1及び本件金員2が本件請求人口座に入金されてから、当該○○○○円が同口座から出金されるまでの間に本件請求人口座の出金はなかった。
(ハ) L社の預金口座への入金及び同口座からの出金について
 L社のQ銀行g支店の普通預金口座(口座番号○○○○)(以下「L社口座」という。)へ、平成22年8月25日に、上記(ロ)の○○○○円が入金され、これにより同口座の預金残高が28,520,000円となっていたところ、同月26日、同口座から28,027,900円が出金された。
(ニ) 競落残代金の振込みについて
 L社は、平成22年8月26日に、M地方裁判所の預金口座(以下「M地裁口座」という。)へ、本件競売事件に係る競落残代金として、上記(ハ)の28,027,900円を振り込んだ。
ホ 請求人と本件滞納者との間の債権債務関係について
 本件金員1及び本件金員2の請求人口座への振込みが、本件滞納者による請求人への貸付け又は債務の弁済としてされた事実はない。

(5) 争点

 請求人は、本件滞納者から金銭を無償で譲り受けたか否か。

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2 主張

(1) 原処分庁

イ 以下のことから、請求人は、本件滞納者から本件金員1及び本件金員2を無償で譲り受けたというべきである。
(イ) 本件滞納者口座から出金されたところの本件金員1及び本件金員2が、それぞれ平成22年7月6日及び同年8月23日に、本件請求人口座へ入金された。なお、本件請求人口座は、請求人自らが開設したものであり、請求人が役員を務める医療法人Vからの役員報酬が振り込まれている。
(ロ) 本件金員1が本件競売事件に係る入札期間の直前の平成22年7月6日に本件請求人口座に入金されていたところ、請求人は、当該入金が記帳された本件請求人口座の預金通帳及び請求人自身の印鑑登録証明書をM地方法務局に対して提示し、自らを唯一の出資者として本件不動産の競落のためにL社を設立し代表取締役に就任している。
(ハ) 上記(ロ)のとおり、請求人は、自らを唯一の出資者として本件不動産の競落のためにL社を設立し代表取締役に就任しているところ、請求人自らが出金伝票を記載することにより、本件金員1及び本件金員2の合計額と同額の○○○○円が本件請求人口座から出金され、本件不動産の競売手続について入札資格を有するL社の預金口座に入金後、本件不動産の競落代金として利用され、L社が本件不動産を競落し所有権を取得した。
(ニ) 請求人と本件滞納者の間には債権債務関係がなかった。
ロ 本件金員1及び本件金員2の本件請求人口座への入金は、Hへの貸付金が返済されたものであるとの請求人の主張は、次のことから理由がない。
(イ) 貸付けを証する書面がなく、請求人とHは親子である上、貸付対象となった金銭の交付、定期的な貸付金の返済並びに弁済期及び利息の定めの存在が不明である。
(ロ) 請求人は、本件金員1及び本件金員2の請求人口座への入金に関して、その原資は異議申立て及び審査請求の時点では請求人及び請求人の夫が貯めていた現金である旨主張しながら、平成25年4月30日付の反論書においては、本件金員2の入金に関して、その原資は請求人が孫名義で貯金していたM農業協同組合u支所の定期貯金である旨主張していた。このように請求人の主張には一貫性がなく信ぴょう性に欠ける。
ハ 請求人は、本件滞納者から本件金員1及び本件金員2を無償で譲り受けたことにより利益を受けた者は請求人ではなくL社であると主張するが、請求人は、これらの金銭を取得する意思を有していたのであり、また、これらの金銭の合計額と同額の○○○○円がL社口座に入金されたことについて、L社の会計上、請求人に対する負債科目として処理され、現にL社に対して資産を有することになったのであるから、請求人の主張には理由がない。

(2) 請求人

 以下のことから、請求人は、本件滞納者から金銭を無償で譲り受けていないというべきである。
イ 本件金員1及び本件金員2の本件請求人口座への入金は、Hへの貸付金が返済されたものであり、請求人が本件滞納者から金銭を無償で譲り受けた事実はない。
(イ) 請求人は、Hへ本件不動産の離れの増築資金等として複数回にわたり金銭を貸し付け、総額は約30,000,000円に上っていた。
(ロ) 請求人は、Hから数年間にわたり、分割払により計約8,000,000円の返済を受けており、本件金員1の入金を受ける直前のHへの貸付金残高は約22,000,000円であった。
(ハ) 本件請求人口座への本件金員1及び本件金員2の入金について請求人の主張が変遷したことには、以下のとおり合理的な理由がある。
A 税務調査や異議申立てに係る調査の際の原処分庁に対する主張は、言葉足らずであったにすぎず、高齢の請求人が意図どおりに説明できなかったとしても何ら不自然ではない。
B 主張が変遷したのは、客観的な資料を基に記憶を喚起したところ、記憶違いが判明するに至ったからである。
ロ 請求人は、本件滞納者の存在を知らず、本件金員1及び本件金員2の本件請求人口座への入金に関して、その原資も知らなかったのであり、本件滞納者からこれらの金銭を無償で譲り受けるとの認識を有することは不可能であるから、無償譲渡又は贈与契約について、明示又は黙示により本件滞納者に対し承諾の意思表示をすることは不可能である。
ハ 仮に、本件滞納者が本件金員1及び本件金員2を無償で譲渡したとしても、以下のことから、その相手方はL社であり、請求人は、本件滞納者からこれらの金銭を無償で譲り受けていないというべきである。
(イ) 本件金員1及び本件金員2は、L社により、本件競売事件の競落代金に充てられた金銭である。
(ロ) 請求人は、L社が本件不動産を競落するために設立された法人であるということ以外にはその事業内容等も全く知らず、L社の設立手続には一切関与していなかった。また、L社名義の預金口座の開設手続も自ら行っておらず、通帳、印鑑等もHが管理していた。
(ハ) 請求人は、L社による本件競売事件への参加について全く関与していなかった上、競落代金の詳細も知らず、M地裁口座への入札保証金の送金手続、競落残代金の送金手続にも関与していなかった。
(ニ) 請求人が本件金員1及び本件金員2の本件請求人口座への入金を知ったのは、本件請求人口座から○○○○円が出金された時である。
(ホ) 本件金員1及び本件金員2は、本件請求人口座に入金される時点で、後日、競落代金に充てるために出金されることが予定されていた。
(ヘ) 本件金員1及び本件金員2は、一旦、本件請求人口座に入金されたものの、入金後間もなく出金され、L社による本件不動産の競落代金の支払に充てられており、本件請求人口座を経由したにすぎず、請求人は利益を受けていない。

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3 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、L社の設立時から平成23年11月15日までの間、唯一の取締役、また、唯一の代表取締役として登記されていたものの、L社は、請求人に役員報酬を一切支給していなかった。
ロ Jは、平成22年7月13日に、本件滞納者口座から8,192,000円を出金し、L社名義で、本件競売事件に係る入札保証金としてM地裁口座に振り込んだ。
ハ Hは、平成22年7月12日に、L社の唯一の資金管理口座であったL社口座を開設し、以降管理している。
ニ L社は、少なくとも設立時から平成22年9月1日までの間、本件不動産の競落に関する事業以外の事業を行っていなかった。

(2) 関係者の答述

イ Jは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ) S社の代表者に本件不動産が競売になっていることを相談したところ、会社を設立して競売に参加するのが良いのではないか、また、代表取締役は本件滞納者の取締役であるJやHでない方が良いとアドバイスされたことを受け、請求人を代表取締役としてL社を設立した。
(ロ) L社の設立の一番の目的は、本件不動産の競落であり、S社の代表者に紹介してもらった司法書士が設立手続を進め、必要書類の準備等は、Hが行った。
(ハ) 本件金員1及び本件金員2が本件請求人口座に入金された後、請求人がこれらの金銭を請求人のものとして費消し、あるいは貯蓄し続けることは想定していなかった。
(ニ) 本件請求人口座への入金時、本件金員1及び本件金員2は、本件不動産の競落資金として使用することになると考えていた。
ロ Hは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ) L社は、本件不動産を競落するために設立した。L社設立当時の代表取締役を請求人としたのは、本件滞納者の取締役である自身とJは、L社の代表取締役に就任することはできないと認識していたからであり、かかる認識がなければ自身がL社の代表取締役に就任していた。L社設立後、自身が代表取締役に就任できることを知り代表取締役を自身に変更した。
(ロ) Jと本件不動産を競落するための手続を進めた。請求人は、この手続に一切関与していなかった。
(ハ) 請求人が本件金員1及び本件金員2を請求人のものとして費消し、あるいは貯蓄し続けることは想定していなかった。
(ニ) 本件金員1及び本件金員2は、本件請求人口座への入金時から本件不動産の競落資金に充てるために出金することを予定していた。

(3) 判断

イ 請求人は本件滞納者から本件金員1及び本件金員2を無償で譲り受けたか否かについて
(イ) 上記1の(4)のニの(イ)及び(ロ)のとおり、本件金員1及び本件金員2が本件請求人口座に入金され、上記1の(4)のホのとおり、これらの金銭の本件請求人口座への振込みが有償行為である本件滞納者による請求人への貸付け又は債務の弁済によるものでなかったことは、請求人が本件滞納者から本件金員1及び本件金員2を無償で譲り受けた事実を一応うかがわせるものではある。
(ロ) しかしながら、以下のことから、請求人が本件滞納者から本件金員1及び本件金員2をそもそも譲り受けていたと認めることはできない。
A J及びHがL社を実質的に支配していたこと
 J及びHは、L社の代表取締役に関し上記(2)のイの(イ)及びロの(イ)のとおり答述するところ、これらの答述は、上記1の(4)のロのとおり、L社の登記上代表取締役が請求人からHに変更されていること、上記(1)のイのとおり、L社は請求人に役員報酬を一切支給していなかったことと整合し信用できるから、J及びHは、本件滞納者の代表取締役等である自身らがL社の代表取締役に就任することは不適切あるいは不可能であると認識し、請求人が、L社の設立当初の代表取締役として登記されるに至ったと認められる。
 また、Hは、本件不動産を競落するための手続を誰が行ったかに関し上記(2)のロの(ロ)のとおり答述するところ、当該答述は、上記(1)のロのとおり、Jが本件競売事件に係る入札保証金をM地裁口座に振り込んでいること、上記(1)のハのとおり、Hが本件競売事件に係る競落残代金の支払に充てられた資金が出金されたL社口座を管理していたことと整合し信用できるから、請求人は、本件不動産を競落するための手続に関与しておらず、J及びHがこの手続を進めていたと認められる。
 以上に加えて、J及びHは上記(2)のイの(ロ)及びロの(イ)のとおり、L社は本件不動産を競落するために設立した旨答述するところ、これらの答述とその信用性を基礎づける上記(1)のニのL社が本件不動産の競落に関する事業以外の事業を行っていなかった事実を併せ考慮すると、請求人はL社の実質の代表取締役ではなく、当該事業に関する手続を進めていたJ及びHがL社を実質的に支配していたものと認められる。
B 本件金員1及び本件金員2につき請求人による費消等が予定されず競落資金とすることが予定されていたこと
 J及びHは、本件金員1及び本件金員2の使途に関し上記(2)のイの(ハ)及び(ニ)並びにロの(ハ)及び(ニ)のとおり答述するところ、これらの答述は、上記1の(4)のニの金銭の移動の事実と整合し、両者の答述間に矛盾もなく信用できるから、J及びHは、本件金員1及び本件金員2が本件滞納者口座から出金された時点で、請求人がこれらの金銭を費消し、あるいは、貯蓄し続けることを想定しておらず、一方でこれらの金銭を本件不動産の競落のために使用することを意図していたと認められる。
C 請求人による費消等がされずL社による競落が実現したこと
 J及びHの想定及び意図のとおり、本件請求人口座に本件金員1及び本件金員2が入金された後、同口座から○○○○円が出金されるまで本件請求人口座の預金が費消等されず、出金された○○○○円がL社口座に入金された後、L社による本件不動産の競落資金として利用され、L社が本件不動産を取得したことは上記1の(4)のハの(ハ)及びニのとおりである。
D 小括
 以上のことからすると、本件金員1及び本件金員2の本件請求人口座への入金は、L社の競落資金の原資が請求人の預金であるとの外形を作出することを目的として行われたものであり、本件金員1及び本件金員2は、本件滞納者の預金がL社の競落資金として利用されるまでの資金移動の過程において、単に本件請求人口座を通過させられたにすぎないというべきである。
ロ 原処分庁の主張について
(イ) 原処分庁は、請求人が本件金員1及び本件金員2を無償で譲り受けた根拠として、上記2の(1)のイの(ロ)及び(ハ)のとおり、請求人が本件金員1の入金が記帳された本件請求人口座の通帳を用いるなどして自らL社を設立しその代表取締役に就任している旨及び請求人自らが本件請求人口座から○○○○円を出金して自らが出資者であり代表取締役であったL社による本件不動産の競落代金に利用した旨主張する。
 しかしながら、これらの主張に係る事実があったとしても、それは、請求人が本件請求人口座からの出金手続及びL社の設立手続の一部に関与したことを示すにすぎず、L社による本件不動産の競落手続に関与したことを示すものではなく、上記イの(ロ)のAのJ及びHがL社を実質的に支配していたとの認定を覆すものでもないから、原処分庁の主張には理由がない。
(ロ) また、原処分庁は、上記2の(1)のハのとおり、請求人は、本件金員1及び本件金員2を取得する意思を有し、また、L社に対し○○○○円の資産を有することになったのであるから、本件金員1及び本件金員2につき利益を得ている旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ロ)のDのとおり、本件金員1及び本件金員2の本件請求人口座への入金は、本件滞納者の預金がL社の競落資金として利用されるまでの資金移動の一過程であったにすぎないから、原処分庁の主張には理由がない。
ハ 結論
 以上のとおり、請求人は本件滞納者から本件金員1及び本件金員2を譲り受けておらず、請求人が本件滞納者から金銭を無償で譲り受けたとは認められないから、徴収法第39条の規定に該当するとしてされた本件納付告知処分は、その全部を取り消すべきである。

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