(平成26年4月21日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、不動産貸付業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、賃貸用マンションの流し台等の取替工事に係る費用の全額を修繕費として不動産所得の必要経費に算入し申告したところ、原処分庁が、当該費用のうち、減価償却資産の新規取得に係る減価償却費の額及び修繕費となるもの以外の部分の金額は必要経費に算入できないなどとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該費用は居住用機能を回復させるため劣化した流し台等を取り替えたものであり、全額修繕費に該当するなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

イ 請求人は、平成21年分及び平成22年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載し、法定申告期限までにそれぞれ申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、本件各年分の所得税について、平成25年3月14日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりの各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号の規定により、平成25年4月26日に審査請求をした。
ニ なお、原処分庁は、平成25年8月29日付で、別表1の「減額更正処分等」欄のとおりの各減額更正処分及び過少申告加算税の各変更決定処分をした。
 以下、請求人の所得税についてされた、本件各年分の所得税の各更正処分(いずれも平成25年8月29日付でされた各減額更正処分後のもの)を併せて「本件各更正処分」といい、本件各年分の所得税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分(いずれも平成25年8月29日付でされた各変更決定処分後のもの)を併せて「本件各賦課決定処分」という。

(3) 関係法令等の要旨

イ 所得税法第2条《定義》第1項第19号は、減価償却資産とは、不動産所得若しくは雑所得の基因となり、又は不動産所得、事業所得、山林所得若しくは雑所得を生ずべき業務の用に供される建物、構築物、機械及び装置、船舶、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権その他の資産で償却をすべきものとして政令で定めるものをいう旨規定している。
ロ 所得税法第37条《必要経費》第1項は、その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする旨規定している。
ハ 所得税法第51条《資産損失の必要経費算入》第1項は、居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業の用に供される固定資産について、取壊し、除却、滅失その他の事由により生じた損失の金額は、その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する旨規定している。
ニ 所得税法施行令第127条《資本的支出の取得価額の特例》第1項は、居住者が有する減価償却資産について支出する金額のうちに所得税法施行令第181条《資本的支出》の規定によりその支出する日の属する年分の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入されなかった金額がある場合には、当該金額を所得税法施行令第126条《減価償却資産の取得価額》第1項の規定による取得価額として、その有する減価償却資産と種類及び耐用年数を同じくする減価償却資産を新たに取得したものとする旨規定している。
ホ 所得税法施行令第181条は、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務を行う居住者が、修理、改良その他いずれの名義をもってするかを問わず、その業務の用に供する固定資産について支出する金額のうち、まる1その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測される当該資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する金額(第1号)、まる2その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測されるその支出の時における当該資産の価額を増加させる部分に対応する金額(第2号)は、その者のその支出する日の属する年分の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない旨規定している。
ヘ 所得税基本通達37−10《資本的支出の例示》は、業務の用に供されている固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額が資本的支出となるのであるから、例えば、次に掲げるような金額は、原則として資本的支出に該当する旨定めている。
(イ) 建物の避難階段の取付け等物理的に付加した部分に係る金額
(ロ) 用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した金額
(ハ) 機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取り替えた場合のその取替えに要した金額のうち通常の取替えの場合にその取替えに要すると認められる金額を超える部分の金額
ト 所得税基本通達37−11《修繕費に含まれる費用》は、業務の用に供されている固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の通常の維持管理のため、又は災害等により毀損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額(当該金額に係る損失につき所得税法第51条第1項などの規定の適用を受けている場合には、当該金額のうち、これらの規定に規定する損失の金額に算入された金額を除く。)が修繕費となる旨定め、建物の移えい又は解体移築をした場合におけるその移えい又は移築に要した費用の額等を例示として掲げている。
チ 所得税基本通達37−13《形式基準による修繕費の判定》は、一の修理、改良等のために要した金額のうちに資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額があり、まる1その金額が60万円に満たない場合、又はまる2その金額がその修理、改良等に係る固定資産の前年12月31日における取得価額のおおむね10%相当額以下である場合において、その修理、改良等のために要した金額を修繕費の額としてその業務に係る所得の金額を計算し、それに基づいて確定申告を行っているときは、これを認めるものとする旨定めている。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成4年4月、F公団(現、独立行政法人G機構。以下「G機構」という。)から、同月新築されたa市d町○−○ないし○に所在する「H」と称する建物(以下「本件建物」という。)を取得し、以後賃貸の用に供している。
ロ 本件建物は、鉄筋コンクリート造り地下1階付6階建の建物で、A棟、B棟及びC棟の3棟から成り、住宅84室、店舗又は事務所4室から成る店舗共同住宅である。
ハ 請求人は、平成21年及び平成22年において、本件建物の一部の住宅について、キッチン(又はシステムキッチン)取替工事、キッチン改修工事及び洗面化粧台工事並びにユニットバス工事(以下、これらを併せて「本件各工事」という。)を含め、複数の修理・改良等の工事を行い、当該各工事に係る費用の全額を修繕費の額として、それぞれ本件各年分の所得税の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入し、別表1の「確定申告」欄のとおりの確定申告をした。
ニ 原処分庁は、原処分に係る調査において、まる1請求人が修繕費とした別表4の1及び2の各表に記載された本件建物の各住宅について行った本件各工事に係る費用について、請求人から提出された本件各工事の施工業者であるJ社又はK社(現、L社。以下「K社」という。)がそれぞれ発行した同各表の当該各工事に係る見積書及び領収証(ただし、別表4の1の順号4については領収証のみ。)の記載内容を基に、本件各工事に係る費用のうちシステムキッチン及びユニットバスの各本体価額相当額は、減価償却資産である器具・備品の新規取得に当たるなどとして、別表5の1及び2の各表の「費用区分等」欄のとおり、本件各工事に係る費用を減価償却費などの各経費科目に振り分けてそれぞれ算定するとともに、まる2不動産所得の総収入金額に申告漏れがあるなどとして、別表2及び別表3の各「更正処分額」欄のとおり、本件各年分の不動産所得の金額を算定し、平成25年3月14日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりの本件各年分の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行った。
ホ 原処分庁は、請求人が当審判所に対し審査請求をした後の平成25年8月29日付で、別表1の「減額更正処分等」欄のとおり、上記ニの各更正処分による本件各年分の所得税の納付すべき税額をいずれも減額する各減額更正処分を行うとともに、併せて過少申告加算税の各変更決定処分を行った。
 なお、当該各減額更正処分は、上記ニの各更正処分後の不動産所得の金額のうち同ニのまる2の申告漏れに係る部分の金額を減額する処分であり、同ニのまる1に関する内容は含まれていない。
ヘ 原処分庁は、審査請求において、上記ニのまる1の各更正処分において本件各工事に係る費用を各経費科目に振り分けた別表5の1及び2の内容を見直し、別表6の1及び2の各表の「費用区分等」欄のとおり、本件各工事に係る費用のうち、まる1新たなシステムキッチン及びユニットバスの取替えに要した費用(各製品の代金、取付施工費、給排水・電気・ガス等の工事費であり、以下「本件各取替費用」という。)、まる2新たな洗面化粧台の取得に要した費用及びまる3取替え前の流し台や風呂の解体撤去等に要した費用に振り分けた上、まる1については、本件建物の資本的支出、まる2については少額減価償却資産(取得価額が10万円未満の減価償却資産をいう。以下同じ。)の取得及びまる3については修繕費にそれぞれ該当するとして、同表の「取得価額又は必要経費の額」欄の各金額を基に、別表2及び別表3の各「原処分庁主張額」欄のとおり、本件各年分の必要経費及び所得金額を計算した。なお、原処分庁は、本件各取替費用について後記2の(1)のとおり主張している。

(5) 争点

 本件各取替費用は、修繕費又は資本的支出のいずれに該当するか。

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2 主張

(1) 原処分庁

イ 本件各工事に係る費用は、当該各工事に係る見積書等によれば、当該各工事とも既存の資産を解体し、単価の違いはあるものの、新たにシステムキッチン、洗面化粧台及びユニットバスなどの資産の取付け並びに既存の資産の解体等に係る費用であることが認められる。
 また、請求人は、本件建物は築後17年以上を経過し、本件建物の保守点検を依頼している業者からの指摘も受けるほどまでに劣化したため、流し台等を取り替えないと一世帯の賃貸機能が満たされないことから、空室になったところから新品のものへ取替えを行ったものである旨主張していることからして、本件各工事に係る費用のうち本件各取替費用は、通常必要と考えられる修繕に係る費用とは認められず、劣化した既存の資産を新品のものに取り替えることによって、本件建物本体の価値を高めるものであると認められる。
 したがって、本件各取替費用は、本件建物に設置された内部造作のための資本的支出に該当し、業務の用に供している固定資産の通常の維持管理のための修理、改良等のために支出した金額ではないから、修繕費には該当しない。
ロ なお、所得税基本通達37−13については、一の修理、改良等のために要した金額のうちに資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額がある場合において形式基準により判断する場合の取扱いであって、本件各工事に係る費用は資本的支出と修繕費とに区分することができるから、当該通達は適用できない。

(2) 請求人

イ 本件建物は、平成21年当時、築後17年を経過し各設備の劣化も目立つようになっており、賃料も当初と比較して下がり、空室も目立つ状況にあった。
 そのような状況下において、本件建物の保守点検を依頼している業者からの指摘もあり、請求人は、特に使用頻度が高く劣化の顕著な流し台及び風呂について、単なる清掃ではなく取替工事を部屋が空く都度順次行ったものである。
 本件各工事は、居住用機能を回復させるためにも必要な工事であり、本件建物は非常に大きな建物で、その規模からすれば、当該各工事の施工は、本件建物の基礎及び柱等の「建物の躯体」に影響を与えることがなく、当該建物の使用可能期間を延長させることもなく、その価値を高めるものでもなく、ましてや賃料の引上げもしていないことからすれば、その目的は現状維持することである。
 そうすると、本件各工事に係る費用のうち本件各取替費用については、所得税法施行令第181条に規定するまる1その資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する金額、まる2その支出の時におけるその資産の価額を増加させる部分に対応する金額には該当せず、また、所得税基本通達37−10の定めに例示された金額にも該当しないことは明らかであるから、修繕費に該当する。
ロ 本件各取替費用については、本件建物の価値を多少増加させた部分の金額も含まれているかもしれないが、劣化等により当該建物の価値が低下してしまった部分を原状回復させた部分の金額も含まれているはずである。このように資産の修理、改良等に係る支出には、資本的支出に該当する部分の金額と修繕費に該当する部分の金額とが混在している可能性があり、これらの金額を明確に区分することは現実的に不可能であるため、所得税基本通達37−13などの形式基準の定めが設けられている。
 したがって、本件各取替費用は、同通達37−13の定め(上記1の(3)のチのまる2)にも該当するから修繕費となる。
ハ なお、原処分庁は、システムキッチン及びユニットバスに関する減価償却資産の区分について、上記1の(4)のニの各更正処分においては、「器具・備品」に該当するとしていたものを「建物」に該当すると主張を変更しているが、仮にそうであれば、本件各工事において解体撤去した各流し台及び風呂に係る未償却残額(平成21年分は2,793,099円、平成22年分は2,621,040円)を固定資産除却損として、それぞれ本件各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである。

3 判断

(1) 法令解釈

イ 建物等について
(イ) 減価償却資産の耐用年数等に関する省令(以下「耐用年数等省令」という。)別表第一(機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表)には、同省令第1条《一般の減価償却資産の耐用年数》の規定を受けて、減価償却資産を「建物」、「建物附属設備」、及び「器具及び備品」等の種類に区分し、「建物」については構造の差異によって8種類に区分した上、その各種類ごとに、例えば鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造のものについては、事務所用、住宅用、飲食店用、店舗用など、更に用途等により細分されたものごとの耐用年数が掲げられている。これらの「建物」の耐用年数は、建物本体の他に、「建物附属設備」に該当するものを除いた個々の内部造作を総合して算定した上、更に建物の構造・用途等の違いを勘案して設けられたものと解される。
 このような建物の耐用年数の算定の趣旨によると、建物附属設備として独立の償却単位とされているものではない建物の内部造作であって、当該建物と物理的・機能的に一体となったものについては、当該建物に含まれ、当該建物の耐用年数により減価償却されるものと解される。そして、ここでいう建物の内部造作とは、建物の内部に設置されたもので、建物と物理的・機能的に一体となって、建物のそれぞれの用途における使用のために客観的な便益を与えるものであると解される。
(ロ) また、耐用年数等省令別表第一の「器具及び備品」とは、機械及び装置以外の有形減価償却資産で、別表第一に掲げられた他の種類の減価償却資産以外のものをいうところ、建物内に設置されたものについていえば、当該建物とは構造上独立・可分であって、かつ、機能上建物の用途及び使用の状況に即した建物本来の効用を維持する目的以外の固有の目的により設置されたものが「器具及び備品」に該当すると解される。
ロ 修繕費と資本的支出の区分について
(イ) 所得税法施行令第181条は、上記1の(3)のホのとおり、不動産所得を生ずべき業務の用に供する固定資産について修理、改良等のために支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において、当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測される、まる1当該資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する金額又はまる2その支出の時における当該資産の価額を増加させる部分に対応する金額が資本的支出に該当する旨規定しているところ、所得税基本通達37−10は、上記1の(3)のヘの(イ)ないし(ハ)のとおり、この資本的支出に該当する金額の例を示し定めたものであり、当該定めは、上記法令における資本的支出の概念を具体的かつ理解しやすく説示したものといえるから、当審判所においても相当と認める。
(ロ) また、所得税基本通達37−11は、上記1の(3)のトのとおり、業務の用に供されている固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の通常の維持管理のため、又は災害等により毀損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額が修繕費となる旨定めているところ、当該定めは、その支出した年の必要経費に算入される修繕費の意義を明らかにしたものとして、所得税法上、正当な解釈を示したものといえるから、当審判所においても相当と認める。
(ハ) したがって、建物に対する修理、改良等のために支出した金額が、修繕費又は資本的支出のいずれに当たるかは、当該支出した金額が当該建物の通常の維持管理のための費用であるか、それとも当該建物の価値を高めたり、耐久性を増したりするものかを、その支出した金額の内容及び支出効果の実質によって判断するのが相当である。
ハ 除却等による損失について
 不動産所得を生ずべき事業の用に供される固定資産について、取壊し、除却、滅失等により生じた損失の金額は、上記1の(3)のハのとおり、所得税法第51条第1項の規定により、当該損失が生じた年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入される。そして、当該必要経費に算入される損失の金額の計算の基礎となる資産の価額については、所得税法施行令第142条《必要経費に算入される資産損失の金額》に規定されているところ、当該規定によれば、減価償却資産を取り壊して廃棄した場合の損失の金額は、当該取壊し直前の帳簿価額(未償却残額)と解される。

(2) 認定事実

 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、M社(現、N社。以下「N社」という。)との間で、本件建物に関する管理業務委託契約を締結しており、同契約で定める管理業務には、入居者の募集、賃貸借契約、契約更新、家賃集金、退去立会い、修繕費見積り・手配等がある。
ロ N社の担当者は、本件建物の住宅の賃借人が退去した後、当該住宅内の現状確認等を工事業者であるK社に依頼し、同社は、住宅内の状況を確認し、台所・浴室などの水回りについては新たな賃借人の入居後は取替えができないため、修繕を繰り返した場合を想定して、耐久性、費用等を勘案したところで取替工事が必要か否かを判断の上、取替工事が必要な場合には当該工事の見積書を作成し、当該担当者に提出していた。
 また、N社の担当者は、平成21年及び平成22年において、本件建物の一部の住宅の台所等に関して、J社に対し取替工事等の見積書の作成・提出を依頼していた。
ハ N社の担当者は、請求人及び本件建物を建築した業者の担当者等と定期的に本件建物の管理等に関する打合せを行っており、その際、賃借人が退去した住宅の現状などを説明していた。そして、台所や浴室等に関する修繕等の要否について見積書などを基に請求人に説明していた。なお、それらの取替工事を行うか、損傷のある箇所を補修・交換するか、あるいは既存の設備をそのまま維持するかなど修繕等の要否は、損傷の度合いや工事に要する費用等を考慮し、最終決定は請求人が行っていた。
ニ N社の担当者が当審判所に対して提出した、本件建物の住宅に係る台所や浴室等の取替工事の施工状況を示す平成25年11月25日付「H設備取り替え表」と称する書面によれば、平成17年1月から本件建物の各住宅の台所、洗面所及び浴室等の取替工事を順次施工しており、いずれの箇所を取り替えたかは、各年ごとに、住宅ごとに異なっており、平成25年11月現在、本件建物の住宅84室のうち台所取替工事が未施工の住宅が28室、浴室等の取替工事が未施工の住宅が59室あり、いずれの取替工事も行われていない住宅は25室ある。
ホ 請求人は、平成22年に行った別表4の2に記載の各住宅に係る本件各工事のほかに、同年中に本件建物の住宅(部屋番号409号室)について、K社から別表8の内容が記載された見積書を徴して、同住宅の浴室の取替工事を施工し、ユニットバス交換工事の代金として443,625円を支払っていた。請求人は、当該金額を平成22年分の不動産所得の金額の計算上修繕費として必要経費に算入していたが、原処分庁は、本件各更正処分及び原処分庁主張額における本件各取替費用の計算に、いずれも含めていない。
ヘ 本件建物の建築に係るG機構の平成2年10月22日付「○○号建設工事」と題する設計図(以下「本件設計図」という。)には、「建築工事特記仕様書」と題する部分の「工事細目」欄に、「キッチンキャビネット」及び「浴室ユニット」と記載があり、「内部仕上表」と題する部分の室名「台所」欄に、「キッチンセット:○○型、レンジフード(備考欄)」、「コンクリート素地のタイル貼り(壁欄)」等、同「浴室」欄に、「○○浴室ユニット○○型、扉片開き、タオル掛け付、浴槽、シャワーセット(備考欄)」、「タイル貼り(メーカー標準品)(壁欄)」、「天井パネル(天井欄)」等とそれぞれ記載されている。なお、上記の「キッチンセット:○○型」の内容は、流し台、コンロ台及び調理台である。
ト 本件建物は、本件設計図の「面積表」と題する部分によれば、建築基準法による施設部分を含む共同住宅の床面積が、住宅部分7,413.80平方メートル、施設部分1,157.04平方メートルで、総床面積は8,570.84平方メートルであり、このうち、平成21年中及び平成22年中に本件各工事を施工した各住宅の台所部分及び浴室部分の床面積については、上記ホの409号室の住宅も含めて、別表9のとおりである。
チ 本件建物の各住宅について施工された本件各工事の工程・内容は、次のとおりである。
(イ) 台所部分については、まる1既存の流し台、コンロ台、調理台などの設備を解体撤去し、壁に貼られたタイルを剥がすなどした解体工事と、まる2壁や床に凸凹があった場合にベニヤ板等を貼り平面にする下地工事をした上、まる3シンク、ガスコンロ、扉、引き出しなどを組み立てワークトップ(天板)でカウンターを覆い平面にして設置し、床及び壁面にコーキングなどの詰め物や接着材等で固定し、まる4壁面の上部にウォールキャビネット及びレンジフードを設置し、壁正面及び側面にキッチンパネルを貼り、まる5既存の給水管、排水管、ガス管及び電気配線とを接続したシステムキッチンを設置する工事である。
(ロ) 浴室部分については、まる1既存の浴槽、シャワーセット、天井パネル等を撤去し、壁に貼られたタイルを剥がすなどした解体工事と、まる2水漏れ防止のための天井、壁、浴槽、シャワーセット、床等の部材を組み立て設置し、まる3既存の給水管及び排水管等と接続したユニットバス設置工事である。
リ 原処分庁は、本件各更正処分において、平成21年において施工された本件建物の各住宅のうち211号室及び307号室に係る本件各工事の費用について、当該各住宅の見積書の内容によらず他の住宅(419号室)の見積書に準じて各経費科目への振り分けを行い、原処分庁主張額の計算上も同様にしていたが(別表6参照)、これらの住宅の工事を施工したJ社が発行した211号室及び307号室の各システムキッチン交換工事に係る見積書の内容は、別表7の「内訳等」欄に記載のとおりである。
ヌ 請求人は、本件建物の減価償却費を計算するに当たり、平成21年分までは、当該建物の取得価額を1,888,927,744円としていたところ、平成22年12月に、当該取得価額に含めて減価償却費の計算をしていた機械式駐車場の一部を撤去したことから、平成22年分の不動産所得の金額を計算する際、当該撤去された機械式駐車場に係る取得価額を37,067,457円として、当該金額を基に、当該撤去された機械式駐車場に係る減価償却費の額及び固定資産除却損(当該撤去直前の未償却残額)を計算していたが、当該固定資産除却損については必要経費に算入したものの、当該減価償却費の額を必要経費に算入していなかった。なお、請求人は、平成22年分において、上記の本件建物の取得価額から当該撤去された機械式駐車場に係る取得価額を控除した残額1,851,860,287円を本件建物の取得価額としていた。
ル 上記ヌの本件建物の取得価額を構成する建築費用について、請求人から本件建物内部の工事ごとの内容や金額等が分かる資料の提出はなく、本件建物の購入先であるG機構及び本件建物を建築したP社においても、新築時における台所及び浴室の各工事費用の金額など詳細が分かる資料の保存はない。また、上記ヘのキッチンキャビネット及び浴室ユニットの各製品の製造元であるQ社においても、当該各製品を納入した当時の価格が分かる資料の保存はない。
ヲ 本件建物に係る固定資産税を所管するa市においては、保存されている本件建物に係る固定資産税評価額の算定の基礎に関する資料の内容は明らかにされなかった。

(3) 検討

イ 本件各工事について
(イ) 本件各工事のうち台所部分について
A システムキッチンとは、一般的に、台所の形態の一種で、ある規格に基づいて作られた流し台、調理台、ガス台、収納部などを自由に組み合わせ一体化して作り付けた台所(広辞苑)であるところ、別表4の1及び2並びに別表7の各見積書によれば、本件各工事によって新たに設置したシステムキッチンを示すものとして、製品名「e商品」又は同「f商品」、あるいは、「システムキッチン本体」とそれぞれ記載があり、当該各見積書の内容及び上記(2)のチの(イ)の本件各工事の工程・内容、及び同ヘの本件設計図の記載内容(本件建物新築時の工事内容)を総合すれば、本件各工事のうち台所部分の工事は、本件建物の新築時から流し台・コンロ台・調理台等で構成された製品(キッチンキャビネット)を床や壁に固定して設置されていた台所の場所について、その既存の台所設備の解体・撤去等の解体工事をした上、壁や床を平面にする下地工事をし、新たにシステムキッチンを設置した工事であると認められる。
B このように、当該設置工事は、台所設備のあった場所に既存の設備に替えて、シンク・ガスコンロ・レンジフード等が組み合わされたシステムキッチンを設置し、それらを既存の給湯、給排水、電気及びガスの各設備と連結させて台所を新設したものであることからすると、そのことによって初めて住宅内での湯水の利用や調理等を可能にするものである。また、新たに設置されたシステムキッチンは床や壁面にコーキング等によって固定されているから、本件建物との物理的な接着の程度もかなり高く、容易に取り外すことができないものである。
(ロ) 本件各工事のうち浴室部分について
A ユニットバスとは、一般的に、建物内の浴室として予定された場所に、防水パネル等の各種の部材を結合させて設置され、給湯及び給排水設備と連結させて浴室を完成させるものであるところ、別表4の2及び別表8の各見積書によれば、本件各工事によって新たに設置したユニットバスを示すものとして、製品名「g商品」とそれぞれ記載があり、当該各見積書の内容及び上記(2)のチの(ロ)の本件各工事の工程・内容、及び同ヘの本件設計図の記載内容(本件建物新築時の工事内容)を総合すれば、本件各工事のうち浴室部分の工事は、本件建物の新築時から浴室として設置されていた場所について、その既存の浴室設備の解体・撤去等の解体工事をした上、新たにユニットバスを設置した工事であると認められる。
B このように、当該設置工事は、浴室があった場所に、既存の設備に替えて防水用の各種の部材を結合させたユニットバスを設置し、それらを既存の給湯、給排水設備と連結させて浴室を新設したものであることからすると、そのことによって初めて住宅内での湯水の利用や入浴を可能にするものである。
ロ 本件各取替費用について
(イ) 以上のことからすると、本件各工事によって、新たにシステムキッチン及びユニットバスが設置された台所及び浴室は、本件建物と物理的・機能的に一体不可分な内部造作で、本件建物と一体となって、住宅としての用途における使用のために客観的に便益を与えるものであり、取り壊した台所部分及び浴室部分も同様であったと認められる。
(ロ) そして、本件各工事は、上記(2)のロないしニのとおり、本件建物の住宅内の台所や浴室などの水回り部分については、賃借人の退去後、K社がそれら設備の現状確認を行い、取替工事が必要か否かを検討した上で見積書が作成され、N社から請求人に説明された内容を基に、請求人が予算や損傷の度合い等を考慮して、取替工事を行うか、又は損傷のある箇所を補修・交換するかなどを決定して、最終的に取替工事が必要と判断した上で、平成17年以降順次施工されたものであり、その施工状況をみても、定期的に行ったものではない。
 このことに加え、本件各工事の内容は、上記イのとおり、単に既存の台所設備・浴室設備の部材の一部を補修・交換したものではなく、本件建物の各住宅内で物理的・機能的に一体不可分の関係にある台所部分及び浴室部分について、建築当初から設置されていた各設備及び壁・床の表面等を全面的に新しい設備等に取り替えたものであり、このことは、本件建物の各住宅を形成していた一部分の取壊し・廃棄と新設が同時に行われたとみるべきものである。
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)からすると、本件各取替費用は、本件建物の各住宅の通常の維持管理のための費用、すなわち修繕費であるとは認められず、新たにシステムキッチン及びユニットバスを設置し、台所及び浴室を新設したことによって、当該各住宅ひいては本件建物の価値を高め、又はその耐久性を増すことになると認められるから、その全額が資本的支出に該当するというべきである。
(ニ) なお、本件各工事により各住宅に設置されたシステムキッチン及びユニットバスは、上記(イ)のとおり、本件建物と物理的・機能的に一体不可分なものと認められるから、「器具・備品」には該当しない。

(4) 請求人の主張について

イ 請求人は、本件各工事は本件建物の居住用機能を回復させるために必要な工事で、本件建物の規模からすれば、本件建物の基礎及び柱等の「建物の躯体」に影響を与えることがなく、その価値を高めるものでもなく、その目的は現状維持であるから資本的支出には該当せず修繕費に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のロの(ハ)のとおり、建物に対する修理、改良等のために支出した金額が、修繕費又は資本的支出のいずれに当たるかは、当該支出した金額が当該建物の通常の維持管理のための費用であるか、それとも当該建物の価値を高めたり、耐久性を増したりするものかを、その支出した金額の内容及び支出効果の実質によって判断するのが相当であるから、本件各工事によって本件建物の住宅の居住用機能を回復させる目的があったとしても、本件建物の規模との比較のみによって判断するものではない。そして、上記(3)のロの(ロ)及び(ハ)のとおり、本件各工事の内容は、既存の台所及び浴室を全面的に取り壊し、新たなシステムキッチン及びユニットバスを設置し台所及び浴室を新設したものであり、本件各取替費用は、それらの台所及び浴室を新設したことによって本件建物の価値を高め、又はその耐久性を増すことになると認められ、本件建物に対する資本的支出に該当するから、修繕費とされる通常の維持管理のための費用とは認められないものである。
 したがって、請求人の主張は採用できない。
ロ 請求人は、本件各取替費用について、所得税基本通達37−10の定めに例示された金額にも該当しないことは明らかであり、また、同通達37−13の定めにより修繕費に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件各取替費用については、上記1の(3)のヘの所得税基本通達37−10の定めに照らしてみても、本件建物に対する資本的支出と認められるものであり、また、同(3)のチのとおり、同通達37−13の定めは、一の修理、改良等のために要した金額のうち資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額があることを前提とした定めであるところ、上記(3)のロの(ハ)のとおり、本件各取替費用は、その全額が資本的支出に該当するものであり、修繕費に該当するものは含まれていないから、そもそも同通達37−13の定めが適用されないものである。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(5) 本件各工事に係る費用区分(審判所認定額)について

イ 原処分庁は、別表6の1及び2のとおり、別表4の1及び2の各見積書の内容等を基に、原処分庁主張額におけるまる1本件各取替費用の金額(本件建物の資本的支出の金額)、まる2少額減価償却資産の取得及びまる3修繕費に区分しているところ、当審判所の調査の結果によれば、本件各工事に係る費用のうち、314号室及び213号室の各住宅に係る給湯・給排水工事及びガス工事の各費用の各金額を、本件建物の資本的支出(システムキッチンの各設置工事に係るもの)と修繕費(既存設備の解体工事費に係るもの)にあん分して計算していること、また419号室の住宅に係る壁下地工事の費用の金額を修繕費(既存設備の解体工事費に係るもの)に含めて計算していることが認められるが、当該給湯・給排水工事及びガス工事並びに当該壁下地工事は、上記(2)のチの(イ)の本件各工事の内容から、いずれもシステムキッチンの各設置工事に含まれると認められるから、これらの各工事の費用は、いずれも本件各取替費用の金額(本件建物の資本的支出の金額)に含めるべきである。
ロ 原処分庁は、上記(2)のリのとおり、本件建物の211号室及び307号室の各住宅に係る本件各取替費用の金額(本件建物の資本的支出の金額)を、他の住宅(419号室)に準じて計算しているが、211号室及び307号室に係る見積書の内容等は別表7のとおりであるから、当該各住宅に係る本件各取替費用の金額(本件建物の資本的支出の金額)は、当該内容等を基に算定すべきである。
ハ 原処分庁は、上記(2)のホのとおり、本件建物の409号室の住宅に係る本件各取替費用の金額(本件建物の資本的支出の金額)の計算をしていないことが認められるが、後記(6)の固定資産除却損及び同(7)の減価償却費の各算定に直接関連するので、別表8の見積書の内容等を基に当該住宅に係る本件各取替費用の金額(本件建物の資本的支出の金額)を算定すべきである。
ニ 上記以外の原処分庁の計算をみると、平成21年分の215号室・219号室・309号室、並びに平成22年分の303号室、210号室及び308号室については誤りがないものの、同年分の317号室・507号室・510号室については計算誤りが認められた。
ホ 以上を基に、本件各年分の本件各工事に係る費用区分及び各科目ごとの金額について、各見積書の内容等から、まる1本件各取替費用の金額(本件建物の資本的支出の金額)、まる2少額減価償却資産の取得及びまる3修繕費に区分して算定すると、別表10の1及び2の「取得価額又は必要経費の額」欄の各金額のとおりとなる。

(6) 本件建物に係る固定資産除却損(審判所認定額)について

 請求人は、システムキッチン及びユニットバスに関する減価償却資産の区分が「建物」であれば、本件各工事において解体撤去した既存の各流し台及び風呂に係る未償却残額を固定資産除却損として、それぞれ本件各年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである旨主張するので、当該固定資産除却損について検討すると、次のとおりである。
イ 本件各工事は、上記(3)のロの(ロ)及び(ハ)のとおり、本件建物の各住宅の台所及び浴室を全面的に取り壊し、その取り壊した場所に新たにシステムキッチン及びユニットバスを設置して、台所及び浴室を新設するという資本的支出をしたものであり、本件建物の各住宅を形成していた一部分の取壊し・廃棄と新設とが同時に行われたとみるべきものであるから、当該取壊し・廃棄については、所得税法第51条第1項の規定により、不動産所得の金額の計算上、取り壊した台所及び浴室に係る除却損失の金額を算定し必要経費に算入すべきである。
ロ 減価償却資産を取り壊して廃棄した場合の損失の金額は、上記(1)のハのとおり、当該減価償却資産の取壊し直前の帳簿価額(未償却残額)と解されるから、本件の場合、取り壊した台所及び浴室に係る除却損失の金額を算定するに当たっては、その取り壊した各部分の取得価額相当額が明らかであることが前提となる。そこで、当該取得価額相当額の算定に当たっては、本件建物に係る客観的な資料などを勘案して採り得る合理的な方法によるべきところ、本件建物の当初の取得価額に含まれる当該各部分に係る工事費用については、上記(2)のルのとおり、請求人から本件建物内部の建築費用の内訳(工事ごとの内容や金額等)が分かる資料の提出はなく、本件建物の購入先及び建築業者においても資料の保存がない。加えて、本件建物の新築時に台所及び浴室に設置されていた設備製品については、製造元においても、納入した当時の価格が分かる資料の保存はないことから、当審判所の調査の結果によっても本件建物内部の建築費用の内訳は不明であり、客観的な資料から直接算定することができない。また、同(2)のヲのとおり、当初の固定資産税評価額の算定の基礎も確認できない。
 そうすると、上記事情が存する本件においては、本件建物の取得価額(建築費用)及び総床面積を基に1平方メートル当たりの建築単価を算出し、これに住宅ごとの台所部分及び浴室部分の床面積を乗じて算定した金額を取り壊した当該各部分に対応する取得価額相当額とし、これを基に住宅ごとの取壊し直前の台所部分及び浴室部分の未償却残額相当額を算定するのが、採り得る合理的な算定方法として相当というべきである。
ハ 以上のとおりであるから、本件建物の当初の取得価額(1,888,927,744円)を総床面積(8,570.84平方メートル)で除して1平方メートル当たりの建築単価を220,390円と算定し、これに各住宅の台所部分及び浴室部分の床面積を乗じて取り壊した台所部分及び浴室部分の各取得価額相当額を算出すると、別表9の「取得価額相当額」欄の各金額のとおりとなる。そして、この各取得価額相当額を基に取壊し直前の未償却残額相当額を算定すると別表11の1及び2の「資産損失額」欄の各金額のとおりとなる。
 したがって、除却損失の金額は、平成21年分は1,991,034円、平成22年分は2,417,728円となる。
ニ なお、請求人は、当該除却損失の金額について請求人が計算した具体的な金額を主張するが、当該金額は、原処分庁が主張する本件建物の資本的支出の各金額を基に計算したものである上、取り壊した台所及び浴室に設置していた各設備等が、新たに設置したシステムキッチン及びユニットバスと同程度のものと認めるに足る証拠はないから、請求人が主張する除却損失の金額は、取り壊した台所部分及び浴室部分の除却損失の金額を合理的に計算したものとはいえない。

(7) 本件各年分の本件建物に係る減価償却費の計算(審判所認定額)について

 以上のことを基に、平成21年分については、まる1本件建物の除却部分(各住宅ごとの取り壊した台所部分)、まる2本件建物(まる1を除く部分)、及びまる3本件建物の資本的支出に区分し、平成22年分については、まる1本件建物の除却部分(各住宅ごとの取り壊した台所部分及び浴室部分)、まる2上記(2)のヌの撤去した機械式駐車場、まる3本件建物(まる1及びまる2を除く部分)、及びまる4本件建物の資本的支出に区分し、それぞれ各減価償却費を算定すると、別表12及び別表13のとおりとなる。

(8) 請求人のその他の主張について

 請求人は、上記2の(2)の主張のほか、原処分に係る調査の際に調査担当者がシステムキッチン等の減価償却資産の区分が「器具・備品」に該当しなければ、更正処分は取消しになる旨明言したから、本件各更正処分を取り消すべきである旨主張する。この主張は、調査時における調査担当者の言動の事情をもって取消しを主張する趣旨のもの、あるいは更正の理由の差替えをすることは許されず取消事由に該当する旨の趣旨のもののいずれかと解されるところ、仮に、前者の主張であったとしても、単に調査時における調査担当者の上記発言によって更正処分の取消事由に当たらないことは明らかであるし、また、後者であったとしても、原処分庁がした当初の各更正処分と審査請求における本件各更正処分の理由とは、その課税要件事実の基本的事項は同一であり、原処分庁が審査請求において更正処分の理由を差し替えたとしても請求人の防御の機会を奪うものではないから、本件各更正処分は違法とはいえず、請求人の主張には理由がない。

(9) 不動産所得の金額

 以上のとおりであるから、これを前提として、請求人の本件各年分の不動産所得の必要経費及び所得金額を計算すると、別表14のとおりとなる。

(10) 本件各更正処分について

イ 平成21年分
 上記(9)の結果、請求人の総所得金額は○○○○円(内訳は、不動産所得の金額○○○○円、雑所得の金額○○○○円)となり、この金額は別表1の平成21年分の減額更正処分後の額を下回るから、同年分の更正処分は、別紙「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。
ロ 平成22年分
 上記(9)の結果、請求人の総所得金額は○○○○円(内訳は、不動産所得の金額○○○○円、雑所得の金額○○○○円)となり、この金額は別表1の平成22年分の減額更正処分後の額を上回るから、同年分の更正処分は適法である。

(11) 本件各賦課決定処分について

イ 平成21年分
 上記(10)のイのとおり、本件各更正処分のうち、平成21年分についてはその一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の賦課決定処分の基礎となる税額は○○○○円となる。
 また、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、過少申告加算税の額は○○○○円となり、この金額は変更決定処分後の額を下回るから、平成21年分の賦課決定処分は、別紙「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。
ロ 平成22年分
 上記(10)のロのとおり、本件各更正処分のうち、平成22年分については適法であり、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、同年分の賦課決定処分は適法である。

(12) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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