(平成26年6月18日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、飲食業(居酒屋)を営む審査請求人(以下「請求人」という。)に対し、原処分に係る調査において請求人が帳簿書類を提示しなかったとして、所得税の青色申告の承認を取消し、推計の方法により事業所得の金額及び消費税の課税標準額をそれぞれ算定して、所得税並びに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の各更正処分等を行ったのに対し、請求人が、原処分に係る調査の手続は違法であり、推計の方法による課税の必要性及び合理性は認められないなどとして、青色申告の承認の取消処分及び当該各更正処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成25年7月26日請求)に至る経緯は、別表1及び別表2のとおりである。
 なお、別表1及び別表2を含め、以下、平成21年分以後の所得税の青色申告の承認の取消処分を「本件取消処分」、平成21年分、平成22年分及び平成23年分を併せて「本件各年分」というとともに、平成21年1月1日から同年12月31日まで、平成22年1月1日から同年12月31日まで及び平成23年1月1日から同年12月31日までの各課税期間を、順次「平成21年課税期間」、「平成22年課税期間」及び「平成23年課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。

(3) 関係法令の要旨

 関係法令の要旨は、別紙2のとおりである。
 なお、別紙2を含め、以下、所得税法及び消費税法については、いずれも平成23年法律第114号による改正前のものをいい、消費税法施行令については、平成25年政令第56号による改正前のものをいう。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人の事業
 請求人は、d市e町○−○に所在する店舗(以下「本件店舗」という。)において、「L」という屋号で飲食業として居酒屋を営んでいる(以下、請求人が営む事業を「本件事業」という。)。
ロ 所得税の青色申告承認申請書の提出
 請求人は、平成19年1月31日に、本件店舗を事業所とする事業所得についての所得税の青色申告承認申請書を提出し、平成19年分以後の所得税の青色申告の承認を受けた。
ハ 消費税簡易課税制度選択届出書の提出等
 請求人は、平成19年12月27日に、適用開始課税期間を平成20年1月1日から同年12月31日まで(以下「平成20年課税期間」という。)、事業の内容を飲食業として、消費税法第37条第1項に規定する消費税簡易課税制度選択届出書を提出した。
 なお、請求人の平成21年課税期間及び平成22年課税期間(以下「本件両課税期間」という。)に係る各基準期間(各課税期間の前々年の課税期間をいう。)における課税売上高は、いずれも1,000万円超であり、かつ、5,000万円以下である。
ニ 消費税簡易課税制度選択不適用届出書の提出
 請求人は、平成22年11月22日に、適用開始課税期間を平成23年課税期間とする消費税法第37条第4項に規定する消費税簡易課税制度選択不適用届出書を提出した。
ホ 原処分に係る税務調査
 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成24年9月12日から原処分に係る税務調査(以下「本件調査」という。)を開始した。

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2 争点

(1) 争点1 青色申告の承認を取り消すべき事実があるか否か。
(2) 争点2 本件調査の手続が違法か否か。
(3) 争点3 推計の方法による課税の必要性が認められるか否か。
(4) 争点4 推計の方法による課税に合理性が認められるか否か。
(5) 争点5 平成23年課税期間の消費税の額の算定に当たり、消費税法第30条第1項に規定する課税仕入れ等に係る消費税額の控除(以下「仕入税額控除」という。)を適用することができるか否か。

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3 主張

(1) 争点1(青色申告の承認を取り消すべき事実があるか否か。)について

原処分庁 請求人
 本件調査担当職員が、再三再四、平成21年分の事業所得に係る帳簿書類を提示するよう求めたにもかかわらず、請求人は、本件調査担当職員に対して、第三者の立会いを認めなければ本件調査に応じないなどと申し立て、正当な理由なく平成21年分に係る帳簿書類の提示を拒否した事実が認められる。
 これらの事実は、所得税法第150条第1項第1号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する。
 請求人は、本件事業に係る帳簿書類を備え付け、記録保存を行い、本件調査において、帳簿書類を用意するなどして調査に協力しており、適時に当該帳簿書類を提示することが可能なように態勢を整えていたにもかかわらず、本件調査担当職員は、請求人の必要とした第三者の立会いを認めず、第三者の退去に拘泥して当該帳簿書類の検査を行わなかった。
 したがって、本件調査において、所得税法第150条第1項第1号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する事実は存在しない。

(2) 争点2(本件調査の手続が違法か否か。)について

請求人 原処分庁
 本件調査の手続は、次のとおり違法である。
イ 行政手続法第35条第1項について
 本件調査担当職員は、平成24年9月12日の本件調査に当たり、請求人に対して、本件調査の趣旨及び内容並びに責任者を示していないから、本件調査は、行政手続法第35条第1項に違反した調査である。
 本件調査の手続は、次のとおり適法である。
イ 行政手続法第35条第1項について
 本件調査担当職員は、平成24年9月12日の本件調査において、請求人に対して所得税法第234条第1項に基づく質問検査権を行使したものであるところ、これは、行政手続法第3条第1項第14号に規定する「報告又は物件の提出を命ずる処分その他その職務の遂行上必要な情報の収集を直接の目的としてされる処分及び行政指導」に該当し、行政手続法第35条第1項は適用されないから、本件調査は違法ではない。
ロ 本件調査の態様等について
(イ) 本件調査担当職員は、事前の連絡もなく請求人宅を来訪し、請求人が事業の準備があることなどを理由として後日に本件調査を行うよう要請したにもかかわらず、威圧的な態度で帳簿書類の提出や提示を求めるなどして本件調査を強行した。
ロ 本件調査の態様等について
(イ) 本件調査担当職員は、請求人宅において、請求人に対して本件調査に協力するよう求めたところ、請求人から、仕込みを行うために本件店舗に行きたい旨の申出があったため、請求人宅に保管のある帳簿書類の確認を行い、その後、本件店舗に移動して調査を行いたい旨説明し、請求人の承諾を得て本件調査を行ったものである。
(ロ) 本件調査担当職員は、請求人に対して、「時間はかからないのでどのようなところで事務仕事を行っているのかを見せてください。」と説明したにもかかわらず、請求人宅及び本件店舗において、午前11時30分から午後3時頃まで、帳簿、領収書、伝票、カードの控え、現金残高の確認などの調査を行い、当初の説明とは異なり、長時間にわたる詳細な調査を行った。 (ロ) 本件調査担当職員は、請求人に対して、偽った説明をしたことはなく、また、請求人の承諾を得て本件調査を行ったものであることから、当初の説明とは異なり、長時間にわたる詳細な調査を行ったという請求人の主張には理由がない。
(ハ) 本件調査担当職員は、請求人宅から本件店舗に向かう狭い車の中で、請求人に対し、「隠していることがあるのなら今のうちに言っておいた方がいいですよ。後で分かることですから。」などと発言し、初めての税務調査に動揺する請求人に恐怖を感じさせた。 (ハ) 本件調査担当職員による「隠していることがあるのなら今のうちに言っておいた方がいいですよ。後で分かることですから。」との発言は、売上げを故意に計上しない納税者もいることから、仮に、請求人が、本件事業に係る売上げを帳簿に記載していない事実があるならば、速やかに説明してもらいたいとの趣旨に基づく発言であり、本件調査担当職員が請求人に対して恐怖を与えるような言動をした事実はない。
ハ 帳簿を借用する際の説明について
 本件調査担当職員は、請求人から平成22年分及び平成23年分の現金出納帳、売上帳及び仕入帳(以下「本件各帳簿」という。)を借用したが、その際、請求人に対して、借用理由の説明をせず、請求人の明示的な承諾を得なかった。
ハ 帳簿を借用する際の説明について
 本件調査担当職員は、請求人に対し、本件調査を効率的に進めるために本件各帳簿を借用する旨伝え、請求人の承諾を得て、借用書を交付した上で本件各帳簿を借用した。
ニ 本件調査における第三者の立会いについて
 請求人は、税務調査に動揺し、恐怖を感じており、第三者の立会いを必要としていたにもかかわらず、本件調査担当職員は、公務員の守秘義務を口実に第三者の立会いを認めず、請求人が用意した帳簿書類を調査しなかった。このことは、原処分庁の裁量権の逸脱である。
ニ 本件調査における第三者の立会いについて
 税務調査に当たり、納税者が法律の規定による守秘義務を負わない第三者の立会いを要求する権利があるということはできず、税務調査担当者が調査に際し、第三者の立会いを拒むことは正当な処置であるといえるところ、本件調査担当職員が、第三者の立会いの下で本件調査を行うことは、国税通則法(以下「通則法」という。)第126条及び国家公務員法第100条《秘密を守る義務》に規定する守秘義務に違反するおそれがあると判断したことは適法であり、原処分庁が裁量権を逸脱したものとは認められない。

(3) 争点3(推計の方法による課税の必要性が認められるか否か。)について

原処分庁 請求人
 請求人は、本件各帳簿を提示したものの、その後は、本件調査担当職員からの調査の協力要請に対して、第三者の立会いを認めなければ本件調査に応じないなどと申し立てたため、本件調査担当職員は、本件各帳簿に記載された内容について詳細を調査することができなかった。
 その結果、請求人の本件各年分の事業所得の金額(以下「本件各事業所得金額」という。)及び本件各課税期間の消費税の課税標準額(以下「本件各消費税課税標準額」といい、本件各事業所得金額と併せて「本件各事業所得金額等」という。)を実額により算定することはできなかったものであるから、本件では推計課税の必要性が認められる。
 上記(1)の「請求人」欄のとおり、請求人は、本件事業に係る帳簿書類を備え付け、記録保存を行っており、本件調査にも協力していたのであるから、本件調査担当職員が、請求人の帳簿書類の調査を行えば、請求人の本件各事業所得金額等を実額計算の方法により算定することができたといえる。
 したがって、本件では推計課税の必要性は認められない。

(4) 争点4(推計の方法による課税に合理性が認められるか否か。)について

原処分庁 請求人
 原処分庁は、請求人と事業内容・規模等が類似すると認められるP税務署管内の青色申告者(平成21年分7件、平成22年分4件、平成23年分5件)の平均的な売上原価率(総収入金額に対する売上原価の割合)に基づいて本件各事業所得金額等を推計していることから、原処分庁の推計には合理性が認められる。  原処分庁は、請求人の本件各事業所得金額等を推計の方法により、過大に認定しており、原処分庁の推計には合理性がない。

(5) 争点5(平成23年課税期間の消費税の額の算定に当たり、仕入税額控除を適用することができるか否か。)について

原処分庁 請求人
 請求人は、平成23年課税期間の消費税の控除対象仕入税額について、本件各帳簿を提示したものの、本件各帳簿の記載内容は、いずれの取引も、消費税法第30条第8項第1号に規定する帳簿の記載事項のうち、課税仕入れの相手方の氏名又は名称(同号イ)、若しくは課税仕入れに係る資産又は役務の内容(同号ハ)のいずれかの記載がなされておらず、同項に規定する帳簿とは認められない。
 さらに、請求人は、一度、本件各帳簿を提示した後は、その後の本件調査において、正当な理由なく、消費税の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を一切提示しなかった。
 これらのことからすると、請求人は、本件調査担当職員による検査に当たって適時に帳簿及び請求書等を提示することが可能となる態勢を整えていたものとは認められず、消費税法第30条第7項に規定する課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合に該当するといえる。
 したがって、平成23年課税期間の消費税の額の算定に当たり、仕入税額控除を適用することはできない。
 本件調査担当職員は、本件各帳簿を確認しているところ、本件各帳簿には、課税仕入れを行った年月日及び課税仕入れに係る支払対価の額、課税仕入れの相手方の名称又は仕入れた品名が記載されており、また、請求人は、それらの課税仕入れに係る請求書及び領収証を保存していたのだから、それらを併せみれば、課税仕入れに係る消費税の額は計算できる。
 したがって、請求人は税務職員による検査に当たって適時に帳簿及び請求書等を提示することが可能な態勢を整えていたといえ、消費税法第30条第7項の適用を受けないから、平成23年課税期間の消費税の額の算定に当たり、仕入税額控除を適用することができる。

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4 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 平成24年9月12日の本件調査
(イ) 請求人宅への臨場及び調査
 本件調査担当職員は、平成24年9月12日午前11時50分頃、事前に連絡することなく請求人宅を訪れ、請求人に対し、身分証明書を提示しながら本件調査担当職員の氏名を告げた上、本件各年分の所得税の確定申告の内容を確認するため調査に来た旨伝え、本件調査への協力を依頼した。
 その際、請求人は、本件調査に係る事前の連絡がなかったことを指摘するとともに、仕込みを行うために本件店舗に行かなければならないことから日を改めてほしい旨申し立てたが、本件調査担当職員は、請求人に対し、事前に連絡をすると書類を隠す人がいることから事前の連絡をしなかった旨説明した上、短時間で構わないこと、及び帳簿書類の作成場所を確認させてもらいたいことなどを告げて本件調査への協力を依頼した。
 これに対し、請求人は、上記依頼を了承して本件調査担当職員を帳簿書類の作成場所であるリビングに案内し、さらに、本件調査担当職員が帳簿書類の保管場所を尋ねると、リビング横の和室の押入れを開けて保管場所を教えた。
(ロ) 帳簿書類等の提示
 本件調査担当職員が、請求人に対し、本件事業に係る平成21年分以降の帳簿書類の提示を求めたところ、請求人は、請求人宅において、平成22年分、平成23年分及び平成24年分の現金出納帳、売上帳及び仕入帳、平成24年9月1日から同月11日までの会計伝票(以下「本件会計伝票」という。)及び本件会計伝票を日ごとに集計した日計票(以下「本件日計票」といい、本件会計伝票と併せて「本件会計伝票等」という。)、並びに平成24年9月の経費に係る領収証等(以下、請求人宅において提示された書類を併せて「本件現金出納帳等」という。)を提示した。
 なお、本件現金出納帳等のうち平成23年課税期間の現金出納帳及び仕入帳においては、取引に係る年月日及び支払額についてはいずれも記載されていたが、取引に係る相手方の名称及び取引の内容については、「摘要」欄に「氷砂糖(○○)」などと記載されているものが数件あるほかは、取引に係る相手方の名称又は取引の内容のいずれか一方しか記載されていなかった。
 また、本件日計票は、同じ日付で売上金額の多いものと少ないものがあり、そのうち売上金額が少ない方の日計票の金額が、平成24年の売上帳に記載されていたことから、本件調査担当職員が事情を尋ねると、請求人は、計算間違いで書き直したものである旨答えた。そこで、本件調査担当職員は、計算間違いであれば合計額のみ訂正すれば済むことや会計伝票の金額で代金をもらっているはずであることを指摘して日計票を書き直した理由を再度尋ねたが、請求人は、明確な回答をしなかった。
(ハ) 請求人宅から本件店舗への移動
 本件調査担当職員は、請求人に対し、本件現金出納帳等を持って本件店舗に移動し、調査を続行したい旨告げたところ、請求人は、これを了承した。
 また、本件調査担当職員は、請求人の了承を得て請求人の車に同乗した上、本件店舗へ移動する車内において、請求人に対し、「調査を進めていく上で分かることだと思うので、隠していることがあれば今のうちに話してください。」と発言した(以下、当該発言を「本件発言」という。)。
(ニ) 本件店舗における調査
 本件調査担当職員は、本件店舗において、請求人に対し、本件事業に関する質問検査を実施し、その際、請求人から預金通帳及びキャッシュカード等の提示を受けた(以下、本件店舗において提示された物件と本件現金出納帳等とを併せて「本件提示書類等」という。)。
 また、本件調査担当職員は、本件提示書類等の一部について、請求人の承諾を得た上でコピーをしたほか、平成22年分、平成23年分及び平成24年分の現金出納帳、売上帳及び仕入帳並びに本件会計伝票等については、税務署で内容を検討した方が効率的であると思われることから当該書類を借用したい旨を説明し、請求人に借用書の内容を確認してもらった上、当該借用書を交付して当該書類を借用した(以下、本件調査担当職員が借用した書類を併せて「本件借用書類」という。)。
 なお、本件借用書類に係る借用書には、「J(請求人)殿に係る所得税等調査に必要がありますので、下記書類を借用します。」と記載されている。
 さらに、本件調査担当職員は、平成21年分の帳簿書類の提示がなかったので、請求人に対し、平成21年分の帳簿書類を用意するよう依頼し、午後3時頃、本件店舗を辞去した。
ロ 平成24年9月14日から同年12月17日までの本件調査
(イ) 本件調査担当職員は、平成24年9月14日、本件店舗に臨場し、請求人に対して、生ビールの在庫等について、聞き取り調査を行った。
(ロ) 請求人が、平成24年10月2日に本件調査担当職員に電話をかけ、次回の調査日を同月10日としたいこと、及びその際第三者の立会いを予定していることを告げたところ、本件調査担当職員は、公務員には守秘義務が課されているため、第三者立会いの下では調査を行うことができない旨伝えた。
 そして、本件調査担当職員は、平成24年10月10日、本件店舗に臨場し、請求人に対して、本件調査における行政指導の責任者が原処分庁であることなどを告げるとともに、調査に関係ない第三者5名が同席していたことから、本件調査担当職員には守秘義務が課せられており、第三者立会いの下では調査を行うことができない旨説明し、第三者の立会いがない状況で調査に協力するよう求めた。
 これに対し、請求人は、本件調査担当職員の協力要請に対しては回答せず、平成24年9月12日の本件調査において、調査理由の説明がないまま強引に調査が行われたなどの主張を繰り返すのみで、第三者の立会いがない状況での調査に応じなかった。
(ハ) 本件調査担当職員は、平成24年10月29日及び同年11月9日に電話で本件調査のための日程調整を行った際、請求人に対し、帳簿書類の提示を求めるとともに、第三者立会いの下では調査を行うことができないこと、及び帳簿書類を確認することができない場合にはその年分から所得税の青色申告の承認が取り消される場合があることを説明した。
(ニ) 本件調査担当職員は、平成24年11月15日、同月20日、同月27日及び同月30日、本件店舗に臨場し、請求人に対して、平成21年分の帳簿並びに平成21年分ないし平成23年分の売上げに係る会計伝票並びに仕入れ及び必要経費に係る請求書及び領収証の提示を求めるとともに、それらの提示のない場合には、所得税の青色申告の承認が取り消されたり、仕入税額控除の適用が認められなくなったりすること、及び第三者立会いの下では本件調査を行うことができないことを説明し、本件調査への協力を求めたが、請求人はこれに応じなかった。
(ホ) 本件調査担当職員は、平成24年12月3日、本件店舗に臨場したところ、調査に関係ない第三者3名が同席していたため、請求人に対して、本件調査担当職員には守秘義務が課せられており、第三者立会いの下では調査を行うことができない旨説明するとともに、本件各年分の帳簿書類を全て確認することができない場合は、平成21年分から所得税の青色申告の承認が取り消され、青色専従者給与や青色申告特別控除が認められなくなること、及び仕入税額控除の適用が認められなくなることを説明し、第三者を退席させて、帳簿書類の提示を行うよう求めたが、請求人はこれに応じなかった。
(ヘ) 本件調査担当職員が、平成24年12月17日、本件店舗に臨場したところ、調査に関係ない第三者1名が同席していた。
 そこで、請求人から個室があると聞いていた本件調査担当職員は、請求人に対して、個室の場所を尋ねたところ、請求人は、本件調査担当職員を本件店舗の入口左手の仕切りのある4人掛けの固定テーブルに案内した。
 しかし、本件調査担当職員は、請求人に対し、当該場所では守秘義務を守れないので、調査を行うことができない旨説明し、第三者の退席を求めたが、請求人はこれに応じなかった。
 また、本件調査担当職員は、請求人に対し、本件各年分の帳簿書類の提示を求めるとともに、第三者立会いの下では、帳簿書類を確認することができないことから平成21年分から所得税の青色申告の承認が取り消される場合があること、及び仕入税額控除の適用が認められない旨説明した。

(2) 争点1(青色申告の承認を取り消すべき事実があるか否か。)について

イ 法令解釈
 所得税法第148条第1項は、青色申告の承認を受けている納税者は、財務省令で定めるところにより、帳簿書類の備付け等をしなければならない旨規定し、同法第150条第1項第1号は、青色申告の承認を受けた納税者につき、その帳簿書類の備付け等が同法第148条第1項に規定する財務省令で定めるところに従って行われていない事実がある場合には、税務署長は青色申告の承認を取り消すことができる旨規定しているところ、この帳簿書類の備付け等が財務省令に従って行われていることを確認するためには、帳簿書類を閲覧、検査することが不可欠であり、これは納税者による帳簿書類の提示があって初めて可能になるものであるから、青色申告の承認を受けている納税者の帳簿書類の備付け等の義務は、税務職員の質問検査に応じてその帳簿書類を提示する義務をも当然に含むものと解される。
 そうすると、所得税法第148条第1項に規定する帳簿書類の備付け等があるというためには、単に帳簿書類が物理的に存在するということでは足りず、権限ある税務職員の求めに応じて帳簿書類を提示することを要するものであり、また、帳簿書類を提示するとは、帳簿書類を税務職員が十分に閲覧、検査できる状態に置くことをいうものと解するのが相当である。
ロ 当てはめ
 これを本件についてみると、上記(1)のとおり、請求人は、平成24年9月12日の本件調査において、本件調査担当職員の求めに応じて、本件提示書類等を提示したものの、その後、同年10月29日、同年11月9日、同月15日、同月20日、同月27日、同月30日、同年12月3日及び同月17日の計8回にわたり、本件調査担当職員が、帳簿書類の提示を求めたにもかかわらず、請求人は、これに応じず、請求人が提示した帳簿書類は、結局のところ、本件提示書類等のみであり、平成21年分に係る帳簿書類については、一切提示がなかったのであるから、帳簿書類の備付け等が所得税法第148条第1項の規定するところに従って行われていたことを確認することはできず、帳簿書類の備付け等が行われていなかったものと認めることが相当である。
 したがって、所得税法第150条第1項第1号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当し、本件取消処分は適法である。
ハ 請求人の主張の当否
 請求人は、前記3の(1)の「請求人」欄のとおり主張する。
 しかしながら、質問検査権に基づく税務調査に際し、第三者の立会いを認めなければならない旨を定めた法令上の規定はなく、第三者を立ち会わせるか否かについては、調査権限を有する税務職員の合理的な判断に委ねられていると解するのが相当であるところ、税務調査に当たっては、調査の内容が被調査者のみならず、その取引の相手方である第三者の営業上の秘密に及ぶことが少なくないのであって、調査に関係ない、法律上の守秘義務を負わない第三者の立会いを認めないこととした本件調査担当職員の判断は合理的なものと認められる。そうすると、上記(1)のとおり、本件調査担当職員が第三者立会いの下では本件調査を行うことができない旨説明し、第三者を退席させて帳簿書類を提示するよう要求したにもかかわらず、請求人は、格別の理由もなくこれに応じず、帳簿書類を本件調査担当職員が十分に閲覧、検査できる状態に置いていなかったといえ、帳簿書類の備付け等が所得税法第148条第1項の規定するところに従って行われていたと認めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 争点2(本件調査の手続が違法か否か。)について

イ 法令解釈
 所得税法第234条第1項又は消費税法第62条第1項の規定は、調査権限を有する税務職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情に鑑み、客観的な必要性があると判断される場合には、職権調査の一方法として、質問し検査を行う権限を認めた趣旨であって、この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解される。
ロ 当てはめ及び請求人の主張の当否
(イ) 行政手続法第35条第1項について
 請求人は、前記3の(2)の「請求人」欄のイのとおり、本件調査担当職員は、平成24年9月12日の本件調査において、請求人に対して、本件調査の趣旨及び内容並びに責任者を示していないから、本件調査は違法である旨主張する。
 しかしながら、別紙2の4の(1)のとおり、行政手続法第3条第1項第14号は、報告又は物件の提出を命ずる処分その他その職務の遂行上必要な情報の収集を直接の目的としてされる処分及び行政指導については、同法第4章の規定は適用しない旨規定しているところ、所得税法第234条又は消費税法第62条の各規定に基づく質問検査権の行使は、同号に該当することから、行政手続法第4章の規定である同法第35条第1項は適用されない。そうすると、所得税法第234条又は消費税法第62条の各規定に基づく質問検査権の行使による本件調査についても、行政手続法第35条第1項の規定が適用されないことは明らかである。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
(ロ) 本件調査の態様等について
A 請求人は、前記3の(2)の「請求人」欄のロの(イ)のとおり、本件調査担当職員が事前の連絡もなく請求人宅を訪れ、請求人の調査日の変更の要請を聞き入れず、威圧的な態度で帳簿書類の提出や提示を求めるなどして本件調査を強行したことは、違法である旨主張する。
 しかしながら、本件調査の際に、税務調査に関して事前通知をすることを定めた法令の規定はない上、上記イのとおり、質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解されるところ、当審判所の調査の結果によっても、本件調査担当職員が事前通知をしなかったことについて格別これを不相当とするような事実は認められず、合理的な選択の範囲を逸脱したものとはいえないから、本件調査担当職員が事前通知をしないで本件調査を行ったことをもって、本件調査が違法であるということはできない。
 また、上記(1)のイのとおり、本件調査担当職員が、請求人に対して、帳簿書類の作成場所を確認させてもらいたい旨告げたり、平成21年分以降の帳簿書類の提示を求めるなどしたことに対し、請求人は、本件事業の準備を理由として日を改めてほしい旨申し立てていたものの、最終的には本件調査担当職員の依頼に応じて、本件調査担当職員を帳簿書類の作成場所に案内したり、本件提示書類等を提示したりしているのであって、本件調査担当職員が、請求人の明示の意思に反して本件調査を強行したとまでは認められず、本件調査を違法とするほど不相当なものとはいえない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
B 次に、請求人は、前記3の(2)の「請求人」欄のロの(ロ)のとおり、本件調査担当職員が当初の説明とは異なり、長時間にわたる詳細な調査を行ったことは違法である旨主張する。
 この点、上記(1)のイの(イ)のとおり、本件調査担当職員は、平成24年9月12日の本件調査において、請求人宅に臨場して本件調査への協力を依頼した際、短時間で構わない旨告げたにもかかわらず、実際には、同(ロ)ないし(ニ)のとおり、請求人宅において調査を行った後、本件店舗においても調査を実施し、同日午後3時頃に本件店舗を辞去したことが認められる。
 しかしながら、上記(1)のイの(ハ)のとおり、本件調査担当職員は、請求人に対し、請求人宅から本件店舗に移動して調査を続行したい旨告げて請求人の了承を得ている上、請求人も、請求人宅及び本件店舗における調査において、調査を打ち切ってほしい旨の要請を行うことなく本件調査に応じていたのであるから、本件調査担当職員の当初の説明と異なり、調査が午後3時頃まで行われたとしても、本件調査担当職員の質問検査権の行使について合理的な選択の範囲を逸脱しているとまでは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
C 請求人は、前記3の(2)の「請求人」欄のロの(ハ)のとおり、本件調査担当職員は請求人に対し、「隠していることがあるのなら今のうちに言っておいた方がいいですよ。後で分かることですから。」などと発言し、請求人に恐怖を感じさせたから本件調査の手続は違法である旨主張する。
 確かに、上記(1)のイの(ハ)のとおり、本件調査担当職員が本件発言をしたことが認められるが、上記(1)のイの(ロ)のとおり、本件日計票には、同じ日付で売上金額の多いものと少ないものがあり、そのうち売上金額が少ない方の日計票の金額が、平成24年の売上帳に記載されていたことについて、請求人が計算間違いで書き直したなどと不自然な回答をしていた経緯に照らせば、本件発言は、売上金額を帳簿に過少に計上しているのであれば、請求人自ら説明してほしい旨の発言であって、本件調査を違法とするほど不相当なものとはいえない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ) 帳簿を借用する際の説明について
 請求人は、前記3の(2)の「請求人」欄のハのとおり、本件調査担当職員が本件各帳簿を借用した際、請求人に対して、借用理由の説明をせず、請求人の明示的な承諾を得なかったことから、本件調査は違法である旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のイの(ニ)のとおり、本件調査担当職員は、本件借用書類について、税務署で内容を検討した方が効率的であると思われることから本件借用書類を借用したい旨説明している上、請求人に交付した借用書には、請求人の所得税等の調査に必要である旨が明記されていることから、本件調査担当職員が借用理由を説明したことは明らかである。
 また、請求人は、本件借用書類に係る借用書を確認した上で、当該借用書を受け取り、本件借用書類の引渡しに異議を述べるなどしていないのであるから、請求人は、本件調査担当職員が本件借用書類の借用をすることについて承諾したものと認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ) 本件調査における第三者の立会いについて
 請求人は、前記3の(2)の「請求人」欄のニのとおり、本件調査担当職員が、守秘義務を口実に、請求人の必要とする第三者の立会いを認めず、請求人が用意した帳簿書類を調査しなかったことは、原処分庁の裁量権の逸脱であり、本件調査は違法である旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のハのとおり、質問検査権に基づく税務調査に際し、第三者の立会いを認めなければならない旨を定めた法令上の規定はなく、また、本件調査担当職員が、調査に関係ない、法律上守秘義務を負わない第三者の立会いを認めなかった判断は合理的なものと認められる。
 したがって、本件調査において原処分庁が裁量権を逸脱した点はなく、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ホ) 小括
 以上によれば、本件調査の手続に請求人の主張するような違法はなく、上記(1)の各事実に照らしても、本件調査の手続が違法であるとは認められない。

(4) 争点3(推計の方法による課税の必要性が認められるか否か。)について

イ 請求人は、前記3の(3)の「請求人」欄のとおり、請求人の本件各事業所得金額等を推計の方法により算定する必要はなかった旨主張する。
 しかしながら、事業所得の金額及び消費税の課税標準額を実額計算の方法により算定するためには、納税者自身が原処分庁の調査に応じ、収入及び支出の内容を明らかにすることが必要であるところ、請求人は、平成24年9月12日の本件調査において、上記(1)のイの(ロ)及び(ニ)のとおり、本件提示書類等を提示したものの、その後の本件調査においては、上記(1)のロの(ハ)ないし(ヘ)のとおり、本件調査担当職員が、8回にわたり、請求人に対して第三者立会いの下では調査を行うことができないことを説明した上、本件各事業所得金額等の計算に必要な帳簿書類を提示するよう求めたにもかかわらず、請求人は、本件調査担当職員の求めに応じず、帳簿書類を提示しなかったことが認められる。
 そうすると、平成21年分については、帳簿書類が一切提示されていないこと、平成22年分及び平成23年分については、現金出納帳、売上帳及び仕入帳が提示されたものの、売上げに係る会計伝票、請求書及び領収証の提示がなく、帳簿の記載内容の正確性を判断することができないことから、原処分庁は、請求人の本件各事業所得金額等を実額計算の方法により算定することができず、やむを得ず、請求人の取引先等を調査した結果に基づき推計の方法により算定したことが認められる。
 したがって、推計の方法により本件各事業所得金額等を算定する必要性があったと認められ、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ なお、請求人は、当審判所に対して、本件各年分の所得税の確定申告書に記載した本件各事業所得金額及び本件各課税期間の消費税等の確定申告書に記載した本件各消費税課税標準額が正当であることを裏付ける具体的な説明をしなかったことから、当審判所においても、推計の方法により本件各事業所得金額等を算定せざるを得ない。

(5) 争点4(推計の方法による課税に合理性が認められるか否か。)について

 請求人は、前記3の(4)の「請求人」欄のとおり、原処分庁が請求人の本件各事業所得金額等を推計の方法により、過大に認定しており、原処分庁の推計の方法には合理性がない旨主張する。
 そこで、当審判所において審理したところは、次のとおりである。
イ 合理性の要件
 推計の方法が合理的であるというためには、@推計の基礎事実(数値)が正確に把握されていること、A推計の方法として当該事案にとって最適な方法が選択されていること、B推計による課税自体が具体的に真実の所得にできるだけ近似した数値が算出されるような客観的なものであることが求められると解される。
ロ 当てはめ
(イ) 原処分庁が採用した推計の方法の検討
 原処分庁は、請求人の取引先の調査から把握し得た本件各年分の仕入金額を基礎として、本件事業に係る本件各年分の売上原価を算定し、その額を請求人と業種、業態が類似し、同規模程度の事業を行う者(以下「類似同業者」という。)の売上原価率(売上原価の総収入金額に占める割合。以下同じ。)の平均値(以下「平均売上原価率」という。)で除して請求人に係る本件各年分の総収入金額を算定した上で、当該総収入金額に類似同業者の必要経費率(必要経費の額の総収入金額に占める割合。以下同じ。)の平均値(以下「平均必要経費率」という。)を乗ずる方法により算定した事業専従者控除以外の必要経費の額及び請求人の事業専従者控除額を当該総収入金額から差し引いて、本件各事業所得金額を算定し、また、当該総収入金額を基に本件各消費税課税標準額を算定しているところ、およそ、業種、業態に類似性のある同業者にあっては、特段の事情がない限り、同程度の売上原価からは同程度の収入を得られ、また、同程度の収入に対し同程度の所得を得ることが通例であり、このことは本件事業の場合にあっても例外ではなく、請求人に特段の事情があるとは認められないから、原処分庁が採用した推計の方法には合理性があると認められる。
(ロ) 原処分庁が選定した類似同業者の検討
 原処分庁は、本件店舗の所在地を管轄するP税務署管内に事業所を有し、同税務署長に対し青色申告書を提出する者で、請求人と業種、業態及び事業内容が類似し、かつ、売上原価が請求人の売上原価の0.5倍以上2倍以下であるなど事業規模が類似する者(別表3−1の「同業者」欄に記載のある者、平成21年分は7件、平成22年分は4件、平成23年分は5件である。)を、類似同業者として機械的に抽出しており、このような抽出の方法については合理性があると認められるものの、原処分庁が選定した類似同業者のうち平成21年分の1件については、立地条件等からみて必ずしも請求人と業態が類似するとは認められないから、この者を類似同業者から除外し、別表3−2の「同業者」欄のとおり、平成21年分は6件、平成22年分は4件、平成23年分は5件(以下、これらを併せて「本件類似同業者」という。)とすることが相当である。
(ハ) 小括
 上記(ロ)のとおり、原処分庁が選定した類似同業者には、請求人と業態が類似するとは認められない者が1件含まれているため、当該1件を類似同業者から除外し、原処分庁が採用した推計の方法により、本件類似同業者の平均売上原価率及び平均必要経費率を算定して、本件各事業所得金額等を算定することが合理的であると認められる。

(6) 争点5(平成23年課税期間の消費税の額の算定に当たり、仕入税額控除を適用することができるか否か。)について

イ 法令解釈
(イ) 消費税法第58条
 消費税法第58条は、事業者は、政令で定めるところにより、帳簿を備え付けてこれにその行った資産の譲渡等又は課税仕入れに関する事項を記録し、かつ、当該帳簿を保存しなければならない旨規定しているところ、申告納税制度の趣旨、仕組み、同条に関係する同法第62条及び同法第65条第4号の各規定に基づいて考えると、同法第58条の趣旨は、必要なときに税務職員が検査できるように、事業者に対して義務付けることにあり、この趣旨、目的に照らして考えると、同条は、事業者に対し、政令で定めるところにより、帳簿を備え付け、これに所定の事項を記録し、かつ、税務職員の検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存しなければならないことを規定しているものと解される。
(ロ) 消費税法第30条第7項及び消費税法施行令第49条第1項
 消費税法第30条第7項及び消費税法施行令第49条第1項は、仕入税額控除の規定について、事業者が当該課税期間の仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等(課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円未満である等の場合には、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ等の税額については適用しない旨規定しているところ、当該規定は、同法第58条の場合と同様に、当該課税期間の仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等が税務職員による検査の対象となり得ることを前提としているのであって、事業者が、国内において行った課税仕入れ等に関し、同法第30条第8項第1号所定の事項(@課税仕入れの相手方の氏名又は名称、A課税仕入れを行った年月日、B課税仕入れに係る資産又は役務の内容及びC国内において行った課税仕入れに係る支払対価の額の各事項。以下「法定記載事項」という。)が記載されている帳簿(以下「法定帳簿」という。)及び同条第9項第1号所定の書類で同号所定の事項が記載されている請求書等(以下「法定請求書等」という。)をそれぞれ保存している場合(課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円未満である等の場合には、法定帳簿)において、税務職員が法定帳簿及び法定請求書等を検査することにより課税仕入れの事実を調査することが可能であるときに限り、仕入税額控除を適用することができることを明らかにするものであると解される。
 そうすると、消費税法第30条第7項にいう「事業者が当該課税期間の仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」とは、税務職員による検査に当たり、事業者が法定帳簿及び法定請求書等を物理的にその状態のままで保管しているとはいえなかった場合のみならず、事業者が法定帳簿及び法定請求書等を物理的にそのままの状態で保管していたものの、事業者が法定帳簿及び法定請求書等を税務職員による検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存していたとはいえなかった場合をもいうものと解するのが相当である。
(ハ) 消費税法第30条第8項
 消費税法第30条第8項が、法定帳簿の要件を規定しているのは、課税庁が、課税仕入れに係る適正かつ正確な消費税額を容易に把握し、真に課税仕入れが存在するかどうかを確認するためであり、税務調査において当該帳簿が利用されることを前提として、当該要件が定められたものと解される。
 そして、上記趣旨に照らせば、帳簿の記載については、取引の態様に応じ、当該記載によって、当該資産又は当該役務の内容が課税資産の譲渡等に当たるか否か、真に課税資産の譲渡等が行われたか否かの確認ができる程度の具体的な記載であることが必要であると解される。
ロ 当てはめ
 これを本件についてみると、上記(1)のイの(ロ)のとおり、平成23年課税期間の現金出納帳及び仕入帳には、取引に係る年月日及び支払額についてはいずれも記載されていたが、取引に係る相手方の名称及び取引の内容については、「摘要」欄に「氷砂糖(○○)」などと記載されているものが数件あるほかは、取引に係る相手方の名称又は取引の内容のいずれか一方しか記載されていなかったことからすれば、法定記載事項のうち、課税仕入れを行った年月日及び課税仕入れに係る支払対価の額はいずれも記載されているものの、課税仕入れの相手方の氏名又は名称、課税仕入れに係る資産又は役務の内容については、そのいずれかの記載しかなく、真に課税仕入れが存在するかどうかの確認ができる程度の具体的な記載がされていなかったものと認められる。
 したがって、請求人の提示した平成23年課税期間の現金出納帳及び仕入帳は、消費税法第30条第8項の規定する法定記載事項を満たしていないから、いずれも法定帳簿に該当しない。
 そして、上記(1)のイの(ロ)及び(ニ)のとおり、請求人は、平成24年9月12日の本件調査において、本件提示書類等を提示したのみで、上記(1)のロのとおり、その後の本件調査においても、帳簿及び請求書等を一切提示しなかったのであるから、事業者が法定帳簿及び法定請求書等を税務職員による検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存していたとはいえない場合に該当する。
 以上のとおり、請求人が提示した平成23年課税期間の現金出納帳及び仕入帳は法定帳簿に該当せず、法定帳簿及び法定請求書等を保存しない場合に該当するといえ、当該保存をすることができなかったことにやむを得ない事情も認められないから、平成23年課税期間の消費税の額の算定に当たり、仕入税額控除を適用することは認められない。
ハ 請求人の主張の当否
 請求人は、前記3の(5)の「請求人」欄のとおり、本件各帳簿には、法定記載事項が記載されており、また、課税仕入れに係る請求書及び領収証を保存していたのだから、本件各帳簿の記載事項とそれらを併せみれば、課税仕入れに係る消費税の額は計算できる旨主張する。
 しかしながら、上記ロのとおり、本件提示書類等が法定記載事項を満たすものではなく、請求人は、法定請求書等を一切提示していないのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(7) 各更正処分について

イ 所得税の各更正処分
(イ) 事業所得の金額
 上記(4)のとおり、当審判所においても、推計の方法により、請求人の事業所得の金額を算定せざるを得ないところ、当審判所の認定は、次のとおりである。
 なお、上記(5)のとおり、原処分庁の推計の方法には合理性があると認められることから、審判所においても売上原価の額を基に請求人の所得金額を推計することとするが、上記(5)のロの(ロ)のとおり、原処分庁が抽出した類似同業者のうち平成21年分の1件については業態が類似するとは認められないから、これを除外した本件類似同業者に基づき、当審判所が平均売上原価率及び平均必要経費率を算定すると、別表3−2の本件各年分の「売上原価率」欄の「平均値」欄及び「必要経費率」欄の「平均値」欄のとおり(以下、これらを「改定平均売上原価率」、「改定平均必要経費率」という。)となる。
A 売上原価の額
 請求人の本件各年分の仕入金額については、原処分庁が算定した金額に誤りがあり、当審判所が計算したところ、別表4の「審判所認定額」欄の「合計金額」欄のとおり、平成21年分16,012,887円、平成22年分16,760,770円及び平成23年分16,151,983円となるところ、請求人の事業内容等からみて本件各年分の期首及び期末の各棚卸高に著しい変動があるとは認められないから、当該仕入金額を売上原価の額と認定する。
B 総収入金額
 請求人の本件各年分の総収入金額は、上記Aの本件各年分の売上原価の額を、改定平均売上原価率で除して算定すると、別表5の「総収入金額」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成21年分○○○○円、平成22年分○○○○円及び平成23年分○○○○円となる。
C 必要経費の額
 請求人の本件各年分の必要経費の額は、上記Bの本件各年分の総収入金額に、改定平均必要経費率を乗じて算定すると、別表5の「必要経費の額」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成21年分32,728,495円、平成22年分33,339,762円及び平成23年分32,652,839円となる。
D 事業専従者控除額
 請求人の本件各年分の事業専従者控除額は、原処分庁の主張のとおり、請求人の母であるMが平成21年分及び平成22年分において、請求人の妻であるNが平成23年分において、所得税法第57条《事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等》第3項に規定する事業専従者に該当すると認められるので、別表5の「事業専従者控除額」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成21年分及び平成22年分はそれぞれ500,000円、平成23年分は860,000円となる。
E 事業所得の金額
 請求人の本件各事業所得金額は、上記Bの総収入金額から上記Cの必要経費の額及び上記Dの事業専従者控除額を控除して算定すると、別表5の「事業所得の金額」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成21年分○○○○円、平成22年分○○○○円及び平成23年分○○○○円となる。
(ロ) 総所得金額
 請求人の本件各年分の所得金額は、上記(イ)のEの事業所得のみと認められるから、別表6の「総所得金額(事業所得の金額)」欄の「審判所認定額」欄のとおり、別表5の「事業所得の金額」欄の「審判所認定額」欄の金額と同額となる。
(ハ) 所得控除の額
 請求人の本件各年分の所得控除の額は、各更正処分の金額と同額と認められ、別表6の「所得控除の額」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成21年分916,670円、平成22年分904,200円及び平成23年分824,540円となる。
(ニ) 納付すべき税額及び結論
 請求人の本件各年分の納付すべき税額は、上記(ロ)の総所得金額から上記(ハ)の所得控除の額を控除した課税総所得金額(1,000円未満切捨て)に基づき算定すると、別表6の「納付すべき税額」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成21年分○○○○円、平成22年分○○○○円及び平成23年分○○○○円となり、いずれも各更正処分の額の納付すべき税額を上回るから、所得税の各更正処分はいずれも適法である。
ロ 消費税等の各更正処分
(イ) 課税標準額
 請求人の本件各課税期間の売上金額は、請求人の売上げの全てが課税資産の譲渡等に該当することから、上記イの(イ)のBの本件各年分の総収入金額と同額となる。
 したがって、本件各消費税課税標準額(1,000円未満切捨て)は、上記売上金額に105分の100を乗じて算定すると、別表7の「課税標準額」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成21年課税期間○○○○円、平成22年課税期間○○○○円及び平成23年課税期間○○○○円となる。
(ロ) 控除対象仕入税額
A 本件両課税期間
 前記1の(4)のイ及びハのとおり、請求人が飲食業を営むこと、平成20年課税期間を適用開始課税期間とする消費税簡易課税制度選択届出書を提出していること、及び請求人の本件両課税期間に係る各基準期間における課税売上高は、いずれも1,000万円超であり、かつ、5,000万円以下であることについては、請求人と原処分庁との間に争いがないところ、本件事業は消費税法施行令第57条第5項第5号に規定する第四種事業に該当することから、上記(イ)の課税標準額を基に算出した消費税額から、消費税法第37条の規定により本件両課税期間の控除対象仕入税額を計算すると、別表7の「控除対象仕入税額」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成21年課税期間○○○○円及び平成22年課税期間○○○○円となる。
B 平成23年課税期間
 請求人の平成23年課税期間の控除対象仕入税額は、上記(6)のロのとおり、仕入税額控除の適用がないことから、零円となる。
(ハ) 納付すべき消費税等額及び結論
 請求人の本件各課税期間の納付すべき消費税額(100円未満切捨て。以下同じ。)は、別表7の「納付すべき消費税額」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成21年課税期間○○○○円、平成22年課税期間○○○○円及び平成23年課税期間○○○○円となる。
 また、請求人の本件各課税期間の納付すべき地方消費税額(100円未満切捨て。以下同じ。)は、当該納付すべき消費税額に100分の25を乗じた金額であり、別表7の「納付すべき地方消費税額」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成21年課税期間○○○○円、平成22年課税期間○○○○円及び平成23年課税期間○○○○円となる。
 そうすると、請求人の納付すべき消費税額及び納付すべき地方消費税額は、平成22年課税期間及び平成23年課税期間については、いずれも各更正処分の額を上回るので、消費税等の各更正処分は適法であるが、平成21年課税期間については、更正処分の額を下回るので、その一部を別紙1の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(8) 各賦課決定処分について

イ 本件各年分の所得税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分
 上記(7)のイの(ニ)のとおり、所得税の各更正処分はいずれも適法であるところ、本件取消処分によって所得金額が増加することとなった部分を除き、当該更正処分による納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められず、同条第1項及び第2項の規定に基づいてその計算も正当になされていることから、本件各年分の所得税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分は適法である。
ロ 本件各課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分
 上記(7)のロの(ハ)のとおり、消費税等の各更正処分のうち、平成22年課税期間及び平成23年課税期間については、いずれも適法であるところ、当該更正処分による納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてなされた平成22年課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の賦課決定処分並びに通則法第65条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の4及び第9条の9第1項の規定に基づいてなされた平成23年課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の賦課決定処分はいずれも適法である。
 一方、平成21年課税期間については、上記(7)のロの(ハ)のとおり、消費税等の更正処分の一部が取り消されることに伴い、過少申告加算税の基礎となる税額は○○○○円となるところ、この税額の計算の基礎となった事実が当該更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項並びに地方税法附則第9条の4及び第9条の9第1項の規定に基づいて過少申告加算税の額を計算すると、○○○○円となる。
 そうすると、平成21年課税期間の過少申告加算税の額は、当該賦課決定処分の額を下回ることになるので、その一部を別紙1の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(9) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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