(平成26年4月22日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人p1(以下「請求人p1」という。)、同p2(以下「請求人p2」という。)及び同p3(以下「請求人p3」といい、これら3名を併せて「請求人ら」という。)が、@請求人p1が相続により取得した宅地で隣接する借地とともに貸家の敷地の用に供していたものの価額について、当該宅地のみを財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。以下「評価基本通達」という。)7−2《評価単位》(1)に定める1画地の宅地として評価し、また、A債務控除に当たり、賃貸建物に係る預り保証金の返還債務について、当該預り保証金の元本額を債務の金額として、相続税の申告をしたところ、原処分庁が、土地及び債務の評価誤りがあるなどとして、相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をしたのに対して、請求人らが、当該各更正処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人らは、平成22年8月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したp4(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、別表1の「申告」欄のとおり記載した相続税の申告書を、法定申告期限までに原処分庁に共同で提出し、相続税の期限内申告(以下「本件申告」という。)をした。
ロ 原処分庁は、平成24年10月31日付で、請求人らに対し、別表1の「更正処分等」欄のとおり、相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ハ 請求人らは、平成24年12月26日、上記ロの各更正処分及び各賦課決定処分に不服があるとして、別表1の「異議申立て」欄のとおり、共同で異議申立てをした。
ニ 異議審理庁は、平成25年3月22日付で、別表1の「異議決定」欄のとおり、上記ロの各更正処分及び各賦課決定処分の一部を取り消す異議決定をし、その決定書謄本は、総代であった請求人p1に対し、同月25日に送達された(以下、当該異議決定により一部が取り消された後の上記ロの各更正処分及び各賦課決定処分を、それぞれ「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」という。)。
ホ 請求人らは、平成25年4月24日、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分に不服があるとして、原処分庁に対して審査請求書を提出して共同で審査請求をし、同日、請求人p1を総代として選任する旨を届け出た。

(3) 関係法令等の要旨

イ 相続税法
(イ) 相続税法第11条の2《相続税の課税価格》第1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者が同法第1条の3《相続税の納税義務者》第1号の規定に該当する者である場合においては、その者については、当該相続又は遺贈により取得した財産の価額の合計額をもって、相続税の課税価格とする旨規定している。
(ロ) 相続税法第13条《債務控除》第1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者が同法第1条の3第1号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から同項各号に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による旨規定し、同項第1号は、被相続人の債務で相続開始の際現に存するものを掲げている。
(ハ) 相続税法第14条第1項は、同法第13条第1項の規定によりその金額を控除すべき債務は、確実と認められるものに限る旨規定している。
(ニ) 相続税法第22条《評価の原則》は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による旨規定している。
ロ 民法及び借地借家法
(イ) 借地借家法第2条《定義》第1号は、同法における借地権とは、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう旨規定している。
(ロ) 借地借家法第5条《借地契約の更新請求等》第1項は、借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、同法第4条《借地権の更新後の期間》の規定によるもののほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす旨規定しており、同法第5条第2項は、借地権の存続期間が満了した後、借地権者が土地の使用を継続するときも、建物がある場合に限り、同条第1項と同様とする旨規定している。
(ハ) 借地借家法第10条《借地権の対抗力等》第1項は、借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる旨規定している。
(ニ) 民法第599条《借主の死亡による使用貸借の終了》は、使用貸借は、借主の死亡によって、その効力を失う旨規定している。
ハ 宅地の評価に関する通達
(イ) 評価基本通達7−2(1)は、宅地については、1画地の宅地(利用の単位となっている1区画の宅地をいう。以下同じ。)を評価単位として評価する旨定め、同通達の注1は、1画地の宅地は、必ずしも1筆の宅地からなるとは限らず、2筆以上の宅地からなる場合もあり、1筆の宅地が2画地以上の宅地として利用されている場合もあることに留意する旨定めている。
(ロ) 評価基本通達25《貸宅地の評価》(1)は、借地権の目的となっている宅地の価額は、同通達11《評価の方式》から同通達22−3《大規模工場用地の路線価及び倍率》まで、同通達24《私道の用に供されている宅地の評価》、同通達24−2《土地区画整理事業施行中の宅地の評価》、同通達24−4《広大地の評価》及び同通達24−6《セットバックを必要とする宅地の評価》から同通達24−8《文化財建造物である家屋の敷地の用に供されている宅地の評価》までの定めにより評価したその宅地の価額(以下「自用地としての価額」という。)から同通達27《借地権の評価》の定めにより評価したその借地権の価額(同通達27のただし書の定めに該当するときは、同項に定める借地権割合を100分の20として計算した価額とする。)を控除した金額によって評価する旨定めている。
 なお、評価基本通達27のただし書は、借地権の設定に際しその設定の対価として通常権利金その他の一時金を支払うなど借地権の取引慣行があると認められる地域以外の地域にある借地権の価額は評価しない旨定めている。
(ハ) 「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和60年6月5日付直資2−58ほか国税庁長官通達。以下「相当地代通達」という。)1《相当の地代を支払って土地の借受けがあった場合》は、建物の所有を目的とする地上権又は賃借権(以下「借地権」という。)の設定に際しその設定の対価として通常権利金その他の一時金を支払う取引上の慣行のある地域において、当該一時金の支払に代え、当該土地の自用地としての価額に対しておおむね年6%程度の地代(以下「相当の地代」という。)を支払っている場合は、借地権を有する者については当該借地権の設定による利益はないものとして取り扱う旨、また、相当地代通達3《相当の地代を支払っている場合の借地権の評価》は、借地権が設定されている土地について、相当の地代を支払っている場合の当該土地に係る借地権の価額は、当該一時金を支払っていない場合又は特別の経済的利益を供与していない場合は零と評価する旨、相当地代通達6《相当の地代を収受している場合の貸宅地の評価》は、借地権が設定されている土地について、相当の地代を収受している場合の貸宅地の価額は、権利金その他の一時金を収受していない場合又は特別の経済的利益を受けていない場合は、当該土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額によって評価する旨、それぞれ定めている。
(ニ) 「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和48年11月1日付直資2−189ほか国税庁長官通達。以下「使用貸借通達」という。)1《使用貸借による土地の借受けがあった場合》は、建物又は構築物(以下「建物等」という。)の所有を目的として使用貸借による土地の借受けがあった場合においては、建物等の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定に際し、その設定の対価として通常権利金その他の一時金を支払う取引上の慣行がある地域においても、当該土地の使用貸借に係る使用権の価額は、零として取り扱う旨定めている。
ニ 基準年利率に関する通達
(イ) 評価基本通達4−4《基準年利率》は、評価基本通達第2章以下に定める財産の評価において適用する年利率は、別に定めるものを除き、年数又は期間に応じ、○○協会において売買参考統計値が公表される利付国債に係る複利利回りを基に計算した年利率(以下「基準年利率」という。)によることとし、その基準年利率は、短期(3年未満)、中期(3年以上7年未満)及び長期(7年以上)に区分し、各月ごとに別に定める旨定めている。
(ロ) 「平成22年分の基準年利率について(法令解釈通達)」(平成22年5月14日付課評2−14国税庁長官通達。以下「平成22年分基準年利率通達」という。)は、平成22年8月の基準年利率については、短期(1年及び2年)のものは0.1%、中期(3年ないし6年)のものは0.25%及び長期(7年以上)のものは1.5%であるとそれぞれ定め、参考として、複利表を掲げ、当該複利表において、各基準年利率に応じた各複利現価率等を示し、同表の注3において、当該複利現価率は無利息債務等の評価に使用することを示している。
ホ その他
(イ) 所得税法施行令第80条《特別の経済的な利益で借地権の設定等による対価とされるもの》第1項は、同令第79条《資産の譲渡とみなされる行為》第1項に規定する地上権若しくは賃借権又は地役権の設定をしたことに伴い、通常の場合の金銭の貸付けの条件に比し特に有利な条件による金銭の貸付けその他特別の経済的な利益を受ける場合には、当該金銭の貸付けにより通常の条件で金銭の貸付けを受けた場合に比して受ける利益その他当該特別の経済的な利益の額を同条第1項又は第2項に規定する対価の額に加算した金額をもってこれらの規定に規定する支払を受ける金額とみなして、これらの規定を適用する旨規定している。
 また、所得税法施行令第80条第2項は、同条第1項の場合において、その受けた金銭の貸付けにより通常の条件で金銭の貸付けを受けた場合に比して受ける利益の額は、当該貸付けを受けた金額から、当該金額について通常の利率(当該貸付けを受けた金額につき利息を附する旨の約定がある場合には、その利息に係る利率を控除した利率)の10分の5に相当する利率による複利の方法で計算した現在価値に相当する金額を控除した金額によるものとする旨規定している。
(ロ) 所得税法施行令第79条第1項は、所得税法第33条《譲渡所得》第1項に規定する政令で定める行為(譲渡所得の基因となる譲渡に含まれるもの)は、建物等の所有を目的とする地上権若しくは賃借権又は地役権の設定のうち、その対価として支払を受ける金額が所定の金額を超えるものとする旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人らと原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件相続に係る相続人等について
 本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の子である請求人p3及び同養子である請求人p1の2名である。
 また、請求人p2は、請求人p1の子であり、下記ロの遺言により本件被相続人から不動産等の遺贈を受けた者である。
ロ 本件被相続人がした遺言について
 本件被相続人は、平成18年12月○日作成の遺言公正証書により、要旨次の内容の遺言をしていたところ、本件相続開始日に死亡した。
(イ) 本件被相続人の所有する不動産のうち次のものを、請求人p1に相続させる。
 なお、次の不動産に関する敷金返還債務及び未払の公租公課、所有権移転に伴う登録免許税を含む登記費用等については、請求人p1が負担するものとする(第1条)。
A f県g市h町○−○所在の宅地902.43u(以下「本件宅地」という。)
B f県g市h町×−○ほか所在の一棟の建物の専有部分(家屋番号:h町×−○、構造:鉄骨鉄筋コンクリート造2階建て、種類:銀行、床面積:1階部分225.58u、2階部分225.03u。以下「本件賃貸ビル」という。)の本件被相続人の共有持分の全部
(ロ) 当該遺言公正証書の第1条ないし第5条に記載した財産以外の本件被相続人の有する一切の財産を、請求人p1に相続させる(第6条)。
(ハ) 請求人p1は、当該遺言による財産の取得に伴う負担として、当該遺言公正証書の各条項で特定したものを除く本件被相続人が負担すべき債務を負担するものとする(第8条)。
ハ 本件宅地の利用状況等について
 本件宅地は、本件相続開始日において、隣接する下記(イ)及び(ロ)の各借地とともに、f県g市h町○−△ほか所在の建物(家屋番号:○番○、種類:共同住宅店舗、構造:鉄筋コンクリート造陸屋根9階建て、床面積:1階549.48u、2階ないし8階各468.72u、9階301.60u。以下「本件共同住宅」という。)の敷地(1,268.77u。以下、本件宅地並びに下記(イ)及び(ロ)の各借地を併せて「本件敷地」という。)として利用されていた。
(イ) R社からの借地について
 本件被相続人、請求人p1及び同族会社であるR社は、平成20年9月1日、要旨次のとおりの土地賃貸借契約を締結し(以下、当該賃貸借契約の目的となった土地を「本件A借地」という。)、本件被相続人は、R社から本件A借地を賃借して、本件相続開始日において、R社に対し、年額6,240,000円の地代を支払っていた。
A R社は、本件被相続人が本件共同住宅を建設し所有することを目的として、その敷地の一部となるR社が所有する土地(f県g市h町○−△所在の宅地168.00u(本件A借地))を本件被相続人に賃貸し使用させることを約し、本件被相続人は、これを賃借し賃料を支払うことを約した(第1条《使用目的》)。
B 地代の額は、法人税基本通達13−1−2《使用の対価としての相当の地代》に定められた計算方法により算出した金額(月額520,000円)とする(第3条《地代》第1項)。
C 第3条第1項の地代の額は、法人税基本通達13−1−8《相当の地代の改訂》(1)の定めに従って、おおむね3年以下の期間ごとに見直しを行うものとし、その場合の相当の地代の額は、路線価評価額の過去3年間の平均額を用いて算出するものとする(第3条第2項)。
D 毎月支払う地代以外に、権利金等に類する一時金の支払はないものとする(第3条第3項)。
E 本土地賃貸借契約の存続期間は、平成20年9月1日から満30年とする。ただし、期間満了のときに本件共同住宅が存在するときは、R社及び本件被相続人の協議の上更新することができる(第4条《期間》)。
F 本件被相続人が@土地賃借権の譲渡若しくは転貸又はA本件共同住宅を改築若しくは増築するときは、R社の書面による承諾を受けなければならない(第6条《事前承諾》)。
G 本土地賃貸借契約の期間中に本件被相続人に相続が発生した場合、契約は終了せず、本件被相続人の地位を請求人p1が承継することを、R社、本件被相続人及び請求人p1が互いに確認する(第10条《地位の承継》)。
(ロ) 請求人p1からの借地について
 本件被相続人及び請求人p1は、平成20年9月1日、要旨次のとおりの土地賃貸借契約を締結し(以下、当該賃貸借契約の目的となった土地を「本件B借地」といい、本件A借地と併せて「本件各借地」という。また、本件A借地に設定された権利と、本件B借地に設定された権利とを併せて「本件各借地権」といい、本件A借地に係る賃貸借契約(上記(イ))と本件B借地に係る賃貸借契約とを併せて「本件各借地契約」という。)、本件被相続人は、請求人p1から本件B借地を賃借して、本件相続開始日において、請求人p1に対し、年額8,040,000円の地代を支払っていた。
A 請求人p1は、本件被相続人が本件共同住宅を建設し所有することを目的として、その敷地の一部となる請求人p1が所有する土地(f県g市h町○−□所在の宅地198.34u(本件B借地))を本件被相続人に賃貸し使用させることを約し、本件被相続人は、これを賃借し賃料を支払うことを約した(第1条《使用目的》)。
B 地代の額は、法人税基本通達13−1−2に定められた計算方法により算出した金額(月額670,000円)とする(第3条《地代》第1項)。
C 第3条第1項の地代の額は、法人税基本通達13−1−8(1)の定めに従って、おおむね3年以下の期間ごとに見直しを行うものとし、その場合の相当の地代の額は、路線価評価額の過去3年間の平均額を用いて算出するものとする(第3条第2項)。
D 毎月支払う地代以外に、権利金等に類する一時金の支払はないものとする(第3条第3項)。
E 本土地賃貸借契約の存続期間は、平成20年9月1日から満30年とする。ただし、期間満了のときに本件共同住宅が存在するときは、請求人p1及び本件被相続人の協議の上更新することができる(第4条《期間》)。
F 本件被相続人が@土地賃借権の譲渡若しくは転貸又はA本件共同住宅を改築若しくは増築するときは、請求人p1の書面による承諾を受けなければならない(第6条《事前承諾》)。
G 本件被相続人に相続が発生し、請求人p1が本件共同住宅を相続したときは、本土地賃貸借契約は当然に終了するものとする(第9条《契約の消滅》第2号)。
ニ 本件共同住宅について
(イ) 本件共同住宅の権利関係等について
 本件共同住宅は、本件被相続人が本件敷地の上に平成21年9月11日に新築し、本件相続開始日において本件被相続人が所有していたものであり、本件被相続人を所有者とする所有権保存登記がされていた。
(ロ) 本件共同住宅の利用状況等について
 本件共同住宅は、住宅90戸、店舗1戸からなる総戸数91戸の店舗・共同住宅であり(なお、附帯設備として駐車場11台分及び駐輪場92台分がある。)、本件相続開始日において、@住宅1戸(9階の一部)は、本件被相続人の自宅として利用され、A住宅89戸、駐車場11台分及び駐輪場92台分(以下、これらを併せて「本件住宅部分」という。)は、下記Aのとおり賃貸され、B店舗1戸(1階の一部。以下「本件店舗部分」という。)は、下記Bのとおり賃貸され、更に下記Cのとおり転貸されていた。
A 本件住宅部分の賃貸について
 本件被相続人、請求人p1、S社及びT社は、平成21年8月5日、要旨次のとおりの一括借受システム契約を締結し(以下、当該契約を「本件住宅部分契約」といい、本件住宅部分契約に係る契約書を「本件住宅部分契約書」という。)、本件被相続人は、本件相続開始日において、S社に対し、本件住宅部分を賃貸していた。
(A) 本件被相続人は、S社に対し、本件住宅部分を賃貸し、S社は、これを賃借する(第2条《賃貸物件の表示》)。
(B) 契約期間は、平成21年9月末日(予定)から平成41年9月末日までとする(第3条《契約期間》第1項及び第2項)。
(C) 賃料は、月額10,349,100円(住宅89戸:10,052,100円、駐車場11台:297,000円)とする(第4条《賃料及び支払方法》第1項)。
(D) S社は、本件住宅部分契約に基づく債務の履行を担保するため、保証金20,XXX,XXX円(以下「本件住宅部分保証金」という。)を本件被相続人に対して預託する。ただし、本件住宅部分保証金に対して利息は付けない(第6条《保証金》第1項)。
(E) 本件住宅部分契約が終了し、S社が本件被相続人に対して債務がある場合は債務を完済した後、本件被相続人は、本件住宅部分保証金をS社に速やかに返還する(第6条第4項)。
(F) S社は、本件住宅部分を、共同住宅及び駐車場の用途で、転借人と賃貸借契約を締結することができる(第8条《使用目的》第1項)。
(G) 本件被相続人に相続が発生した場合、本件被相続人の地位を請求人p1が承継するものとし、本件被相続人、S社、請求人p1及びT社はこれを承諾する(第14条《地位の承継》第3項)。
(H) S社は、第三者に転貸するための業務の一部又は全部をT社若しくは第三者に委託することができる(第21条《第三者への業務委託》)。
(I) 本件共同住宅の9階にある本件被相続人住居部分について、S社は、本件被相続人から要望があれば、本件被相続人、請求人p1及びS社協議の上、本件住宅部分契約に追加できるものとする(特記事項)。
B 本件店舗部分の賃貸について
 本件被相続人、請求人p1、S社及びT社は、平成21年8月5日、要旨次のとおりの一括賃貸運営システム(転貸型)契約を締結し(以下、当該契約を「本件店舗部分契約」といい、本件店舗部分契約に係る契約書を「本件店舗部分契約書」という。)、本件被相続人は、本件相続開始日において、S社に対し、本件店舗部分を賃貸していた。
(A) 本件被相続人は、S社に対し、本件店舗部分を賃貸し、S社は、これを賃借する(第2条《賃貸物件の表示と本契約の目的》第1項)。
(B) 契約期間は、平成21年9月末日(予定)から平成41年9月末日までとする(第3条《契約期間》第1項及び第2項)。
(C) 本件店舗部分契約の賃料・管理費の支払は、S社と転借人との契約(以下「テナント契約」という。)の成立によって開始し、テナント契約の終了に伴い終了する(第4条《賃料及び支払方法》第1項)。
(D) S社が本件被相続人に支払う賃料は、テナント契約にて成約した賃料・管理費と同額とする(第4条第2項)。
(E) S社は、本件店舗部分契約に基づく債務の履行を担保するため、テナント契約締結時に転借人から受領した敷金と同額を保証金(以下「本件店舗部分保証金」という。)として本件被相続人に対して預託する。ただし、本件店舗部分保証金に対して利息は付けない(第5条《保証金》第1項)。
(F) テナント契約が終了した場合、本件被相続人は、本件店舗部分保証金をS社に速やかに返還する(第5条第3項)。
(G) S社は、本件店舗部分について、転借人に店舗又は事務所の用途以外の目的で使用させてはならない(第7条《使用目的》第1項)。
(H) S社は、転貸するに当たり、転借人の募集及び選択についてはS社の判断にて決定し、かつ、テナント契約を締結又は解除することができる。ただし、転貸条件表記載の契約条件を変更する場合は、本件被相続人及びS社協議の上、本件被相続人の承諾を得るものとする(第7条第6項)。
(I) 本件被相続人に相続が発生した場合、本件被相続人の地位を請求人p1が承継するものとし、本件被相続人、S社、請求人p1及びT社はこれを承諾する(第14条《地位の承継》第3項)。
(J) S社は、第三者に転貸するための業務の一部又は全部をT社若しくは第三者に委託することができる(第21条《第三者への業務委託》)。
(K) 転貸条件については、募集賃料は月額1,380,960円(別途消費税5%)、転貸期間は10年(更新可)、敷金は月額賃料の10か月分である(転貸条件表)。
C 本件店舗部分の転貸について
 S社及びU社は、平成21年9月24日、本件店舗部分について、要旨次のとおりの建物賃貸借契約を締結した(以下、当該契約を「本件店舗部分転貸借契約」といい、本件店舗部分転貸借契約に係る契約書を「本件店舗部分転貸借契約書」という。)。
(A) S社は、U社に対し、本件店舗部分を賃貸し、U社は、これを賃借する(第3条《賃貸借物件の表示》第1項)。
(B) U社は、本件店舗部分を事務所及び営業業種以外の目的では使用してはならない(第4条《使用目的》第1項)。
(C) 賃貸借期間は、平成21年11月1日から平成24年10月31日までとする(第7条《賃貸借期間》第1項)。
(D) 賃料は、月額1,380,960円(別途消費税)とする(第9条《賃料》第1項)。
(E) U社は、本件店舗部分転貸借契約に基づく債務の履行を担保するため、敷金13,XXX,XXX円をS社に預け入れる(第14条《敷金》第1項)。
(F) 敷金には利息を付さない(第14条第2項)。
(G) 敷金は、本件店舗部分転貸借契約が終了(消滅)し、U社が賃貸借物件等について第23条《明渡し及び原状回復》に従い明渡しを行い、かつ、U社のS社に対する一切の債務を完済した後速やかに、S社はこれをS社の指定する方法によってU社に返還する(第14条第4項)。
ホ 本件賃貸ビルについて
(イ) 本件賃貸ビルの権利関係等について
 本件賃貸ビルは、本件被相続人、p5(平成7年7月○日に死亡した本件被相続人の母であり、以下「p5」という。)、p6(平成21年10月○日に死亡した本件被相続人の弟であり、以下「p6」という。)及び請求人p1が昭和56年9月12日に新築し、本件相続開始日において、本件被相続人、請求人p1及びp7(本件被相続人及びp6の弟であり、以下「p7」という。)が共有していたものである。なお、本件賃貸ビルの共有関係の変遷の状況は、次表のとおりであり、その旨の登記が経由されている。

順号 登記(異動内容) 異動年月日 共有者・共有持分
所有権保存
(新築)
昭和56年9月12日 持分100万分の344952 本件被相続人
持分100万分の310096 p5
持分100万分の189904 p6
持分100万分の155048 請求人p1
p5持分
全部移転
(遺贈)
平成7年7月○日 持分100万分の344952 本件被相続人
持分100万分の189904 p6
持分100万分の465144 請求人p1
p6持分
全部移転
(相続)
平成21年10月○日 持分100万分の344952 本件被相続人
持分100万分の189904 p7
持分100万分の465144 請求人p1
本件被相続人
持分全部移転
(相続)
平成22年8月○日 持分100万分の189904 p7
持分100万分の810096 請求人p1

(ロ) 本件賃貸ビルの利用状況等について
A 本件賃貸ビルの賃貸について
 本件被相続人、p5、p6及び請求人p1(以下、この4名を併せて「本件賃貸ビル賃貸人ら」という。)は、平成6年3月15日、V社との間で、要旨次のとおりの貸店舗賃貸借契約を締結した(以下、当該契約を「V社契約」と、V社契約に係る契約書を「V社契約書」といい、V社契約書と本件住宅部分契約書及び本件店舗部分契約書を併せて「本件各建物賃貸借契約書」という。)。
(A) 本件賃貸ビル賃貸人らは、V社に本件賃貸ビルを賃貸しこれを使用及び収益させることを約し、V社は、これを賃借し借賃を支払うことを約した(第1条《目的物件》)。
(B) 賃貸借期間は、平成6年6月1日より満15か年とする(第2条《賃貸借期間》第1項)。
(C) V社は、本件賃貸ビルを店舗(スーパードラッグストア)の用途にのみ使用し、他の用途に使用してはならない(第3条《使用目的》)。
(D) 賃料は、V社契約締結の日から3年間は月額3,000,000円(別途消費税)とし、3年を経過するごとに協議の上改定する(第4条《賃料》第1項及び第2項)。
(E) V社は、保証金18X,XXX,XXX円(以下「V社保証金」という。)を次のとおり本件賃貸ビル賃貸人らに預託する(第7条《保証金》第1項)。
a 平成6年3月15日  3X,XXX,XXX円
b 平成6年5月24日 14X,XXX,XXX円
(F) V社保証金は、据置期間6か月経過後、返済するものとする(第7条第2項)。
(G) V社保証金には利息を付けない(第7条第3項)。
(H) V社保証金の償却は、10%とする(第7条第5項)。
(I) V社が賃料その他契約上の義務に属する金銭の支払を怠ったときは、本件賃貸ビル賃貸人らは任意に第7条第5項のV社保証金をもって、この支払に充当することができる(第7条第6項)。
(J) V社は、充当の通知を受けた日から10日以内に、第7条第1項の金額に達するまで、V社保証金を補充しなければならない(第7条第7項)。
(K) V社契約の契約期間中、V社は、V社保証金をもって賃料その他V社契約に基づくV社の債務の弁済に充てることを主張することはできない(第7条第8項)。
(L) V社において、賃料等の債務の支払を2か月分以上怠ったときなど所定の場合に該当するときは、本件賃貸ビル賃貸人らは、催告を要せず直ちにV社契約を解除することができる(第17条《契約の解除》)。 
(M) V社の都合によりV社契約を解約するときは、V社は、償却金(賃貸期間内に解約した時は、V社保証金の10%とする。)を本件賃貸ビル賃貸人らに支払うものとする(第21条《解約、契約解除の場合の償却》第1項)。
(N) 第17条により本件賃貸ビル賃貸人らが契約を解除した場合も、V社は、第21条第1項と同じ率による償却金を本件賃貸ビル賃貸人らに支払うものとする(第21条第2項)。
(O) 期間満了にてV社契約の更新をしないときも、同様である(第21条第3項)。
(P) 本件賃貸ビル賃貸人らの都合によりV社契約を解除するときは、本件賃貸ビル賃貸人らは、V社保証金の全額を直ちにV社に返還するものとする(第21条第4項)。
B V社契約の更新について
 本件被相続人、p6及び請求人p1並びにV社は、平成21年4月10日、@契約期間を平成36年5月31日までとすること、A平成21年6月1日から平成36年5月31日までの間の賃料を月額3,000,000円(消費税別)とすることなどを約し、BV社保証金18X,XXX,XXX円が更新後も引き続き同一条件でV社の本件被相続人、p6及び請求人p1に対する債務を担保することを相互に確認して、V社契約を更新した。
ヘ 本件申告等について
(イ) 請求人p1は、本件被相続人がした上記ロの遺言に基づき、@本件宅地、本件各借地権、本件共同住宅及び本件賃貸ビルの本件被相続人の共有持分の全部を相続により取得し、A本件被相続人の債務のうち、本件住宅部分保証金、本件店舗部分保証金及びV社保証金(以下、これらの各保証金を併せて「本件各保証金」という。)の返還債務を承継するものとされた。
(ロ) 請求人らは、本件申告において、@本件宅地の価額及びA本件各保証金の返還債務の額について、次のとおり申告していた。
A 本件宅地の価額
 本件宅地のみを1画地の宅地として、本件宅地の本件住宅部分に対応する部分の価額を251,230,612円と、本件被相続人の自宅部分に対応する部分の価額を12,423,944円と、それぞれ評価した(合計263,654,556円)。
B 本件各保証金の返還債務の額
 本件住宅部分保証金及び本件店舗部分保証金については当該各保証金の額(20,XXX,XXX円及び13,XXX,XXX円)を、V社保証金については10%に相当する部分を除いた額の本件被相続人の負担相当額(5X,XXX,XXX円)を、それぞれ債務控除の金額とした。

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2 争点

(1) 本件宅地の価額は、本件宅地と本件各借地とを併せた土地を1画地の宅地(評価単位)とした上で評価すべきか否か。
(2) 本件各保証金の返還債務に係る債務控除の金額は、いくらであるか。
イ 本件各保証金のうちV社保証金について、その返還債務のうちV社契約書第21条第4項により返還を要することとなるV社保証金の10%に相当する部分は、相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められるもの」に該当するか否か。
ロ 本件各保証金の返還債務に係る債務控除の金額の算定に当たり、本件各保証金が無利息であることによる経済的利益を考慮すべきか否か。仮に、考慮すべきとした場合に、本件各保証金の金額はどのように評価すべきか。

3 争点1(本件宅地の価額は、本件宅地と本件各借地とを併せた土地を1画地の宅地(評価単位)とした上で評価すべきか否か。)について

(1) 主張

原処分庁 請求人ら
 本件宅地の価額は、以下のとおり、本件宅地と本件各借地とを併せた土地を1画地の宅地(評価単位)とした上で評価すべきである。  本件宅地の価額は、以下のとおり、本件宅地のみを1画地の宅地(評価単位)として評価すべきである。
イ 土地の所有者が隣接する土地を賃借して、当該隣接土地を専属的に使用できる場合で、かつ、当該隣接土地を自己所有の土地と一体として利用している場合、当該賃借している土地と自己所有の土地は、これらを併せて1画地の宅地を構成するものとして評価すべきである。
ロ 本件の場合、本件被相続人は、本件各借地を賃借して専属的に使用することができたため、本件共同住宅の敷地として、本件被相続人自身が所有する本件宅地と一体として利用をしていたものである。
 したがって、本件宅地と本件各借地とを併せた土地を1画地の宅地とした上で、本件宅地の価額を評価すべきである。
ハ なお、相当地代通達の定めは、飽くまでも、相続税の評価上、借地権の価額を零円であるとして取り扱うものにすぎない。本件において、本件被相続人は、本件各借地契約により、借地借家法の保護の対象となる借地権を有しているものであるから、使用借権の場合と同様にみることはできない。
イ 土地の所有者が隣接する土地を使用貸借により借り受けて、自己所有の土地と一体として利用している場合、当該使用貸借している土地と自己所有の土地は、それぞれを1画地の宅地として評価すべきである。
 これは、利用単位で評価する前提として、隣地について財産的価値の帰属がある場合(つまり、自己所有の土地と一体として利用している隣地の上に財産的価値のある権利が存する場合)に、初めて敷地全体を一つの単位として評価すべきであって、当該隣地の上に存する権利が財産的価値のない権利である場合には、敷地全体を一つの単位として評価すべきではないことを意味したものと考えられる。
ロ 本件の場合、本件宅地と本件各借地は、本件共同住宅の敷地として、一体として利用されている。
 そして、本件各借地の上に存する権利(本件各借地権)は、使用借権ではなく、借地借家法の保護の対象となる借地権ではあるが、本件各借地権の課税上の価額は、相当地代通達の定めにより、零円と評価されるから、使用借権の場合と同様に、本件被相続人に帰属する財産的価値はない。つまり、相当地代通達の定めは、特殊な関係者間における借地借家法の保護を想定しない取引を前提とした取扱いであるから、本件のように相当の地代の支払がされている場合には、借地借家法の保護を想定しない取引を前提として、借地権に係る相続税の評価をするべきであり、本件各借地権は、実質的には借地借家法による保護を受けない借地権であって、使用借権の場合と同様に、本件被相続人に帰属する財産的価値のないものである。
 したがって、本件宅地のみを1画地の宅地として、本件宅地の価額を評価すべきである。

(2) 判断

イ 法令解釈等
(イ) 相続税法第22条について
 相続税法第22条は、相続又は遺贈により取得した財産の価額は、特別の定めがあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定している(上記1の(3)のイの(ニ))が、課税実務上は、財産評価の一般的基準が評価基本通達によって定められ、評価基本通達に定められた評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の平等を著しく害することが明らかであるといった特別の事情があるような場合を除き、評価基本通達に定められた評価方法によって画一的に当該財産の評価をすることとされている。このような取扱いがされているのは、全ての財産の価額(客観的交換価値を示す価額)は必ずしも一義的に確定できるものではないため、相続財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法を採ると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じること等から、画一的に評価する方が納税者間の公平、便宜、徴税費用の節減等の見地から合理的であるという理由に基づくものであり、評価基本通達が形式的に全ての納税者等に適用されることによって、租税負担の実質的な公平も実現できることとなる。
 当審判所においても、この取扱いは、納税者間の公平や効率的な租税行政の実現等の観点から、相当であると考える。
(ロ) 宅地の評価単位について
 評価基本通達7−2(1)は、宅地については、1画地の宅地(利用の単位となっている1区画の宅地)を評価単位として評価する旨定めるとともに、同通達の注1は、1画地の宅地は、必ずしも1筆の宅地からなるとは限らず、2筆以上の宅地からなる場合もあり、1筆の宅地が2画地以上の宅地として利用されている場合もあることに留意する旨定めている(上記1の(3)のハの(イ))。
 また、課税実務上、1画地の宅地の判定に当たっては、原則として、@宅地の所有者による自由な使用収益を制約する他者の権利(原則として使用貸借による使用借権を除く。)の存在の有無により区分し、A他者の権利が存在する場合には、その権利の種類及び権利者の異なるごとに区分して、それぞれの部分を1画地の宅地とする取扱いをしており、自己が所有する宅地に隣接する宅地を借りて、当該所有する宅地及び当該借地の上に建物を所有している場合には、当該所有する宅地と当該借地の全体を1画地として評価した価額を基に評価する取扱いをしている。
 宅地の取引は、通常利用単位ごとに行われ、その取引価格は、その単位を基に形成されていることは公知の事実であることから、このような評価基本通達の定め及び課税実務上の取扱いはいずれも合理性を有すると考えられる。
 そうすると、自己が所有する宅地に隣接する宅地を借りている場合において、当該隣接する宅地を借りる権利が当該隣接する宅地(借地)を専属的に利用できる権利である場合で、当該所有する宅地と当該借地を併せて全体が一体として利用されているときには、その全体を1画地の宅地として評価することが相当である。
(ハ) 相当の地代を支払っている場合の土地の価額等について
A 相当の地代を支払っている場合の借地権の価額について
 相当地代通達1は、借地権の設定に際しその設定の対価として通常権利金その他の一時金を支払う取引上の慣行のある地域において、当該権利金その他の一時金の支払に代え相当の地代を支払っているものについては、借地権の設定による利益はないものとして取り扱う旨定め、相当地代通達3は、借地権の設定に際し権利金その他の一時金の支払はないが、課税時期において相当の地代が支払われている場合、課税時期における当該土地に係る借地権の価額は、零と評価する旨定めている(上記1の(3)のハの(ハ))。
 このように取り扱う理由は、上記のように借地権の設定時又は課税時期において相当の地代の支払がある場合には、土地の所有者からみれば、当該土地の地代収受権としての経済的価値は減殺されておらず、当該土地に借地権の設定がされてもなお更地としての経済的価値が維持されているものと考えられ、借地人に帰属すべき利益の生ずる余地がないことによるものであり、相当地代通達1及び3の定めは合理的なものであると考えられる。
B 相当の地代を収受している場合の貸宅地の価額について
 相当地代通達6は、借地権が設定されている土地について、権利金その他の一時金を収受していないか又は特別の経済的利益を受けていないが、課税時期において相当の地代を収受している場合、課税時期における当該土地の価額は、当該土地の自用地としての価額の100分の80に相当する金額により評価する旨定めている(上記1の(3)のハの(ハ))。
 このように取り扱う理由は、権利金その他の一時金を収受していないが相当の地代を収受している場合の課税時期における当該貸宅地の価額は、借地借家法上の借地権が設定されていることにより土地の所有者が自由な使用収益を制約されること等を考慮するとともに、借地権の取引慣行のない地域における貸宅地の評価について自用地としての価額から100分の20相当額を控除して評価していること(上記1の(3)のハの(ロ))との権衡をとって、自用地としての価額から100分の20相当額を控除することが適当であることによるものであり、相当地代通達6の定めは合理的なものであると考えられる。
(ニ) 土地の使用貸借に係る使用権の価額等について
 使用貸借通達は、建物等の所有を目的として使用貸借による土地の借受けがあった場合においては、建物等の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定に際し、その設定の対価として通常権利金その他の一時金を支払う取引上の慣行がある地域においても、当該土地の使用貸借に係る使用借権の価額は、零として取り扱う旨定めている(上記1の(3)のハの(ニ) )。
 また、課税実務上、使用貸借による土地の借受けがあった場合の評価単位の判定は、権利の設定を考慮せず、自己が所有する土地に隣接する土地を使用貸借により借受けて、自己が所有する土地及び隣接する土地の上に建物を所有している場合にも、自己が所有する土地のみを1画地の宅地として評価する取扱いをしている。
 これらの取扱いについては、@建物所有を目的とする土地の使用貸借は、夫婦や親子などの親族間で行われることが多く、他人間における土地の賃貸借のような土地の使用権に対する強い権利意識もないのが通常であると考えられること、A使用借権は借地借家法上の借地権のような強い法的保護を受けられず、借主の死亡が使用貸借の終了原因とされていること(民法第599条)などから、建物所有を目的とする土地の使用借権は、その経済的交換価値において、借地権に比し極めて弱いものと考えられることといった諸点からすると、いずれも合理的なものであると考えられる。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件各借地権は、本件被相続人が本件共同住宅を建設し所有することを目的として成立した本件各借地の賃借権であり(上記1の(4)のハの(イ)のA及び同(ロ)のA)、実際、本件共同住宅が平成21年9月11日に本件敷地の上に新築されていること(上記1の(4)のニの(イ))からしても、借地借家法第2条第1号に規定する借地権(建物の所有を目的とする土地の賃借権)に該当するものと認められる。
(ロ) そして、本件各借地権は、いずれも、借地権の設定に際し権利金その他の一時金の支払はない(上記1の(4)のハの(イ)のD及び同(ロ)のD)が、課税時期において相当の地代が支払われているものである(上記1の(4)のハの(イ)及び(ロ)。なお、この地代の額が相当の地代に当たることについては、請求人ら及び原処分庁の間で争いはない。)ところ、本件各借地権が本件共同住宅の所有を目的とする本件各借地の賃借権であること(上記1の(4)のハの(イ)のA及び同(ロ)のA)、及び本件各借地の上に借地権者である本件被相続人が登記されている本件共同住宅を所有しており(上記1の(4)のニの(イ))、これをもって第三者に対抗することができること(借地借家法第10条第1項)からすると、本件各借地権は、本件共同住宅の敷地として本件各借地を専属的に利用できる権利であったと認められる。
ハ 当てはめ
(イ) 本件宅地の評価単位について
 自己が所有する宅地に隣接する宅地を借りている場合において、当該隣接する宅地を借りる権利が当該隣接する宅地(借地)を専属的に利用できる権利である場合で、当該所有する宅地と当該借地を併せて全体が一体として利用されているときには、その全体を1画地の宅地として評価することが相当である(上記イの(ロ))。
 しかるに、@本件各借地権は、本件共同住宅の敷地として本件各借地を専属的に利用できる権利であること(上記ロの(ロ))、A本件被相続人は、本件相続開始日において、自己が所有する本件宅地と隣接する本件各借地を併せて、本件共同住宅の敷地として、その全体を一体として利用していたこと(上記1の(4)のハ)からすると、本件宅地の価額は、本件各借地と併せた全体を1画地の宅地として評価することが相当である。
(ロ) 請求人らの主張について
 請求人らは、本件各借地権は、借地借家法上の借地権ではあるが、相当地代通達の定めに基づきその価額が零円と評価されるから、実質的には借地借家法による保護を受けない借地権であって、隣地を利用する権利が使用借権である場合と同様に、本件宅地のみを1画地の宅地として評価すべきである旨主張する(上記(1)の「請求人ら」欄)。
 しかしながら、使用借権には借地借家法の適用がなく、借主の死亡が使用貸借の終了原因とされているところ、本件各借地権には借地借家法の適用があり(上記ロの(イ))、所定の要件を満たせば従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされる(借地借家法第5条第1項及び第2項)上、本件A借地に係る土地賃貸借契約については、借主の死亡によって終了するものではないこと(上記1の(4)のハの(イ)のG)、また、本件B借地に係る土地賃貸借契約については、借主の死亡のみによって当然に終了するものではなく、請求人p1が本件共同住宅を相続したときに、本件B借地の所有権と借地権が同一人に帰属することによって、当該借地権が混同により消滅する(民法第179条《混同》第1項)にすぎないこと(上記1の(4)のハの(ロ)のG)から、本件各借地権の価額が相当地代通達の定めに基づき零円と評価されることによって、上記のとおりの本件各借地権の内容が変わるものでもない。
 したがって、本件各借地権が実質的には借地借家法による保護を受けない借地権であるなどとして、その内容を使用借権と同様に見ることはできず、本件各借地権が使用借権と同様であることを前提として本件宅地のみを1画地の宅地として評価すべきであるとする請求人らの主張は、前提を欠くものであり、理由がない。
(ハ) 本件宅地の価額について
 以上のとおりであるから、本件宅地の価額は、本件宅地と本件各借地とを併せた全体を1画地の宅地として評価した価額を基に評価することが相当であり、これにより本件宅地の価額を評価すると、別表2の原処分庁算定による本件宅地の価額と同額となる。

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4 争点2(本件各保証金の返還債務に係る債務控除の金額は、いくらであるか。)について

(1) 争点2@(本件各保証金のうちV社保証金について、その返還債務のうちV社契約書第21条第4項により返還を要することとなるV社保証金の10%に相当する部分は、相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められるもの」に該当するか否か。)について

イ 主張

原処分庁 請求人ら
 V社保証金の返還債務のうちV社保証金の10%に相当する部分は、以下の理由から、相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められるもの」には該当しない。
 V社契約書では、@賃借人の都合により解約する場合及び契約期間満了の時は、賃借人が賃貸人に対してV社保証金の10%に相当する額を支払う旨(第21条第1項ないし第3項)、また、A賃貸人の都合により契約を解除する場合は、賃貸人が賃借人に対してV社保証金の全額を返還しなければならない旨(同条第4項)、それぞれ定められている。
 そうすると、V社保証金のうち、10%に相当する部分については、契約の解除又は契約期間の満了まで、その返還の要否が確定していないと認められるから、当該部分は、相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められるもの」には該当せず、債務控除の対象とならない。
 V社保証金の返還債務のうちV社保証金の10%に相当する部分は、以下の理由から、相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められるもの」に該当する。
 V社契約書では、賃貸人の都合により契約を解除する場合は、賃貸人はV社保証金の全額を賃借人に返還しなければならないものとされている(第21条第4項)。
 そうすると、V社保証金のうち、10%に相当する部分については、本件相続開始日において返還が不要であることは確定しておらず、その全額が相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められるもの」に該当するから、全額を債務控除の対象とすべきである。

ロ 判断
(イ) 法令解釈
 相続税法第13条第1項は、相続又は遺贈により取得した財産の課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(同項第1号)のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による旨規定し、同法第14条第1項は、同法第13条第1項の規定によりその金額を控除すべき債務は、確実と認められるものに限る旨規定している(上記1の(3)のイの(ロ)及び(ハ))ところ、同法第14条第1項の「確実と認められる」債務とは、相続開始時の現況に照らし、その履行が確実と認められるものをいうと解される。
(ロ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A V社契約書の定め等
(A) V社契約書第7条第5項においては、V社保証金の償却は10%とする旨が定められている(上記1の(4)のホの(ロ)のAの(H))。
 当該償却については条件が付されていないことからすると、V社保証金の10%に相当する金額については、V社契約を締結した時点で、本件賃貸ビル賃貸人らからV社への返還が不要であることが確定していることが認められる。
(B) V社契約書第21条第4項においては、本件賃貸ビル賃貸人らの都合によりV社契約を解除するときは、本件賃貸ビル賃貸人らがV社保証金の全額を直ちにV社に返還するものとする旨が定められている(上記1の(4)のホの(ロ)のAの(P))。
 当審判所の調査の結果によると、本件賃貸ビル賃貸人らの都合によりV社契約を解除する場合に、本件賃貸ビル賃貸人らがV社に対して返還することとなるV社保証金の全額に相当する金額のうち、V社保証金の10%に相当する金額は、違約金の趣旨であると認められる。
(C) V社保証金は、上記(A)のとおり、当該保証金の10%に相当する金額が償却されており、本件相続の開始の時点においては、当該保証金の額からその10%に相当する金額を差し引いた金額(16X,XXX,XXX円)がV社保証金の返還債務の弁済すべき金額であると認められる。
 そして、当審判所の調査の結果によれば、V社は、仮に、本件相続の開始の時点において、V社保証金の返還を求めることとした場合、債務者である本件被相続人、p7及び請求人p1の全員に対してこれを求めることができ、そのうちのいずれかの者がV社に返還をすれば、他の債務者にも弁済の効力を生じ、後は債務者相互間の求償関係を生じるのみであると認められる。このことからすると、V社保証金の返還債務は連帯債務であると認められ、また、請求人p1が、V社保証金の返還債務の額について、本件賃貸ビルの本件被相続人の共有持分の割合に応じた額(16X,XXX,XXX円×344,952/1,000,000=5X,XXX,XXX円。上記1の(4)のヘの(ロ)のB及び同ホの(イ))で本件申告をしている(上記1の(4)のヘの(ロ)のB)ことからすると、本件相続開始日における本件被相続人、p7及び請求人p1の各人の負担部分は、上記1の(4)のホの(イ)の表の順号3の持分の割合に応じたものであったと認められる。
B 本件相続開始日におけるV社契約の解除の事実の有無
 平成21年4月10日、V社契約は、上記1の(4)のホの(ロ)のBのとおり更新されていたところ、本件相続開始日において、V社契約書第21条第4項に係る解除の事実は発生していなかった。
(ハ) 当てはめ 
 V社保証金のうち、@V社契約書第7条第5項により償却する金額(V社保証金の10%に相当する金額)については、V社契約を締結した時点で、本件賃貸ビル賃貸人らからV社への返還が不要であることが確定しているものと認められ(上記(ロ)のAの(A))、他方、A上記@の金額(V社保証金の10%に相当する金額)を除く金額については、本件相続開始日において、本件被相続人、p7及び請求人p1からV社への返還が将来必要であることが確定しており、相続開始時の現況に照らし、その履行が確実と認められるものであるといえる。
 しかしながら、BV社契約書第21条第4項により、本件賃貸ビル賃貸人ら(V社契約の更新後は、本件被相続人、p6及び請求人p1であり、p6死亡後は、本件被相続人、p7及び請求人p1である。)の都合によるV社契約の解除の事実が生じた場合に返還を要することとなるV社保証金の全額のうち、その10%に相当する金額については、当該解除の事実が生じた場合に初めて返還が必要となるものであり、本件相続開始日において、当該解除の事実は発生しておらず(上記(ロ)のB)、将来当該解除の事実が発生するかどうかも確定していないことからすると、相続開始時の現況に照らし、その履行が確実と認められるものであるとはいえない。
 したがって、V社保証金の返還債務のうち、V社契約書第21条第4項により返還を要することとなるV社保証金の10%に相当する部分は、相続税法第14条第1項に規定する「確実と認められるもの」には該当しない。
 よって、この点についての上記イの請求人らの主張には理由がない。
(2) 争点2A(本件各保証金の返還債務に係る債務控除の金額の算定に当たり、本件各保証金が無利息であることによる経済的利益を考慮すべきか否か。仮に、考慮すべきとした場合に、本件各保証金の金額はどのように評価すべきか。)について

イ 主張

原処分庁 請求人ら
 本件各保証金の返還債務に係る債務控除の金額は、以下の理由から、無利息であることによる経済的利益を考慮して、債務の額面金額(ただし、V社保証金の償却部分(10%)を控除する。)に通常の利率(基準年利率)を基に算出した複利現価率を乗じて評価した金額によるべきである。  本件各保証金の返還債務に係る債務控除の金額は、以下の理由から、無利息であることによる経済的利益を考慮せず、債務の額面金額によるべきであり、仮に、上記経済的利益を考慮すべきとした場合には、債務の額面金額に通常の利率(長期プライムレートの2分の1の利率)を基に算出した複利現価率を乗じて評価した金額によるべきである。
(イ) 本件各保証金が無利息であることによる経済的利益を考慮すべきか否かについて (イ) 本件各保証金が無利息であることによる経済的利益を考慮すべきか否かについて
A  相続税の課税価格の計算において控除すべき債務の金額は、相続開始時の現況による。このことからすると、債務の評価に当たって、相続開始時において客観的かつ具体的に確認されない事柄を影響させることは妥当ではない。
 ところで、弁済すべき金額は確定しているものの相続開始時において弁済期が到来していない無利息の金銭債務の場合、相続人は、弁済期が到来するまでの間、毎年、通常の利率による利息との差額に相当する経済的利益を留保し得ることとなる。このことからすると、弁済期未到来の無利息の確定金銭債務は、その額面金額から、その留保される毎年の経済的利益の現在価値の総額だけその消極的価値を減じているものというべきであるから、このことを踏まえて、相続開始時の現況を評価すべきであり、具体的には、債務の額面金額に通常の利率を基に算出した複利現価率を乗ずる方法で評価すべきである。
 そして、本件各保証金の返還債務は、弁済期未到来の無利息の確定金銭債務であるから、その金額は、額面金額(ただし、V社保証金の償却部分(10%)を控除する。)に通常の利率を基に算出した複利現価率を乗ずる方法で評価することとなる。
A  相続税の課税価格の計算において控除すべき債務の金額は、相続開始時の現況による。
 ところで、物件の所有を目的としない建物賃貸借契約は、現状のようなデフレ経済下においては、建物の所有を目的とする借地契約と比べて中途の契約解除の可能性が高いから、保証金返還債務の弁済期が建物賃貸借契約の期間満了時であるとは限らず、弁済期自体が確定しているとはいえない。そうすると、弁済期が到来するまでの間、保証金返還債務が無利息であることにより債務者(相続人)が留保することができる経済的利益は、未確定な利益であって、債務控除の額の算定上考慮すべきものではない。
 また、建物賃貸借契約に関して無利息の保証金の預託がされた場合、商慣習として、保証金返還債務が無利息であることにより債務者が留保することができる経済的利益の相当額を考慮した上で賃料の額が決定されることからすると、実質的には、債務者に当該経済的利益が生じているとはいえない。
 以上からすると、本件各保証金の返還債務については、無利息による経済的利益を考慮すべきでなく、額面金額で評価すべきである。
B  なお、請求人らは、相続税の債務控除においては、所得税の課税と整合性をとるべきである旨主張するが、所得税法と相続税法とでは、保証金に係る経済的利益を認識する時点が異なることから、保証金に係る経済的利益に対して所得税が課税されているか否かは、相続税の課税における保証金の額の計算に影響を及ぼすものではない。 B  所得税の課税においては、建物等の所有を目的とする借地権を設定する場合の経済的利益について、具体的に計算方法が規定され(所得税法施行令第80条)、課税対象とされているのに対して、建物賃貸借の場合には、経済的利益について、具体的な計算方法は規定されておらず、課税対象とされていない(理由は、建物賃貸借の場合、借地契約の場合とは異なり、弁済期が不確定であり、経済的利益の計算が困難であると考えられるからである。)。
 相続税の債務控除においても、所得税の課税との整合性をとるべきである。
(ロ) 債務控除の金額の算定方法について
 債務控除の金額の算定に用いる複利現価率の基になる「通常の利率」は、以下の理由から、評価基本通達に基づき定められた基準年利率によるべきである。
 評価基本通達に基づき定められた基準年利率は、公表データである「利付国債の複利ベースの最終利回り」を基に、期間別に定められているものであり、各期の将来収入を予測し、それらを現在価値に割り戻した金額の累計額により評価する場合に合理的なものであって、期間の長短に応じたリスクをも考慮されたものである。
 したがって、複利現価率の基となる「通常の利率」は、基準年利率によるべきである。
(ロ) 債務控除の金額の算定方法について
 債務控除の金額の算定に用いる複利現価率の基になる「通常の利率」は、以下の理由から、長期プライムレートの2分の1の利率によるべきである。
 所得税における借地権設定の対価に係る経済的利益の計算は、「通常の利率の10分の5に相当する利率」と規定されており(所得税法施行令第80条第2項)、中途解約の可能性が建物賃貸借契約よりも低い建物所有を目的とする借地契約でも、通常の利率の半分の利率をもって計算を行っている。
 また、所得税の課税における経済的利益の計算と相続税の経済的利益の計算に違いを設ける必要はない。
 したがって、複利現価率の基となる「通常の利率」は、長期プライムレートの2分の1の利率によるべきである。

ロ 判断
(イ) 法令解釈等
A 金銭債務の評価について
(A) 相続税は、財産の無償取得によって生じた経済的価値の増加に対して課される租税であるところから、その課税価格の算出に当たっては、取得財産と控除すべき債務の双方について、それぞれの現に有する経済的価値を客観的に評価した金額を基礎とするものである。ただ、控除すべき債務については、その性質上客観的な交換価値なるものがないため、交換価値を意味する「時価」に代えて、その「現況」により控除すべき金額を評価する旨定められている(相続税法第22条)ものと解される。したがって、控除すべき債務が弁済すべき金額の確定している金銭債務の場合であっても、その弁済すべき金額が当然に当該債務の相続開始の時における消極的経済価値を示すものとして課税価格算出の基礎となるものではなく、あたかも金銭債権につきその権利の具体的内容によって時価を評価するのと同様に、金銭債務についてもその利率や弁済期等の現況によって控除すべき金額を個別的に評価しなければならないのであり、かくして決定された控除すべき金額は、必ずしも常に当該債務の弁済すべき金額と一致するものではない(最高裁昭和49年9月20日第三小法廷判決・民集28巻6号1178頁)。
(B) そして、弁済すべき金額が確定し、かつ、弁済期が未到来である無利息の金銭債務(以下「無利息債務」という。)であれば、これを承継した相続人は、通常の利率による利息相当額の経済的利益を弁済期が到来するまで毎年留保し得ることとなるから、無利息債務については、上記のように留保される毎年の経済的利益の現在価値の総額だけその消極的経済価値を減じているものというべきである。
 そうすると、無利息債務を評価するには、債務者に留保される毎年の経済的利益について、通常の利率によって弁済期までの中間利息を控除して得られたその現在価値を弁済すべき金額から差し引いた金額をもって、相続開始時において控除すべき債務の額と解するのが相当である。
(C) したがって、無利息債務の金額を相続開始時における「現況」によって評価するには、債務の弁済すべき金額に通常の利率を基に算出した複利現価率を乗ずる方法で行うべきであり、具体的には、次の方法で算出すべきである。
 無利息債務の金額(相続開始時の「現況」)=債務の弁済すべき金額×複利現価率
 複利現価率=1÷(1+r)のX乗
 r=通常の利率
 X=残存期間年数
B 無利息債務を評価する際の「通常の利率」について
(A) 評価基本通達4−4は、財産の評価において適用する年利率は、基準年利率による旨を定め、基準年利率は、年数又は期間に応じ、日本証券業協会において売買参考統計値が公表される利付国債に係る複利利回りを基に計算し、短期(3年未満)、中期(3年以上7年未満)及び長期(7年以上)に区分して、各月ごとに定める旨を定めている(上記1の(3)のニの(イ))。
 また、平成22年分基準年利率通達は、評価基本通達4−4に基づき計算された平成22年分の基準年利率を定め、参考として、複利表において、@各基準年利率に応じた複利現価率及びA当該複利現価率は無利息債務の評価に使用することを示している(上記1の(3)のニの(ロ))。
(B) 財産を評価する際の「通常の利率」については、把握することのできる金利等の指標を参考にして合理的に推定するほかないところ、基準年利率は、公表された統計値に基づいて計算された客観的な利率であり、期間ごとに区分して定められているものであること(上記1の(3)のニの(イ))からして、合理的なものである。
 そして、この基準年利率は、金銭債権の評価にも適用するものであるところ、債権と債務とが表裏の関係にあり、債務の評価もその経済的価値の評価という点において債権の評価と異なるところはないことからすると、無利息債務を評価する際の「通常の利率」として基準年利率によることは、合理的である。
(ロ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 本件各保証金の返還債務の弁済すべき金額及び弁済期
(A) 本件住宅部分保証金
 本件住宅部分契約書では、S社は、本件住宅部分保証金(20,XXX,XXX円)を本件被相続人に対して無利息で預託し、本件被相続人は、契約終了(平成41年9月末日)後、本件住宅部分保証金をS社に速やかに返還する旨を定めており(上記1の(4)のニの(ロ)のAの(B)、(D)及び(E))、本件住宅部分保証金は、S社から本件被相続人に預託されていた。
 したがって、本件住宅部分保証金の返還債務は、弁済すべき金額が20,XXX,XXX円と確定し、弁済期が本件相続開始日後である平成41年9月末日の無利息の金銭債務であると認められる。
(B) 本件店舗部分保証金
 本件店舗部分契約書では、S社は、テナント契約締結時に、本件店舗部分保証金(テナント契約の締結時に転借人から受領した敷金と同額)を本件被相続人に対して無利息で預託し、本件被相続人は、テナント契約終了後、本件店舗部分保証金をS社に速やかに返還する旨を定めており(上記1の(4)のニの(ロ)のBの(E)、(F)及び(K))、本件店舗部分保証金は、S社から本件被相続人に預託されていた。また、本件店舗部分転貸借契約書では、テナント契約の終了時期は平成24年10月31日、敷金は13,XXX,XXX円と定めている(上記1の(4)のニの(ロ)のCの(C)及び(E))。
 したがって、本件店舗部分保証金の返還債務は、弁済すべき金額が13,XXX,XXX円と確定し、弁済期が本件相続開始日後である平成24年10月31日の無利息の金銭債務であると認められる。
(C) V社保証金
 V社契約書では、V社は、V社保証金(18X,XXX,XXX円。このうち10%に相当する18,XXX,XXX円は、上記(1)のロの(ロ)のAの(A)のとおり、V社契約を締結した時点で、本件賃貸ビル賃貸人らからV社への返還が不要であることが確定している。)を本件賃貸ビル賃貸人らに対して無利息で預託し、本件賃貸ビル賃貸人らは、V社契約が終了し据置期間の6か月が経過した後、V社保証金をV社に返還する旨を定めており(上記1の(4)のホの(ロ)のAの(E)ないし(G))、V社保証金は、V社から本件賃貸ビル賃貸人らに預託されていた。また、V社契約の更新の際、V社契約の終了時期は平成36年5月31日とされ、V社保証金については、更新後も引き続き同一条件でV社の本件被相続人、p6及び請求人p1に対する債務を担保することが確認されている(上記1の(4)のホの(ロ)のB)。
 ただし、V社保証金のうち、V社契約書第21条第4項により返還を要することとなる10%に相当する18,XXX,XXX円は、上記(1)のロの(ハ)のとおり、V社保証金の返還債務の弁済すべき金額に含まれない。
 したがって、V社保証金の返還債務は、弁済すべき金額が16X,XXX,XXX円と確定し、弁済期が本件相続開始日後である平成36年11月30日の無利息の金銭債務であると認められる。
B 本件相続開始日における本件各建物賃貸借契約書に係る各契約の解約又は解除の事実の有無
 本件相続開始日において、本件各建物賃貸借契約書に係る各契約の解約等の事実は発生していなかった。
C 本件各建物賃貸借契約書に係る各契約における賃料の額の決定における考慮事項
 本件各建物賃貸借契約書には、保証金を無利息で預託することと引き換えに賃料の額を定める旨等の記載はなく、各契約の締結に当たり、保証金を無利息で預託することによる経済的利益を考慮して賃料の額を決定した事実も認められない。
(ハ) 当てはめ
A 本件各保証金が無利息であることによる経済的利益を考慮すべきか否かについて
 上記(イ)のAのとおり、無利息債務は、これを承継した相続人において通常の利率による利息相当額の経済的利益を弁済期が到来するまで毎年留保し得ることとなり、当該経済的利益の現在価値の総額だけその消極的経済価値を減じているものというべきであるから、無利息債務の評価に当たっては、無利息であることによる経済的利益を考慮するのが相当である。
 そして、上記(ロ)のAのとおり、本件各保証金の返還債務は、いずれも、弁済すべき金額が確定し弁済期が本件相続開始日後の無利息の金銭債務であることから、無利息債務である。
 したがって、本件各保証金の返還債務の評価に当たっては、無利息であることによる経済的利益を考慮すべきである。
B 経済的利益を考慮すべきでないとする請求人らの主張について
(A) 中途の契約解除の可能性について
 請求人らは、建物の賃貸借契約は、建物の所有を目的とする借地契約と比べて中途の契約解除の可能性が高く、無利息であることによる経済的利益は未確定な利益であるから、本件各保証金から経済的利益を控除すべきでない旨主張する(上記イの「請求人ら」欄の(イ)のA)。
 しかしながら、相続税法第22条において、債務の評価は相続開始時の現況による旨が規定されていることからすれば、債務の評価に当たり、相続開始時において客観的かつ具体的に確認されない事柄を影響させることは妥当ではない。仮に、一般に建物の賃貸借契約が建物の所有を目的とする借地契約と比べて中途の契約解除の可能性が高いものであるとしても、本件各建物賃貸借契約書に係る各契約について、本件相続開始日において、解約等の事実は発生していなかった(上記(ロ)のB)ことからすると、請求人らの主張には理由がない。
(B) 賃料の額の決定に当たっての経済的利益の考慮について
 請求人らは、商慣習として、保証金返還債務が無利息であることにより債務者が留保することができる経済的利益の相当額を考慮して賃料の額が決定されることから、実質的には債務者に当該経済的利益が生じているとはいえない旨主張する(上記イの「請求人ら」欄の(イ)のA)。
 しかしながら、本件各建物賃貸借契約書には、保証金を無利息で預託することと引き換えに賃料の額を定める旨等の記載はなく、各契約の締結に当たり、保証金を無利息で預託することによる経済的利益を考慮して賃料の額を決定した事実も認められない(上記(ロ)のC)ことからすると、請求人らの主張は前提を欠くものであり、理由がない。
(C) 所得税の課税との関係について
 請求人らは、所得税の課税においては、建物等の所有を目的とする借地権を設定する場合の経済的利益について具体的に計算方法が規定されているが、建物賃貸借の場合にはかかる規定がないことを挙げて、相続税の債務控除においても、所得税の課税との整合性をとるべきである旨主張する(上記イの「請求人ら」欄の(イ)のB)。
 しかしながら、請求人らが主張の根拠とする所得税法施行令第80条の規定は、借地権等の設定が所得税法第33条第1項に規定する譲渡所得の課税対象となるか否かを判定する際における借地権等の対価の額の計算方法を定める規定であり、借地権の設定時の経済的利益に対する課税についての規定ではなく、また、経済的利益が収入金額に含まれることは、同法第36条《収入金額》第1項に規定されているところ、収入金額に含まれるのは借地権等の設定に伴って受ける経済的利益に限られるものではないことから、請求人らの主張を採用することはできない。
C 債務控除の金額の算定方法について
(A) 本件各保証金の返還債務を評価する際の「通常の利率」について
 上記(イ)のBのとおり、基準年利率は、無利息債務を評価する際の「通常の利率」として合理的なものである。
 しかるに、請求人らが「通常の利率」に係る主張の基とする長期プライムレートは、各金融機関がそれぞれ公表している最優遇貸出金利であって、金融機関により区々である上、貸付期間による区別もない。一般に、貸付期間が長期であるほど貸出金利は高くなる傾向にあるところ、長期プライムレートは、そのような傾向が反映されたものともいえないから、基準年利率よりも合理性があるとはいえない。
 したがって、無利息債務である本件各保証金の返還債務(上記(ロ)のA)を評価する際の「通常の利率」は、基準年利率によることが相当である。
(B) 請求人らの主張について
 請求人らは、所得税法施行令第80条第2項の規定を根拠として、「通常の利率」は長期プライムレートの2分の1の利率によるべきである旨主張する(上記イの「請求人ら」欄の(ロ))。
 しかしながら、所得税法施行令第80条第2項の規定は、借地権等の設定が所得税法第33条第1項に規定する譲渡所得の課税対象となるか否かを判定する際における借地権等の対価の額の計算方法を定める規定であり、借地権の設定時の経済的利益に対する課税についての規定ではなく、また、基準年利率は、公表された統計値に基づく客観的な利率であり、期間による区分別に各月ごとに定められた合理的なものである(上記(イ)のB)にもかかわらず、あえて長期プライムレートを2分の1とした低い利率を用いる理由はないというべきであるから、請求人らの主張には理由がない。
(3) 本件各保証金の返還債務に係る債務控除の金額について
 以上のとおり、本件各保証金の返還債務は、本件各保証金の弁済すべき金額に、基準年利率を基に算出した複利現価率を乗ずる方法により評価すべきこととなり、その債務控除の金額を評価すると、別表3のとおりとなる。
 なお、原処分庁は、V社保証金の返還債務の評価に当たり、契約期間満了時を弁済期として算定しているが、契約が終了して据置期間である6か月が経過した時を弁済期とすべきであるから、別表3では、契約期間満了時(平成36年5月31日)から6か月後の平成36年11月30日を弁済期として、債務の金額を評価した。

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5 本件各更正処分について

 上記3の(2)のハの(ハ)による本件宅地の価額及び上記4の(3)による本件各保証金の返還債務に係る債務控除の金額に基づき、請求人らの本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を算出すると、別表4のとおりとなり、当該納付すべき税額(別表4の「納付すべき税額」欄)を下回る金額でされた本件各更正処分は、いずれも適法である。

6 本件各賦課決定処分について

 本件各更正処分は、上記5のとおりいずれも適法であり、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項及び第2項又は同条第1項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分は、いずれも適法である。

7 その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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