(平成26年8月1日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、販売委託契約に基づく医療機器等の受託販売を行う審査請求人(以下「請求人」という。)に対し、原処分庁がした推計課税による所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分について、請求人が、各更正処分の手続等に各更正処分等を取り消すべき違法な事由があるなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成21年分及び平成22年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について、それぞれ確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに原処分庁に申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査(以下「本件調査」という。)に基づき、平成25年2月15日付で、本件各年分の事業所得の金額及び平成21年分の一時所得の金額に誤りがあるとして、それぞれ別表1の「更正処分等」欄のとおりとする本件各年分の所得税の更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、原処分を不服として、平成25年3月13日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月4日付で、本件各年分の事業所得の金額は本件各更正処分の額を下回るが、本件各年分の不動産所得の金額が本件各更正処分の額を上回り、本件各年分の総所得金額が本件各更正処分の額を上回ることを理由にいずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成25年6月26日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 所得税法(平成23年法律第114号による改正前のもの。以下同じ。)第12条《実質所得者課税の原則》は、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する旨規定している。
ロ 所得税法第156条《推計による更正又は決定》は、税務署長は、居住者に係る所得税につき更正又は決定をする場合には、その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額(その者の提出した青色申告書に係る年分の不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額並びにこれらの金額の計算上生じた損失の金額を除く。)を推計して、これをすることができる旨規定している。
ハ 所得税法第234条《当該職員の質問検査権》第1項第1号及び第3号は、税務署の当該職員は、所得税に関する調査について必要があるときは、納税義務がある者又は納税義務がある者に金銭若しくは物品の給付をする義務があったと認められる者若しくは当該義務があると認められる者若しくは納税義務がある者から金銭若しくは物品の給付を受ける権利があったと認められる者若しくは当該権利があると認められる者に質問し、又はその者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査することができる旨規定している。
ニ 行政手続法第14条《不利益処分の理由の提示》第1項は、行政庁は、不利益処分をする場合には、その名宛人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない旨規定し、同条第3項は、当該不利益処分を書面でするときは、その理由は、書面により示さなければならない旨規定している。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件各年分において、請求人は、H社と締結した医療機器等に関する販売委託契約に基づき、当該医療機器等の販売実績に応じた報酬を、H社から受け取った。
ロ 請求人の夫であるJは、本件各年分において、請求人の所得税法第57条《事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等》第3項に規定される事業専従者であった。
ハ 本件各年分において、別表2に記載の建物は、いずれも共同住宅として賃貸の用に供され、当該建物の所有権者は、同表の「所有者(共有持分割合)」欄のとおりであり、当該建物のうち、K、L、M及びN(以下、これらを併せて「本件共有物件」という。)の持分割合は、いずれも、請求人とJが2分の1ずつであった(以下、請求人の持分を「本件請求人持分」といい、本件各年分の本件共有物件に係る賃貸料収入額を「本件共有賃貸料」と、そのうち本件請求人持分に係る賃貸料収入額を「本件賃貸料」という。)。
ニ 請求人の本件各年分の所得税の確定申告書には、本件各年分の収支内訳書(一般用)及び収支内訳書(不動産所得用)がそれぞれ添付されており、当該収支内訳書(不動産所得用)には、別表3に記載の不動産所得の収入の内訳が記載されている。

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2 争点

(1) 争点1 本件各更正処分の手続等に原処分を取り消すべき違法又は不当な事由があるか否か。
(2) 争点2 本件各年分の事業所得の金額の計算において、推計の方法による課税の必要性が認められるか否か。
(3) 争点3 本件各年分の事業所得の金額の計算についての推計の方法に合理性があるか否か。
(4) 争点4 本件賃貸料は、請求人に帰属するか否か。

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3 主張

(1) 争点1(本件各更正処分の手続等に原処分を取り消すべき違法又は不当な事由があるか否か。)について

請求人 原処分庁
 本件各更正処分の手続等には、次のとおり、原処分を取り消すべき違法又は不当な事由がある。
イ 調査日時の事前通知
(イ) 改正通則法(平成23年法律第114号により改正された国税通則法をいう。以下同じ。)第74条の9《納税義務者に対する調査の事前通知等》及び第74条の10《事前通知をしない場合》において、違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある場合を除いて原則事前通知を要することが法定化された。
 本件調査は、改正通則法施行前に開始されたが、本件調査担当職員がこの法律を全く無視するとは考えにくい。
 そうすると、開業以来、毎年期限内に真面目に確定申告し、納税も行ってきた請求人は、本件調査時に違法又は不当な行為や本件調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれはなく、改正通則法の定める事前通知をしない場合に該当しない。それにもかかわらず、原処分庁は事前通知をしなかった。
 本件各更正処分の手続等には、次のとおり、原処分を取り消すべき違法又は不当な事由はない。
イ 調査日時の事前通知
(イ) 事前通知をしない場合に当たるかどうかは、課税庁が、納税義務者の申告若しくは過去の調査状況、又は納税義務者の営む事業内容に関する情報、その他課税庁が保有する情報を踏まえて判断することとされているところ、原処分庁は、これらの事項を総合的に勘案して事前連絡をしなかったものである。
(ロ) また、本件調査担当職員が事前通知をしなかったことは、本件調査担当職員に付与された裁量の範囲を逸脱しており、いわゆる法定手続の保障を規定した日本国憲法第31条の規定に違反し、また、税務運営方針にも違反する。 (ロ) また、税務調査における質問検査権の行使の範囲、程度、時期及び場所並びに調査の理由の開示の有無及び程度並びに事前通知の有無等の実施の細目については、調査権限を有する税務職員の合理的な裁量に委ねられていると解されているところ、本件調査において、本件調査担当職員が、合理的裁量を逸脱したとはいえない。
ロ 第三者の立会い
 本件調査における立会人は、第三者ではあるが、信頼できる人々であり、取引先との関係など知られて困ることはなく、秘密自体存在しない。
 それでも本件調査担当職員が請求人の取引先等の関係で、その秘密保持に種々の懸念を生じると判断すれば、取引先等とのことを請求人に質問するときにだけ、立会人に退席を求めれば足りることである。
 税務調査において、立会人が必要な理由は、人権無視の調査や納税者の無知につけこんだ不当な調査が起きないようにするためであり、立会人を置くかどうか、誰を立会人とするかは、納税者が決めることであり、納税者の私的な権利に属する問題である。
 それにもかかわらず、本件調査担当職員は、最初から最後まで立会人を一切認めなかった。
 また、請求人の依頼した第三者の立会いを認めないことは、日本国憲法第13条の幸福追求の権利及び同法第31条の法定手続の保障に違反する。
ロ 第三者の立会い
 本件調査担当職員が本件調査の際、第三者の立会いを認めると、特に、請求人の取引先等の関係で、その秘密保持に種々の懸念を生じ、適正な調査ができないことから、本件調査に関係のない第三者の立会いのないところで、本件調査に応じるよう求めたものである。
ハ 取引先等に対する調査
 本件調査担当職員は、本件調査において、税務職員には守秘義務があること、また、税理士法にも違反するおそれがあることから、請求人の依頼した立会人がいる状況では、実地での帳簿調査を行うことができないとして、帳簿調査を行わずに取引先等を調査した。
ハ 取引先等に対する調査
 上記ロのとおり、第三者の立会いを認めると、適正な調査ができないことから、請求人に対し、再三、本件調査に関係のない第三者の立会いのないところで、帳簿書類を提示して本件調査に応じるよう求めたにもかかわらず、請求人は、本件調査担当職員の求めに応じなかった。
 このことから、本件調査担当職員は、請求人の取引先等を調査したものであり、本件調査担当職員が質問検査権を行使し、請求人の取引先等を調査したことは、質問検査の必要性と相手方の私的利益の比較衡量において、社会通念上相当と認められ、本件調査は適法に実施されている。
ニ 異議審理手続について
(イ) 異議申立てに係る審理は、争点主義を採用し、納税者が違法であると主張している争点についてだけ審理・判断を行うべきであるのに、異議審理庁が行った異議決定は、本件各更正処分では争いがなかった請求人の不動産所得の金額を推計し、そのことによって原処分を適法であると結論づけた。
ニ 異議審理手続について
(イ) 異議申立てに係る審理は、更正処分においてその理由とした事項又は不服申立人が不服理由とした事項に限定されるものではなく、その課税標準等又は税額の計算の基礎となるあらゆる事項について行うものであるから、更正処分の段階において確認されなかった事実等についても審理し、その理由に基づいて処分の適否の判断ができると解されている。
 したがって、請求人の異議申立てに係る調査(以下「本件異議調査」という。)は、課税標準等全体について審理し、その結果、本件賃貸料を、請求人の不動産所得に係る総収入金額として異議決定を行ったものである。
(ロ) 原処分庁が、異議申立てに係る審理について主張する「更正処分の段階において確認されなかった事実等についても審理し、その理由に基づいて処分の適否の判断ができると解されているところ」という表現は、当該解釈が原則ではなく、例外であり、争いがあることを示している。このような例外が認められることになれば、納税者が異議申立てを行うことを躊躇することにつながり、一事不再理の原則にも反している。 (ロ) 上記(イ)のとおり、異議申立てに係る審理は、更正処分の段階で確認できなかった事実等についても審理し、その理由に基づいて処分の適否の判断ができると解されている。
 したがって、例外として解釈したものではない。

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(2) 争点2(本件各年分の事業所得の金額の計算において、推計の方法による課税の必要性が認められるか否か。)について

原処分庁 請求人
 本件調査担当職員が、請求人に対し、再三、本件調査に関係のない第三者の立会いのないところで、帳簿書類を提示して本件調査に応じるよう求めたにもかかわらず、請求人が応じなかったことから、やむを得ず、請求人の取引先等を調査し、推計の方法により課税した。  請求人は書類提示の準備をしていたにもかかわらず、本件調査担当職員は、第三者の立会いがあることを理由に実地での帳簿調査を行わず、請求人の取引先等を調査し、推計の方法により課税したことは、不当である。

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(3) 争点3(本件各年分の事業所得の金額の計算についての推計の方法に合理性があるか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 原処分庁が、請求人と業種、業態が類似する同規模程度の事業を営む青色申告者の特前所得率(総収入金額に対する青色申告者のみに認められている青色事業専従者給与等の特典を控除する前の所得金額の割合をいう。)の平均値(以下「平均特前所得率」という。)を算出するのに抽出した同業者(以下「本件同業者」という。)は、次の(イ)ないし(ハ)のとおり合理的に抽出されている。
 したがって、本件同業者により算出した平均特前所得率(以下「本件所得率」という。)が、結果的に年分によって大きく異なっていたとしても、本件所得率には合理性がある。
イ 本件所得率は、年分によって大きく異なっており、合理性を欠いている。
(イ) 本件同業者は、請求人と業種、業態及び事業内容において類似性を有し、かつ、総収入金額が請求人の0.5倍以上2倍以内であるなど事業規模の点においても類似性を有する青色申告による所得税の確定申告書を提出した者である。 (イ) 請求人が報酬を得ていたH社は、歩合が売上金額の○〜○%と、ほかの家庭用医療機器販売会社の歩合○〜○%より極端に少ない上に、販売促進用景品の購入費や体験発表会などの会場借上げ費を負担させられるなど、他社の販売代理業者より経費が多くかかることから、平均特前所得率を算定するための同業者は、業種、業態及び事業規模が類似していても、H社の販売代理業者でなければ、平均特前所得率が大きく異なる。
(ロ) 本件同業者の抽出は、無作為かつ機械的に行われているものであり、恣意の介入する余地はない。 (ロ) 本件同業者の抽出方法が開示されておらず、本当に恣意の介入する余地がないのか不明である。
(ハ) 本件各更正処分で平均特前所得率を算出するのに抽出した同業者(以下「更正処分同業者」という。)及び本件同業者は、共に、業種、業態が同一であること、事業所が近接していること、事業規模が近似していること、個人の事業者であること、青色申告者で年の途中の開廃業等がないことなどを選定基準として、無作為かつ機械的に抽出しており、恣意の介入の余地のない状況の下で抽出したものであり、また、更正処分同業者の数も2者程度ではなく、選定方法には合理性がある。 (ハ) 更正処分同業者の数を明らかにしても、更正処分同業者の利益を害するおそれはない。仮にその数が極端に少なく2者程度であれば、営業条件等の差異がその平均値に吸収され、捨象されるとはいえない。
 また、異議決定時に新たに同業者6者を抽出し、請求人の事業所得の金額を所得税法第156条の規定により推計していることからも、異議審理庁であり原処分庁であるG税務署長が原処分に合理性がないことを自ら認めている。
ロ 上記イのとおり、推計の方法による所得金額の算定には合理性があるが、本件同業者が販売する家庭用医療器具の会社名などを含め、本件同業者の具体的な内容を明らかにすると本件同業者が特定され、本件同業者の利益を害するおそれがあり、また、原処分庁には守秘義務が課されていることから、具体的な内容を明らかにすることはできない。  上記イのとおり、原処分庁は、本件同業者が販売する家庭用医療機器の会社名、根拠となった資料、本件同業者の抽出方法及び更正処分同業者の数を開示すべきである。

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(4) 争点4(本件賃貸料は、請求人に帰属するか否か。)について

原処分庁 請求人
 資産から生ずる収益の帰属については、所得税法第12条に規定されているところ、同条の規定の適用上、資産から生ずる収益を享受する者が誰であるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者が誰であるかにより判断すべきものと解されるが、資産の真実の権利者が誰であるかが明らかでない場合には、所得税基本通達12-1《資産から生ずる収益を享受する者の判定》において、その資産の名義人が真実の権利者であるものと推定すると定められており、当該通達は、所得税法第12条の規定の趣旨に則ったもので、相当であると認められる。
 不動産の賃貸料収入は、当該不動産の所有権者に必ず帰属するということはないが、本件共有賃貸料は、所得税法第12条の規定及び次の理由から、その基因となる本件共有物件の真実の所有権の権利者に帰属することになる。
 本件の場合、請求人及びJは、本件共有物件を各々2分の1の持分割合により所有し、賃貸していたが、本件共有賃貸料の全てをJが本件各年分の不動産所得として申告していた。そこで、本件共有物件の真実の所有権の権利者を明らかにするために、本件異議調査を実施した結果、次のイないしハの理由から、本件共有物件の真実の所有権の権利者が誰であるか明らかでなかったため、所得税基本通達12-1を適用し、本件請求人持分については、請求人が真実の所有権の権利者であったと推定し、本件賃貸料は、請求人に帰属すると認定した。
イ 次の理由から、本件各年分において、請求人は本件請求人持分についての真実の所有者であった。
(イ) 本件共有物件の所有権の登記名義人は、所有権移転登記後から異動がなく、請求人及びJであり、その持分は各々2分の1である。
(ロ) 本件共有物件の一つであるMについては、賃貸借建物管理業務委託契約及び建築工事請負契約を請求人及びJが相手方と契約したものであり、それぞれの意思で直接、当該契約を交わしたことが認められる。
ロ 本件共有賃貸料は、一旦、J名義のP信託銀行d支店の普通預金口座(以下「本件口座」という。)に入金されたものの、本件口座から請求人名義のP信託銀行d支店の普通預金口座(以下「請求人口座」という。)に多額の金員が振り替えられ、本件賃貸料の全額をJが享受していたものではない。
ハ 本件異議調査を担当した職員(以下「本件異議調査担当職員」という。)は、本件口座に関することなどを含め、本件共有物件の真実の所有権の権利者が誰であるかについて、質問調査などにより事実関係を確認するために、請求人に対し、第三者の立会いのないところで本件異議調査に応じるよう求めたにもかかわらず、請求人は、本件異議調査担当職員の求めに応じなかったため、本件共有物件の賃貸借契約上の賃貸人等を確認することができなかった。
 本件共有賃貸料については、本件共有物件の管理を委託しているQ社及びR社(以下、Q社と併せて「本件各管理会社」という。)から、その全額が本件口座に振り込まれ、当該金額をJが自らの不動産所得に係る総収入金額として所得税の確定申告をした。
 また、本件口座の入出金及び本件共有物件の管理は、Jが行っており、請求人は、本件賃貸料を得ていない。
 上記のとおり、本件賃貸料は、請求人に帰属するものではない。

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4 判断

(1) 争点1(本件各更正処分の手続等に原処分を取り消すべき違法又は不当な事由があるか否か。)について

イ 法令解釈
 所得税法第234条に規定された質問検査権を行使するに当たり、質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において、社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な判断に委ねられていると解される。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 平成24年8月27日、本件調査担当職員は、請求人に対する所得税並びに消費税及び地方消費税(以下、これらを併せて「所得税等」という。)の調査である本件調査のため請求人の自宅に臨場したところ、請求人は不在で、応対したJも出掛けるところであったため、本件調査についての話をすることができなかったことから、同日に、所得税等の確定申告について尋ねたいことがあること及び同年9月5日に再度伺う旨を記載した「お願い」と題する連絡文書を、請求人の自宅宛に郵送した。
(ロ) 平成24年8月29日、請求人から電話連絡があった時に本件調査担当職員は不在であったため、翌日改めて、本件調査担当職員は請求人に電話で、本件調査を行う旨説明した上で、同年9月5日に請求人の事業所に臨場することを取り決めた。
(ハ) 平成24年8月31日に請求人から電話で、同年9月5日に仕事の用件が入ったので日程を変更して欲しい旨の申出があったことから、本件調査担当職員は請求人に早期の日程調整の依頼をしたところ、同月6日に請求人から電話連絡があり、本件調査担当職員は、請求人と、臨場する日を同月11日にすることを取り決めた。
(ニ) 平成24年9月11日、本件調査担当職員が請求人の事業所へ臨場したところ、税理士資格のない第三者4名が同席していた。
 本件調査担当職員は、請求人に対し、繰り返し、税理士資格のない第三者の立会いの下で調査を行うと本件調査担当職員が守秘義務違反に問われるおそれがあることを説明し、第三者の立会いのないところで本件調査に協力するよう求めたが、請求人がこれに応じなかったため、本件調査担当職員は、本件調査を進めることができないと判断し、請求人の事業所を辞去した。
(ホ) その後、本件調査担当職員は、平成24年9月18日、同月28日及び同年10月4日に、請求人の事業所に臨場したが、いずれの日も税理士資格のない第三者が同席していたことから、本件調査担当職員は、請求人に対して、上記(ニ)と同様に複数回にわたり第三者の立会いの下では調査ができないことを説明し、第三者の立会いのないところで本件調査に協力するよう求めたが、請求人はこれに応じなかったため、本件調査担当職員は、本件調査を進めることができなかった。
(ヘ) 上記(ホ)のとおり、本件調査担当職員は、本件調査を進めることができなかったため、平成24年10月9日から請求人の取引先等を調査することとした。
 なお、本件調査担当職員は、その後も面接又は電話により再三にわたり本件調査への協力を求めたが、請求人は、これに応じなかった。
ハ 当てはめ
(イ) 本件各更正処分の手続について
A 調査日時の事前通知について
 平成25年1月1日より前から引き続き行われた本件調査において、事前通知自体は、法律上の要件とされているものではなく、上記イのとおり、税務調査における質問検査権の行使の時期、範囲、程度、方法、手段等については、これを行使する税務職員の合理的な判断に委ねられていると解するのが相当であるところ、当審判所の調査の結果によれば、本件調査に当たり本件調査担当職員が事前通知をしなかったことに格別これを不相当とするような事由は認められず、また、質問検査権の行使の時期等についての本件調査担当職員の判断にも合理的な裁量の範囲を逸脱するような違法があったとは認められない。
B 第三者の立会いについて
 第三者の立会いを認めなければならない旨を定めた法令上の規定はなく、上記イのとおり、質問検査権に基づく税務調査に際し、第三者を立ち会わせるか否かについては、調査権限を有する税務職員の合理的な判断に委ねられていると解するのが相当である。
 当審判所の調査の結果によれば、本件調査担当職員が法律上守秘義務を負わない第三者の立会いを認めなかった理由は、請求人及びその取引先等の営業に関する事項の秘密を守るためなどの配慮からの判断であると認められ、この判断は合理的なものと認められるから、本件調査担当職員が第三者の立会いを認めないで本件調査を行ったことに違法又は不当な点はない。
C 取引先等に対する調査
 上記ロの(ニ)ないし(ヘ)によれば、本件調査担当職員は、請求人に対し、税理士資格のない第三者の立会いの下で調査を行うと守秘義務違反に問われるおそれがあることを説明した上で、第三者の立会いのないところでの本件調査への協力を再三要請したにもかかわらず、請求人は、これに応じなかったことから、本件調査担当職員は、やむを得ず取引先等を調査する必要があると判断したものと認めるのが相当であり、このような経緯からすると、本件調査担当職員が取引先等を調査したことにつき、本件調査担当職員に合理的な裁量の範囲を逸脱するような違法があったとは認められない。
D まとめ
 以上のことから、本件調査担当職員による質問検査権の行使は、質問検査の必要性があり、かつ、これと相手方の私的利益の衡量において社会通念上相当な限度にとどまっているものと認められ、本件各更正処分の手続に原処分を取り消すべき違法又は不当な事由はない。
E 請求人の主張について
 請求人は、まる1本件調査は改正通則法の施行前に開始されたとはいえ、改正通則法の定める事前通知をしない場合に該当しない請求人に対し、本件調査担当職員が事前通知を行わなかったことは裁量の範囲を逸脱しており、また、日本国憲法第31条の規定に違反するとともに、税務運営方針にも違反する、まる2請求人の依頼した第三者の立会いを認めないことは、同法第13条及び第31条に違反し、違法又は不当である旨主張する。
 しかしながら、本件調査の開始時には、改正通則法は施行されておらず、また、税務運営方針は、納税者の自主的な理解、協力を得て円滑な税務行政を遂行しようとする観点から、国税内部における税務調査を含む事務運営の基本方針を示したものであって、税務調査における手続の細目などを一律に定めたものではないから、その記載内容を根拠として具体的な調査が直ちに違法又は不当となるものではない。したがって、この点についての請求人の主張は採用できない。
 なお、本件調査担当職員が事前通知を行わなかったこと及び請求人の依頼した第三者の立会いを認めなかったことが、日本国憲法に違反しているかどうかについては、憲法違反の判断は当審判所の権限外のことであるので、審理の限りではない。
(ロ) 異議審理手続について
 審査請求の対象は原処分であり、裁決は、原処分が違法又は不当であるときにこれを取り消すものであるところ、異議申立ての審理・判断に仮に瑕疵があったとしても、それは原処分に対する不服申立手続において生じた原処分後の事情であって、そのことによって原処分それ自体が違法又は不当となることはないから、原処分を取り消す理由とはなり得ない。
 なお、請求人は、異議決定で不動産所得の金額を新たに算定し、総所得金額が本件各更正処分を上回るから原処分は適法であるとしているのは不当である旨主張するが、本件各更正処分は、行政手続法第14条に規定する理由の提示に欠けるところはなく、また、原処分庁が本件各更正処分の理由と異なる理由を審査請求で主張することにつき、これを制限する法令はなく、そして審判所がこれを審理することは、当事者の主張(争点)を審理の対象とするものであるから、争点主義的運営にも反するものではなく、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件各年分の事業所得の金額の計算において、推計の方法による課税の必要性が認められるか否か。)について

イ 法令解釈
 所得税法第156条は、所得の金額を推計して更正又は決定することを認めているところ、これは、納税者の帳簿書類等によってその所得金額を把握することができない場合に、課税を放棄することは租税の公平負担の見地から許されないため、課税庁が入手した、又は容易に入手し得る推計のための基礎事実及び統計資料等の間接的な資料を用いて、所得金額を推計し、これをもって課税することを是認する趣旨と解される。
 このため、推計課税は、まる1納税義務者が帳簿書類等を備え付けていない場合、まる2帳簿書類等を備え付けてはいるが、その内容が不正確で信頼性に乏しい場合、まる3納税者が調査に協力しない場合などに許されると解される。
ロ 当てはめ
 上記(1)のロの(ニ)ないし(ヘ)によれば、本件調査担当職員は、請求人に対して、面接又は電話により繰り返し、税理士資格のない第三者の立会いのない状態で本件調査に応じるよう求めたにもかかわらず、請求人は、これに応じず、本件調査担当職員が調査できる状況で帳簿書類等を提示することはなかったということが認められ、これは、上記イのまる3納税者が調査に協力しない場合に当たり、推計の方法による課税の必要性があったと認められる。
 また、当審判所においても、請求人から、具体的な証拠を示しての所得金額の主張はなされておらず、請求人の本件各年分の事業所得の金額を実額計算の方法で算定することができない。

(3) 争点3(本件各年分の事業所得の金額の計算についての推計の方法に合理性があるか否か。)について

イ 推計の方法の合理性
 原処分庁は、本件調査により把握した本件各年分の事業所得に係る総収入金額に、本件所得率を乗ずるという推計の方法により本件各年分の事業所得の金額を算定しているところ、業種、業態及び規模等において類似性がある同業者にあっては、特段の事情のない限り、経験則上、同程度の収入からは同程度の所得が得られるものであり、そして、各同業者間に通常存する程度の営業条件の差異については、各同業者の比率からその平均値を算定する過程において捨象されるものと認められることから、原処分庁が採用した上記の推計方法は、本件同業者に類似性が認められ、かつ、その基礎数値が正確なものである限り、合理性を有するものと認めるのが相当である。
ロ したがって、基礎数値の正確性及び本件同業者の類似性について検討する。
(イ) 本件各年分に係る事業所得の総収入金額
 原処分庁は、本件調査に基づき、本件各年分に係る事業所得の総収入金額について、いずれも請求人の確定申告による総収入金額と同額の平成21年分○○○○円、平成22年分○○○○円と主張するところ、当審判所の調査の結果によっても相当と認められる。
(ロ) 本件同業者の類似性及び本件所得率の算定の合理性
A 本件同業者の抽出条件及び方法
 当審判所の調査の結果によれば、原処分庁は、f内の個人の納税者で、本件各年分において商品販売外交を営む者の中から、青色申告書により所得税の確定申告書を提出していること、年間を通じて事業を営んでいること、総収入金額が請求人のそれの0.5倍以上2倍以内であること、仕入金額がないこと、取扱商品が請求人のそれと類似している医療機器であることという条件全てに該当する者を機械的に抽出し、別表4のとおり、本件同業者を本件各年分ともに6者抽出したことが認められる。
B 本件同業者の類似性について
 上記Aの本件同業者の抽出条件は、まる1業種及び業態の同一性については、より請求人と近似性の高い同業者を抽出するために、取扱商品が請求人のそれと類似している医療機器であり、仕入金額のないことを条件に加えていること、まる2事業所の近接性については、業種及び業態の近似性をより高めた結果、G税務署管内における同業者数が少数であり、各同業者の個別性を平均化するに足りる程度の業者を抽出するため、納税地をf内としていること、まる3事業規模の近似性については、事業規模の類似する同業者を抽出するための基準として優れた合理性を有するものとされている倍半基準を採用していることから、請求人との類似性を判別する要件として合理性を有するものであり、また、その選定過程も適切なものであり、本件同業者に請求人と異なる特段の事情はないことから、本件同業者と請求人の間には類似性があると認められる。
 なお、請求人は、本件同業者がH社の販売代理業者でなければ、請求人との類似性はない旨主張するが、請求人がH社の販売代理業者特有の事情だと主張する事項は、推計自体を不合理ならしめる程度の特殊事情とは認められず、請求人の主張には理由がない。
C 本件所得率の算定の合理性について
 本件所得率の算定に使用した資料は、いずれも帳簿書類の整っている青色申告者の決算書であって、その信頼性ないし正確性は高いものであり、さらに6者という件数も、各同業者の個別性を平均化するに足りるものということができるため、本件所得率の算定には合理性があると認めるのが相当である。
 なお、本件各年分の本件所得率について、原処分庁が主張する別表4の「まる3特前所得率」の「原処分庁主張額」の「平均」欄の平成21年分54.89%及び平成22年分58.53%は端数処理において適当でなく、同表の「まる3特前所得率」の「審判所認定額」の「平均」欄の平成21年分54.91%及び平成22年分58.54%(以下、これらを併せて「改定本件所得率」という。)を適用すべきである。
 ところで、請求人は、本件所得率が年分によって大きく異なっていることを理由に本件所得率が合理性を欠いており、異議審理庁が異議決定時に新たに同業者6者を抽出し請求人の事業所得の金額を推計していることから原処分庁は原処分に合理性がないことを自ら認めていると主張しているが、上記のとおり、本件各年分の本件所得率の算定の方法には合理性があると認められることから、算定された本件所得率が年分によって大きく異なっていても、このことをもって原処分に合理性がないというのは相当ではない。
ハ 請求人の主張について
 請求人は、本件所得率が合理性を欠いているから、本件同業者が販売する家庭用医療機器の会社名、根拠となった資料、本件同業者の抽出方法及び更正処分同業者の数を開示すべきである旨主張するが、上記イ及びロのとおり、算定された本件所得率には合理性があると認められ、また、本件同業者の当該事項を明らかにすることは本件同業者の利益を害するおそれがある上、原処分庁には守秘義務が課せられていることを考慮すると、原処分庁が当該事項を明らかにしないことは相当であるから、請求人の主張には理由がない。

(4) 争点4(本件賃貸料は、請求人に帰属するか否か。)について

イ 法令解釈
 所得税法第12条は、上記1の(3)のイのとおり規定するところ、資産から生ずる収益が誰に帰属するかは、法律上の真実の権利者が実質的にも収益の帰属者であるとの考え方に立ち、法律上の形式がその法的実質と異なる場合にはその実質に即して収益の帰属を判断すべきであることを明らかにしたものである。そして、賃貸料収入は賃貸借契約の賃貸人に法律上帰属するものであるから、賃貸料収入の帰属は、賃貸借契約の真実の賃貸人が誰であるかによって判断すべきものと解するのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 平成16年3月27日付の(仮称)S○棟(M)の賃貸借建物管理業務委託契約書によれば、請求人及びJは、連名により管理委託者として、管理受託者であるQ社と当該建物の管理業務に係る契約を締結した。
 なお、当該管理業務の内容として、入居者の募集や賃貸借契約の締結も含まれていた。
(ロ) 平成17年12月1日付のN、平成18年3月2日付のL及び平成18年12月28日付のKの賃貸借管理業務委任契約書によれば、請求人及びJは、連名により貸管理業務委任者として、賃貸管理業務受託者であるR社と当該建物の賃貸管理業務に係る契約を締結した。
 なお、当該賃貸管理業務の内容として、入居者の募集や賃貸借契約の締結も含まれていた。
(ハ) Mの入居者との建物賃貸借契約書によれば、Q社は、家主代理として、入居者と当該建物の各室の賃貸借に係る契約を締結した。
(ニ) N、L及びKの入居者との建物賃貸借契約書によれば、R社は、家主代理として、入居者と当該建物の各室の賃貸借に係る契約を締結した。
(ホ) Jは、本件各年分の所得税の確定申告書に、いずれも本件共有賃貸料全てを不動産所得の総収入金額に含めて法定申告期限内に申告した。
(ヘ) 本件共有賃貸料は、その全額が、本件各管理会社から、本件口座に振り込まれた。
 また、本件口座から請求人口座に、平成21年4月20日に8,000,000円及び平成22年12月22日に2,861,426円が振り替えられた。
ハ 当てはめ
(イ) 本件賃貸料の帰属について
A 本件共有物件の実質的な賃貸人について
 上記ロの(イ)及び(ロ)のとおり、請求人はJとともに、本件各管理会社と本件共有物件の管理業務に係る契約を行い、その業務の中には、入居者との賃貸借契約業務も含まれていたことから、同(ハ)及び(ニ)のとおり、入居者との建物賃貸借契約を本件各管理会社が行っていたとしても、本件共有物件の実質的な賃貸人は、請求人とJであったと認められる。
B 請求人が本件賃貸料を享受していたか否かについて
(A) 請求人は、次の理由から、所得税法第12条に規定される「収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず」に請求人が該当し、同条に規定される「その者以外の者がその収益を享受する」にJが該当するから、本件賃貸料は、請求人に帰属しない旨主張する。
a 上記ロの(ホ)のとおり、Jが本件賃貸料を自らの不動産所得に係る総収入金額として確定申告をし、一方、請求人は、本件賃貸料を不動産所得に係る総収入金額に含めずに確定申告した。
b 上記ロの(ヘ)のとおり、本件共有賃貸料の全額が本件口座に振り込まれた。
(B) しかしながら、次のことから、請求人が本件賃貸料を享受していなかったとは認められない。
a 上記ロの(ヘ)のとおり、本件口座から請求人口座に金員が振り替えられた。
b 本件各年分において、請求人とJは、夫婦であり、請求人の住所において同居していたことから、生計を一にしていたと認めるのが相当であり、そうすると、本件各管理会社から、本件賃貸料を含む本件共有賃貸料が、本件口座に振り込まれ、それをJが管理していたとしても、請求人とJは生計を一にする夫婦であることから、そのことが、請求人が本件賃貸料を享受していなかったことを示す事実とは考えられない。
C 上記1の(4)のハのとおり、請求人は、本件請求人持分の所有権を有しており、上記Aのとおり、請求人は本件共有物件の賃貸人でもあると認められ、上記Bの(B)のとおり、請求人は本件賃貸料を享受していなかったとは認められないことからすると、法律上の形式がその法的実質と異なるとはいえず、法律上の真実の権利者が実質的にも収益の帰属者であるから、本件賃貸料は請求人に帰属すると判断することが相当である。
(ロ) 不動産所得の金額の算定について
 原処分庁は、請求人の本件各年分の不動産所得の金額を実額計算の方法で算定することができないことから、請求人の不動産所得の金額を、推計の方法により算定しているところ、上記(2)と同様に、本件各年分の不動産所得の金額の計算においても、推計の方法による課税の必要性があったと認められる。
 また、当審判所においても、請求人から、具体的な証拠を示しての所得金額の主張はなされておらず、請求人の本件各年分の不動産所得の金額を実額計算の方法で算定することができない。そこで、以下、推計の方法の合理性について検討する。
A 推計の方法の合理性
 原処分庁は、本件調査及び本件異議調査により把握した本件各年分の不動産所得に係る総収入金額に、請求人と業種、業態が類似する同規模程度の不動産貸付業を営む青色申告者の特前所得率の平均値(以下「不動産所得率」という。)を乗ずるという推計の方法により本件各年分の不動産所得の金額を算定しているところ、上記(3)のイと同様に、不動産所得率を算出するのに抽出した同業者(以下「不動産同業者」という。)に類似性が認められ、かつ、その基礎数値が正確なものである限り、原処分庁が採用した上記の推計方法は、合理性を有するものと認めるのが相当である。
B したがって、基礎数値の正確性及び不動産同業者の類似性について検討する。
(A) 本件各年分における不動産所得の総収入金額
 原処分庁は、本件調査及び本件異議調査に基づき、請求人の本件各年分に係る不動産所得の総収入金額について、平成21年分○○○○円、平成22年分○○○○円と主張しているところ、当審判所の調査によっても相当と認められる。
(B) 不動産同業者の類似性及び不動産所得率の算定の合理性
a 不動産同業者の抽出条件及び方法
 当審判所の調査の結果によれば、原処分庁は、本件各年分においてG税務署管内に居住し、d市内に居住用の貸付物件を所有し、当該物件の貸付業を営む個人の中から、青色申告書により所得税の確定申告書を提出していること、賃貸料収入金額が請求人のそれの0.5倍以上2倍以下であること、土地の貸付けがないこと、貸付物件である建物が複数であること、貸付物件の構造が木造であること、委託管理費があることという条件全てに該当する者を機械的に抽出したことが認められる。
 そして、原処分庁は、不動産同業者として、平成21年分11者及び平成22年分13者を抽出し、その結果、これらの不動産同業者の不動産所得率は、別表5の「まる3特前所得率」の「平均」欄の平成21年分は30.07%及び平成22年分は31.95%であると主張する。
 上記の原処分庁が採用した抽出条件は、業種及び業態の同一性、貸付物件所在地の近接性、事業規模の近似性等からして、請求人との類似性を判別する要件として合理性を有し、また、その抽出過程も適切なものであり、不動産同業者に請求人と異なる特段の事情はないことから、不動産同業者と請求人の間には類似性があると認められ、この条件による抽出は、不動産同業者の抽出方法として合理性があるということができる。
b 不動産所得率の算定について
 ところで、当審判所において、上記aの抽出条件により抽出されるべき同業者を検討したところ、平成21年分については、原処分庁が抽出した不動産同業者のほかに同業者として抽出すべき者が2者認められ、また、本件各年分について、抽出すべきでないd市外に貸付物件を所有している者が各1者抽出されていたことが認められることから、これらの者を追加又は除外して算出される不動産所得率は、別表6の「まる3特前所得率」の「平均」欄の平成21年分は33.14%及び平成22年分は32.35%(以下、これらを併せて「改定不動産所得率」という。)となる。

(5) 本件各更正処分について

 本件各年分の雑所得の金額及び平成21年分の一時所得の金額が別表7の「雑所得の金額」欄及び「一時所得の金額」欄のとおりであることについては、当審判所の調査の結果によっても相当であると認められる。
イ 平成21年分の所得税の更正処分について
(イ) 事業所得の金額
 請求人の事業所得の金額は、上記(3)のロの(イ)の事業所得の総収入金額○○○○円に、同(ロ)のCの平成21年分の改定本件所得率54.91%を乗じた金額○○○○円から事業専従者控除額860,000円を控除した金額であり、別表7の「平成21年分」の「事業所得の金額」欄のとおり○○○○円となる。
(ロ) 不動産所得の金額
 請求人の不動産所得の金額は、上記(4)のハの(ロ)のBの(A)の不動産所得の総収入金額○○○○円に、同(B)のbの平成21年分の改定不動産所得率33.14%を乗じた金額であり、別表7の「平成21年分」の「不動産所得の金額」欄のとおり○○○○円となる。
(ハ) 総所得金額
 請求人の総所得金額は、別表7の「平成21年分」の「総所得金額」欄のとおり○○○○円となり、更正処分の総所得金額○○○○円を上回る。そして、請求人の還付金の額に相当する税額は当該更正処分の金額を下回るから、当該更正処分は適法である。
ロ 平成22年分の所得税の更正処分について
(イ) 事業所得の金額
 請求人の事業所得の金額は、上記(3)のロの(イ)の事業所得の総収入金額○○○○円に、同(ロ)のCの平成22年分の改定本件所得率58.54%を乗じた金額○○○○円から事業専従者控除額860,000円を控除した金額であり、別表7の「平成22年分」の「事業所得の金額」欄のとおり○○○○円となる。
(ロ) 不動産所得の金額
 請求人の不動産所得の金額は、上記(4)のハの(ロ)のBの(A)の不動産所得の総収入金額○○○○円に、同(B)のbの平成22年分の改定不動産所得率32.35%を乗じた金額であり、別表7の「平成22年分」の「不動産所得の金額」欄のとおり○○○○円となる。
(ハ) 総所得金額
 請求人の総所得金額は、別表7の「平成22年分」の「総所得金額」欄のとおり○○○○円となり、更正処分の総所得金額○○○○円を上回る。そして、請求人の還付金の額に相当する税額は当該更正処分の金額を下回るから、当該更正処分は適法である。

(6) 本件各賦課決定処分について

 本件各更正処分は、上記(5)のとおり、いずれも適法であり、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、原処分庁が同条第1項の規定に基づいてした本件各賦課決定処分は、いずれも適法である。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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