別紙6

当事者双方の主張

1 調査手続に違法があるか否か(争点1)。

請求人 原処分庁
 原処分に係る調査手続は、次のとおり違法に行われているから、原処分は取り消されるべきである。  原処分に係る調査手続は、次のとおり適法に行われているから、何ら違法な点はない。
イ 原処分に係る調査担当職員(以下、この別紙内において「本件調査担当職員」という。)から請求人が作成した収支合計表のデータと経費に関する各領収書を突き合わせて収支の確認をしたいという趣旨の申出があったので、請求人は私費も含まれているのでコピーを取らないという条件を付けて各領収書を預けた。また、本件調査担当職員から「コピーを取らないという約束は必ず守る。」という言質を受けた。ところが、本件調査担当職員は請求人をだまし、提示した各領収書のコピーを取っていたから、これは違法な税務調査である。
 原処分庁は、上記各領収書をコピーした行為は証拠の保全行為である旨の主張をするが、請求人は、本件調査担当職員が上記各領収書のコピーを取らないという条件の下に、求められる全ての書類を提出し、協力したのであり、このような状況下において、本件調査担当職員が証拠保全を行わなければならない必要性などない。
イ 原処分に係る調査の際に、請求人から本件調査担当職員に対して提示された各領収書に関し、その提示に当たって、請求人と本件調査担当職員の間にその写しを取らないという取決めの存在を確認することはできない。
 そして、上記各領収書は、本件調査担当職員が、所得税法第234条の質問検査権の行使の一環として、請求人に対して提示を求め、請求人から提示を受けたものであることからすると、本件調査担当職員の証拠収集行為に何ら違法な点は認められない。
 なお、仮に請求人と本件調査担当職員の間に上記各領収書の写しを取らないというような取決めがあったとしても、提示を受けた当該各領収書の写しを取った行為は、本件調査担当職員の合理的な選択によって、証拠の保全行為としてされた行為であって、それが刑罰法規に触れたり、公序良俗に反する等およそ税務調査を行ったといえないと評価されるほど違法性の程度が著しい場合とは認められないから課税処分の取消事由にはならない。
ロ 原処分庁所属の各担当職員は、異議決定書等を郵送すると約束したにもかかわらず、いきなり自宅へ押し掛けてきて書類を交付送達しようとしたり、異議申立てに係る調査において必要のない税務調査をして嫌がらせをしたり、請求人が質問検査章を提示することを求めたにもかかわらず押し問答の末きちんと提示しないことなどがあり、本件の税務調査は、これら個別的な事案が積み重なった違法な税務調査である。 ロ 国税通則法第76条《不服申立てができない処分》は、異議決定について、不服申立てをすることはできない旨規定しており、原処分庁が行った異議決定の手続は、審査請求の対象となるものではない。

2 更正の理由の提示に不備があるか否か(争点2)。

原処分庁 請求人
 原処分庁が、請求人に対し、平成25年3月13日付で行った平成21年分、平成22年分及び平成23年分の所得税の各更正処分に係る各更正通知書(以下、この別紙内において「本件各通知書」という。)の「処分の理由」欄には、まる1請求人が、本件報酬金額を事業所得の金額として申告したこと、まる2本件業務に関して、営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無、自己の危険と計算における事業遂行性の有無、精神的・肉体的労力の程度、使用人の雇用・物的設備の有無及び職歴・社会的地位・生活状況の各項目について、それぞれ検討し、その結果を総合勘案した結果、本件業務は、事業所得を生ずべき事業に該当せず、雑所得に該当すると認められること、及びまる3請求人が必要経費に算入した金額のうち、その主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる支出金額以外の金額は、その必要である部分を明らかに区分することができないことから、所得税法第45条第1項第1号に規定する家事関連費等に該当し、当該金額は、雑所得の金額の計算上必要経費に算入できない旨記載されている。
 当該記載内容からすれば、本件各通知書に記載された処分の理由は、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与えるという行政手続法第14条第1項本文の法の趣旨が求める程度に記載されていると認められるから、更正の理由の提示に不備はない。
イ 本件各通知書に記載された処分の理由は、担当者の主観を記載したものであって、かつ、具体的でないから理由とはならない。
 不利益処分に理由付記が要求されるのは、判例では、「異議決定庁、審査裁決庁の判断の慎重、公正を期し、その恣意を抑制するとともに、決定、裁決の理由を明示することによって不服申立人に原処分に対する不服申立てないしは取消訴訟の提起に関して判断資料を与える趣旨」(最高裁判所昭和49年7月19日第二小法廷判決・民集28巻5号759頁参照)と述べる。また、その付記に求められる理由の程度は、「請求人の不服の事由に対応してその結論に到達した過程を明らかにしなければならない。」(最高裁判所昭和37年12月26日第二小法廷判決・民集16巻12号2557頁参照)と述べる。
 したがって、原処分庁が記載した処分の理由は到底、上記昭和37年最高裁判所判決にいう説明責任を果たすものではない。本件各通知書に記載された処分の理由は、説明責任レベルとは真逆の根拠不明確なものであり、請求人の不服事由にも応答していない。
ロ 一級建築士に対する免許取消処分の理由の提示の適否が争われた事例で、最高裁判所平成23年6月7日第三小法廷判決(民集65巻4号2081頁参照)は、「処分に際して同時に示されるべき理由としては、処分の原因となる事実及び処分の根拠法条に加えて、本件処分基準の適用関係が示されなければ、処分の名宛人において、上記事実及び根拠法条の提示によって処分要件の該当性に係る理由は知り得るとしても、いかなる理由に基づいてどのような処分基準の適用によって当該処分が選択されたのかを知ることは困難であるのが通例である」と判示し、「処分基準の適用関係」について、「処分の原因となる事実」及び「処分の根拠法条」との相関関係における解釈を求めている。
 本件においては、原処分庁は、本件各通知書の「処分の理由」欄において、「処分の原因となる事実」は記載しているが、「処分の根拠法条」の代わりに、原処分庁独自の「根拠不明の要件」を記載し、「処分基準の適用関係」に関しては一切触れていない。
 したがって、行政手続法第14条第1項で求められている処分要件である「処分の根拠法条」及び「処分基準の適用関係」が、本件では欠如しているから、更正の理由の提示には不備がある。

3 本件業務は、所得税法第27条第1項に規定する事業に該当するか否か(争点3)。

原処分庁 請求人
 本件業務は、次のとおり所得税法第27条第1項に規定する事業に該当しない。  本件業務は、次のとおり所得税法第27条第1項に規定する事業に該当する。
イ 事業所得を生じさせる対価を得て継続的に行う事業とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務を遂行することをいうものと解され、また、営利を目的として継続的に行われる事業であるというためには、通例、事業所が設置され、人的物的要素が結合した経済的組織体を有し、また、主として本業として営まれるものであって、継続的に相当程度安定した収益が得られる可能性があることが必要である。
イ 所得税法上の事業とは、個人が事業を行う目的で活動し、その目的を達成する意思でその活動を遂行することをいうところ、請求人は著述業を行う目的を持って、その目的を達成する意思で著述業を行っていたのであるから、本件業務は、所得税法施行令第63条第11号に規定する「著述業その他のサービス業」に該当する。
 なお、請求人の主な事業は著述業であるが、付随業務である講演活動なども事業に含まれる。
ロ 本件業務は、以下で述べることからすれば、営利を目的として継続的に行われる事業であるということはできず、事業所得を生じさせる対価を得て継続的に行う事業に当たるものとは認められない。 ロ 原処分庁は、本件業務が事業に当たるか否かについて、収支が赤字であること、設備の有無及び使用人の有無等で判断しているが、以下で述べるとおり、その判断は原処分庁の主観的な認識である。
(イ) 自己の計算と危険における事業遂行性の有無等について
 請求人は、自らの専門分野についてM大学の准教授として研究を行い、これに基づいて相当額の給与収入を得るとともに、当該研究により得られる知識や経験、研究結果を生かし、本件業務を行っていたと認めるのが相当であり、加えて、本件業務が、主として同大学准教授の肩書を用いてなされていたと認められることからすれば、客観的には、本件業務による収入は、請求人の大学の准教授としての研究業績から派生した副次的な収入金額であると認めるのが相当である。そして、請求人が、給与収入によって生計を賄っていたことは請求人自身が主張において述べていることからすれば、本件業務について自己の計算と危険における事業遂行性は乏しいと認められる。
(イ) 自己の計算と危険における事業遂行性の有無等について
 原処分庁は、本件業務による収入は副次的な収入金額であること及び請求人が給与収入によって生計を賄っていたことにより本件業務の自己の計算と危険における事業遂行性は乏しい旨主張するが、本件業務の企画性が乏しかったという点は赤字という事実で証明がされてはいるものの、ビジネスの現場では本業よりも副次的な収入が多い場合もある上に、収入が多いか少ないかで主たる職業の判断をすることは根拠がないから、原処分庁の当該主張は主観的である。
 なお、本件各通知書の「処分の理由」欄には、請求人の精神的・肉体的労力の程度について、週の大半は、M大学での講義あるいはその準備に費やされていると認められる旨記載されているが、このような断定はできないはずである。
(ロ) 使用人の雇用及び物的設備の有無について
 請求人は、パソコン等の備品を使用して本件業務を行っていたと認められるものの、それ以外の物的設備を有しておらず、その業務の内容からみてその必要性もないこと、また、本件業務のために使用人を雇っていないことから、事業所を設置していると認めるほどの人的・物的設備を有していたとはいえない。
(ロ) 使用人の雇用及び物的設備の有無について
 原処分庁は、請求人がパソコン等の備品を使用して本件業務を行っていたことを認めている。
 また、原処分庁は、請求人は本件業務のために使用人を雇っていない旨主張するが、赤字状況下で人を雇用できないのは普通である。
(ハ) 収益安定性の有無について
 請求人が本件業務に係る所得の金額であるとして確定申告をした金額は、平成21年分がX,XXX,XXX円の損失、平成22年分がX,XXX,XXX円の損失及び平成23年分がX,XXX,XXX円の損失であり、また、原処分後においても、平成21年分がXXX,XXX円、平成22年分がXXX,XXX円及び平成23年分がXXX,XXX円であることからすれば、本件業務は、継続的に相当程度安定した収益が得られる可能性があったと認めることはできない。
(ハ) 収益安定性の有無について
 原処分庁は3年間連続で赤字であることを理由に本件業務は継続的に相当程度安定した収益が得られる可能性がない旨の主張をしているが、数年間赤字だとなぜこのような判断ができるのか、その根拠が不明である。

4 請求人が必要経費である旨主張する各支出の額は、本件業務に係る所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否か(争点4)。

原処分庁 請求人
イ 本件業務から生じる所得の金額の計算上必要経費に算入される金額は、別表4−1の「必要経費」欄のとおりである。 イ 本件業務から生じる所得の金額の計算上必要経費に算入される金額は、別表5−1の「必要経費」欄のとおりである。
ロ 事業所得又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額については、支出した経費が、業務の遂行上直接必要である場合はもちろんのこと、それが家事関連費であっても、その主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分できる場合には、その部分を必要経費に算入することができることとなる。
 この点、本件業務に係るm市からの平成21年分及び平成22年分の収入に係る旅費交通費については、本件業務の業務の遂行上必要なものと認められるものの、その他の部分については、請求人自身、私的なものを認めていながら、業務の遂行上必要な経費であることを裏付ける書類等の保存がないとしてこれらを提示することもなく、その内容について説明もないことからすると、客観的にみて、これらの費用の主たる部分が請求人の業務と直接関係を持ち、かつ、当該業務の遂行上必要なものかどうか判断することができず、また、業務の遂行上直接必要な部分を明らかにすることもできない。
 そうすると、請求人が審査請求において必要経費である旨主張する各支出のうち上記旅費交通費以外の支出については、その主たる部分が本件業務の遂行上必要であると認めることができないから、これを当該所得の計算上必要経費に算入することはできない。
ロ 請求人が必要経費に該当する旨主張する各支出は、それらの領収書などから判断すれば、いずれも本件業務の遂行上必要なものであり、家事費や家事関連費に該当するものはない。
 原処分庁は、上記各支出が家事関連費に該当することを前提に、「業務遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分できない」と主張するが、請求人は、原処分に係る調査などでも業務上の必要性に関して丁寧に説明をし、また、当該調査に必要なものは領収書などを含めて全て提出した。それでも、上記区分が明らかにならないというのは、原処分庁が必要経費を否認するために、上記各支出を家事関連費扱いにしているからである。

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