(平成26年9月1日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、歯科医師業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が母に対して平成4年から複数回にわたって金銭を貸し付けていたところ、原処分庁が、当該貸付金に係る利息は、貸付当初からその履行期に至るまでに生じた利息の全額について、履行期の到来する平成23年分の収入すべき金額であるとして所得税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、平成23年分の収入すべき金額は同年中の期間に対応する利息のみである旨主張して、同処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 平成25年5月28日付でされた平成23年分の所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)についての審査請求(平成25年10月22日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。

(3) 関係法令の要旨

イ 所得税法第35条《雑所得》第1項は、雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう旨規定している。
ロ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定している。
ハ 所得税基本通達(以下「基本通達」という。)36−8《事業所得の総収入金額の収入すべき時期》(7)(以下「本件通達」という。)は、事業所得である金銭の貸付けによる利息でその年に対応するものに係る収入金額の収入すべき時期については、その年の末日(貸付期間の終了する年にあっては、当該期間の終了する日)によるものとし、ただし、利息を天引きして貸し付けたものに係る利息以外の利息について、その者が継続して、その貸付けに係る契約の内容に応じ、基本通達36−5《不動産所得の総収入金額の収入すべき時期》(1)に掲げる日により収入金額に計上している場合には、その掲げる日によるものとする旨定めている。
ニ 基本通達36−14《雑所得の収入金額又は総収入金額の収入すべき時期》(2)は、所得税法第35条第3項に規定する公的年金等以外の雑所得の総収入金額の収入すべき時期については、その収入の態様に応じ、他の所得の収入金額又は総収入金額の収入すべき時期の取扱いに準じて判定した日によるものとする旨定めている。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人及びその母であるDは、平成3年頃、Dが請求人の弟であるE及びその家族に対して生前贈与を行うための金銭を請求人がDに対して貸し付ける旨並びにDが所有する不動産を売却して現金化したとき又はDの死亡に係る相続のときに当該借入金を返済する旨の合意(以下「本件基本合意」という。)をした。
 なお、Dは、平成4年3月10日に、d市e町○−○に所在する704.13平方メートルの土地(以下「本件土地」という。)を購入しており、本件土地の購入後においては、請求人及びDは、本件土地が本件基本合意における「Dが所有する不動産」に該当するものと考えていた。
ロ 請求人は、Dに対し、本件基本合意に基づき、平成4年に○○○○円、平成5年に○○○○円、平成6年に○○○○円、平成7年に○○○○円、平成8年に○○○○円及び平成9年に○○○○円をそれぞれ貸し付けた(以下、請求人がDに対して平成4年から平成9年までの間に貸し付けた各金銭を併せて「本件各貸付金」という。)。
ハ 請求人及びDは、平成7年11月1日に、同日付の確認書(以下「本件確認書」という。)を作成した。
 なお、本件確認書の記載内容は、要旨次のとおりである。
(イ) DがE及びその家族に対して生前贈与を行うために、請求人がDに金銭を貸し付けること(第4項)。
(ロ) Dは、その所有する不動産を現金化した場合又は請求人がDの死亡に係る相続を受けた場合に、請求人に対して、上記(イ)の貸付けに基づく借入金を返済すること(第5項)。
(ハ) 上記(イ)の貸付けに関する利息は年○○%とし、返済時にまとめて精算すること(第6項)。
ニ Dは、平成23年2月13日に、請求人ほか3名の本件土地の共有者とともに、Fほか2名との間で、売買物件を本件土地、売買代金を100,000,000円、引渡日を売買代金全額受領日とする不動産売買契約を締結した。
 また、請求人は、平成23年2月13日に、売主を代表し、手付金として本件土地の売買代金の一部である10,000,000円を受領した。
ホ 請求人は、平成23年3月18日に、売主を代表し、本件土地の売買代金の残額90,000,000円を受領し、Dは、請求人ほか3名の共有者とともに、同日、本件土地をFほか2名に引き渡した。
 なお、上記のとおり、請求人が本件土地の売買代金の残額を受領してDらが本件土地を引き渡したことにより、本件土地が現金化され、Dは本件各貸付金を返済することとなったため、本件各貸付金の貸付期間は、平成23年3月18日に終了した。

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2 争点

 本件各貸付金から生じる利息(以下「本件利息」という。)の収入すべき時期はいつか。

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3 主張

原処分庁 請求人
(1) 貸付金に係る利息の収入すべき時期
 所得税法第36条第1項は、現実の収入がなくても、その収入の原因たる権利が確定的に発生した場合には、その時点で所得の実現があったものとして上記権利発生時期の属する年度の課税所得を計算するという権利確定主義を採用しているところ、利息債権については、その履行期が到来すれば、権利が確定し、同項に規定する「収入すべき金額」に当たるものと解される。
 そして、本件通達は、所得税法第36条第1項の規定によって権利が確定したものについて収入すべき時期を定めるものであり、本件通達における「その年に対応するもの」とは同項の規定によりその年に権利が確定したものをいうと解すべきである。
(1) 貸付金に係る利息の収入すべき時期
 雑所得の収入すべき時期については、その収入の態様に応じて他の所得の収入金額又は総収入金額の収入すべき時期の取扱いに準じて判定されるところ(基本通達36−14(2))、貸付金に係る利息でその年に対応するものに係る収入金額の収入すべき時期は、本件通達の取扱いに従い、その年の末日(貸付期間の終了する年にあっては、当該期間の終了する日)と判断すべきである。
 これに対して、原処分庁は、利息債権については、その履行期が到来すれば、所得税法第36条第1項に規定する「収入すべき金額」に当たる旨主張するが、本件通達の本文は履行期に何ら触れていないから、履行期の有無で収入すべき時期が変わるものではない。
(2) 本件利息に係る合意の内容
 請求人とDは、本件基本合意をした当時、本件利息を年○○%とし、本件各貸付金の返済時にまとめて精算する旨合意したものと認められる。そして、本件基本合意によれば、本件利息は、本件土地を売却して現金化したとき又はDの死亡に係る相続のときに履行期が到来すると認められる。
(2) 本件利息に係る合意の内容
 請求人とDは、平成4年から平成6年までの間、利息に関する取決めをしたことはなく、本件確認書を作成した平成7年11月1日に本件利息を年○○%とする旨合意したものである。
(3) 本件利息の収入すべき時期
 上記(1)のとおり、利息債権については、履行期が到来すれば、権利が確定すると解されているところ、Dは平成23年3月18日に本件土地を売却しているから、同日が本件利息の履行期であり、この日に本件利息の全額が確定したと認められる。そして、本件通達により、本件利息の全額について、貸付期間の終了日である平成23年3月18日が収入すべき時期となる。
(3) 本件利息の収入すべき時期
 本件通達の定めによれば、本件利息の収入すべき時期は、本件利息の合意があった平成7年から平成22年までの各年分については、それぞれの年の末日であり、貸付期間の終了した平成23年分については、当該貸付期間の終了日である同年3月18日である。

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4 判断

(1) 争点について

イ 法令等解釈
(イ) 所得税法第36条第1項は、各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、その年において「収入すべき金額」とする旨規定し、「収入した金額」とは規定していないことからすると、同法は、現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして、その権利確定の時期の属する年分の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用したものと解される。
 そして、上記の収入の原因となる権利が確定する時期については、それぞれの権利の特質を考慮して決定されるべきものであるところ、貸付金利息については、元本使用の対価であって、元本が返還されるまで日々発生するものであるから、特段の事情のない限り、現実の支払の有無を問わず、期間の経過により直ちに利息債権が発生し、収入の原因となる権利が確定するものと解するのが相当である。
(ロ) 本件通達は、事業所得である金銭の貸付けによる利息でその年に対応するものに係る収入金額の収入すべき時期については、その年の末日(貸付期間の終了する年にあっては、当該期間の終了する日)によるものとし、ただし、利息を天引きして貸し付けたものに係る利息以外の利息について、その者が継続して、その貸付けに係る契約の内容に応じ、基本通達36−5(1)に掲げる日により収入金額に計上している場合には、その掲げる日によるものとする旨定めているところ、この定めは、一般の企業会計慣行に従い、原則的に、その年中の期間に対応する部分の利息の額をその年の収入として計上するという期間対応計算を採用したものであり、貸付金利息は、特段の事情のない限り、現実の支払の有無を問わず、期間の経過により直ちに利息債権が発生し、収入の原因となる権利が確定するものと解するのが相当であるという上記(イ)の解釈に沿うものであるから、当審判所においても本件通達に定める取扱いは相当と認められる。
(ハ) 基本通達36−14(2)は、公的年金等以外の雑所得の総収入金額の収入すべき時期については、その収入の態様に応じ、他の所得の収入金額又は総収入金額の収入すべき時期の取扱いに準じて判定した日によるものとする旨定めているところ、この定めは、収入の態様が種々である雑所得について、その収入の態様に応じて総収入金額の収入すべき時期を定めようとするものであり、合理的であるといえるから、当審判所においても当該通達に定める取扱いは相当と認められる。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。 
(イ) 請求人及びDは、平成7年11月1日に、同日以降に貸し付ける金銭については貸付けの時から年○○%、同年10月31日以前に貸し付けた金銭については同年11月1日から年○○%の利息をそれぞれ付す旨、及び借入金の返済時に利息もまとめて精算する旨を合意した上、かかる合意の内容及び本件基本合意の内容を明らかにするため、本件確認書を作成した。
(ロ) 請求人は、本件利息について、記帳等の経理処理を一切行っていない。
ハ 当てはめ
 本件利息に係る所得は、本件各貸付金が請求人の営む事業に係る活動とは関係なく、請求人とDとの親子関係に由来して個人的に貸し付けられたものと認められることから、事業所得には該当せず、また、利子所得、配当所得、不動産所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しないことは明らかであるから、雑所得に該当する。
 そして、公的年金等以外の雑所得の総収入金額の収入すべき時期については、上記イの(ハ)のとおり、その収入の態様に応じ、他の所得の収入金額又は総収入金額の収入すべき時期の取扱いに準じて判定した日によることが合理的であるところ、本件利息については、期間の経過により直ちに利息債権が発生し、収入の原因となる権利が確定するものとはいえないような特段の事情は見当たらないから、本件利息の収入すべき時期は、事業所得である貸付金利息の収入すべき時期に係る取扱いを定めた本件通達により判断することが相当と認められる。
 また、上記ロの(ロ)のとおり、請求人は、本件利息について記帳等の経理処理を一切しておらず、請求人が継続して本件利息を収入金額に計上しているとは認められないから、本件通達のただし書の適用はなく、本件利息の収入すべき時期は、その年中の期間に対応する部分の利息については、その年の末日(貸付期間の終了する年にあっては、当該期間の終了する日)となる。
 したがって、本件利息に係る収入金額のうち、上記ロの(イ)の利息に関する合意がなされた平成7年から平成22年までの各年中の期間に対応する部分の金額に係る収入すべき時期は、それぞれの年の末日であり、貸付期間の終了した平成23年の期間に対応する部分の金額に係る収入すべき時期は、貸付期間の終了した平成23年3月18日である。
ニ 原処分庁の主張について
(イ) 原処分庁は、前記3の「原処分庁」欄の(1)及び(3)のとおり、利息債権については、その履行期が到来すれば、権利が確定し、所得税法第36条第1項に規定する「収入すべき金額」に当たるものと解され、本件通達における「その年に対応するもの」とは、同項の規定によりその年に権利が確定したものをいうとの解釈を前提として、本件利息については、その履行期である平成23年3月18日にその全額が確定したものであるから、本件通達により、同日が本件利息の全額の収入すべき時期となる旨主張する。
 しかしながら、上記イの(イ)のとおり、貸付金利息については、元本使用の対価であって、元本が返還されるまで日々発生するものであるから、特段の事情のない限り、現実の支払の有無を問わず、期間の経過により直ちに利息債権が発生し、収入の原因となる権利が確定するものと解するのが相当であり、また、上記イの(ロ)のとおり、本件通達は、期間対応計算を採用したものであるから、「その年に対応するもの」との文言については、その年における利息の計算期間の経過に対応するものと解するのが相当である。
 したがって、これらと異なる解釈に基づく原処分庁の主張を採用することはできない。
(ロ) また、原処分庁は、前記3の「原処分庁」欄の(2)のとおり、請求人とDは本件基本合意をした当時に、本件利息を年○○%とする旨合意をしたと主張する。
 しかしながら、本件確認書を含む全証拠によっても、請求人とDが本件基本合意をした当時に、本件利息を年○○%とする旨合意したという事実を認めることはできず、上記ロの(イ)のとおりの事実があったと認めるのが相当である。
 したがって、原処分庁の主張を採用することはできない。

(2) 本件更正処分について

 以上によれば、平成23年の期間に対応する本件利息の収入すべき時期は同年3月18日であり、本件利息のうち、同年1月1日から同年3月18日までの期間に対応する部分の金額が同年において収入すべき金額となるから、同年分の雑所得の金額は、本件各貸付金の合計額○○○○円に年○○%の利率を乗じ、更に同年中の貸付期間(同年1月1日から同年3月18日までの77日)が占める割合を乗じて算出された○○○○円に、当初申告分の○○○○円を加えた○○○○円となり、その結果、請求人の同年分の総所得金額及びその内訳並びに納付すべき税額等は別表2の「審判所認定額」欄のとおりとなる。
 そうすると、請求人の平成23年分の総所得金額及び納付すべき税額は、本件更正処分に係る総所得金額及び納付すべき税額に満たないから、本件更正処分は、その一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(3) 本件賦課決定処分について

上記(2)のとおり、本件更正処分の一部が取り消されることに伴い、過少申告加算税の基礎となる税額は○○○○円となり、過少申告加算税も○○○○円となるので、本件賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。

(4) その他

原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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