(平成26年11月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、亡父に課されるべき相続税の納付義務を承継した審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁の相続税調査を受けて相続税の期限後申告書を提出したところ、原処分庁が無申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、期限内申告書の提出がなかったことについては、国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成26年4月21日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。

(3) 関係法令

イ 通則法第5条《相続による国税の納付義務の承継》第1項は、相続があった場合には、相続人は、その被相続人に課されるべき国税を納める義務を承継する旨規定しており、同条第2項は、相続人が二人以上あるときは、各相続人が承継する国税の額は、民法第900条から第902条まで(法定相続分・代襲相続人の相続分・遺言による相続分の指定)の規定によるその相続分によりあん分して計算した額とする旨規定している。
ロ 通則法第66条第1項は、期限後申告書の提出があった場合には、当該納税者に対し、当該期限後申告に基づき納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定するとともに、同項ただし書において、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない旨規定している。
 また、通則法第66条第2項は、同条第1項の規定に該当する場合において、同項に規定する納付すべき税額が500,000円を超えるときは、同項の無申告加算税の額は、同項の規定により計算した金額に、当該超える部分に相当する税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨規定している。 

(4) 基礎事実

 次の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 被相続人、共同相続人等の概要
(イ) 平成20年3月○日に死亡したF(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る共同相続人は、本件被相続人の妻G、父H及び母Jの3名であり、法定相続分に基づく割合はそれぞれ3分の2、6分の1、6分の1である。
(ロ) 請求人は、本件被相続人の兄である。
ロ 請求人が承継した父Hに係る相続税の納付義務
(イ) 本件相続に係る相続税の法定申告期限は平成21年1月○日であったが、父Hは、法定申告期限までに相続税の申告書を提出しなかった。 
(ロ) 平成23年2月○日に父Hが死亡したことにより、父Hの相続に係る共同相続人である母J及び請求人は、本件相続に係る父Hに課されるべき相続税の納付義務をそれぞれ2分の1の割合で承継した。
 また、平成23年2月○日に母Jが死亡したことにより、母Jの相続に係る単独相続人である請求人は、母Jが承継した本件相続に係る父Hに課されるべき相続税の納付義務を承継した。
ハ 父Hによる本件相続に係る財産等の調査等
(イ) 父Hは、請求人に本件相続に係る財産等の調査を依頼し、これを受けた請求人は、平成20年8月か9月頃、本件被相続人が生前代表取締役であったK社の関与税理士であるL(以下「L税理士」という。)を介して、本件相続に係る相続財産の全てを管理していた妻Gに対し、本件相続に係る相続税の申告のために必要であるから、本件相続に係る相続財産及び相続税法第3条《相続又は遺贈により取得したものとみなす場合》第1項各号に規定する財産(以下、同項各号に規定する財産を「みなし相続財産」という。)の明細を提示してほしい旨依頼したが、妻Gは、これを提示しなかった。
(ロ) 妻Gは、平成20年10月○日、父H及び母Jを相手方として、M家庭裁判所d支部に対し、本件相続に係る遺産分割の調停を申し立てた(以下、妻Gが申し立てた当該遺産分割の調停を「本件遺産分割調停」という。)。
 本件遺産分割調停の申立書の「遺産目録」及び当該申立書に添付された「債務及び葬式費用の明細書」と題する各書類(以下「本件遺産目録等」という。)には、本件相続に係る財産の種類ごとの価額、債務等の種類ごとの価額及びこれらの各合計額が別表2の「本件遺産目録等」欄のとおり記載されており、記載された財産の合計額は96,740,114円、債務等の合計額は2,279,467円である。
 別表2の順号46の「本件被相続人を受取人とする養老生命共済金」(以下「本件生命共済金」という。)は、相続税法第3条第1項第1号に規定する共済金である。
ニ 原処分に至る経緯等
(イ) 原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)の担当者(以下「本件調査担当者」という。)は、平成25年11月19日、本件相続に係る父Hに課されるべき相続税の納付義務を承継した請求人に対し、本件相続に係る調査の事前通知をした上で、本件調査を開始した。
(ロ) 本件調査担当者は、本件調査の結果、本件相続に係る財産及び債務等の明細は別表2の「期限後申告書」欄のとおりであり、父Hについて本件相続に係る相続税の申告義務が認められると判断し、平成25年12月20日、請求人に対し、父Hについて相続税の申告が必要となることを指摘し、併せて、期限後申告の勧奨を行った。
 これに対し、請求人は、平成25年12月20日、原処分庁に対し、本件相続に係る父Hの相続税の期限後申告書(以下「本件申告書」という。)を提出した。
 本件申告書に記載された財産及び債務等の価額は、別表2の「期限後申告書」欄のとおりであり、このうち、順号49の「妻Gが取得したものとみなされる財産」(以下、妻Gが取得したものとみなされる財産を「本件みなし相続財産」という。)の価額○○○○円は、相続税法第3条第1項第1号に規定する生命保険金等の価額及び同項第3号に規定する生命共済契約に関する権利の価額の合計額である。
(ハ) 原処分庁は、平成25年12月25日付で、本件申告書に基づき、本件相続に係る相続税の無申告加算税の賦課決定処分(平成25年12月25日付○○号でされた処分。以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

(5) 争点

 本件相続に係る父Hの相続税の期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するか否か。

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2 主張

請求人 原処分庁
 以下のとおり、父Hは、法定申告期限日までに本件みなし相続財産の内容及び価額の全容を知ることができなかったものであり、このような事情は、真に納税者の責めに帰することのできない事情であり、無申告加算税を賦課することが不当又は酷になるものであるから、本件相続に係る父Hの相続税の期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当する。  以下のとおり、父Hは、みなし相続財産を含む相続財産の全容を把握するために相当の努力を払って調査しても、本件相続に係る課税価格が基礎控除額80,000,000円を上回ることを把握できなかったとは認められず、また、他に正当な理由を認めるに足る事実も認められないから、本件相続に係る父Hの相続税の期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当しない。
(1) 父Hは、本件生命共済金以外にもみなし相続財産となる生命保険金等があることは分かっていたので、本件相続に係る相続税の申告の必要性を検討するため、上記1の(4)のハの(イ)のとおり、平成20年8月か9月頃、L税理士を通じて、本件被相続人の相続財産の全てを管理していた妻Gに対し、みなし相続財産を含む相続財産の内容を明らかにするよう依頼した。
 しかしながら、妻Gは、L税理士に対し、みなし相続財産を含む相続財産の内容を明らかにする資料を一切開示しなかったので、父Hは、これらを確認することができなかった。
(1) 上記1の(4)のハの(イ)のとおり、父Hは、請求人に依頼して、L税理士を通じて、妻Gに対し、みなし相続財産を含む相続財産を確認しようとしたが、妻Gの直接連絡をしてもらいたい旨の求めに応じて自ら妻Gに対して連絡を取ることはなく、これらの財産の確認及び相続税の申告手続を進めようとしなかった。
(2) 本件遺産目録等には、本件相続に係る財産の種類及び価額が記載されていたが、みなし相続財産については本件生命共済金及びその価額しか記載されておらず、その他のみなし相続財産は記載されていなかったため、父Hは、本件遺産目録等によっても、本件みなし相続財産を含む相続財産の全容を知ることができなかった。
 なお、父Hは、本件みなし相続財産について、生命保険会社等に対して契約内容の照会を行わなかったが、それは、権利者である妻Gの同意を得ない限り、生命保険会社等は開示請求に応じないと考え、照会を行わなかったものである。
 そして、本件遺産目録等に記載されている財産の価額(本件生命共済金の価額を含む。)及び債務等の価額を基に、保険金の非課税限度額を考慮して本件相続に係る課税価格を算出すると、課税価格は基礎控除額80,000,000円を下回ることから、父Hは、相続税の申告書を提出しなかったものである。
(2) 本件遺産目録等に財産の合計額は96,740,114円と記載されていることからすると、父Hは、本件相続に係る課税価格が基礎控除額80,000,000円を上回ることは容易に想定できたものであり、この時点で、再度、本件みなし相続財産を含む相続財産の確認及び相続税の申告の要否の検討を行っていれば、本件相続に係る相続税の申告書を法定申告期限内に提出することが可能であったと認められるが、父Hがこれらの財産の確認を行った事実は認められない。

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3 判断

(1) 争点(本件相続に係る父Hの相続税の期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するか否か。)

イ 法令解釈
 通則法第66条第1項に規定する無申告加算税は、申告納税方式を採用する国税において、納税者の判断と責任において行われる申告が、納税義務を確定する上で重要な意義を有していることから、当初から適正に申告し納税した者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに、無申告による納税義務違反の発生を防止し適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置であると解され、同項ただし書に規定する期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合を除き、期限後申告書の提出という客観的事実のみによりこれを課することとしているものと解される。
 上記のような無申告加算税の趣旨に照らせば、上記の正当な理由があると認められる場合とは、法定申告期限内に申告できなかったことについて真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解される。
ロ 判断
 上記2の「請求人」欄の(1)及び(2)において、請求人が、本件相続に係る父Hの相続税の期限内申告書の提出がなかったことについて主張する事情は、1 父Hは、本件被相続人の相続財産の全てを管理していた妻Gに対し、みなし相続財産を含む相続財産の全容を把握するための明細の提示を依頼したが、応じてもらえず、また、2妻Gが申し立てた本件遺産分割調停に際し、妻Gが作成した本件遺産目録等を得たものの、それには本件生命共済金以外のみなし相続財産が記載されておらず、父Hは、記載されていないみなし相続財産を生命保険会社に照会しても回答は得られないと考えたため、本件遺産目録等に記載された財産のみに基づいて相続税の課税価格を計算すると、課税価格は基礎控除額を下回ることになったというものである。
 そこで、上記1 及び2の各事情を検討すると、上記1 の事情は、相続人相互の人間関係に基因する事情であり、また、上記2の事情について、本件において、本件生命共済金以外のみなし相続財産の価額が零円であるのか又はこれを加算して相続税の課税価格を計算しても基礎控除額を上回ることはないと考えるに足りる客観的事情は特に見当たらず、要するに、上記2の事情は、父Hが、相続人相互の人間関係により本件生命共済金以外のみなし相続財産の価額が確認できないままであったが、これをあえて課税価格に加えないと自己判断して課税価格を計算した結果、課税価格が基礎控除額を下回ることとなったというものであるから、相続人相互の人間関係を前提とした父Hの自己判断に係る事情といえる。
 そうすると、請求人が主張する上記各事情は、父Hを含む相続人間の主観的事情をいうものにすぎないから、父Hが本件相続に係る相続税の期限内申告書を提出しなかったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があったということはできない。
 したがって、本件相続に係る父Hの相続税の期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」には該当しない。

(2) 本件賦課決定処分

 上記(1)のロのとおり、本件相続に係る父Hの相続税の期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当しないところ、原処分庁は、本件申告書の提出により、請求人に対し、加算税の基礎となる税額をX,XXX,XXX円、これに基づく無申告加算税の額をXXX,XXX円として本件賦課決定処分を行っているので、この点について検討する。
 上記1の(4)のロの(ロ)のとおり、父Hの死亡により、母J及び請求人は、本件相続に係る父Hに課されるべき相続税額をそれぞれ2分の1の割合で承継することになるから、本件申告書の提出により、父Hが納付すべき相続税額X,XXX,XXX円(本件申告書の提出により確定した別表1の「期限後申告」欄の「納付すべき税額」欄の金額)について、母J及び請求人が承継する相続税額はそれぞれXXX,XXX円となり、そして、母Jの死亡により、請求人は、母Jが承継した相続税額XXX,XXX円も承継することになるから、請求人は、父Hの死亡により承継した相続税額XXX,XXX円と母Jの死亡により承継した相続税額XXX,XXX円の各納付義務を負うことになる。
 そして、請求人が納付義務を承継した上記各相続税額について、通則法第118条《国税の課税標準の端数計算等》第3項の規定を適用して加算税の基礎となる税額を計算するとそれぞれXXX,XXX円となり、当該各金額について、通則法第66条第1項及び第2項の規定を適用して無申告加算税の額を計算するとそれぞれXX,XXX円となる。
 そうすると、本件申告書の提出により、請求人が納付すべき無申告加算税の額は、上記各金額を合計した金額XXX,XXX円となり、この金額は、本件賦課決定処分の額XXX,XXX円を下回るから、本件賦課決定処分は、その一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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